バーチャルシンガー・HACHIが“自己開示”を選んだ理由――...の画像はこちら >>

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バーチャルアーティストに特化した音楽レーベル&プロダクション「RK Music」に所属し、2024年11月にキングレコードよりメジャーデビューした注目のバーチャルシンガー・HACHIが、通算4作目のニューアルバム『Revealia』を完成させた。本作で彼女が掲げたテーマは“自己開示”。

前作『for ASTRA.』の成功の裏で、「みんなが求めるHACHI像」と「本当の自分」との乖離に苦しみ、一時は歌うことさえ見失いかけたという。そんな彼女がなぜ今、自身の弱さや暗部までもさらけ出す決意をしたのか。海野水玉、tee tea、ササノマリイ、ピコン、keeno、niki、buzzG、澤田空海理ら豪華クリエイター陣と共に心の深淵を描き出し、自身のファンであるBEESとの信頼関係を再構築しようとする、HACHIの“裸の心”に迫った。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創

自分を語ることが苦手なHACHIが“自己開示”をテーマにした理由

――今回のアルバムのタイトルは『Revealia(リヴィーリア)』。HACHIさん自身が考えた造語らしいですね。

HACHI “ベールを脱ぐ”という語源を持つ“Reveal(=打ち明ける)”という言葉を元に、「心の内を明かす場所」という意味を込めています。今までのHACHIには薄いベールがかかっていて、はっきりとした姿を見せていなかったけど、そのベールを剥いで、みんなに心の内を見せていく。そんな決意を込めてこのタイトルを付けました。

――コンセプトは“自己開示”とのことですが、なぜこのテーマに行き着いたのでしょうか。前作のアルバム『for ASTRA.』以降、活動するなかで考えていたことをお伺いしたいです。

HACHI これは私がずっと抱えていたことかもしれないのですが、活動するにあたり、リスナーのことを考えすぎてしまうところがあったんです。その影響で“みんなが求めるHACHI像”を探るのに一生懸命になりすぎて、“周りから見えている自分”に意識を向け過ぎた結果、自分自身がわからなくなってしまった時期があって。「自分が本当にやりたい音楽は何だろう?」「このまま活動を続けても大丈夫なのかな?」という漠然とした不安を抱くようになったなかで、私はエンターテインメントを届ける側として、マイナスな部分は見せるべきではない、自分の悩みは自分で解決すべきだと思っていました。

でも、そうして抑え込んでいた気持ちがどんどん暴れ出してしまって(笑)。

――そこまで追い詰められていたんですね。

HACHI 「私はバラードが似合うから、そういう曲しか歌わない方がいいのかな?」とか、「活動を続けるためには自分がやりたい音楽よりも、今の流行りの音楽を作るべきなのかな?」とか、今の自分と理想のあり方についてすごく悩んでしまって。『for ASTRA.』までは自分の好きなようにやらせてもらっていたのですが、逆に『for ASTRA.』が大成功したことで、これからどうすればいいのか本当にわからなくなってしまったんです。

――自分の中の活動の指針を見失ってしまったと。

HACHI 私は歌で誰かの心に寄り添うことを大切にしてきて、活動を広げていく上でも、リスナーとの信頼関係が一番大事だと思っています。でも、みんなの悩みや心の内に寄り添う活動をしているのに、私自身が自分のことを何も話していないのは、薄っぺらい共感になってしまうんじゃないか、と感じるようになりました。リスナーを信頼しているからこそ、今まで出来なかった話、明かしてこなかった感情を伝えるべきだと思ったんです。私は元々、自分の気持ちを隠してしまうタイプで自己開示が得意ではないのですが、リスナーへの信頼を表す意図を込めて、今回は“自己開示”というテーマに決めました。

――HACHIさんは定期的に配信活動を行っていますが、その場でもご自身の内面についてはあまり話してこなかったのですか?

HACHI そうですね。雑談があまり得意ではなくて……と言うと信じてもらえないことも多いんですけど(笑)。最近ようやく自然に話せるようになったレベルで、最初はトークが苦手だからこそ絶え間なく歌い続ける「歌枠配信」をしていたくらいなんです。

だからパーソナルな話はほぼしていなかったですし、元気がない時は絶対に表に出さないよう取り繕っていた部分もありました。

――いつも明るく楽しくおしゃべりしているイメージがあるので意外でした。

HACHI もちろん、常に悩んで生きているわけではないので、全ての配信で裏の顔があったわけではないんです。ただ、制作に行き詰まったり、自分の音楽がわからなくなったりした時期は少なからずありました。その時に抱えていた気持ちを音楽に昇華することで、自分の中で折り合いをつけようという意味合いも、今回のコンセプトには含まれています。

――前作『for ASTRA.』はメジャーデビュー作でしたが、その意味で「もっと売れなくては」といったプレッシャーもあったのではないでしょうか。

HACHI メジャーデビューさせていただいたことで、責任感をより強く感じるようになりました。チームやクリエイターの皆さんに恵まれて好きにやらせていただいているからこそ、自分がやりたい音楽そのものをアップデートしていかなくてはならない、と強く意識してしまって。周りから期待の言葉をいただくことも多いのですが、その分、地に足を付けて長く活動していくためには今の自分に何が足りないのか……と考えてしまって。自分に対して厳しすぎるところがあるんですよね(笑)。

――そういった考えに至るのは、HACHIさんの性格的なものでしょうか。

HACHI だと思います。

「絶対に最後までやり切らなくてはならない」と思ってしまうんです。そもそも自分のやりたいことをやらせていただいているので、腐ってはいけないと思うのですが、どうしても自分ではどうにもならない感情はあって。今回は、そうした葛藤や悩みを音楽で表現した、改めての自己紹介のようなアルバムですね。以前からのリスナーには「実はこういう人間だったんだけど、あなたさえよければ、これからもよろしくお願いします」、新しく聴いてくれる人には「はじめまして、友達になってくれますか?」と、手を差し伸べるような作品になればいいなと思って制作しました。

――苦手な自己開示をすることへの恐怖心はありませんでしたか?

HACHI ありました。自分の意見や思いを話すことで、今まで良好だった関係性に少しでも亀裂が入る可能性があるのが怖くて。でも、それでは相手を信頼していることにはならない。「私のことを信頼していないのでは?」と言われたら、その通りだと自分でもわかっていました。だから、このままじゃダメだなと。「ちゃんと言葉にして伝えないと、どれだけ私がリスナーのことを好きで信頼しているのかが伝わらない」と思って、「じゃあちょっと私の話もさせていただきましょう」と一歩踏み出しました(笑)。

――リスナーであるBEES(※HACHIのファンネーム)の皆さんへの信頼があったからこそですね。

HACHI 去年、本当に大きなスランプに陥ったことがあったんです。

そんな中でも、BEESのみんなは変わらず私に愛を伝え続けてくれていました。「こんな私についてきてくれて本当にありがとう」という多大なる信頼があったからこそ、自分の深い話も委ねられる確信を得ました。一度だけ配信で、30枚くらいのオブラートに包んでマイナスな気持ちをポロっと話したことがあるんです(笑)。その時に「そういうところも知りたい」というコメントがあって。私のことを知りたいと思ってくれる人たちには、お返しをしなくてはならないなと思いました。リスナーの悩みに寄り添う時、「私もわかるよ」と言葉にするのは簡単ですが、実際に体験した人間にしか出せないニュアンスや歌の表現があるはず。その寄り添いに実感を持たせたいと思い、今回の曲たちを作りました。

――昨年12月に行われたライブツアー「HACHI Live tour 2025 “Unlockture”」のカルッツかわさき公演では、本作収録の新曲の数々が初披露されました。このライブも“自己開示”がテーマでしたが、手応えはいかがでしたか?

HACHI 私自身の手応えとしては、今までのライブの中で一番すっきりしました(笑)。一番ありのままの姿で、ようやく自分の話ができたという感覚です。リスナーからの反響もすごく良くて嬉しかったです。

生きていくために、自分自身の感情をしっかりと見つめること

――そんな“自己開示”をテーマにしたアルバムを制作するにあたり、楽曲を手掛けるクリエイターにもご自身の思いを明かす工程があったのではないでしょうか。

HACHI はい。

まずはそこで自己開示の練習をしていました(笑)。『Revealia』は前作のように曲ごとにテーマを変えるのではなく、「ひとつの大きな漠然とした自己開示」という大元のテーマがあって、そこから各作家さんが感じたものや掘り下げたものを楽曲にしてくださいました。収録曲の数だけ悩みがあるというよりは、一つの大きなテーマのもとに生まれた楽曲たちというイメージです。

――その「大きな自己開示」とは、具体的にどのような内容だったのですか?

HACHI どうしようもない漠然とした虚無感、と言いますか。「自分のことがわからなくなってしまったので、自分の好きな音楽を改めてやり直したいです」「あまり何も考えずに自分の“好き”を詰め込んだアルバムにしたいです」とお伝えしつつ、先ほどお話ししたようなHACHI像を探るのに必死になっていた苦悩なども共有しました。

――前作『for ASTRA.』の取材(https://www.lisani.jp/0000270514/)では、「死んだら何も残らない」「だからこそ自分の生きていた証を残したい」といったご自身の存在証明や死生観のお話しをされていました。そういった、過ぎ去っていく時間への虚無感のようなものも関係する?

HACHI そうですね。生きていかなければならない中で、何もできない時間、思うように動けない時期があって……これは今回のアルバムの1曲目の「To Be Alive」の話に繋がるのですが、自分がくすぶっている間にも季節は過ぎ去り、悩みや葛藤に向き合えないまま時間だけが流れていく静けさや寂しさ。そういった虚無感を感じていました。「To Be Alive」で私が一番好きな歌詞が、“泥水啜って流す涙が1番綺麗だ”というフレーズなんです。自分の一番汚い感情すらも認めて向き合う心、そういうものを汲み取って作っていただいた楽曲です。

――自分自身の弱さを認める、というのは勇気がいりますよね。

HACHI それに向き合うのにも勇気と覚悟が必要で。「弱い自分を認めて生きてこそ」というのが、私がこの曲に対して抱いているイメージです。「泥臭く生きていったっていいじゃないか!」という、ある種、肯定的な楽曲なのかもしれません。私は病的なほどの完璧主義だったので、今まで自分の弱さを認めることができませんでした。でもこの曲を経て、「弱さを認めることは美しい」と気付かせてもらったんです。この曲は私自身にとっての“赦し”なのかな、という実感もあります。

――この曲を提供されたtee teaのお二人は、長くご一緒されているからこその解像度ですね。

HACHI 作詞のyaccoさんは女性の方なんですけど、以前ドライブデートのようにご飯に行かせていただいたことがあって(笑)、その時に活動の話や深いお話をしました。yaccoさん自身も私と考え方や性格が似ているところがあり、共感してくれる部分がたくさんあったので、これほど解像度の高い歌詞を書いてくださったんだと思います。

――曲名の「To Be Alive」は直訳すると“生きていくために”。それももしかしたらHACHIさんに向けたメッセージなのかもしれないですね。

HACHI だと思います。

――歌の表現も絶品で、特に淡々とした前半から徐々に感情のうねりが高まっていく終盤にかけての移り変わりが素晴らしいです。

HACHI 「To Be Alive」は私には珍しいくらい、ラストにかけて感情表現が強くなっていきます。テクニカルなことは意識せず、歌詞から感じるまま、心の赴くままに歌ったらあのニュアンスになりました。楽曲自体の緩急がすごいんですよね。平メロや中盤の四季について歌うブリッジ部分は、どうしようもなく季節が流れていく虚無感を意識して歌っていて。逆に終盤は、言葉が悪くなりますが「こんなのくそったれだ!」みたいな強さを持って歌いました(笑)。歌というより、感情の叫びのような、鬼気迫る感じを出したかったんです。

――この曲は先述のライブでも1曲目に歌っていましたが、アルバムの1曲目に置いた意図は?

HACHI 1曲目にした理由は、まずアルバムの“ステージ”をセットするためです。私の楽曲は普段、暖色系のイメージが強いのですが、この曲には暖色の要素が一切なく、冷たい冬の湖や誰もいない空間のような情景が浮かびます。その張り詰めたような、ただならぬ雰囲気を最初に置くことで、当時の私の心象風景、アルバムの温度感を提示し、リスナーをガッと引き込もうと思いました。今回のアルバムは曲順を意識して作っていて、序盤に深い悩みや重い感情の曲を持ってきて、そこに向き合いながら、最終的にラストの希望がある「Brand New Episode」へ繋がっていく構成にしています。私にとってその悩みはもう過去のもので、そういう感情も全て受け止めて、咀嚼して飲み込んで、今ここに立っていられるんだよ、ということを伝えたかったので。

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キラキラした思い出を胸に、新しいエピソードとチャレンジへ

――その「Brand New Episode」もtee teaさんの提供で、TVアニメ『SHIBUYA♡HACHI』の主題歌。第1クールの主題歌だった前作「Dusk」と比べてどんな楽曲になりましたか?

HACHI 前作の「Dusk」は“仲間の大切さに気付く”というテーマでしたが、今回は、その仲間と一緒に作り上げたキラキラした思い出を集めに行く、前向きな曲にしようと思いました。なので「Dusk」よりも明るくアップテンポで、“キラキラ”というワードを意識して作っていただきました。キラキラした思い出があるからこそ、過去の辛かったことを自分の中で噛み砕いて、消化して、新しい物語を紡ぐ糧にすることができると思うんです。「忘れる」のではなく、噛み砕いて受け止めていく。それって仲間がいるからこそできることだよね、というニュアンスを込めています。

――歌詞の“あなたに会えないから あなたに会いたいから 当然今日も歩いていく”というフレーズにも繋がりますね。

HACHI アニメの元になっている忠犬ハチ公の物語のように、過去の別れや悲しみがあっても、仲間と一緒にいれば思い出で中和され、前向きに捉えられると思うんです。聴いてくれる人の後押しになれば嬉しいですね。何を幸せとするかは人それぞれですが、仲間がたくさんいれば幸せを見つける先が増えるし、些細なことでも幸せに思えるようになる。「Dusk」も「Brand New Episode」もひっくるめて、「仲間って素晴らしいな」ということを歌っています(笑)。

――楽曲としてはドラムンベース調の都会的かつ爽やかさのあるサウンドで、ボーカルもシルキーかつキラキラしている印象です。

HACHI もう、ニコニコで歌っていました(笑)。跳ねるようにお散歩しているイメージで、口角も声のトーンも上げて、綺麗にかわいらしく歌わせてもらいました。

――楽曲のラストのピアノが、コードが着地しない感じで終わるところも印象に残りました。

HACHI あれはtee teaさんが作ってくださったもので、私も意図は聞いていないんですけど……もしかしたら「これからも物語は続いていく」ということを表現してくださっているのかもしれません。歌詞にも“終わりのない物語を”とあるように、まだまだ終わらないし、歩き続けていかなくてはいけないけど、あなたには仲間がいるから大丈夫だよ、みたいな。

――HACHIさんは『SHIBUYA♡HACHI』で声優にも初挑戦されましたが、それに絡めてお話しを聞きたいのが、今回のアルバムの新曲「Chère amie」。この曲ではポエトリーリーディングに挑戦していますが、歌とは異なる声の表現に取り組んでみていかがでしたか?

HACHI ポエトリーリーディングはずっとやってみたかった手法だったんです。以前から文学的な独白が好きで、それを音に乗せて楽曲として届けることに興味があったのですが、今回のアルバムでは「やりたいことをやろう!」「できないと思っていたことにもチャレンジしよう」と決めていたので、満を持して澤田空海理さんに楽曲をお願いしました。澤田さんは、以前、私が事務所のバーチャルシンガー仲間4人と一緒に活動しているライブユニオンの全体曲(「薫習」)を手掛けていただいたことがあるのですが、楽曲の中にポエトリーを取り入れるのが得意な方で、私も澤田さんの楽曲が元々好きだったので。実際にどちらもやってみて、声優とポエトリーリーディングはほんのり違うものなんだなと思いました。

――というのは?

HACHI ポエトリーは声色が大切で、喋り方ひとつ、語尾の上がり方や細かなところで感情表現が変わってくるんですよね。歌とも演技とも違う表現方法で、「愛おしさを出すにはどう喋るべきか」「笑ったように喋っているけれど、儚さを出すには?」とすごく悶々と考えながらトライしました(笑)。「演じる」というよりも「物語を読む」ような、読み聞かせのようなトーンを意識してやらせてもらいました。

――ポエトリーの独白的な部分と歌の組み合わせの妙と、室内楽的なサウンドの優雅さが合わさって、ミュージカルのような雰囲気も感じられる楽曲です。歌詞はどこか乙女チックな内容ですね。

HACHI ああ、そうです。この曲はラブソングなので。楽曲を作ってもらうにあたって澤田さんとお話しする中で、「大切な人を失った経験はありますか?」と聞かれたんです。私にもそういう経験があるのですが、大事な存在を忘れていく自分、どんどん大丈夫になってしまう自分がいて、それに慣れていくこと自体が辛い、というお話をさせていただいて。澤田さんがその気持ちを汲み取ってくださり、このラブソングができました。“ラブ”と言っても世間一般の恋愛だけでなく、家族やペット、友人など、万物に対する「どうしようもない愛情」、先にいなくなってしまったことに対して「しょうがないやつだな」って愛おし気に微笑むような楽曲になっていると思います。

――終盤の歌い上げるような高まりも印象的です。

HACHI 最後のサビは、澤田さんから「上手に歌わないでください」と言われました(笑)。「ここは上手さを強調したいわけではない。心の赴くまま、下手でも雑でもいいから感情を思い切り込めて歌ってほしい」というディレクションをいただいて。なので、この盛り上がりの部分が一番大切なポイントになっていると思います。

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葛藤を越えた先にある力強い希望、BEESと共にあるからこその歌

――話の流れが前後してすみませんが、ここからはアルバムの曲順の流れに沿ってお伺いします。2曲目「乖(かい)」はササノマリイさんが提供した、感情の波に溺れていくようなエレクトロニカ。まだ葛藤の中にいるような印象を受けました。

HACHI 「乖」は“乖離”を意味していて、「自分が思う自分」と「他人から見た自分」の乖離をテーマにしています。嫌われたくなくて自分を隠している自分、と言いますか。歌詞に“「ここにいて」なんて不安になってしまうよ”とあるように、「ここにいて」という言葉に不安になってしまう自分もいながら、その後には“手放そうとした世界から 消えたくないんだって声がしたんだ”とも歌っていて。自分の中で色んな気持ちが乖離して本当の自分がわからなくなっている、そんな不安定さを歌い方でも表現しました。切迫した感じ、息が詰まっている感じと言いますか。

――3曲目は、先行配信されたアルバムのリード曲「∞」。HACHI作品ではお馴染みの海野水玉さん提供で、かなり踏み込んだ感情が描かれています。“「死にたい」と歌うmy heart”という、ショッキングなフレーズが含まれていて。

HACHI この楽曲は一番の深層心理というか、心の奥底で抱えているどうしようもなく淀んだ感情を表現してもらいました。この曲では初めて明確に“死”という言葉を使っていますけど、これは命を終わらせるという意味だけでなく、その場から逃げたい、消えたい、という意味も孕んでいて。表現者にとっての「死」とは活動を辞めること。私の場合は音楽を辞めることが、アーティストとしての死だと思うんです。歌詞にある“知らない頃に戻れたのなら”というのは、「自分の音楽を知らない時に戻れたらな」という意味合いも含んでいて。誰に何を言われても納得できず、深い水底に沈んでいくだけでいい、引き上げてほしくない……そんな感情を抱いていた時期のことを歌っています。

――救いを求めているわけではない、と。

HACHI 海野さんと「そういう感情の時に、無理やり引き上げてくれる音楽なんて聴きたくないよね」という話になって。「じゃあ、そんな自分の代わりに死んでくれる曲を作ろう」ということで生まれた曲です。無理に励ますのではなく、どうにもならない時に全てを肯定して隣でたゆたってくれるような曲。海野さんも私と同じタイプなので、こういう感情を抱いたことのある人にしか書けないし、歌えない楽曲だと思います。

――そこまで深い部分を隠さずに楽曲にできたのは、やはりファンへの信頼があるからでしょうか。

HACHI そうですね。今までは言葉を選んで、ここまで強い言葉は使わないようにしていたのですが、今回は取り繕うのをやめました。“自己開示”と謳っているのに、ここで取り繕ってしまったら薄っぺらくなってしまうので。なので包み隠さずに、代わりに死んでくれる曲を作りました。正直、発表する時は本当にお腹が痛くなるくらい怖かったです(笑)。ファンの皆さんも、いつもなら「聴いたよー!」と報告してくれるんですが、この曲に関しては言葉を選んで感想をくれていて。「ごめんね、重たいよねー」と思いながら見ていました。

――ただ、今はもうその状態ではないんですよね?

HACHI はい!めちゃめちゃ重たい話をしてしまいましたが、今は全然大丈夫です。そういう気持ちを曲に昇華して乗り越えているので、全く心配しないでください!

――そして4曲目はピコンさん提供の「誰も知らない」、5曲目はkeenoさんが書き下ろした「ivy」と続きますが、今作には他にもnikiさん、buzzGさんが参加していて、ニコニコ動画の全盛時代から活躍するボカロPさんが多いですよね。

HACHI 私が元々ニコニコ動画の音楽文化・ボカロ文化が好きで育ってきたので、ルーツに従って「好きな人と音楽がやりたい!」とお声がけしていったら、ものすごいメンバーになってしまいました(笑)。すべて私が「この方にお願いしたい」と希望を出させていただきました。

――「誰も知らない」を提供したピコンさんに関しては、以前に「君の脈で踊りたかった」や「再生」を歌ってみた動画でカバーしていました。

HACHI ピコンさんの楽曲は昔から大好きで、メロディから感じる儚さや哀愁もそうですし、歌詞が本当に美しいんですよね。なので今回、熱烈なアプローチをさせていただきました(笑)。ちなみにこの曲、ハモリもダブルも一切なくて、メインの歌一本勝負なんですよ。「メイン一本でいきましょう」と言われた時はすごくドキドキしましたが、高音のファルセットや哀愁を含んだ表現など、結構チャレンジングな楽曲になりました。

――そしてアルバムの後半は、ロックな曲調が増えていきます。

HACHI アルバムの後半、buzzGさんの「あいあいがさ」からnikiさんの「Before anyone else」、そして「星を待つ」の流れは、スランプ脱出を象徴するような力強さがある曲になりました。スランプ時は呼吸が浅くなってお腹から声が出せなかったのですが、それが気にならないくらい真っ直ぐ歌うことができて。アルバム前半で重苦しい感情を歌っている分、後半の希望に向かう楽曲で聴いている人の心を引き戻せればと思い、強く歌わせていただきました。特に「Before anyone else」は「絶対にそばにいることを約束するからね」という思いを込めつつ、最後の歌詞が“、、、いいかな”で終わるあたり、なんだかんだおずおずしてしまうHACHIらしさも出ているかもしれないです(笑)。

――「星を待つ」もまさに星空の光景が目に浮かぶような、エモーショナルかつスケール感のあるギターロックに仕上がっています。

HACHI この曲は自分としては珍しく、最初から最後までフルスロットル、100パーセントのパワーで歌っています。今まではバラードを中心に“抜き”をメインで歌ってきたので、ここまで力強く張り上げる曲はそれほど多くはなくて。でも、私はこういう楽曲が元々好きなので、歌いながら「あ、これやりたかったんだな」という気持ち良さがありました。自分の中にあった固定観念を破った曲でもあるので、ぜひ聴いて欲しいです。

――そして結びの曲「Brand New Episode」の前に置かれた、アルバムの12曲目「Revealia」はHACHIさんご自身が作詞を担当されています。

HACHI 自分の言葉で綴っているので、この曲が一番正直な自己開示だと思います。孤独を感じていた自分、その辛さを誰にも、自分にすら気づかれないようにしていた自分がいて。その心を覆い隠して、自分の言葉が届くように歌うけど、声が震えてしまう時もあるし、それを「見抜いて欲しい」という反対の気持ちもある。でも、やっぱりみんなのことが好きだからそばにいてほしい。“心の檻”から羽ばたくのは怖いけど、リスナーの“あなた”となら一緒に風を知りにいきたい。そんな思いを綴りました。

――前作で作詞した「レコードのように」に続き、ファンへの手紙のような曲ですね。

HACHI BEESのかけてくれる言葉は、みんなの考えている以上に私の心の糧になっているんです。自分でもどうしようもない感情があるなかで、そういうものも全部解いてくれるくらいの力を持っていて。“あなた”が向けてくれる言葉に私も焦がれているし、“あなた”の言葉があるから羽ばたいていける、一人きりじゃないと思うことができる。なので最後は“私は ここにいる”と歌っていて。“あなた”がいるから私はここに存在していけるんだよ、という意味を込めています。私が“あなた”の言葉をどれだけ大事にしているかが伝われば嬉しいです。

――自分の好きな人たちと一緒に好きな音楽を作るという意味でも“自己開示”できたアルバムになったと思いますが、改めて、完成した今の率直な感想はいかがですか?

HACHI 今まで自分の話をするのが得意ではなかった私が、自分の好きなものや悩みを作品に昇華するためにどうすればいいのか、改めて自分と向き合い、対話することで学び直せた制作期間でした。自分の心を歌として開示していくことでテクニカルな面での気付きもありましたし、自分と向き合うことで新たな感情の引き出しが増え、歌い方もブレッシーになったり、逆に力強くなったりと、表現が少し変わったと思います。その勇気をくれたのは、BEESのみんながいつもかけてくれる愛の言葉です。より繋がりが深くなったと思いますし、自分のことを開示できて、本当によかったなと思います。

――最後に、3月5日にはライブツアー「HACHI Live tour 2025 “Unlockture”」の台北公演も控えていますが、今後の活動について教えてください。

HACHI ライブツアーのタイトル“Unlockture”は、“Unlock(解錠)”と“Overture(序章)”を掛け合わせた造語なんです。“Overture”には「序章」という意味があるということは、「じゃあ何の序章なの?」というところで……まだ言えないですけど、ちょっと企んでいることはあります(笑)。所属しているRK Musicの方でもイベントやライブを予定していて、みんなと生で会える場所を増やしていければと考えているので、これからも頑張っていきたいと思います!

●リリース情報
HACHI 4th ALBUM
『Revealia』
2月11日リリース

【特別仕様盤(初回限定盤)】

品番:KICS-94243
価格:¥8,800(税込)

【通常盤(CDのみ)】

品番:KICS-4244
価格:¥3,500(税込)

<CD>
01. To Be Alive
02. 乖
03. ∞
04. 誰も知らない
05. ivy
06. Chère amie
07. Empty Town
08. 雨うつつ
09. あいあいがさ
10. Before anyone else
11. 星を待つ
12. Revealia
13. Brand New Episode
Bonus Track. Rainy proof(Avec Avec remix)※通常盤のみ収録

<特別仕様盤特典>
・特製クリアケース
・南京錠⾵Revealia アクリルカラビナ
・記念カードRevealia ver.(シリアルナンバー⼊り)
・HACHI ライナーノーツカード

関連リンク

HACHI
公式サイト
https://hachi-official.jp/

公式X
https://x.com/8HaChi_hacchi

公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC7XCjKxBEct0uAukpQXNFPw

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