小学館「週刊少年サンデー」で連載中のコトヤマによる人気コミックス「よふかしのうた」がTVアニメ化、今年7月7日より放送がスタートする。不登校で不眠症の中学2年生・夜守コウと、吸血鬼の美少女・七草ナズナが、夜の街を徘徊しながら夜ふかしの日々を過ごす、少し風変わりなボーイミーツガールストーリーの本作。
実は原作コミックスのタイトル自体が、Creepy Nutsの楽曲「よふかしのうた」からインスパイアを受けて名付けられたもの。そんな縁もあって、TVアニメのためにオープニング・テーマ「堕天」を書き下ろしたCreepy Nutsの2人に、今回の取り組みとそれにまつわるエピソードについて語ってもらった。
「よふかしのうた」とヒップホップが結んだコトヤマとの縁
――「よふかしのうた」は元々“オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー”のテーマソングとして制作された楽曲ですが、それがマンガ作品のタイトルに引用されたときの感想はいかがでしたか?
DJ松永 ありがたいお話でしたし、まさかマンガのタイトルになるとは思ってもみなかったので、意外な展開すぎました。しかもその(アニメの)主題歌を俺らが書くことになって……あまりにも珍しいことが起きたので、これはどう巡ってるんだろう?っていう不思議な感覚ですね。
R-指定 (原作者の)コトヤマ先生がラップ好きで、昔から俺らのことも好きと言ってくれているのは知っていたんですけど、まさか俺らの楽曲からインスパイアされた作品を描かれるとは思わなかったし、内容も「そうきたか!」という感じで。「よふかしのうた」はオードリーさんのラジオ番組をはじめ、自分らが影響を受けてきたものについて書いた楽曲なんですけど、(コトヤマ先生が)それに影響を受けて作ってくれた作品の中身も、結果、吸血鬼の女の子と思春期の男子の話っていう、俺の好きな要素が詰め込まれていて。だから自分の好きなもののなかで回っている感じがして、不思議やけど嬉しい体験でしたね。
――さらに「よふかしのうた」のTVアニメ化が決まり、その主題歌を担当することになったときのお気持ちは?
R-指定 アニメ化の話を聞いたときは「きっと俺らの楽曲も使っていただけるんやろうなあ」と思いつつ、そこからさらにもう一発、“夜”をお題にした曲を作ってほしいとなったときは、「でも、もうないなあ……」と思ったんですよね(笑)。基本的に俺らが作る楽曲の場面設定は“夜”が多いし。
DJ松永 そう、“夜”曲はもう散々作ってきていたので。
R-指定 だからその時点で、俺の歌詞の中の“夜”が空っぽやったんですよ(笑)。
DJ松永 良かったよね。“夜”発信でゼロイチはもう無理(笑)。
――原作者のコトヤマ先生はヒップホップ好きとしても知られていますが、何か印象的なやり取りはありましたか?
R-指定 実はマンガ(「よふかしのうた」)のお話の前に、一回だけ、電話越しにお話をしたことがあって。俺らが大阪でやっているイベントにコトヤマ先生の友だちが来ていて、その人と話しているときにたまたま電話がかかってきたみたいで、「ちょっと代わってもいいですか?」みたいになったんですよ。そこでお話したのが最初でしたね。でも、そのときはお互い「あっ、知ってくれてるみたいで、ありがとうございます」みたいな会話しかしてなくて(笑)。
DJ松永 まあ急には話が弾まないよね(笑)。
R-指定 今までで一番会話が弾んだのも、こないだの会うのが3~4回目くらいのときで。楽曲の感想を言ってくれたり、俺がアニメのことについて質問したんやけど、コトヤマ先生もアニメ側の人ではないから「ちょっとわかんないですね」みたいな。
DJ松永 結局何も起きてない会話(笑)。
R-指定 でも、空気感というかグルーヴは弾んでたから(笑)。
――松永さんはいかがですか?
DJ松永 俺は挨拶程度しかしてないかも。こうやって一緒に作品を作らせていただいて、本当に密に仕事をしているのに、「よろしくお願いします!」くらいしかやり取りしていない不思議な関係で(笑)。でも、作品同士で通じ合っているところがすでにある分、逆に照れてしまうところもありますね。
サウンドと歌詞の両面でこだわりが詰まったオープニング・テーマ「堕天」
――TVアニメのオープニング・テーマとして書き下ろした「堕天」について、どんなコンセプトで制作したのかお伺いさせてください。サウンド的にはジャズやファンク寄りに感じられました。
DJ松永 ジャズっぽくてファンキーでラテンな感じ……自分の頭の中にはイメージができていたんですけど、それが何のジャンルなのかわからなくて。色んな人に聞いてみたら、どうやらブーガルーというジャンルに近いらしいですけど、色んなブーガルーの曲を聴いてみたら、まあ近いのもありましたけど、結局(「堕天」が)何のジャンルかは俺にもよくわからないです。
――その他にサウンド面でこだわったポイントはありますか?
DJ松永 やっぱりオープニングなのでサビでポーンと開ける感じが欲しくて。前奏はなしで急にラップから始まるものにしたかったんですよ。アニメのオープニングの場合、本来は前奏があったほうが絵を作りやすいと思うんですけど、完全に自分のクリエイティブ欲のほうが勝ってしまいました(笑)。
――ちなみに前奏なしでラップ始まりにしたかった理由は?
DJ松永 今までやったことなかったし、単純に俺がやりたかっただけです(笑)。あとは良いイントロが特に思いつかなかったので、であればないほうがいいなと思ったので。それでRに「頼んます」ってお願いしたんですけど、ライブではどうしようかなって感じです(笑)。
――歌詞についてはいかがですか? 旧約聖書のアダムとイブのエピソードを彷彿させるような内容になっていますが。
R-指定 ヒップホップのカルチャーでは、ラッパーは基本自分のことを歌うことが多くて、我々もその例に漏れずそうだったんですけど、前作のアルバム(『Case』)でそのやり方では一旦歌い切った感触がありまして。なので今回はフィクショナルというか、「よふかしのうた」の主人公2人や、それ以外の男女の関係、引いては恋愛について自分なりに解釈して書いたらこうなりました。いわゆる「恋に落ちる」という言葉がありますけど、特に主人公(夜守コウ)の年齢からしたら、人を好きになってお互いそういう関係になるというのは、すごく無垢な状態から、思い描いていた理想とは違うごちゃっとしたもの、汚いものにも触れることになると思うんですよ。そういうのもイメージして「堕天」になったんですよね。自然とそこが(作品と)マッチしたと思うし、他人のことを書いていても、結果、自分らしい感覚が出てきましたね。
――歌詞では“二人ぼっち”で堕ちていく様が描かれているわけですが、例えばこの“二人”を自分たち、もしくは自分と何かの関係性に置き換えることはできますか?
R-指定 “俺ら”の関係性というのは前作で出し切った感じがあるし、この曲に関してはまったくそれを考えずに書いたので、それはまた違う気はしますね。
DJ松永 わかるわかる。自分の好きな何かと自分の関係性としても捉えられるよね。例えばヒップホップとか。
R-指定 そうそう。だから(「よふかしのうた」と)近い構図になったなと思って。
――Creepy Nutsの過去曲を例にとると、「合法的トビ方ノススメ」(2016年)も音楽に対する情熱を別のものに置き換えている部分がありますし、「阿婆擦れ」(2019年)のようにヒップホップを女性に例えた楽曲もありますよね。今回の「堕天」にもそのような部分があるのではないかと思ったのですが。
R-指定 それはあると思います。これまでにもヒップホップを女性に見立てて書いた曲は結構あるし、「よふかしのうた」も“夜”を自分の初めてを捧げた相手に見立てて書いている部分があるので。今回の「堕天」も、俺が何かを愛したり、好きになるときのハマっていく感じが出ているんだと思います。
Creepy Nutsの2人が語る、フェティシズムを感じるあれこれ
――『よふかしのうた』という作品には“夜の非日常感”や“吸血鬼の女の子”といったフェティッシュな魅力が溢れていて、今回の「堕天」にもそういった要素が反映されているように思います。それにちなみ、お二人がフェティシズムを感じる物事や描写を教えていただけますか?
DJ松永 俺は“勝ち負け”ですね。勝敗が付くものにはワクワクするし、特に1対1の競技にはより感情移入しちゃいますね。それは自分も個人競技(DJバトル)をやってきたから。プライドが高いだけで、その身の丈に合った実力もなければ自信もない青春時代を過ごしてきた俺が、初めて人と対等以上に戦えると思えたのがDJだったんですよね。それで負けまくりながらも頑張って、最終的には世界1位になることができたんですけど、そのなかで勝ち負けの悲喜こもごもを色々体験して。
――なるほど。そういうことを経験してきたがゆえに、“勝ち負け”に対して特別な感情を抱いてしまうと。
DJ松永 そう。その究極が格闘技だと俺は思っていて。だってあれは人間の根本、タマの取り合いじゃないですか。それを観客の前でやるわけですよ。
――松永さんにとってはDJバトルの大会も、タマの取り合いに例えられるほど命がけのものだったのでしょうか。
DJ松永 俺は奇跡的に勝って終われた人間なんですよね。俺の性格だったら、プライドが高いから負けたままだと終われないんですよ。その呪いから唯一抜け出す方法が、優勝して終わること。で、俺は日本大会で優勝してその呪いが解けたんですけど、ボーナスステージの世界大会でも奇跡的に勝ってしまった(笑)。日本大会のときは、勝ち負けがどうこうと言うよりも、自分にかかった呪いを解きたい一心だったので、後ろ向きな挑み方だったんですよ。でも、世界大会に行くときにはすごく晴れやかで、すごく前向きで、人生で初めて大会に出るような気持ちに近かったと思います。今までで一番生きてる実感を味わうことができて、すごく楽しかったですね。あと、死んだ気持ちになるということは、生に向き合えていることでもある。なので(DJバトルの大会では)一番生き死にの実感を味わえましたね。でも、もう一生出たくないです(笑)。
――また呪いにかかる可能性がありますものね。R-指定さんはどんなことにフェティシズムを感じますか? それこそ先ほど“吸血鬼の女の子”は惹かれる要素のひとつとおっしゃっていましたし、「よふかしのうた」の歌詞にも“サキュバスまたはインキュバス”というくだりがありますが。
R-指定 たしかにそういうものに対するフェティシズムはあるかもしれないです。霊的なものは基本好きですし、ホラー映画で一番怖い目にあっている人は、それが男性・女性というのは関係なく、めちゃくちゃ綺麗に見えるんですよね。心霊映像の投稿ものとか、いわゆるフェイクドキュメンタリーと呼ばれる作品でも、その怖い映像を撮った人の怖がり方次第で怖さが決まるなと思っていて。
DJ松永 うわっ、俺もこないだ同じようなことを話してた。
R-指定 カメラで撮影してて、お化けが映ったときに「ウワーッ!」って反応する奴より、思わずカメラを下げてしまうほうがホンマにビビってる感じがするし、それが作りもんのフェイク映像だったとしても本物やと想像してしまう感じというか。そこに興奮するし、ホラー映画でも(登場人物が)どんなふうにひどい目にあうのかとか、その恐ろしがり方に、怖さと同時に美しさを感じたりしますね。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●作品紹介
『よふかしのうた』
<放送>
2022年7月7日よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて毎週木曜24:55~放送
※放送時間は変更の可能性があります
<スタッフ>
原作:コトヤマ(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:板村智幸
チーフディレクター:宮西哲也
脚本:横手美智子
キャラクターデザイン:佐川 遥
音楽:出羽良彰
美術設定:杉山晋史
美術監督:横松紀彦
色彩設計:滝沢いづみ
色彩設計補佐:きつかわあさみ
撮影監督:土本優貴
編集:榎田美咲
音響監督:木村絵理子
オープニング・テーマ:Creepy Nuts「堕天」(Sony Music Labels Inc.)
エンディング・テーマ:Creepy Nuts「よふかしのうた」(Sony Music Labels Inc.)
アニメーション制作:ライデンフィルム
<キャスト>
夜守コウ:佐藤 元
七草ナズナ:雨宮 天
朝井アキラ:花守ゆみり
桔梗セリ:戸松 遥
平田ニコ:喜多村英梨
本田カブラ:伊藤 静
小繁縷ミドリ:大空直美
蘿蔔ハツカ:和氣あず未
夕 真昼:小野賢章
秋山昭人:吉野裕行
白河清澄:日笠陽子
関連リンク
Creepy Nutsオフィシャルサイト
https://creepynuts.com/
TVアニメ『よふかしのうた』公式サイト
https://yofukashi-no-uta.com/
その主題歌を担当するのが、ラッパーのR-指定とDJ/トラックメイカーのDJ松永によるヒップホップユニット、Creepy Nutsだ。
実は原作コミックスのタイトル自体が、Creepy Nutsの楽曲「よふかしのうた」からインスパイアを受けて名付けられたもの。そんな縁もあって、TVアニメのためにオープニング・テーマ「堕天」を書き下ろしたCreepy Nutsの2人に、今回の取り組みとそれにまつわるエピソードについて語ってもらった。
「よふかしのうた」とヒップホップが結んだコトヤマとの縁
――「よふかしのうた」は元々“オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー”のテーマソングとして制作された楽曲ですが、それがマンガ作品のタイトルに引用されたときの感想はいかがでしたか?
DJ松永 ありがたいお話でしたし、まさかマンガのタイトルになるとは思ってもみなかったので、意外な展開すぎました。しかもその(アニメの)主題歌を俺らが書くことになって……あまりにも珍しいことが起きたので、これはどう巡ってるんだろう?っていう不思議な感覚ですね。
R-指定 (原作者の)コトヤマ先生がラップ好きで、昔から俺らのことも好きと言ってくれているのは知っていたんですけど、まさか俺らの楽曲からインスパイアされた作品を描かれるとは思わなかったし、内容も「そうきたか!」という感じで。「よふかしのうた」はオードリーさんのラジオ番組をはじめ、自分らが影響を受けてきたものについて書いた楽曲なんですけど、(コトヤマ先生が)それに影響を受けて作ってくれた作品の中身も、結果、吸血鬼の女の子と思春期の男子の話っていう、俺の好きな要素が詰め込まれていて。だから自分の好きなもののなかで回っている感じがして、不思議やけど嬉しい体験でしたね。
――さらに「よふかしのうた」のTVアニメ化が決まり、その主題歌を担当することになったときのお気持ちは?
R-指定 アニメ化の話を聞いたときは「きっと俺らの楽曲も使っていただけるんやろうなあ」と思いつつ、そこからさらにもう一発、“夜”をお題にした曲を作ってほしいとなったときは、「でも、もうないなあ……」と思ったんですよね(笑)。基本的に俺らが作る楽曲の場面設定は“夜”が多いし。
DJ松永 そう、“夜”曲はもう散々作ってきていたので。
R-指定 だからその時点で、俺の歌詞の中の“夜”が空っぽやったんですよ(笑)。
しかもその前のタイミングに客演曲(hokuto「Shooting Star feat. CHICO CARLITO & R-指定」)で“星”についても書いていたので。なのでコトヤマ先生にもそのことを正直に話して、オープニングは「夜とは関係ないテーマにしよう」って松永さんとも話していたんですけど、結果、夜っぽくはなったかなと思っていて。直接“夜”とは言っていないけど、ちゃんと作品にマッチする楽曲になったと思います。
DJ松永 良かったよね。“夜”発信でゼロイチはもう無理(笑)。
――原作者のコトヤマ先生はヒップホップ好きとしても知られていますが、何か印象的なやり取りはありましたか?
R-指定 実はマンガ(「よふかしのうた」)のお話の前に、一回だけ、電話越しにお話をしたことがあって。俺らが大阪でやっているイベントにコトヤマ先生の友だちが来ていて、その人と話しているときにたまたま電話がかかってきたみたいで、「ちょっと代わってもいいですか?」みたいになったんですよ。そこでお話したのが最初でしたね。でも、そのときはお互い「あっ、知ってくれてるみたいで、ありがとうございます」みたいな会話しかしてなくて(笑)。
DJ松永 まあ急には話が弾まないよね(笑)。
R-指定 今までで一番会話が弾んだのも、こないだの会うのが3~4回目くらいのときで。楽曲の感想を言ってくれたり、俺がアニメのことについて質問したんやけど、コトヤマ先生もアニメ側の人ではないから「ちょっとわかんないですね」みたいな。
DJ松永 結局何も起きてない会話(笑)。
R-指定 でも、空気感というかグルーヴは弾んでたから(笑)。
――松永さんはいかがですか?
DJ松永 俺は挨拶程度しかしてないかも。こうやって一緒に作品を作らせていただいて、本当に密に仕事をしているのに、「よろしくお願いします!」くらいしかやり取りしていない不思議な関係で(笑)。でも、作品同士で通じ合っているところがすでにある分、逆に照れてしまうところもありますね。
サウンドと歌詞の両面でこだわりが詰まったオープニング・テーマ「堕天」
――TVアニメのオープニング・テーマとして書き下ろした「堕天」について、どんなコンセプトで制作したのかお伺いさせてください。サウンド的にはジャズやファンク寄りに感じられました。
DJ松永 ジャズっぽくてファンキーでラテンな感じ……自分の頭の中にはイメージができていたんですけど、それが何のジャンルなのかわからなくて。色んな人に聞いてみたら、どうやらブーガルーというジャンルに近いらしいですけど、色んなブーガルーの曲を聴いてみたら、まあ近いのもありましたけど、結局(「堕天」が)何のジャンルかは俺にもよくわからないです。
――その他にサウンド面でこだわったポイントはありますか?
DJ松永 やっぱりオープニングなのでサビでポーンと開ける感じが欲しくて。前奏はなしで急にラップから始まるものにしたかったんですよ。アニメのオープニングの場合、本来は前奏があったほうが絵を作りやすいと思うんですけど、完全に自分のクリエイティブ欲のほうが勝ってしまいました(笑)。
それとヒップホップの曲は大体全編が歌詞で埋まっていて、俺らも頭から最後までガチガチに歌詞が詰まった曲を作ってきたんですけど、最近は意識的に間奏を入れるようにしていて。特に「堕天」に関しては、最初は爽やかに盛り上げてサビでドーン!といこうと思ったんですけど、「堕天」だから逆に落としたいなと思って、間奏ですごく暗くて変なところに連れていってから、またサビに戻ってくる雰囲気にしました。
――ちなみに前奏なしでラップ始まりにしたかった理由は?
DJ松永 今までやったことなかったし、単純に俺がやりたかっただけです(笑)。あとは良いイントロが特に思いつかなかったので、であればないほうがいいなと思ったので。それでRに「頼んます」ってお願いしたんですけど、ライブではどうしようかなって感じです(笑)。
――歌詞についてはいかがですか? 旧約聖書のアダムとイブのエピソードを彷彿させるような内容になっていますが。
R-指定 ヒップホップのカルチャーでは、ラッパーは基本自分のことを歌うことが多くて、我々もその例に漏れずそうだったんですけど、前作のアルバム(『Case』)でそのやり方では一旦歌い切った感触がありまして。なので今回はフィクショナルというか、「よふかしのうた」の主人公2人や、それ以外の男女の関係、引いては恋愛について自分なりに解釈して書いたらこうなりました。いわゆる「恋に落ちる」という言葉がありますけど、特に主人公(夜守コウ)の年齢からしたら、人を好きになってお互いそういう関係になるというのは、すごく無垢な状態から、思い描いていた理想とは違うごちゃっとしたもの、汚いものにも触れることになると思うんですよ。そういうのもイメージして「堕天」になったんですよね。自然とそこが(作品と)マッチしたと思うし、他人のことを書いていても、結果、自分らしい感覚が出てきましたね。
――歌詞では“二人ぼっち”で堕ちていく様が描かれているわけですが、例えばこの“二人”を自分たち、もしくは自分と何かの関係性に置き換えることはできますか?
R-指定 “俺ら”の関係性というのは前作で出し切った感じがあるし、この曲に関してはまったくそれを考えずに書いたので、それはまた違う気はしますね。
言うてこの曲は恋愛対象について書いた感じがあるから、視点を変えるにしても、“俺と別の人”とか“松永さんと別の人”みたいな。もしくは、結果、回りまわって、元の「よふかしのうた」の“俺と夜”との関係値というか……。
DJ松永 わかるわかる。自分の好きな何かと自分の関係性としても捉えられるよね。例えばヒップホップとか。
R-指定 そうそう。だから(「よふかしのうた」と)近い構図になったなと思って。
――Creepy Nutsの過去曲を例にとると、「合法的トビ方ノススメ」(2016年)も音楽に対する情熱を別のものに置き換えている部分がありますし、「阿婆擦れ」(2019年)のようにヒップホップを女性に例えた楽曲もありますよね。今回の「堕天」にもそのような部分があるのではないかと思ったのですが。
R-指定 それはあると思います。これまでにもヒップホップを女性に見立てて書いた曲は結構あるし、「よふかしのうた」も“夜”を自分の初めてを捧げた相手に見立てて書いている部分があるので。今回の「堕天」も、俺が何かを愛したり、好きになるときのハマっていく感じが出ているんだと思います。
Creepy Nutsの2人が語る、フェティシズムを感じるあれこれ
――『よふかしのうた』という作品には“夜の非日常感”や“吸血鬼の女の子”といったフェティッシュな魅力が溢れていて、今回の「堕天」にもそういった要素が反映されているように思います。それにちなみ、お二人がフェティシズムを感じる物事や描写を教えていただけますか?
DJ松永 俺は“勝ち負け”ですね。勝敗が付くものにはワクワクするし、特に1対1の競技にはより感情移入しちゃいますね。それは自分も個人競技(DJバトル)をやってきたから。プライドが高いだけで、その身の丈に合った実力もなければ自信もない青春時代を過ごしてきた俺が、初めて人と対等以上に戦えると思えたのがDJだったんですよね。それで負けまくりながらも頑張って、最終的には世界1位になることができたんですけど、そのなかで勝ち負けの悲喜こもごもを色々体験して。
――なるほど。そういうことを経験してきたがゆえに、“勝ち負け”に対して特別な感情を抱いてしまうと。
DJ松永 そう。その究極が格闘技だと俺は思っていて。だってあれは人間の根本、タマの取り合いじゃないですか。それを観客の前でやるわけですよ。
しかも練習に加えて減量という恐ろしい程ハードな作業も経て。文字通り、一番心身を掛けた競技をしているなって。俺もDJで勝ったり負けたりしてきたので、その勝者と敗者、両方のストーリーにすごく感情移入して、速攻泣いてしまうんですよ(笑)。
――松永さんにとってはDJバトルの大会も、タマの取り合いに例えられるほど命がけのものだったのでしょうか。
DJ松永 俺は奇跡的に勝って終われた人間なんですよね。俺の性格だったら、プライドが高いから負けたままだと終われないんですよ。その呪いから唯一抜け出す方法が、優勝して終わること。で、俺は日本大会で優勝してその呪いが解けたんですけど、ボーナスステージの世界大会でも奇跡的に勝ってしまった(笑)。日本大会のときは、勝ち負けがどうこうと言うよりも、自分にかかった呪いを解きたい一心だったので、後ろ向きな挑み方だったんですよ。でも、世界大会に行くときにはすごく晴れやかで、すごく前向きで、人生で初めて大会に出るような気持ちに近かったと思います。今までで一番生きてる実感を味わうことができて、すごく楽しかったですね。あと、死んだ気持ちになるということは、生に向き合えていることでもある。なので(DJバトルの大会では)一番生き死にの実感を味わえましたね。でも、もう一生出たくないです(笑)。
――また呪いにかかる可能性がありますものね。R-指定さんはどんなことにフェティシズムを感じますか? それこそ先ほど“吸血鬼の女の子”は惹かれる要素のひとつとおっしゃっていましたし、「よふかしのうた」の歌詞にも“サキュバスまたはインキュバス”というくだりがありますが。
R-指定 たしかにそういうものに対するフェティシズムはあるかもしれないです。霊的なものは基本好きですし、ホラー映画で一番怖い目にあっている人は、それが男性・女性というのは関係なく、めちゃくちゃ綺麗に見えるんですよね。心霊映像の投稿ものとか、いわゆるフェイクドキュメンタリーと呼ばれる作品でも、その怖い映像を撮った人の怖がり方次第で怖さが決まるなと思っていて。
DJ松永 うわっ、俺もこないだ同じようなことを話してた。
R-指定 カメラで撮影してて、お化けが映ったときに「ウワーッ!」って反応する奴より、思わずカメラを下げてしまうほうがホンマにビビってる感じがするし、それが作りもんのフェイク映像だったとしても本物やと想像してしまう感じというか。そこに興奮するし、ホラー映画でも(登場人物が)どんなふうにひどい目にあうのかとか、その恐ろしがり方に、怖さと同時に美しさを感じたりしますね。
INTERVIEW & TEXT BY 北野 創(リスアニ!)
●作品紹介
『よふかしのうた』
<放送>
2022年7月7日よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて毎週木曜24:55~放送
※放送時間は変更の可能性があります
<スタッフ>
原作:コトヤマ(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:板村智幸
チーフディレクター:宮西哲也
脚本:横手美智子
キャラクターデザイン:佐川 遥
音楽:出羽良彰
美術設定:杉山晋史
美術監督:横松紀彦
色彩設計:滝沢いづみ
色彩設計補佐:きつかわあさみ
撮影監督:土本優貴
編集:榎田美咲
音響監督:木村絵理子
オープニング・テーマ:Creepy Nuts「堕天」(Sony Music Labels Inc.)
エンディング・テーマ:Creepy Nuts「よふかしのうた」(Sony Music Labels Inc.)
アニメーション制作:ライデンフィルム
<キャスト>
夜守コウ:佐藤 元
七草ナズナ:雨宮 天
朝井アキラ:花守ゆみり
桔梗セリ:戸松 遥
平田ニコ:喜多村英梨
本田カブラ:伊藤 静
小繁縷ミドリ:大空直美
蘿蔔ハツカ:和氣あず未
夕 真昼:小野賢章
秋山昭人:吉野裕行
白河清澄:日笠陽子
関連リンク
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https://creepynuts.com/
TVアニメ『よふかしのうた』公式サイト
https://yofukashi-no-uta.com/
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