作編曲家・演奏家として数多のアニメ作品の音楽に携わる高橋 諒が、2017年に立ち上げたアーティストプロジェクト、Void_Chords。その約1年半ぶりとなるニューシングル「Infocus」は、近未来的なフォルムのサウンドの中なかに、ある種の衝動性とい言うべき熱気を宿した、スタイリッシュかつエネルギッシュなナンバーだ。
「FLARE」(TVアニメ『ありふれた職業で世界最強』OPテーマ)を歌唱したLIOを再びフィーチャリングボーカリストに迎え、TVアニメ『トライブナイン』のEDテーマとして制作された本楽曲について、話を聞いた。

『トライブナイン』のビビッドな作品性から受けた刺激
――高橋さんは普段、劇伴の仕事などを含め作曲家・クリエイターとして年間数百曲にもおよぶ楽曲を制作されていますが、やはりVoid_Chordsとして音楽と向き合うときは、普段の制作とはまた違う感覚があるものでしょうか? ご自身の制作活動におけるVoid_Chordsの位置付けづけについて、改めてお聞かせください。

高橋 諒 普段の仕事からフィードバックさせて新たなアプローチを試行したり、日々の中で意識しづらくなっていたルーツを掘り起こしたりと、実験場であったり、瞑想であったりします。映像作品の主題歌制作として始まったチャンネルでもありますし、ありがたいことに各シングルの制作もほぼそういった作品に紐づいたお話をいただけることからスタートしていますので、もちろんクライアントワークとしての側面もありますが、一段自分のコア寄りというか、自由に試行錯誤ができる場所だと思っています。

――そんなVoid_Chordsの久々となる新曲「Infocus」は、TVアニメ『トライブナイン』のEDテーマ。『トライブナイン』という作品にはどんな印象を受けましたか?

高橋 ビビッドなキレと気持ち良さのあるビジュアル、サイバーな世界観、そして野球!?という組み合わせに対しての心地良い違和感がありました。一方ネオトーキョーが舞台という設定、アウトローかつアーバンな手触りとか群像劇っぽい側面などは自分の音楽性の領域としても近いなとは感じました。

――『トライブナイン』の原作を手がけるトゥーキョーゲームス、原案の小高和剛さんが関わる作品には、独特のエッジが効いたものが多いですが、高橋さんはそれに対して何か特別な印象はお持ちでしょうか。

高橋 やはりゲーム「ダンガンロンパ」で楽しませていただいたのですが、視覚から入る情報量としてはすごく多いのに、ある種の原始的で身体的な快楽に気持ち良くよく乗せられる感覚があります。すごくビートっぽいというか。テンポに対しての計算が徹底されているんだと思います。

――「Infocus」の楽曲制作にあたり、『トライブナイン』の世界観やシナリオなどからインスパイアを受けた部分はありますか?

高橋 やはりサイバーでビビッドなビジュアルイメージから想起されたものは非常に多くありました。


――それらを踏まえたうえで、高橋さん自身が今回の楽曲を通して表現したかったテーマ、チャレンジしてみたかったことは?

高橋 EDテーマの機能として共通した視点……作品世界から還ってくる、ある種の読後感とメタ視点を持つ楽曲という視点は今作も保持しています。その手触りはありつつ、スタイリッシュなイメージと内部にたぎる熱量、という構造を楽曲イメージに敷衍して、クールで制御されたエレクトロニックな外殻の中に、野性や身体性といったカオティックで有機的な熱を閉じ込め、それが徐々に溶け出てくるような、再起してくるようなサウンド感にしようと思いました。

2000年代以降のミクスチャー感と、そこに一本筋を通すLIOのボーカル
――「Infocus」のサウンドについて、これまでのVoid_Chordsの楽曲のなかでもとりわけ近未来的でスタイリッシュな印象を受けました。サウンド面で特にこだわったポイントを教えてください。

高橋 大胆にエレクトロニックなビート、細かいコラージュで構成したシンセパートと徐々に縦が強くなってくるグルーヴのグラデーションを意識しました。一方ギターカッティングなどはとてもオーソドックスなトーンとプレイだったりして、保守的なスタイルと未来感が同居したようなサウンドを目指しています。

――Void_Chordsの楽曲では毎回、高橋さんの膨大な音楽的バックグラウンドの中なかから様々な要素が掛け合わされて新しい音楽が生み出されているのを感じます。今回の「Infocus」では、特にエレクトロニックミュージックの要素を強く感じましたが、ご自身としてはどんなバックボーンが表に出たと感じますか?

高橋 今作は2000年代のテクノを融合したミクスチャーバンドの手法からの影響が大きいかなと思っています。個人的体験ではその前からの、808ステイトなどのアンビエント感と肉体性の強いビートの組み合わせ、アルバム『100th Window』の頃のマッシヴ・アタックなどのダウナーで静謐なリズムの流れがあり、その後ロックバンドとレトロなシンセリフの新世紀的な融合が加速する、あの辺りでしょうか。サビ後半の展開も、2000年代のオルタナティブロックをステップ系音楽やトラップ的な手法で構成する考え方で作っています。この10年でのヒップホップ的ビートの拡張や隆盛によって、シンコペーションの共通性も生まれ、その辺りの自由なジャンプも想像しやすくなっていると思います。

――シンセや打ち込み系のサウンドが目立つ一方で、生演奏もフィーチャーされているように感じたのですが、例えばライブのバンドメンバーが参加されていたりしますか?

高橋 今回はリフ素材をチョップして構築していく作り方が主で、レコーディングと作曲を同時に進めるようなタイプの楽曲だったため、外部ミュージシャンは招聘せず、100パーセント自宅で完結しました(笑)。


――なるほど。また、「Infocus」はアニメEDサイズとフルバージョンとで、イントロ部分などにかなり違いがあります。それぞれどんなイメージで作りましたか?

高橋 フルサイズで追加されているイントロは本編でもエンディングシーンのイントロダクションとしても使うかもとおっしゃっていただいたので、長めに作りました。裏通りのビルの隙間から、喧騒から少し距離を置いて、月を見上げるようなイメージです。それぞれのヴァース部分でも違う展開にしているので、ぜひフルサイズで聴いていただきたいです。

――作詞はこれまでのVoid_Chordsの楽曲も多く手がけてきたKonnie Aokiさん。歌詞を書いていただくにあたってどんなお話をしたのでしょうか。

高橋 楽曲と歌詞の方向性についてはレーベルプロデューサー、Konnieさんと私で一度にディスカッションし、同時に形作っていくのですが、オープニングとの対比やエンディングとしての佇まいという観点から、登場人物個人の意思や、内的描写について焦点を当てていこうと。

――まさに「Infocus」ですね。この楽曲タイトルにはどんな意味を込めたのですか?

高橋 歪んだ環境の中なかでも未来を作る、変えるには、自分の内面に真っ直ぐな視座を持つこと、フォーカスすることが可能性を切り開くことに繋がる、というテーマです。

――今回はLIOさんをフィーチャリングボーカリストに迎えています。「FLARE」以来のタッグになりますが、改めてLIOさんにお願いした理由をお聞かせください。


高橋 前述の方向性をお話している際になんとなく楽曲イメージを膨らませてみるのですが、その時点でLIOさんとの相性がとても良いのではないかと感じていて。「FLARE」でも感じましたが、今作のミクスチャー感、核と外殻の熱量差みたいなものを、LIOさんの歌は真っ直ぐ軸を通してくれるようなイメージを想像できたので、再びお声かけさせていただきました。

――Void_Chordsは楽曲ごとにフィーチャリングボーカリストが変わりますが、これまでご一緒したボーカリストのなかでもLIOさんはどんな特徴・魅力があると感じますか?

高橋 繊細なコントロールから力強く抜けるようなパワーまで持ってらっしゃるのはもちろん、技術的なことだけではなく、真っ直ぐに曲を届ける力をお持ちだと思っています。またライブでもレコーディングでも、体全体で曲を楽しんでくれていることを全力で表現してくれて、作り手としてもとても報われる感じがあります(笑)。色んなレンジや表現にそれぞれ魅力がある方なので、それぞれを引き出すために、作曲もとても熱が入りました。

――「Infocus」について、LIOさんが歌唱することを踏まえて工夫した部分はありますか?

高橋 やはりメロディの組み立てですね。今作はレンジをほぼすべて使って、ヴァース部分は本当に低いところから、サビで高く突き抜けるところまで余すところなく使っていますし、ロングトーンと畳みかけるリズミックなアプローチもきれいに対比できるように工夫しています。

――そのほか他にレコーディングで印象に残っていることがあれば教えてください。

高橋 ロンドンと東京での遠隔レコーディングになったので(コロナ禍でなければ、本当に行きたかったですが……笑)、方向性だけお伝えし、具体的にはお任せになりましたが、LIOさんが曲からしっかり表現を汲み取ってくださって、バッチリのものを返していただきました。楽しんでくれたのがすごく伝わるテイクで、遠隔のネガティブさがまったく感じられない素晴らしいレコーディングになりました。

表現者として抱える「自己矛盾」と「少年の心」
――カップリング曲「VALIDATION」も刺激的なナンバーに仕上がっています。こちらは「Infocus」とのカップリングを意識して作られたのでしょうか。


高橋 「身体性の再起」というコンセプトは共通していて、制御された外殻に中で渦巻く野性や肉体性という二層構造の内外を入れ替えて作ってみようというところから始めました。つまりエネルギー溢れる演奏、サウンド感が外殻を担いつつ、内部はシーケンシャルで制御されたイメージのフレーズや、ライナーな展開感によってある種の静謐さを感じられるような構造です。そしてその執拗な反復によって外側構造が持っていた暴力性と接近していって溶け合うようなところまで表現してみようと。

――「VALIDATION」の曲が進むにつれてカオティックな高まりを生む、ある種プログレッシブとも言えるバンドアンサンブルに衝撃を受けました。この曲ではご自身のどんな音楽的バックグラウンドが発揮できたと感じますか?

高橋 こちらも前述の、2000年代中盤での音楽体験によ依っていて、あの辺りのロックシーンにあったある種の不確実性、肉体性と制御された静謐さが融合したような独特の高揚感を感じていて。個人的体験としては、ロックバンド・U2の『POP』に源流を見ていて、「デジタルとアナログの~」とか「ロックバンドとシンセの~」のような言葉ですと途端に平たくなってしまうのですが、サウンド的にもわかりやすく融合したカサビアンやグースなどのほか、シークレット・マシーンなどのオーセンティックなロックの書法に添いつつもミニマルでライナーな展開が融合したスタイルとか、サウンドだけでなくスピリットとしてもミックスされていくシーンにとても影響を受けました。そこから真っ直ぐフィードバックした曲であればピッタリ表現できそうだと考えました。

――LIOさんのパワフルなボーカルも「VALIDATION」の魅力に大きく貢献していますね。

高橋 LIOさんのボーカルの魅力を存分に引き出せるようなライティングという観点ですと、「FLARE」から数えて4曲目ということで、これまでに得たフィードバックから一番上手くいったのではないかと思います。ご本人も今までで一番楽しかったとおっしゃっていただけて、満足のいく仕上がりになりました。ライブでのパフォーマンスも想定した曲なので、早くバンド編成でも演奏したいですね。

――「VALIDATION」の歌詞について、「自分自身を見つめ直す」という意味では「Infocus」の歌詞とテーマがリンクしているようにも感じました。
作詞のKonnie Aokiさんとはどんなお話をしましたか?


高橋 あらゆるものにラベリングされた価値を離れて、内発的なものにちゃんと耳を澄ますすますことができるかどうか、という表現者としての基本的な問いと、価値の内部でしか存在できない表現者としての自己矛盾について……価値という概念そのものへの愛情と憎悪、そのなかで自分が依り代とするもの、祈りとなるものがあるとすれば何か、ということをテーマにしています。

――この曲の歌詞に目を通した際、高橋さんが「リスアニ!Vol.46」の取材で「最近は少年の心を取り戻したいと思っている」とおっしゃっていたのを思い出しました。この歌詞には、高橋さん自身の思いが重なる部分もあるのでは?

高橋 そうですね。専門性を高めていくにつれて、社会と関わるにつれて、平たく言うと大人になるにつれて、多角的に判断すべきことがたくさんあるのですけれど、それは当然としたうえで、パーソナルな領域の深部にもしっかりアクセスして、そこから表現できるものを探る筋力がないと、到達できないものがあると思っています。それはときに非常に自家撞着的で、泥臭くて、かっこ悪い側面がありつつも、冒険的な感動をもたらしてくれたりして……ものすごく平たく言って「少年の心」かなと……(笑)。

――いいですね! 最後に、今回のニューシングル「Infocus」は、Void_Chordsにとってどんな作品になったか、今の実感や手応えについてお聞かせください。

高橋 やはり今作はよりエレクトロニックな方向に振ったことで、ジャンル感としての広がりもさらに図れた作品になりましたし、親和性もそこまで損なわないんじゃないか、というポジティブな手応えもありました。それによって試したい表現もまた新たに出てきたので、可能性を広げてくれた作品になりました。今後の作曲にも活かしていければと思います。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

●リリース情報
Void_Chords feat. LIO
アニメ『トライブナイン』EDテーマ
「Infocus」

2月2日(水)発売

品番:LACM-24235
税込価格:¥1,430(税込)

<INDEX>
01.Infocus
02.VALIDATION
03.Infocus(Instrumental)
04.VALIDATION(Instrumental)

詳細はこちら

●配信情報
「Infocus」
先行配信中!
配信リンクはこちら

© Akatsuki Inc./トライブナイン製作委員会

関連リンク
Void_Chords アーティスト公式ホームページ
https://www.lantis.jp/artist/Void_Chords/

高橋諒[Void_Chords]Twitter
https://twitter.com/RyoTakahashi111?s=20

Void_Chords feat. LIO 「Infocus」カバー動画募集特設ホームページ
https://www.lantis.jp/void_chords/cover/

アニメ「TRIBE NINE (トライブナイン)」公式サイト
https://tribenine.tokyo/anime/
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