『聖剣伝説』がずっと大好きな方々にも愛していただけるようなOPテーマにしたい
――まず、TVアニメ『聖剣伝説 Legend of Mana -The Teardrop Crystal-』(以下、『聖剣伝説』)のOPテーマを歌うことになった心境から聞かせてください。
早見沙織 もちろん、私も知っている作品でしたし、シリーズが30周年と言う記念すべきタイミングで、初のアニメ化のOPテーマに参加させていただけるというのは、本当に光栄なことだと思いました。そのぶん、プレッシャーというか、緊張感も大きかったですね。
――ゲームには触れていましたか?
早見 今回作品に参加させていただくということになってから、ゲームの「レジェンド・オブ・マナLEGEND OF MANA」のゲームをプレイさせていただきました。まず、自分の手で武器を作り上げて、世界を構築して冒険を切り開いていくというのが新鮮で、とても面白いなと思いました。<宝石泥棒編>に関して言えば、アニメもあるので、最後までは言えないのですが、本当に心が揺れ動くストーリーになっていて。シナリオを読ませていただいたのですが、まるで自分がこの作品の中に入って、一緒にその状況を体験しているような感覚に陥って。最後には結構、ぐっときましたね。
――今回、アニメのほうにはセラフィナ役として出演されます。
早見 そうですね。キャラクターとしては、すごく朗らかで、打ち解けやすい雰囲気を持った女の子なのですが、物語が進むに従って、彼女の内に秘めている想いや状況がアニメの1つのキーポイントになっていく――重要な役どころだなと思ってるので、心してアフレコに臨んでいます。
――ゲームではシャイロとは重ならないんですよね。
早見 そうなんですよ。ゲームの中では、シャイロかセラフィナのどちらか1人を選んで最後までプレイするので、アニメは2人いるということで、どういうふうになっていくのかも1つの見どころかと思います。かなり新鮮に味わってもらえる部分もあると思うので楽しみにしていてほしいですね。
――ちなみに、早見さんがTVアニメのオープニングを担当するのは、アーティストデビューを飾ったTVアニメ『赤髪の白雪姫』(2015年)のOPテーマ「やさしい希望」以来になりますよね。これまで数々のアニメのEDテーマを歌ってこられましたが、オープニングになると気合いが違うということがあったりしますか?
早見 気合いは常に120パーセントなので、あまり違いはないのですが、個人的には、OPテーマは作品の真正面のお顔みたいなイメージがあるので、より一層の熱は入りましたね。そして、何よりも、『聖剣伝説』という作品の力もかなり大きいと思います。やっぱり30周年を記念した初のアニメ化ですし、『聖剣伝説』がずっと大好きな方々にも愛していただけるようなOPテーマにしたいっていう気持ちは、制作当初から持ってました。
――では、楽曲はどのように制作していきましたか?出発点から聞かせてください。
早見 やはり、『聖剣伝説』のOPテーマであるというのを大きな木の幹のようにどっしりと主軸に据え、意識を向けて曲を作っていきました。『聖剣伝説』は元々、音楽もとても皆様から支持されていて。人気のある楽曲がたくさんありますし、私もゲームをプレイしながら、「下村(陽子)さんの曲、すごく素敵だな」と思っていて。そして、「この作品は音楽がとても大事である」という共通認識を持ったなかで行ったチーム会議のときに、スタッフさんから、ケビン・ペンキンさんのお名前を出していただいて。
――作曲家としてはどんな印象を持ってましたか。
早見 ちょっと抽象的になるのですが、森や大地、風や光という自然を感じることができるんですよね。そして、どこか懐かしさと温かさがあるような音楽というイメージがあって。今回『聖剣伝説』のオープニングを作るにあたって、ケビンさんが生み出す音楽や雰囲気がしっくりとハマるのではないかということでお願いし、そこからリモートで打ち合わせをさせていただいて。
――英語で?
早見 ケビンさんは外国語をお話しされるんですけど、割と日本語もペラペラなんですよ。最初のご挨拶やざっくりとしたコミュニケーションは日本語で会話をさせていただき、楽曲の細かいニュアンスなどについては通訳の方を介してお話しさせていただきました。すごく気さくでお話をしやすい、とても明るくて素敵な人柄で、私は緊張していたのですがケビンさんのお言葉でどんどん気持ちがほぐれていきました。
――ケビンさんには求めたものはどんなものでしょうか。
早見 そうですね。まず、私のほうのチーム全体で色々と話し合っていたのですが、作品としても、スケールが小さいよりは壮大な楽曲にしたいという思いがありました。また、やっぱりOPテーマなので、物語の始まりにふさわしいスタート感のある楽曲というか。
――打ち合わせで何か覚えていることはありますか?
早見 ケビンさんは既に『聖剣伝説』をご存知で、日本のアニメーションやゲームに精通していらっしゃったんですね。その大前提を共有していたぶん、話がとても早かったですね。『聖剣伝説』の作品性や空気感を言葉にはしていないですが、チーム全体で無意識にそこを共有することができていたのが、かなり大きい要素だったのではないかなと思っています。なので、楽曲のイメージはお伝えしましたが、あくまでケビンさんが持っていらっしゃる『聖剣伝説』の印象や、ケビンさんが普段作られている楽曲の延長線上でというところでお願いしました。
――楽曲を受け取ってどう感じましたか?
早見 ケビンさん節を感じましたね。ケビンさんが元々作られている、そして、私が聴いたときに感じる……何とも言葉にできないんですけど、ちょっと懐かしかったり、少し独特な雰囲気のある印象はそのままでした。
――とても独特の構成ですよね。弦とピアノとコーラスがメインで、ビートレスのところもあれば、打ち込みのビートが入るところもあるし、またなくなったりもしつつ、また最初のメロディに戻るという。
早見 一番最初にいただいたデモから何度か改定稿があり、どんどんブラッシュアップされていって。後半にいくに従って、ものすごく壮大な展開になっていく曲になったんです。冒頭の“かげる空~”のところは、メロディだけで聴くと、「これ、どんな日本語の歌詞を当てたらハマるんだろう?」っていうのが、一聴しただけではなかなか見えなくて。
――まさに、いわゆるJ-POPにはないメロディラインですよね。でも、短歌のような文学的で美しい日本語の歌詞が載っています。作詞は大変だったのでは?
早見 難しかったですね。最初の繰り返しの部分は、本当に個性的なメロディラインになっていて。メロディというよりは、音のリズム感なのかな。どんな日本語の音をはめるかで、響きが全然変わってくるような難解さを持ち合わせているんですね。そこにいくつ音をはめるのかっていうのでも変わってくるくらい、一文字一文字が大事になる音の乗せの仕方が必要で、色々と試行錯誤したのですが、全体としてはやっぱり、『聖剣伝説』の物語をかなり意識しました。主人公1人の軸というよりかは、全体を通して、少し物語を俯瞰している部分も入れながら、キーワードも思い浮かべて。
孤独や痛みを抱える人たちの光となってくれるような音楽を届けていきたい
――シャイロやセラフィナではなく、物語を俯瞰で見た視点になっているんですね。その歌詞にはどんな想いを込めましたか?
早見 もちろん、アニメには即しているのですが、もう1つ、自分が 2021年から掲げている「孤独や痛みを抱える人たちの光となってくれるような音楽を届けていきたい」というテーマも意識していて。色んな作品を作ってきていますが、それが、1つの軸になっています。
――祈りや願いに近いですよね。今、お話にあった“闇穿つ意志”の“意志”が「Tear of Will」というタイトルにもなってます。
早見 “Tear”に関しては、<Legend of Mana -The Teardrop Crystal->にあるように、涙(ティアドロップ)が物語のキーワードだったので、入れていきたいなというのはあって。そして、さっき言ったように、あなたを想う、大切な誰かを想い続けるという自分の中の強い心が鍵になってくるんですね。なので、意志=WILL。悲しいというよりは、自分の意志を持って、その雫が光となって変わって、あなたを未来に向かわせる道となっていくみたいな想いを込めました。
――この曲での“光”はどんなイメージですか?「Awake」は痛みを共有した先にある一筋の光、「Guide」は自分の心を奮い立たせる光を描いていました。
早見 聴いていただいた方に色々と想像していただきたい気持ちもあるのですが、私の中では“生命の輝き”をを意識しました。
――“煌めく生命の唄よ” “光差す新たな日に”というフレーズもありますね。
早見 そこが、生命の輝きや生命力、想いの強さが明日の光に繋がっていくみたいなイメージとして浮かんでましたね。
――作品のテーマやメッセージ性、楽曲に加えて、歌詞もとてもスケールの大きなものになっています。歌入れはどんなアプローチで臨みましたか?
早見 自分の中では、かなり力強さを意識して歌いました。冒頭の部分は比較的、繊細なパートではありますが、それでも、どこか芯を作って。弱すぎないように意識して、最後にいくに従って、楽曲の壮大さに合わせて自分の声も本当に広がりや力強さを意識して歌っていましたね。
――言葉がないコーラスの部分も早見さん?
早見 そうですね。割と優しさはありますが、結構、意志は強くというか。ふわっとした柔らかすぎるコーラスではなくて、どのコーラスのパートも本当に主旋律のようにしっかりと歌っています。
――歌声からは大地に根ざした力強さを感じました。
早見 自分の中でもどっしりとした意識を持って、地に足をつけて歌うイメージは常に持っていましたね。レコーディングのとき、最初のテストをスタッフの皆さんに聴いてもらって。「もっと声を出していこう」とか、「最後に向けてもっともっと力強く歌ったほうがいいかも」というアドバイスを色々といただきながら進めていきましたし、ぺたんこの靴で、足を地面にしっかりつけて歌っていた記憶があります。
――ケビンさんは、「すごくきれいな声の音色をくださって、とても光栄です」というコメントを寄せていましたね。
早見 あははは。いや、なんか、すごく素敵的に言ってくださって……!やっぱり、楽曲のムードに引っ張ってもらったなという感覚のほうが強くて。楽曲に導いてもらった部分が大きかったですし、ケビンさんに感謝ですね。
――完成した楽曲を聞いて、ご自身はどう感じましたか。
早見 今回、弦の演奏は海外のオーケストラの方が生でレコーディングしてくださっていて。生のオーケストラの音になったことによって、そもそものデモからはガラッと印象が変わったところもあるんですね。1つ1つの楽器の音がしっかり聞こえてきますし、いい意味での音の揺らぎ、生音っぽいなという音の響きも存分に乗ってましたし。オーケストラが録音されたであろうフィールドの空気、環境も感じられるリアルな音質になってて。実際にオーケストラの方々が生で演奏されてるのを聴いて、ああ、こんなに違うんだっていうのを感じましたし、音の響き、1つ1つをとても丁寧に作っているので、声と合わせて、ぜひ音楽全体を楽しんでいただきたいなと思います。
――デジタルリリースはアニメの1話放送日になっています。
早見 そうですね。なので少しドキドキしています(笑)。多くのファンの方々にこの楽曲をいただく日が早く来てほしいですし、アニメと一緒にぜひこの楽曲を楽しんでいただきたいですね。ぜひこの秋から冬にかけて、2022年、まだまだ早見沙織の音楽を楽しんでいただければと思います!
――年が明けた1月2日にはワンマンライブ“Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに君と”が開催されます。
早見 すごく久しぶりの有観客ライブなんですね。2019年以来かな。久しぶりに皆様と対面で歌をお届けできるっていうことが本当に楽しみなんですけど、2020年から2021年、そして、2022年と、この期間は本当に激動で。世界的にも色んなことがありましたし、きっと個人、1人1人にも少なからず変化があった時期だったと思うんですね。この先がどう変わっていくのか。未来がどうなっていくのか。まだ不透明ななかでも、できればこのライブを通して、皆さんと一緒に夜明けを迎えていきたいなと思います。
INTERVIEW & TEXT BY 永堀アツオ
●配信情報
アニメ『聖剣伝説 Legend of Mana -The Teardrop Crystal-』OPテーマ
「Tear of Will」
10月7日デジタルリリース
配信リンクはこちら
■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら
●ライブ情報
Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに君と
2023年1月2日(月)
場所:TOKYO DOME CITY HALL
関連リンク
早見沙織 オフィシャルサイト
https://hayamisaoriofficial.com/
早見沙織 オフィシャルTwitter
https://twitter.com/hayami_official
早見沙織 オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/channel/UCtUcK6HrhD024CkPDsURBwg