サビの最高音は地声で張ってほしかった
――TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIV 新章 迷宮篇』のOPテーマを担当することになった時の気持ちを教えてください。
キタニタツヤ すごく嬉しかったのですが、長く続いている作品で、ファンベースも確固たるものがあったのでプレッシャーはありました。オープニングをやりたいと思っていたので、作曲家としてのワクワクはあったんですけど、まずはバンド内コンペで渡辺 翔に勝たなければ!と思っていましたね(笑)。
渡辺 翔 僕も嬉しかったです。長く業界でやらせていただいていますけど、これまでアニメのEDテーマを担当したアーティストがOPテーマを担当できる条件というのはわかっていなくて。ただ、作品の世界観を曲でしっかり出せていたら任せてもらえるのかなと思っていたので、今回OPテーマを担当できるということは、僕らの曲が、制作陣やファンの方に認めてもらえたということなのだろうなと思います。
sana sajou no hanaでいつかOPテーマが歌えたらという夢があったので、私は単純にとても嬉しかったです!プレッシャーはありましたけど、sajou no hanaとして今までにできなかったタイプの曲ができるワクワク感もあったし、何より『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(以下『ダンまち』)ファンの方に喜んでもらえる曲が届けられたらいいなと思っていました。
――楽曲は基本的に渡辺さん、キタニさんによるバンド内コンペで決めているそうですが、どういう形で行われるのですか?
キタニ お互い1曲ずつデモを出し合うんです。その時に「こういう曲を作るよ」っていう手の内はそんなに言わないんです。
渡辺 でも、「ハイテンポで明るくて爽やかな曲」というだいたいのオーダーはあるので、ざっくりいうと近い曲を作っているんですけどね。でも今回キタニくんの曲を聴いて、「青嵐のあとで」と同じ感情を抱いたんです。これはキタニタツヤのホームランが出たなと。
キタニ ホントに?やったー!
渡辺 サビの2~3小節目のめっちゃ盛り上がる歌唱部分を聴いたら、すごいな!って。
キタニ sanaさんのポテンシャルをギリギリいっぱいまで使っていますからね。
渡辺 sajouは、2人それぞれで曲を作ると、僕がsanaちゃんとデモを録るんです。それをアニメの制作チームに渡して選んでもらうんですけど、今回はキタニくんの曲が選ばれて。
sana 翔さんの曲のほうは、『ダンまち』のキラキラ感が出ている感じだった気がする。
渡辺 たしかにね。シンセの音とかも入っていたし。
sana だからアニメの制作サイドさんがどちらを選ぶのかなと、ニヤニヤしながら待っていました(笑)。キラキラ感か、キタニさんのかっこいい感じかっていう。
――結果、キタニさんが作詞・作曲・編曲を手がけた王道ギターロックの「天灯」が選ばれました。この曲の歌詞はヘスティア目線を感じさせて、聴いていてとても感動したんですよね。
キタニ 制作サイドからは「原点回帰」というテーマを提示されていたんです。
――作品を離れたところでも、ちゃんと聴き手に寄り添えるようにしていたのですね。
キタニ そうですね。あとやりたかったこととして、2番のサビのあとの“たなびく夢が逸れないよう”で、前回のEDテーマである「Evergreen」のオマージュを入れているんです。どこかでモチーフを使いたいと思っていたので、1コーラス分がアニメで使われることが決まってから、2番を作るときに入れさせてもらいました。気づいてくれている人もいて、嬉しかったです。
渡辺 気づかれなかったら寂しいよね(笑)。
キタニ きっと『ダンまち』ファンは、「Evergreen」も聴いてくれているはずだと思ったので。
渡辺 僕もフルになって初めて知ったんですよ。なるほど、こういうアイデアもあるんだ!と。
――曲のタイトルにはどんな想いが込められているのですか?
キタニ 「天灯」って、薄い紙の内側に火が灯っていて、火の浮力で空に飛んでいく灯籠みたいなものなんです。ベルに限らず、少年時代に憧れを抱いて、その想いを燃やして上へ進んでいく人っていると思うんですけど、その様がぴったりだと思ったんです。最初は「飛行船」というのも考えたんですけど、天灯のほうがかっこいいですし、心の中で炎が燃えているみたいな感じを、クサくなく表すことができるのかなって思いました。
渡辺 ダンジョンには(下に向かって)深く潜っていくけど、天灯は登っていく。作品でも深く潜るほど気持ち的にもレベルも上がっていくので、良いタイトルだなぁと思いました。
――歌は、どんなことを意識してうたいましたか?
sana 曲を受け取った時、私は単純にベル・クラネルとヘスティアの曲だと思ったんです。でも、内容は応援歌だと思っていて。応援歌だけど、いわゆる「頑張れ!」ではなく、一歩後ろから見守るような感じ。「信じているよ!」っていう包み込むような温かさを歌詞から感じたので、勢いもあるけど、温かさも込めながら歌っていました。
キタニ sajouのボーカルディレクションは、いつも翔さんがやっているんです。僕はあまりそれに対して意見を言わないんですけど、今回1つだけ言ったのは、最初のサビの“いびつに燃えている”の“る”ところを裏声にしないでほしいということで。
――キーが高いですよね。
キタニ サビの最高音は、いつもsanaさんが使っているところの半音上なんです。そこをあえて狙っていて、無理矢理張って歌ったらかっこ良くなるだろうなって。で、実際に聴いたら実にパワフルに歌ってくれていて、「やるじゃん!」と思いました(笑)。
sana そりゃあ、やるしかないですよ!
渡辺 母音を“u”にしているのは、より苦しく見せるため?
キタニ そうですね。気持ち良く高音を出している感じにはしたくなかったので、母音が(高音を出しやすい)“a”にならないようにはしました。
渡辺 そうですよね。だからドSだなと思って(笑)。
sana でも、それで聴いている人の印象に残ってくれるのならいいですよね!
キタニ 2番からは裏声でも良かったんですけど、最初のところは絶対に張ってほしかった。この曲にはやっぱり少年マンガ的なアニメーションが付いてほしいと勝手に思っていたから、そこは譲れなかったんですよね。ここは絶対にかっこいい戦闘シーンが合うはずだからと。
sana 私もレコーディングの段階で、サビはアクションシーンがくるだろうなと想像していたから。
キタニ だから第1話の映像を見たときはガッツポーズが出ました(笑)。
――第2話からは正式なOPアニメーションが付きましたけど、そこでもサビでは戦闘シーンが描かれていました。実際ご覧になっていかがでしたか?
sana 私はヘスティア目線で書かれた曲だと思っていたので、Aメロのところで、ベルくんの後ろ姿が描かれているのは、曲と合っていてすごく嬉しかったです。
キタニ そういう解釈で、背中だったのか!
渡辺 エンディングのアニメーションは、逆にヘスティアがフィーチャーされた映像になっているんですよね。
――オープニングはヘスティア目線で、エンディングはベル目線だと思っていました。
渡辺 EDテーマの「Guide」(早見沙織)は僕が書いた曲なので、嬉しかったですね。
キタニ もうバーチャルデート体験だったもんなぁ(笑)。
原作の大森藤ノ先生が喜んでくれていたら、それが一番です
――アレンジのこともお聞きしたいのですが、この曲でアコースティックギターが目立っているのはどんな理由からですか?
キタニ ギターロックを主軸にしたくて、そこにエレキギター以外で「ちょい足し」する楽器は何かなと考えた時、ピアノの繊細さよりも、荒削りな感じが欲しかったんです。ちょっと耳に痛いくらいの荒っぽさというか、未熟な危うさがあってもいいと思って、アコギにしました。あとは、ファンタジーで民族的なイメージも付与したかったので、ジャカジャカ弾く感じもピッタリ合うかなって。
あと、2サビ終わりで、ちょっとケルトっぽい、ドリアンモードという奏法を使った間奏フレーズが入るんですけど、そこも王道ファンタジー、原点回帰ということをストレートに意識して入れています。
――2番のBメロで、1番になかったストリングスが入ってくるのが印象的でした。
キタニ あれはバイオリニストのアドリブなんですよ。今回は宅録で、こちらからは楽譜と、僕の仮の打ち込みデータ、あと弦を何本入れてほしいという簡単な注文書を付けて、データのやり取りだけで作っていったんです。届いたデータを聴いてみたら、Bメロにかっこいいフレーズが入っていたので、せっかくだから大きめに出しちゃおう!って(笑)。自分の打ち込みで完結していたら思いつかないところだったので、テンションが上がりました(笑)。
――歌詞もアレンジも、作品のことを考えて作られているうえに、アドリブまで入っているんですね。
キタニ だから、ファンの方が喜んでくれていたらいいなと思います。あとは原作の大森藤ノ先生が喜んでくれていたら、それが一番ですね。やっぱり、原作者さんに、これは違う!と思われたくはないので。
渡辺 そうだよね。やっぱり待っている側からしたら、どんな曲がくるのか気になるもんね。
キタニ だからこそ、そこはがっかりさせたくなかった。
sana 大森先生はTwitterで反応してくださるから嬉しいんですよ。この曲も「絶対買う!!!!」ってすぐにツイートしてくださって。
キタニ 本当に嬉しい。マジで救われるんです。
sana 不安が全部飛んでいく感じがするよね。早くCDを先生に届けたい。
――カップリングに収録される「Ruler」についてもお聞きします。作詞・作曲は渡辺さんが手がけていますが、こちらは『ダンまち』と直接は関係ない曲ということでいいんでしょうか……?
渡辺 実はカップリング曲として作ったわけではないし、『ダンまち』とまったく関係がないかと言われたら、そういうわけでもないんです。でも、どう関係するの?っていうところは、あえて言わないようにしているというか。タイアップというわけでもないんですけど。
――なんとなく、世界観は近いのかなと思っていました。
渡辺 同じCDに入っているというところもあるので、『ダンまち』の何に対しての歌なんだろうとか、想像しながら聴いてくれたら嬉しいです。曲単体で聴いても、自分と照らし合わせて聴くこともできる曲だと思うので、どちらでも楽しんでいただければと思います。
キタニ 「Ruler」は、デモを聴いたときに僕の中で「こういうふうにアレンジしたい!」というアイデアがあったんですよね。いつも翔さんからアレンジ内容のリクエストを伝えてくれるんですけど、今回はそれもあったうえで、「こういうのやってみてもいいですか?」って。sajou no hanaとしては、コライトとまではいかないけど、ここまで共同作業っぽく作った曲はなかったと思います。
渡辺 2番から倍テン(=テンポが倍の速さに感じられる演奏)になるんですよね。僕は1番の感じのまま終わらせるつもりだったけど、キタニくんから「2番以降、倍テンはどうですか?」というアイデアが出たので、そのようにアレンジしてもらったという。
――協力して作った曲なんですね。いつかお二人のコライトも見てみたくなりました。
キタニ 翔さんの家で、一緒に作りますか!?
渡辺 そうだね(笑)。キタニくんはコライトも経験しているもんね。僕は人生で1回くらいしかやったことがなくて、まだいい感じで進めていくやり方を知らないので、ぜひ教えてください(笑)。
――この曲は、ウィスパーなボーカルも印象的でしたが、sanaさんは歌ってみていかがでしたか?
sana 音色を重視している曲だと感じたので、思い切り声量も落として、1番はほぼウィスパーな感じで歌っています。翔さんからも、浮遊感を出してほしいと言われていたので、「天灯」とは真反対で、ふわふわと歌いました。
――2曲で対照的なボーカルが聴けるという意味で、いいシングルになりましたね。
sana 8月24日のリリースで夏の終わりというタイミングなので、「天灯」で熱くなって、「Ruler」でちょっと涼しさも感じてもらえたらいいなと思っています。
INTERVIEW & TEXT BY 塚越淳一
●リリース情報
sajou no hana
「天灯」
TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIV 新章 迷宮篇』OPテーマ
発売中
品番:ZMCZ-15831
価格:¥1,320(税込)
<CD>
1.「天灯」作詞・作編曲:キタニタツヤ
2.「Ruler」作詞・作曲:渡辺翔 編曲:キタニタツヤ
3.「天灯」(instrumental)
4.「Ruler」(instrumental)
●作品情報
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 新章 迷宮篇』
絶賛放送&配信中
ABEMA 毎週木曜23:00~ <地上波先行・独占先行配信>
TOKYO MX 毎週金曜25:05~
BS11 毎週金曜25:30~
AT-X 毎週月曜22:30~※リピート放送あり
ほか、各種配信サービスにて
関連リンク
sajou no hana Official Website
https://whv-amusic.com/sajounohana/
「ダンまち」シリーズポータルサイト
https://danmachi.com/