マルチメディアプロジェクト「カゲロウプロジェクト」の発表から10年――2021年に活動10周年を迎えたじんが、それを記念したミニアルバム『アレゴリーズ』を完成させた。ボーカロイドを用いた楽曲を中心に発表してきた彼が、今作では自ら歌唱。
創作の原風景を描いた楽曲から自然発生した“歌のアルバム”
――じんさんは2021年に活動10周年を迎えられて、それを記念した色々な動きがありましたね。
じん この10年、酸いも甘いも含めて色々なことを経験しながら、あまり振り返ることなく走り続けてきたので、自分では10周年の節目を迎えることに気づいていなくて、周りの人に言われて初めて「もう10年も経ったのか」と思ったくらいだったんですね。そんななか、事務所の方や制作でご一緒している方から「記念に何か残したほうがいいのでは?」とお話をいただいて。それで新曲を発表したり、昔の楽曲をリメイクしたり、今回のミニアルバムもそうですが、割と活発に活動させていただいています。
――とりわけ驚かされたのが、4月に発表された「チルドレンレコード(Re:boot)」です。「カゲロウプロジェクト」を象徴する楽曲の1つを、発表から10年近くが経ったこのタイミングで改めて再構築(リブート)されて。
じん 僕は新しいものを作るのが好きなので、自発的にリブートをやろうとはあまりならないタイプなのですが、周りの皆さんからご提案いただいたことが、きっかけになったのかなと思います。10年近く前にリリースした楽曲を、今の自分が再構築・再解釈することにどんな意味があるのか、何か確信をもっていたわけではないのですが、実際にやってみたら色々な気付きもありました。
――それは例えば?
じん まず、自分は意図的に変化をしようと考えていなくても、変化してきたんだなと感じました。例えば、メロディの選び方、リズムを組み立てるうえでのテンポ感やタイミングを含めて、ある意味、他人が作ったものの感覚で聴こえたりしたんですね。
――確かにじんさんは、常に攻め続けている印象があります。あらゆる部分において、妥協を感じさせないと言いますか。
じん きっとそれが本性なんだと思います。昔から攻めていきたい気持ちが強かったし、何かしらに迎合したくない気持ちをどうやって表現するか、常にそれと戦っているところはありますね。
――その意味では、今回のミニアルバム『アレゴリーズ』も、非常に攻めた内容になっています。なんと言っても、これまでボーカロイド楽曲を中心にご自身の作品を発表してきたじんさんが、今作では全曲ご自身で歌唱しているわけですから。
じん そもそも自分のマインドとして、モノづくりや自分の表現したいことを形にするのは好きだけど、別にアーティスト然とした活動をして、みんなに尊ばれる存在になりたかったわけではないんですね。人間として生きてくなかで生まれるジレンマ、言葉では伝わらないこと。
――では、昨年8月に発表された本作収録曲「後日譚」で、初めて自ら歌唱したのには、どのような経緯が?
じん 「後日譚」はアルファポリス(小説やマンガの投稿サイト)さんのCMソングとして書いた曲なのですが、誰が歌うかはまだ決まっていない状態でひとまず曲を作って、自分で仮歌を入れて提出したら、それが「すごくいい」という話になったんですよ。そこから自分で歌をうたうことになったので、あまり策略的な意図はなかったんですけど、その流れで今まで何回か企画は持ち上がったけど実現していなかった“歌のアルバム”を、10周年のタイミングで実現させようという話になって。
――それが今回のミニアルバムに結実したわけですね。ただ「後日譚」は、ご自身の創作活動の原点を見つめ直すような内容になっていて、10周年の節目らしい楽曲にも感じました。
じん 自分の中では“モノを作り続けること”をテーマにこの曲を書きました。アルファポリスは自分の作った作品をインターネットで発表したい人が集まる場所なわけですから、それに対して自分が曲を書くとなったときに、僕は小説や物語を書く人間でもあるので、文筆家としての自分、そして音楽と自分というものを形にしようと思ったんですね。実は「後日譚」のMVを作ってくれたINPINEさんは、小学校のときからの同級生なんです。
――えっ、そうだったんですね。
じん 彼は僕が中学で不登校になっていたときに、唯一家に通ってくれていた友人で。その当時、自分が好きだったバンドの曲を聴かせたら、「すごい!」って共感してくれて、「同じ高校に入って一緒にバンドをやろう」という話になったんです。
――あのガスマスクを被った人ですか?
じん はい。当時の僕らは、北海道の田舎からどうやって自分というものになればいいんだろう?とあがいていた時期で。モノを作りたい・表現したいけど、大人は認めてくれない、どうしていいのかわからないフラストレーションを一緒に見てくれていた人物なので、音楽も映像も同じ方向を向いたなと思います。
――まさにじんさんの創作の原風景が詰まった楽曲だったわけですね。
じん そうですね。その原風景を描いたものがきっかけとなって、“歌のアルバム”を作る話に繋がっていって、僕もその流れのままに出会ったのが今回のミニアルバムというか。だから今作は本当に自然の流れで生まれた作品だと感じています。今まで以上に自分の美意識を基準に制作した、ある意味、10年目にして一番パーソナルな創作の筆致が出た作品だと思いますね。
――確かにシンガーソングライター的な側面が強く出ているようにも感じます。
じん どうですかね? ただ、今までは「カゲロウプロジェクト」やそのほかの小説も含めて、長編を作ることが多かったんですよ。ほかの人や作品に楽曲提供したものは別として、単発で完結するものをあまり作ってこなかった。その意味では、今作は初めて短編集的な位置づけの作品になったと思います。僕は創作において“本を書く”という精神が大きいので、自分と向き合うというよりも、例えば「友人が死んで悲しい」だとか「日常でふいに襲い掛かってくるドラスティックな感情」みたいなものを、一作一作に分けて連作のオムニバスシリーズとしてまとめた、という印象ですね。
――だからこそ作品タイトルも、比喩や寓意を意味する“アレゴリー”の複数形となる『アレゴリーズ』にしたわけですね。
じん はい、“寓話集”的な意味合いとして。自分の中ではショートショートがやりたかったというのもあります。1曲4分程度の曲を集めるアルバムのフォーマットは、小説に例えるとショートショートだと思うんですよ。だからシンガーソングライター的な普通のことを、文筆家的な目線から作ったのが今作なのかなと。ようやく普通のものを作れたなと思います。僕の場合、出発点がロックオペラという、いびつなものだったので(笑)。
世の中に対する問題提起、あるいは“自分”を確認するための音楽
――今作は1曲1曲がどれも鮮烈ですが、なかでも堀江晶太さんが編曲で参加した「消えろ」は、ピアノとアコギを軸にした爽快にしてアグレッシブなサウンドと、ある種の痛ましさを感じさせる言葉の連なりに衝撃を覚えました。
じん この曲は“自分を殺す”がテーマなんです。日常を生きていて「よし、今日は自殺しよう」みたいな日があるんですよ。今、自分が死んだらどうなるのか、結構本気で頭の中で想像するんですよね。もちろん死なないですけど。でも、それなんですよ。なんで自分は死なないんだろうと。だって死にたいなら別に死んでもいいじゃないですか。死んだあとのことなんてどうでもいいですし。でも死なない。毎回自分を止めてる自分がいて、「誰だ?邪魔すんな」って思ったんですよね。だから「俺は死にたいのに、俺の自殺を止めるな、自分よ」という意味合いの曲。別に特別な思想があるわけではないですけど、強烈な疑問ということですよね。
――それを音楽として形にしてしまえるところが、この曲のすごさと言いますか。
じん 「音楽ってそういうことじゃないの?」と思うんですよね。問題提起というか。これは別に自分が正しいとか誰が間違っているとかではないんですけど、強烈な疑問や「これは俺だけか?」というものを世界にバン!と鳴らして、その反響によって自分が人間になるという所作こそが、自分にとっての音楽なので。そういった原点の音作りをしたのが「消えろ」です。まあ、この中学生が考えるようなことを30歳になってもまだ考えているんですよ、僕は(笑)。でもそれは本当に自分だけか? 30歳になってもふと死にたいと思う人はいないのか? 本当にみんな大人なのか?っていうテーマの曲でもあると思いますね。
――そういった無常感、あるいは取り残されていく者の寂しさや悲しみを強く感じたのが、THE BACK HORNの菅波栄純さんがeijun名義で編曲に参加した「VANGUARD」です。
じん 「VANGUARD」はアーティストの友人が死んだことがきっかけで生まれた曲で。その友人が亡くなったとき、SNSとかで、いかに彼が魅力的だったのかを語っている人がたくさんいたんですけど、なんで死ぬ前にそれを言わなかったんだって思ったんですよ。そんなものは何一つ届かないし、すごく悲しいなと思ってしまって。そういう無常を形にしたかったんですね。もちろん亡くなった人を偲ぶのは生きている人間の責任でもあるわけですから、そういう現象が起きることを否定しているわけではないです。だからこれは僕の単純な疑問や感想なんです。別にそれが正しいとは思ってもらわなくてもいいけど、「おかしくないかって思ったよ、俺は」っていう。でも、僕は人生において、この確認が何事にもまして大事なことだと思っているので、そういうものに相応しいメロディと歌詞を選びましたし、正解かどうかもわからないことに時間をかけて作りました。
――生半可な気持ちで作ったわけではないと。
じん 僕は音楽をそういうものだと思って聴いていたので。それこそTHE BACK HORNもそうですし、僕が憧れていた方々の音楽に対するスタンス、それを僕もやっているだけなので、特別なことはしていなくて。だから普通のアルバムです。
――とはいえ本作には、今までにない特別なものを感じるのも事実で。先ほどのロックオペラの話を例にとると、そういった作品の場合、物語の壮大さに比例して、作り手本人のパーソナリティみたいなものは希釈されるわけじゃないですか。
じん それは絶対にありますね。
――その意味では、ロックオペラ的な作りだったこれまでのじんさんの作品と比べて、短編集的な本作ではじんさん自身のパーソナルがより濃く出ているのではないかなと。
じん 確かにあまり希釈されていない、僕の濃いものが出ていると思います。今回、1つ1つのテーマに関して非常に考えて作ったんですよね。難しい。音楽を作るのってめちゃくちゃつらいですね。なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう?と思って。普通に仕事して、定時に帰宅して、家でNetflixをぼーっと観る生活も全然悪いと思わないんですよ。でも、そう生まれてきちゃったんですよね。
――でも、モノを作ることが生きがいだったり、自分の存在意義と感じる部分もあるのでは?
じん まったくないです。モノなんか作りたくないですよ。普通にイケメンでスポーツ万能で頭が良くて女の子にモテモテで、僕が言っていることを誰もが理解してくれる状況なら、マジで作らないと思います(笑)。でもそうではないから、やらざるを得ないからやっている。体の中に溜まっているものを出さないと、パンパンになってしまうので。
――ただ、じんさんのように多くの人の共感を得られるものを作れる才能というのは、一握りの人しか持っていないものだと思うんですよ。作りたいと思っても作れない人がたくさんいるわけで。
じん なるほど。自分にその才能があるとは思っていないですけど、確かに作りたくても作れない人がいる。うーん……でも、それは何かしらの問題があるんだと思いますよ。自分がやっていることと目指すところとの差の中に、噛み合わない何かが起きているのかなと。僕は自分が作っている曲を母がいいと言ってくれるのがすごく嬉しくて、それだけで1つ満足するところがあるんですね。でも、社会性を獲得したいという意味で、人に自分の作ったものを知ってもらいたいという動機で、本気で創作をやっていて。きっと好きだけど作れない人は、ほかで自分を満たしているんだと思います。ゲームをやる、人と話す、アニメを観る、女の子と付き合うとか。あまり認めたくはないですけど、自分は幸福への飢餓感があるからこそ、より貪欲に、暴力的に音楽の実現を果たそうとするのが、良い音楽の醸造のされ方なんだと思います。
『アレゴリーズ』の制作がもたらした気付きと手応え
――今回のミニアルバムのアニメイト完全数量生産限定盤には、じんさんが昨年12月に発表したボーカロイド楽曲「GURU」の本人歌唱バージョンも収録されます。
じん 「GURU」に関しては、僕がアルバムの制作中に、ボーカロイドの曲を作りたくなってできた曲なんです。アルバムは制作からリリースまでに膨大な時間がかかるので、日々で感じたムラッとしたことをもっとインスタントに出したい感覚があったんです。それとYouTubeチャンネルも開設したので、試しに出してみようと作ったのが「GURU」で。非常にパンチのある、バチバチした感じの楽曲になりました。
――アラビア音楽風の要素を取り入れたサウンドも印象深いですが、特に歌詞のインパクトが強くて痛烈です。
じん 確かにこれは歌詞の曲だと思います。メロディラインというよりもリフレインやリズム、ライムのノリが重要になってくるスタイルの曲だと思うので。でも言いたかったことはシンプルで、歌詞にもありますけど“自分だけ 正しいってツラしてんじゃねぇぞ”っていう。自分に対しても言っている曲かもしれないですね。
――自戒の念も込めて。
じん そうですね。自分が正しいと思ってはいけない。大いに間違っている可能性がある。でも、間違ってるかもしれないけど言うことが大事なんですよ。だから自分に対する説法ですよね。あとは“地獄のよしみだ 肩組んで往こうぜ 応報”という歌詞があるんですけど、人間はみんな偉いも偉くないもないじゃないですか。みんな誰かを助け、誰かに助けられて生きているし、「偉い」とか「強い」ではなくて、みんな「弱い」からこそ世の中が回っているんじゃない?という感想を、曲として
残したかったんです。さらに言うと、単純にアコギをたくさん弾きたくて作った曲ですね(笑)。
――アコギと言えば、本作の初回限定盤Bには、じんさんが過去に提供した楽曲を弾き語りでセルフカバーした音源が収録されますね。
じん 僕はそもそもバージョン違いという手法が大好きで、某ゲームとかでも色違いのものは全部ほしくなるんですよ(笑)。車にせよ色が1色しかないと寂しいですし、色んな形があるのは楽しいじゃないですか。で、今回のアルバムも色んな特色のあるものを作ろうとなったときに、僕の弾き語りを収めさせていただくことになりました。今どきは機械の力で、ギターと歌を別々に録って弾き語り風にすることもできますけど、今回は僕が1人でスタジオに入ってギターもしくはピアノのみで実演するという、マジで容赦ないスタイルになっています(笑)。
――聴かせていただきましたが、とても生々しくて、今までにないじんさんの表情を感じることができました。
じん 1人の人間が楽器一本と歌で実演するのは、自分が今までボーカロイドと物語を用いてやってきたこととは対極の表現方法だと思うので、それを自分がやるのはいかがなものかなと思ったのですが、でもこのやり方じゃないと出てこない面白いものになったと思います。芸術ではなく、人間動物園を見にきていただく感じと言いますか(笑)。提供曲もすべてその瞬間、僕が共感と同調して生まれてきたものですし、原曲をそっくりなぞろうとするのではなく、インスピレーションでやっているので、新しい発見もあるかもしれません。ぜひ手に取っていただきたいです。
――繰り返しになりますが、今作は初の本人歌唱作品という部分も含め、じんさんのパーソナルそのものがより濃く反映されたものだと思いますし、10周年を迎えたこのタイミングでそういった作品を作るのが、今のじんさんにとっては必要な行程だったのかなと、今回お話を聞いて感じました。
じん 本当にそうですね。もちろん作品としてはいい形になりましたけど、制作していて途中から気付いたのは、これは1枚のミニアルバムで収まる企画ではないんですよ。この視点でモノづくりをやるべきという手応えも感じたので、それが連作になるのかフォーマットはわからないですけど、この先も続けていければと思っています。めちゃめちゃいいと思うんですよね、このアルバム。これを好きと言う奴のことは、俺は好きです。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
じん ミニアルバム
『アレゴリーズ』
2022年2月16日(水)発売
【初回限定盤A(2CD)】
品番:TYCT-69222/3
価格:2,750円(税込)
<DISC1>
M1. Avant -Instrumental-
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. VANGUARD
M6. FREAKS
M7. Blank page -Instrumental-
M8. 後日譚
M9. Dedicate -Instrumental-
<DISC2> *ボカロ盤
M1. GURU
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. FREAKS
【初回限定盤B(2CD)】
品番:TYCT-69224/5
価格:2,750円(税込)
<DISC1>
M1. Avant -Instrumental-
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. VANGUARD
M6. FREAKS
M7. Blank page -Instrumental-
M8. 後日譚
M9. Dedicate -Instrumental-
<DISC2> *アコースティックアレンジによるセルフカバー盤
M1. Into the blue’s
M2. Life is tasty!
M3. ステラ
M4. オントロジー
M5. プルメリア
【通常盤(CDのみ)】
品番:TYCT-60188
価格:1,980円(税込)
<DISC1>
M1. Avant -Instrumental-
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. VANGUARD
M6. FREAKS
M7. Blank page -Instrumental-
M8. 後日譚
M9. Dedicate -Instrumental-
関連リンク
じん オフィシャルサイト
https://jin-jin-suruyo.com/
じん 公式Twitter
https://twitter.com/jin_jin_suruyo
じん OFFICIAL YOUTUBE CHANNEL
https://www.youtube.com/channel/UCP4sp1GUNCMAjktM3O-o9hg
自身の創作の原点を見つめ直した「後日譚」、盟友・堀江晶太が共同アレンジした「消えろ」など、己の歌声によって新しい景色を獲得した作品に仕上がっている。表現者としてのターニングポイントにもなるであろう本作について、じんに熱く語ってもらった。
創作の原風景を描いた楽曲から自然発生した“歌のアルバム”
――じんさんは2021年に活動10周年を迎えられて、それを記念した色々な動きがありましたね。
じん この10年、酸いも甘いも含めて色々なことを経験しながら、あまり振り返ることなく走り続けてきたので、自分では10周年の節目を迎えることに気づいていなくて、周りの人に言われて初めて「もう10年も経ったのか」と思ったくらいだったんですね。そんななか、事務所の方や制作でご一緒している方から「記念に何か残したほうがいいのでは?」とお話をいただいて。それで新曲を発表したり、昔の楽曲をリメイクしたり、今回のミニアルバムもそうですが、割と活発に活動させていただいています。
――とりわけ驚かされたのが、4月に発表された「チルドレンレコード(Re:boot)」です。「カゲロウプロジェクト」を象徴する楽曲の1つを、発表から10年近くが経ったこのタイミングで改めて再構築(リブート)されて。
じん 僕は新しいものを作るのが好きなので、自発的にリブートをやろうとはあまりならないタイプなのですが、周りの皆さんからご提案いただいたことが、きっかけになったのかなと思います。10年近く前にリリースした楽曲を、今の自分が再構築・再解釈することにどんな意味があるのか、何か確信をもっていたわけではないのですが、実際にやってみたら色々な気付きもありました。
――それは例えば?
じん まず、自分は意図的に変化をしようと考えていなくても、変化してきたんだなと感じました。例えば、メロディの選び方、リズムを組み立てるうえでのテンポ感やタイミングを含めて、ある意味、他人が作ったものの感覚で聴こえたりしたんですね。
過去の自分の作ったものに「なるほど」と驚かされることもあって。で、それが、昔の自分に負けたくない気持ちが自分の中にあることに気づくきっかけにもなりました。「昔のほうが良かった」とは絶対に言わせたくないし、年を取ったとも思われたくない。なので今回のリブートも「めちゃくちゃかっこよくなったな」と言われるようなものを目標に掲げていましたし、個人的にもそれは達成できたんじゃないかと思います。
――確かにじんさんは、常に攻め続けている印象があります。あらゆる部分において、妥協を感じさせないと言いますか。
じん きっとそれが本性なんだと思います。昔から攻めていきたい気持ちが強かったし、何かしらに迎合したくない気持ちをどうやって表現するか、常にそれと戦っているところはありますね。
――その意味では、今回のミニアルバム『アレゴリーズ』も、非常に攻めた内容になっています。なんと言っても、これまでボーカロイド楽曲を中心にご自身の作品を発表してきたじんさんが、今作では全曲ご自身で歌唱しているわけですから。
じん そもそも自分のマインドとして、モノづくりや自分の表現したいことを形にするのは好きだけど、別にアーティスト然とした活動をして、みんなに尊ばれる存在になりたかったわけではないんですね。人間として生きてくなかで生まれるジレンマ、言葉では伝わらないこと。
それを音楽として表現することで、共感を繋いだり、自分だけじゃないと思うことができる。それが土台にあるので、例えば自分で歌唱することで承認欲求を満たしたいという気持ちは全然なくて。
――では、昨年8月に発表された本作収録曲「後日譚」で、初めて自ら歌唱したのには、どのような経緯が?
じん 「後日譚」はアルファポリス(小説やマンガの投稿サイト)さんのCMソングとして書いた曲なのですが、誰が歌うかはまだ決まっていない状態でひとまず曲を作って、自分で仮歌を入れて提出したら、それが「すごくいい」という話になったんですよ。そこから自分で歌をうたうことになったので、あまり策略的な意図はなかったんですけど、その流れで今まで何回か企画は持ち上がったけど実現していなかった“歌のアルバム”を、10周年のタイミングで実現させようという話になって。
――それが今回のミニアルバムに結実したわけですね。ただ「後日譚」は、ご自身の創作活動の原点を見つめ直すような内容になっていて、10周年の節目らしい楽曲にも感じました。
じん 自分の中では“モノを作り続けること”をテーマにこの曲を書きました。アルファポリスは自分の作った作品をインターネットで発表したい人が集まる場所なわけですから、それに対して自分が曲を書くとなったときに、僕は小説や物語を書く人間でもあるので、文筆家としての自分、そして音楽と自分というものを形にしようと思ったんですね。実は「後日譚」のMVを作ってくれたINPINEさんは、小学校のときからの同級生なんです。
――えっ、そうだったんですね。
じん 彼は僕が中学で不登校になっていたときに、唯一家に通ってくれていた友人で。その当時、自分が好きだったバンドの曲を聴かせたら、「すごい!」って共感してくれて、「同じ高校に入って一緒にバンドをやろう」という話になったんです。
それで僕は復学することができて、実際に一緒にバンドをやっていたんですよ。その後、お互いそれぞれの道へ進んだわけですけど、去年、縁があって話をしたときに、「また一緒にやらないか?」ということで、「後日譚」のMVを制作してもらって。MVにアクターが登場するんですけど、あれもINPINEさんご本人なんですよ。
――あのガスマスクを被った人ですか?
じん はい。当時の僕らは、北海道の田舎からどうやって自分というものになればいいんだろう?とあがいていた時期で。モノを作りたい・表現したいけど、大人は認めてくれない、どうしていいのかわからないフラストレーションを一緒に見てくれていた人物なので、音楽も映像も同じ方向を向いたなと思います。
――まさにじんさんの創作の原風景が詰まった楽曲だったわけですね。
じん そうですね。その原風景を描いたものがきっかけとなって、“歌のアルバム”を作る話に繋がっていって、僕もその流れのままに出会ったのが今回のミニアルバムというか。だから今作は本当に自然の流れで生まれた作品だと感じています。今まで以上に自分の美意識を基準に制作した、ある意味、10年目にして一番パーソナルな創作の筆致が出た作品だと思いますね。
――確かにシンガーソングライター的な側面が強く出ているようにも感じます。
もしかしたら、この作品を制作するにあたって、自分自身と向き合う機会も多かったのでは?
じん どうですかね? ただ、今までは「カゲロウプロジェクト」やそのほかの小説も含めて、長編を作ることが多かったんですよ。ほかの人や作品に楽曲提供したものは別として、単発で完結するものをあまり作ってこなかった。その意味では、今作は初めて短編集的な位置づけの作品になったと思います。僕は創作において“本を書く”という精神が大きいので、自分と向き合うというよりも、例えば「友人が死んで悲しい」だとか「日常でふいに襲い掛かってくるドラスティックな感情」みたいなものを、一作一作に分けて連作のオムニバスシリーズとしてまとめた、という印象ですね。
――だからこそ作品タイトルも、比喩や寓意を意味する“アレゴリー”の複数形となる『アレゴリーズ』にしたわけですね。
じん はい、“寓話集”的な意味合いとして。自分の中ではショートショートがやりたかったというのもあります。1曲4分程度の曲を集めるアルバムのフォーマットは、小説に例えるとショートショートだと思うんですよ。だからシンガーソングライター的な普通のことを、文筆家的な目線から作ったのが今作なのかなと。ようやく普通のものを作れたなと思います。僕の場合、出発点がロックオペラという、いびつなものだったので(笑)。
世の中に対する問題提起、あるいは“自分”を確認するための音楽
――今作は1曲1曲がどれも鮮烈ですが、なかでも堀江晶太さんが編曲で参加した「消えろ」は、ピアノとアコギを軸にした爽快にしてアグレッシブなサウンドと、ある種の痛ましさを感じさせる言葉の連なりに衝撃を覚えました。
じん この曲は“自分を殺す”がテーマなんです。日常を生きていて「よし、今日は自殺しよう」みたいな日があるんですよ。今、自分が死んだらどうなるのか、結構本気で頭の中で想像するんですよね。もちろん死なないですけど。でも、それなんですよ。なんで自分は死なないんだろうと。だって死にたいなら別に死んでもいいじゃないですか。死んだあとのことなんてどうでもいいですし。でも死なない。毎回自分を止めてる自分がいて、「誰だ?邪魔すんな」って思ったんですよね。だから「俺は死にたいのに、俺の自殺を止めるな、自分よ」という意味合いの曲。別に特別な思想があるわけではないですけど、強烈な疑問ということですよね。
――それを音楽として形にしてしまえるところが、この曲のすごさと言いますか。
じん 「音楽ってそういうことじゃないの?」と思うんですよね。問題提起というか。これは別に自分が正しいとか誰が間違っているとかではないんですけど、強烈な疑問や「これは俺だけか?」というものを世界にバン!と鳴らして、その反響によって自分が人間になるという所作こそが、自分にとっての音楽なので。そういった原点の音作りをしたのが「消えろ」です。まあ、この中学生が考えるようなことを30歳になってもまだ考えているんですよ、僕は(笑)。でもそれは本当に自分だけか? 30歳になってもふと死にたいと思う人はいないのか? 本当にみんな大人なのか?っていうテーマの曲でもあると思いますね。
――そういった無常感、あるいは取り残されていく者の寂しさや悲しみを強く感じたのが、THE BACK HORNの菅波栄純さんがeijun名義で編曲に参加した「VANGUARD」です。
じん 「VANGUARD」はアーティストの友人が死んだことがきっかけで生まれた曲で。その友人が亡くなったとき、SNSとかで、いかに彼が魅力的だったのかを語っている人がたくさんいたんですけど、なんで死ぬ前にそれを言わなかったんだって思ったんですよ。そんなものは何一つ届かないし、すごく悲しいなと思ってしまって。そういう無常を形にしたかったんですね。もちろん亡くなった人を偲ぶのは生きている人間の責任でもあるわけですから、そういう現象が起きることを否定しているわけではないです。だからこれは僕の単純な疑問や感想なんです。別にそれが正しいとは思ってもらわなくてもいいけど、「おかしくないかって思ったよ、俺は」っていう。でも、僕は人生において、この確認が何事にもまして大事なことだと思っているので、そういうものに相応しいメロディと歌詞を選びましたし、正解かどうかもわからないことに時間をかけて作りました。
――生半可な気持ちで作ったわけではないと。
じん 僕は音楽をそういうものだと思って聴いていたので。それこそTHE BACK HORNもそうですし、僕が憧れていた方々の音楽に対するスタンス、それを僕もやっているだけなので、特別なことはしていなくて。だから普通のアルバムです。
――とはいえ本作には、今までにない特別なものを感じるのも事実で。先ほどのロックオペラの話を例にとると、そういった作品の場合、物語の壮大さに比例して、作り手本人のパーソナリティみたいなものは希釈されるわけじゃないですか。
じん それは絶対にありますね。
――その意味では、ロックオペラ的な作りだったこれまでのじんさんの作品と比べて、短編集的な本作ではじんさん自身のパーソナルがより濃く出ているのではないかなと。
じん 確かにあまり希釈されていない、僕の濃いものが出ていると思います。今回、1つ1つのテーマに関して非常に考えて作ったんですよね。難しい。音楽を作るのってめちゃくちゃつらいですね。なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう?と思って。普通に仕事して、定時に帰宅して、家でNetflixをぼーっと観る生活も全然悪いと思わないんですよ。でも、そう生まれてきちゃったんですよね。
――でも、モノを作ることが生きがいだったり、自分の存在意義と感じる部分もあるのでは?
じん まったくないです。モノなんか作りたくないですよ。普通にイケメンでスポーツ万能で頭が良くて女の子にモテモテで、僕が言っていることを誰もが理解してくれる状況なら、マジで作らないと思います(笑)。でもそうではないから、やらざるを得ないからやっている。体の中に溜まっているものを出さないと、パンパンになってしまうので。
――ただ、じんさんのように多くの人の共感を得られるものを作れる才能というのは、一握りの人しか持っていないものだと思うんですよ。作りたいと思っても作れない人がたくさんいるわけで。
じん なるほど。自分にその才能があるとは思っていないですけど、確かに作りたくても作れない人がいる。うーん……でも、それは何かしらの問題があるんだと思いますよ。自分がやっていることと目指すところとの差の中に、噛み合わない何かが起きているのかなと。僕は自分が作っている曲を母がいいと言ってくれるのがすごく嬉しくて、それだけで1つ満足するところがあるんですね。でも、社会性を獲得したいという意味で、人に自分の作ったものを知ってもらいたいという動機で、本気で創作をやっていて。きっと好きだけど作れない人は、ほかで自分を満たしているんだと思います。ゲームをやる、人と話す、アニメを観る、女の子と付き合うとか。あまり認めたくはないですけど、自分は幸福への飢餓感があるからこそ、より貪欲に、暴力的に音楽の実現を果たそうとするのが、良い音楽の醸造のされ方なんだと思います。
『アレゴリーズ』の制作がもたらした気付きと手応え
――今回のミニアルバムのアニメイト完全数量生産限定盤には、じんさんが昨年12月に発表したボーカロイド楽曲「GURU」の本人歌唱バージョンも収録されます。
じん 「GURU」に関しては、僕がアルバムの制作中に、ボーカロイドの曲を作りたくなってできた曲なんです。アルバムは制作からリリースまでに膨大な時間がかかるので、日々で感じたムラッとしたことをもっとインスタントに出したい感覚があったんです。それとYouTubeチャンネルも開設したので、試しに出してみようと作ったのが「GURU」で。非常にパンチのある、バチバチした感じの楽曲になりました。
――アラビア音楽風の要素を取り入れたサウンドも印象深いですが、特に歌詞のインパクトが強くて痛烈です。
じん 確かにこれは歌詞の曲だと思います。メロディラインというよりもリフレインやリズム、ライムのノリが重要になってくるスタイルの曲だと思うので。でも言いたかったことはシンプルで、歌詞にもありますけど“自分だけ 正しいってツラしてんじゃねぇぞ”っていう。自分に対しても言っている曲かもしれないですね。
――自戒の念も込めて。
じん そうですね。自分が正しいと思ってはいけない。大いに間違っている可能性がある。でも、間違ってるかもしれないけど言うことが大事なんですよ。だから自分に対する説法ですよね。あとは“地獄のよしみだ 肩組んで往こうぜ 応報”という歌詞があるんですけど、人間はみんな偉いも偉くないもないじゃないですか。みんな誰かを助け、誰かに助けられて生きているし、「偉い」とか「強い」ではなくて、みんな「弱い」からこそ世の中が回っているんじゃない?という感想を、曲として
残したかったんです。さらに言うと、単純にアコギをたくさん弾きたくて作った曲ですね(笑)。
――アコギと言えば、本作の初回限定盤Bには、じんさんが過去に提供した楽曲を弾き語りでセルフカバーした音源が収録されますね。
じん 僕はそもそもバージョン違いという手法が大好きで、某ゲームとかでも色違いのものは全部ほしくなるんですよ(笑)。車にせよ色が1色しかないと寂しいですし、色んな形があるのは楽しいじゃないですか。で、今回のアルバムも色んな特色のあるものを作ろうとなったときに、僕の弾き語りを収めさせていただくことになりました。今どきは機械の力で、ギターと歌を別々に録って弾き語り風にすることもできますけど、今回は僕が1人でスタジオに入ってギターもしくはピアノのみで実演するという、マジで容赦ないスタイルになっています(笑)。
――聴かせていただきましたが、とても生々しくて、今までにないじんさんの表情を感じることができました。
じん 1人の人間が楽器一本と歌で実演するのは、自分が今までボーカロイドと物語を用いてやってきたこととは対極の表現方法だと思うので、それを自分がやるのはいかがなものかなと思ったのですが、でもこのやり方じゃないと出てこない面白いものになったと思います。芸術ではなく、人間動物園を見にきていただく感じと言いますか(笑)。提供曲もすべてその瞬間、僕が共感と同調して生まれてきたものですし、原曲をそっくりなぞろうとするのではなく、インスピレーションでやっているので、新しい発見もあるかもしれません。ぜひ手に取っていただきたいです。
――繰り返しになりますが、今作は初の本人歌唱作品という部分も含め、じんさんのパーソナルそのものがより濃く反映されたものだと思いますし、10周年を迎えたこのタイミングでそういった作品を作るのが、今のじんさんにとっては必要な行程だったのかなと、今回お話を聞いて感じました。
じん 本当にそうですね。もちろん作品としてはいい形になりましたけど、制作していて途中から気付いたのは、これは1枚のミニアルバムで収まる企画ではないんですよ。この視点でモノづくりをやるべきという手応えも感じたので、それが連作になるのかフォーマットはわからないですけど、この先も続けていければと思っています。めちゃめちゃいいと思うんですよね、このアルバム。これを好きと言う奴のことは、俺は好きです。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●リリース情報
じん ミニアルバム
『アレゴリーズ』
2022年2月16日(水)発売
【初回限定盤A(2CD)】
品番:TYCT-69222/3
価格:2,750円(税込)
<DISC1>
M1. Avant -Instrumental-
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. VANGUARD
M6. FREAKS
M7. Blank page -Instrumental-
M8. 後日譚
M9. Dedicate -Instrumental-
<DISC2> *ボカロ盤
M1. GURU
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. FREAKS
【初回限定盤B(2CD)】
品番:TYCT-69224/5
価格:2,750円(税込)
<DISC1>
M1. Avant -Instrumental-
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. VANGUARD
M6. FREAKS
M7. Blank page -Instrumental-
M8. 後日譚
M9. Dedicate -Instrumental-
<DISC2> *アコースティックアレンジによるセルフカバー盤
M1. Into the blue’s
M2. Life is tasty!
M3. ステラ
M4. オントロジー
M5. プルメリア
【通常盤(CDのみ)】
品番:TYCT-60188
価格:1,980円(税込)
<DISC1>
M1. Avant -Instrumental-
M2. 消えろ
M3. ZIGI
M4. MERMAID
M5. VANGUARD
M6. FREAKS
M7. Blank page -Instrumental-
M8. 後日譚
M9. Dedicate -Instrumental-
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