声優/アーティストとしてますます幅広く活躍する石原夏織の8thシングル「Cherish」は、自身もキャストとして参加するTVアニメ『社畜さんは幼女幽霊に癒されたい。』のOPテーマ。
ヒゲドライバー制作のアッパーなサウンドに乗せて、自分を含めたすべての人々へのいたわりのメッセージを届ける、かつてない“癒し系”ナンバーだ。今回のシングルを経て新たな引き出しを開けることができたという彼女に、話を聞いた。

コンセプトライブ、初めての幼女役――挑戦づくしの2022年
――まずは3月に行われたワンマンライブ“石原夏織 LIVE 2022「Starcast」”についてお聞かせください。今回は“-Vega-”と“-Altair-”と銘打ったそれぞれ内容の異なるライブがシンクロし合って1つの世界観を描き出す、コンセプチュアルな内容でした。パフォーマンス的にも今までにない挑戦が多かったみたいですね。

石原夏織 初めてアコースティックコーナーを設けたんですけど、今まで生演奏をバックに歌った経験があまりなかったので、最初は緊張していたんです。でも、いざ終わってみると、改めて歌うことの楽しさを実感できました。アコースティックアレンジになることで、自分が今まで感じていた楽曲のイメージとは雰囲気が変わったので、それに合わせて自分も歌い方を変えてみたりして。特に“-Altair-”の昼公演で歌った「Taste of Marmalade」や、全公演共通で披露した「キミしきる」や「雨模様リグレット」は、同じ歌でもこんなに幅が広がるんだなと思いましたし、発見が多いライブでした。

――ライブの冒頭や幕間に、石原さんのモノローグをフィーチャーした映像が挿まれることで、ライブ全体にストーリーを感じることができました。

石原 今までのライブでは私の挑戦企画の映像を流すことが多かったんですけど(笑)、今回は映像もライブの演出として繋がっていたので、私もモノローグからの流れで楽曲をパフォーマンスすることで、歌のライブではあるけど演技しているような気持ちも半分ありました。

――織姫の“-Vega-”公演と彦星の“-Altair-”公演とではセットリストも大幅に違っていましたが、それぞれどんなイメージで表現されたのですか?

石原 “-Vega-”公演は女の子らしさを意識して(セットリストを)組んでいたので、かわいらしさが前面に出るようにしようと思っていました。
手振りとかが決まっていない曲でも、自然とかわいらしい方向に引っ張られて。逆に“-Altair-”はかっこいい曲が多めだったので、必然的にクールな自分に入り込むことが多かったですね。

――そんなワンマンのアンコールで初披露されていたのが、今回のニューシングル「Cherish」。こちらは石原さんもメイド幽霊のリリィ役で出演しているTVアニメ『社畜さんは幼女幽霊に癒されたい。』のOPテーマでもあります。日高里菜さん演じる幽霊ちゃんをはじめ、愛らしい幼女キャラがたくさん登場する、ハートフルな作品ですね。

石原 原作のマンガもアニメも、とにかく癒しポイントが多い作品で、特に子供らしいかわいらしさがあちこちに散りばめられているところは、この作品を観て癒されない人は絶対にいないはず!と思いました。私は家でワンちゃん(カニンヘンダックスフンドのむーちゃん)を飼っているんですけど、ワンちゃんを愛でるのと似たようなところもあって、すごくリアルなかわいさを感じます(笑)。

――かわいいだけでなく、すべてが優しさでできているようなアニメで、観ていると本当に癒されますよね。

石原 そうなんですよ。なんかキュンとくるというか。伏原さん(CV:金元寿子)から幽霊ちゃんへの優しさはもちろん、幽霊ちゃんとみゃーこ(CV:小原好美)から伏原さんへの優しさもあって、ベクトルがお互いに向いてる感じも愛おしいですし、伏原さんのために何かしてもうまくいかなくて泣いてしまう幽霊ちゃんもかわいくて。
伏原さんじゃないですけど「そう思ってくれてるだけで幸せだ~」ってなりますし、日常には小さな幸せが転がっていることを教えてくれる作品だと思います。

――石原さんが演じるリリィは、倉橋さん(CV:内田真礼)の家にいる幼女のメイド幽霊ということで、これまた愛らしいキャラクターですが、石原さんがここまで小さな女の子の役を演じるのは割と珍しいのではないかなと。

石原 珍しいというか、ほぼ初だと思います。なのでリリィ役が決まったときは、嬉しかった反面、「私にこの役をこなすことができるのかな?」という不安もありました。しかも幽霊ちゃん役の日高里菜ちゃんは、幼女のプロじゃないですか(笑)。私は年齢感を合わせる自信がなくて。アフレコでも、最初の頃はしゃべり方が幼女というよりも小学生っぽくなってしまって、音響監督さんたちと相談しながら、リリィちゃんの在り方を少しずつ探っていきました。しかもリリィちゃんは結構ツンデレだったり、塩対応だったり、あまり幼女っぽくない部分もあるので、そこを上手くすり合わせるのが大変ですけど、やり甲斐が合ってすごく楽しかったです。

――結構色々な要素を持ち合わせたキャラクターですものね。

石原 しかも原作を読んでいる方は知っていると思うんですけど、リリィは語尾の「~です」が片仮名なんですよ。でも、「デス」という言い方を際立たせ過ぎてしまうと、外国人の留学生みたいな感じになってしまって、それだとちょっとキャラが立ちすぎなんですよね。絶妙なバランスで「デス」を立たせてほしいというディレクションをいただいたので、最初は頭がパニックになりました(笑)。


ハイテンションだけど、とことん優しい新曲「Cherish」
――さて、新曲「Cherish」は、石原さんとは初顔合わせのヒゲドライバーさんが作編曲を担当したハイテンションなポップチューン。癒やし度満点のアニメ『社畜さん』のOPテーマということで、どんな流れで制作していったのでしょうか?

石原 今回はアニメの制作サイドから「幼くてスピードもあってかわいい曲がいいです」というお話をいただいていたのですが、“かわいい”はともかく、“幼い”曲というのは今まで歌ったことがなかったので、「これはどうしましょう?」みたいな(笑)。自分の中に幼くてかわいくて疾走感のある曲のイメージがあまりなかったんです。多分声だけ作って歌えばいいわけでもないですし。それで、いつもならコンペで曲を集めるところを、スタッフさんを含め自分たちも見えていないところがあったので、そういう曲が得意そうなヒゲドライバーさんにお願いしてみることになりました。

――なるほど。作品とのマッチングを考えたうえでのヒゲドライバーさんだったわけですね。

石原 はい。まず、1コーラス分の音源をいただいたんですけど、その時点で今の形になっていて。たしかに幼さもあってかわいくて疾走感もあって、なおかつ自分ともかけ離れていない曲だったので、新しい引き出しを開けてもらった感覚がありました。タイアップでなければ出会えてなかった曲だと思います。

――これまでの石原さんの楽曲で言うと「ポペラ・ホリカ」が近い雰囲気ですけど、それとはまた違ったアプローチの曲ですよね。


石原 そうですね。「ポペラ・ホリカ」は同じように明るくて速いけど、電子音系だったので。「Cherish」はまずベースが今までにない感じがしました。私はスラップベースの音が好きなので、いつかベースが目立つ曲を歌ってみたいなと思っていたときに、この曲をいただいたので、「いいじゃないですか!」ってテンションが上がってしまって(笑)。そこからサビで火力が上がる感じも、オープニング感というか扉が開く感じがしていいなと思いましたね。

――ファンキーかつノリノリになれる曲調ですが、その一方で磯谷佳江さんによる歌詞は、『社畜さん』のアニメと同様、優しさの固まりのような内容です。

石原 まさに。明るくてスピード感のある曲なので、一見楽しいだけのように聴こえるんですけど、実は沁みる歌詞で、相手を思いやる優しい気持ちと、自分自身を思いやらないと相手にも届けられないという気づきと教えみたいなものが入っています。曲は“幼さ”を感じさせる要素がありつつ、歌詞は結構達観していて大人っぽい、そのギャップがクセになるし、きっとタイミングによって聴こえ方が変わると思うんですよ。フェスとかだと楽しい曲になるし、落ち込んでいる人に対しても、その気持ちにちゃんと寄り添えるものになっていて。

――石原さんがこの曲の歌詞で特に好きなフレーズは?

石原 私は特に2番のAとBメロのところ、“大事な人 大事にしたいな”から“チャージしよう シアワセなぬくもりを”までが好きですね。自分をちゃんと大事にすることって結構忘れがちだと思うんですよ。
相手のことを考えるのはもちろんだけど、自分を大事にしないと、自分がすり減っていって、いっぱいいっぱいになってしまうことを、この歌詞は思い出させてくれて。世の中の人は頑張りすぎてるんだろうなって、周りの人を見ていても感じるので、だからこそ“限界なんてそうカンタンに 毎日超えたらダメでしょ?”という歌詞もそうだし、「幸せなぬくもりを集めて元気にしようね」というメッセージが、優しくサラッと伝わってくるところがいいなと思います。

――曲名の「Cherish」は“大切にする”という意味ですが、まさに自分をいたわることの大切さを描いた歌詞でもあると。ちなみに石原さんは自分自身を大事にするときのルーティンみたいなものはありますか?

石原 自分の感情を後回しにして、目の前にある物事を優先的にやらなくてはいけないことがあると思うんですけど、そういうときって最初はそれでいいかもしれないですけど、その状態が長く続けば続くほど自分がわからなくなってくると思うんです。涙が出てきたりとか、何かがもやもやしたり、自分がいっぱいいっぱいになってしまって。そんなときは、自分の心に向き合って、何で自分がもやもやしてるのかを見つけることを大切にしています。どうしても対峙できないときは紙に書きだしたりもして。あとは、お昼寝もそうですね。眠たいときには寝させてあげたほうが、すべてにおいて上手くいくと思うので。

遊び心が満載! 様々な表情の“石原夏織”が楽しめるMV
――「Cherish」のMVは、色んな格好の石原さんが部屋でくつろぐ姿などをフィーチャー。どんなコンセプトで撮影したのですか?

石原 ダンスのシーンは、『社畜さん』の曲ということでオフィスをイメージしていますけど、それ以外のおうちのシーンは、基本的に楽しくて明るい様子を収めようと思いました。4人の自分が一気に登場するシーンがあるんですけど、それぞれ赤い服が朝、床で寝転がっているのが昼間、ソファでくつろいでいるのが夕方で、髪を乾かしているのが夜の私っていうイメージです。
どれも日常の楽しい部分を切り抜いてお届けしていて。個人的には、小さい自分が一気に集まる感じが、幽霊ちゃんたちのような雰囲気に見えればいいなと思いながら撮影しました。

――たくさんの石原さんに癒される人も多いのではないかと。

石原 自撮り風の画面がたくさんバーッて出てくるところも、私がいっぱいいて「どこを見よう?」ってみんなの目を混乱させよう、みたいな感じで。

――ご自身としては、どの格好の自分がお気に入りですか?

石原 床に寝転がっているときの、ピンクのワンピースが好きです。私は最初、緑色の服を着ようと思っていたんですけど、みんなで話し合って多数決した結果、ピンクのほうが勝って。そのときはちょっと残念だったんですけど、いざ着てみたら髪型も含めて映像的にすごくハマりが良かったんですよ。なので自分の意見を押し通さなくて良かったなと思いましたし、ふんわりしてかわいかったのですごく好きになりました。

――あの石原さんはリラックスした雰囲気が、すごく良かったです。

石原 普段はソファでくつろぐタイプなので、あんなに床でゴロゴロすることはないんですけど、せっかくだからと思ってゴロゴロ楽しんで遊んじゃいました(笑)。いつもの自分に一番近いのは、白いスウェットを着て花柄のズボンをはいている自分ですね。あの服に着替えた瞬間、家にいる気持ちになったので(笑)。

――夜のシーンをイメージした、黄色いパジャマ姿の石原さんもレアじゃないかと。

石原 そうですね。普段はあんなにかわいい服ではなくて、もうちょっとゆったりした服を着ていることが多いので。MVで髪を濡らしたのも初めてでしたね。

――むーちゃんっぽいぬいぐるみを持っているシーンもありましたよね。

石原 あれは実は、以前にライブグッズとして作った、むーちゃんのキーチャームなんです。ほかにもファンクラブのステッカーとかが結構散りばめられたりしていて。今までのグッズをMVに登場させるのは初めてだったんですけど、長年応援してくださってる方はそういう細かいところも結構気づいてくれているみたいで。「ウォーリーをさがせ!」じゃないですけど(笑)、一個一個探しながらゆっくり観るのも楽しいかと思います。


声優としての“切ない”経験が活きたカップリング曲
――カップリング曲の「Remember Heart, Remember Love」は、爽やかだけど切ない雰囲気が詰まったポップロックチューンです。

石原 「Cherish」が明るく元気な方向だったので、カップリング曲は正反対の曲がいいなということで制作しました。なのでリズムもいつもよりもちょっと落としめで、使っている音も切ない感じになっています。それと今回のシングルは、一枚を通して共通したテーマがあればいいなと思っていたので、「Cherish」の“大切な”や“大事な”という意味合いに合わせて、この「Remember Heart, Remember Love」は“大切な思い出を振り返りつつ前を向く”というテーマで歌詞を作っていただきました。

――作詞を担当したのは結城アイラさん。かつての想いと言いますか、「あのときこうしていればよかったかも」という心残りのような気持ちが伝わってくる歌詞ですよね。

石原 わかります。報われなかった感じにも読み取れるので、どちらかと言うと苦しい感じの切なさがあるんですけど、かつて見えていた景色や色が鮮明によみがえってくる感じもあって、「あの頃も素敵だったな」と思える、素敵な歌詞だなと思います。

――特にお気に入りのフレーズはありますか?

石原 2番の“背中向けた帰り道 ふたり振り向いてたなら きっと明日も変わってた?なんて…”のところが好きです。この曲は恋愛のことを歌っていますけど、人生には色んな分岐点があって、「今もいいんだけど、あのときあっちを選んでいたらもっとよかったのかな?」と思うことがあるじゃないですか。そういう切なさがこの部分からすごく伝わってくるので、誰もが色んな場面で共感してもらえる歌詞だと思います。

――石原さんも「あのときああしていればよかったかも」と思うことはある?

石原 なんだろう? 中学受験とかはそうかもしれないですね。学生時代は「もっとちゃんと勉強していたら第一志望の学校に行けたかも」と思うことがあって。今となっては全然いいんですけど。でも、当時は後悔もあったので、それがきっかけで、何事も悩むときはたくさん悩んで、例えそれがうまくいかなかったとしても自分が納得できる選択をしようと心がけるようになりました。

――自分の成長に繋がったわけですね。「Remember Heart, Remember Love」ではどんな情景を思い浮かべて歌いましたか?

石原 歌詞を読んだときに、これは報われなかった気持ちというか、今はいい思い出だとしても心に残っているものと受け取ったので、あまり色がついていない感じというか、切ない方向にもっていけるようにしました。なので1番のサビに入るまでは、モノローグじゃないですけど自分の記憶を辿っているようなイメージで、サビでその想いが思わず溢れてしまった感じを意識して歌いました。これは自分の経験ではないですけど、今まで演じてきた恋をしているキャラクターたちの気持ちを作るのと同じような感覚で、気持ちを作って歌いました。

■石原夏織 8th Single c/w「Remember Heart, Remember Love」試聴ver. #shorts

――今のお話を聞いてふと思ったのですが、石原さんは恋愛が絡む作品では、最終的に想いが報われずに終わるキャラクターを演じることが多い気がしていて。その意味で、この曲に気持ちを投影しやすい部分はあった?

石原 めちゃめちゃあります。多幸感に包まれている曲よりも、こういう歌のほうが気持ちが作りやすいんですよね。なのでこの曲は、これまで演じてきた役の背景とかもあって感情も作りやすかったですし、声色もどのトーンを出せばうまくハマるかを掴みやすかったです。

――声優としてのキャリアや経験が、アーティスト活動にもちゃんと活きているわけですね。

石原 そうですね。どちらも独立しているわけではなくて、同じ声を使うという意味で、自分でも気づかないあいだにうまく橋渡ししている感じがします。逆に歌で工夫している声の使い方を演技のほうにもっていけたら、さらに違う声色が出せるのかなと考えることもあるので。どちらもなくてはならないものですね。

――最後に、今回のニューシングルはご自身にとってどんな作品になったか、どんなものを得られたのか、お聞かせください。

石原 楽曲やMVを公開した段階で、今までにはない方向性の曲ということで、ファンの方がすごく喜んでくださっている声をたくさん聞きました。自分自身も新しい引き出しだと感じていて、まだまだ自分にもやれることがあることを教えてくれる楽曲たちになったと思います。そして、この曲を通して、人の優しさや自分自身を大切にしなくてはいけないこと、どうしてもおろそかにしてしまう部分を再発見することができて。なので私ももっともっと自分と向き合って、より大きな人になれたらいいなと思います。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)

●リリース情報
8thシングル
TVアニメ『社畜さんは幼児幽霊に癒されたい。』OPテーマ
「Cherish」
4月27日発売

【初回限定盤(CD+DVD)】

品番:PCCG-2108
価格:¥2,200(税込)

【通常盤(CD)】

品番:PCCG-2109
定価:¥1,500(税込)

<CD>
M1. Cherish
作詞:磯谷佳江 作曲・編曲:ヒゲドライバー
M2. Remember Heart, Remember Love
作詞:結城アイラ 作曲・編曲:藤井健太郎(HANO)

<DVD>
「Cherish」MUSIC VIDEO
「Cherish」MUSIC VIDEO MAKING

©有田イマリ/SQUARE ENIX・製作委員会も癒されたい。

関連リンク
石原夏織オフィシャルサイト
http://ishiharakaori.com/

TVアニメ『社畜さんは幼児幽霊に癒されたい。』公式サイト
https://shachikusan.com/

「Cherish」音楽配信サービス一覧
http://lnk.to/KI_Cherish
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