正統派の中世風ファンタジー世界で、シンプルで愛らしい見た目のキャラクターたちが繰り広げる、熱く、深く、泣ける物語。そんな『王様ランキング』の世界を、極めてエモーショナルに彩る素晴らしい劇伴の数々を手がけたのは、シンガーソングライター・ゆうまおとしてもアニソンファンにはよく知られている作曲家のMAYUKO。
数々の作品で活躍してきた彼女だが、CDでは3枚組となる大作劇伴を手がけるのは今回が初。音楽に込めた想いを、原作から愛読していたという作品への熱い思い入れとともに語ってもらった。

原作との運命的な出会い
――元々原作コミックをお読みになられていたそうですね。

MAYUKO はい。原作が単行本化される前、ネットでいわゆる「バズった」ときに、ちょうどTwitterのTLで流れてきて、「これはなんだろう?」と思って読み始めて。元々ネットでマンガを読む習慣がなかったので、無料でものすごい量が読めてしまうことに驚きながら、一気に読みました。「なんて面白いんだ!」と思って、読み終えてからもずっと「王様ランキング」という名前が心に残っていましたね。

――となると、依頼があったとき、驚かれたんじゃないですか?

MAYUKO すごく驚きました。あと、どうして読み終えたときに「『王様ランキング』面白い!」ってツイートしなかったんだろうって後悔しましたね。一言書いておけば記憶にも記録にも残ったのに(笑)。

――たしかにそれは悔しい。でも、運命的な流れですね。


MAYUKO 本当に。自分の大好きな作品のアニメ化でたまたまお声掛けをいただけるなんて、運命的なものを感じました。原作だけじゃなく、1クール目の曲を作っている最中に、原作者の十日草輔先生のエッセイがあると知ったんです。それを読んだらもう、ダーダーと勢いよく泣いてしまって。「私、この作者さんのために頑張りたい!」と、もう一段やる気のギアが上がったんです。元々頑張って作っていたんですけど、もっと頑張りたいなって。

――劇伴の制作に入るにあたっては、まずどんな打ち合わせをされたのでしょう?

MAYUKO まずスタッフの皆さんからは、「中世の雰囲気を出したい」ということと、あとはやっぱり、王様がいて、王妃様がいて、王子様がいる世界……「王国」の話なので、煌びやかな音楽がほしいとお話がありました。ここでいう「煌びやかな音楽」とは、イコール、オーケストラ、生楽器の壮大な音楽ということですね。

――今回発売されるサウンドトラックは3枚組、2クール作品としても膨大な曲数がありますが、その時点でもう曲を多く作ることは確定していたんですか?

MAYUKO そうですね。そのときいただいた音楽メニュー表に、1クール目に使う曲だけで、たしか72曲と書かれていました。打ち合わせの場で初めて渡されたので、同行したスタッフさんと「うっ……多いね?」みたいな感じで、驚いて目配せをしたのを覚えています(笑)。でもそのあと、なぜ曲数が多くなったかも説明があって。


――どんな理由だったのでしょう?

MAYUKO ボッス王国側の人間とそれ以外……例えば魔物であったり、オウケンやデスパーといった冥府のキャラにあてる音楽とで、雰囲気を少し変えたい、と。それで単純に、倍くらいになってしまったと説明があったんです。それを聞いたら、「なるほど、じゃあ頑張るしかないですね」と納得しました。

――曲数もですし、バリエーションもかなり求められるオーダーですね。発注時にはどれくらい、個々の曲に具体的な曲調や楽器編成の指定があったのでしょう?

MAYUKO 曲によってはすごく細かく指定があったものもありますし、逆にお任せいただけたものもあります。バトル曲はほとんど指定がなかったですね。バトルの大小の規模感だとか、勝っているとき、ピンチのとき、みたいな住み分けだけでした。特別な指定があったのはデスパーさんの曲(「デスパーさぁん!!」)で、ジャズと初めから指定がありました。ホーンセクションの入っている、ブンブンいうような、いわゆる陽気なジャズをください、と。それが一番尖っているリクエストだった気がします。

――彼の異質な感じが出ていました。

MAYUKO あの曲だけ取り出したら、多分『王様ランキング』のサントラの曲とは思わないですよね。
あとは指定といえば、「ボッジのテーマ」。ボッジが動き出したり、感情を揺さぶられたときに流れる曲に、必ず使う楽器を1つ作ってほしいと指定がありました。楽器は「笛かなぁ?」くらいまではリクエストがあって、私の方でかわいらしいイメージのある縦笛に決めて。結局縦笛の中でも、普通のリコーダーよりも一回り小さいソプラニーノリコーダーにしてみました。初めて使った楽器だったんですけど、意外と音域も広くて、音の抜けも良くて、すごく良い楽器だなと思いました。今考えても、ボッジの楽器にして正解だったなと思います。

――今では作品のトレードマーク的な雰囲気もあって。

MAYUKO そうなんですよね。アニメを制作しているWIT STUDIOさんの配信番組に出演させていただいたときに、持っていったんです。それでリハーサルの段階でちょっと吹いたら、それだけで周りがザワッ!となって。「ボッジがいるよ!」みたいな。それくらい印象的な音が一発で出せる楽器なんですよね。



音大の素養とシンガーソングライターとしての一面と
――制作にはすんなりと入れたのでしょうか?

MAYUKO 打ち合わせしました、家に帰ってきました、じゃあ、作業するぞ! ……みたいに、すぐに取り掛かれる物量じゃないなと思いましたね(笑)。なので、作曲の前段階で自分の中に『王様ランキング』の世界観みたいなものをしっかり作ってから、インプットしてから出そうと思ったんです。1週間くらい、そこからずっとピアノを弾いていました。

――何を演奏されていたんですか?

MAYUKO ベートーヴェンやショパン、メンデルスゾーンといった、いわゆるクラシック音楽です。私は音大に通っていたんですけど、その頃はもちろんクラシックばかり弾いていたし、音楽に関する勉強もクラシックのものでした。そのときの感覚を取り戻そうと思ったんです。クラシック音楽を弾き続けることで、感覚を取り込んで、そのうえで自分の中で何が出てくるか、『王様ランキング』の曲としてどんなものが出てくるかな……と。実はそれで1曲目に自分の中から出てきたのが、先ほど触れた「ボッジのテーマ」だったんですよ。

――作品の象徴的な曲が。

MAYUKO で、私、元々シンガーソングライターとしても活動していたので、その感覚で印象的なフレーズに歌詞を付けちゃおうと思ったんです。「ボッジとカッゲ~♪」と(笑)。

――「ボッジのテーマ」の出だしですね。
ぴったりの歌詞ですが、それはなぜ?


MAYUKO 歌詞を付けると、大事なフレーズとして自分の中で育てることができるんです。ただの鼻歌くらいにしか意識していないと、メロディが動いたり、リズムが変わってしまうことも多くて。でも歌詞をバシッと付けると「それしかない!」って、自分の中にずっと残しておける。2クール目にはボッジのかわいいシーンがほとんどなくて、バトルシーンが多くなるんですけど、それでもクライマックスで流れる曲にそのメロディを1回だけ使っているんです。気づいてもらえるかどうかわからないくらいの使い方なんですけど、でも私の中では「絶対にこのフレーズ、入れたい!」とこだわりました。入れなくても曲は完成できるけど、入れたい! と。そういう気持ちを最後まで持ち続けて、作品の要所ごとにそのメロディラインを使えたのは、歌詞を付けたからじゃないかなと。曲数も、曲調のバリエーションも多かったですけど、そのメロディを作品に散りばめることで、音楽全体のイメージを取りまとめることができたのは、すごく良かったです。

――シンガーソングライター・ゆうまおとしての一面が、劇伴制作に活かされているのはとても面白いです。

MAYUKO 基本はピアノで作曲しているんですけど、困ったら歌ってメロディを作ることもあります。必殺技じゃないですけど、「自分には歌があるから」という気持ちは、どこかにありますね。困ったら歌えば正解が見えてくる、みたいなところがあるんです。
メインテーマがまさにそうでした。あの曲のイントロは、ベートーヴェン的なんです。ものすごく隠しているので、絶対にどの曲を参照しているのかはわからないと思うんですけど、自分の中では「これはベートーヴェン風だ」とわかりながら作っている部分があるんですね。で、ベートーヴェンでイントロを作って、サビは自分のオリジナルな感じで作ったんですけど、間のAメロ、Bメロがすっぽり抜けてしまい、書けなくて2日くらい悩んで。そのときに同じ事務所の作曲家の友達に、「歌ってみればいいんじゃない?」と言われたんですね。それでイントロからサビに向かってメロディを口ずさんでみたら、すぐ出たんですよ。

――曲の中にも歌が活かされているものがありますよね。

MAYUKO ミランジョ関係の曲ですね。彼女の曲には女声コーラスを絶対に入れるというルールを作っていたんです。それは発注時のリクエストでもありましたけど、なんとなく女性らしさだったり、魔女のちょっとした気味の悪さというか、不思議な感じを出すために使いたかったんです。「じゃあ、自分で歌おう」と(笑)。ミランジョもボッジと同じく出番が多いし、最後まで登場し続けるキャラクターなので、関連曲に縛りを作ってあげようとも思って。女声コーラス以外に、リズムは三拍子、それから、浮遊感のある鐘の音を入れておく、と。この3つが、ミランジョの曲のルールになっていますね。

――本編での音楽の使われ方で特に印象に残ったところは?

MAYUKO 一番グッときたのは、九話のヒリングが「ダイダを返しなさい!」とボッスが中に入ったダイダに絶叫して詰め寄っていくシーンですね。あそこで流れているのは「決意のコンチェルト」という曲なのですが、作ったときの自分のテンションがすごく高くて。音楽メニュー表で使われるシーンが指定されていた曲で、息子を絶対に取り戻すというヒリングの、母親の強い気持ちは、やはり女性として強く印象に残るものだったんです。『王様ランキング』は、私の理解では「大事な人を守りたい」と考える人たちのお話がずっと進んでいく物語なのですが、その中でもヒリングのダイダへの気持ちはグッとくるな、と。だから特に大事に作りたいと思っていて、ピアノコンチェルトとしてまず完成させてから、あとでアレンジ(編曲)をしようと考えたんです。

――ほかの曲とは作り方が違ったんですか?

MAYUKO 普段はPCの前にあるキーボードを使っていて、弾いたものがすぐ録音できる状態で作業しているんです。でも「決意のコンチェルト」はそうではなくて。アップライトピアノが家にあるのですが、そのピアノとだけ向かい合って、指が覚えるまでその曲を作り上げたんですよね。そうしてからじゃないと、ヒリングの気持ちに勝てないと思って。それだけ想いを込めて作った曲が、ほぼフルで使っていただけた。劇伴の曲がフルでかかることってそんなにないんです。どこかで切られたり、途中で終わったり。でもあのシーンではほぼ全部かかったので、よっし! とガッツポーズしました(笑)。

――想いが通じたような感じですね。

MAYUKO あとは細かいところですが、七話と十話。いわゆる「音ハメ」と言われる技法で、セリフのタイミングと音楽がピタッと合う瞬間があったんですね。「ボッジ大冒険」という曲が使われているところなんですけど、ボッジとカゲがデスパーさんのところで修行を始めて、朝お掃除をして、2人が「お前も頑張れよ」みたいな感じで挨拶をする一瞬のシーンがそう。あれは(音響監督の)えびな(やすのり)さん、合わせてきたな!と痺れました(笑)。十話の喧嘩のシーンもですね。ボッジが拳を突き出すシーンが、曲の最後にハマっていた。意識をしないとあそこまで綺麗にハマらないと思うので、関係者の皆さんの愛を感じました。BGMで遊んでいただけるのって、私にとってはすごく嬉しいことなんです。次にお会いしたときにはぜひお礼を言いたいですね。

OSTならではの『王様ランキング』の世界
――サウンドトラックの曲順はMAYUKOさんご自身でお決めになられたのでしょうか?

MAYUKO はい。全部任せていただいたので、曲順も曲タイトルも自分で考えさせていただきました。時間はかかりましたね……10日くらいは。曲を並べてみては、こっちかな、あっちかな……と。3枚組なので、どこでディスクを切り替えるかも気になってしまって。ディスクの1曲目と最後の曲は、やっぱりちょっと大事な曲にしたいなあ……でもこの曲とこの曲は続けて聴いたほうがいいよなあ……とか、あれこれ考えて、少し泥沼にハマりました(笑)。

――お気持ち、わかります。

MAYUKO とはいえ、基本的には曲順は一話から出てきた順なんです。1枚目はメインテーマ(「王様ランキング-メインテーマ-」)から始まって、2曲目の「王様ランキング-勇気!-」はその崩し(アレンジ)。3曲目の「ボッジの朝」からは、ボッジの世界が動き出して……と、本当に出てきた順に並んでいます。聴くだけで作品を見ているような感覚になっていただけるかと。実は曲順を決めるの以上に、タイトルをつけるのに時間がかかって……。

――そうなんですね。

MAYUKO 説明しすぎず、ネタバレしすぎないタイトルにしようと思ったんです。あとはバトル曲でも、「○○バトル」みたいな安易なタイトルをなるべく避けて、「ボッジ戦闘態勢」とか、ちょっとかっこいい感じに(笑)。全体的に意識したことは、わかりやすいけど軽すぎないタイトルを付けることですね。「決意のコンチェルト」だとか、「私はあなたを守れます」みたいに、この物語の奥深さみたいなものを感じられるタイプのタイトルもたくさんついていると思います。

――サウンドトラックという形態ならではの、お薦めの楽しみ方があったらぜひ伺ってみたいです。

MAYUKO やっぱりサウンドトラックとして世に出ると、「こんな曲も『王様ランキング』ではあったんだ!」みたいな体験が絶対あると思うんですよ。例えば、本編ではあまり大きい音で鳴ってない曲だとか、頭の10秒しかかかってない曲だとか。本編で印象的に使われている曲もあるでしょうけど、そこまでじゃない曲がある。その両方が同じ音量で並んで、しかもフルサイズで収録されていることで、聴こえ方が変わってくる曲がきっとあると思うんです。本編のどこで使われていたのか思いつかないけど、でも安心するとか、優しい気持ちになるとか、元気になるとか……。そんな新しい発見がきっとあると思うので、お薦めというか、サウンドトラックの中で改めてお気に入りを見つけるような聴き方をしていただけたら嬉しいですね。

――シーンにあまりに自然に馴染んでいたので聴き流していたけれど、サウンドトラックで聴くと音楽的な面白さに気づくようなものってありますよね。

MAYUKO あとはメインテーマの崩しの多さなどにも、驚いていただけるかもしれないですね。実はよく聴いてみると、あの曲も、この曲もメインテーマのメロディを使っているんです。結構崩したり、テンポが変わったり、楽器が変わったりしてるので、パッと聴くだけではわからないようなものもあると思います。「ボッジとカッゲ~♪」のフレーズもそうですね。そういう発見の多い作品になっていると思います。

――謎解きのような楽しみ方もできる。

MAYUKO あと、この作品はありがたいことに、ライナーノーツを全曲分書かせていただけたんです。1曲ごとに「実はこんな隠しワードが……」とか、「実はこんなコンセプトが……」とか、「この楽器を使っていることにはこういう意味があって……」とか全部書いているので、もし興味があったら、読みながら1曲ずつ「そんな裏事情が!?」とか、「そんなリクエストが!?」とか、考えながら聴いていただいてもいいかもしれません。深堀りがいくらでもできるようなライナーノーツを書いたつもりなので、合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

――話を聞くほどに、作曲家、劇伴作家としてのキャリアの中でも、かなり手ごたえがあったような印象を受けます。ご自分にとって重要なタイトルになった感触はありますか?

MAYUKO いやもう、まずなにより、3枚組のサントラが出るような作品なんて、最初で最後じゃないですか(笑)。

――いやいや、そんな。

MAYUKO 正直なところ、お話をいただいた直後は、「私で大丈夫ですか!?」とビビる気持ちもあったんです。アニメの劇伴はまだ3作品目ですし。でも手がけてみたら、素晴らしいサントラが、私の力というより、皆さんのおかげで出来上がって。マネージャーからも、「MAYUKOさん、こんなバトル曲が書けるようになったんですね」と言われたりもして(笑)。

――新しい扉も開けた。

MAYUKO 都合半年くらい、ずっと『王様ランキング』の曲を作り続けていた計算になるんですけど、その間、別の仕事をやりつつも、基本的に心はずっと『王様ランキング』のことを考えていたんです。これは半分余談ですけど、友達との旅行から1人だけ日帰りで帰ってきて作業をしたこともあるんですよ。「『ボッジのテーマ』が気になるから」って。丸1日休んで、「王様ランキング」のことからちょっとでも気持ちが離れるのが嫌だったんです。だからアニメの終わりが近づいてきて、寂しい気持ちがありますね。でも、終わるからこそサントラを発売していただけるわけでもあって。サントラを聴いてもらうのもすごく楽しみなので、今は複雑な気持ちです(笑)。

――今日の取材でも感じましたし、SNSや配信番組での公式関係者の方の発言を見ていても感じるところですが、本当にこの作品は関係者の皆さんの愛が深いですね。

MAYUKO 色んな方とお話させていただくたびに、スタッフが本当にみんな、この作品が大好きなことが伝わってきます。あと、作品に関係したインタビューの現場でも、すごい前のめりで話を聞いてくださるインタビュアーの方ばかりで、なんだかそんなことも嬉しいですね。本当に、関われて良かった作品です。サウンドトラックも、ぜひ、たくさんの人に聴いてもらえたらなと思っています。

INTERVIEW & TEXT BY 前田 久

■【スペシャル対談】『王様ランキング』日向未南(ボッジ役)×村瀬 歩(カゲ役)はこちら

●リリース情報
王様ランキング
オリジナルサウンドトラック
2022年3月23日(水)発売
配信リンクはこちら

価格:¥4,180(税込)
品番:SVWC-70573~70575

・描き下ろしジャケット
・セルフライナーノーツ

■初回仕様限定盤特典:三方背ケース
※特典内容および仕様は予告なく変更になる場合がございます。

関連リンク
MAYUKO 公式Twitter
https://twitter.com/MAYUKO_YUMAO

TVアニメ『王様ランキング』公式サイト
https://osama-ranking.com/

TVアニメ『王様ランキング』公式twitter
https://twitter.com/osama_ranking
編集部おすすめ