アーティストを自分のテリトリーに呼び込む
――まずは拓也さんの音楽キャリアをお伺いします。音楽を始めたきっかけは、学生時代のバンド活動からなんですよね?
渡辺拓也 中3の文化祭で「バンドを組もう」と思い音楽を始めました。そのとき僕はボーカルをしていて、そこから高校でも軽音楽部に入ったのですが、そのときもボーカルでしたね。そのバンドは19歳ぐらいまで活動していたんですけど、それが解散して、次はギターで女性ボーカリストとユニットを組んで、そこでアニソンタイアップでCDも出したんですけど、そのあとにギターボーカルでバンドを組みながら並行して作家活動も始めました。
――中学生のときは、どんなバンドをコピーしていましたか?
渡辺 コピーしていたのはLUNA SEAでしたね。中学のときに流行っていたので「LUNA SEAやろうぜ」って(笑)。僕は元々スポーツマンで、そのときはバンド組む予定はなかったんですけど、「ボーカルやってくれない?」って言われて。
――そうした音楽活動を経て、2000年代には多くのアーティストに楽曲を提供するクリエイターとして活動していましたが、そうしたアニソンや声優さんへの楽曲をするのはどのような経緯があったんですか?
渡辺 出会った方々に導かれていった、という部分はありますね。出会った方がアニソンを作る方であったりディレクターであったりしたので、その方に求められる曲を出していき、そのアウトプットがアニメだったり声優アーティストだったというのが、2000年代の主な活動でした。
――2000年代の拓也さんの楽曲といえば、小野大輔さんや伊藤かな恵さんといった、バンドものからフォーキーなもの、あるいはシンガーソングライター然とした楽曲が印象に残ります。当時、楽曲提供をされるときに気をつけていたことはなんでしたか?
渡辺 ありがたいことにアーティスト本人から気に入っていただくことが多くて。
――アーティストに合わせるというより、自分の楽曲のチャームにフィットするアーティストと長くタッグを組むというか。
渡辺 自分のテリトリーに引き込んでいくみたいな。
――その一方で拓也さんはアーティストのライブでもバンド参加されていますよね。
渡辺 最近は少しライブの仕事は抑えているんですけど、小野大輔さんや伊藤かな恵さんとか、がっつり1枚アルバムを作った方のライブにギタリストとして出始めたのが最初ですね。そうしたなかで知り合ったミュージシャン、それこそ黒須(克彦)さんがバンマスでやられている三森すずこさんのライブにも呼んでいただけるようになって、自分が編曲していないアーティストにも参加させていただくようになりました。最近は自分ががっつり関わったアーティストや本人からオファーがあった場合はやらせていただく感じですね。
“自分のグラフ”で飛び抜けているところを見つける
――さて、今回開催中の「Smile Group presents アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」ですが、拓也さんはオーディション経験はありますか?
渡辺 高校で組んでいたバンドのときに「TEENS’ MUSIC FESTIVAL」というコンテストがあって、それに応募してグランプリを獲りました。高校生限定の大会でしたけどね。10代で音楽をやっていたら一度出ておこうと……当時の目立った大会というと「TEENS’ MUSIC FESTIVAL」で、今でいう「閃光ライオット」などはまだなかったんですけどね。
――そうしたオーディションで心がけたことはなんでしたか?
渡辺 高2の夏休みだったんですけど、毎日空き教室を使って9時から16時くらいまで、部活なので自由に練習できたんですよね。
――そんな拓也さんが審査員として参加される「Smile Group presents アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」ですが、最初にオーディションのことを聞いたときの印象はいかがでしたか?
渡辺 僕個人としても常に新しいボーカリストを探していたので、良い出会いがあると嬉しいなと思いました。
――そうしたなかで拓也さんと同じくクリエイター志望の方たちのどんなところを見ていきたいですか?
渡辺 クリエイターだったら、その母体に何がある人なのかなというのは一番見ますね。音楽ジャンルでもいいですし、楽器とか、この人はギタリストなのかDJなのかなとか、アニソンが好きなのかな、ロックが好きなのかな……とか、まだ楽曲が甘くても、そういうところから「あ、この人良いかも」と思うことはありますよね。
――応募した曲の内容もあるけれど、まずはその人のバックグラウンドが見たいと。
渡辺 DTMがここまで根づいているので、バックグラウンドがなくても曲を作れちゃうんですよね。それでDTMerです!ってくらい作り込めることができればバックグラウンドがなくても面白いんですけど、そこまで到達できるのは一握りですし。であれば、ずっとギターをやってきた人とか、何か見えるものがあれば後々仕事にもなっていくだろうし、実際残っている人たちはそういう人だと思うんです。
――やはり技術の一方で何か光るものを見たいと。
渡辺 例えば自分が一発コード弾いたら、「あ、渡辺っぽいね」というのは意識していますし、発注する側もそういうのが好きな人が多くて、そういう方と繋がっていくことが大事なのかなと思います。ただ、それだとハマらないところにはハマらないですが、最初はそのほうがいいのかなって。
――そうした光るものがあって、それが後々の仕事に繋がっていくと。
渡辺 例えばとある案件でも「お試しで」と指名がくることがあるんですけど、そこで自分の色を出して、次があるかないか……という形で1つ1つの精度を高めていくのがいいと思いますね。
――たしかにDTMが普及して、楽曲を作る環境が整っているだけに、そこから突き抜けるものが必要だと。
渡辺 グラフで見たときに、1つ飛び抜けているほうがいいと思います。全部のグラフが高いのもいいと思いますが、そのままだと最後まで残れる人にならないんじゃないかなと。そこから「最後はどれでいくの?」っていうのがわかりやすいと、ディレクター側もアーティスト側も、選ぶ側が選びやすいと思います。グラフは大きいほうがいいですが、どこか飛び抜けているほうがいい。
――それが最終的に自分の武器になると。でもそれを早い段階から見つけられる人がいるかどうか……。
渡辺 そうですね。
――そうしたクリエイター志望の一方で、応募のなかにはバンド部門というのもありますね。
渡辺 楽しみですよね。アニソンでやっていきたいっていうバンドがどういう音を鳴らしているのか、そういう人たちって戦略があるバンドの子たちなのかなっていうところは気になります。ライブハウスで「ゼロからやっていくぞ」みたいなバンドで最終目的はアニソン!っていう人たちがいたりしたら、それも面白いなと思います。
――それこそ拓也さんが作編曲しているArgonavisのような。
渡辺 彼らはまさにそういう物語ですからね。リアル・Argonavisみたいなバンドが出てきたら面白いかな。どんな順番でもいいと思うんですよ。それこそ「アニソンをやりたいからバンドやる」っていう人たちがいてもいいのかなって。
シンガー、クリエイターそれぞれが引き上げる限界値
――そしてそうしたソングライティングの一方で、シンガーの募集がありますが、ソングライター目線からどんなシンガーの歌を聴いてみたいですか?
渡辺 一番は声質が大事だと思うんですよね。
――自分の武器になる声というものをアピールできるかどうかであると。
渡辺 技術的、厳密にいうと発声や滑舌というものがありますが、独特な歌い方や声というものは大事だと思います。でも一方で、今の時代では歌唱力もすごく求められている時代だと思うんですよね。上手くないと1つ頭が出ない時代になっていますよね。
――たしかにシンガーの技術も向上していますよね。
渡辺 みんな上手いですからね。でも売れている人たちはその“上手い”が土台にあって、それだけじゃ突き抜けられないという側面もある時代ですよね。
――作曲家の話に戻るのですが、そうしたシンガーの魅力を引き出すソングライティングも必要な時代にもなっているのかなと。
渡辺 歌い手によって音域も違うし声のピークとなるところも違いますからね。
――総じて、そうした楽曲や歌声が求められている時代でもありますよね。ネットからどんどん新しい才能も出てきていますし。
渡辺 例えばボカロも流行っていますし、そうした楽曲だと音域の上限もないじゃないですか。音域の限界がないので作曲家のメロディの限界値も無くなるんですよね。生身のシンガーにもその限界値を求めるメロディも増えてきているので、お互いにその刺激を越え合って行かないといけないですね。そうしたものも近年のボーカリストには求められているのかなという印象があります。
――歌い手によって、メロディ、ひいてはソングライティングの限界が引き上げられると。
渡辺 「こういうのだと歌えないよな」っていう楽曲は、頭には浮かんでいるんだけど没にすることもあるんですよ。例えばそれを歌える、アウトプットしてくれる人がいれば、作曲家の限界値というものも引き上がっていくんだと思います。
――そう考えると今の時代のシンガーに求められるものは大きいですね。
渡辺 でもボカロクリエイターが出てきたからこそ、ボーカリストの質も上がってきたのかなと思います。ボカロのクリエイターの曲を歌えるシンガーを探していくなかで、そこから歌える子たちが新たに出てきて。そうやって才能の突破ラインは近年どんどん上がってきているとは思いますね。
――なるほど。
渡辺 例えばボカロって声の質が洋楽っぽく、線が良い意味で細いので、そのぶんオケを上げられるんですよね。歌を下げてもオケがかっこ良くなる現象がボカロだと思うんですけど、生身だとそれがなかなか成立しない。でも逆にそれに合う、例えばキンキン声の人もチャンスがくる時代ですよね。
――そうした若い才能は続々登場していますし、それがこのオーディションから現れるかもしれない。
渡辺 刺激になりますね。すごい若手って今でもたくさんいるので、恐ろしいなと思うくらいで(笑)。
――そういう恐ろしい若き才能を求めると。
渡辺 そういう人がオーディションに参加してくれたら面白いですよね。もちろん人間性や社会性は大事だと思いますが、そういう部分が音に込められているといいですよね。
――そうしたマインドは楽曲に込めようと。
渡辺 例えば初稿に現れると思います。最初の段階でその人の作風が出ていて、そこで先手を打って、「こういうので突き進みました」っていうほうが、僕の経験上リテイクがあまりないイメージがありますね。
――自分のこれというものにみんなを惹きつけるくらいの熱量が必要だと。
渡辺 自分のテリトリーにみんなに入っていただく、そうやって仕事していくのが大事だと思います。
――では最後に、このオーディションに応募しようと思っている、将来音楽で生きていきたいと思っているみなさんにメッセージをお願いします。
渡辺 今の時代、出口はたくさんあると思うんですよね。メーカーやネット、今ではYouTubeとかで自分でコンテンツを作れる時代で、そのなかで大事なのはやっぱり誰と出会うか、だなと。誰かと出会って混ざり合いながらぼんやりと出口が見えてくる世界で、応募する人たちも出口がまだ見えていないから応募すると思うんですけど、そこで良い出会いがあって何か混ざり合って、じゃあ一緒にアニメタイアップの曲を作ろうぜっていう出口を探せたら楽しいオーディションになるかなって思っています。楽しみにしています!
TEXT & INTERVIEW BY 澄川龍一
●オーディション情報
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」
<応募資格>
・応募部門自由(ソロシンガー、ユニット、バンド、作詞、作曲、編曲、その他)
・年齢、性別、国籍:不問
<審査員>
渡辺 翔 / 作詞・作曲・プロデュース
黒須克彦 / 作曲・編曲・作詞・ベース・プロデュース
渡辺拓也 / 作曲・編曲・作詞・ギター・プロデュース
PA-NON / 作詞・プロデュース
sana(sajou no hana)/ ヴォーカリスト
甲 克裕 / 音楽ディレクター
<応募方法>
応募フォームよりエントリーをお願いします。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScGSGRRlK5smi7d9dYN3eE-Nmwmp4ETdwazQeromfgI74pqUA/viewform
<募集期間>
2021年11月17日(水)~2022年1月31日(月)23:59
<応募上の注意>
・審査結果は通過者のみにご連絡させていただきます。
・審査状況や選考結果に関するお問い合わせには一切応じておりません。
・オーディション参加費、選考費、またその後にかかる費用は一切ありません。(ただし、審査会場までの交通費は各自ご負担ください)
・未成年の場合は保護者の承諾が必要です。
・お送りいただいた応募資料は選考以外の目的で使用することはありません。
関連リンク
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」特設ページ
https://www.lisani.jp/0000187094/
「アニメ音楽のこと!マッチング・オーディション2021」公式Twitter
https://twitter.com/smile_audition
渡辺拓也 公式Twitter
https://twitter.com/takuya88699231