豊崎愛生が4thアルバム『caravan!』をリリースした。今作は自身にとっての第二章の始まりであり、そしてコロナ禍で感じた表現者としての並々ならぬ想いも込められている1枚。
UNISON SQUARE GARDENの田淵智也、クラムボンのミト、土岐麻子、さかいゆうなど豪華な作家陣が楽曲提供を行っているのもポイント。本インタビューでは作品の話はもちろん、声優という枠を越えた自由なソロワークができる理由や、ライブに対する想いについても語ってもらった。

こんな時代だからこそ幸せを届けようと思った
――今日はリモートでのインタビューになります。

豊崎愛生 よろしくお願いします!

――先ほど「立て続けにインタビューですみません!(スタッフ)」「いえいえ! この感じ、久しぶりです!(豊崎)」という会話が聞こえてきましたが。

豊崎 ふふ、聞こえてましたか(笑)。オリジナルフルアルバムのリリースが約5年ぶりになるので、こういうプロモーション活動って懐かしいんですよね。リスアニ!さんにアニメ作品を介さず、豊崎愛生本人として関わらせていただくのが久しぶりで嬉しいです。

――アルバムのことを聞く前に業界の話からお聞きしたくて、近年は声優さんがアーティストデビューをする機会が急増しましたよね。この状況ついて豊崎さんはどう思いますか?

豊崎 声優はこうじゃなきゃいけないとか、あっちの領域に行ってはいけないとか、そういう決まり事って個人的には気にしていなくて。みんなが好きなことを思いっきりやれる場所があるのなら、それに越したことはないと思うんです。今、声優さんの中には、自分で曲を書いたり演奏したりする人もたくさんいて、本当にすごいなって。私は自分が出来ないことや想像ができない可能性を、毎度コラボさせていただいてるアーティストさんや作家さんに引き出してもらっている感覚があるので。
少し情けないのかもしれないんですけど……憧れというか、皆さんに対しては「すごい!」の一言に尽きますね(照笑)。

――領域の話がありましたが、「声優はアニソンを歌うもの」というイメージを刷新して、「こんなにも音楽的なアプローチをするんだ」と世間の認識を変えた一人が豊崎さんだと思うんですよ。

豊崎 本当ですか!? そんなふうに言っていただいて……あ、ありがとうございます!(照)。単に私は音楽が好きだっただけで、自分の中で仕事とあまり直結させていなかったんですよ。

――楽曲もコラボされている作家陣も幅広いですし、本当に自由な姿勢ですよね。

豊崎 私の音楽活動には3つの顔がありまして。スフィアに関していうと私は声優ユニットのメンバーとして、タイアップの楽曲などをたくさん歌わせていただいます。もう一方で、作品の役として数々のキャラソンを歌ってきました。

――同じ時期に並行して異なるアプローチをしてきた。

豊崎 そうです! スフィアであればお客さんが見たいものや聴きたい音楽、若かりし頃は皆さんに喜んでいただける衣装とか、そういうものを突き詰めていこうと思っていて。キャラソンでは豊崎愛生が歌っていることは取っ払い、自分が演じているキャラクターが実際に生きていて、その子がライブをやっている聴き方をしてもらえるように、どちらかといえば演じることを意識してました。つまり、同時期に違うアプローチをやらせていただいたおかげで、ソロでは私の好きなことをやるチャンネルに切り替えられたんです。
「今の流行りはこっちだけど、私はザ・ビートルズ臭のするこの曲が好き!」とか「今回はこの方とご一緒したい!」みたいなことをひたすら選択していって、それに周りの方が賛同してくれた。それが「声優アーティストの認識を変えた人」だなんて思っていただけたら、本当に光栄です。

――最初からご自身の好きなことができる環境だったんですか?

豊崎 声優という仕事が軸にあって、私が演じる役や作品が大前提にないとお客さんは耳を傾けてくれなかったと思います。なので全然違うことをやっているようで、全部繋がっているんですよね。「声優の私」「スフィアの私」「キャラソンの私」「ソロの私」を並行して10年以上もやらせていたからこそ、皆さんに応援していただけて、私自身も好きな活動ができていると思います。

――長いキャリアの中で気づいたことなどはありますか。

豊崎 やっぱり20代の頃は初めてのことばかりで、やる気はあるけど思うように形にできなくて……。なので自分に対しての反省も多々あって、周りが見えていないというか、「いっぱいいっぱいだったな」と思いますね。しかも私は自分に対してのコンプレックスが強くて「私が自慢できるものってなんだろう? 特にないよな」という感じだったんです。30代になってハっと気づいたのが、私が自慢できるのは“今まで出会ったお客さんや作ってきた作品たち”だと思ったら、これまでの日々が全部自分の自信に繋がっていたんですよね。だから私の音楽に耳を傾けてくれた人に対して、今度は自分が感謝を形にして返していく10年にしたいなと思っています。

――それが今回リリースするフルアルバム『caravan!』にも繋がっている。


豊崎 はい! ソロデビューをして、その間に3枚のオリジナルアルバムをリリースさせてもらいました。さらには、ベストアルバムを夢であったレコードとして発売させていただいて、そこで1つの集大成というか、第一章を終えた達成感があったんですよね。ここからは豊崎愛生の第二章を見せていきたいと。あとは、去年の夏からアルバム制作をしていたこともあり、コロナ禍で皆さんのライフスタイルが大きく変わった年に、身近なハッピーだったり世界平和を祈ることの幸せだったり、自分の周りにあるたくさんの幸せを楽曲に込めて、色んな形のハッピーを表現するポジティブな1枚にしたいと思いました。

「エンタメを止めてはいけない」という想いを具現化した、4thアルバム『caravan!』
――アルバムの方向性を決定づけた楽曲は何でしょう。

豊崎 まず、みんなが一緒に歌えて幸せになれる歌はなんだろう?と考えて、自分のやってきた作品を見直したときに「music」という曲が浮かびしました。歌詞に「幸せ歌」とあるようにまさしく幸せを歌った曲だったので、今の幸せを込めた「music」の2020年ver.を作ろうと思ったんですね。そこで「music」を作曲してくださったクラムボンのミトさんに作詞をお願いしました。また、これまで数々のアーティストさんと楽曲を作らせていただいたなかで、「豊崎愛生の楽曲といえば」で思い浮かぶことが多いのはUNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんの曲だったので、このお二人の力をお借りしようと思い、それで「それでも願ってしまうんだ」が生まれました。そこからこの曲をアルバムの指針にして、ほかの収録曲を集めていきました。

――「それでも願ってしまうんだ」は今歌うことにすごく意義がありますね。

豊崎 はい。
今、世間はどうしてもネガティブなニュースや記事が大きく取り上げられています。私も声優としてずっとお仕事をさせていただいて、声優も音楽も大きな括りで言えば“エンタメ”じゃないですか。

――そうですね。

豊崎 コロナ禍になって、エンタメにも制限がかかったと思うんですよね。たしかに、物理的に誰かの命を救うことはできないかもしれないけど、それでも人間って心の部分が大きいわけで。だからこそ、エンタメを止めてちゃいけないという使命感が、ずっと私の中にありました。その気持ちが「それでも願ってしまうんだ」には詰まっています。「じゃあ、具体的に何を願うのか?」と言えば、みんなで集まって音を奏でる幸せを込めようと。

――2番に入ってからクラップ音が強くなり、呼応するように楽器が加わっていく。まさに「みんなで集まって演奏している多幸感」が音の中に詰まっていましたね。

豊崎 そこなんです! 多幸感はミトさんも仰っていた大事な要素でしたし、アレンジしていく中でも一番大切にしていたキーワードなんです。私はレコーディングでいつも上手に歌わなきゃと考えがちなんですけど、「それでも願ってしまうんだ」に関しては上手く聴かせようというのは一切考えずに、コーラスも含めて1音1音に幸せが乗るように歌ったんです。
それによって「生命力」や「多幸感」が表現できたと思います。

――つまり、ただのポップソングではないと。

豊崎 アルバムタイトルを“caravan!”にしたのも、そういった理由があります。たとえ世の中が砂漠状態で目の前が砂嵐で見えなくても道を切り開いていく、という意味合いが“caravan!”にはあって。元々、砂漠を旅する隊商が語源なんですけど、そういう人たちのメンタルは今の音楽史に繋がる。世の中全体が「色々と前が見えないし、どこにいるの私たち?」となっているなかで、それでも自分たちのできることや、目の前にある楽器・声で楽しさを見出していくのが「それでも願ってしまうんだ」の伝えたいメッセージでした。この楽曲からインスピレーションを受けて“caravan!”というタイトルも付けました。

――これまでのアルバムタイトルには必ず「LOVE」が入っていましたが、そうじゃないという点でも、今までと違うギアなんだと思いました。

豊崎 いやぁ……タイトルには紆余曲折ありまして(笑)。

――紆余曲折?

豊崎 今まで通り「LOVE○○」にして、変わらない安定感を貫くのはかっこいいんですよ。確固たる自分らしさを持っている。

――……じゃあ、どうして?

豊崎 今年の2月に初めて無観客配信ライブを体験したのが大きくて。
目の前にお客さんはいないけど、私の脳内でお客さんの声がインプットされていて。歌いながら歓声が聴こえてくるライブだったんですよ。もしも生まれて初めてのライブが無観客配信だったら、その感覚は絶対になかったわけで。今まで歩いてきた年数があるから、みんなの声やレスポンスが聴こえていた。しかも遠方で今までライブに参加できなかった方も「配信だったら観れます」と言ってチケットを買ってくれたりして、「こんなに届くんだ」と感じました。なので「仕方なく配信にしました」というライブでは決してなかったんです……ということも経験したので、世の中の在り方やこの先の未来に対してどんどん柔軟に変わっていきながら、この年齢になって新しい挑戦をすることがかっこいいなと思って、これまでと違うタイトルを引っ張ってきたわけです。

――改めて今回のアルバムは、どんな1枚になりましたか。

豊崎 どの曲も攻めしかない、かっこいいアルバムになったと思います。もちろん楽曲の中には優しい雰囲気の「walk on Believer♪」があったり、シニカルさやクールさを内包した「ライフコレオグラファー」、かわいらしい「マイカレー」もあったり、穏やかな曲調の「ランドネ」など色んな曲調が揃っているんですけど。よく聴いたら「結構攻めているな!」という音質やかっこいいリフの曲があって、そういう意味でも攻めの一手と言える。先ほどお話しした、表現できる側にいる私が「エンタメを止めてはいけない」という部分で全面的にアグレッシブな作品になったと思います。

――7月以降も続々とライブが決まっていますが、早く目の前で楽曲を聴きたくなりますね。

豊崎 有観客でのライブは久しぶりですし、しかも初めて披露する新曲が多いので楽しみです。あ、アルバムのジャケットやブックレットにはウチの愛犬ニコちゃんも出ているので、そこにも注目してほしいです!

INTERVIEW & TEXT BY 真貝 聡

●番組情報
リスアニ!Presents 豊崎愛生 4th Album 発売記念特番 ~music caravan!~

配信日時:7月5日(月)19:00~20:00(予定)
配信プラットフォーム:YouTube(無料)
出演:豊崎愛生
ゲスト:ミト(クラムボン)
MC:青木佑磨
企画・制作:ミュージックレイン、リスアニ!編集部

番組配信ページはこちら
https://youtu.be/1oZS0_7CUmU
※アーカイブは7月18日(日)23:59まで視聴可能

●リリース情報
『caravan!』
6月30日発売

【初回生産限定盤(CD+Blu-ray)】

品番:SMCL-714-5
価格:¥7,900(税込)

【通常盤(CD)】

品番:SMCL-716
価格:¥3,100(税込)

<CD>
01. それでも願ってしまうんだ※リード曲
02. MORNING:GLORY
03. ハニーアンドループスTVアニメ『プリプリちぃちゃん!!』エンディングテーマ
04. Cheers!
05. ランドネ
06. マイカレー
07. ライフコレオグラファー
08. walk on Believer♪
09. TONE
10. March for Peace

<Blu-ray>
それでも願ってしまうんだ
Music Clip
TV SPOT 15sec+30sec

Dive/Connect @ ZeppOnline 豊崎愛生ワンマンライブ
01. letter writer
02. 猫になる
03. ぼくを探して
04. フリップフロップ
05. love your life
06. ランドネ
07. ポートレイト
08. Uh-LaLa
09. オリオンとスパンコール
10. walk on Believer♪
11. Dill
12. それでも願ってしまうんだ
Special Track
01. トマト(新録)
02. パタパ(新録)

●ライブ情報
LAWSON presents 豊崎愛生コンサート2021~Camel Back hall~
神奈川県民ホール 大ホール
2021年7月17日(土)開場17:00/開演18:00

中野サンプラザ大ホール

2021年7月24日(土)開場17:00/開演18:00
2021年7月25日(日)1:開場12:00/開演13:00 2:開場16:30/開演17:30

チケットなどの情報はこちら


関連リンク
豊崎愛生 公式サイト
https://www.toyosakiaki.com/

豊崎愛生オフィシャルブログ「あきまつり」
https://ameblo.jp/toyosakiaki-blog
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