新しい物語の始まりと、自身の成長過程を表現した『Prologue』
――アーティストデビューから1年半ほど経ちましたが、デビュー当初と比べて活動に対する意識に変化はありますか?
富田美憂 すごくあります。お客さんの前でちゃんとパフォーマンスができたのは、1stシングルの「Present Moment」のときだけで、2ndシングル「翼と告白」のリリース時期に(新型コロナウイルスの蔓延に伴う)緊急事態宣言が発令されて、リリースイベントなどが全部中止になってしまって。ちょうどその時期に一人暮らしを始めたこともあり、自分自身と向き合う時間が増えたんです。そのときに、一度初心に戻ってみようと思って。例えばお芝居のお仕事であれば、もちろんそれまでも全力投球でお仕事に向き合ってきましたけど、果たして1つ1つのオーディションを絶対に合格する気持ちでやっていたかと聞かれると、そうはなれていなかったかもと思ったんですよね。
――経験を積んできたことで、馴れみたいな部分も出てくるでしょうしね。
富田 そうなんです。この1~2年でフレッシュな後輩の子たちが増えて、その子たちの姿を見ていると、「なんでも全力で頑張ります!」という気持ちを忘れてはいけないと思ったんです。テープオーディションの場合、作品の資料が私の手元に届いてからテープを録るまでに大体1週間ぐらいの猶予があるんですけど、じゃあその1週間を死ぬ気で頑張って、「絶対に私がこの役を獲ってやる!」くらいの気持ちでやらないとダメだと思って。
――というのは?
富田 コロナ禍以降は、ほぼオンラインでのパフォーマンスになったので、こちらもより熱量をもって歌わないと、モニター越しに観ているお客さんとの間にギャップが生まれると思うんです。以前、私がお世話になっているダンスの先生が、「ライブはディズニーランドと一緒で、お客さんを現実に返してはいけない」と教えてくださって。それを実現するためには、先を急ぐというよりも、目の前の1つ1つのお仕事に全力で取り組むことが、きっとこれからに繋がる。それがこの1年半かけて出した、自分なりの答えでした。
――でも、それってしんどくないですか?
富田 しんどくなるんですよ(笑)。しかも私は、仕事のことを忘れられるような趣味もなくて、全部お仕事に繋げて考えてしまうから、たまに「しんどいなあ」と感じることもあります。でも、初心に戻って地道に頑張ったぶん、今回のようにアルバム制作のお話をいただけたり、オーディションに受かったときの喜びが大きくなるので、頑張っています。
――なるほど。では、今回のアルバムに関しても、全力で向き合われたわけですね。
富田 アルバムはファンの皆さんも待ってくれていたので、半端な気持ちではいけないと思って、それこそタイトルも楽曲の収録順も自分ですごく悩みながら考えました。1曲ごとのコンセプトについても、スタッフの皆さんと一緒に考えさせていただきました。
――アルバムタイトルの『Prologue』には、どんな意味を込めたのでしょうか。
富田 1stアルバムは人生で1回しか出せないものですし、ある意味では1つの区切りになるものだと思ったんです。新しいスタート地点じゃないですけど、ここから次の作品に続くとなったときに、今の自分が出せる全力を越えられるように、自分を鼓舞するという意味でも、「序章」や「始まり」を意味する言葉を付けさせていただきました。5~6個くらいタイトル案を考えたんですけど、最終的に一番シンプルな『Prologue』にしまして。
――アルバムタイトルを発表する際、クイズ形式で別のタイトル候補もいくつか明かしていましたね。『Nestle Case』や『Can’t get out』といったタイトルがありましたが。
富田 あれも全部私が考えてボツになった案です(笑)。『Prologue』というタイトルには、別の意味もあって。今回のアルバムでは、収録曲ごとに別々の主人公を設定して、全10曲で10役を演じるように、色んな表情を見せて歌えたらと思ったんです。そういう物語的な部分にかける意味でも、物語の最初によく使う「プロローグ」という言葉をタイトルにしました。
――10曲中7曲が新曲になりますが、富田さんの要望やアイデアも盛り込まれているんですか?
富田 そうですね。
――たしかに今作には色んな表情の富田さんが詰まっていて、きっとやりたいことがたくさんあったんだろうなと感じました。
富田 はい!(笑)。シングルではいつも、表題曲とカップリング曲とのギャップ、二面性を喜んでいただけたので、今回も「えっ!こんな曲も歌えるの?」とびっくりしてもらえたら嬉しいなと思って。
――富田さんは、ここ数年、声優としても色んな役柄に挑戦しているので、その経験が活きた部分もあったのでは?
富田 歌のお仕事とお芝居のお仕事、両方がお互いに良い要素を交換し合えているように思います。ここ1~2年で演じられる役幅が広がったことは自分でも感じていて。例えば、アルバムのリード曲の「ジレンマ」も、1stシングルの頃には多分歌えなかったと思うので、その意味では声優としての経験が繋がっているように感じます。
――1stシングルのレコーディング当時は19歳、現在は21歳ということで、その1~2年は富田さんにとっても大きかったんでしょうね。
富田 まさしくその通りで、今回のアルバムのテーマの1つに「成長過程」というものがあるんです。19歳と21歳の狭間と言いますか、子供から大人に切り替わった瞬間を1stアルバムに残していただけるのは貴重な機会なので、アルバムを1枚通して聴くことで、昔から応援してくださっているファンの方も一緒に、今までの思い出を振り返ったり成長が見えるアルバムにしようと思って。
――曲順も含めて「成長過程」を見せられるものにしたかったと。
富田 はい。だから、アーティストとして一番最初にレコーディングした「Present Moment」から始まって、そこから色んな曲を歌って得た経験を経て、最後は私が初めて作詞に挑戦した「Letter」で締める構成にしました。
リード曲「ジレンマ」で見せる、これまでになく大人っぽい世界観
――ここからは新曲を中心にお話を伺います。リード曲の「ジレンマ」は、今までになく大人っぽい曲調のミディアムナンバーで、この曲をリード曲に持ってきたのは少し意外でした。
富田 実はこの曲とは結構前に出会っていて、3rdシングルの「Broken Sky」のコンペで集められた楽曲の中にあったものなんです。当時から歌いたいと思っていたのですが、そのときは『無能なナナ』とのタイアップが決まっていたので、作品との相性を考えて、別の機会にぜひ歌いましょう、ということになり、今回のアルバムで歌うことになりました。最初の時点ではどなたが書いた曲なのかは知らされていなかったんですけど、後々に「Ageha Twilight」(1stシングル「Present Moment」のカップリング曲)を作ってくださったGRPさんの曲ということを知って、ご縁を感じました。(「Present Moment」と「翼と告白」を作編曲した)睦月(周平)さんのときもそうだったんですけど、やっぱり直感的に「歌いたい!」と感じる曲をくださる方なんだなと思って。
――ちょっとR&Bっぽいテイストで、富田さんがこういう曲を歌うのは珍しいですよね。
富田 今までキャラソンを多く歌ってきて、いわゆるアニメチックな曲に体が慣れていたんですけど、アーティスト活動を始めてから、声優のお仕事ではあまり歌わないタイプの楽曲とも出会うようになって。
――歌詞に目を向けると、心のすれ違いで別れてしまった二人の切ない関係性とジレンマの気持ちが描かれていますが、どんな印象を持ちましたか?
富田 この曲に限らず、アルバムの曲を並べて思ったのは、恋愛の曲の場合は報われないことが多くて(笑)。この曲もスッキリしきれないというか、ちょっともやっとしたり、心がチリっとなる歌詞だと思ったので、あえて抑揚を強めにつけて歌うことで、煮え切らない感じが皆さんにも残ればいいなと思って歌いました。この曲、オケは結構シンプルで、派手な転調をしないぶん、私のポテンシャルをすごく試される曲だなと思って。特にDメロは「盛り過ぎじゃない?」っていうくらいモリモリに表情をつけて歌ったので、ぜひ聴いてほしいです。
――好きだからこそ苛立つ気持ちみたいなものを感じました。
富田 そうなんです。ピュアな愛情だけじゃなく、嫉妬心とか、割とドロドロとした感情の出し方のほうが活かせると思いました。だからこの曲を歌っているときは、ずっと眉間にしわを寄せていたと思います(笑)。
――ちなみに富田さんが、普段の生活でジレンマを感じる瞬間は?
富田 ちょっと変な人と思われるかもしれないんですけど……私は犬を飼っているんですけど、犬のお風呂に入りたての匂いではなくて、ちょっとケモノくさくなってきたときの匂いが好きでして(笑)。「くさっ!」ってなるのに嗅いでしまうのが、ジレンマだなって思います。
――微笑ましいジレンマですね(笑)。
富田 犬を飼っている方じゃないとあまり理解してもらえないんですけど(笑)。ちなみに今日も嗅いできました(笑)。
――「ジレンマ」はMVも制作されていますが、今回はどんなコンセプトで撮りましたか?
富田 前作の「Broken Sky」のMVは、バンドさんにも参加してもらった大きな動きのあるかっこいいMVだったんですけど、今回は私の顔の寄りのシーンが多めで、繊細な表情の幅をこだわって撮ってくださいました。曲調は落ち着いたトーンですけど、実は熱い楽曲ということが伝わると思います。あと、今回は逆再生でリップシーンを撮影しまして。
――ガラスについた水滴が、下に落ちるのではなく上昇するなかで、富田さんが歌っているシーンですね。
富田 「ジレンマ」は時間がテーマになっている曲でもあるので、あのシーンでは、楽曲を逆さまで流して、私も歌詞を逆から歌ったんです。それを逆回しで再生することで、周りは逆回転で動いているけど、私は歌詞通りに歌っているという映像になっていて。その逆リップの撮影が難しくて、家ですごく練習しました。監督の逆リップのお手本動画を参考に、まるで受験勉強みたいに逆さまの歌詞を覚えて(笑)。細かいギミックがたくさん入ったMVになりました。
――新しいアーティスト写真で着ている赤色のドレス衣装も印象的でした。
富田 今までの中でも特に華やかで、ステージ映えしそうな衣装になりました。首元のリボンやチェック柄は、ラフのイラストの時点では入ってなかったんですけど、衣装さんが富田美憂らしい要素として入れてくださって。今までの衣装よりも腕が出ていて大人っぽいけど、ちゃんと私らしさも入れていただけました。
多種多様な新曲の主人公を歌で演じる、声優アーティストとしての凄み
――3曲目の「Run Alone!」は本作随一のアップチューン。ラップを含む歌唱にも強い意志が感じられます。
富田 ライブで「きたー!」っていうテンションになれるような、疾走感のある楽曲というリクエストで作っていただきました。ラップも今まであまりやる機会がなかったので、今回のアルバムで一番挑戦した曲と感じるくらい新しい引き出しを開けてもらえた曲です。車のCMっぽくて、速そうですよね(笑)。私のお父さん世代にはすごく刺さるみたいです。
――そのスピード感というか勢いが、歌詞にも表れているなと思いました。
富田 独走状態みたいな感じなので、「私は誰にも止められないぜ!」っていうテンションで歌わせていただきました。「Present Moment」は「みんなで一緒に成長していこうね」という感じでしたけど、この曲は「私についてきてくださいね!」という感じで。歌詞に“ギリギリ”というワードが入っている通り、歌にもギリギリ感が出せたと思います。
――続く「片思いはじめました」は、女の子のいじらしい恋心を描いた恋愛ソング。こういうかわいらしい曲調は、今までのアーティスト活動にはなかった方向性ですが。
富田 富田美憂と言えば「Broken Sky」みたいなかっこいい路線のイメージが強いと思うんですけど、元々自分の中にはこういうかわいらしい引き出しも声優としてあったので、アルバムではそういう一面も出したいなと思って。アルバムの中でも特にかわいらしいサウンドなので、「Run Alone!」からのギャップを楽しんでいただけると思います。
――この曲を歌うときは、やはり気持ちの作り方も変わるわけですか?
富田 レコーディングの前日に少女マンガを読みました(笑)。当日はキュンキュンな気持ちでスタジオに行きましたね。きっと中高生の恋している女の子にすごく刺さる曲だと思いますし、逆に大人の方も「自分の初恋はこんな感じだったな」とか、青春時代を思い出させてくれるような曲になっています。
――先ほど報われない恋の歌ばかり歌っているとおっしゃっていましたが、この曲の主人公も最終的には失恋していますよね。
富田 そうなんです! 明るい曲調なんですけど、片想いが実らなかった歌になっていて。でも、最後の“片想いをありがと”というフレーズは、今まで恋というものを知らなかった子が、初めて片想いをして、恋をしているときの心が躍るように楽しい気持ちを知って、何か得るものがあったからこそ、最後に“ありがと”って言えたんだろうなと思って。なので“ありがと”の部分もあえて明るく歌わせてもらいました。
――まさに楽曲の主人公を演じる気持ちで歌ったわけですね。
富田 コーラスも最初は割と平坦な感じで歌っていたのが、ディレクターの方から「ちょっと口角を上げて、明るい感じで歌ってみよう」とご提案いただいて。あと、いつもは何テイクも重ねたうえで良いテイクを使っていただくのですが、この曲に関してはイントロの歌い出しの大切な部分も、ほぼ最初に歌ったものを使っていただいてます。多分、その初々しい感じが、楽曲的には合うのかなって。
――6曲目の「Some day, Sumer day」は、青春感たっぷりの爽快なロックチューン。
富田 この曲のイメージは「野外の夏フェス」で、ライブでお客さんと一緒に盛り上がれる曲というリクエストをしました。サビも「タオルを振り回せる感じにしたいです」とお願いして。ライブで声が出せる状況になったときには、ぜひ歌詞のカッコに入った部分を皆さんに歌っていただきたいです。
――今までのシングル表題曲のロックな流れを汲む曲調のようにも感じましたが、歌入れではどんなことを意識しましたか?
富田 レコーディングではいつも、お客さんが聴いてくれているときの顔を意識して歌うんですけど、この曲はライブを前提に作った曲と言っても過言ではないので、より会場で一体になっているような感覚、グルーヴ感を大切に歌いました。お客さんと一緒に歌っているような気分でした。アルバムのリリースが6月ということもあり、歌詞に“夏”という言葉も入っていて、夏を思わせるような曲だと思います。
――8曲目の「かりそめ」はチルっぽい要素を取り入れた、今までとはまた違った趣きのアンニュイなナンバーに。これも新しい挑戦ですよね。
富田 これは「ジレンマ」とはまたタイプの違う、大人の富田美憂感が出せる曲を歌いたい!ということで。この曲と次の「足跡」は、コンペではなく、コロムビアの担当ディレクターの井上(哲也)さんが直々に作家さんにオファーして書き下ろしていただきました。アニメのタイアップではなかなか歌えない、アルバムだからこそできる曲じゃないかなと思います。
――たしかに。あまりにも曲の中にストーリーがありすぎると言いますか。
富田 はい。歌詞も夜っぽくて、夜景が似合う曲だなと。レコーディングでは、「えっ!こんなに軽めに歌っていいんですか?」って思うくらい力を抜いて歌いました。それが逆に色っぽく聴こえたらいいなって。いつもは「ハスキーな声が素敵ですね」と言っていただくことが多いんですけど、この曲に関してはハスキーではなくシルキーを目指しました(笑)。絹みたいな艶っぽい声音がこの曲とマッチすると思ったので。
――たしかに淡い質感の歌声とコーラスが絶妙ですし、特にサビの部分、主線とコーラスが掛け合いになるR&B的な歌の組み立て方が素晴らしくて。歌ってみていかがでしたか?
富田 挑戦したことのないタイプの曲だったので、家で練習しているときは、どうアプローチしていいのかわからなかったんです。今までは「やるぞー!」って気合いを入れて勢いで歌う部分があったので(笑)。でも、この曲はその真逆で。歌詞も「うわ~、すごく大人だなあ」って思ったんですけど(笑)、いい意味でファンの方を裏切れるかなと思ったので、女性らしさを意識して歌いました。
――続いての「足跡」は、シンプルかつ優しい雰囲気のバラードです。
富田 ライブのときに、ステージ上にはピアノと私だけ、みたいな曲を歌いたいという案を出させていただいていたんです。実はこの曲、「ジレンマ」のその後のお話なんですよ。なので歌詞に繋がりがあったり、「ジレンマ」とリンクするように時計の針の音が入っていたりします。
――両楽曲とも作詞はNIYAさんですしね。
富田 「ジレンマ」は現在進行形でもやもやしている二人を描いた曲ですけど、「足跡」は多分そこから数年経って、ちゃんと顔を合わせて話せるようになった二人の関係を描いていると思ったので、包容力や温もり、温かさをイメージして歌いました。
――「ジレンマ」から「足跡」に至る楽曲の主人公の関係性の変化は、富田さんがアルバムのテーマの1つとおっしゃった「成長過程」を見せることに通じる部分がありますよね。
富田 ありがとうございます。私もまさか「ジレンマ」の続きの曲になるとは思っていなかったのでビックリしたんですけど、そういった仕掛けも含めて、今回のアルバムは1つの作品という感じがしています。きっと10曲全体を聴いたときに、1冊の分厚い本を読み終えたぐらいの満足感を感じていただけると思います。
応援してくれる人々への素直な気持ちを書いた、初の作詞曲「Letter」
――そしてアルバムの最後を締め括る「Letter」は、富田さんが初めて自分で歌詞を書いたナンバー。作詞には興味があったのですか?
富田 私は、楽曲には作曲家さんや作詞家さん、歌い手の人生観やむき出しの感情みたいなものが繊細に出ると思っていて。その人たちの人となりを曲を通して知ることができるのが音楽の面白さだと思うので、私もいつかそれを自分で体現できたらいいなあと思っていたんです。とはいえ作詞に関してはまったくの素人だったので、もっとアーティストとして色んな歌を歌って、経験を積んでからやることだなと思っていたんですけど、アルバムを作ることになったときに、井上さんから「作詞をやってみませんか?」というお話をいただいて。初めてのアルバムだし、「ぜひやりたいです!」と返事をさせていただきました。
――どんな気持ちを歌詞にしようと思いましたか?
富田 これはライブの最後のMCなどでよく言うんですけど、ライブというものはステージに立っている私一人では絶対に作れないんですよね。そのステージを作るために、何日も前から準備してくださっているスタッフさんとか、カメラマンさん、照明さん、音響さん、私を100パーセント自信をつけた状態でステージに上げてくださるメイクさんや衣装さん、たまには「ここはいまいちだった」と怒ってくれるようなマネージャーさん、私のやりたいことを見守りながら支えてくださっているコロムビアの皆さん、あくまでそういうすべての人たちの代表として、私がステージに立っているだけだと思うんです。
――なるほど。
富田 それと、いくら自分の中でテンションを上げなくちゃと思っていても、やっぱり限界があって。でも、目の前にお客さんがいたり、画面越しにでもお客さんが観てくださっていると、その声や熱量が私に伝わってくるんです。私のことを日々応援してくださっている皆さんがいるからこそ、私はステージに立って歌うことができていて、そのなかの誰一人が欠けてもその日のライブはできない。そう考えたときに、初めて作詞をするなら、そんな方々へのありがとうの歌にしようと思って。だから言葉もあえてかっこよくせず、多少ダサくてもいいから、私のそのままの感情を、お手紙を書くみたいな気持ちで、いつも思っていることをストレートに書きました。
――そういったサポートや応援してくれる人への感謝の気持ちはもちろんですが、この曲の歌詞には、富田さん自身のこれまでの歩みも落とし込まれているように感じました。
富田 そうですね。それと、歌詞に“あの日”という言葉が度々出てきて。私の場合“あの日”は、初めてオーディションに受かった日だとか、初めて歌を歌った日が当てはまるんですけど、例えば皆さんが聴いたときに「初めて私のイベントに来てくれた日」や「初めて私の声を聴いた日」みたいに、それぞれの“あの日”を思い出していただければいいなと思って、あえて“あの日”という書き方をしました。この曲を聴いて、今までの私との思い出を走馬灯のように振り返ってもらえると嬉しいです。
――聴き手側の想像の余地を残したわけですね。
富田 この曲をレコーディングスタジオで聴いたときに、私のことをずっと育ててくださってきたマネージャーさんが泣いたんですよ。マネージャーさんからしたら、もしかしたら“あの日”は、私が事務所のオーディションを受けて初めて会ったときかもしれないし……ということを考えると、皆さんにとっても宝物みたいな曲になればいいなと思います。
――この曲の最後で富田さんは“一緒に歩いていこう ありがとう、ずっと隣にいてね”と歌われていますが、これは富田さんからファンの皆さんへの素直な気持ち?
富田 でもありますし、あとは、自分と出会ってくれたキャラクターたちへの歌でもあるので、この歌には色んな気持ちが詰まっていますね。気持ちが詰まり過ぎるあまり、普通よりも文字数が多くなってしまって、金子さん(本楽曲を作曲した金子麻友美)には申し訳なかったんですけど。
――ハハハ(笑)。しかも金子さんはデビュー曲の「Present Moment」を作詞した方ですよね。
富田 そうなんです! 「Letter」は詞先で作ったんですけど、マネージャーさんと井上さん的には、富田美憂のことをよく知っている人に曲をつけていただきたいということで、金子さんに直々にお願いしてくださったみたいで。私も最初は、自分が生み出した言葉を人に預けることに緊張していたんですけど、金子さんと聞いたときに「じゃあ大丈夫!」って安心しました(笑)。イメージ通りの温かい曲を書いてくださって、本当に満足ですね。
――さて、念願の1stアルバムが完成した今、ご自身としてはどんなお気持ちですか?
富田 今は「私にはもうこれ以上のものは出せないよ!」って思いますけど、『Prologue』というタイトルの由来でお話した通り、次はこれを上回らなくてはいけないので、自分の背中を押してくれるアルバムにもなりました。聴いていただけるときっと、たくさんの熱量を注いで制作したことを、楽曲を通して感じてくださると思います。
――そんなアルバムを引っ提げて、9月26日(日)には待望の1stワンマンライブの開催が決定しています。最後にライブに向けての意気込みをお聞かせください。
富田 今回のアルバム制作で、タイトルや楽曲のコンセプトといった、歌以外の部分を考えるのもすごく楽しかったので、ライブでもセットリストややりたい演出を考えていて。マネージャーさんからも「とりあえず予算のことは気にしなくていいから、とりあえずやりたいことをリストアップして」と言われました(笑)。きっと私自身も納得できるライブになると思います。一人でのワンマンは経験がないので、今は筋トレと柔軟をやっています。
――まずは体作りからですね(笑)。
富田 毎晩、お風呂からあがったあとに、パックをしながら柔軟を20~30分くらいしっかりやったりしています。プランクも、最初は10秒ももたなかったんですけど、毎日やっていたら、今は1分もできるようになったんです。9月までに自分のレベルをどこまで上げられるか、頑張っていきたいです!
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
富田美憂 1st アルバム
『Prologue』
2021年6月30日(水)発売
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
品番:COZX-1771-2
価格:¥4,400(税込)
【通常盤(CD)】
品番:COCX-41464
価格:¥3,300(税込)
【CD 収録内容】
01:Present Moment
作詞:金子麻友美 作曲・編曲:睦月周平
02:ジレンマ
作詞:NIYA 作曲:GRP、NIYA 編曲:GRP
03:Run Alone!
作詞:坂井竜二 作曲・編曲:山崎真吾
04:片思いはじめました
作詞:宮嶋淳子 作曲・編曲:トミタカズキ
05:翼と告白
作詞:只野菜摘 作曲・編曲:睦月周平
06:Some day, Sumer day
作詞:hotaru 作曲・編曲:eba
07:Broken Sky
作詞:大西洋平 作曲・編曲:VaChee、Ryo Yamazaki
08:かりそめ
作詞:鶴崎輝一 作曲・編曲:高橋修平
09:足跡
作詞:NIYA 作曲・編曲:Justin Moretz & Kotaro Egami
10:Letter
作詞:富田美憂 作曲:金子麻友美 編曲:佐藤清喜
【Blu-ray 収録内容】
ジレンマ Music Video
Making Movie
Present Moment Music Video
翼と告白 Music Video
Broken Sky Music Video
●富田美憂(とみた・みゆ)
1999年11月15日、埼玉県生まれ。2015年に声優デビュー。代表作に、TVアニメ『アイカツスターズ!』『ぼくたちは勉強ができない』『かぐや様は告らせたい?』『メイドインアビス』など。2019年11月、1stシングル『Present Moment』で富田美憂自身名義の音楽活動をスタート。9月26日(日)には、LINE CUBE SHIBUYAにて『富田美憂 1st LIVE ~Prologue~』を開催する。
※「鶴崎輝一」の「崎」は「たつさき」が正式名称
関連リンク
富田美憂 公式Twitter
https://twitter.com/miyju_tomitah
富田美憂 STAFF 公式Twitter
https://twitter.com/miyustaff
公式アーティストサイト
https://columbia.jp/tomitamiyu/
富田美憂 公式オフィシャルファンクラブ「+ you(プラスユー)」
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