アーティストデビューから3周年を迎え、さらなる扉の向こうへ。『ガールズ&パンツァー』の主人公・西住みほ役や「アイドルマスター シンデレラガールズ」の北条加蓮役などで活躍中の声優アーティスト・渕上舞が、TV アニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』ED テーマをタイトルに掲げたニューシングル「人芝居」をリリース。
「人芝居」は、妖しさや不思議さが漂うミステリアスなナンバー。カップリングには自身が作詞した「ショートケーキの苺は、あなたにあげる。」をパッケージしている。本作に込めたメッセージについて教えてもらった。
充実した3年間に
――ラジオ「Lantis EXPO!」(TOKYOFM)でもお話されていましたが、改めて、アーティストデビュー3周年を迎えたお気持ちをお聞かせください。
渕上舞 昨年の11月から今年の2月にかけて3周年ライブツアー”THE CIRCUS” を行わせていただきましたが、「3周年だから……」といった厳かな気持ちはまったくなくて。それよりも、ナチュラルにずっと続いているような感じがしています。だから、周りから言われて「ああ、もう3年も経ったんだな」と思いましたね。声優というお仕事は10年以上やらせてもらっているので、種類、幅のようなものはなんとなく理解できるようになっているのですが、アーティストとなると最初は右も左もわからない状況で。毎回が新しい挑戦なので、馴染んでいくのに3年くらいかかったように思います。あっという間の3年でした。
――右も左もわからないという状況のなかでずっと作詞を続けられてきたことが本当にすごいなと思います。
渕上 そうなんですよね。
――初めての作詞は、そのアルバム前のキャラソンでしたよね。
渕上 そうです!そのときは、何年も一緒に歩んできたキャラクターと作品だったので、そこに自分なりのエッセンスを添える感じでした。自分の気持ちというより、キャラクターのことを思いながら書くという感じだったのですが、アーティストとなるとそれが逆転するというか。もちろんすべてがリアルではなくて、そこにフィクションも入っていたり、自分の描く夢だったりも入っているんですけど……最初のうちは、どことなく、自分の胸の内をさらけ出す恥ずかしさのようなものもありました。
――今はどうですか?
渕上 恥ずかしさのようなものはなくなっていて、むしろストレス発散になっています(笑)。日常で感じているフラストレーションって皆さんあると思うんですけど、そういうことを直接的に言う機会ってないじゃないですか。でも嫌なことすら歌になるというか。傷つくことがあっても「これタイトルにしたれ!」「フィクションを加えて歌にしちゃえ!」って(笑)。自分の心を軽くする方法の1つに、作詞が加わったなと思っています。そのぶん、すごく多幸感に溢れた曲というのは、渕上舞作詞ではないのかもしれません……どれも影があるものになっているなという気持ちはあります。
――渕上さん自身、ハッピーな曲というより、少し影のあるような曲に惹かれますか?
渕上 そうですね。
「人芝居」は歌っていて気持ちが良い曲
――では本作のことについてお伺いさせてください。「人芝居」は、TVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』EDテーマ。お話をもらったときはどのような印象がありましたか?
渕上 このお話をいただいたときは作品のことを知らなくて。もちろん有名な作品なのでタイトルは知っていましたが、観たことはなかったんです。なので最初は「教室という名前が入っているし、男の子が学園内の女の子とキャッキャする感じなのかな」と勝手に想像していました。でも1st Seasonを観させていただいたところ、楽しい感じではなく、映像の表現も音楽も主人公の語り口調も少しダークなトーン。これはただのハーレムものではないだろうなと思いました。また、(綾小路清隆役の)千葉翔也さんの演技がいつもと違ったので少し驚いたんです。でもストーリーが進むにつれて、あのトーンと、淡々とした喋り方がクセになってしまいました。しかも良いことも言うんですよね。女の子たちももちろんかわいいんですけど、みんなそれだけじゃなくて。
――佐高陵平 (Hifumi,inc.)さんが作詞、作曲、編曲を手がけられています。歌詞はどのような印象がありましたか?
渕上 ものすごくインパクトのある歌詞だなって。ただ、正直な話をしてしまうと、最初に読んだときには「どういう意味なんだろう?」と思っていました。例えば“象弔え 蟻の葬列”のところとか。色々な見方ができるので、レコーディングに臨むまですべての意図は読み解けなかったんです。
――たしかに不思議な言葉がありますよね。一人芝居でもなく、一芝居(打つ)でもなく「人芝居」というタイトルもすごく印象的で。
渕上 そうなんですよね。
――例えば“礫 蟹 葉(ぐーちょきーぱー)なんて役に立たないわ”ってところも面白い表現だなと。その言葉遊びも含めて、気持ちの良い曲という印象がありました。
渕上 練習しているときも「歌っていてすごく気持ちの良い韻の踏み方だな」と思っていました。聴いていてもすごく気持ちの良い曲ですね。ただ、すべてを理解できていないうえで歌うのは失礼だと思って、レコーディングのときにスタッフさんにお話を聞いたんです。
――なんておっしゃっていました?
渕上 そのお話を上手く説明できるかわからないのですが……歌詞の中に象、狐、猿、狸と色々な動物が出てくるのですが、それは動物たちが争っているのを人が俯瞰してみている様子を表しているそうなんです。例えば、先ほどの“象弔え 蟻の葬列”のところは、象はすごく大きな存在だから、象から見ると小さな蟻の列はあまり意味のない行為に映っているかもしれない。でも彼らは彼らなりに動いている。そこには、主人公のように、傍観者的な感じでクラスメイトの様子を俯瞰して見ている……という表現も含まれている、といったお話でした。私の認識としては、主人公目線がありつつも、生徒同士の頭脳戦を動物同士のバトルとして表しているんだろうなと。タイトルも含め、色々な意味が含まれているので、作品とともに歌詞の解釈を楽しんでいただけたらなと思っています。
――MVでは、渕上さんが狐のお面を被っていらっしゃいますね。
渕上 私がどうしても狐のお面を使いたかったんです(笑)。最初は近未来的な雰囲気の案をいただいたのですが、“狐 化けの皮剥がれるよな”という言葉が頭の中にずっと残っていて。イントロに少し和の雰囲気もありますし、全体的にあやかし的な雰囲気もあるなと思っていたので「狐のお面を使いたいです!」とお願いしたんです。一度案を出していただいていたのですごく心苦しかったのですが、快く意見を取り入れてくださって組み直していただきました。ただ、作品自体は和の雰囲気のものではないので「ビジュアル的なものはどうしようかな」とみんなで話し合いました。
――それであえてドレッシーな衣装なんですね。
渕上 そうです。色々な方がいるなかで1人赤いドレスを着ています。いっそのこと着物にするかというアイデアもあったのですが、結果的にああいう感じになりました。
――結構な大人数での撮影ですよね。
渕上 まさにそんな感じです!いつも以上にストーリーのあるMVに仕上げていただきました。撮影場所もホールだったので、お芝居を楽しんでいるような感覚の撮影で。(インタビュー段階では)まだショートバージョンしか公開されていませんが、椅子取りゲームをしながら戦っていくので、フルバージョンでは私がいないシーンも出てきます。その様子を観客席からチェックをさせてもらっていたので、私自身、お芝居を見ているかのような感覚で。「もう少しこういう動きをしたら雰囲気が出ると思うんですけど、監督どうですか?」と意見を言わせていただくこともあり、ちょっとした演出家気分も味わいました(笑)。
タイトル詐欺?「ショートケーキの苺は、あなたにあげる。」
――カップリングの「ショートケーキの苺は、あなたにあげる。」は渕上さんが作詞を、mekakusheさんが作曲を手がけられています。どちらを先に作ったのでしょうか。
渕上 曲を先にいただいていたんです。「人芝居」とセットの作品にしたかったので、1枚通して妖しさ、不思議さを感じるような楽曲にしたいと思っていました。それで作っていただいたのがこの楽曲です。歌詞は仮でつけてくださっていたのですが、自分で書くか、フルで作っていただくか、どうしましょうかという感じで。メロディを聴いて書きたいテーマがパッと思い浮かんだので「ぜひ書かせてください」とお願いしました。
――どういったきっかけで生まれた歌詞なのでしょうか?
渕上 たまたまYou Tubeの関連動画に、心臓外科医の人のチャンネルの動画が流れてきて……。
――心臓外科医……!?
渕上 ご理解いただけるかわからないのですが……「心臓か、ショートケーキの苺だ!」って思ったんです。
――どういうことなんでしょう?(笑)
渕上 理解不能ですよね(笑)。元々違う歌詞だったんです。“パンケーキ食べたいし、ドラマの続き気になるし”、だから明日まで生きてみようかな、みたいな歌詞で。2番に“ショートケーキの苺は、あなたにあげる”って書いてたんですけど、そのときに例の心臓外科医の方の動画を観たんです。「パンケーキは辞めて、ショートケーキの苺にしよう」と。つまり、言いたいこととしては……苺ってショートケーキにとって少し特別なものというか。ショートケーキとしての心臓だと思っているんです。苺を取ってしまうと、ショートケーキとしての命はなくなってしまう気がして。
――たしかに、ただの生クリームのケーキになってしまう。
渕上 そうなんです!私、スイーツが大好きなのですが、そのなかでも苺のショートケーキが大好きで。そういうこともあって、この考えに行き着きました。
――ショートケーキの苺って人によって食べる順番も違いますよね。それも関係しています?
渕上 そう!ショートケーキの苺って特別だから、人によって扱い方が違うんですよね。最初に食べる人もいれば、最後に取っておく人もいる。あとは、最後まで取っておいたゆえに、なにかの拍子に落としてしまって、すごく悲しくなってしまうことも。それを人で表すと……命の扱い方も、人によって全然違うというか。そういったことを考えられる曲になったら良いなって。
――ああ、なるほど。タイトルだけ見るとすごくかわいい曲なのかなと思うかもしれませんが、実はセンシティブなメッセージが込められている。
渕上 そうですね。「タイトル詐欺みたいになっちゃった」っていう話をスタッフさんには言いました(笑)。
――タイトル詐欺(笑)。先ほど歌詞のお話のときに「だから明日まで生きてみようかな」といったお話がありました。実際歌詞にも“やっぱりあと一日 生きてみようかな”という言葉がありますが、渕上さんもそういったことは考えられる時期があったんですか。
渕上 私は毎日思ってますね(笑)。私はもう、人生満足してしまっているところがあるんです。ただ、その時々で「もう嫌だ、死にたい」と落ち込んでしまうこともあって。さらに、その一方で「今年は人間ドッグに行ったほうがいいよなぁ」とか思うこともある。「それって長生きしたい人が思うことだよね?」っていう(笑)。
――たしかに(笑)。
渕上 その矛盾を歌にできたら、それもストレス発散になるんじゃないかなと。「死にたい」って言葉としては最高のネガティブワードですけど、皆さん気軽に言ってしまう言葉でもあると思っていて。とりあえず、明日のドラマ楽しみだな、じゃああと1日生きてみようかなって思ってもらえたらなって。そしたらまた変わってくるかもしれない。その1日がまたもう1日になって、人生楽しく生きていけるかもしれないじゃないですか。「元気出して頑張ろうよ」じゃなく……「頑張らなくてもいいから明日くらい生きてみたら」って言われることで救われることもあるんじゃないかなと思っています。大きなこととか、小さなこととか関係なく「毎日生きているのに疲れたなぁ」と思う方に聴いてほしいです。
――たしかにポジティブな歌を聴いたり「頑張れ」って言われたりするよりも、希望になるかもしれない。渕上さんもそういった言葉に励まされるのでしょうか。
渕上 私は「あーもうダメだ、死にたい」って口癖なんです。母の前で言うと「そんなこと言わないで」「大丈夫だよ」じゃななくて「あーそしたら、もうじゃあ死なないかんね」って言われるんです。それがすごく衝撃で(苦笑)。
――「嫌だ」ってなりますよね(笑)。
渕上 そうなんです、嫌だ、やっぱり生きる!って(笑)。そう言われることでの背中の押し方、支え方もあるんだなって大人になって気づきました。
――ところで、1番、2番ともに“星占いはハズレた”という言葉もありますが、星占いは信じられるタイプですか?
渕上 星占いというより、占いは好き。入れ込むタイプではないですが、娯楽感覚で占いに行くこともあります。「◯◯年にあなたはこうなるわよ!」って言われたら「じゃあそれまで頑張ってみよう」って思えるし、それが外れたら「まぁいっか、所詮占いだし」と割り切ってしまう。悩んでいる人って占いにすがりたくなることもあると思うんですけど、それが外れたときの絶望もあると思うんです。だから……解説してしまうと、1番では「星占い外れた、もう死にたい」と思っているけれど、だんだんその気持ちが薄れてきて、2番では「星占い外れちゃったけど、悪いこと言われていたから外れて良かった」と感じているというか。そういう表現ができたらなと思っていたので、最後の“星占いはハズレた”は明るめになっています。
――たしかに明るい歌声になっていますよね。また“道標”という言葉もありますが、渕上さん自身はそういったモノ・コトはありますか。
渕上 欲しいです(笑)。道標とは言わず、線路を敷いてほしい。
――それこそ、「Lantis EXPO!」などでも「水樹奈々さんに憧れて」といったことをおっしゃっていましたが、先輩アーティストの存在が道標になることは……?
渕上 「奈々ちゃんみたいになりたい!」と思ってこの業界を目指したことに嘘はないんですけど……仕事をしていくうちに「私は奈々ちゃんじゃないから、奈々ちゃんにはなれない」と気づいてしまったんです(笑)。奈々さんは太陽のような眩しさ、パワフルさがあって、私みたいにネガティブな言葉は言わないだろうなって。でも……道標は欲しいけどいらないのかもしれません。線路を敷いてほしいってさっき言いましたけど、実際に線路を敷かれたら「こんなところ歩いてられっか!」って蹴り飛ばしそうな気もします(笑)。
――頼もしい(笑)。本作が発売されるころには(2022年も)残り約半年というタイミングになりますが、やっておきたいなと思うことはありますか?
渕上 身の回りの整理ですね、断捨離です。常にやってるのですが、根は怠け者なのでテキパキ動けないんです(笑)。なので「1個買ったら2個捨てる」を実行しています。少しは片付いていることを願います。
――8月6日にはA-on STORE Presents “渕上 舞 アコースティックLIVE 03”が開催されます。現在セットリストを決められている最中ですか?
渕上 スタッフさんがあるテーマを元に選曲を決めてくれたのですが、それがすごくかわいくて(笑)。そのテーマが皆さんに伝わるかはわからないんですが「最高ですよ、これでいきましょう!」と返事をしました。それは来てくださった方のお楽しみです。
INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ
●リリース情報
渕上舞 7thシングル「人芝居」
TVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』エンディングテーマ
2022年7月27日(水)発売
価格:¥1,320(税込)
品番:LACM-24295
収録内容:表題曲+カップリング+各インスト 収録予定
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<INDEX>
1.人芝居
作詞・作曲・編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
2.ショートケーキの苺は、あなたにあげる。
作詞:渕上 舞 作曲:mekakushe 編曲:佐藤優介
3.人芝居(Off Vocal)
4.ショートケーキの苺は、あなたにあげる。(Off Vocal)
関連リンク
渕上舞
公式サイト
https://www.lantis.jp/artist/fuchigamimai/
公式Twitter
https://twitter.com/fuchigami_mai
TVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』
http://you-zitsu.com/
「人芝居」は、妖しさや不思議さが漂うミステリアスなナンバー。カップリングには自身が作詞した「ショートケーキの苺は、あなたにあげる。」をパッケージしている。本作に込めたメッセージについて教えてもらった。
充実した3年間に
――ラジオ「Lantis EXPO!」(TOKYOFM)でもお話されていましたが、改めて、アーティストデビュー3周年を迎えたお気持ちをお聞かせください。
渕上舞 昨年の11月から今年の2月にかけて3周年ライブツアー”THE CIRCUS” を行わせていただきましたが、「3周年だから……」といった厳かな気持ちはまったくなくて。それよりも、ナチュラルにずっと続いているような感じがしています。だから、周りから言われて「ああ、もう3年も経ったんだな」と思いましたね。声優というお仕事は10年以上やらせてもらっているので、種類、幅のようなものはなんとなく理解できるようになっているのですが、アーティストとなると最初は右も左もわからない状況で。毎回が新しい挑戦なので、馴染んでいくのに3年くらいかかったように思います。あっという間の3年でした。
――右も左もわからないという状況のなかでずっと作詞を続けられてきたことが本当にすごいなと思います。
渕上 そうなんですよね。
1stアルバム『Fly High Myway!』からありがたいことにずっと書かせてもらっていて。
――初めての作詞は、そのアルバム前のキャラソンでしたよね。
渕上 そうです!そのときは、何年も一緒に歩んできたキャラクターと作品だったので、そこに自分なりのエッセンスを添える感じでした。自分の気持ちというより、キャラクターのことを思いながら書くという感じだったのですが、アーティストとなるとそれが逆転するというか。もちろんすべてがリアルではなくて、そこにフィクションも入っていたり、自分の描く夢だったりも入っているんですけど……最初のうちは、どことなく、自分の胸の内をさらけ出す恥ずかしさのようなものもありました。
――今はどうですか?
渕上 恥ずかしさのようなものはなくなっていて、むしろストレス発散になっています(笑)。日常で感じているフラストレーションって皆さんあると思うんですけど、そういうことを直接的に言う機会ってないじゃないですか。でも嫌なことすら歌になるというか。傷つくことがあっても「これタイトルにしたれ!」「フィクションを加えて歌にしちゃえ!」って(笑)。自分の心を軽くする方法の1つに、作詞が加わったなと思っています。そのぶん、すごく多幸感に溢れた曲というのは、渕上舞作詞ではないのかもしれません……どれも影があるものになっているなという気持ちはあります。
――渕上さん自身、ハッピーな曲というより、少し影のあるような曲に惹かれますか?
渕上 そうですね。
昔から切ない曲や失恋ソングのほうが素敵だなと思うことが多いです。
「人芝居」は歌っていて気持ちが良い曲
――では本作のことについてお伺いさせてください。「人芝居」は、TVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』EDテーマ。お話をもらったときはどのような印象がありましたか?
渕上 このお話をいただいたときは作品のことを知らなくて。もちろん有名な作品なのでタイトルは知っていましたが、観たことはなかったんです。なので最初は「教室という名前が入っているし、男の子が学園内の女の子とキャッキャする感じなのかな」と勝手に想像していました。でも1st Seasonを観させていただいたところ、楽しい感じではなく、映像の表現も音楽も主人公の語り口調も少しダークなトーン。これはただのハーレムものではないだろうなと思いました。また、(綾小路清隆役の)千葉翔也さんの演技がいつもと違ったので少し驚いたんです。でもストーリーが進むにつれて、あのトーンと、淡々とした喋り方がクセになってしまいました。しかも良いことも言うんですよね。女の子たちももちろんかわいいんですけど、みんなそれだけじゃなくて。
「ああ、すごい面白い作品だな」と思いました。その後、楽曲をいただいて。先ほどお話しした通り、憂いがあったり、影があったりする曲のほうが好みなんです。率直に「すごく好きだな」と、歌うのが楽しみでした。
――佐高陵平 (Hifumi,inc.)さんが作詞、作曲、編曲を手がけられています。歌詞はどのような印象がありましたか?
渕上 ものすごくインパクトのある歌詞だなって。ただ、正直な話をしてしまうと、最初に読んだときには「どういう意味なんだろう?」と思っていました。例えば“象弔え 蟻の葬列”のところとか。色々な見方ができるので、レコーディングに臨むまですべての意図は読み解けなかったんです。
――たしかに不思議な言葉がありますよね。一人芝居でもなく、一芝居(打つ)でもなく「人芝居」というタイトルもすごく印象的で。
渕上 そうなんですよね。
タイトルも不思議で。
――例えば“礫 蟹 葉(ぐーちょきーぱー)なんて役に立たないわ”ってところも面白い表現だなと。その言葉遊びも含めて、気持ちの良い曲という印象がありました。
渕上 練習しているときも「歌っていてすごく気持ちの良い韻の踏み方だな」と思っていました。聴いていてもすごく気持ちの良い曲ですね。ただ、すべてを理解できていないうえで歌うのは失礼だと思って、レコーディングのときにスタッフさんにお話を聞いたんです。
――なんておっしゃっていました?
渕上 そのお話を上手く説明できるかわからないのですが……歌詞の中に象、狐、猿、狸と色々な動物が出てくるのですが、それは動物たちが争っているのを人が俯瞰してみている様子を表しているそうなんです。例えば、先ほどの“象弔え 蟻の葬列”のところは、象はすごく大きな存在だから、象から見ると小さな蟻の列はあまり意味のない行為に映っているかもしれない。でも彼らは彼らなりに動いている。そこには、主人公のように、傍観者的な感じでクラスメイトの様子を俯瞰して見ている……という表現も含まれている、といったお話でした。私の認識としては、主人公目線がありつつも、生徒同士の頭脳戦を動物同士のバトルとして表しているんだろうなと。タイトルも含め、色々な意味が含まれているので、作品とともに歌詞の解釈を楽しんでいただけたらなと思っています。
まずは、メロディを楽しむというのも、1つの手かもなって。
――MVでは、渕上さんが狐のお面を被っていらっしゃいますね。
渕上 私がどうしても狐のお面を使いたかったんです(笑)。最初は近未来的な雰囲気の案をいただいたのですが、“狐 化けの皮剥がれるよな”という言葉が頭の中にずっと残っていて。イントロに少し和の雰囲気もありますし、全体的にあやかし的な雰囲気もあるなと思っていたので「狐のお面を使いたいです!」とお願いしたんです。一度案を出していただいていたのですごく心苦しかったのですが、快く意見を取り入れてくださって組み直していただきました。ただ、作品自体は和の雰囲気のものではないので「ビジュアル的なものはどうしようかな」とみんなで話し合いました。
――それであえてドレッシーな衣装なんですね。
渕上 そうです。色々な方がいるなかで1人赤いドレスを着ています。いっそのこと着物にするかというアイデアもあったのですが、結果的にああいう感じになりました。
――結構な大人数での撮影ですよね。
まるでミュージカルのような仕上がり。
渕上 まさにそんな感じです!いつも以上にストーリーのあるMVに仕上げていただきました。撮影場所もホールだったので、お芝居を楽しんでいるような感覚の撮影で。(インタビュー段階では)まだショートバージョンしか公開されていませんが、椅子取りゲームをしながら戦っていくので、フルバージョンでは私がいないシーンも出てきます。その様子を観客席からチェックをさせてもらっていたので、私自身、お芝居を見ているかのような感覚で。「もう少しこういう動きをしたら雰囲気が出ると思うんですけど、監督どうですか?」と意見を言わせていただくこともあり、ちょっとした演出家気分も味わいました(笑)。
タイトル詐欺?「ショートケーキの苺は、あなたにあげる。」
――カップリングの「ショートケーキの苺は、あなたにあげる。」は渕上さんが作詞を、mekakusheさんが作曲を手がけられています。どちらを先に作ったのでしょうか。
渕上 曲を先にいただいていたんです。「人芝居」とセットの作品にしたかったので、1枚通して妖しさ、不思議さを感じるような楽曲にしたいと思っていました。それで作っていただいたのがこの楽曲です。歌詞は仮でつけてくださっていたのですが、自分で書くか、フルで作っていただくか、どうしましょうかという感じで。メロディを聴いて書きたいテーマがパッと思い浮かんだので「ぜひ書かせてください」とお願いしました。
――どういったきっかけで生まれた歌詞なのでしょうか?
渕上 たまたまYou Tubeの関連動画に、心臓外科医の人のチャンネルの動画が流れてきて……。
――心臓外科医……!?
渕上 ご理解いただけるかわからないのですが……「心臓か、ショートケーキの苺だ!」って思ったんです。
――どういうことなんでしょう?(笑)
渕上 理解不能ですよね(笑)。元々違う歌詞だったんです。“パンケーキ食べたいし、ドラマの続き気になるし”、だから明日まで生きてみようかな、みたいな歌詞で。2番に“ショートケーキの苺は、あなたにあげる”って書いてたんですけど、そのときに例の心臓外科医の方の動画を観たんです。「パンケーキは辞めて、ショートケーキの苺にしよう」と。つまり、言いたいこととしては……苺ってショートケーキにとって少し特別なものというか。ショートケーキとしての心臓だと思っているんです。苺を取ってしまうと、ショートケーキとしての命はなくなってしまう気がして。
――たしかに、ただの生クリームのケーキになってしまう。
渕上 そうなんです!私、スイーツが大好きなのですが、そのなかでも苺のショートケーキが大好きで。そういうこともあって、この考えに行き着きました。
――ショートケーキの苺って人によって食べる順番も違いますよね。それも関係しています?
渕上 そう!ショートケーキの苺って特別だから、人によって扱い方が違うんですよね。最初に食べる人もいれば、最後に取っておく人もいる。あとは、最後まで取っておいたゆえに、なにかの拍子に落としてしまって、すごく悲しくなってしまうことも。それを人で表すと……命の扱い方も、人によって全然違うというか。そういったことを考えられる曲になったら良いなって。
――ああ、なるほど。タイトルだけ見るとすごくかわいい曲なのかなと思うかもしれませんが、実はセンシティブなメッセージが込められている。
渕上 そうですね。「タイトル詐欺みたいになっちゃった」っていう話をスタッフさんには言いました(笑)。
――タイトル詐欺(笑)。先ほど歌詞のお話のときに「だから明日まで生きてみようかな」といったお話がありました。実際歌詞にも“やっぱりあと一日 生きてみようかな”という言葉がありますが、渕上さんもそういったことは考えられる時期があったんですか。
渕上 私は毎日思ってますね(笑)。私はもう、人生満足してしまっているところがあるんです。ただ、その時々で「もう嫌だ、死にたい」と落ち込んでしまうこともあって。さらに、その一方で「今年は人間ドッグに行ったほうがいいよなぁ」とか思うこともある。「それって長生きしたい人が思うことだよね?」っていう(笑)。
――たしかに(笑)。
渕上 その矛盾を歌にできたら、それもストレス発散になるんじゃないかなと。「死にたい」って言葉としては最高のネガティブワードですけど、皆さん気軽に言ってしまう言葉でもあると思っていて。とりあえず、明日のドラマ楽しみだな、じゃああと1日生きてみようかなって思ってもらえたらなって。そしたらまた変わってくるかもしれない。その1日がまたもう1日になって、人生楽しく生きていけるかもしれないじゃないですか。「元気出して頑張ろうよ」じゃなく……「頑張らなくてもいいから明日くらい生きてみたら」って言われることで救われることもあるんじゃないかなと思っています。大きなこととか、小さなこととか関係なく「毎日生きているのに疲れたなぁ」と思う方に聴いてほしいです。
――たしかにポジティブな歌を聴いたり「頑張れ」って言われたりするよりも、希望になるかもしれない。渕上さんもそういった言葉に励まされるのでしょうか。
渕上 私は「あーもうダメだ、死にたい」って口癖なんです。母の前で言うと「そんなこと言わないで」「大丈夫だよ」じゃななくて「あーそしたら、もうじゃあ死なないかんね」って言われるんです。それがすごく衝撃で(苦笑)。
――「嫌だ」ってなりますよね(笑)。
渕上 そうなんです、嫌だ、やっぱり生きる!って(笑)。そう言われることでの背中の押し方、支え方もあるんだなって大人になって気づきました。
――ところで、1番、2番ともに“星占いはハズレた”という言葉もありますが、星占いは信じられるタイプですか?
渕上 星占いというより、占いは好き。入れ込むタイプではないですが、娯楽感覚で占いに行くこともあります。「◯◯年にあなたはこうなるわよ!」って言われたら「じゃあそれまで頑張ってみよう」って思えるし、それが外れたら「まぁいっか、所詮占いだし」と割り切ってしまう。悩んでいる人って占いにすがりたくなることもあると思うんですけど、それが外れたときの絶望もあると思うんです。だから……解説してしまうと、1番では「星占い外れた、もう死にたい」と思っているけれど、だんだんその気持ちが薄れてきて、2番では「星占い外れちゃったけど、悪いこと言われていたから外れて良かった」と感じているというか。そういう表現ができたらなと思っていたので、最後の“星占いはハズレた”は明るめになっています。
――たしかに明るい歌声になっていますよね。また“道標”という言葉もありますが、渕上さん自身はそういったモノ・コトはありますか。
渕上 欲しいです(笑)。道標とは言わず、線路を敷いてほしい。
――それこそ、「Lantis EXPO!」などでも「水樹奈々さんに憧れて」といったことをおっしゃっていましたが、先輩アーティストの存在が道標になることは……?
渕上 「奈々ちゃんみたいになりたい!」と思ってこの業界を目指したことに嘘はないんですけど……仕事をしていくうちに「私は奈々ちゃんじゃないから、奈々ちゃんにはなれない」と気づいてしまったんです(笑)。奈々さんは太陽のような眩しさ、パワフルさがあって、私みたいにネガティブな言葉は言わないだろうなって。でも……道標は欲しいけどいらないのかもしれません。線路を敷いてほしいってさっき言いましたけど、実際に線路を敷かれたら「こんなところ歩いてられっか!」って蹴り飛ばしそうな気もします(笑)。
――頼もしい(笑)。本作が発売されるころには(2022年も)残り約半年というタイミングになりますが、やっておきたいなと思うことはありますか?
渕上 身の回りの整理ですね、断捨離です。常にやってるのですが、根は怠け者なのでテキパキ動けないんです(笑)。なので「1個買ったら2個捨てる」を実行しています。少しは片付いていることを願います。
――8月6日にはA-on STORE Presents “渕上 舞 アコースティックLIVE 03”が開催されます。現在セットリストを決められている最中ですか?
渕上 スタッフさんがあるテーマを元に選曲を決めてくれたのですが、それがすごくかわいくて(笑)。そのテーマが皆さんに伝わるかはわからないんですが「最高ですよ、これでいきましょう!」と返事をしました。それは来てくださった方のお楽しみです。
INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ
●リリース情報
渕上舞 7thシングル「人芝居」
TVアニメ『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season』エンディングテーマ
2022年7月27日(水)発売
価格:¥1,320(税込)
品番:LACM-24295
収録内容:表題曲+カップリング+各インスト 収録予定
■mora
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ハイレゾ/配信リンクはこちら
<INDEX>
1.人芝居
作詞・作曲・編曲:佐高陵平(Hifumi,inc.)
2.ショートケーキの苺は、あなたにあげる。
作詞:渕上 舞 作曲:mekakushe 編曲:佐藤優介
3.人芝居(Off Vocal)
4.ショートケーキの苺は、あなたにあげる。(Off Vocal)
関連リンク
渕上舞
公式サイト
https://www.lantis.jp/artist/fuchigamimai/
公式Twitter
https://twitter.com/fuchigami_mai
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