シンガーからクリエイターなど、アニメにまつわる才能を幅広く求めるオーディション「Smile Group presents アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021 supported by リスアニ!」。その審査員に話を伺う連続インタビュー、第4回はアニソンのみならず、J-POPやK-POPなどで活躍を見せる作詞家、PA-NONに話を聞いた。
■「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページはこちら
作詞家は音楽業界に入りやすい?
――PA-NONさんが作詞家としてデビューされたのは2008年頃のことですが、それ以前から音楽活動はされていたのですか?
PA-NON 実はまったく……まったくの素人から入りまして。本来は音楽活動が前提にあって作詞家になられている方が多いんだなってあとから気づきました(笑)。
――たしかにバンドをされていたりやシンガーとして活動されていた方が作家になるパターンも多いですよね。
PA-NON 私の場合は作詞の養成所出身で、仲間たちはみんな会社員や色んなお仕事をされていて、作詞家は兼業という方が多かったですね。
――作詞家の養成所に通おうと思ったきっかけはなんだったんですか?
PA-NON 色んな仕事をしていくなかで、着メロの制作会社に出入りをしていたことがあったんです。そこで、ある日伺ったらオフィスが大パニックになっていたんですよ、スタッフさんたちが「まずいまずい」って。明日締切のパチスロ用の楽曲があるのに、作詞家さんにとある事情で急にキャンセルされたと。
――たしかにまずい展開ですね(笑)。
PA-NON それは絶対に提出しなくちゃいけない案件で、さらにまずいのが、クライアントさんからの指名が女性の作詞家だったんですよね。しかもその会社は着メロを作るのがメインで、こういう仕事は年に1回か2回あるかくらいで作詞家の知り合いがいらっしゃらなかったようで。そのときに私に「書いてみない?」ってお声がかかったんです。「歌好きでしょ?好きだよね!こっちのほうで修正とかやるから!とりあえず書いてみて!」って言われて。
――でも、PA-NONさんは当時作詞の経験があったわけではなかったんですよね?
PA-NON そうなんです。作詞についてなんの知識もないなか、そういう機会が突然やってきたんです。ただ、その作品の原作をたまたま知っていたので、「じゃあ明日までですね」って何もわからないままガイドメロを聴きながら作ってみました。皆さんが修正してくれるだろうと思っていたら、3日後くらいに電話をいただいて「そのまま一発OKでした」って。
――初めての作詞がリテイクなしだったと。
PA-NON そこで「もし興味があれば仕事になると思うからこれからもやってみないか」って誘っていただいて。そのときは仕事を持っていましたし、ありがたい話ですが…ってところで終わったんです。それでも、誰かが歌ってくださって曲になるっていうのはすごい経験で、驚きや喜びがあって……自分の中で宝物になっていたんですね。それから数年経ったときに、家族が脳梗塞になって、そのサポートのために外で仕事ができなくなっていったんです。それで家の中でできる仕事がないかなと思っていたときに、当時のことを思い出して、作詞だったらパソコン1つでできるかもしれないって。
――なるほど。
PA-NON 残念ながらその制作会社さんはすでに事業をたたまれていて、私もまだパソコンを持っていなかったので(笑)、インターネットカフェに行き「作詞講座」って検索をかけて、一番最初に所属することになった作詞家養成講座を受けることになりました。
――最初から仕事にすることを想定して受講されたのですね。
PA-NON 最初は3ヵ月間の講座で、そのあとにテストを受けて、それで基準に達していたら所属、コンペをもらえるっていうシステムでした。3ヵ月で結果がわかるというのは当時の私にとってはすごく良くて。結果、ありがたいことに所属させていただき、コンペもいただけるようになって、デビューが決まったのは1ヵ月後という、とてもラッキーな形でプロになることができました。
――テスト1ヵ月後にデビューということは、その1ヵ月後にNEWSの「STARDUST」を手がけられたわけですか?
PA-NON そうですそうです、当時その事務所がジャニーズ関連のコンペが多かったというのもありまして、環境含め、本当にありがたかったです。
――デビューへのきっかけやスピード感にも驚きましたが、そこも作詞家という職業ならではなところがあるかもしれませんね。
PA-NON 機材がたくさん必要なわけではなく、敷居はそんなに高くなく始められますし、作詞家は音楽業界に入りやすい職業なんじゃないかなって思います。
アニメ業界は、新たな作詞家を求めている
――ちなみ楽曲提供をされるクリエイターさんはコンペを経験されるのが常ですが、PA-NONさんもこれまで数多くのコンペを経験されてきたのですか?
PA-NON コンペの数は作家事務所さんやその方が置かれている立場によって変わってくると思います。昨日昔のマネージャーさんに連絡して確認をとったんですけど、私が作詞家になった10年ほど前は年間200くらい案件が動いていたようです。当時はたくさんのコンペに参加していました。
――200!1年のうち、2日で1曲以上のペースですね。
PA-NON J-POP、K-POP、アニメ、CMソング…色々なジャンルのものがありました。
――昔の話と言いましたが、今のシーンについてはどう思いますか?
PA-NON 今って私のような音楽経験やツテがない新人がデビューしにくい、育ちにくい環境にあるんじゃないかなと危惧しています。というのも、あの頃と比べてコンペ数が減ってチャンスが限られている傾向があると思うんです。加えて作曲家さんが歌詞も書かれるケースが多くなった、とも。あとは納期が短い場合だったら、以前お願いしていたこの人だったら書けるだろうっていう指名でいくっていうケースが増えている気がして。周りからそういったお話をよく耳にします。
――なるほど。
PA-NON ただ、今回このオーディション企画が良いなと思ったのは、アニメ業界って今どんどん広がってきてるじゃないですか。アニメだけじゃなくてゲームもそうだし、声優さんに提供するものなど、とても需要が増えていると思うんですよね。なので、そのぶん作詞家さんの数も必要になってきているんじゃないかと。
――たしかに現在、1つの作品から多くの楽曲を、というコンテンツはアニメやゲームと多岐に渡っています。
PA-NON 例えばアニメもゲームも、アイドルものとなったら楽曲もたくさん作るじゃないですか。なので、新たな色が必要になったときに、新しい作詞家が求められていくんじゃないかなって思います。
――そのなかで、PA-NONさんが作詞において心がけているものはなんですか?
PA-NON コンペの場合はお打ち合わせができないので、限られた情報の中で何を一番重要としている発注なのか、ここだけは漏れていけないというものを熟考して、ご依頼されている方のイメージに寄り添うことができるか、ですね。例えば楽曲やアーティストさんによって提出する文書のフォントも変えたりします。とにかく皆さんのイメージをいかに具現化するかですね。そこにフィットしないと採用はされないので。
――最初に渡す情報としての1枚の文書の中で、いかに先方のイメージと合致するか、想像が膨らむかを意識すると。
PA-NON もちろんアニメ作品でしたら事前に原作を読んで準備することは大事ですし、制作サイドだけではなくアーティストさん、そしてファンの皆さんという、キャッチする方々が納得するものを目指すべきだと思うので、色んなことを想像しながら、「このアーティストさんがこんなことを言ったらファンの方は嬉しいのかな」とか様々なところに想像力を働かせながら仕上げていくのが、喜ばれるものに繋がっていくのかなって思います。
――1枚の文書でも、受け止めるすべての人たちのことを考えながら作っていくと。
PA-NON そうですね。
歌う人や聴く人を第一に考える作詞
――そんななかで、今回のオーディションで作詞家を目指している人たちの、どんなところが見たいと思っていますか?
PA-NON 内容はともかく、丁寧に作っているものは伝わると思うので、私はそこの部分を拝見したいですね。気ままに自分勝手にというのが許されないお仕事なので、誰かに寄り添うこと。作詞ってオーダーメイドのお洋服とか肖像画と同じだと思っていて、ちゃんと相手を見ないとだめな職業だと思うんですよね。自分がこう書きたいからとか、私の感情はこうだから、私はこう思うっていうのだけだと作品にもアーティストに寄り添えないので、己というのものはちょっと置いておいて…。自分で歌うのではなく提供するのなら、相手の発注に合わせる必要があるんです。なので、ちゃんと見ながらスケッチしてねっていう。
――なるほど、提出作品にもテーマを設けて書いたほうがいいと。
PA-NON 例えば十代のアイドルに向けて書きましたとか、何かテーマを設けるのはいいことかなと。大きなお題の中でやるんじゃなくて、ターゲットを決めてもらえると私たちもそういう歌詞だと思って見られますし、自分でちょっとだけ”柵”を作るのはアリだと思います。
――そうした柵、いわゆる発注に忠実なものができているかが大事だと。
PA-NON 課題があったときに「この人はどうアプローチするんだろう」っていうのが伝わるとわかりやすい。
――そこで自分を出すのではなく、いかに自分以外のイマジネーションが上手く出せるかというのも重要なわけですね。
PA-NON 作詞家の面白いところは何者にもなれるところですよね。お芝居だと私が大人の男性になったり、年齢のかけ離れた人にはなれないけれど、作詞はなれるんです。想像したり調べたりして理解できれば、赤ちゃんの歌もおじいちゃんの歌も書ける。そうすると自然と使う語彙も変わってきますよね。
――PA-NONさんが作詞家講座で、あるいはプロとして活動していくなかで学んだ、作詞でこうしたほうがいいということはありますか?
PA-NON まず受け止めてくださる方がいることを考える、ということですね。私は現在、講師の仕事もしているんですけど、そこの部分を最初にお伝えします。自己主張の手段としての作詞だと、何を書いても自分の色が強くなってしまって、歌い手に対してどうしても入っていけないところが作品に表れてしまう。自分を大事に思うことってそれはそれで大切ですが、コンペで選ばれるという観点のみで考えると、求めていたのはコレだ!と喜んでいただけるように、やっぱり受け取ってくださる相手を第一に考えるのが良いんじゃないかなって。
――楽曲によっては、自分を出さないことも必要であると。
PA-NON 例えば、キャラソン想定で作詞をするときに、相手のことを考えている人は作品をきちんと解釈していたり、しっかりと相手の立場に立ち、キャラの語尾をちゃんと守っていたりするんですよね。それを資料から見つけ出せている。でもそれが自分本意になると、ご自身の言葉になってしまうんです。それってキャラソンとしてはよくないですよね。そのキャラクターの言葉じゃなくなっちゃうから。
――自分の考えではなく、あくまで歌う人やキャラクターのこと第一に考えると。
PA-NON はい。主人公がいた場合、自分として描かないでちゃんと主人公を立てて書く。シンガーソングライターさんはいいんです。でも誰かに曲提供したり、アニメ作品の歌詞を書くなら、その主人公だったらどういう感情で動くかなって。だから、時には私は思ってもいないことも歌詞に書きます。「ピンチはチャンスなんだ」っていうフレーズを何回も書いてきていますけど、私にとっては「ピンチはピンチ」なんですよ(笑)。でもこのキャラクターがそう言うだろうと思ったなら「ピンチはチャンス」って書きます。
――なるほど……。応募者の方の個性も大事だけど、どんなテーマで書くのか、そして誰が思って歌うのかを考えて書くというのは、それよりも重要なことなんですね。
PA-NON 個性が大事なこともありますよね。でも個性というものは、削いでも削いでも削いでも出てくるもので、それこそ“柵”を設けてもわかる、という考え方です。それが本当の個性だと思っています。
――誰かに提供するもののなかでも、その人の良さは必ず見えてくるわけですね。さて、このオーディションでは作詞家以外にもシンガーや作曲、編曲、バンドなど多岐にわたる募集をしています。今後PA-NONさんと仕事をするシンガーや作曲家たちが生まれる可能性もあるわけですが、そのなかでPA-NONさんはどんな才能と出会いたいですか?
PA-NON 私の中では、音楽は年齢とかを問わない世界であってほしいという希望がありまして、小さい子からおじいちゃんおばあちゃんまで、幅広い年齢の方とお仕事をご一緒してみたいです。ジャンルも問わず。昨今音数が多くて一聴しただけでは言葉の意味が伝わりづらい音楽もありますが、演歌やフォークソングのように丁寧に噛み締めながら歌われるものがもしかしたらこれから必要になるかもしれないですよね。あと、ご経験を重ねたからこそ作り出せる深さってあると思うんです。なので、年齢はまったく気にせず応募していただければと。
――なるほど。デビューに遅すぎるということはないと。
PA-NON 私の生徒さんも、40歳過ぎてから作詞を学ばれてデビューされた方たちがたくさんいらっしゃるんですよ。しかも経歴もバラバラで、クイズ番組のクイズを作っていた方とか、飲食店やガソリンスタンドで働いている方とか、職歴も年齢も関係ないんです。歌も曲もそうであってほしいと思っていますし、何かコンプレックスがあったとしても、それはコンプレックスじゃなくて、私たちにとっては魅力かもしれないので、まずは行動を、と思います。
――では最後に、これからオーディションに募集しようと思っている皆さんにメッセージをお願いします。
PA-NON 人生の中で好きになれるものや興味を持てるものって数が限られていると思っていて。そこで「やってみたい」と心が反応したのならそれは本当に素晴らしいことで、大切にしていただきたいなと思います。もし迷われている方がいたらぜひ参加していただきたいです。その願いが叶うよう心から応援しています。
TEXT & INTERVIEW BY 澄川龍一
■「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページはこちら
●オーディション情報
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」
<応募資格>
・応募部門自由(ソロシンガー、ユニット、バンド、作詞、作曲、編曲、その他)
・年齢、性別、国籍:不問
<審査員>
渡辺 翔 / 作詞・作曲・プロデュース
黒須克彦 / 作曲・編曲・作詞・ベース・プロデュース
渡辺拓也 / 作曲・編曲・作詞・ギター・プロデュース
PA-NON / 作詞・プロデュース
sana(sajou no hana)/ ヴォーカリスト
甲 克裕 / 音楽ディレクター
<応募方法>
応募フォームよりエントリーをお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScGSGRRlK5smi7d9dYN3eE-Nmwmp4ETdwazQeromfgI74pqUA/viewform
<募集期間>
2021年11月17日(水)~2022年1月31日(月)23:59
<応募上の注意>
・審査結果は通過者のみにご連絡させていただきます。
・審査状況や選考結果に関するお問い合わせには一切応じておりません。
・オーディション参加費、選考費、またその後にかかる費用は一切ありません。(ただし、審査会場までの交通費は各自ご負担ください)
・未成年の場合は保護者の承諾が必要です。
・お送りいただいた応募資料は選考以外の目的で使用することはありません。
関連リンク
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページ
https://www.lisani.jp/0000187094/
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」公式Twitter
https://twitter.com/smile_audition
作詞経験ゼロからデビューに至るまで、そして現在のシーンに対して思うことなど、彼女ならではの視点で見つめる作詞家という存在とは?
■「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページはこちら
作詞家は音楽業界に入りやすい?
――PA-NONさんが作詞家としてデビューされたのは2008年頃のことですが、それ以前から音楽活動はされていたのですか?
PA-NON 実はまったく……まったくの素人から入りまして。本来は音楽活動が前提にあって作詞家になられている方が多いんだなってあとから気づきました(笑)。
――たしかにバンドをされていたりやシンガーとして活動されていた方が作家になるパターンも多いですよね。
PA-NON 私の場合は作詞の養成所出身で、仲間たちはみんな会社員や色んなお仕事をされていて、作詞家は兼業という方が多かったですね。
――作詞家の養成所に通おうと思ったきっかけはなんだったんですか?
PA-NON 色んな仕事をしていくなかで、着メロの制作会社に出入りをしていたことがあったんです。そこで、ある日伺ったらオフィスが大パニックになっていたんですよ、スタッフさんたちが「まずいまずい」って。明日締切のパチスロ用の楽曲があるのに、作詞家さんにとある事情で急にキャンセルされたと。
――たしかにまずい展開ですね(笑)。
PA-NON それは絶対に提出しなくちゃいけない案件で、さらにまずいのが、クライアントさんからの指名が女性の作詞家だったんですよね。しかもその会社は着メロを作るのがメインで、こういう仕事は年に1回か2回あるかくらいで作詞家の知り合いがいらっしゃらなかったようで。そのときに私に「書いてみない?」ってお声がかかったんです。「歌好きでしょ?好きだよね!こっちのほうで修正とかやるから!とりあえず書いてみて!」って言われて。
――でも、PA-NONさんは当時作詞の経験があったわけではなかったんですよね?
PA-NON そうなんです。作詞についてなんの知識もないなか、そういう機会が突然やってきたんです。ただ、その作品の原作をたまたま知っていたので、「じゃあ明日までですね」って何もわからないままガイドメロを聴きながら作ってみました。皆さんが修正してくれるだろうと思っていたら、3日後くらいに電話をいただいて「そのまま一発OKでした」って。
――初めての作詞がリテイクなしだったと。
PA-NON そこで「もし興味があれば仕事になると思うからこれからもやってみないか」って誘っていただいて。そのときは仕事を持っていましたし、ありがたい話ですが…ってところで終わったんです。それでも、誰かが歌ってくださって曲になるっていうのはすごい経験で、驚きや喜びがあって……自分の中で宝物になっていたんですね。それから数年経ったときに、家族が脳梗塞になって、そのサポートのために外で仕事ができなくなっていったんです。それで家の中でできる仕事がないかなと思っていたときに、当時のことを思い出して、作詞だったらパソコン1つでできるかもしれないって。
――なるほど。
PA-NON 残念ながらその制作会社さんはすでに事業をたたまれていて、私もまだパソコンを持っていなかったので(笑)、インターネットカフェに行き「作詞講座」って検索をかけて、一番最初に所属することになった作詞家養成講座を受けることになりました。
――最初から仕事にすることを想定して受講されたのですね。
PA-NON 最初は3ヵ月間の講座で、そのあとにテストを受けて、それで基準に達していたら所属、コンペをもらえるっていうシステムでした。3ヵ月で結果がわかるというのは当時の私にとってはすごく良くて。結果、ありがたいことに所属させていただき、コンペもいただけるようになって、デビューが決まったのは1ヵ月後という、とてもラッキーな形でプロになることができました。
――テスト1ヵ月後にデビューということは、その1ヵ月後にNEWSの「STARDUST」を手がけられたわけですか?
PA-NON そうですそうです、当時その事務所がジャニーズ関連のコンペが多かったというのもありまして、環境含め、本当にありがたかったです。
――デビューへのきっかけやスピード感にも驚きましたが、そこも作詞家という職業ならではなところがあるかもしれませんね。
PA-NON 機材がたくさん必要なわけではなく、敷居はそんなに高くなく始められますし、作詞家は音楽業界に入りやすい職業なんじゃないかなって思います。
アニメ業界は、新たな作詞家を求めている
――ちなみ楽曲提供をされるクリエイターさんはコンペを経験されるのが常ですが、PA-NONさんもこれまで数多くのコンペを経験されてきたのですか?
PA-NON コンペの数は作家事務所さんやその方が置かれている立場によって変わってくると思います。昨日昔のマネージャーさんに連絡して確認をとったんですけど、私が作詞家になった10年ほど前は年間200くらい案件が動いていたようです。当時はたくさんのコンペに参加していました。
――200!1年のうち、2日で1曲以上のペースですね。
PA-NON J-POP、K-POP、アニメ、CMソング…色々なジャンルのものがありました。
昔の話になりますが、正直なところとてもきつかったですね。余裕をなくして何を書いているのかわからなくなってしまったり。でもそこで作詞体力みたいなものがついて、大変な状況でも「なんとかなる」って思えるタフさはあの経験があったからこそ築き上げられたと感謝しています。
――昔の話と言いましたが、今のシーンについてはどう思いますか?
PA-NON 今って私のような音楽経験やツテがない新人がデビューしにくい、育ちにくい環境にあるんじゃないかなと危惧しています。というのも、あの頃と比べてコンペ数が減ってチャンスが限られている傾向があると思うんです。加えて作曲家さんが歌詞も書かれるケースが多くなった、とも。あとは納期が短い場合だったら、以前お願いしていたこの人だったら書けるだろうっていう指名でいくっていうケースが増えている気がして。周りからそういったお話をよく耳にします。
――なるほど。
PA-NON ただ、今回このオーディション企画が良いなと思ったのは、アニメ業界って今どんどん広がってきてるじゃないですか。アニメだけじゃなくてゲームもそうだし、声優さんに提供するものなど、とても需要が増えていると思うんですよね。なので、そのぶん作詞家さんの数も必要になってきているんじゃないかと。
新たに始めたいという方を求めるこういったオーディションは素敵なことだと思いますね。
――たしかに現在、1つの作品から多くの楽曲を、というコンテンツはアニメやゲームと多岐に渡っています。
PA-NON 例えばアニメもゲームも、アイドルものとなったら楽曲もたくさん作るじゃないですか。なので、新たな色が必要になったときに、新しい作詞家が求められていくんじゃないかなって思います。
――そのなかで、PA-NONさんが作詞において心がけているものはなんですか?
PA-NON コンペの場合はお打ち合わせができないので、限られた情報の中で何を一番重要としている発注なのか、ここだけは漏れていけないというものを熟考して、ご依頼されている方のイメージに寄り添うことができるか、ですね。例えば楽曲やアーティストさんによって提出する文書のフォントも変えたりします。とにかく皆さんのイメージをいかに具現化するかですね。そこにフィットしないと採用はされないので。
――最初に渡す情報としての1枚の文書の中で、いかに先方のイメージと合致するか、想像が膨らむかを意識すると。
PA-NON もちろんアニメ作品でしたら事前に原作を読んで準備することは大事ですし、制作サイドだけではなくアーティストさん、そしてファンの皆さんという、キャッチする方々が納得するものを目指すべきだと思うので、色んなことを想像しながら、「このアーティストさんがこんなことを言ったらファンの方は嬉しいのかな」とか様々なところに想像力を働かせながら仕上げていくのが、喜ばれるものに繋がっていくのかなって思います。
――1枚の文書でも、受け止めるすべての人たちのことを考えながら作っていくと。
PA-NON そうですね。
歌詞は、受け止める全員を繋ぐ架け橋だと思って作っています。
歌う人や聴く人を第一に考える作詞
――そんななかで、今回のオーディションで作詞家を目指している人たちの、どんなところが見たいと思っていますか?
PA-NON 内容はともかく、丁寧に作っているものは伝わると思うので、私はそこの部分を拝見したいですね。気ままに自分勝手にというのが許されないお仕事なので、誰かに寄り添うこと。作詞ってオーダーメイドのお洋服とか肖像画と同じだと思っていて、ちゃんと相手を見ないとだめな職業だと思うんですよね。自分がこう書きたいからとか、私の感情はこうだから、私はこう思うっていうのだけだと作品にもアーティストに寄り添えないので、己というのものはちょっと置いておいて…。自分で歌うのではなく提供するのなら、相手の発注に合わせる必要があるんです。なので、ちゃんと見ながらスケッチしてねっていう。
――なるほど、提出作品にもテーマを設けて書いたほうがいいと。
PA-NON 例えば十代のアイドルに向けて書きましたとか、何かテーマを設けるのはいいことかなと。大きなお題の中でやるんじゃなくて、ターゲットを決めてもらえると私たちもそういう歌詞だと思って見られますし、自分でちょっとだけ”柵”を作るのはアリだと思います。
――そうした柵、いわゆる発注に忠実なものができているかが大事だと。
PA-NON 課題があったときに「この人はどうアプローチするんだろう」っていうのが伝わるとわかりやすい。
「このテーマだとこういったことができます」っていうのがわかるというか。それと、何もないところから書くよりきっと書きやすいですよね、設計図があったほうが。真っ白な紙にいきなりひと筆書きで書き始めるよりはいいんじゃないかな、自分も助かるんじゃないかなって。
――そこで自分を出すのではなく、いかに自分以外のイマジネーションが上手く出せるかというのも重要なわけですね。
PA-NON 作詞家の面白いところは何者にもなれるところですよね。お芝居だと私が大人の男性になったり、年齢のかけ離れた人にはなれないけれど、作詞はなれるんです。想像したり調べたりして理解できれば、赤ちゃんの歌もおじいちゃんの歌も書ける。そうすると自然と使う語彙も変わってきますよね。
――PA-NONさんが作詞家講座で、あるいはプロとして活動していくなかで学んだ、作詞でこうしたほうがいいということはありますか?
PA-NON まず受け止めてくださる方がいることを考える、ということですね。私は現在、講師の仕事もしているんですけど、そこの部分を最初にお伝えします。自己主張の手段としての作詞だと、何を書いても自分の色が強くなってしまって、歌い手に対してどうしても入っていけないところが作品に表れてしまう。自分を大事に思うことってそれはそれで大切ですが、コンペで選ばれるという観点のみで考えると、求めていたのはコレだ!と喜んでいただけるように、やっぱり受け取ってくださる相手を第一に考えるのが良いんじゃないかなって。
――楽曲によっては、自分を出さないことも必要であると。
PA-NON 例えば、キャラソン想定で作詞をするときに、相手のことを考えている人は作品をきちんと解釈していたり、しっかりと相手の立場に立ち、キャラの語尾をちゃんと守っていたりするんですよね。それを資料から見つけ出せている。でもそれが自分本意になると、ご自身の言葉になってしまうんです。それってキャラソンとしてはよくないですよね。そのキャラクターの言葉じゃなくなっちゃうから。
――自分の考えではなく、あくまで歌う人やキャラクターのこと第一に考えると。
PA-NON はい。主人公がいた場合、自分として描かないでちゃんと主人公を立てて書く。シンガーソングライターさんはいいんです。でも誰かに曲提供したり、アニメ作品の歌詞を書くなら、その主人公だったらどういう感情で動くかなって。だから、時には私は思ってもいないことも歌詞に書きます。「ピンチはチャンスなんだ」っていうフレーズを何回も書いてきていますけど、私にとっては「ピンチはピンチ」なんですよ(笑)。でもこのキャラクターがそう言うだろうと思ったなら「ピンチはチャンス」って書きます。
――なるほど……。応募者の方の個性も大事だけど、どんなテーマで書くのか、そして誰が思って歌うのかを考えて書くというのは、それよりも重要なことなんですね。
PA-NON 個性が大事なこともありますよね。でも個性というものは、削いでも削いでも削いでも出てくるもので、それこそ“柵”を設けてもわかる、という考え方です。それが本当の個性だと思っています。
――誰かに提供するもののなかでも、その人の良さは必ず見えてくるわけですね。さて、このオーディションでは作詞家以外にもシンガーや作曲、編曲、バンドなど多岐にわたる募集をしています。今後PA-NONさんと仕事をするシンガーや作曲家たちが生まれる可能性もあるわけですが、そのなかでPA-NONさんはどんな才能と出会いたいですか?
PA-NON 私の中では、音楽は年齢とかを問わない世界であってほしいという希望がありまして、小さい子からおじいちゃんおばあちゃんまで、幅広い年齢の方とお仕事をご一緒してみたいです。ジャンルも問わず。昨今音数が多くて一聴しただけでは言葉の意味が伝わりづらい音楽もありますが、演歌やフォークソングのように丁寧に噛み締めながら歌われるものがもしかしたらこれから必要になるかもしれないですよね。あと、ご経験を重ねたからこそ作り出せる深さってあると思うんです。なので、年齢はまったく気にせず応募していただければと。
――なるほど。デビューに遅すぎるということはないと。
PA-NON 私の生徒さんも、40歳過ぎてから作詞を学ばれてデビューされた方たちがたくさんいらっしゃるんですよ。しかも経歴もバラバラで、クイズ番組のクイズを作っていた方とか、飲食店やガソリンスタンドで働いている方とか、職歴も年齢も関係ないんです。歌も曲もそうであってほしいと思っていますし、何かコンプレックスがあったとしても、それはコンプレックスじゃなくて、私たちにとっては魅力かもしれないので、まずは行動を、と思います。
――では最後に、これからオーディションに募集しようと思っている皆さんにメッセージをお願いします。
PA-NON 人生の中で好きになれるものや興味を持てるものって数が限られていると思っていて。そこで「やってみたい」と心が反応したのならそれは本当に素晴らしいことで、大切にしていただきたいなと思います。もし迷われている方がいたらぜひ参加していただきたいです。その願いが叶うよう心から応援しています。
TEXT & INTERVIEW BY 澄川龍一
■「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページはこちら
●オーディション情報
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」
<応募資格>
・応募部門自由(ソロシンガー、ユニット、バンド、作詞、作曲、編曲、その他)
・年齢、性別、国籍:不問
<審査員>
渡辺 翔 / 作詞・作曲・プロデュース
黒須克彦 / 作曲・編曲・作詞・ベース・プロデュース
渡辺拓也 / 作曲・編曲・作詞・ギター・プロデュース
PA-NON / 作詞・プロデュース
sana(sajou no hana)/ ヴォーカリスト
甲 克裕 / 音楽ディレクター
<応募方法>
応募フォームよりエントリーをお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScGSGRRlK5smi7d9dYN3eE-Nmwmp4ETdwazQeromfgI74pqUA/viewform
<募集期間>
2021年11月17日(水)~2022年1月31日(月)23:59
<応募上の注意>
・審査結果は通過者のみにご連絡させていただきます。
・審査状況や選考結果に関するお問い合わせには一切応じておりません。
・オーディション参加費、選考費、またその後にかかる費用は一切ありません。(ただし、審査会場までの交通費は各自ご負担ください)
・未成年の場合は保護者の承諾が必要です。
・お送りいただいた応募資料は選考以外の目的で使用することはありません。
関連リンク
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページ
https://www.lisani.jp/0000187094/
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」公式Twitter
https://twitter.com/smile_audition
編集部おすすめ
![【Amazon.co.jp限定】ワンピース・オン・アイス ~エピソード・オブ・アラバスタ~ *Blu-ray(特典:主要キャストL判ブロマイド10枚セット *Amazon限定絵柄) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Nen9ZSvML._SL500_.jpg)
![【Amazon.co.jp限定】鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 豪華版Blu-ray(描き下ろしアクリルジオラマスタンド&描き下ろしマイクロファイバーミニハンカチ&メーカー特典:谷田部透湖描き下ろしビジュアルカード(A6サイズ)付) [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/51Y3-bul73L._SL500_.jpg)








