堀江由衣 LIVE TOUR 2022 文学少女倶楽部Ⅱ ~放課後リピート~』が終幕した。4月29日の名古屋、翌30日の大阪、そして5月7・8日の立川という3ヶ所で開催された今回のツアーは堀江由衣にとって2019年に開催した『堀江由衣 LIVE TOUR 2019 文学少女倶楽部』以来となる公演だったが、稀代のグレイテスト・ショーウーマン、生粋のエンタテインメントプレゼンターは健在であった。
まるでアミューズメントパークかのように、初来場者も、楽曲を1曲も知らない人も楽しめる堀江由衣ワールドの展開がそこにはあった。エンタメ精神の極みともいうべき堀江由衣ライブを未体験の人に向けて、5月7日の様子を振り返りながら紹介していきたい。

最初から最後まで堀江由衣から渾身の“楽しませ”を授かる場
これまでも堀江由衣は自身のライブで、楽曲と物語の2本柱を多角的に展開してきた。だが、ライブ『-文学少女倶楽部』ではその精神はそのままに、観客をエンジョイ&エキサイティングさせる方法としてバンド&ダンサーというスタイルをとり、アルバムインタビューで「しっくりきた感覚」と語ったように今回もその形式を踏襲、内容に関しても続編にあたるライブになっている。バンドとダンサーによるステージは決して珍しい形ではないが、前述したように堀江由衣ライブはエンタテインメントショーであり、そこに緻密な設定と世界観が屹立する。今回のライブでも、「文学少女倶楽部」という部活動にいそしむ学生たち、を中心とした物語が展開され、堀江由衣もその部員の一人である。
ライブとしてはまず、ステージ上のスクリーンに映像が映し出されるところから始まる。そこには堀江由衣、バンド「文学少女帯」(G./エンドウ.、B./目黒郁也、Dr./楠瀬タクヤ、Key./吹野クワガタ、Vln./土屋雄作)、ダンサー「踊りっ娘倶楽部」(AYAKA、KEIKO、Kyoka、ちい)が演じる部員たちが登場する。彼女・彼らは、文化祭を一番盛り上げたクラブは部費が倍になると聞いて急遽バンドを結成、文化祭に向けて練習を始める。

映像が終わると1曲目として、ニューアルバム『文学少女の歌集Ⅱ -月とカエルと文学少女-』のリード曲「月とカエル」が披露される。ステージ上にはさきほど映像に映っていた堀江由衣以下の面々が制服を想起させる衣裳で登場。しかし挨拶のMCを挟んでの次曲は、『文学少女の歌集Ⅱ』ではなく、前作『文学少女の歌集』からの「光の海へ」。
といっても決して初見の観客を置いていくことはない。アルバムもライブも前回の世界観を踏襲しているからこそ混じり合う選曲も可能であり、何よりも堀江自身もMCで語ったように前回のツアーに参加していない人でも楽しめる作りとしている。繰り返しになるがライブの柱にストーリーを据えているからだ。

単純な『文学少女の歌集Ⅱ』のアルバムツアーではないことはその後も我が身で実感できる。セットリスト中、ニューアルバムからはトータル7曲(ただし最初と最後に置いて締める構成にはなっている)の一方、次々とアニメの主題歌群を披露。ついつい懐古の情に突き動かされてしまう選曲だ。堀江由衣のキャリアにも感嘆するが、実はここにも『文学少女倶楽部Ⅱ ~放課後リピート~』という物語のコンセプトが関わってきていると思われる。

種明かしをすれば、『文学少女倶楽部Ⅱ ~放課後リピート~』で描かれるストーリー、それはタイムリープ物だ。楽曲の間で流れる映像を見ていると、ところどころで違和感を感じたのもそれが理由で。例えば、男性陣がダンサー、女性陣が楽器隊を組んでスタート(その結果、演奏に苦労)したはずのバンド活動だが、突然、次の映像では男性陣が楽器を演奏し、女性陣がダンスを踊っている。まるでつじつまの合わない不出来なシナリオのようだが、ライブを最後まで見終わることでその謎が解ける。映像の中で文学少女俱楽部のメンバーはさまざまな危機やトラブルに遭遇するが、(2019年のライブ『文学少女倶楽部』の物語のあと、実は得ていたというタイムマシンを利用して)堀江由衣がそのたびに進むべき道を修正していく。
文化祭を終え、だが文学少女倶楽部が部費倍増の栄誉を逃したとき、堀江は何度目かのタイムリープに入ろうとする。しかし、部員の一人が「楽しかったじゃん」という言葉を口にしたのを聞いた堀江は、タイムマシンを使うのをやめてしまう。もう時間をさかのぼる必要はない、これで良かったんだ、と。ライブに来たら3時間強の“物語”を味わわされる、というこの不思議さ。しかも、堀江由衣がよく口にする「エモい」に満ちた結末!

楽曲構成も、文学少女倶楽部が文化祭で演奏した全8曲を想定している。それも、本編最初の2曲と最後の2曲は共通で、3~6曲目、7~10曲目、11~14曲目、15~18曲目はそれぞれ別の世界線で演奏した、という設定。つまり、何度もタイムリープするたびに文化祭で異なる楽曲を異なる衣装でやったことを表している。驚きしかない。これは本当にライブだろうか?

ラスト前は、清竜人が手掛けた「CHILDISH♡LOVE♡WORLD」で、最高の多幸感に包まれながらエンディングに向かうにふさわしい楽曲だが、そうなると出典アルバムが『秘密』というところも勘ぐってしまう。今回のライブの物語が持つ「秘密」と掛けているのではないか? ラスト曲は『文学少女の歌集Ⅱ』収録の「スタートライン」だが、ニューアルバムであることに加えて、タイムリープに掛けたタイトルだから採用したのではないか? 選曲が、パフォーマンスが、常に二重、三重の意味を抱かされている。それもこれも来場者が楽しめるようにというおもてなしの表れだ。
そもそも開演前には、ペンライトを使ったカラーチェンジと振付の講座が開かれており、そこでは今回のライブグッズであるペンライトの使用が推奨されていたが、その難易度が非常に高く、観客は何度もざわめいていた。
しかも、練習はしたが、当然セットリストは明かされていないため、その楽曲をやるかどうかはわからないという注意喚起もあった。だがそれも、観客は「劇団ほりえ」の一員、ともにライブを作り上げる仲間、というコンセプトの徹底からで、物語以外のライブでも満足度を高めるために、没入感を上げる考えからだろう。そのペンライトにしても、コロナ禍でも声を出さずに済むよう、7色に変わると同時に堀江の声が2種(「ハイッ!」「フゥー!」)収録というアイデア商品。しかも本編中の映像ともリンクしているというアミューズメント性をしっかり考えられた代物となっている。2013年に初めて、色の変更を運営側が無線制御するというペンライトをライブで導入した堀江らしい試みだ。
本編内容にしても、バンドメンバーに音楽的な質問をして実演付きで解説してもらう、という『堀ジャム』のコーナーは、非常に価値と意義のある時間。この日は、演奏していて難しいと感じる楽曲・箇所(翌2日目公演では「好きなフレーズ」)を聞いていたが、むしろライブ以外でも展開してほしいほどの内容だ。人気コーナーと堀江が話すのもわかるほど。

トークにしても、手練れの堀江が繰り出す数々の話題は次々と笑いを生み出し、長時間ライブであることを一切感じさせない手腕は、もうずっと変わらない。今回は約3年ぶりのツアーであったが、次にこの世界に来訪する機会が近いことを心から望む。5月15日からは各音楽配信サイトにてツアーのセットリスト順に楽曲を組み合わせたプレイリストが公開されている。来場者が帰途に就いたあとも至れり尽くせりという堀江由衣、まさにホスピタリティとエンタテインメント精神の申し子である。


TEXT BY 清水耕司 PHOTOGRAPHY BY 草刈雅之

堀江由衣 LIVE TOUR 2022 文学少女倶楽部Ⅱ ~放課後リピート~
2022年5月7日(土)立川ステージガーデン

<SET LIST>
01. 月とカエル
02. 光の海へ
03. ラブアテンション
04. 恋する天気図
05. Wake Up
06. 半永久的に愛してよ♡
07. Days
08. 笑顔の連鎖
09. キラリ☆宝物
10. try again
11. The♡World’s♡End
12. ヒカリ
13. チャイム
14. 虹が架かるまでの話
15. ALL MY LOVE
16. Adieu
17. 心晴れて 夜も明けて
18. YAHHO!!
19. CHILDISH♡LOVE♡WORLD
20. スタートライン
21. 翼
22. Merry Merrily
23. Happy happy*rice shower

関連リンク
堀江由衣オフィシャルサイト
https://horie-yui.com/
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