青山吉能 / あやめ色の夏に (Music Video)
青山自身もこの曲から呼び起こされた、懐かしい記憶
――前作「Page」リリースの際には「牛歩でもいいから進んでいけたら」とおっしゃっていたので、約4ヶ月半後に2作目のリリースというのには驚きました。その際話されていた、ストック曲があったからこそのペースなのでしょうか。
青山吉能 いや、ストックはめちゃくちゃあるんですけど、今回はそこから選んだ曲ではないんですよ。というのも、ソロデビュー曲ということもあって「Page」は一生歌い続けるであろう特別な曲になったので、その次を考えたときに「季節感がわかるものがいいよね」となりまして。それで「夏の曲を歌いたい!」という方向性に決まった……という経緯があるんです。
――スタートからコンセプトが明確だったからこそ、新規でデモを募った。
青山 そうなんです。“夏”という言葉からパッと浮かぶものって、結構限定できるじゃないですか?今回はそれを具現化するような曲を目指したんですよ。ただ、限定できるとはいえ“夏”というテーマだと、いろんなデモ曲が集まりまして。それこそアッパーな「夏の輝き!」とか「みずみずしさ!」みたいなものをバーッ!と出した曲から、逆に超バラードまであったんです。その中でこの「あやめ色の夏に」は、割と異質だったんですよね。
――実際制作が始まったのは、いつ頃だったんですか?
青山 もう全然最近で……バースデーライブよりもあとです。
――あと!?
青山 そうなんですよ。たぶん他の方って、もっと早い時期から曲って作ってますよね?私もキャラソンのときは半年以上前とか、モノによっては1年前に収録することもありましたし。でも青山吉能のプロジェクトは1ヶ月前とかから本格稼働するから常にギリギリで、みんなの口癖も「時間がない」なんです。
――バースデーライブ自体も、リリースの約2ヶ月前でしたからね。
青山 そうなんです。でも、本当はギリギリなのは結構嫌で。今回はギリギリのなかでも120点満点の出せる曲を作れたとは思っているんですけど、もしかしたら時間がないせいで、諦めないといけないものも出てしまうことがあるかもしれないじゃないですか?だから次の目標は、「余裕のあるスケジュール」を最初に持つことですね……もう、2曲目が出る前なのに、すぐ次の話しちゃう(笑)。
――ストックされている曲を聴きたいという方もいるでしょうけど、「直近でビビッときたものをいち早く出したい」というのは、非常にアーティスティックな活動のように思います。
青山 そうですね。だって今の感情って、正直言ったら今しかない。
――そんな「あやめ色の夏に」のデモを聴いたとき、青山さんの中には最初にどんな光景が浮かびましたか?
青山 まず、イントロが最強だなと感じまして。同時に、懐かしくて、かつ淡々と・訥々としているサウンドから雨が浮かんだんですよ。夏って梅雨もあるから、雨もよく降りますからね。アコギの音色もすごく郷愁を誘うので、聴いてくれるみんなもきっと、何か思い出しちゃうものがあるだろうな……と思ったんです。
――青山さん自身にも、そういうものはあるんですか?
青山 はい。私、地元にいるときにはあまり花火大会に行ったことなかったんですけど、一度だけ高校1年生のときに友達と行った、熊本の玉名というところの花火大会を思い出しました。花火自体も綺麗で素敵でしたけど、行くまでの時間も楽しくて!徐々に浴衣の人が増えていったり、屋台がバーって並んでたり……それに学生って、普段制服じゃないですか?でも中学生時代の、全然連絡先も知らなかった友達が短パン姿でいるのを見つけて「えっ、久しぶり!」ってなったりもして……そういった、夏にしか味わえないような感情や経験が頭に浮かんだんですよ。きっとみんなにもそういう経験や……“存在しない、存在しているはずの夏”があるはずですし(笑)。
――“存在しない記憶”ですか(笑)。
青山 そう。そういう“懐かしい夏”というものを、この曲を通じて出せたらと思ったんです。でも実は、元々は2曲目はこの曲じゃなくて、他の曲に9割方決まっていたんですよ。それもめっちゃいい曲で、プリプロも終わっていたような段階だったんですけど……。
直前で楽曲変更!? 大きな影響を与えられた出来事とは
――そこから「あやめ色の夏に」に変わったのは、なぜですか?
青山 プリプロの数日後、たまたま町内会の掲示板みたいなものに貼ってあった「近くでお祭りがある」というお知らせを見まして。それはちっちゃい神社のちっちゃいお祭りなんですけど、屋台も並ぶようなものと聞いて「東京にも、そういうお祭りがあるんだ!」って嬉しくなっちゃって。家の近くだったので当日行ってみたら……「普段、どこにこんなに人が住んでるんだろう?」って思うぐらい、人がギュッと集まってたんです。
――もう、驚くくらい。
青山 はい。しかももう、ほぼ子供で。子供って大人になるとなかなか会わないから、大勢の子供がいるのにいたく感動しまして。そこで、私が高1の花火大会で感じた雰囲気を思い出すようなやり取りをしている子たちを見かけたんですよ。
――どんな子たちだったんですか?
青山 友達グループ同士で行った男の子たちと女の子たちがたまたま会ったみたいで、女の子は真ん中の子がちょっと後ろに下がってもじもじしてるし、男の子のほうが「お前いけよ」「いやお前が」みたいに譲り合ってて。「え?恋の花火も上がっちゃう!?」みたいなもどかしい雰囲気が、そこにあったんですよ。しかもまわりを見たら提灯がぼんやり光ってて、美味しい焼きそばの匂いもして、「ぃらっしゃいやせー!」っていう威勢のいいお兄さんたちの声も聞こえて……もうすべてがよかったんです!そうこうしているうちにいい具合に日も暮れきて、人の顔もちょっと薄暗くなっていって……その子たちを見ながら、ビールをもうバッコバコ飲みました。
――酒の肴に(笑)。
青山 お祭り全体の雰囲気も思わず写真に撮っちゃうぐらい素晴らしい“夏”にあふれるものだったので、「これを歌で表現したい!」という想いが湧いてきたんです。でもその気持ちとプリプロ済みの曲がどうしてもマッチしなくて、どうしようかと悩んでいたら……頭の中にあの懐かしい夏を呼び起こすようなイントロが流れ始めて。「私はこの曲を歌いたいのかもしれない」と思って、即プロデューサーに連絡してこの曲にしていただきました。
――なるほど、急ピッチになった理由はそこにあったんですね。
青山 ほんっとに皆さん「はぁ?」って思われたでしょうけど、本当にありがたいことに私の気持ちを最優先に動いてくださったんですよ。「Page」のときも別の曲に決まっていたところから、私がビビッときて「どうしても矢吹さんのこの曲が……」と言って変えていただいたので、自分でも「三度目はないぞ」という気持ちではいるんですけど……でも、運命的ですよね。あの掲示板を見なければお祭りに行かなかったし、あの中学生たちが生まれて出会ってなければあの光景にも触れられなかったわけだから。すごい奇跡ですよね。
――今回は作編曲された永塚健登さんが、歌詞も手掛けられています。
青山 なので、私があのとき感じた気持ちをわーっと文字にしてまず永塚さんに送って歌詞にしていただきまして。私の記憶や、いろんな夏の作品から受けたインスピレーションをもとにした「こんな夏、過ごしたかったな」みたいな気持ちを込めて、歌っていきました。
――そうなると、歌のアプローチも「Page」とはまた変わりますよね。
青山 全く変わりました。今回は私がお祭りで見た光景がきっかけというのもあって、その光景を見ている自分と、その先にいる高1のときの自分というふたつの世界を行ったり来たりするような感覚がありまして。
――俯瞰している部分と、その景色の中のひとりになっている部分の両方がある。
青山 はい。だから「Page」とは全く違いましたし、最初はプロデューサーとも見方がなかなか一致しなかったんですよ。私は元々キャラクターソングとして「誰かの人生で、歌をうたう」ことばかりをしてきていたし、今回は在りし日の夏を歌いたかったので、青山吉能ではないけど青山吉能である“青山吉能α”とでも言うような存在が必要だったんです。でもプロデューサーは元々声優やアニメの曲を全くやってこなかったので、“違う人で歌う”という感覚がわからない。だからお互い意見を出し合ったり目指す方向をお話しながら……でもお互い譲らないところは譲らず、戦いながら上を目指していったような感じでした。
――ただ逆に、その両方の見方があったからこそ、曲中での目線の切り替えが作り込めたのかもしれませんね。
青山 そうですね。だから今回はどちらかというと、自分の意思があるというよりも“青山吉能α”の意思や人生を描いたような曲になっているので、だからこそ皆さんそれぞれが似たような記憶を呼び起こされたり、より共感ものになっているんじゃないかなと思っています。そこにたどり着くために、私が知らなかった部分についてはうまいことプロデューサーに引き出してもらったので、本当に「音楽って、共同制作なんだなぁ」とも感じましたね。
――楽曲とマッチするいい塩梅での淡々とした歌声もこの曲ならではのポイントですし、より聴く側の共感を深めるように思います。
青山 それは、すごく狙ったポイントでした。私は「声も楽器のひとつだ」と思っているので、だから「歌いたいように歌う」曲も「楽器の一部として存在する」曲もあって。今回は、どちらかといえば後者寄りの気持ちで歌ったんです。でも逆に、今までは感情オーバーヒート型のキャラクターとして想いのままに歌わせていただくことも多かったので、“訥々と”という感じを出すのがめっちゃ難しくて!
――俯瞰して歌わなければいけないところで、どうしても感情が乗りすぎてしまったり?
青山 はい。自分で言うのもなんですけど、今までは感情を乗せて歌うことを結構得意にしていたので、今回は特に「抑えているつもりだけど抑えきれていない」がほんっとうに多かったんですよ。
――でも淡々としすぎると、それはそれで棒っぽくなってしまいますからね。
青山 しかも、逆に曲にも合わなくなっちゃうんです。でも訥々とは歌いたかったから、自分の歌っている感覚と実際に出ているものの違いを理解するために、歌ったら一旦聴いて確認して「ここをこうしましょう」と決めて、もう1回歌って聴いて……ということを繰り返して、時間をかけてレコーディングしていきました。なので今回は、表現者としても1個大きな壁に立ち向かった曲にはなったと感じています。それを乗り越えられたかどうかはまだわかりませんけど、もっと上を目指したいですね。まだまだ、鍛錬の途中だと思っているので。
――そうやって丁寧にレコーディングされたとなると、ライブではどんな形になるのかも気になります。
青山 たしかに。この曲、ライブで歌ったらどうなっちゃうんでしょうね?「Page」みたいな曲は感情が乗れば乗るほどライブならではの良さが出るんでしょうけど、この曲って感情が乗ることによる良い作用があまりなさそうなんですよ。ほら、流れ星も1個がスッと流れるから美しく見えるわけで、いっぺんに100個も流れたら全然風情がないじゃないですか?だからこの曲は、テンションが上がったなかでも一筋の流れ星だけを流す、みたいな特訓が必要になってくるんだと思います。
――そこが、鍛錬したいポイントなんですね。
青山 そうですね。でもまだまだ伸びしろがあると思えて頑張れるのも、嬉しいことですね。
――リリースを前に楽曲も公開され始めて、ファンの方からの反響も届き始めているのでは?
青山 そうですね。ラジオで初解禁になったときも、ありがたいことに反応がすごく良くて。「よし、青山吉能、音楽に妥協なし!了解!」みたいにつぶやいて、安心してくれていた方もいらっしゃったとスタッフさんから伺いました(笑)。もちろん最初から妥協せずにやってはいますけど、自分からそれを言っちゃうのって超ダサいじゃないですか?でもそうじゃなくて、音楽を聴いただけでそう感じていただけることってやっぱりかっこいいなと思うので、その想いが通じて嬉しかったです。
自分の感覚を信じすぎなかったからこそ、理想の光景に近づけたMV
――そしてこの曲のMVは、先ほど最近撮られたとおっしゃっていました。どんな雰囲気のものになっていますか?
青山 MVではジャケ写にも使っている真っ白のワンピースと、浴衣を着まして。私がこの曲を通じて思い浮かべた田舎の風景の中の“切ない夏”みたいなものを、映像でも描いていただいています。曲が訥々としているので、田園風景を歩いたり、畑の中にポツンと佇んでみたり。あとは神社の長い階段を登ったりもしましたね。それに画面サイズが、昔のガラケーの動画を連想させるような、スクエアになっているのもポイントなんですよ。ただ実は私、最初「この曲で浴衣を着るのは、ちょっとベタすぎない?」と思ってしまって。
――そうだったんですか?
青山 はい。そういうところで反骨精神というか、ちょっとだけ邪道を行きたがる私の中の嫌なオタクの部分が出かけちゃったんですよ。「いやそれはちょっと、ベタすぎるんだが?(メガネクイッ)」みたいな。
――ちょっとだけひねりたくなりがちですよね。
青山 そう。でも実際に浴衣を着てみたら、もう最高で!やっぱり、雰囲気が段違いに出るんですよ!だから提案してくれたスタッフさんにはもう「ありがとうございます、ごめんなさい」っていう気持ちで。それにファンの皆さんも普段と違う格好をしているところは好きでしょうし、結果的に「マジ、やってよかったな」って。そこは私の直感を信じなくてよかったと思っています。おかげで白いワンピースでは3枚ぐらいしか自撮りしなかったのに、浴衣では100枚ぐらい撮ってました(笑)。
――ちょうどリリースの頃から、夏祭りも増えてくるでしょうし。
青山 ね!なので今年の夏はもちろん、毎年夏が来るごとに「あやめ色の夏に」を思い出してもらえたら嬉しいです。
――さて、今回は夏をテーマにこの「あやめ色の夏に」を作られましたが、他の季節で曲を作るなら、どの季節の曲を歌ってみたいですか?
青山 私、冬の曲も歌いたいんですよ。冬の曲でよく使われる、鉄琴みたいなあの音あるじゃないですか?
――グロッケンとか?
青山 そう!「冬のケンタッキーのCMのイントロで絶対使われてる!」みたいな、あの音が大好きなんです。
――そのサウンド感だと、ハッピーな曲になりそうですね。
青山 そうですね、今回は切ない歌だったので。……そもそもまだ、全く何も決まってはいないんですけど(笑)。それに、“冬”もきっと人によって思い浮かぶものが違うじゃないですか?だから、まわりの皆さんの“冬”のイメージも取り入れたりと知らないことをまたいっぱい知りながら、曲作りしていきたいです。
――ストック中の曲を完成までもっていく際にも、同じような気持ちで臨みたい?
青山 はい。まだ生まれてもいない命が、たくさんあるんですよ。私はその親ですから、育ててあげないといけない。なのでまずはそれをとにかく早く聴いてほしいです!どれも本当にいい曲ですしジャンルも本当に様々なので、これからも毎回毎回みんなをあっと驚かせていきたいです。
――それだけストックがあったら、仮にアルバムを作るとなっても、今度はゆとりを持ってできそうですね。
青山 そうなんですよ!ただ毎回「早めに作ろう」とは言うものの、私は専業歌手ではなくて声優のお仕事などと並行してアーティスト活動をさせていただいていますし、他の皆さんも忙しいから、結局毎回急ぐハメになってしまって。
――もし冬の曲を作るのなら、今スタートしてしまえば安全進行かも?
青山 そうですよね!今から取り掛かってアレンジ含めてわーっと頑張って作れば、冬の超絶寒いなかでMV撮影しなくてすむし、12月頭ぐらいにはリリースできるし……でもそんなことはたぶん、みんなわかってるんですよ。だってまわりの皆さん、「音楽業界何年だと思ってるの?」っていう方たちばかりですから。でもやっぱり、余裕があると人って怠けちゃうんだよなぁ……。
――わかります……。
青山 私たち、締切追われ族ですからね……。でも先ほども言ったように、今回は「時間がない」が口癖になるような状況でも、妥協した点はひとつもなかったんです。だから、時間があったらもっと心の余裕も持って制作できただろうし、プロデューサーともムダにぶつからずにすんだはずなので……やっぱり、時間の余裕は、心の余裕。今後は「ギリギリ進行やめようの会」で、頑張ります!
INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
●リリース情報
青山吉能 2ndデジタルシングル
「あやめ色の夏に」
7月27日配信リリース
配信リンクはこちら
関連リンク
青山吉能 レーベルサイト
https://www.teichiku.co.jp/artist/aoyama-yoshino/