2012年に結成されたロックバンド、センチミリメンタル。その後、数年の活動休止を経て、温詞のソロプロジェクトとして2018年に本格始動をスタートし、2019年にはアニメ『ギヴン』のOPテーマ「キヅアト」でメジャーデビュー。
同作でのバンド「ギヴン」のサウンドプロデュースや楽曲提供でその名を知らしめたセンチミリメンタルが、その活動の中で初のフルアルバムを12月1日にリリースした。タイトルは『やさしい刃物』。「キヅアト」での鮮烈なデビュー、そして劇場版『ギヴン』を彩ったドラマティックな「僕らだけの主題歌」、さらには煌めく青春息づくアニメ『バクテン!!』の主題歌「青春の演舞」なども含めた本作について話を聞いた。

センチミリメンタル 『やさしい刃物』 Album Trailer

――1stアルバムがついに完成しました。まずこの1枚をどのようなアルバムにしたいと思われたのでしょうか。

温詞 今までセンチミリメンタルとして長くキャリアを重ねてきているのですが、一度もフルアルバムを作ったことがなかったので、ある種、自分のデビュー前もデビューしてからの自分もすべて含めたようなアルバムですね。今までのセンチミリメンタルの全部を総括して「こんなアーティストです」と、そして「これからもこんなふうに音楽をやっていくよ」というすべてを出し切れるようなアルバムにしたいという想いで作りました。

――ここまでの活動の中ではタイアップ曲として作品に向けての音楽制作や、バンド「ギヴン」のサウンドプロデューサーとしての立場もあり、活動自体も多岐に渡ったかと思います。こういった活動はご自身の音楽に影響はありましたか?

温詞 少なからずありました。自分の作品が、ほかの作品とリンクして作られ、組み立てられていくというのは今までなかった経験ではあったので、とても刺激を受けましたし、新しい扉が開かれるような感じもありました。元々自分が曲を作るときに、単純に自分が今こういう想いだからこういう曲を書く、ということだけではなく、例えばあるものを見たときにそこから浮かぶ記憶について書いてみようとか、これに例えたらあの気持ちを歌えるな、というように、なにかの対象に向けて自分の記憶をリンクさせていくという書き方をしていたので、その感覚にも近いような部分があって。やりづらさは感じていなかったんです。
自分の想いや記憶を、逆にタイアップ作品から刺激を受けたことで生まれたものもあります。お互いの共通項を探して楽曲が作られていくということに新しさもありつつ、自分がこれまでやってきたことに近くもあったので。自分が表現したいことがどんどん広がっていくような楽しさがありました。

――特に「ギヴン」に対して作られた曲は、バンドのギヴンが歌うものでした。ご自身が歌うわけではない、楽曲提供という制作形態については普段との違いはありましたか?

温詞 あまり意識をし過ぎないように、というのは気を付けていて。というのもアニメのキャラクターたちは、物語の中でそれぞれが一人の人間として生きていて、人格がある、と考えていくと、僕がただ予想して「きっとこうだろう」というものだけで書いていくと、意外とリアルさや温度は削がれていくのではないかとも思ったんです。特に「ギヴン」に関しては、彼らもバンドマンですし、僕も元々はバンドから音楽のキャリアをスタートしていることから考えても、彼らを妄想で作り上げていくよりは、自分も音楽を通じて感じたことや辛かった経験、「こういうことがあったよね」ということをしっかり書いていくほうが、よりリアルで温度の乗っかった楽曲になっていくんじゃないかなという想いがあった。だからあまり寄せすぎないというか。想像しすぎないようにしました。

――今回のアルバム『やさしい刃物』では、そういったタイアップでの提供曲をセルフカバーしていらっしゃいます。ほかの方が歌うものとして作ったものを改めてご自身で歌うと、普段とは違う表現になりましたか?

温詞 元々セルフカバーなので、ギヴンが歌ったものとは変わるなとは思っていたのですが、あまりイメージを壊しすぎないようにすることは気を付けました。それはサウンド面もそうなんですが、元々のアレンジは踏襲して、ギヴンを愛する人にとってもちゃんと延長線上で重なった部分を楽しんでもらえるように意識をして、歌い方も乖離しすぎないようにしました。
そこでもお互いの共通する部分を大切にして、まったく別物を作りあげるというよりも、僕なりに同じ気持ちを表現できるように歌い方やサウンド面も作っていきました。

――「青春の演舞」で取材をさせていただいたときには、ご自身の中ではこれまでなかったくらいの青春感を出した、というお話が印象的でしたが、その楽曲も含めて今回はタイアップ曲が非常にインパクトあるナンバーばかりだったと感じます。そんな楽曲も『やさしい刃物』の中で繋がりとして存在していくために、アルバム曲の制作についてはどのようなことを考えていらっしゃったのでしょうか。

温詞 そもそも僕の作る曲は、明るめに作ったとしても暗めに作ったとしても結構インパクトの強さがあったので、それを鳴らすような楽曲を作ってアルバムの中に収録していく、というよりも、自分の中にある感情のより強い部分を表現した楽曲たちを盛り込んでいって、ある種ジェットコースターのような感情の起伏を、どの曲でも描き切ることに舵をしっかり切ろうというイメージで作りました。

――実際、このアルバムがベストアルバムのような、すべてがシングルのタイトル曲だったかのような曲が並んでいるのは、そういう理由だったのですね。

温詞 そうですね。でも元々僕がそういった曲が好きだからこそだとも思うんです。アンニュイな表現をするというよりも、ちゃんと自分の中で心がしっかり動いたものを楽曲に落とし込みたいところが僕の原動力でもあったので。どうしてもシングルな感じのサウンド、メロディになりがちなところはあるんだと思います。特に今までの作品も含め、タイアップをいただいた楽曲もありますが、すべてが合わさったことでより強く“ベストアルバム感”が出たのかなとも思いますね。

――アルバムには過去に作られた曲も最近の曲も収録されていますが、特にご自身の中でメジャーデビュー前とその後とでの変化は見られますか?

温詞 言葉選びについては、ちょっと前の時代だとより刺激の強い言葉を探している時期もあったんです。自分の感情を100%、なんなら120%くらいの力で表現できるパワフルな単語を選んで使おうと、意図的にしていた時代もあったのですが、デビュー以降はもう少し俯瞰で言葉選びが出来るようにはなったのかなと思います。
あとはサウンドですね。音作りも、たくさんのスタッフやサポートミュージシャンとより時間を掛けて、ちゃんとした機材や環境で制作できるようになってはいるので。サウンドのクオリティがどんどんあがっていく様というのは自分の中でもすごく刺激になっているので、音の広がりも出て来たのかなと思います。

――今作では、デビュー前に自主制作でリリースされた「死んでしまいたい、」も音源化されています。誕生から時を経たこの曲と改めて向き合われて、2021年の温詞さんはどんなことを感じますか?

温詞 楽曲自体はかなり前からありますし、インディーズの頃からずっとやってきた曲で。やっぱりメジャー以降の楽曲の中に、何年も前に収録した楽曲が入っていることで、演奏面でも歌唱面でも楽曲の粗い部分や今と比べて音が広がっていかないところやつたない部分も感じられるんです。でもそれが当時の、まだ塞いでいたり思い悩んでいたりした部分が表現できているからだなという想いもあり。恥ずかしさもありますが、愛おしさもあります。デビューもしたしインディーズ時代の音源から録り直そうかという話も出たのですが、今、お話した意味からもそれは断りました。当時のちょっと恥ずかしい部分もありますが、ある種の粗いところもリアルなところも入れたいなと思ったので。並べたときにこの若さもいいなぁと思いました。

――その『やさしい刃物』に収録する楽曲を並べるときにはどんなことを最も意識されましたか?


温詞 曲順を考えるときは、感情の起伏をちゃんと表現することや人の気持ちの上がり下がりにどう寄り添うかを考えていたので、結構極端な楽曲の変化も出してはいます。
やっぱり人間、生きているといいこともあれば悪いときもありますし、色々なことがあると思うので、その上下していくような波の感じも曲順で表現しましたし、中間にあたる「冬のはなし」から「はなしのつづき」、「夜が明ける」という部分は作品ともリンクした状態を自分でも感じます。1つの作品を通して少しずつあがっていくように、曲と曲が繋がっていくことも表現したいと思ったので、そこでのバランスを取ろうとは思っていました。

――そうなると曲が出来上がっていくなかで、曲の並びも考えてはいたんですか?

温詞 そうですね。なんとなく自分の中でイメージはあったので、「はなしのつづき」という楽曲も、僕のほうから収録したいと提案しましたし、この流れが作りたくて制作した楽曲でした。

――そこのアルバムの一曲目の「suddenly」。この曲はアルバムの幕開けとしても非常に印象的な曲ですが、なぜこの曲をアルバムのはじまりに置いたのでしょうか。

温詞 この曲は、元々僕の経験で。昔の大切だった人のことを夢で見たときに、この曲を作ろうと思ったんです。その相手が夢の中でもだんだん悲しい顔をするようになってきて。夢の中ですらあまり綺麗なものにできなくなってきているんだなということから、もう修復できない関係なんだと痛感したんです。もうこれは戻れない状況まで来ているんだなということから「歌にしたいな」と。記憶って断片的になっていってぼやけていくもので、だけどそれを必死に「忘れたくない」ともがき集めているような状況で、つぎはぎして無理矢理美しいものにしようとする。
でもそれってつぎはぎだからやっぱり違和感があるし美しさがないんですよね。そのいびつさや切なさ、でもいびつだからこそ美しい、と矛盾している感情をなんとか楽曲にできないかと思って作ったので、楽曲のサビ以外の部分を一文字ずつレコーディングしているんです。

――そうなんですね!

温詞 一文字録ったら止める。最初の“夢ん中の君も”の部分で言えば、「ゆ」で止める。それから「め」、次に「ん」、「な」「か」「の」「き」「み」「も」。言葉でちゃんとレコーディング出来ていない音をつぎはぎにしていったので、だいぶ違和感があるとは思うんです。でもそこからまた日々は続いていくわけで。また新しい人間たちと出会って、新しい断片を作っていく、というところからサビの部分で開けていくんです。僕の楽曲たちもやっぱり記憶の断片から作りだしたもので、それを集めてアルバムにしている。それは一貫性があるようで、一つずつ切り取っていくと、やっぱりつぎはぎで出来たものでもあるので。そのどちらも持っている曲からアルバムをはじめたいと思ったからこそ、この曲を一曲目にしています。元々この曲をこうして作ろう、ということからアルバムが出来ていきました。


――楽曲を並べられて、この曲を作ったときは大変だったなと思い出されるとしたらどの曲ですか?

温詞 「ギヴン」関係は、デビューの一年くらい前から動き出していたので、「こういう人たちと一緒に頑張ったな」とたくさん思い出されるところはありました。あとは最後に収録している「リリィ」は、5、6年前に作ったので、当時のことを思い出しながら、当時大事にしていたことを忘れないようにしなくてはと考えながら制作しました。

――そういった昔の楽曲を改めてレコーディングされるときには、先程お話されていたような思い描いていたサウンド感に出来たのではないでしょうか。

温詞 まず出来ることが増えたということで言えば、ストリングスをちゃんと生楽器でレコーディングしているんです。それは念願叶いましたし、サウンドの面では大きな広がりを持って美しい曲として昇華されていて歌の表現としてはやさしい気持ちでより広い目線で歌えるようになったのかなと思います。「リリィ」は世にこそ出ていないですが、インディーズ時代に一度レコーディングをしているんですね。やっぱり当時よりも優しく歌えるようになっているのかなと思って。当時のサポートメンバーにも音源を聴かせたんですが「歌い方が優しくなったね」と言われました(笑)。歌い方の優しさや視野の広さが成長として歌声にも出ているのかなとは自他ともにそう感じるところはありました。

――そこのアルバムの中で制作しながら想定していたものと実際の技術が合致したと感じるのはどの曲ですか?

温詞 「僕らだけの主題歌」と「対落」の2曲は、シングルでは一緒に収録していますが、すごく広がりみたいなものを感じますし、デビューしてよりいい環境で録れたからこそ響かせられるものになったなと思います。「僕らだけの主題歌」はストリングスの効果もあって横に広がっていくような、景色が広がる感じを表現できたと思いますし、逆に「対落」は横の広がりというよりも縦の深さ、落ちていくように音像を上下に拡げられたという実感があって、ちゃんと音の中で下に沈んでいくような感じを表現できました。この2曲は自分の中でもサウンドで景色を広げられたなと思います。

――そんな一枚に『やさしい刃物』とつけたのはどんな理由からだったのでしょうか。

温詞 自分の楽曲はどんな存在なのか、と考えていたなかで、基本的に矛盾をはらんでいることがとても多いんですよね。対比もよく使いますし、言っていることが二転三転することもありますし。表と裏のどちらも表現するという曲が多いので、そのすべてを踏襲したタイトルにしたいと思いました。「キヅアト」から始まっていますが、傷とは切っても切れないアルバムになるとも思いましたし、最後の「リリィ」も相手を傷つけてしまって出来た曲でもあるので、デビュー前もデビューのタイミングでも痛みや傷が自分の中では大事なワードになっていることで、ちゃんとそのワードに寄り添えるタイトルにしたいと思ったところから辿り着きました。言葉は相手を傷つけることも守ることも癒すことも出来る。言葉と同じように刃物も使い方を間違わなければ人を守ることが出来る。怖さや危うさもあるけれど、暖かさもある。言葉についてもちゃんと気を付けたうえで放てば刃にはならない。そういう意味で気づきのあるアルバムにしたいと思ってつけました。

――その『やさしい刃物』。完成した今、多くの人に届いています。このアルバムにはどんなセンチミリメンタルが息づいていると感じますか?

温詞 過去、そして今の自分、どちらも詰め込みました。僕の曲は「前へ進んでいこう」という感じではなく、後ろを振り向きながらという未練みたいなものも描いてはいるので、ちゃんと過去に意識を置いているアルバムなのかなとも思います。でもそれはネガティヴなことだけではないとも思っていて。後ろ向きなんだけどちゃんとそれを前向きに捉えられるようなアルバムになっていると思うので僕の中の前向きな後ろ向きが一枚の中で表現できているかなと思います。

――そして!12月11日には配信ライブ「やさしい刃物」が開催されます。意気込みをお願いします。

温詞 この生配信ライブは『やさしい刃物』の楽曲を曲順通りに披露するライブになっています。アルバムの世界観を踏襲するという意味で、生の状態で表現するとCDのように綺麗にクリニックされているものとは違うものになりますから、より言葉や音も息をしていくというか、呼吸が乗っかるリアルな人間味が出てくるのではないかということで、曲順通りにやろうと提案しました。アルバムを聴き込んだ中でみんな色々と感じると思うので、それを答え合わせできたらなと思っています。

――楽しみです。では最後に読者へメッセージをお願いします。

温詞 「リスアニ!」さんにはいつも取材をしていただき感謝しています。読者の方にも、もしもまだセンチミリメンタルを知らない方には聴いていただきたいですし、僕のことを知ってくださっている方々はこのインタビューで答え合わせをしながらアルバムを聴いていただけたらなと思います。よろしくお願いします!

INTERVIEW & TEEXT BY えびさわなち



●配信情報
『センチミリメンタル Streaming Live “やさしい刃物”』
2021年12月11日(土)
open 18:30 / start 19:00
※アーカイブ配信期間:12月12日(日)23:59まで

視聴チケット:¥3,500 (税込)
チケット販売期間:12月12日(木)22:00まで
・ローチケLIVE STREAMING
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・ZAIKO

●リリース情報
センチミリメンタル
『やさしい刃物』
発売中


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【初回生産限定盤(CD+DVD)】

品番:ESCL-5600~1
価格:¥4,950(税込)

【通常盤(CD)】

品番:ESCL-5602
価格:¥3,300(税込)

<CD>
01 suddenly
02 キヅアト
03 僕らだけの主題歌
04 とって
05 死んでしまいたい、
06 星のあいだ
07 冬のはなし
08 はなしのつづき
09 夜が明ける
10 対落
11 nag
12 青春の演舞
13 リリィ

<DVD>
-MUSIC VIDEO-
01 死んでしまいたい、
02 キヅアト
03 僕らだけの主題歌
04 対落
05 星のあいだ
06 青春の演舞
07 nag
08 とって

<センチミリメンタル Profile>
作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う温詞(あつし)によるソロプロジェクト。

喜び、悲しみ、全部歌う。

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