声優アーティストの高橋李依が、TVアニメ『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』で主人公・アイリーン・ローレン・ドートリシュ役を務め、ソロとして初めてアニメのオープニング主題歌を担当する。当初「とても慎重に考えました」と語る彼女が、今は「めちゃくちゃ合ってると思います」と自信を持って答えられるまでには何があったのだろう。
アーティストデビュー後の流れを振り返りつつ、楽曲制作で得た想いを聞いた。


「アイリーンに出会った高橋李依の世界観」を主題歌に
――高橋さんは2021年の1st EP「透明な付箋」でデビューされましたが、発売後の手ごたえやファンの方々に届いたことの実感について、改めてお聞かせください。

高橋李依 まず、アーティスト活動はこんなに大変なものだったのかと実感しました。5曲のEPを作るにあたって、いつまでもこだわりたいと思ってしまうほど、やはり音楽活動には正解って存在しないんですね。もちろんそうした中でも、1つの形として、私の記憶に貼ってきた“付箋”をお届けできたかなと思っています。気持ちとしては音楽活動のスピードを高めていきたい思いはあるのですが、それぞれの曲を丁寧に作っていきたいという思いもあるので、発表されたときが今の高橋李依の速度感なのだと感じていただければと思います。

――リリース後の皆さんの反応はいかがでしたか?

高橋 このEPは私が好きなものばかりを詰め込んだのですが、それを皆さんにも好きになってもらえたことが嬉しかったですね。アップテンポでレンジが広くて、ピアノとベースの成分が多い曲という、かなり好みがハッキリしているんです。それで固めているにも関わらず、こんなにも好きになってくれるなんて、もう運命共同体なのではないかと(笑)。5曲の中では「不健康社会」が思いきり刺さったとおっしゃる方もいれば、ちょっと疲れたときに聴いたので、怖くて涙が出てしまいましたというお手紙もいただいたり。芝居だけではなく、音楽活動においても、感情を詰め込むと、それは聴いた方に涙を与える可能性もある。これは声を使って表現をする者としての1つの学びでした。
その方の涙を拭いてあげたい思いです。

――それをきちんとお手紙で届けてくれるファンの方もありがたい存在ですね。

高橋 はい。とても嬉しいです。いただいたお手紙はスキャンしてクラウドに置いているので、いつでも皆さんの言葉を読んで励ましてもらえる状況にあります。これからもお便りをお待ちしています(笑)。

――さて、新曲「共感されなくてもいいじゃない」はTVアニメ『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』(以下、『悪ラス』)のオープニング主題歌です。高橋さんは主演も務められていて、そうしたなかでソロアーティストとして初めてアニメのオープニング主題歌を担当されることについて、どんな思いですか?

高橋 主人公のアイリーン役はオーディションで、そちらが先に決まったんです。そこから1ヶ月くらい経った頃に、このオープニング主題歌のお話をいただいたのですが、作品にとっても私にとっても良い効果をもたらさなければ、これはお引き受けするべきではないと思い、とても慎重に考えました。というのも、この作品に対して私はアイリーンの声として携わろうとしていたわけで、そこにソロアーティストの高橋李依という存在は邪魔ではなかろうかと。ただ、色々と考えていくなかで「高橋李依がアイリーンと出会ったこと」を歌ったら、もしかしたら落とし込めるんじゃないかと。そして音作りにおいても、「高橋李依の好きな音楽とこの作品に親和性はあるのでしょうか?」と伺ったところ、「疾走感やピアノの上品な感じがハマるのではないか」とお答えいただいたので、決断に至りました。
今は胸を張って、絶対に親和性があると思っています。

――アイリーンという人物を演じるにあたりどのように解釈しましたか?

高橋 オーディションでいただいた資料やシーンから、とても憧れる主人公だなと思いました。もちろんヒロインではあるのですが、いわゆるヒロインというよりも主人公という言葉が一番ぴったり似合うような人物で、自分で切り開いていくたくましさがありつつも、決して令嬢であることを忘れない凛とした美しさもあって、こういった人になりたいなと感じました。演じさせていただけたことが光栄で、アイリーンでいられる時間が楽しくて幸せでたまらなかったです。本当にあの世界に没入して生きさせていただいたなという思いです。

――タイトルには“悪役令嬢”とありますが、その点はいかがでしょうか?

高橋 原作を読みながらハッとしたのですが、彼女の口から「(性格が)いいとは思っていないけれど」と言っていて。“悪役令嬢”という役どころや やり方ともきちんと持ち合わせているんだろうなと。そこも含めて、かっこいいなと思いました。

――「透明な付箋」の中で高橋さんはネガティブな歌詞であっても感情を臆することなく露出されていて、ある意味で“悪役”を担っていたのかなと振り返って感じました。

高橋 たしかに、「不健康社会」ではダークサイドみたいな気持ちを歌ってしまいましたね(笑)。ただ、音楽の凄いところって、そうした気持ちを歌っても大丈夫なところ。
もっと言ってしまえば、オチがなくても良くて、一方的に「こういう気持ちが言いたかっただけなんですよ」でも成立するんだなと。
「共感されなくてもいいじゃない」もある種そうですね。こうした表現の在り方は音楽ならではだなと、歌を作るなかで初めてわかりました。

レコーディングは歌詞1行目からトップギア
――そんな「共感されなくてもいいじゃない」では「不健康社会」の永井葉子さんが作詞作曲どちらも手がけられています。

高橋 永井さんの女性ならではの感性が上手くハマるのではないかと思い、お願いをしました。仮歌詞の段階で監督にも聴いていただいて、「アイリーンは後悔しない人物なんです」といったように彼女らしさに関するアドバイスをいただき、それを元に、私自身の「生き急いでいる感じ」も込めていただきました。あと、ちょっと現代的な感性も入れたくて、すべてをアニメの世界観ではなく、絶妙に「アイリーンに出会った高橋李依の世界観」にしてくれたバランスがとても素敵でした。

――それは具体的にどの辺りに表れていますか?

高橋 1番は“ルート開示→暴走するゴシップ”が、『悪ラス』らしい導入、2番では“いつも凄いね 万事順調でしょ そう見えてる じゃあなぜ虚しい?”と、もう少し私の状況に寄っている感じですね。そんなふうに、今作と高橋李依を両方混ぜてみるような流れがありつつ、私から「“~じゃない”という言い回しがアイリーンっぽくてすごく良いです」とお伝えしたところ、1番のBメロに“今がまさに這い上がるチャンスじゃない”と入れてくださったりと、アイリーンの力を借りつつ、キャラソンとも違う不思議な距離感の歌詞になったと思います。

――「透明な付箋」でもフレーズ単位で心を射抜かれた経験をされましたが、今回特に印象的だったフレーズは?

高橋 どれも好きなのですが、Dメロの“もういっそ笑おう”ですね。アイリーンは第1話で婚約を破棄されるのですが、そのときに泣くことなく「お慕いしておりました」と、微笑んで退場するんです。そうした「泣くな。いっそ笑え」と、逆境でこそ笑うさまが歌詞に盛り込まれていて、最高に力をもらいました。
彼女のようになるのは簡単ではないけれども、いつかはなりたいと思わせるワードがそこかしこに散りばめられているなと。一方で、サビの“いいじゃんいいじゃん”のように、軽い言葉で笑い飛ばしていたりもして、それはそれで気楽に考えればいいんだと背中を押してくれるんです。覚悟を持って踏ん張る瞬間と、軽く笑い飛ばす瞬間のバランスの良さを感じました。

――楽曲についてはどんな部分がお好きですか?

高橋 作曲・永井葉子さん、編曲・TOPICS.LABさんというコンビは前作「不健康社会」と同じで、あのワクワクした化学反応をまた感じていただけるかと思います。TVサイズだけでなく、ぜひフルバージョンで聴いていただきたいのがアウトロの部分。どうか聴いてください、もう最高なんです!イントロと同じようなメロディが入りつつも、ちょっと違うメロディで最後に締まっていく流れが本当に軽やかで、自分の足で好きなように歩いている感じがして、抜群に好きですね。

――レコーディングについて伺わせてください。特にこの曲のサビは非常に高音で、それを歌い上げる際に意識されたことは何でしたか?

高橋 たしかに、この曲の実際のレコーディングでは高音の細かな音階を当てるのがとても難しかったです。もう1行目の“共感されなくてもいいじゃない”から高音で、その直後の“人目を穿つ性”で細かく動いていきますので、最初からトップギア!(笑)。サビが常に高い印象でしたので、うるさく聴こえないよう、Aメロ・Bメロのメリハリは歌うときに特に意識しました。

――Bメロでは歌詞の流れの中にセリフが入ってきて、声優としての反射神経が歌に生かされているなと思いました。

高橋 ここはセリフというよりも“語り”という言葉が私の中では最も近いですね。
セリフとして捉えると、アイリーンのセリフになってしまうので、歌の流れでその感情になり、自分の心の中でつぶやくように、あまり抑揚をつけずそのまま語るという感覚ですね。この辺りは1st EPの「不健康社会」での経験もあって、“語り”がある曲は自分としても心地よいなと感じていました。その語りからサビメロに繋げて盛り上げていく。ここにはメロディにしっかり乗る感じや、切り替えを大事にしました。もちろん感情の流れでもあるのですが、自由そうな語りのところから急に速度が増していくみたいな緩急で、スピード感をつけることができたのではないかと思います。

――レコーディングの回数は重ねたほうでしたか?

高橋 練習期間は結構長くいただいていて、歌詞を考える時間もたっぷりあったので、歌としては完全に体に入った状態で臨むことができました。なので、そこまで現場の回数を重ねたというわけではありませんでした。ただ、体力はメチャクチャ使いましたね(笑)。

――逆に言えば体力がキツかった以外はこの難度をこなしてしまう歌唱力に感服いたします。

高橋 もうちょっと簡単な曲のジャンルを好きになれば楽だったのかも(笑)。でも、最初からこの難しさは覚悟していたので、たとえレコーディングがいくら大変であっても「だってこのジャンルを選んだのは私だし、どんな難しい曲がきても好きだもんな」と、臆せず構えていました。ですので、こういった曲をもっと歌いこなせるようになっていきたいですし、このジャンルで活躍されている方々の歌唱力の高さに尊敬の念を抱きながら、私も頑張っていきたいなと思います。


――“共感されなくてもいいじゃない”と、この歌のサビで繰り返し歌っていますが、高橋さんが「共感されなくても」貫いていることって何ですか?

高橋 私、結構共感したがるタイプなんです(笑)。めちゃくちゃ共感されたいし、共感したいです。そう思うことがあるとしたら、オーディションで落ちたときかな(笑)。「この子にはこんな声はいかがでしょうか」と貫くように挑むものなので、落ちるたび「共感されなくてもいいじゃない」と慰めていますね(笑)。

――ではこの作品はいかがですか?スタッフの皆さんに共感されてアイリーン役に選ばれたわけですが。

高橋 我ながら、きっと合っていると信じています(笑)。これからぜひ『悪ラス』本編をご覧いただき、アイリーンから力をもらっていただきたいですし、改めて曲を聴いていただいたら、皆さんの日常においても力が湧いてくるんじゃないかなと。この作品と楽曲には、きっとそれだけのエネルギーがあると思うんです。共感されますように!

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉

●リリース情報
TVアニメ『悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました』オープニング主題歌
「共感されなくてもいいじゃない」

10月7日配信リリース
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関連リンク
高橋李依 公式サイト
https://taka8rie.com/

高橋李依 公式Twitter
https://twitter.com/taka8rie
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