2018年のデビュー以降、次々とアニメ関連の佳曲をリリースしてきたシンガーソングライター・安月名莉子。2022年8月24日(水)にリリースされる彼女の9thシングル「かたち」には、つくしあきひとによるマンガが原作のアニメとゲーム、2つの「メイドインアビス」に関する楽曲が収録されている。
「これまで以上にプレッシャーがあった」という楽曲を作り上げ、歌ってきた彼女が辿り着いた新境地とは――。制作陣も交えて語られたインタビューで、彼女の想いを確認してほしい。

「メイドインアビス」に込めた想い
――今回のシングルに収録された2曲はともに「メイドインアビス」関連の楽曲ですが、これらのタイアップの前から作品はご存知でしたか?

安月名莉子 「劇場版『メイドインアビス』-深き魂の黎明-」の主題歌を歌っているMYTH & ROIDのKIHOWちゃんが友達なので、作品自体は以前から気になっていて。そのときに、音楽ディレクターの竹山沙織さんに「面白いよ」と教えてもらい、TVアニメを観たんです。

――どんな印象を持ちましたか?

安月 最初はすごく楽しそうなファンタジーで、主人公の名前が同じ“リコ”ということもあり、単純に楽しそうだなという気持ちで観ていました。でも冒険が進むうちにリコが怪我するシーンや過酷な状況へ自分から飛び込んでいく姿に「ただのファンタジーじゃないぞ」と衝撃を受け、もっと深く知りたいと思って夢中になって最後まで観入っていましたね。

――リコたちが歌う第1期のOPテーマ「Deep in Abyss」もとても良い曲でしたが、安月名さんはどう思われましたか?

安月 キャラクターソングという強みもあって作品に没入できる曲だし、明るく勢いのあるメロディだけど歌詞は『アビス』らしさがてんこ盛りですごく魅力的ですよね。なので、今回のタイアップの話をいただいたときは、大好きな作品であることや「Deep in Abyss」のあとに私が歌うことにすごくプレッシャーを感じていて……。

――でもTwitterなどを見ていると、作品ファンは安月名さんが歌う「かたち」に満足していると感じます。YouTubeで「かたち」の一部が公開されていますが、そのコメント欄でも「リコとレグの声が合わさったような素晴らしい歌声」というコメントもいくつかありましたし。

安月 自分ではそんなこと全然思ってなかったです(笑)。そういう意見をいただいて、皆さん素敵な受け取り方をしてくださるなって……すごく嬉しいし、運命を感じます。




――ちなみにいただいた資料を拝見していて気づいたのですが、カップリングの「灯火」は結構前に歌われたのでしょうか?

安月 実は2年前に収録した曲なんです。

――では時系列順で、「灯火」から話を聞かせてください。こちらはどんな曲か紹介をお願いします。

安月 この楽曲はゲーム「メイドインアビス 闇を目指した連星」のEDテーマなんですが、静かな曲だけどネガティブなテーマではなく、悲しみを乗り越えた先にある静かな決意や暖かな希望が書かれています。そんな曲なので、私も灯火が消えないように、優しく物語を包み込むような、ストーリーを導く女神様みたいな気持ちで歌いました。でも安月名らしさも出したくて、後半にいくにつれて感情を表現したのでそこにも注目して聴いていただきたいです。

――バラードとまではいかないものの、最近リリースされたなかでは静かな曲ですが、賑やかな曲とこういった曲のどちらが好き/嫌い、もしくは得意/不得意などありますか?

安月 元々はバラードが好きで、この楽曲をいただいたときも空が開けているステージで歌っている情景やアビスの広大な景色をイメージできて、すぐに気に入りました。ただ、アニメ主題歌はいろんな曲調が求められるので、曲ごとに寄り添ったり演じたりするのもすごく楽しくて、力強く速い曲も好きになりつつあります。

――好きなものが増えているという感覚なんですね。それではここからアニメ第2期OPテーマ「かたち」について伺います。この曲はどんなコンセプトで作られたものでしょうか?

安月 一番のテーマは「旅の途中」です。第2期は深界六層へのラストダイブからの話で、アビスはまだ先があるけれど、この先にどんな世界が広がっているのか、終わりがあるのかもわからない。
そんな旅のなかで色んな人と出会って変わっていく形だったり、前に進みたいという変わらない形だったり、その両方を強い意思で歌った楽曲になっています。

――そして、それが安月名さんのアーティスト人生にも被っているんですよね。

安月 はい。そのコンセプトをスタッフさんから聞いたときはすごく愛を感じましたし、ドキッとしました。アニソンを歌っていると、アニメのテーマがそのときの私にとって大事なことと被ることが多くて……アニメの影響をすごく受けていますね。

――作曲・編曲は様々なアニソンを手がけられているebaさんですが、安月名さんへの曲提供は初めてですよね。曲に対してどんな印象を持たれましたか?

安月 今回が初めましてでした。曲を初めて聴いたときの第一印象は「イントロからお洒落でとにかくかっこよくて、力強さを感じる」でした。「こういうふうに歌い上げたい」というイメージが自分の中ですぐに湧きました。それと、先ほども言ったように今回のタイアップは普段以上にプレッシャーを感じていたんですけど、曲を聴いてから「第2期にピッタリ合ってる!絶対私が歌うんだ、歌える、頑張ろう」とモチベーションを一気に上げてもらったのを覚えています。

――個人的にはこの曲が3分32秒と短く、でも情報量が詰まっていてすごくまとまりが良いなと感じました。1番から2番への転換や間奏が短く、でもキャッチーですごい仕事だなと。


安月 「より短くより濃厚に、というのは大事にしている」とお聞きしました。最後まで止まらずに進行する、という突き進む感じも『アビス』っぽいなと今の話を聞いていてふと思いました。

――作詞は最近のシングル曲をよく手がけられているタナカ零さんですね。

安月 「Glow at the Velocity of Light」(TVアニメ『彼方のアストラ』EDテーマ)からお世話になっていますが、タナカさんには本当に頭が上がらないです。いつもそのときの自分のテーマに沿った言葉や心に刺さる言葉をくださるので、すごく信頼しています。

――それは安月名さんのことをよく知っているからかと思うのですが、タナカさんとは密にコミュニケーションを取っているんでしょうか?

安月 中々密にというわけではないのですが、昨年リモートでお話しさせていただく貴重な機会がありました。その時に音楽との向き合い方で悩んでいたことなど、親身になり真っ直ぐにお話を聞いて下さいました。その言葉たちが偽りのない楽曲となり届けてくださるときは、何とも言えない想いで胸がぎゅーっと締め付けられます。

――歌詞の中で特に『アビス』第2期っぽさを感じるのはどの部分でしょうか?

安月 1番サビの“すべて傷ついて僕は象ってく 形になる 目覚めの先で”の一文が、先ほど言った「目に見えて変わっていく形や、変わらない形」の両方がギュッと詰まっていると感じます。レコーディングでもすごく大切に歌いました。あと2番サビも“燃やせ”や“もがく”、“呪い”など、強いワードがたくさん出てきます。そこは感情だけで歌うのではなく、歌のニュアンスや発声の仕方を細かく決めてレコーディングに臨みました。


――レコーディングではどんなディレクションがありましたか?

安月 全体的に力強さシリアスさを大事にしていましたが、細かいところでは、「『憧れ』のようなキラキラしたワードはリコが持つワクワク感を出すように」というディレクションがありました。ただ、今回は曲からすごくイメージが湧いてきたこともあり、自分の表現で自由に歌わせていただいたことを覚えています。

――では「かたち」は割と歌いやすかった?

安月 いえ、「かたち」はすごく体力が必要なんです。だからライブで歌う前にはかなり走り込みをしましたし、今でも「まだまだ走り込みが足りないのかな」「走り込みだけじゃなくほかのこともしたほうがいいのかな」といった研究をさせられている1曲です。

――この曲と映像が合わさったオープニングの印象は?

安月 初めて観たのは映画館での先行上映会で、しかも最前列のど真ん中、両隣はつくしあきひと先生と森川ジョージ先生という二度と経験できないような環境で(笑)。オープニングは鳥肌が止まらず、感動しました。第2期にあたる部分の原作は読んでいたので、その魅力がこんなに詰め込まれていいのかな、と思うくらいに詰まっていて。このオープニングについて語り出したら、1時間以上いけちゃうんじゃないかな。



――特に印象的な部分を教えてください。

安月 1つに絞るのは難しいですね。1番Aメロのガンジャ隊とリコさん隊が同じ道を辿ってきたのがわかる描写は第1期がフラッシュバックする雰囲気があって好きですし、ナナチとミーティやリコとプルシュカ、最後にブエコとイルミューイがお互いに繋がっている、信頼し合っている描写がきたときは「こうきたか」とすごくジーンとしました。もう1つ挙げると、第1話でベラフの「美しさとは眼だ」というセリフがあるんですけど、それを受けて第2話で初めて流れるOP映像のサビ直前にその眼がアップになるカットがあって……そこも唸りました。


――眼といえば、今回のシングルのジャケット写真も眼に見えますよね。

安月 これはアビスの大穴という意味合いが強いですが、皆さん色々な解釈をしてくださっていますね。色んな捉え方のおかげで自分の感性も広がっています。このジャケット、シンプルなモノクロでメッセージ性が強くてかっこいいですよね。

旅はいつ終わるかわからない――。
――では「かたち」についてほかに語っておきたいなどありますか?

安月 先ほども少しお話しましたけど、「かたち」はアニメに寄り添った曲で私もそうイメージして歌いましたけど、私のアーティスト人生を歌った曲でもあるんですよね。自分が憧れて入った世界ですが、デビューから3年で周りの目を気にして「こっちのほうがいいんじゃないか」と自分の意思とは違った選択をしたこともあったし、今後失っていくものもあるかもしれない。それでも応援してくださる皆さんや同じ憧れを持った皆さんと一緒に前に向かって進みたいという思いもこの楽曲に込めて歌っています。そんなテーマの楽曲を作ってくださった制作の皆さんへの感謝も込めて歌っています。

竹山沙織(音楽ディレクター) 私からも1つ質問いいですか?「かたち」をレコーディングしたのはだいぶ前ですが、当時とアニメの放送が始まってお客さんの前で歌っている今とで、曲の受け取り方にはどんな変化があります?

安月 レコーディング時は、与えてくださった楽曲のクオリティがすごく高いので自分も良いものにしたいというのが一番でした。ここに賭けたいという想いもすごく強かったので必死でしたけど、そこから練習を重ねて歌うにつれて……今は……言葉にするのが難しいな。ここまで話をしてきたように、アニメのファンの方とこの曲に詰まった想いを共感したいという気持ちが強いです。
とにかくみんなと分かち合いたい、共有し合いたい。歌を歌うと、この燃えるような気持ちをみんなと一気に共有し合えたと実感できるんです。ある意味、周りを見ながら歌えるようになったんでしょうね。

竹山 この曲を作った当時、制作側としては『アビス』の深界六層以降の旅……特に成れ果てになってしまったガンジャ隊の失った形をテーマにしているんですが、安月名さん自身の「旅の途中」というテーマも大きかったんです。で、旅というのは自分から辞めることもできるし、誰かに辞めさせられてしまうこともあるし、突然辞めなきゃいけなくなることもある。先がどうなるかわからないというのは『アビス』のリコたちもそうだけど、安月名のほうの莉子も同じ。我々としては、冥土の土産じゃないですけど「いつ死ぬかわからないんだから一生懸命生きろ」という気持ちでこの曲を作ったんです。

安月 はい……。

竹山 しかも安月名さんは今、音楽人生の大きな岐路に立っているはずなんです。『アビス』という今までになく大きなタイトルとのタイアップをいただいたし、ワンマンライブ(9月19日開催)の前でもある。だからこの曲に対する想いがレコーディング時から今までに変わってないとまずいな、いつまでも「自分は旅の途中」とただのんびり構えていたらまずいなという気持ちがあったので、この場を借りて確認したくて。お客さんに対して「旅はいつ終わるかわからない」ということを伝えるというポジションになっていないとこの曲は歌いきれない、それくらいの気持ちでないとこの主題歌は負けるなと思っていました。だから先ほどの本人のコメントで「他人と共感したい」というところまで辿り着いていたということを確認できたのは良かった。ここから先、お客さんにこの曲の強さというか、「いつ自分にこういうことが起こるかわからないな」と思わせられるか、浸透させられるかが勝負です。

安月 (涙ぐみながら)ありがとうございます。おっしゃってくださったように、「これが最後になるかも」という気持ちは常にあるんです。でもその気持ちを伝えたいと思うだけじゃ伝わらないというのを今回学べて……すみません、泣いちゃって。えへへ、ライブとかでも、前は昂ぶってこうなっちゃってたんですけど。

――落ち着いて言葉にしてくださって大丈夫です。

安月 伝えたいという気持ちだけでは駄目で、その気持ちをどこに持っていけばいいかわからない時期があったんです。でもこの歌を歌うことでしっかり、仕事としてみんなにお届けしたいという気持ちになりました。気持ちだけじゃなく、自分の中でしっかり整理して音楽を届けるというモチベーションが生まれた楽曲でしたね。

竹山 安月名さんの課題として、想いを他人になかなか伝えられない、共感性を上手く作れないという部分がずっとあったんです。密にやり取りさせてもらっている我々制作陣ですら、「この人が何を考えてるのかわからない」ということも結構あって。でも「もうそれを全部さらけ出しちゃおうよ」「自分の気持ちを上手くわかってもらえない、自分も他人の気持ちをよくわからないというコンプレックスを吐き出しちゃおうよ」という気持ちで作ったのが前のシングルのカップリング曲「はいてはすう」でした。で、その曲をタイトルにしたワンマンライブがもうすぐあるそうですね、というところでバトンをお返しします(笑)。

安月 すみません、ありがとうございます(笑)。

――では、最後にそのワンマンライブの話を聞かせてください。タイトルは「はいてはすう」ですが、先ほど話されていたような思い入れがある曲だからライブタイトルにも採用されたんですね。

安月 そうですね。やっぱりワンマンライブはアーティストが自分の思っていることを表現できる一番のチャンスの場でもあるので、「はいてはすう」に込めたものを伝えたくてこのタイトルにしました。



――なかなか先が見えない情勢が続きますが、どんなライブにしたいと考えていますか?

安月 本当に先が見えなくて、いつ終わるかもわからない、ライブを開催できるかわからない、歌えなくなるかもわからないですよね。でもそういう情勢だからこそ、無事にライブを開催できたら、その時間にすべてを捧げて皆さんと全力で楽しみたいです。

――今回はVIP指定席というのも席種も用意されています。

安月 以前クラウドファンディングで行ったライブでもありがたいことに高額のプランが好評で。個人的にはチケットにランク付けするのはあまり好きではないんですけど、強く応援してくださる人に特別感をお届けできるならと、今回のワンマンライブではVIP指定席という形で用意させてもらいました。

――その特典はグッズ全種や前方の席も魅力的ですが、リハーサルが見学できるのもファンにとっては嬉しいことかと。でもステージに立つ側にとってリハで観客がいると視線が気になるのでは?

安月 リハでもいつも通り、普段の私を見せられたらいいなと思っています。それも「はいてはすう」のテーマにかかるところかもしれませんね。

INTERVIEW & TEXT BY はるのおと

●リリース情報
TVアニメ「メイドインアビス 烈日の黄金郷」オープニングテーマCD
安月名莉子
「かたち」
2022年8月24日(水)発売

■mora
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品番:ZMCZ-15771
価格:¥1,320(税込)

<収録楽曲>
1.「かたち」
TVアニメ「メイドインアビス 烈日の黄金郷」オープニングテーマ
2.「灯火」
ゲーム「メイドインアビス 闇を目指した連星」エンディングテーマ
3.「かたち」(instrumental)
4.「灯火」(instrumental)

●ライブ情報
安月名莉子ワンマンライブ「はいてはすう」
公演日:2022年9月19日(月・祝)

OPEN 16:00 / START 16:30
会場:HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3

【チケット】
VIP(指定席):¥20,000(税込・特典付き・入場時別途ドリンク代必要)
※VIP(指定席)特典内容:前方椅子席(指定席)、先行入場、リハーサル見学、グッズ全種類(グッズラインナップは後日発表)、他
一般自由:¥6,500(税込・入場時別途ドリンク代必要)
学割(自由):¥3,000(税込・入場時別途ドリンク代必要)

※一般自由、学割はスタンディングとなります。

※『学生割引(自由)』に関する注意事項
①小学生から大学生及び専門学生の方が購入できるチケットです。
②高校生、大学生、専門学生の方は、ご入場の際にチケットと学生証を確認させていただきます。(同行者がいる場合は、同行者の学生証確認も必要となります)
③学生証が確認できなかった場合、一般自由との差額\3,500をいただく場合もございます。

【チケットスケジュール】
一般発売:8月20日(土)10:00~9月16日(金)18:00
https://eplus.jp/azuna-riko/

関連リンク
オフィシャルHP
https://azuna-riko.com/

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