2007年、ランティスからアーティストデビューし約15年、声優茅原実里は常に音楽とともにあった。自身が心から愛し、長きにわたって多くの人々から愛されてきた茅原実里の音楽――それが2021年12月26日に開催された“Minori Chihara the Last Live 2021 ~Re:Contact~”をもって、一旦のピリオドが打たれた。
2000年代以降のシーンを牽引してきたアーティストとして、そのキャリアを総括する最後のライブで彼女はどんな姿を見せ、そしてどんな形の愛を歌ったのか。感動的なフィナーレ、その模様を徹底レポートする。

茅原実里の音楽という長きにわたる旅の終着点、会場となった神奈川県民ホールは、過去にカウントダウンライブなどが行われた思い出深い場所だ。多くの観客が詰めかけるなか、神秘的なシンセのSEが会場に流れる。一瞬のブレイクのあとに鳴らされたのは、最新作にして活動休止前最後の作品となったミニアルバム『Re:Contact』の冒頭を飾る「Re:Contact」のイントロだ。タイトルにある通り、茅原の2007年の名盤『Contact』の幕開けを連想させるコーラスとストリングスが会場内に満ちていくなか、ステージ上の薄い紗幕の向こう側にはバンド隊=CMB、そしてセンターに立つ茅原のシルエットが映る。そして紗幕が降り、茅原の「みんな!行くよー!」という号令とともにラストライブが幕を開けた。

「Re:Contact」は2007年のデビューシングル「純白サンクチュアリィ」以降、茅原の数々の名曲たちを生み出してきた菊田大介(Elements Garden)と畑 亜貴という黄金タッグによるもの。これまでずっと茅原の活動を見つめてきた2人によるはなむけを、茅原もタイトなバンドサウンドを背負いながら、力強くも前向きなボーカルを聴かせる。ラストライブがついに始まってしまったという感慨こそあれ、ウェットな要素は感じさせない、太陽のようにブライトで凛々しい彼女の魅力が前面に打ち出された幕開けとなった。“S.I.G.N.A.L. S.I.G.N.A.L.”という「Re:Contact」のアウトロが歌われ、その余韻のなかですぐさま聴こえてきたのは、またしても“S.I.G.N.A.L.”というリフレイン。こちらは『Contact』の冒頭を飾る表題曲「Contact」のイントロだ。
「Re:Contact」から「Contact」へ、2021年から2007年へ――という彼女の過去と現在繋ぐ構成とタイミングの絶妙さは完璧さというほかなく、全身が総毛立つ感動があった。そしてもちろんそのあとには『Contact』の曲順通り「詩人の旅」へとシームレスに続いていく。彼女らしいハリのある高音も含めて、この一連の流れは間違いなくこの日のハイライトの1つで、歴史的名演に数えられると言っていいほどの素晴らしさがあった。

その後、同じく『Contact』収録の「too late? not late…」でダンサブルなサウンドに乗せて、当時から変わらぬ瑞々しい歌唱を聴かせたあとは最初のMCへ。「みんなに会えるのを楽しみにしていました」と笑顔を見せながら、「アニメ作品と一緒に歩んできた私にとっての大切な楽曲たちを聴いてください」と告げたあと、「みちしるべ」(TVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ED主題歌)を披露し、穏やかなピアノの旋律とともに優しくも儚いボーカルを聴かせる。そこからはエモーショナルな人気曲「境界の彼方」(TVアニメ『境界の彼方』OPテーマ)、キラキラとしたサウンドが印象的な「この世界を僕らは待っていた」(TVアニメ『翠星のガルガンティア』OP主題歌)とアニメ主題歌を続けざまに披露した。彼女のライブではお馴染みのCMB紹介パートを挟んでから、前日がクリスマスということもあり、続いてはアニメーション映画『サンタ・カンパニー ~クリスマスの秘密~』挿入歌でもある「キラキラ輝く、世界の時間」をしっとり聴かせる。そこから「Dears~ゆるやかな奇跡~」を披露し、『Re:Contact』から穏やかな日常を描いた「いつだって青空」へ。アコースティカルなサウンドに乗せて茅原の等身大の歌唱が沁みるパフォーマンスを見せて、一旦ステージを去った。

会場を包む穏やかな空気が、CMBによるプログレハードなインストパートで徐々に上昇していったのち、「Dream Wonder Formation」のシンセリフが鳴り響く。“電脳アリス”と“原点回帰”をコンセプトとした2012年のアルバム『D-Formation』に収録されたこの曲では、レッドの衣装に変えた茅原のボーカルも凛々しく響く。そこから荘厳なイントロダクションから「TERMINATED」、そして「Paradise lost」と鉄板曲を惜しみなく披露、ライブ中盤ながらクライマックスかのような熱量を客席に注ぎ込む。
その盛り上がりに「ライブは最高だね」と噛み締めるように語ると、「声優として歌手として、私にたくさんのチャンスをくれた、私の未来を変えてくれた大切な曲を聴いてください」と告げて披露したのは、『涼宮ハルヒの憂鬱』から茅原が演じる長門有希のキャラクターソング「雪、無音、窓辺にて。」。2006年にランティスから発表されたこの曲こそが、茅原がアーティスト活動を本格化させる大きなきっかけであった、キャラソンながら彼女のキャリアにおいて重要な1曲だ。無機質なビートとボーカル、その陰に見られるエモーションは15年経った今も色褪せない輝きを放っている。そんなヒリヒリとした緊張感のまま、『Re:Contact』からデジタルサウンドと激情が合わさる「a・b・y」へと加速。情念の籠った歌唱でぐいぐいと引きつけたあとは、そのまま2007年のシングル「君がくれたあの日」へ。ここでも過去から現在、そしてまた過去へとハイスパートに行き来するスリリングな展開が続いた。

ハードな楽曲が続いたあとは一転して「FEEL YOUR FLAG」のハッピーなイントロが鳴り響き、「みんなー!フラッグ用意!」との号令。茅原のライブではお馴染みである“旗曲”の時間だ。観客も茅原と同じ白のフラッグを手にして、会場全体が一気に華やいだ景色となる。サビでは事前の練習がないなかステージ上の茅原と息のピッタリ合った旗振りがなされ、ピースフルな一体感に包まれた。そこから茅原が白いドレスに身を包んで再登場し、2008年のアルバム『Parade』から「Voyager train」を力強く披露。

ライブ終盤のMCでは、「歌が好きで、音楽が好きで、こうやって歌ってこれて、生きてこれてよかったなあってすごく思います」と語り、「みんなにはまだまだ伝えたい想いがあるので……聴いてください」と言って始まったのは、『Parade』の最後に収録された「everlasting…」だ。
この曲が発表された2008年当時の茅原が、これまで歩んできた道を振り返りながら「Paradeは終わらない」と未来に向かって歌い上げる感動的なバラードだが、ここで茅原は様々な想いが去来したのか、歌っていくなかで思わず声を詰まらせる。しかし、目に涙を浮かべて声にならないながらもマイクをしっかりと握り歌を届けようとする、そんな彼女の姿に胸を打たれた。そして、“これまでの長い道のりが かけがえのないわたしの証明”と声を振り絞って歌う彼女の姿を見て、まもなくパレードの終着点が、この日のライブが終わりを迎えようとしていることに気づかされる。

万雷の拍手のなか、「今日は何があっても気持ちが途切れないように歌っていこうと心に決めて、ここにやって来ました」と話しながらも、抑えきれない涙を拭いながらじっくりと時間をかけて気持ちを作っていく。そんななかステージ上にはグランドピアノが用意され、CMBの須藤賢一の演奏とともに披露されたのは、2010年作『Sing All Love』から茅原自身初の作詞曲となった「sing for you」。様々な愛の形を綴ったアルバムの中で、自身がファンへの感謝を素直に込めたこの曲をこのライブの最終盤で披露するという意味はあまりに大きい。彼女自身の思い入れ、そして溢れる感情に寄り添うように一言一言を噛み締めて歌う姿が印象的だった。そしてそこから、『Re:Contact』の最後に収録された茅原作詞、須藤作曲の「Sing」へと続いていく。インタビューでも「このタイトルしか思いつかなかった」と語っていたが、「sing for you」と続けて披露されることでその想いがより一層伝わるし、やはり茅原実里が歌う姿というのは何より美しく輝いていたのだと思わせる。その2曲を歌い切ったあとに、須藤の「しっかり歌えたじゃないですか、素晴らしい」という言葉がそれを証明しているようだった。

そんな感動的な余韻のなかで、再びCMBのメンバーを呼び込むと、「宇宙一かっこいい演奏で私のライブを支えてくれました」とメンバーに向かって感謝を述べ、様々なスタッフやクリエイター、友人や家族にも丁寧に感謝の気持ちを伝えたあとは、ファンに向かって「みんな、いっぱい歌を通して同じ時間を一緒に過ごしてきましたね。思い出がいっぱいです。
もう溢れています。皆さんと過ごした時間はかけがえのない私の一生の宝物です」と語った。そして「みんなと同じ空の下でこれからも繋がっていますし、みんなの笑顔と幸せを毎日毎日祈っています。みんなと出会えて私は本当に幸せ者でした」と伝え、次が最後の曲であることを告げると、名残惜しそうにたっぷり間をとったあと、「最後に歌うのはこの曲です。私とみんなの始まりの曲です」と「純白サンクチュアリィ」を披露。これまでのライブでは必ず歌われてきた、そして幾度となく茅原とファンを繋いできたこの曲が、茅原の活動休止前の最後の曲となった。白いペンライトで満ちた客席を前に、今までと変わらないイノセンスをたたえたボーカルは、ステージ天井から羽が降り注ぐ光景と相まって、どこか幻想的にも映る。途中、いつものライブと同じようにマイクを観客に向けて一緒に歌おうとするシーンも見られ、観客が声を出せないなかでも想いは共有していると、改めてみんなとの強い絆を感じさせた感動的なエンディングとなった。

すべての曲が終わり、晴れ晴れとした表情で客席の隅から隅まで手を振ったあと、「みんな、これまで私の歌を愛してくれて本当にどうもありがとうございました!」と告げ、ライブ恒例の幕引きである、オフマイクでの「みんなー!大好き!」と万感の思いを込めた愛を叫び、ステージを去った。その後鳴り止まない拍手に誘われてステージに戻ってきた茅原は、しばしの沈黙のあと「……寂しい!」と感情を爆発させながらも、「いつも笑っててね!私はみんなの幸せを毎日祈ってます!」と最後のメッセージ、そして再び「大好き!」と叫び、慣れ親しんだステージに別れを告げた。

15年以上の音楽キャリアをわずか一夜で凝縮、そして濃密でありながらコンパクトにまとめあげた“茅原実里”の道のりをしっかりと総括したようなこの日のセットリスト。その一方で最新作『Re:Contact』を軸に、現在から過去、あるいは過去から現在と時間を行き来する構成は、過去に語られたメッセージが今もなお彼女の変わらない想いとして我々に届いたことを示していた。
愛を歌い続けてきた旅路の果てで、茅原実里はひとたび休息をとることを選んだ。しかし彼女の音楽たちは色褪せることなく、希望ある未来を描きながら生き続けるのだ。

TEXT BY 澄川龍一

Minori Chihara the Last Live 2021 ~Re:Contact~
2021.12.26 @神奈川県民ホール 大ホール

<SET LIST>
M1.Re:Contact
M2.Contact
M3.詩人の旅
M4.too late? not late…
M5.みちしるべ
M6.境界の彼方
M7.この世界は僕らを待っていた
M8.キラキラ輝く、世界の時間
M9.Dears~ゆるやかな奇跡
M10.いつだって青空
M11.CMB Inst
M12.Dream Wonder Formation
M13.TERMINATED
M14.Paradise Lost
M15.雪、無音、窓辺にて。
M16.a.b.y
M17.君がくれたあの日
M18.FEEL YOU FLAG
M19.Voyager train
M20.everlasting…
M21.sing for you
M22.Sing
M23 純白サンクチュアリィ

●リリース情報
「Minori Chihara the Last Live 2021 -Re:Contact-」Blu-ray
2022年5月11日(水)リリース決定!

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【2022年1月16日(日)23:59まで】
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関連リンク
茅原実里 公式Twitter
https://twitter.com/Minorin_parade

茅原実里 公式ホームページ
https://www.minorichihara.com/
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