昨年、残念ながら全公演中止となってしまった「BEST ALBUM RELEASE TOUR”4”」から一年ぶりに全国ツアー「ヒトリエAmplified Tour 2021」を敢行していたヒトリエが、七夕である7月7日に大阪は心斎橋BIGCATでツアーファイナルを迎えた。ノイバウテンのようなノイズミュージックに近いSEが響く中、ステージに登場したヒトリエの3人を湧き上がる大きな拍手が包み込む。シノダが鳴らす歪んだギターの音が呼び水となってゆーまおがドラムを叩き出す。イガラシの躍動ビートが重なって、一曲目は「センスレス・ワンダー」。勢いあまってステージ上に滑るように倒れ込むシノダ。フロアに当たる光線が「ここにいるぞ」とばかりにステージへと向けられる拳の木立を映し出した、そのとき。「ちょっと待ってー!」とシノダの叫びでピタリと止まる音。励ますように暖かな拍手が起こるその様は、バンドとオーディエンスの心の距離の近さを感じさせて微笑ましくもあった。「大変だよ!本番一曲目でギターがぶっ壊れたんだから」とシノダは仏頂面。会場からは笑みがこぼれる。どうやら原因は先程の転倒だったようだ。どれだけライブへの気合が入っていたかが伝わる場面でもあった。「この姿が配信されているんだから。え!?ファイナルがこれかね(苦笑)」。笑い声や歓声の代わりに響く拍手。「絶対に忘れねぇ、俺。今日のこと」とシノダが言えば、見ている人もきっと同じ想い。「このツアーは本当に奇跡みたいで。一本も中止せずに全行程をやれたんだよ。ちゃんと全公演、やりきってきた。昨日もすげぇいいライブした。その集大成が今日ですから!みなさん、今日はよく来てくれた!」さぁ、どうしたものかとシノダが言えば「ギターいらないかも?」とイガラシ。笑い声の代わりに拍手が起きてしまうも「いらないことはない!」とシノダ。そんなやりとりに会場は楽し気な空気が流れる。こんなに長い時間、ライブが中断したのは初めてだという彼ら。いまだかつてなかったというトラブルはギターが直り、シノダの手元へと返ってきたことでライブ開始のところから再開される。そして響くは「センスレス・ワンダー」。さきほどとは打って変わってエモーショナルでヒリヒリとした旋律がギターから掻き鳴らされれば、アグレッシヴなベース、ドラムと共に絡み合ってライブはようやく幕を開けた。2曲目はアルバム『REAMP』の一曲目を飾っていた彼らの覚悟の一歩を刻む「curved edge」。音の一つひとつを、言葉のひと言ひと言を会場へと届けるように放たれていく様が印象的だ。さらにライブを加速させるように「ハイゲイン」が響けばイントロに急かされるように会場からはクラップが。高く上げられる拳。オーディエンスは熱いレスポンスをステージの彼らへと送り続ける。「転んでもまた立ち上がればいいということを、まさかこのツアーファイナルで教えられるとは思いませんでした。もうこの「ハイゲイン」の歌詞が自分に刺さる、刺さる!自分に。“わかる~!”と思いましたよ。走りだしたからには最後まで駆け抜けたいと思います」(シノダ)打ち込みのフロアユースの音とベース、ドラムの躍る生ビートで紡ぐ「bouquet」では軽やかにステージ上を移動しながら歌うダンスチューンに続き、ヒトリエと愛について考える一曲「Loveless」。クラップが重なり、エッジの効いたビートがグルーヴィに響く。ガラリと雰囲気を変えるのは浮遊感と共に切々と紡がれていく音が印象的な「tat」。コーラスワークも秀逸な珠玉チューンがライブで静謐ながら確かに燃ゆる熱を帯びていくような気がした。シノダの伸びやかなハイトーンで聴かせる叙情的ながらエモーショナルなミディアムチューン「うつつ」。散りばめられた音が夢かうつつか。そんな「ここではないどこか」な世界へと連れていく、非常にライブで映える一曲だった。「楽しんでいますか?そりゃそうか。ここまで来て楽しんでいないとは言わせないからね。俺らも」とシノダが言うと、大きな拍手が湧く。「さっきも言ったけど、一本も欠けることなくツアーを終えることが出来ると、本番直前まで思っていたんですけどね?」という言葉に笑い声の代わりの拍手が響く。最大の敵は自分だった、と思わず笑みがこぼれるシノダ。「それでもやっぱり楽しいんです。本当、こういう瞬間が一番いいと思うんだよな。それが今日で終わっちゃうのか、と考えてしまうんだよね。今までのようなモッシュにダイブは出来ないけれど、それでもまだまだやれることはあるんじゃないのかい?そう思うじゃないか?」。響く拍手。「それが君らの出せる最大の音量なのか!」。その言葉に、文字通り“割れんばかり”の拍手が会場を席捲する。「それくらい出さなきゃだめだ。ありがとう」と笑顔を見せるヒトリエの3人。声は出せない。しかし踊るなとも垂直に飛ぶなとも言われてはいないのだから、と、ヒトリエのはじまりの曲を、と響いたのはラウドでダンサブルな「カラノワレモノ」だ。極上のロックとの呼び声も高いこの曲は、“今”という色で進化を遂げ、人々を踊らせる。フロアも、配信で見ている人もこの曲で存分に踊っているはず!そして床を蹴り上げて踊る時間は続くと知らせる「トーキーダンス」のイントロから、躍動ビートが会場を駆け巡り、オーディエンスはヒートアップ。「ここ、大阪BIGCATにお集まりのみなさまに。そして今、配信を見ている貴様らに。wowakaより愛を込めて!「アンノウン・マザーグース」!」。ボカロ曲ならではな表情の豊かさと展開しながら様々な顔を見せていく珠玉ナンバーに大きく手を挙げて応えるオーディエンス。ヒトリエの3人の声に熱を重ねていくようにクラップをする。今度は感情的でパワフルなロックンロールで踊らせる「Marshall A」で熱を上昇させていく。「最高だ」とシノダ。「声なんてなくたっていいんだ。モッシュとかダイブとかなくたっていいんだ。なにも変わらない。俺たち、ヒトリエがやることも、僕と君たちの関係性も、何一つ変わらないと思いますが、みなさんはどうですか?」。その問いかけに拍手が返って来る。そして最新シングル「3分29秒」へ。硬質な音が疾走していく中で、感情を揺さぶるようなメロディが歌い上げられる一曲。アニメ『86-エイティシックス-』のOPテーマであるこのヒリヒリとした質感あるロックナンバーが音の閃光となって会場を走り抜ける。3人になって立った大阪のライブイベントのステージから見た、夕暮れの青を思い出すという「青」。アルバム『HOWLS』に収録されているこの曲は、鼓動のように胸に響くドラムのリズムと想い逸るようなベースのフレーズ、そして気持ちの機微を丁寧に紡ぐようなギターのフレーズが全身に刺さるナンバー。ステージに注ぐ光も青一色に。シノダの見る青が、この歌で届けられたと感じた。ライブが終盤に近付いていく。ツアーの終わりが迫る。いい旅だった、とシノダは言う。心の底からそう思えるツアーが出来たと告げて、弾き始めたのはヒトリエの感謝の想いを込めた“これからの曲”「イメージ」。高らかに自身の想いを告げるように歌い上げる「太陽の裏側に行くのさ」と。何度も歌うこのフレーズに彼らの想いの強さが宿る。「またライブハウスでお会いしましょう」。その言葉は約束だ。今、このツアーの最後の曲である「YUBIKIRI」がヒトリエとオーディエンスとの“約束”の歌になる。3人の音がまるで観客を包み込むような、パワフルだけれど温もりが隅々にまで詰まった一曲。またきっと次のライブでも、この曲で“ゆびきり”をしたい。また会おう、と。そんな想いで胸がいっぱいになった。アンコールの「ポラリス」も含めて全16曲のライブ。冒頭のトラブルはあったけれど、それだってきっとこのツアーを忘れられない時間にしてくれたはず。輝く北極星のように輝く彼らの音楽にまた会いたい。TEXT BY えびさわなち PHOTOGRAPHY BY西槇太一「ヒトリエ Amplified Tour 2021」2021年7月7日(水)@心斎橋BIGCATM1.センスレス・ワンダーM2.curved edgeM3.ハイゲインM4.bouquetM5.LovelessM6.tatM7.うつつM8.カラノワレモノM9.トーキーダンスM10.アンノウン・マザーグースM11.Marshall AM12.3分29秒M13.青M14.イメージM15.YUBIKIRIEN1.ポラリス●ライブ情報「ヒトリエ Amplified Tour 2021」配信:Streaming+にてアーカイブ配信中配信視聴チケット発売中7月6日(火)公演販売期間:7月2日(金)20:00~7月12日(月)21:00視聴期間:7月2日(金)20:00~7月12日(月)23:597月7(水)公演販売期間:7月2日(金)20:00~7月13日(火)21:00視聴期間:7月2日(金)20:00~7月13日(火)23:59サポートチケットサポート1,000 3,500円(税込)サポート3,000 5,500円(税込)サポート5,000 7,500円(税込)サポート10,000 12,500円(税込)●リリース情報ヒトリエ ニューシングル「3分29秒」発売中【アーティスト盤(完全限定生産盤、CD+BD)】価格:¥5,500+税<Blu-ray>HITORI-ESCAPE 2021 –超非日常六本木七周年篇-01. センスレス・ワンダー02. curved edge03. イヴステッパー04. るらるら05. 伽藍如何前零番地06. SLEEPWALK07. Loveless08. RIVER FOG, CHOCOLATE BUTTERFLY09. (W)HERE10. カラノワレモノ11. トーキーダンス12. アンノウン・マザーグース13. 踊るマネキン、唄う阿呆14. 青15. ポラリスEncore1. SisterJudyEncore2. モンタージュガールBonus track YUBIKIRI [2021.1.21 HITORI-ATELIER LIVE Vol.2]【アニメ盤(期間限定生産盤、CD+BD)】価格:¥1,800+税<Blu-ray>TVアニメ『86―エイティシックス―』ノンクレジットオープニング映像<CD>※全形態共通01.3分29秒02.Milk Tablet03.3分29秒 -instrumental –04. Milk Tablet -instrumental-©2020 安里アサト/KADOKAWA/Project-86関連リンクヒトリエオフィシャルサイトhttp://www.hitorie.jpライブアーカイブ配信チケット購入はこちらhttps://eplus.jp/hitorie202107st/「3分29秒」配信リンクはこちらhttps://smar.lnk.to/zRp17xWN「3分29秒」購入はこちらhttps://smar.lnk.to/u9eKoB