メディアミックスプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」より、今年4月に誕生したMyGO!!!!!。
燈のボーカルは、10代の“瞬間的なセンチメンタル”を体現する
改めて説明すると、MyGO!!!!!は、“迷子でもいい、前へ進め。”をキャッチコピーに、ボーカルの燈(ともり)、サイドギターの愛音(あのん)、リードギターの楽奈(らーな)、ベースのそよ、ドラムの立希(たき)の5名で構成されるガールズバンド。現時点で、よく言われる“謎に包まれた”という言葉が、これほど似合う集団もいないことだろう。
後述する音楽性も含めて、Poppin’PartyやRoseliaといった、既存のリアルバンドとは良い意味で同じコンテンツに属しているとは思えず、当日の会場における雰囲気も異様な緊張感に包まれていたのをよく覚えている。まるで、MyGO!!!!!を知っている人だけが行ける空間に導かれたような感覚。我々もあの場では、何らかの迷子だったのかもしれない。そう思わされる没入感が、そこにはあった。
ライブ本編は、オリジナル曲「迷星叫」(まよいうた)で開幕。「バンドリ!」には、これまでも過去の経験に思い悩み、音楽を通して自身のコンプレックスに向き合うキャラクターは存在してきたが、MyGO!!!!!ほどアイデンティティに苦しむものではなかった。燈の歌声は、無垢な想いが傷つき、生きるうえで感じた矛盾に苛まれ、こちら側の自意識に訴えかけるような、10代の“瞬間的なセンチメンタル”を体現したものだった。
そうした“痛み”と、そこからの解放を表現する燈の歌声は、ほぼ確実に“あの音楽”との親和性が高いだろう。ボーカロイド楽曲である。そう考えていた矢先に続けて披露されたのが、3曲目以降の一二三「猛独が襲う」、DECO*27「二息歩行 (Reloaded)」、カンザキイオリ feat. 初音ミク「君の神様になりたい。」だった。
ライブ序盤での緊張か、あるいは何らかの悲しみか。時にわざと裏返したような歌声が無垢な心を描く“踊るロック”の「猛独が襲う」、“僕は無力だ 僕は無力だ 僕は無力だ 僕は無力だ 僕は無力だ”と、自分自身を責める様子を息着く間もなく聴き手にぶつけ、若干の怖さすら抱かせる「君の神様になりたい。」など、ラウドなバンド演奏とともに鬼気迫る迫力を浴びせられる。こうした同じフレーズをリフレインする楽曲は、原曲の下手なモノマネでは寒く聞こえてしまうものだが、MyGO!!!!!の演奏はただのカバーの範疇に収まらないものであったし、燈が曲中で見せたロングトーンのブレなさに脱帽しかなかった。
立希、初となるステージフル出演で見せた驚異的なドラミング
燈のほか、特に驚かされたメンバーが、ドラムの立希。今年7月開催の“MyGO!!!!! 1st LIVE「僕たちはここで叫ぶ」”では、諸般の事情により出演キャンセルと告知されていたが、ライブ終盤の数曲のみサプライズ登場した彼女。今回は、燈がライブ序盤のMCで「立希ちゃんが最初からいてくれるのが嬉しくて」と、ほっこりする言葉で語った通り、ライブ全編にフル出演……したのだが。
あれほど鮮烈な才能を発掘したことに、改めて「バンドリ!」制作陣のキャスティング力の強さを伺い知らされた。彼女の奏でるドラムは、“パワフル”という言葉では役不足なところで、2曲目「イニシャル」では、自身の左右を瞬時に逆サイドにスライドさせるような難しいリズムさえ叩きこなしていた。今回のライブで最も唸らされたかもしれない。
もちろん、まだ2nd LIVEにも関わらず、“フェス慣れ”したバンドマンかのようなノリ方で演奏に身を委ねていたリードギターの楽奈、縁の下の力持ちとして、細かな場面でメンバーとコンタクトを取っていたサイドギターの愛音、指弾き/ピック弾きを場面に応じて使い分けていたそよと、バンドメンバー全員の演奏にいちいち注目させられたとも記しておこう。
ライブ中盤には「Time Lapse」「ティアドロップス」と、Poppin’Partyのカバー曲を続けて披露。「Time Lapse」では、流れるようなメロディながらも、“トメハネ”をしっかりと心得た楽奈のギターソロのキレが輝く。そこから、楽曲終盤に全員でアカペラ歌唱する際には、フロアの集中力も特に感じられたところ。
その後、04 Limited Sazabys「swim」のカバーでも印象的だったのだが、この日に集まったのは本当に熱量の高い、少数精鋭なファンばかりだったのだろう。「swim」でのクラップの一体感には思わずハッとさせられた。何を言っても、MyGO!!!!!はライブ時点でシングル未発売、YouTubeの登録者数も約1.2万人という、いわば“駆け出し”の状態である。やはり世の中、どんな物事、どんなコンテンツにおいてもアーリーアダプターたちの“面白いもの”に対する嗅覚の鋭さとは共通なのだろう。
「私は私のままでいられるように」(燈)
本編を締め括ったのは、初披露となった新たなオリジナル曲「名無声」(なもなき)。歌唱前には、燈から「この曲は、当たり前の青春を過ごせない自分がいて。周囲に馴染めない、周りのみんなに合わせることができない。そう思って迷っていた、けど。
実際の楽曲は「迷星叫」に比べて落ち着いた曲調のロックチューン。良い意味でギミックに手が込んだ印象がない、起きることすべてをありのままに受け止めようとする、滑らかなイメージだった。どこかの誰かを肯定できる音楽。「名無声」を一言で表すならば、そんなところだろうか。
この日のライブはアンコールまで続き、「迷星叫」「名無声」を再び披露。同2曲を収録した1stシングル「迷星叫」が11月9日にリリースされることについて触れたのだが、その際、「大切なことなので、紙を見ます。いきます!」と、一言一言に“溜め”をもたせる燈の話し方が、謙虚かつ石橋を叩いて渡るタイプゆえに笑いを誘う場面も。「予約、お願いします!」という一言さえ、その切実さから我々に“予約せざるを得ない”と決心を誘うようだった。
また、燈は「また皆さんと一緒に、忘れられない景色がもう1つ増えました。皆さんもそうだったら嬉しいです」「最後まで、皆さんを抱きしめられるように歌います。MyGO!!!!!として、披露します」と語り、ラストナンバー「名無声」に。この日の幕引きに相応しい、象徴的なワンシーンだった。
MyGO!!!!!がこの時代に生まれたのは必然だった
本稿の最後に、バンドの構造的な部分について、少しだけ考えを巡らせてみよう。そもそも、MyGO!!!!!のライブを鑑賞して、「バンドリ!」系列のバンドだと初見で見抜ける人が、はたしてどのくらいいるのだろうか。たしかに、Poppin’Partyのカバー曲を披露してはいるのだが、バンドの楽曲選びの哲学には、ボカロカルチャーからの色濃い影響も読み取れるし、何よりキャストの顔出しが主流であるメディアミックス作品において、ステージ上の存在に匿名性を課すというある種のゲームチェンジャーぶりは、これまでの「バンドリ!」が作り上げてきた世界観とは根本的に一線を画すものだ。
そうしたMyGO!!!!!の在り方や存在そのものは、TikTokなどが台頭した、この時代に生まれるべくして生まれたものだろう。元来、アーティストが誰であるのか、つまり“どの口が何を言うかが肝心”だという評価軸があったなかで、近年は歌声の主が誰かわからず、たとえ匿名であったとしても、そこで歌われているメッセージに価値を見出す傾向が見えてきた。相対的ではなく絶対的な意味で、歌というものの価値が変わってきたのである。TikTokでいえば、数週間でトレンドの楽曲が変わるのがこれにあたるといえるだろう。
そうは言っても、楽曲が良ければ、歌声の主の顔が見えずとも、そのメッセージは心に届く。MyGO!!!!!が歌うような楽曲は、むしろある種の匿名性があった方が、リスナー側も心を許しやすく、いわゆるバーチャルなジャンルに理解のあるデジタルネイティブの世代に近いほど、彼女たちの楽曲に共感を抱くのかもしれない。何かが見えないなかで見つけた、誰かが灯した音楽の光。「迷星叫」に登場する言葉を借りれば、MyGO!!!!!はそうした“心の隙間”を目指して、誰かの心を優しく抱きしめてくれる存在なのではないだろうか。
PHOTOGRAPHY BY ハタサトシ
TEXT BY 一条皓太
■MyGO!!!!! 2nd LIVE「そのままを抱きしめて」
日程:2022年9月10日(土) 開場17:00/開演18:00
会場:飛行船シアター
<セットリスト>
M1 迷星叫
M2 イニシャル
M3 猛独が襲う
M4 二息歩行 (Reloaded)
M5 君の神様になりたい。
M6 Time Lapse
M7 ティアドロップス
M8 swim
M9 カサブタ
M10 名無声
EN1 迷星叫
EN2 名無声
公演詳細:https://bang-dream.com/events/mygo_2nd
©BanG Dream! Project
●ライブ情報
MyGO!!!!! 3rd LIVE「声を抱えて生きる」
2022年11月26日(土) 開場17:00/開演18:00(予定)
会場:COOL JAPAN OSAKA WWホール
バンドリ!公式ホームページ先行抽選
受付期間:2022年9月11日(日)10:00~10月2日(日)23:59
受付はこちら
公演詳細:https://bang-dream.com/events/mygo_3rd
●リリース情報
MyGO!!!!! 1st Single
「迷星叫」
11月9日(水)発売
【グッズ付初回生産限定盤】
価格:¥3,300(税込)
【通常盤】
価格:¥1,320(税込)
<収録内容>
[CD]
1.迷星叫
2.名無声
3.迷星叫 -instrumental-
4.名無声 -instrumental-
5.1st LIVE「僕たちはここで叫ぶ」アフタートーク
6.2nd LIVE「そのままを抱きしめて」アフタートーク
CD詳細:https://bang-dream.com/discographies/3107
関連リンク
MyGO!!!!!オフィシャルサイト
https://bang-dream.com/mygo