八木沼悟志と南條愛乃によるfripSideの第2期ラストを飾るアルバムとなる『infinite synthesis 6』。約13年もの歴史やファンへの想いが詰まったアルバムの制作で、八木沼悟志が南條愛乃へ贈ったプレゼントとは何だったのか――?“Phase2 Final Arena Tour”を控えた2人からのメッセージをお届けする。


ラストを飾るのにふさわしいアルバムに
――『リスアニ!Vol.47.2「fripSide音楽大全」』で、「これが第2期最後のインタビュー」と言ってエモい感じで終わったのですが、このアルバムのインタビューが残っていました(笑)。

南條愛乃 そういえば全然残っていましたね(笑)。

――『infinite synthesis 6』の話を聞かないと終われないぞということで(笑)、第2期最後のアルバムとなる本作、制作するときはどんなお気持ちでしたか?

八木沼悟志 実は当初、このアルバムを作る予定はなかったんですよ。僕が西村(潤/NBCユニバーサルの音楽プロデューサー)さんに頼んで、「アルバム作りましょうよ」って言ったんです。やっぱり第2期の“ケジメ”じゃないけど……。ちゃんとアルバムで最後を、というのはありましたね。もちろん制作を始める当初から、ラストを飾るのにふさわしいアルバムにしないといけないなという気持ちでいました。

――南條さんはアルバムを作るというお話を聞いたときはいかがでしたか?

南條 ラストをどう締め括るかは二転三転していたのですが、「アルバムを出してラストになります」ということになったので、ちゃんと締まって終われる感じがして良かったなと思いましたね。最後に歌詞で何かを残せたらいいなと思っていたので、そういう意味でも、後悔なくやり切ってすっきりとした気持ちでラストを迎えられたらいいなって。

――『infinite synthesis 6』の曲を聴き、様々なアプローチの歌詞を見ると、色々深く考えてしまうところがどうしてもありますね。

南條 そうですね。今までの「infinite synthesis」シリーズは、その時その時のfripSideの旬が詰まっているアルバムだったのですが、今回は「卒業」という意味合いをもっていて、でも「infinite synthesis」シリーズでもあるという。


八木沼 やっぱり最後だから第2期の約13年、原点回帰から最新の僕たちのトレンドまで含めて、全部振り返りたいな、と。それに加えて「こういう曲をやりたい」とか「こういう曲をやり残したな」とかいうのもやっておこうということですね。サブタイトルをつけるとすると、『infinite synthesis 6~Phase 2 Final 卒業スペシャル』みたいな(笑)。

――春の特番みたいですね(笑)。色んな要素が含まれたアルバムの中で、曲名が発表された時点でみんな驚いたのが1曲目「stay with you -ver.2022-」です。これを録り直して、しかもこの曲から始まるという構成にしたのはどういう発想だったのでしょうか?

八木沼 エモいかなと思って(笑)。まだ録音する段階ではこれは最後の曲にしようと思っていたんです。でも、いざ並べてみたときにこれは1曲目でアンセムにしたほうが絶対ハマるなと思って、1曲目にしました。

――なるほど、録ったあとで曲順を変えたんですね。およそ10年前の曲ですが南條さんはいかがでしたか?

南條 まさか1stアルバムで書いた歌詞を、10年の時を経てもう一度歌うとは思わなくて、びっくりでしたね。しかも歌詞もリスナーさんに寄り添うような形で書いていたので、10年前からこのときを予言していたようで(笑)。10年前と今が繋がったことに物語性があるなと思いました。
あと、当時は声がピュアピュアなので、今歌えるのかな……というそこはかとない心配が(笑)。でもその違いも楽しんでもらえるんじゃないかと思います。

――ここから「Leap of faith」に流れる展開がものすごくきれいで、ストリングスを使う昨今のfripSideの流れを踏まえたのかなと思ったのですが。

八木沼 アルバム全体の中で1曲目と2曲目と4曲目はストリングスを録っていて、特に1曲目と2曲目は同じストリングスチームなんですよ。なので、音も同じだからすごくシームレスに繋がるんじゃないかと思いますね。

――この1~4曲目の流れの中に「endless voyage」が挟まる流れは、今のfripSideをすごく感じるのですが、この曲の制作はいかがでしたか?

八木沼 「endless voyage」は『Decade』や『infinite synthesis 2』の頃を思い出しましたね。素直なfripSideサウンドではあるんだけど、今乗せられる僕と南ちゃんのエッセンスが乗っているんだと思います。

南條 冒頭の“光溢れている 君と辿りついた場所”という歌詞も、色んな捉え方があると思うんですけど、私の中ではライブステージから見た照明やペンライトが思い浮かんだので、ファイナルライブを意識しながら歌いました。

――また「Your breeze」と「regret」はsatさん(八木沼)のfripSide以前の曲となるんですね。

八木沼 そうですね。僕が昔やっていたユニットがあって、そのときに作った曲だから、25歳くらいですかね。「eternal pain」という曲(『infinite synthesis』収録)でもやったんだけど、それと同じです。
この2曲もいつかは南ちゃんに歌ってもらいたいなとずっと思ってたんだけど、やらないままここまできちゃったので、どうしてもと思って今回実現しました。

――この2曲は少しテイストが違う曲ですが、南條さんとしてはどんなアプローチをされましたか?

南條 最近の曲と比べると息継ぎがすごく少なくて、昔作った曲だと聞いて、「なるほど、そういう変化もあるんだ」と思いました。初期に作った曲だと知らなかったので、「Your breeze」の歌詞の“若かったね 僕も君も”“学校帰り遅くまで”って、すごい若いところまで遡って歌詞を書かれたんだなと思ったんですけど(笑)、20代前半くらいに書いたと聞いて、当時はそんな遠い過去でもなかったんだなと思ったりして。fripSideで“学校”というのはあまりないワードなので、新鮮でしたね。

ファンには笑顔でいてほしい
――逆に新鮮さがあるのが、「The wind in your heart」で、これは南條さんの作詞ですがいかがでしたか?

南條 今回のアルバム制作の初期に書いた曲です。繰り返しのメロディが多かったので、なるべく言葉もシンプルに重ねつつ、でも違うことを歌って、情景と置かれている環境を書けたらいいなと思って進めていきました。物語チックにするというよりは、いつもとは違う書き方をしたなという感じですね。広がりや自由な感じ、理性は置いておいて身軽になって、その人その人が持っている本質的なものが書けたらいいのかなという想いで書いた記憶があります。

――今回、南條さんの歌詞は楽曲によって様々なアプローチがあって、fripSideで培ってきたものをすべて注ぎ込むような感じがします。「With falling snow」はまさにfripSideとしての十八番(おはこ)という曲ですね。

南條 最初、この曲の資料をもらったときは普通の作詞資料だったんですけど、別の曲のレコーディングのときにsatさんが「冬の曲を送っておいたから」と言ってたので、この曲は冬だったのかって(笑)。fripSideで冬といえsnowシリーズなので、じゃあタイトルに「snow」を入れときますねって(笑)。
この曲はアルバムの中でもfripSide的物語で書いている歌詞になっていると思いますね。

――「preparedness star」も第2期の歴史を感じさせる曲で、南條さんのリアルな感情が出ている印象です。“覚悟”というワードを用いているのも歴史を感じますね。

南條 この曲を聴いたときに“覚悟”というワードを絶対入れようと思ったのが最初の取っ掛かりでしたね。fripSideを聴いているお客さんたちって、曲調も相まって、背中を押される感じだったり、モチベーションに変える力を楽曲からもらってる人が多いんじゃないかなと思うんですよね。「やるぞ!」とか「負けないぞ!」みたいな。そういった歌詞を最後に残しておきたいなという……置き手紙です(笑)。割と最近の私の歌詞の傾向だと「生きる」とか「ありのままでいいじゃない」ということを歌詞にすることが多かったのですが、メラメラと目標に向かって進んでいきたいという歌詞を書いてみようって。

――その一方で、satさんの歌詞ですが、「faraway sky」「on this night」の2曲はストレートなfripSideの世界を書いていて、satさんの想いが投影されている印象がありました。

八木沼 僕の歌詞って曲に引っ張られるので、曲を作っているときに構想しているテーマに沿っていることが多いんです。「on this night」って作曲の段階で“夜”のイメージがあって。夜って、制作しかしてないんですよ、この十何年。
だから、制作しないで遊びに行きたいなという気持ちなんじゃないかと(笑)。

――真面目な話、だからこそ今のfripSideとは違うミクロの視点、私的な視点みたいなのが感じられるのかもしれないです。

八木沼 一番ミクロかもしれないですね。南ちゃんの卒業というのを一番意識しなかった曲で、そういうのがないとアルバムとしてバランスが取れないですから。それで結果、面白い曲が出来たからいいんじゃない、っていう感じですね。

――そして最後の曲、「Dear All」ですが、この曲はタイトルが発表された時点からファンの皆さんも感慨深いものがあったみたいですね。この曲を1つの象徴にしたいという想いが初めからあったのでしょうか?

八木沼 そうですね、そういう想いはあったけれど、南ちゃんがどんな歌詞を載せてくれるかは未知数だったので……。でも、思ってた通りドンピシャな歌詞をくれて。これはもうラストに置くしかないなと、歌詞をもらった段階で思いました。

南條 私はまさか曲順がラストになるとは思っていなくて。明るくもあるんだけど、明るいだけじゃないし、どういうテンションで歌詞を書こうかなって考えた曲ですね。卒業アルバムみたいに自分目線の振り返りという曲が、ラストだしあってもいいのかなと思って、そういうテーマで書いてみたら筆が進んでいきました。


――fripSideのファンの方々に向けた曲でもありますよね。

南條 そうですね。今回、ファンの皆さんに自分はどういう歌詞を残していけるんだろうっていうのが、自分の中での大きなテーマになっていたんですね。そういう気持ちだったから、今回「preparedness star」以外の全部の曲に“笑顔”という言葉が入っているんだと思います。ファンの皆さんには笑顔でいてほしいっていうのが、多分無意識のうちにあったんだろうなというのを歌詞を読み直してすごく思いました。1stアルバム『infinite synthesis』の「meditations」の歌詞が当時の心境を自分なりに書いていたもので、自分の中のもやもやしたものを歌詞にしたものだったんですね。そんな私が13年間fripSideをやって、最後にどういう歌詞を書くのかなっていうのは客観的な興味もあったんですよね。その結果、「Dear All」という歌詞を書けたのは、fripSideでいい歩みをさせてもらったからなんじゃないかなと感じていますね。

――最後にここに着地したというのはエンディングとしてふさわしかったんじゃないかなと思います。

南條 最初にsatさんがこのアルバムを作ろうって提案したって言ってましたけど、最後がビジネスライクなものじゃなくて、気持ち良く終わっていけるようなものを提案してもらえて、本当に良かったです。やっぱり終わりが良くないと、過程がどんなに良くても苦い印象で記憶に残っちゃうと思うので。できる限り、未練なく、清々しく終われたらいいなと思っているので、今回たくさん歌詞を書けて良かったです。

――ちなみに、一番最後に録った曲はなんだったんですか?

南條 「stay with you -ver.2022-」を最後に録ろうって言ってたんですけど、結局「faraway sky」が最後になりましたね。

――録り終わったときの感情はどうでしたか?

八木沼 そりゃ寂しいですよ。初代のマネージャーが来たりしてね。それで、南ちゃんに僕からプレゼントしたんですよ。

南條 お花をいただきました。fripSideカラーの。

八木沼 やっぱメモリアルだし、百何十曲も南條愛乃と八木沼悟志のコンビで作ってきたので、それの最後というのは僕も感慨深かったですね。この先、一緒に音楽を作ったり、fripSideに帰ってきてもらって録るというのはもしかしたらあるかもしれないけど、純粋に第2期fripSideとしては最後なので、寂しくもあり……。fripSideのプロデューサーとしては、南ちゃんが頑張ってくれた13年というのがあるので、最後にアルバムという形でちゃんと節目を迎えてもらいたかったし、スケジュールが許す限り、たくさん歌詞を書いてほしかったんですよね。なので最後にこのアルバムを作ることができて本当に良かったです。

南條 こうやって一つひとつ終わりを迎えていくというのは、卒業してから振り返ると思い出すポイントにはなると思うんですけど、レコーディングが終わった直後の実感としては、「無事に録り終えて良かったな」「次はライブだな」「大きな花束いただいてすみませんありがとうございます」ですね(笑)。ちゃんとお家に帰って飾ってました(笑)。

八木沼 それは良かった(笑)。

――今南條さんからもありましたが、いよいよファイナルツアーが始まります。最後に、ツアーに向けての意気込みを聞かせてもらえますか?

南條 とはいえ、まだリハが始まってなくて「本当に大丈夫なのかな」って急に心配しだしてるんですけど(笑)。できることを頑張ってやるしかない!っていう気持ちです。準備でバタバタしてるうちに終わりそうな気がするので、とりあえず頑張ります!感傷に浸るのは終わってから、ひっそり1人でやることになりそうですね……。そんな感じなのですが、これもこれで最後までfripSideらしいなって気がしますね。

八木沼 今新曲の譜面をとってるんですけど、久しぶりに鍵盤を弾いたら、全然指が動かないんですよ(笑)。なのでリハビリしときます……頑張ります!

――さて、これでお二人にお話を聞くのは今度こそ最後なのでしょうか……(笑)。

八木沼 え~、ライブ終わったあとに取材はないの?(笑)

――どうでしょう、リスアニ!とfripSideの関係はまさに“endless voyage”なので……(笑)。

八木沼 永久に不滅です(笑)。なのでこれからもよろしくお願いします!

INTERVIEW BY 澄川龍一
TEXT BY 金子光晴

●リリース情報
『infinite synthesis 6』
3月23日発売

【初回限定盤(CD+Blu-ray)】

品番:GNCA-1610
価格:¥5,830(税込)

【初回限定盤(CD+DVD)】

品番:GNCA-1611
価格:¥5,830(税込)

【通常盤(CD)】

品番:GNCA-1612
価格:¥3,300(税込)

<CD>
1. stay with you -ver.2022-
2. Leap of faith(TVアニメ「失格紋の最強賢者」オープニングテーマ)
3. endless voyage
4. legendary future(TVアニメ「キングスレイド 意志を継ぐものたち」オープニングテーマ)
5. Your breeze
6. for Seasons(WEBアニメ「Sapreas」主題歌)
7. worlds collide(「とある魔術の禁書目録 幻想収束」第2期オープニングテーマ)
8. The wind in your heart
9. faraway sky
10. With falling snow
11. preparedness star
12. on this night
13. regret
14. Dear All

<Blu-ray/DVD>
・「endless voyage」MV(新曲)
・「endless voyage」MV Making
・fripSide Phase 2 : 10th Anniversary FINAL in YOKOHAMA ARENA(約1時間に編集した映像)
・インタビュー映像
・SPOT

●ライブ情報
「fripSide Phase2 Final Arena Tour 2022 -infinite synthesis:endless voyage-」
全会場:全席指定(¥9,900 税込)
4月2日(土)【愛知】愛知県国際展示場ホール(開場14:30/開演16:00)
4月9日(土)【兵庫】神戸ワールド記念ホール(開場14:30/開演16:00)
4月23日(土)【埼玉】さいたまスーパーアリーナ(開場15:30/開演17:00)
4月24日(日)【埼玉】さいたまスーパーアリーナ(開場14:30/開演16:00)

●発売情報
「リスアニ!Vol.47.2 fripSide音楽大全」(リンク:https://www.lisani.jp/0000197715/)
2022年3月23日(水)発売

定価(紙版):¥1,760(本体:¥1,600+税10%)
発行・発売:株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ

定価(電子版):¥1,650(本体:¥1,500+税10%)
Reader Storeにて2週間先行販売
https://ebookstore.sony.jp/item/LT000162611001456333/
発行:株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ
発売:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
※他ストアでの販売も予定しています
※電子版に付録CDは付きません

【内容】
・新規撮りおろしロングインタビュー
・リスアニ!掲載インタビューアーカイブ
・バンドメンバートークセッション:八木一美(ds)×大島信彦(g)×星野 威(g)×キタムラユウタ(b)
・クリエイター鼎談:八木沼悟志×川﨑 海×齋藤真也
・西村 潤(NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)×石原裕久(CAREVE) 対談
・西村 潤(NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)インタビュー
・MVヒストリー
・楽曲レビュー
・年表

ほか

【特別付録】
未発表音源を収録したCD

関連リンク
fripSide 公式サイト
http://fripside.net/

fripSide NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン公式サイト
https://nbcuni-music.com/fripside/

八木沼悟志 公式Twitter
https://twitter.com/sat_fripside

南條愛乃 公式Twitter
https://twitter.com/nanjolno

fripSide official fan club「freakSide」公式Twitter
https://twitter.com/fripSide_FC
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