2010年代から数々のヒットアニソンを生み出し、現在は自身のユニットであるsajou no hanaでも活躍するクリエイター・渡辺 翔。スマイルグループ所属の彼もまた、今回開催される「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」に審査員として参加する。
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自身の転機にもなった2014年のオーディション
――翔さんは2014年に開催された「<アニメ限定!>スマイルカンパニー・オーディション2014」で審査員として参加されていましたよね。
渡辺 翔 そうですね。あのときは最初に集まったものをほかの方が内部審査してから僕が選ぶという流れだったんですけど、たまたまそのオーディション期間内に事務所に行ったら資料がまとまっていたので、事務所の部屋にこもって4~500人分くらいを一気に聴きました(笑)。
――結局一次審査から参加されていたと(笑)。
渡辺 どうしてあんなに時間があったんだろうって(笑)。でも気にはなっていたんですよね。僕もsajou no hanaを始める前だったし、僕も次の何かを考えていた時期だったので、良いボーカリストはいないかなって前傾姿勢で聴いていましたね。
――そのときはどんな基準で選考していたんですか?
渡辺 とりあえず声の感じとか、自分が良いなって直感で思うものをどんどん横によける感じですね。そこはフォルマントというか喉の作りに依存するというか、生まれ持ったものは変えられるものではないので……というとこれから応募する人にはハードルが上がるかもしれないですけど、僕がピンとくるもの持っている人を探していた感じですね。
――そのなかで、のちにsajou no hanaで一緒に活動することになる当時15歳のsanaさんがいたわけですよね。
渡辺 そうですね。
――お二人が共鳴し合ったのはオーディション後だったと。またオーディション後には、sanaさんに未発表で1曲提供されたようで、sanaさんは「難しい曲だった」と言っていましたが……。
渡辺 ありましたね。ロックなんだけど曲中にR&Bを入れたような(笑)。当時の彼女の歌い方は今とはまた違っていて、ブラックミュージックの影響を受けてきたんだろうなっていう歌い方だったんですよ。とはいえアニメフィールドではそれとは別の手法を歌う必要があるだろうなと思っていたので、色々混ぜたような曲になりました(笑)。リズムはロックな雰囲気なのにメロディの雰囲気はR&Bというのを初っ端から歌ってもらいましたね。
――それが結果として同じユニットを組み、翔さんとしてもクリエイターから表に出るきっかけにもなったわけですからね。
渡辺 そうなんですよ、だから助けられた部分もあって。今思い返すとターニングポイントになったオーディションだったのかなと思います。
自分自身もアップデートしてくれる才能
――そしてそこから7年ぶりに、スマイルグループによるオーディション「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」が開催となります。
渡辺 オーディションという形は以前と比べて少なくなってきたと思うんですよ。今って自己発信で自己プロデュースできる時代なので、そのなかでどんな人が集まるんだろうというのは気になりますね。例えば歌手を目指している人で世の中に音源を出していない人がどれくらいいるんだろう?とか。昔はそっちが大半だったんですけど、今はどんな人がくるんだろうなと。
――今回も応募資格は広く、シンガーからクリエイターなど様々なタイプの応募が可能となっています。
渡辺 ほかにもバンドをやっている人も可能だし、なんならフリーですでに楽曲提供をしている人もいいと思うんですよね。
――ちなみに翔さんは最近の若手の楽曲は聴かれますか?
渡辺 よく聴きます。作家中心でやっている人の楽曲も聴きますし、別界隈で活動されている人の楽曲も聴きます。僕は編曲をしないので、だからこそ常に自分の曲をアップデートしてくれる人を探しているというか、単純に興味がありますね。
――若い発想でのアレンジャーを求む、と。
渡辺 はい、そこは僕の裏テーマでもありますね。
――作詞家志望となると、どんな形態が望ましいんでしょうか?
渡辺 歌詞だけっていうのは難しいですよね。歌詞ってメロディにはめる作業が大変なので、歌詞だけがとても良いって見てもらうのはなかなか大変かもしれない。例えば作詞家志望でも、以前誰かと作った音源を送ってもいいと思いますし、その経験がなければなんとなくこれがAメロこれがBメロこれがサビ、って分けてもらえるといいかもしれませんね。作詞家になってもメロディに歌詞をつけるという作業をくぐり抜けなくちゃいけないので。
――なるほど。
渡辺 あと作詞家志望であるなら作風が違うものを見てみたいですね。自身の恋愛経験を絡めた歌詞がよくありますけど、ほかにもそれとは違う、例えばキャラソン設定とかそういうものでもいいのかなって。
――では作曲家になるとどこを見ますか?
渡辺 メロディとコンセプトを見ます。コンセプトに関しては編曲にも繋がってくるとは思うんですが、やっぱりコンセプトは大事ですね。あとメロディの組み方でその人の時代感とかってわかるんですよ。メロディを聴くだけでわざとそれをやっているのか、その人の本質なのかはわかるんですけど、じゃあ複数曲応募するならそれを使い分けられているのか。
――今の時代にフィットするメロディなのか、時代を超越するほどグッドメロディなのか、というのは大きいですね。
渡辺 例えば作家としては、その時代が終わったときに苦労するかもしれないですけど、そういう人は作家だけじゃなくてもその先があるので、そこから色々できることもあるんじゃないのかなって。
――そしてクリエイター志望のなかで、アレンジ部門についてはいかがですか?
渡辺 アレンジ志望の人が一番聴かれるというか、厳しく審査されるのかなって思います。でも今って、アレンジだけやりたいっていう人はいるんですかね?
――たしかに、作編曲や歌詞までトータルで手がける方は多いですよね。
渡辺 ただ、トラックメイカーとかそういう方向の人はいいかもしれませんね。ジャンル的にはヒップホップやクラブミュージック界隈だと、メロディを作るよりトラックを作るのが好きだという人はいると思います。そこから楽曲にするとなるとコライトでやるというパターンが多いですね。意外とトラックメイクだけが好きだという人もいるので、自分がアニソンというジャンル的に合わないかなと思っても、そういうきっかけで応募してくれたらそれは楽しいと思いますよ。
――昨今はアニソンでもコライトは多いですからね。自分の得意分野をとにかく応募してみるのもいいですよね。
渡辺 なんならチームで応募するというのはどうなんですかね?今もチームで楽曲制作しているところも多いですし。
即戦力だけではなく伸び代も審査対象に
――ちなみにトラックメイクとなると技術的な面も見られると思いますが、シンガー志望などでは録音環境などは審査に影響はありますか?
渡辺 例えば以前のオーディションでも、歌志望の方だと後ろで音楽を流して、スマホで一緒に録ったというパターンの人もいましたし、それがオーディションの結果に響くことはなかったかな?ただ、僕らの仕事で仮歌さんっているんですけど、それくらいクオリティがよくて、なんならめちゃくちゃ仕事してるんだろうなっていうくらい作り込まれている方も応募者にはいたんですよ。かといってそれがデビューに近づけるくらい出来がいいのかかというと決してそうではなくて……。
――デモのクオリティよりも聴くところは惹きつけるものがあるかどうか。それがオーディションを通過して磨かれていくこともあるわけですよね。
渡辺 それこそsanaちゃんは、僕が気づけなかったくらいの原石だったんですよね。めちゃくちゃ歌が上手かったんですけど、当時僕がチェックしなかったのは、それが今のアニソンシーンにハマるのかな…と思うところがあったんです。歌い方的に僕が見えなかった部分があったんですけど、でも今の彼女の声を聴くとそのなかで儚さが出てきたし、ニュアンスも洗練されてきて、「こんなにも変わるんだな」って。同じsajouのメンバーのキタニ(タツヤ)も含めて、やりながら見つけていったところだと思います。
――シンガーやアレンジャーなど、今後このオーディションを通過した人と、翔さんが一緒に仕事をする可能性があるわけで、今回の選考にも気合いが入りますね。
渡辺 本当は全部赤ペン先生したいぐらいです。多少好みは反映されますが、僕もたまに作家志望にコメントを返してあげることもあるので。
――翔さんにとってもそういった若い才能との出会いの場になるわけですね。
渡辺 そうですね。そういえば誰かがツイートしていてなるほどなって思ったんですけど、最近の若い子はみんなDAWは触っているんだけど、作曲能力の上がり方はそんなにこれまでとそんなに差はないなっていうのがあって。たしかにDAWの使い方はみんな上手いけど、上手く作曲できる人が劇的に増えたかというとそうでもない。それでも一体自分はどんなもんだ!くらいの気持ちで応募してきてほしいですね。それが楽しみではありつつ、自分が脅かされる怖さもありつつ(笑)。
――脅威に感じつつも翔さんが後輩育成にあたるかもしれないですよね(笑)。
渡辺 たしかに僕って、今まで育成欲ってあまりなかったんですけど、ここ何年かでスマイルに紹介した若い子たちとやりとりをしていると、意外と相談に乗ってあげるのは好きなんだなと思いました。自分でも、割と親身になって話を聞くんだって(笑)。
――やがて“渡辺 翔の秘蔵っ子”がデビューすることがあるかもしれないと。ちなみに翔さんは今の事務所に所属してどれくらいになりますか?
渡辺 22歳で入ったので、もうすぐ15年になりますね。
――もうスマイルでも古株ですね。
渡辺 古株なのかな?中堅くらい?アニソン業界でも中堅(笑)。
――重鎮ですよ(笑)。
渡辺 昔は“新進気鋭のクリエイター”って書かれて嬉しかったんですけど、数年前の打ち合わせのときに、「今回のアルバムは渡辺 翔さん以外はフレッシュな方で」と言われて、「僕はもうフレッシュじゃないんだ……」って。いまだにフレッシュを求めるのは強欲かもしれませんが(笑)。
――さすがにフレッシュの座は若手に譲りましょう(笑)。
渡辺 そうか。じゃあ、中堅からちょっと上くらいで挑みたいと思います(笑)。
――そんな翔さんから見て、長く所属するスマイルという事務所はどんな場所ですか?
渡辺 そもそも僕は15年前、J-POPの老舗というイメージで入ったんですよ。当時はアニメをやり始めたくらいの頃ですかね。僕もアニメ音楽というよりヒットチャートに載るような音楽を作りたいというイメージでこの事務所に入ったので、それこそ「雪の華」(中島美嘉)とか、ヒット曲がある事務所っていうイメージですね。
――それが、約10年前から、翔さんが作られた「コネクト」(ClariS)や「oath sign」(LiSA)など数々のアニソンヒットを生み出す事務所になっていきました。
渡辺 クリエイターの層も厚いですからね。色んなものに長けている人がいるので、編曲をしない自分にとってはこの事務所に助けられています。元々プロではまだ通用しない音源だったのに、メロディや歌詞を書かせていただいてプロで通用するように見せてくれたっていう一面もあるので。だからこれから応募する人にも、もしかしたら何か化学反応が起こるかもしれない。この人はまだまだだけどめっちゃ伸びるぞみたいな、即戦力じゃなくていいと思うんですよ。そういう伸び代はしっかり見ると思います。
――では最後に、オーディションに応募しようと考えている方たちにメッセージをお願いします。
渡辺 アニメ音楽を作りたい、アニメの曲を歌いたいというど真ん中の人に応募してもらいたいという思いはありつつ、アニメきっかけに自分を表現したい人もウェルカムだと思っていて。それこそボカロPになりたいとか、アイドルに曲を書きたいとか、そういうのもあっていいと思うんですよ。色んなやりたいことがあるけどアニメもやりたいっていう、それをきっかけにしたいという人がいれば、変にアニソンに寄せずにそのままで応募してくれればいいのかなって僕は思います。もしかしたらアニメには合わないけどすごくいいなと思える要素があれば、別口でピックアップされることもあると思うので、まず自分の才能を調べたいとか、何かのきっかけに応募してほしいなと思います。
――どんな形であれ、才能はフックアップされると。
渡辺 この業界、横の繋がりは太いですからね。それはそれで違うきっかけになると思うし。逆に自分はアニメに合わないと思っていても、それがめちゃくちゃ合うこともありますし。だからこそとにかく応募してほしいですね。
TEXT & INTERVIEW BY 澄川龍一
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●オーディション情報
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」
<応募資格>
・応募部門自由(ソロシンガー、ユニット、バンド、作詞、作曲、編曲、その他)
・年齢、性別、国籍:不問
<審査員>
渡辺 翔 / 作詞・作曲・プロデュース
黒須克彦 / 作曲・編曲・作詞・ベース・プロデュース
渡辺拓也 / 作曲・編曲・作詞・ギター・プロデュース
PA-NON / 作詞・プロデュース
sana(sajou no hana)/ ヴォーカリスト
甲 克裕 / 音楽ディレクター
<応募方法>
応募フォームよりエントリーをお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScGSGRRlK5smi7d9dYN3eE-Nmwmp4ETdwazQeromfgI74pqUA/viewform
<募集期間>
2021年11月17日(水)~2022年1月31日(月)23:59
<応募上の注意>
・審査結果は通過者のみにご連絡させていただきます。
・審査状況や選考結果に関するお問い合わせには一切応じておりません。
・オーディション参加費、選考費、またその後にかかる費用は一切ありません。(ただし、審査会場までの交通費は各自ご負担ください)
・未成年の場合は保護者の承諾が必要です。
・お送りいただいた応募資料は選考以外の目的で使用することはありません。
関連リンク
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページ
https://www.lisani.jp/0000187094/
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」公式Twitter
https://twitter.com/smile_audition
業界屈指のメロディメイカーは、どんなシンガーやクリエイターとの出会いを求めているのだろうか。
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自身の転機にもなった2014年のオーディション
――翔さんは2014年に開催された「<アニメ限定!>スマイルカンパニー・オーディション2014」で審査員として参加されていましたよね。
渡辺 翔 そうですね。あのときは最初に集まったものをほかの方が内部審査してから僕が選ぶという流れだったんですけど、たまたまそのオーディション期間内に事務所に行ったら資料がまとまっていたので、事務所の部屋にこもって4~500人分くらいを一気に聴きました(笑)。
――結局一次審査から参加されていたと(笑)。
渡辺 どうしてあんなに時間があったんだろうって(笑)。でも気にはなっていたんですよね。僕もsajou no hanaを始める前だったし、僕も次の何かを考えていた時期だったので、良いボーカリストはいないかなって前傾姿勢で聴いていましたね。
――そのときはどんな基準で選考していたんですか?
渡辺 とりあえず声の感じとか、自分が良いなって直感で思うものをどんどん横によける感じですね。そこはフォルマントというか喉の作りに依存するというか、生まれ持ったものは変えられるものではないので……というとこれから応募する人にはハードルが上がるかもしれないですけど、僕がピンとくるもの持っている人を探していた感じですね。
――そのなかで、のちにsajou no hanaで一緒に活動することになる当時15歳のsanaさんがいたわけですよね。
渡辺 そうですね。
そのときすでに甲(克裕/株式会社スマイルデイズ代表)さんから「いい子いたよ」ってなんとなく情報は聞いていたんですけど、僕はそのとき彼女をチェックしていなかったんですよ。自分の見る目が……(笑)。
――お二人が共鳴し合ったのはオーディション後だったと。またオーディション後には、sanaさんに未発表で1曲提供されたようで、sanaさんは「難しい曲だった」と言っていましたが……。
渡辺 ありましたね。ロックなんだけど曲中にR&Bを入れたような(笑)。当時の彼女の歌い方は今とはまた違っていて、ブラックミュージックの影響を受けてきたんだろうなっていう歌い方だったんですよ。とはいえアニメフィールドではそれとは別の手法を歌う必要があるだろうなと思っていたので、色々混ぜたような曲になりました(笑)。リズムはロックな雰囲気なのにメロディの雰囲気はR&Bというのを初っ端から歌ってもらいましたね。
――それが結果として同じユニットを組み、翔さんとしてもクリエイターから表に出るきっかけにもなったわけですからね。
渡辺 そうなんですよ、だから助けられた部分もあって。今思い返すとターニングポイントになったオーディションだったのかなと思います。
自分自身もアップデートしてくれる才能
――そしてそこから7年ぶりに、スマイルグループによるオーディション「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」が開催となります。
渡辺 オーディションという形は以前と比べて少なくなってきたと思うんですよ。今って自己発信で自己プロデュースできる時代なので、そのなかでどんな人が集まるんだろうというのは気になりますね。例えば歌手を目指している人で世の中に音源を出していない人がどれくらいいるんだろう?とか。昔はそっちが大半だったんですけど、今はどんな人がくるんだろうなと。
――今回も応募資格は広く、シンガーからクリエイターなど様々なタイプの応募が可能となっています。
渡辺 ほかにもバンドをやっている人も可能だし、なんならフリーですでに楽曲提供をしている人もいいと思うんですよね。
――ちなみに翔さんは最近の若手の楽曲は聴かれますか?
渡辺 よく聴きます。作家中心でやっている人の楽曲も聴きますし、別界隈で活動されている人の楽曲も聴きます。僕は編曲をしないので、だからこそ常に自分の曲をアップデートしてくれる人を探しているというか、単純に興味がありますね。
――若い発想でのアレンジャーを求む、と。
渡辺 はい、そこは僕の裏テーマでもありますね。
もちろん作詞も作曲も編曲もなんでもできます!っていう人も当然OKだと思いますし、それこそ作詞だけでもありですよね。
――作詞家志望となると、どんな形態が望ましいんでしょうか?
渡辺 歌詞だけっていうのは難しいですよね。歌詞ってメロディにはめる作業が大変なので、歌詞だけがとても良いって見てもらうのはなかなか大変かもしれない。例えば作詞家志望でも、以前誰かと作った音源を送ってもいいと思いますし、その経験がなければなんとなくこれがAメロこれがBメロこれがサビ、って分けてもらえるといいかもしれませんね。作詞家になってもメロディに歌詞をつけるという作業をくぐり抜けなくちゃいけないので。
――なるほど。
渡辺 あと作詞家志望であるなら作風が違うものを見てみたいですね。自身の恋愛経験を絡めた歌詞がよくありますけど、ほかにもそれとは違う、例えばキャラソン設定とかそういうものでもいいのかなって。
――では作曲家になるとどこを見ますか?
渡辺 メロディとコンセプトを見ます。コンセプトに関しては編曲にも繋がってくるとは思うんですが、やっぱりコンセプトは大事ですね。あとメロディの組み方でその人の時代感とかってわかるんですよ。メロディを聴くだけでわざとそれをやっているのか、その人の本質なのかはわかるんですけど、じゃあ複数曲応募するならそれを使い分けられているのか。
逆に使い分けていなくてもメロディがとにかく良ければそれで突き抜けられるものもある。
――今の時代にフィットするメロディなのか、時代を超越するほどグッドメロディなのか、というのは大きいですね。
渡辺 例えば作家としては、その時代が終わったときに苦労するかもしれないですけど、そういう人は作家だけじゃなくてもその先があるので、そこから色々できることもあるんじゃないのかなって。
――そしてクリエイター志望のなかで、アレンジ部門についてはいかがですか?
渡辺 アレンジ志望の人が一番聴かれるというか、厳しく審査されるのかなって思います。でも今って、アレンジだけやりたいっていう人はいるんですかね?
――たしかに、作編曲や歌詞までトータルで手がける方は多いですよね。
渡辺 ただ、トラックメイカーとかそういう方向の人はいいかもしれませんね。ジャンル的にはヒップホップやクラブミュージック界隈だと、メロディを作るよりトラックを作るのが好きだという人はいると思います。そこから楽曲にするとなるとコライトでやるというパターンが多いですね。意外とトラックメイクだけが好きだという人もいるので、自分がアニソンというジャンル的に合わないかなと思っても、そういうきっかけで応募してくれたらそれは楽しいと思いますよ。
――昨今はアニソンでもコライトは多いですからね。自分の得意分野をとにかく応募してみるのもいいですよね。
渡辺 なんならチームで応募するというのはどうなんですかね?今もチームで楽曲制作しているところも多いですし。
即戦力だけではなく伸び代も審査対象に
――ちなみにトラックメイクとなると技術的な面も見られると思いますが、シンガー志望などでは録音環境などは審査に影響はありますか?
渡辺 例えば以前のオーディションでも、歌志望の方だと後ろで音楽を流して、スマホで一緒に録ったというパターンの人もいましたし、それがオーディションの結果に響くことはなかったかな?ただ、僕らの仕事で仮歌さんっているんですけど、それくらいクオリティがよくて、なんならめちゃくちゃ仕事してるんだろうなっていうくらい作り込まれている方も応募者にはいたんですよ。かといってそれがデビューに近づけるくらい出来がいいのかかというと決してそうではなくて……。
――デモのクオリティよりも聴くところは惹きつけるものがあるかどうか。それがオーディションを通過して磨かれていくこともあるわけですよね。
渡辺 それこそsanaちゃんは、僕が気づけなかったくらいの原石だったんですよね。めちゃくちゃ歌が上手かったんですけど、当時僕がチェックしなかったのは、それが今のアニソンシーンにハマるのかな…と思うところがあったんです。歌い方的に僕が見えなかった部分があったんですけど、でも今の彼女の声を聴くとそのなかで儚さが出てきたし、ニュアンスも洗練されてきて、「こんなにも変わるんだな」って。同じsajouのメンバーのキタニ(タツヤ)も含めて、やりながら見つけていったところだと思います。
――シンガーやアレンジャーなど、今後このオーディションを通過した人と、翔さんが一緒に仕事をする可能性があるわけで、今回の選考にも気合いが入りますね。
渡辺 本当は全部赤ペン先生したいぐらいです。多少好みは反映されますが、僕もたまに作家志望にコメントを返してあげることもあるので。
――翔さんにとってもそういった若い才能との出会いの場になるわけですね。
渡辺 そうですね。そういえば誰かがツイートしていてなるほどなって思ったんですけど、最近の若い子はみんなDAWは触っているんだけど、作曲能力の上がり方はそんなにこれまでとそんなに差はないなっていうのがあって。たしかにDAWの使い方はみんな上手いけど、上手く作曲できる人が劇的に増えたかというとそうでもない。それでも一体自分はどんなもんだ!くらいの気持ちで応募してきてほしいですね。それが楽しみではありつつ、自分が脅かされる怖さもありつつ(笑)。
――脅威に感じつつも翔さんが後輩育成にあたるかもしれないですよね(笑)。
渡辺 たしかに僕って、今まで育成欲ってあまりなかったんですけど、ここ何年かでスマイルに紹介した若い子たちとやりとりをしていると、意外と相談に乗ってあげるのは好きなんだなと思いました。自分でも、割と親身になって話を聞くんだって(笑)。
――やがて“渡辺 翔の秘蔵っ子”がデビューすることがあるかもしれないと。ちなみに翔さんは今の事務所に所属してどれくらいになりますか?
渡辺 22歳で入ったので、もうすぐ15年になりますね。
――もうスマイルでも古株ですね。
渡辺 古株なのかな?中堅くらい?アニソン業界でも中堅(笑)。
――重鎮ですよ(笑)。
渡辺 昔は“新進気鋭のクリエイター”って書かれて嬉しかったんですけど、数年前の打ち合わせのときに、「今回のアルバムは渡辺 翔さん以外はフレッシュな方で」と言われて、「僕はもうフレッシュじゃないんだ……」って。いまだにフレッシュを求めるのは強欲かもしれませんが(笑)。
――さすがにフレッシュの座は若手に譲りましょう(笑)。
渡辺 そうか。じゃあ、中堅からちょっと上くらいで挑みたいと思います(笑)。
――そんな翔さんから見て、長く所属するスマイルという事務所はどんな場所ですか?
渡辺 そもそも僕は15年前、J-POPの老舗というイメージで入ったんですよ。当時はアニメをやり始めたくらいの頃ですかね。僕もアニメ音楽というよりヒットチャートに載るような音楽を作りたいというイメージでこの事務所に入ったので、それこそ「雪の華」(中島美嘉)とか、ヒット曲がある事務所っていうイメージですね。
――それが、約10年前から、翔さんが作られた「コネクト」(ClariS)や「oath sign」(LiSA)など数々のアニソンヒットを生み出す事務所になっていきました。
渡辺 クリエイターの層も厚いですからね。色んなものに長けている人がいるので、編曲をしない自分にとってはこの事務所に助けられています。元々プロではまだ通用しない音源だったのに、メロディや歌詞を書かせていただいてプロで通用するように見せてくれたっていう一面もあるので。だからこれから応募する人にも、もしかしたら何か化学反応が起こるかもしれない。この人はまだまだだけどめっちゃ伸びるぞみたいな、即戦力じゃなくていいと思うんですよ。そういう伸び代はしっかり見ると思います。
――では最後に、オーディションに応募しようと考えている方たちにメッセージをお願いします。
渡辺 アニメ音楽を作りたい、アニメの曲を歌いたいというど真ん中の人に応募してもらいたいという思いはありつつ、アニメきっかけに自分を表現したい人もウェルカムだと思っていて。それこそボカロPになりたいとか、アイドルに曲を書きたいとか、そういうのもあっていいと思うんですよ。色んなやりたいことがあるけどアニメもやりたいっていう、それをきっかけにしたいという人がいれば、変にアニソンに寄せずにそのままで応募してくれればいいのかなって僕は思います。もしかしたらアニメには合わないけどすごくいいなと思える要素があれば、別口でピックアップされることもあると思うので、まず自分の才能を調べたいとか、何かのきっかけに応募してほしいなと思います。
――どんな形であれ、才能はフックアップされると。
渡辺 この業界、横の繋がりは太いですからね。それはそれで違うきっかけになると思うし。逆に自分はアニメに合わないと思っていても、それがめちゃくちゃ合うこともありますし。だからこそとにかく応募してほしいですね。
TEXT & INTERVIEW BY 澄川龍一
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●オーディション情報
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」
<応募資格>
・応募部門自由(ソロシンガー、ユニット、バンド、作詞、作曲、編曲、その他)
・年齢、性別、国籍:不問
<審査員>
渡辺 翔 / 作詞・作曲・プロデュース
黒須克彦 / 作曲・編曲・作詞・ベース・プロデュース
渡辺拓也 / 作曲・編曲・作詞・ギター・プロデュース
PA-NON / 作詞・プロデュース
sana(sajou no hana)/ ヴォーカリスト
甲 克裕 / 音楽ディレクター
<応募方法>
応募フォームよりエントリーをお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScGSGRRlK5smi7d9dYN3eE-Nmwmp4ETdwazQeromfgI74pqUA/viewform
<募集期間>
2021年11月17日(水)~2022年1月31日(月)23:59
<応募上の注意>
・審査結果は通過者のみにご連絡させていただきます。
・審査状況や選考結果に関するお問い合わせには一切応じておりません。
・オーディション参加費、選考費、またその後にかかる費用は一切ありません。(ただし、審査会場までの交通費は各自ご負担ください)
・未成年の場合は保護者の承諾が必要です。
・お送りいただいた応募資料は選考以外の目的で使用することはありません。
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