その場にいるすべての人々の念願が叶った瞬間だった。水瀬いのり、実に2年ぶりとなる全国ツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2021 HELLO HORIZON”のファイナル公演。
10月17日、会場は横浜アリーナ。そう、昨年に開催を予定していたが、コロナ禍の影響で中止となったツアー“Inori Minase LIVE TOUR 2020 We Are Now”で立つはずだったステージだ。その後、同年12月に行われたデビュー5周年記念オンラインライブ“Inori Minase 5th ANNIVERSARY LIVE Starry Wishes”の会場にもなったが、そのときは無観客配信。ファンとともに横浜アリーナでライブを作り上げるのは今回が初となる。万感の思いを込めて実施された、横アリ公演のレポートを、ここにお届けする。

9月より大阪、愛知、福岡、仙台と巡ってきた今回のツアー。そのオーラスにふさわしく、会場のキャパ数は水瀬の単独公演としては過去最大の規模。新型コロナウイルスの感染対策に伴い、収容人数を制限したとはいえ、会場全体に灯る青色のペンライトの景色は壮観だ。そんななか、ライブはOP映像からスタート。広大な草原にポツンと置かれた大きな木箱に腰掛け、上機嫌にハミングしながらスマホで自身のライブ映像を視聴する彼女。そこに次々と書き込まれるファンからのコメントを見ているうちに、想像の羽が広がっていき、彼女の意識は青いペンライトと盛大なコールに包まれたライブ空間へと飛んでいく。そして我に返った水瀬は、居ても立っても居られない様子で立ち上がり、カメラに向かってにこやかに手を振って、映像はフェードアウト。
スタッフのツイートによると、この映像のBGMは白戸佑輔が作編曲したとのことだ。

そしてライブは鉄板曲「Ready Steady Go!」で元気いっぱいにスタート。水瀬はステージから客席に突き出したセンターステージの突端、いわゆる“でべそ”と呼ばれるポジションにいきなり登場し、ファンと最も距離の近い場所から「“HELLO HORIZON”ツアー、ラスト横浜、みんなで1つになりましょー!(タオルを)回して!」と声をかける。それに応えて会場中がタオルを頭上に掲げて回し、早くも最高の一体感が作り上げられた。

続いての「ピュアフレーム」は、“君”と久しぶりに再会して楽しいひと時を過ごす歌詞のシチュエーションが、久々の有観客ツアーにぴったりの晴れやかなナンバー。サビで“May be 君が好きだよ”と照れ隠しの愛情を示すところが水瀬らしくもある内容だが、“May be(多分)”という予防線もかき消してしまうほど、この日の水瀬の歌声や笑顔からは、ファンに対する気持ちの強さが伝わってくる。その一方、「Million Futures」ではややシリアスな面持ちで、どんなことがあっても希望ある未来に向けて前進する心意気を、ときに目を伏せて歌の世界観に没頭しながら表現する。

MCで「(ステージに)出た瞬間、目が合った皆さんが一気にウッとなっているのが目に入って、歌う前からもらい泣きしそうになってしまいました」と、1曲目でのセンターステージからの登場について語る水瀬。昨年のツアーが中止となり、「今まで当たり前のようにみんなと楽しい時間を過ごしていたのは奇跡だった」ことに気づいたという。ライブに対する想いもさらに強まっているなか、「1秒1秒を大切に歌を届けられたら」と、改めて今の気持ちを口にする。

そして本ツアーでライブ初披露となった「Morning Prism」では、横ノリの軽快なリズムに体を揺らせながら、朝の空気感にも似た爽やかな美声を届ける。曲中にはクラップパートもあり、オーディエンスも楽曲に合わせてクラップしながら、新しい時間の始まりを喜び合う。
スクリーンに投影された煌びやかな映像も相まってか、いつも以上にピュアな輝きを感じられたのが「アイマイモコ」。水瀬はステージ上をゆっくりと歩き、ファン1人1人に目を向けて、お互いの繋がりを確かめ合いながら歌を届ける。

続いてバンド紹介コーナーへ。この日の“いのりバンド”のメンバーは、バンドマスターの島本道太郎(ベース)、藤原佑介(ドラムス)、小畑貴裕(キーボード)、植田浩二(ギター)、沢頭たかし(ギター)の5名。各々が「Shoo-Bee-Doo-Wap-Wap!」のインストアレンジを演奏しながら、その腕をアピールする。そして純白の華麗な衣装に着替えた水瀬がステージに舞い戻ると、加工ボイスなどエレクトロニックなサウンドをたっぷりと含んだダンサブルなナンバー「クリスタライズ」を披露。会場にはレーザーが飛び交い、先ほどまでとは別世界に来たかのようだ。それに続くはメルヘンチックな曲調でキュートな魅力を全開にした「Well Wishing Word」。“お別れ”をあくまでもハッピーに描いた歌詞を含め、満開の笑顔で歌う水瀬を見ているとグッとくるものがある(ちなみに「クリスタライズ」「Well Wishing Word」はどちらも栁舘周平が作詞・作曲・編曲を担当)。

その後のMCで、新しい衣装について説明。胸元についているストーンは「クリスタライズ」の輝きをイメージ、メッシュ地のスカートとショートパンツを合わせたガーリーかつボーイッシュなデザインは、「Well Wishing Word」に登場する男女それぞれの視点をイメージしたものだという。そんな種明かしに続いては、今回のツアーでライブ初披露の楽曲を立て続けにパフォーマンス。
イントロからノスタルジックな雰囲気が漂う「思い出のカケラ」では、“あの日”があったからこそ今の自分、そしてこれからの自分があるということを、溢れんばかりの感情を込めて大切に歌い紡ぐ。彼女の強い想いが会場中に伝播していくような、不思議な感動が込み上げる名唱だった。

しとやかなバラード「ソライロ」では、水瀬が立っているセンターステージが青く光り、スモークと合わさってまるで彼女が雲の上で歌っているかのような、幻想的な演出も。さらに物語のように感情の機微の変化が見られた「茜色ノスタルジア」では、センターステージからメインステージへと歩きながら、不器用な恋心を切々と表現。終盤、茜色の照明がステージを照らすなか、笑顔を見せながら想いを届ける水瀬の姿からは、悲喜こもごもあったとしても誰かを好きになる純粋な気持ちは決して自分を裏切らないこと、その大切さがひしひしと伝わってきた。

ここでライブは小休止となり、幕間映像がスタート。水瀬が自然に囲まれた場所で園芸に勤しむ姿が映し出される。まず花壇を作った彼女は、そこに種を植えることに。「青のタネ」「赤のタネ」の2種類が提示され、会場のペンライトの色の多さによってどちらを植えるか決める、ファン参加型のユニークな仕掛けだ。結果、水瀬のイメージカラーでもある「青のタネ」を植えると、今度は休憩中の飲み物についても、「黄:キリンレモン」「ピンク:100%レモン果汁」という選択肢が。もちろん圧倒的な数の黄色いペンライトが上がる。映像は、いつの間にか寝入ってしまった水瀬が、まるで道しるべのように咲き誇る青い花に導かれて、地平線の果てまで一面の花が広がる場所に辿り着くところで終幕。
さあ、ここからは、これまで丹精込めて育ててきた想いが一気に芽吹く時間だ。

地平線の夜明けをイメージしたという、水色や淡いオレンジのグラデーションカラーがあしらわれた優雅な衣装に着替えた水瀬が、ピアノの鮮烈なイントロに続いて歌い始めたのは、今回のツアーのタイトルにも冠された彼女の最新シングルの表題曲「HELLO HORIZON」。これまた本ツアーで初めてライブで歌われた楽曲だ。バンドのスケール感溢れる演奏と、それに呼応するかのごとく、凛々しく感情豊かに歌声を響かせる水瀬。サビでの一気に景色が広がるような解放感が素晴らしい。間奏明け、ステージ上のリフトで高く上がった彼女は、スクリーンに映された広大な地平線をバックに、誰かに必要とされたことで自分自身を肯定できた喜び、そして大切な誰かのために報いたい気持ちをドラマチックに表現する。その歌が紡ぐのは“見たことないあの地平”の先にきっとある、“新しい世界”との出会いの物語。サビの“ハローイエス”という力強い言葉は、そこにいるすべての人を勇気づけたのではないだろうか。

そこから水瀬の持ち曲のなかでもとりわけ劇的な曲調の「TRUST IN ETERNITY」に突入。スクリーンに映された大きな翼を背負い、神々しい姿となった彼女は、レーザーが照射され光と感情が盛大にスパークする会場のエモーションをさらに加速させるように、ダイナミックな歌声を響かせる。激しさを滲ませつつ、あくまでも高潔さを感じさせるが彼女の美点と言えるだろう。ラスト、大きく両手を挙げてバシッと締め括る彼女の振る舞いは堂々たるものだった。


続くMCで水瀬は、今回のツアータイトルでもある「HELLO HORIZON」に込めた想いについて改めて語る。新しいことにチャレンジしたくてもなかなか思うように動けないご時世のなかで、それでも新しい一歩を踏み出すために、自分自身だけでなくファンのみんなの背中も押したいという気持ちが、そこに反映されているという。また、夜明けの空のグラデーションをイメージした新衣装についても説明。彼女にとって“空”は日々を彩る大切な存在で、前回のオンラインライブで“星空”をテーマにした衣装を着たので、今回は“朝焼け”の空を纏いたいというリクエストをして作ってもらったという。元々は真っ白の生地をグラデーションに染めてもらったハンドメイド品とのことだ。

さらに、自身にとって初のTVアニメのタイアップ曲であり、声優としてもアーティストとしても「自分を次のステップに押し上げてくれた作品」と紹介して歌われたのが、水瀬も主人公のフーカ・レヴェントン役で出演した『ViVid Strike!』のEDテーマ「Starry Wish」。スクリーンに投影された銀河や星々のグラフィックが壮大さを演出するなか、この曲をリリースしてから約5年分の成長を胸に、逞しささえ感じさせる佇まいで、朗々とした歌声を会場いっぱいに響き渡らせる。その成熟したパフォーマンスに続いて、どこか青春の青さを纏った「三月と群青」を披露したのも面白いポイント。大人になることで変わっていくもの、それでも変わらない、変わりたくない想い。その誰もが経験する成長痛のようにむず痒い感情を、水瀬は歌で真っ直ぐに表現して、聴き手の心を射抜く。間奏では植田と沢頭のエモーショナルなギターソロが重なり合う場面もあり、演奏面においてもこの日のハイライトとなった。

そして小畑のピアノソロが始まり、ステージが一面の星明りに包まれると、ピンク色のドレッシ―な衣装に着替えた水瀬が登場し、アーティスト活動5周年を記念して制作されたシングル曲「Starlight Museum」へ。
髪をポニーテールに束ねて、曲中で思いが高ぶったかのようにスカートをはためかせて舞う彼女は、まるで舞踏会に訪れた令嬢のようだ。無数のペンライトが横浜アリーナ全体を煌びやかに飾る光景は、まさにスターライトミュージアム。“ほらね 煌めく世界に出会えたよ”と歌う彼女は、この景色を直接見られる日が来るのをずっと待ち望んでいたのだ。締めの一節“星空になる”をこの日一番の伸びやかな美声で飾った水瀬は、上品にお辞儀をして、自身の夢を叶えてくれた人々に深い感謝の意を示した。

そこから、どこか懐かしさを感じさせる旋律が印象的な「アルペジオ」を披露。打ち込みのビートも加わったノリの良い曲調に合わせて、ピンクのドレス姿でくるくると回る彼女が実に愛らしい。続いて歌われたのは、流麗なポップチューン「Sweet Melody」。“まっすぐ伝えたい「ありがとう!」”という歌詞が象徴するように、この曲に込められたのは“みんな”への感謝の気持ち。水瀬はステージをあちこちと移動しながら、その場にいるすべての人たちに歌を通して感謝のメッセージを伝える。

そして早くも次がライブ本編のラストの楽曲に。水瀬は名残惜しそうにしながらも、次に歌う楽曲について「私の想いがすべて詰まっている曲と言っていいぐらい、自分の中にある大切な気持ち、人を思いやる気持ち、色々な愛を詰め込んだ1曲」と説明する。彼女がライブ本編の締め括りに選んだのは、自身が作詞した「ココロソマリ」。これまで自分を見守ってくれた人たちへの特別な気持ち、主に家族への“特別な愛”について綴った歌だ。ただ、歌唱前に「私をこの今日この日まで、このステージまでずっと支えてくれた、関わってくれたすべての人に向けて届けたいと思います」と語った通り、この日の彼女が届けた“特別な愛”の範囲はさらに大きい。この曲での演出はあくまでシンプル。主役は彼女の歌なのだ。水瀬は止めどない感謝の想いをしっかりと歌に乗せて、ライブ本編を締め括った。

一転、アンコール1曲目の「Dreaming Girls」では、ファンとお揃いのツアーTシャツに水色のロングスカートを着た水瀬がトロッコに乗って登場。溌剌としたロックサウンドとともにアリーナ席に飛び出して、1人でも多くの人と目を合わせるため、あちこちにせわしなく目を向けながら、オーディエンスとの至近距離での交歓を楽しむ。そして同曲のアウトロから矢継ぎ早に「Catch the Rainbow!」へと移行。水瀬が初めて自分で作詞したこの楽曲には、アーティスト活動を通じて見つけることができた自分の居場所、みんなと作り上げるライブという景色への想いがストレートな言葉で詰め込まれている。その明快なメッセージとブラス入りの華やかなサウンドに、客席もペンライトを思い思いの色にして応え、会場は虹のようにカラフルな世界に染まる。終盤、アリーナを一周してメインステージに戻った水瀬は、「最後は一緒にジャンプしてひとつになりましょう、せーの!」と呼びかけ、互いの絆を確かめ合った。

「改めて皆さんの近くで目を合わせて歌えて嬉しかった」と喜ぶ水瀬は、自身が身に着けているグッズのリストバンドや、「HELLO HORIZON」のMV撮影で使用したものを流用したというヘアアクセのリボンをアピール。そして次に披露する曲について「去年できなかったツアーも引き継いで、フィナーレにふさわしい曲を選びました」と語る。「みんなでこのときを一緒に生きるという気持ちを込めて、一緒に歌えたら」という想いを乗せて歌われたのは、「僕らは今」。昨年のツアー“We Are Now”で初披露の予定だった、人々の想いを繋げる団結の歌だ。この日初めてマイクスタンドを使い、マイクを両手でしっかりと握りしめ、力を込めて、1つ1つの言葉をたしかな感触とともに届ける水瀬。バンドの演奏も徐々に高まりゆき、堰を切ったように一気に爆発すると、彼女も一層パワフルに歌声を響かせて、会場の気持ちをひとつに高めていく。“Believe in me, believe in you”とリフレインするパートは、本来は会場全員で合唱するために用意されたものだろうが、この日は水瀬がみんなの気持ちを集約して歌唱。“誰一人ひとりじゃない”というフレーズがこの上なく胸に沁みる。オーラスで左手こぶしを力強く掲げた彼女は、「皆さん本当にありがとうございました、また絶対一緒に歌をうたいましょう!」と伝え、深々とお辞儀をしてステージから去った。

だが、この日のライブにはまだ続きがあった。鳴り止まぬアンコールの拍手に応じて再度ステージに戻ってきた水瀬は、ここで4枚目のアルバムの制作が決定したことを発表。彼女も出演するTVアニメ『現実主義勇者の王国再建記』の第二部OPテーマ「REAL-EYES」などが収録されるとのことだ。リリース時期などの詳細は後日発表される。

そして彼女が初の横アリ有観客公演のラストに歌ったのは、キリンレモンのトリビュート企画で制作された「まっすぐに、トウメイに。」。彼女は冒頭の“キリンレモン”のフレーズをアカペラで歌い、イントロが始まると同時にセンターステージを駆け出す。自分自身の“大好き”という気持ちと純粋に向き合い、いつまでも色あせない想いを胸にステージに立つ水瀬の姿が眩しい。彼女の中に輝く“キラキラの夢”は、横浜アリーナ公演という大願を叶えたこの瞬間を経て、これからどのように広がっていくのだろうか。真っ直ぐに、透明に、ずっと変わることなく走り続ける彼女の夢の続きを、これからも追っていきたい。心の底からそう思わせてくれるライブだった。

PHOTOGRAPHY BY 加藤アラタ、三浦一喜
TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

Inori Minase LIVE TOUR 2021 HELLO HORIZON
10月17日(日)神奈川・横浜アリーナ
<セットリスト>
01. Ready Steady Go!
02. ピュアフレーム
03. Million Futures
04. Morning Prism
05. アイマイモコ
06. クリスタライズ
07. Well Wishing Word
08. 思い出のカケラ
09. ソライロ
10. 茜⾊ノスタルジア
11. HELLO HORIZON
12. TRUST IN ETERNITY
13. Starry Wish
14. 三⽉と群⻘
15. Starlight Museum
16. アルペジオ
17. Sweet Melody
18. ココロソマリ
<ENCORE>
19. Dreaming Girls
20. Catch the Rainbow︕
21. 僕らは今
<W/ENCORE>
22. まっすぐに、トウメイに。

●リリース情報
10thシングル
「HELLO HORIZON」

発売中

品番:KICM-2092
価格:¥1,430(税込)

<CD>
01. HELLO HORIZON
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:白戸佑輔
02. ソライロ
作詞:藤林聖子 作曲・編曲:遠藤直弥
03. Morning Prism
作詞:磯谷佳江 作曲:鈴木航海 編曲:遠藤直弥

関連リンク
水瀬いのりオフィシャルサイト
http://inoriminase.com/

水瀬いのりオフィシャルTwitter
https://twitter.com/inoriminase

水瀬いのりオフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCYBwKaLwCGY7k3auR_FLanA
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