Kalafina解散後、H-el-ical//として活動し始めて2年、メジャーデビューから1年半を経たHikaru//であるが、今回のTVアニメ『最果てのパラディン』、そしてすでに主題歌担当が発表されている次作を含め、4作のアニメタイアップを獲得している。Kalafina時代からアニメ好きであることを公言してきた彼女だけに、今は水を得た魚のようにクリエイティビティを存分に発揮しているが、アニメに対する愛ゆえに盛り込まれる視点、愛ゆえに生じる苦悩について、現在進行形で新たな挑戦に向かい続けてもいる。
作詞と歌唱、異なる形でHikaru//が展開する表現とは?

歌詞を書くときはアニメに気持ちを全振りです
――TVアニメ『最果てのパラディン』のOPテーマである「The Sacred Torch」はどのような形で制作されていったのでしょうか。

Hikaru// タイアップの曲ではいつも、アニメサイドのリクエストを元にプロデューサーと作曲家さんが話し合い、楽曲を制作し、それでアニメ側のOKが出たら自分が歌詞を書く、という流れになっています。今回も、曲をできた状態でいただくまで、私から曲について何も言うことはなかったですね。

――もらった楽曲はフルサイズですか?

Hikaru// 最初にTVサイズのものをいただきました。そこに歌詞をつけて、お伺いを立てて大丈夫だったらフルも書く、という形ですね。

――楽曲を受け取ったときはどんな印象を持ちましたか?

Hikaru// タイアップとなる作品名は聞いていたので、個人的に原作を読んで、世界観を理解したうえで楽曲を聴かせていただいたのですが、原作が持つ異国感やファンタジー感を感じ取りました。なので、そういう空気感を大事にしながら歌詞を書きたいと思いました。

――『最果てのパラディン』という作品に対しての印象はいかがでしょうか。

Hikaru// ファンタジーではあるんですけど、キャラクターたちが発する言葉にはリアルに生きる指針を感じさせられるというか、メッセージ性のある言葉が多いと思いました。そこがすごく印象的でしたね。神と対峙するなんてこと、実際にはないですけど、対峙する過程で生まれる葛藤だったり悩みだったりというのは、生きていく中でも体験するようなことで、その壁にどう取り組んでいくのか、乗り越えていくのかという心の機微みたいなものは一緒に思えました。そこにすごくグッときましたね。


――実際、歌詞だけを読むとあまりファンタジー色を込めてはいませんが、作品にちなんだ仕掛けはなどがあったのでしょうか?

Hikaru// 「Altern-ate-」(メジャーデビューシングル/2020年5月リリース)や「disclose」(2ndシングル/2020年11月リリース)では仕掛けを結構入れていたんですけど、今回はすごくストレートな感じですね。だから、今までのタイアップ曲の中では一番、作品を観ていなくても共感してもらえるかも。でも、一見、主人公の気持ちを歌っているように見せかけて、別のキャラクターを思い描いているところもあります。もしも自分が好きな作品がアニメ化されたら、やっぱり「自分が推しているキャラの視点も入れてくれ」と思うから。そこは『最果てのパラディン』に限らず、毎回色々なキャラクターの視点が入れられたら、と思いながら歌詞を書いてはいます。統一性はすごく大事なので、一貫している曲の中で視点を変えるってなかなか難しいし、聴いたときに違和感が出ないようにはしていますけど、どこかで「自分の推しキャラのことを歌っているのかな?」って考えていただけるところもある……はず!

――「生」を帯びた言葉が多く登場しますね。

Hikaru// 作品からは、生きることについての道筋みたいなところをすごく感じました。それって答えがあるものではないから難しいですけど、ただ、自分がどう生きていきたいかを決めたときに人は強くなれるんだな、と思って。

――冒頭に登場する「光(ルーメン)」は聴く人の耳をつかむ、フックになる部分だと感じました。

Hikaru// ありがとうございます。やっぱり今はネットの時代なので、頭の何秒かで勝負が決まってくるじゃないですか?(笑)。私が曲を聴いたときも、ここは絶対フックになる部分だと思ったので、あまり聞かない言葉にして「ん?」となってもらおうと思いました。


――道を照らす、というところで歌詞全体を覆う意味も感じさせます。フルサイズを意識しながらTVサイズを作っていったのでしょうか?

Hikaru// TVサイズで視聴者の方の「これから始まるぞ」というワクワクに寄り添いたい、とは考えていました。あとは、オープニングテーマとなると前回の放送を回想してもらえるようなワードを入れたいという気持ちがあるんですよね。それは今回に限らず、TVサイズではいつも。H-el-ical//のことを知らなくてもグッとくるようにしたいんですよ。フルサイズでは、A、B、Cの次にフックとしてDメロが入ってくるので、そこに何を選ぶのかはすごく悩みます。そこにも、ワンコーラスには入れなかったけれど作品としてはフックになる部分、を入れようと思っているので。

――とすると、「The Sacred Torch」の歌詞に関しては、Hikaru//というアーティストを打ち出した部分はなく、1曲丸々アニソン、という意識でしょうか?

Hikaru// そうですね、アニメのタイアップ曲では“全振り”ですね。Hikaru//らしさに関しては、どこで抜くとか出すといった歌唱の部分では考えますけど、歌詞を書くときは100%アニメに気持ちを寄せています。

――フルサイズを聴いたときも100%アニメの世界に浸れる楽曲、ということですね、

Hikaru// そうなってくれるといいなと思って歌詞を書いています。だから、タイアップ曲とノンタイアップ曲で歌詞の構成や言葉選びを比較すると面白いかもしれない。同じH-el-ical//の作品でも、ノンタイアップでは出てこない言葉がタイアップには出てくるので。


――歌詞については、Hikaru//とアニメ作品のコラボのような形ですね。

Hikaru// そうそう。どの言葉を選んで、どう配列するかはHikaru//でも、アニメ作品やその原作からもらってきた言葉なので。タイアップさせてもらうことで良い化学反応ができたらいいな、とはいつも思っています。だから、あまり自分を出さないように、という考えではいるかもしれないです。

――では、歌でHikaru//を出した部分は?

Hikaru// ミディアムっぽい感じなんですけど言葉数は詰まっていたので、聴かせる系の歌い方というよりは、作品の中でグッときた言葉をしっかりと伝えるように、という部分を意識しました。特にBメロは、どこで息継ぎをするんですか、という感じに詰まっているメロディだったので、楽曲をもらったときは悩んだんですけど、「絶対にここしかない」というところに息継ぎを設定して、言葉をしっかりと伝えようという気持ちで録りました。

――歌うときのことも考慮しながら歌詞を書くことで、歌唱面でもよりHikaru//らしさが出せますね。

Hikaru// そうですね。もらった楽曲のメロディを聴いて、「こう歌いたいからこういう言葉をはめよう」と考えることもあるので。音が上がっていたら強めのアタックができる言葉をはめるとか。歌詞を書くときに、どう歌うかも同時に決められるというのはありますね。


――キャリアとしては歌のほうが経験が多いので、歌唱で歌詞の表現をリードするような感覚かと思いましたが。

Hikaru// いや、やっぱりままならないところがあるんですよ(笑)。Kalafinaで10年やって、素敵なやり方を色々と見てきているので。しかも、アニメタイアップの場合は特に、アニメが好きな気持ちが強すぎて、「本当はもっとこうしたいけど自分の技量が足りない」みたいなところはあります。愛ゆえに(笑)。あとは、自分の理想はあっても、それは自分の持ち味とは違うと感じるときとか。だから、何が今のベストなのかを考えながら練習してレコーディングに臨む、という感じですね。

――Kalafinaで言えば、基本は三声での複合スタイルでしたしね。

Hikaru// そうです。あれを10年も積み上げちゃっているから(笑)。すごい経験をさせてもらったぶん、ソロになってからは自分一人でどう変換していくか、という作業が必要になっていますね。一人ですべての構成を組まなければいけないというのは、ソロだからこその難しさでもあるし、やりがいでもあると思います。


――ソロ活動では、Hikaru//さんの低音の魅力をより感じられるとは思いました。

Hikaru// ありがとうございます。それもKalafinaで低いところのハモも歌わせてもらっていたので、その修行の成果ですかね(笑)。

――もし「The Sacred Torch」を歌うとしたら、ポイントにすると良い部分はありますか?

Hikaru// 一番言いたいことは大体サビに書いてあるんですよ。なのでサビは特に、自分が生きたい道を思い描きながら、気持ちを入れて歌ったら達成感があると思います。

アニメに関わることのできる喜びと幸せと面白さと責任感
――カップリングの「Determination」はどういうところから生まれた曲ですか?

Hikaru// 「The Sacred Torch」が出来たときにグシミヤギ( ヒデユキ/「「The Sacred Torch」作曲、「Determination」作曲・編曲担当)君とカップリングはどういう楽曲にしようかと話したんですけど、今までにやったことのない楽曲にしようという話になりました。ちょうどグシミヤギ君はTVアニメ『進化の実~知らないうちに勝ち組人生~』の劇伴を担当していて、1曲が色々な場面展開で構成されているような曲や劇伴っぽい曲はどうかな?という話になったんです。実際、1番と2番で曲調がガラッと変わりますし、メロディが同じなのはサビくらいなので、歌詞をはめるのはすごく新鮮でしたね。どう表現しようか、ワクワクしながら歌詞を書いていました。

――1番と2番で大きく展開が異なるということで、歌詞の内容も変えましたか?

Hikaru// 統一性は必要だと思ったんですけど、最初に曲を聴いたとき、1番はダークな感じで入ってきて、2番が始まると少し明るい音がして視点が変わる感覚があったんです。だから、ここまで変わることってなんだろう?と考えたとき、「……性別?」って浮かんで。それで、1番はちょっと男性っぽく、2番はちょっと女性っぽく、ラストは二人で歌っているイメージで書きました。


――男女の交錯から「Determination」というタイトルに繋がったのはどういう流れだったのでしょう。

Hikaru// タイトルは毎回、フルででき上がった曲を聴いてから決めるんですけど、歌詞の二人の男女って、それぞれに思うことがあって、それぞれにどう進むかを決意した状態で相手を思い、語っているんですね。そこから、決意、決心という意味の「Determination」にしました。

――歌詞を書いている段階では、タイトルについてはあまり考えないんですか?

Hikaru// 歌詞を書いた段階とはニュアンスが変わってくることがあるので、レコーディングで歌って、なんだったらアレンジも終わってからタイトルを決めますね。

――じゃあ、名付け親感覚ですね。子供が生まれてから最後に名前を。

Hikaru// そうです、そうです。本当にそういう感じです(笑)。

――楽曲の展開に沿って、歌も幅広い表現を意識したのでは?

Hikaru// そうですね。なので、ワンコーラス目は胸の辺りを響かせて、少し太く、男性っぽい声色で歌っています。2番は女性らしさが欲しかったので音色高めで、なるべく柔らかく、優しく、という感じですね。で、最後のサビはパワーボーカルみたいな感じにして、二人分の気持ちがミックスされているようにしました。「あ、この人がこっち歌ってるのか」「ここはこっちの人か」みたいなところが垣間見えるように。最後のサビだけは、下ハモも少し上げてもらったんですよ。デュエットしているみたいにしたくて。

――「The Sacred Torch」同様、自分で歌詞を書く、というところが歌の表現でも実を結んでいる感じがありますね。

Hikaru// ありがとうございます。ソロとして活動を始めるとき、事務所の人にも自分で作詞をしてみたいという話をさせてもらったんですよ。Kalafinaのときは書いていなかったから。でも、実は全部を自分だけで書くつもりはなくて、「数曲は自分で書きたいな」くらいの気持ちだったんです。ところが、結果的にこれまでのH-el-ical//の活動では全部自分で書かせてもらっていて。毎回が挑戦みたいな感じですけれども、やり続けられる限りやりたいとは思っています。

――ちなみに子供の頃から文章を書くのは好きだったりしたのでしょうか?

Hikaru// 子供の頃の作文なんてひどかったですよ。「楽しかったです、マル」みたいな(笑)。ただ、本を読むのはすごく好きで、小学校の図書室で借りた本を読みながら帰ったりしてました。あ、でも、ちゃんと信号のところでは止まれるんですよ(笑)。

――それなのに歌詞を書きたいと思うに至ったきっかけは?

Hikaru// 昔から歌を仕事にしたいという話を家族にはしていて、協力してもらってもいたんですけど、母に「歌詞が書けるようになったらいいんじゃないか」と言われたんです。それで、どこに出すわけでもない歌詞を書いてはいました。それがいいものだったかどうかはわからないですよ(笑)。

――「楽しかったです、マル」の子にお母さんは、思いきったアドバイスをされましたね。

Hikaru// 準備運動をさせてくれたのかな。いつか機会ができたとしても、「楽しかったです、マル」の状態では絶対書けないから。

――今回の3rdシングルの初回限定盤には、ライブ音源を収録した特典CDが付きます。

Hikaru// 2020年の4月にアコースティックライブを予定していたのですが、中止になり。でも、ライブをやりたいという話はずっと事務所の人と相談していて、結果、12月に思いが叶って――そのときのライブ音源です。ライブのたびに毎回、「LIVE生産限定アルバム」を出していて、だから4月の段階ですでに5曲作っていました。そして12月が決まったときにさらに新曲をプラスしたんです。それらがほぼ初披露で、H-el-ical//として初のアコースティックライブだったので緊張していましたけど、でもライブができる嬉しさが1曲目の「咲-SHOW-」に表れています(笑)。この曲は「ようやく会える」で始まる曲で、目を合わせて歌えることが幸せという気持ちを込めた歌詞なんです。レコーディングでもその気持ちで歌いましたけど、ライブで歌うとその思いがさら増すというか、気持ちが乗りました。いつも、ライブで歌うことがみんなとの会話だと言っているんですけど、そのことも実感したし、なんて言うか、歌いながら「今、生きてるんだな」って思いながらステージに立っていました。

――やはり、失くして初めて気がつく……というところはありますよね。

Hikaru// 失くしたときに沈み込んでしまうんですけど、少しずつ取り戻して、いざ大きな何かに取り組むと、マイナスのぶんプラスが大きいというか。自分の中ですごく大きなものになりますね。目に見えないところでもたくさんの人が自分の曲を聴いてくれている、ということを改めて感じられて、心が満たされました。SNSなどでも感じてはいますけど、やっぱり目の前にして歌うと違います。皆さんが生きている中にHikaru//がいて、わざわざ自分の時間を使って会場に来てくれて、一緒に時間を共有してくれて……「幸せな仕事をしているんだな」と改めて思いました。

――その溢れる思いをライブ音源から感じ取ってもらいましょう。

Hikaru// 生でやったものをCD音源で届けるというのは緊張感があるんですけどね。視覚もありの映像込みのものと、聴覚のみのものでは変わってくるので。でも、たくさん想像してもらえたらいいなって思います。

――改めて、今回でアニメタイアップ3曲目となったことについて、そしてアニソンシンガーとしての今の気持ちについて教えてもらえますか。

Hikaru// 次の4作品目ももう発表になっていますが、アニメが好きだからこそすごく嬉しいし、すごく難しいですね。やっぱり、アニメへの愛があるゆえに、作品を愛している人に自分のできる100%をぶつけたいし、「なんでこの人が歌ったの?」とは思われたくないので。今は、歌詞も書くし歌も全部を一人で歌うしというところで、皆さんに自分の想いが伝わればいいなと思っています。アニメに関わることのできる喜びと幸せと面白さと、そして責任感……。

――やはり責任感は感じますよね。

Hikaru// 責任感を果たしてこそのアニソンだとは思うので。作品に対して愛があるかないかというのは伝わるじゃないですか?その時々でのオタクなりの愛の捧げ方というのは絶対あって。

――Hikaru//さんは毎回、歌詞に作品とのリンクを仕掛けていて、そういった部分があることでアニソンとしての深みは増すと思います。
Hikaru// そう思ってもらえたら、という気持ちで全力でやらせてもらっています。熱を込めてますから(笑)。

INTERVIEW & TEXT BY 清水浩司(セブンデイズウォー)

●リリース情報
TVアニメ『最果てのパラディン』OPテーマ
「The Sacred Torch」

【初回限定盤(2CD)】

品番:GNCA-0643
価格:¥2,420(税込)

【通常盤(CD)】

品番:GNCA-0644
価格:¥1,320(税込)

<CD>
1.The Sacred Torch
2.Determination
3.The Sacred Torch <instrumental>
4.Determination<instrumental>

<CD/初回限定盤特典>
2020年12月29日、KT Zepp Yokohamaにて開催された『H-el-ical// acoustic LIVE 2020「咲 -SHOW-」』昼公演のライブ音源

関連リンク
H-el-ical// 公式サイト
https://h-el-ical.com/

H-el-ical// 公式Twitter
https://twitter.com/Helicalproject

H-el-ical// 公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCAT-pP5n5RqBMrLfyawDHwg/featured
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