「アオペラ -aoppella!?-」のコンテンツ立ち上げから音楽制作に関わり、「Think About U」をはじめとした楽曲の制作や、リルハピ、FYA’M’、両グループのレコーディングディレクションも担当するzakbee。そして、大学のアカペラサークルでゴスペラーズの後輩にあたり、そのゴスペラーズをはじめとしたアカペラアーティストへの楽曲提供をし、「アオペラ」の「天体観測」のカバーのアカペラアレンジや1stアルバム『A(エース)』でも楽曲制作を手がけるとおるす。
VadLipの衝撃のお披露目曲となったAdoの「踊」、YOASOBIの「怪物」のカバーでアカペラアレンジをしたとおるす、ディレクションを担当したzakbee。2人は彼らに対してどんな想いがあるのだろうか。
zakbee、とおるす、それぞれの「アカペラ」。
――「アオペラ」にはリリース後から参加されたとおるすさんですが、コンテンツの最初の印象を教えてください。
とおるす 友人が「こんなプロジェクトがあるよ」って教えてくれたんですが、J-POPカバー「白日/Pretender」を観て「すごいプロジェクトが始まったな!」と思ったのが最初で。そしたらアレンジャーとして橘 哲夫さんのお名前があって。橘さんは大学のアカペラサークルの先輩なので「このコンテンツは誰が関わっているんだろう」と思いました。
――そうだったんですね。どんなところにアカペラの魅力を感じられますか?
とおるす 大学のアカペラサークルに入った当時、先輩たちの歌声に感動して。どうしてこんなに感動するんだろう?どうして歌うと楽しいんだろう?……と自分で解明したくて、どんどんハマっていきました。
――zakbeeさんは「アオペラ」に関わられるようになってからアカペラにどっぷりと浸かるようになられたと思いますが、実際に楽曲を手がけるようになったからこそ感じるアカペラの面白さはどんなところにあると思われますか?
zakbee 基本は全部人の声でやりつつ、毎曲毎曲アレンジが届いて楽譜をチェックしていくなかで、人の声をこの楽器になぞらえてアレンジされているのか!という発見があって。
――アカペラサウンドをクリエイトされるうえでの手法や技術面に変化はありましたか?
zakbee 僕以外の関わっている作家さんやアレンジャーさんは、アカペラのフィールドの方ばかりなんです。ほとんどがアカペラの活動を経験されている方なので、最初にアレンジした「Think About U」という曲は見様見真似でのアレンジだったのですが、色んな人のアレンジを聴きながら「ここはこうすればいいのか」ということや、ベルトーンの使い方にしてもベースやボイスパーカッションといった下支えの人たちも、その上にいるコーラスの3声や4声の使い方も、毎曲楽譜を見ながら勉強させてもらっています。そこで吸収したことを自分の中でフィードバックさせて、アレンジしていく感じです。『A』に入っている「アオペラの“ア”」は、アオペラが始まって何曲か経たうえでの久々のアレンジ作業だったので、この1年で自分が勉強したことを盛り込めたかなと思います。
とおるす 「Think About U」は1曲目だったんですね。
zakbee そうなんです。でもFYA’M’に関してはボイパがいるし、基本的にはR&Bだし、ボイスパーカッションとベースがあれば主メロだけでも成り立つんですよね。それがあったからすごく助かりましたけど、リルハピの楽曲のアレンジはボイスパーカッションがいないぶん、ハードルが上がるなと思っています。リルハピについては「アオペラの「ア」-introduction song-」でアレンジをさせてもらいましたけど、難しかったですね。
とおるす たしかにリルハピのアレンジは難しいですよね。
zakbee 補助的にクラップや足踏みの音とかも入れますが、リルハピに関しては基本的にベースがリズムの要になるので、それがなかなか難しいんですよね。ウワモノの人たちも、ブレスでハイハットを担当することもできなくはないですけど、それをやると全パートがとてつもなく難しくなってしまう。「歌って楽しい」というリルハピの純粋な想いという根幹がブレてしまうかもしれないとも思うので。
とおるす うんうん。
――とおるすさんが思うリルハピのアレンジの面白さはなんでしょうか。
とおるす 僕にとってリルハピは橘さんのイメージがあります。パッと聴きは爽やかですが、裏で複雑で高度なことをやっているんですよね。だけどキャッチー、という塩梅が好きですし、どんな構造になっているんだろうなって毎回思ってしまいます。
――FYA’M’のアレンジを聴かれて、どのような感想がありますか?
とおるす 大好きです!
zakbee ありがとうございます!
とおるす zakbeeさんがアカペラ未経験なことが信じられないですね。曲も歌詞もすごく良いし、とにかくアカペラの典型的な様式がビシッと抑えられていて。経験者の方がやっているんだろう、と思ってスタッフさんに聞いたら「アカペラの人じゃないですよ」と言われて驚きました。
zakbee アカペラ未経験とはいえ、元々ドゥーワップも聴くし、アカペラをやる人たちの音楽は聴いてこなかったけど、コーラスグループの人たちの楽曲は好きで聴いてきたので、ウワモノのコーラスワークという音楽的な教養はそれなりには持っているんじゃないかな、とは思っています。でも実際にアカペラをやってきている人が聴けば「こいつ、わかってないな」ってところはあるのかもしれないですが……。
とおるす そういうのはなかったんですよ。
zakbee 本当ですか?大丈夫でしたか?
とおるす なかったからこそ衝撃でした。アカペラをたくさんアレンジされてきた方の作品だと思っていましたから。「アオペラ」のことを「知っている」から「好き」に変わったのは「Think About U」を聴いたことがきっかけでした。これは本当に良い曲だなぁって。自分でもこういう音楽がやりたかったのに!というところをやられた!と思いました。
アルバム収録曲の制作裏話を直撃!
――そんなお二人はアルバム『A(エース)』でも様々な楽曲に関わられています。まずはzakbeeさん。「アオペラの「ア」-introduction song-」で全員の空気感を詰め込んでいますが、全員で歌うからこその面白さや難しさはありましたか?
zakbee 最初に「白日/Pretender」のカバーをやりましたが、あのときにも少しだけ2組のパートが混ざるところがあって。パート的に言うと最大8人が一緒に歌っているんです。
とおるす これはゴスペラーズさんの「侍ゴスペラーズ」を彷彿とさせますよね。ライブでの名乗り曲。この曲をライブで聴きたいなぁと思いました。すごく好きな1曲です。
――続いてとおるすさんが手がけられた「Follow Me」はゴスペラーズの村上てつやさんと共に制作されています。
とおるす これぞ村上節だな、と感じていました。ゴスペラーズの皆さんが歌っているのもイメージできますよね。実際に『The Gospellers Works 2』でセルフカバーされていました。僕は共作曲と共編曲を担当させていただいて、歌詞は村上さんが全部手がけられています。FYA’M’はちょっと大人の雰囲気のあるイメージなので、大人っぽさも散りばめてかっこいい曲を作ろうと意識をしました。歌詞については、俺について来い(Follow Me)という表向きの意味の裏に、高校生の頃のご自身の体験が入っているそうなんです。高校の文化祭で初めてアカペラを披露して、そこですごく盛り上がったことが今も鮮烈な思い出の一つだという話をしていただいたことがあり。その背景を知って聴くと、オラオラな歌詞の中に高校生の心情が垣間見えて、ますますこの曲が好きになりました。
zakbee それはキャストの皆さんも共有しつつ歌ってくださったので、良い感じの、高校生らしいかわいさある感じになりましたね。
――「Think About U」は時を重ねてきた今、どんな印象ですか?
zakbee 最初に作った曲だから、これぞFYA’M’みたいなところがあると思っています。まだ「Think About U」のコアになっているところを題材にして、もっともっと曲を作れるなっていう気持ちはあるので。
――その「Think About U」を作ったからこその「Come on up, Baby」なのかなと感じますが、こちらの曲はいかがでしたか?
zakbee 最初にデモをもらったときには、バンド編成の音で楽曲をもらったんです。それを僕がアカペラにアレンジさせてもらったのですが、そこでワウのギターが効いているソウルミュージックだったんです。アカペラにするにあたって、ワウギターは外せないなと思ったので、それもあって仲村(宗悟)さんにワカチコワカチコしてもらって、ワウギターを音にするとワカチコなんですよね。
とおるす でも日本語としての「ワカチコ」に寄せていますよね?
zakbee 寄せました。元々はサディスティック・ミカ・バンドがワウギターをやっていて。冒頭で女性ボーカルが「ワカチコワカチコ」ってリズミカルに思いっきり日本語で歌うんですね。それがめちゃめちゃかっこ良くて。そこを踏襲しようと思って、「ワカチコ」にしてくださいってお願いしました。良くも悪くも耳には残るから、そういう引っ掛かりは曲のどこかに作っておきたいと思ってアレンジしました。
――そしてとおるすさんは「Let it snow, Let it snow, Let it snow」を手がけられました。こちらはいかがでしたか?
とおるす 今までのFYA’M’とは少し毛色が違っていて、R&Bよりもポップスの空気が強くて、「ファンが受け入れてくれるのだろうか」という気持ちがありました。ただ「良い曲を作れた」という自負はあったんです。あと僕の持論として、冬の曲ほど複雑な和音が許されて、夏のアップテンポな楽曲ほどシンプルに、3和音でいくのがいいと思っているんです。今回の曲は5和音を効果的に使うことでクリスマスっぽさを出しました。「複雑すぎないかな」と心配だったんですが、以前アオペラの生放送で人気投票の3位に選んでいただき、受け入れられた実感ができました。
zakbee アレンジ、めちゃめちゃ良いよね。サビがとにかくJ-Soulというか。J-POPの界隈でソウルミュージックをやっている人たちのような、すごくキャッチーだけどメロディがソウルになっているのがいいなぁ、と思いました。サビが明けてAメロに戻らず展開するところがすごく良い!ジャクソン5みがあるというか、モータウンっぽい感じがして。ソウルミュージックの系譜として「わかってるなぁ」っていう展開が、曲の頭から終わりまで好きです。
とおるす 歌うのはすごく大変だったと思いますが、レコーディングはどうでしたか?
zakbee いやぁ、大変でした。平たく歌えばいいかもしれないけれど、ちょっとした抑揚や歌い尻、しゃくるところや、一瞬だけファルセットにする部分など技術的にすごく難しい曲で。皆さん、現場でもしっかりと向き合ってくださいました。特に浦田(わたる)さんは一音一音をどう表現するか考えてくださって、浦田さんのレコーディングの中でも一番時間を掛けて録った曲でもありました。その甲斐あって、浦田さんのパートがすごく良いサビになっているのでぜひ聴いてもらいたいですね。
――アルバムの最後はゴスペラーズの安岡 優さんによる「RAINBOW」でした。
とおるす 素敵な曲です。この曲で僕はアカペラアレンジをやらせてもらったのですが、安岡さんから「とおるす、これをアカペラアレンジしてほしいんだけど」って受け取った元々の楽曲がすごく良かったんです。いわゆるソウルミュージックとしてすでに完成されていたので、アカペラでやらないほうがいいんじゃないですか?って最初は言っていたくらいだったんです。それを僕なりのアカペラに落とし込みました。リルハピのテーマにすごく合った歌詞ですよね。リルハピというかアオペラ全体のテーマに沿っている歌詞と言っていいかもしれません。この「RAINBOW」があることでアルバムが良い形で締まったなと思っています。
zakbee すごく良い曲なのに、どうしてアルバムの最後にしちゃうんだろうと思ったけど、アルバムを通して聴くとこの曲が最後で良かったなって曲ですよね。この曲もすごくリルハピらしくて、歌やコーラスのアレンジもすごくシンプルなんですよね。どのパートも歌っていて楽しい感じになっていて。5人一緒にメロディを持ってくる気持ち良さもあるし、これぞリルハピ、という曲です。
――コンテンツの立ち上げから最新曲まで。声優の皆さんのアカペラのテクニックや表現力の高まりを感じることはありますか?
zakbee びっくりするくらいリルハピとFYA’M’の11人がすごく真面目にアカペラに取り組んでくれているんです。最初のほうは手探りだし、みんな歌ってはいるけど曲の中でどこの位置にあるのかもわからないまま、不安な気持ちでなんとか歌い切ったけど、これでよかったのかな?みたいな想いで帰られた日もあったと思いますが、最近のレコーディングでは、前野(智昭)さんがおっしゃっていましたが「あとはみんながなんとかしてくれるから大丈夫だろう」みたいな、全員が全体を俯瞰して楽曲に取り組めていることが心強いなとは思います。コーラスの歌い方も、最初はどれくらいの強さで歌えばいいのかも塩梅を確かめながらやっていたんだけど、最近は指示出しをしなくても「ここはこういうパートだから」とわかったうえでレコーディングが進められているので、レコーディングの時間も短くなりました。
とおるす 周りを信じて自分がやる。あいつがこうやってくるだろうからこっちはこうしよう、という表現のキャッチボールにしてもそうですが、僕はそこに気づくまでに何年もかかりましたが、皆さんは1年しかやっていないのにそこに気づかれている。成長速度に驚きます。
VadLipの誕生。カバー曲「踊/怪物」に見る新グループの色とは。
――そのアオペラに新たなグループ・VadLipが誕生しました。先日開催されたイベントでは柊迫 侃役の小野賢章さんと大里 帆波役の花江夏樹さんが「アオペラに出たい」と以前から思っていた、という話も披露されていましたが、そんなVadLipの印象を教えてください。
とおるす とんでもないグループが現れたなと思いました。歌声もキャラもメンバーひとりひとりバリバリに個性を感じます。コーラスのパート割振りに関して言うと、男の人のグループって、トップコーラスを誰にするかでいつも悩むんですね。高音が出る男性はそれだけで貴重ですし、花江さんの高音がすごく柔らかさがあって、それでいて芯もあって。まさにトップコーラス向きの声なんですよね。
zakbee トップだけど全然耳に痛くないもんね。
とおるす そうなんです。さらにリードの春宮 永臣役の内田雄馬さんは声をすごく綺麗に出される方なんですよね。1人1人の音楽活動の情報をいただいて聴いていたときから、内田さんのトップコーラスも合うのでは?と思っていたんです。でも「踊」と「怪物」をやって、なるほど、花江さんの声があるからこそ、内田さんと小野さんのダブルリードが活きるんだなと感じました。
zakbee VadLipはリルハピとFYA’M’が今まで培ってきて、少しずつ積み重ねてきた世界観に突然やってきた黒船みたいな印象ですよね。半分“招かれざる客”というか、和を乱す奴等というか。そういうポジションなんだけど、これから掻き回してくれるだろう存在ですよね。「踊」と「怪物」はすごく良いものが出来上がったな、と思った半面、「クッソー!」みたいな、VadLipに対して。僕は個人的に言えば全部をイーブンで見なくてはならない立場なんだけど、VadLipに対してはすごく対抗心があります、見てろよ!って(笑)。
とおるす あははは(笑)。
zakbee 仕上がりに関しては、すごく良いものが出来たなって。お客さんの反応もありがたいことに上々で良かったなという気がしています。
――「踊」と「怪物」のインパクトは非常に大きかったですね。アカペラのポップスやソウルミュージック、R&Bとの親和性は高いと思うのですが、今回はミクスチャーロック的なアレンジとアカペラの親和性についてはどのような印象がありましたか?
とおるす 今回のアレンジを担当させて頂くまでは、ロックとアカペラの親和性については少し懐疑的でした。なぜかというとロックって、ギターやベース、ドラムと言った楽器のパワー、音圧を楽しむ音楽でもあると思うんです。でもアカペラって調和を楽しむもので、パワーを出そうとしても、楽器を使ったロックには負けてしまう。そうならないためにどうしたらいいかを自分なりに研究した結果、最終的には今までになかったロックなアカペラの形を提示できたのではないかなと思っています。
zakbee VadLipは、基本的にはみんな「俺が!俺が!」と前に出てくるんです。言ってみれば、ファンタジスタが集まっているような、そんなスター集団といった感じなので、キャストの皆さんはリルハピやFYA’M’を聴いてそれぞれにアカペラについてイメージをつけてきてくれていたけれど、最初の(小野)賢章さんのレコーディングのときに「アカペラコンテンツだけどVadLipに関しては、みんなで調和しようと考えなくていいです」って言ったんです。どれだけはみ出せるかが個性になるのかなと思い、まとめることに関しては僕ら音響スタッフがやるので、とにかくはみ出すよう、目立つようにコーラスをやりましょう、とレコーディングに臨んでもらいました。本来コーラスは基本的にはそんなに目立っちゃいけないんですよ。でも確実に「この人の声だな」とわかるような歌い方にしてもらっているので、そういう意味では面白くできたなと。ただアレンジの都合上、ベースの雛乃 秀役の増元拓也さんと4thの反郷 粋役の八代 拓さんに関してだけは「調和をさせてください」とお願いしました。八代さんのパートは増元さんの5度上なんですね。メタルで言うパワーコードのところでやるから、八代さんのパートだけとにかく複雑だから、すごく大変で……言ってみれば歌っていても全然楽しくないところなんです(笑)。本当に下支えだから。調和すればするほどベースの音に取り込まれて、仕上がりを聴いても多分八代さんの音って耳で追えないくらい綺麗に混ざっているんです。今回のカバーに対して八代さん以外はみんなはみ出していますが、次の曲では八代さんにもバーッと前に出てきてもらいたいです。VadLipは全員がメインなので、もっとみんなはっちゃけていくようになると思います。
――完成したものを聴かれていかがでしたか?
とおるす めちゃめちゃ良かったですね。一発目で彼らの世界観みたいなものが見えた気がしたんです。zakbeeさんが「それぞれが調和しなくていい」とおっしゃっていましたが、尖っているんですよね。グループの性質やVadLipのキャラクター設定があると思うんですけど、それが楽曲に出ているように感じたんです。リルハピともFYA’M’とも違うぞと。あとは既存2チームとの一番大きな違いは、ヒューマンビートボックスが入っていることだと思うんです。伊佐良和役の武内駿輔さんのビートボックスがとてつもない存在感ですよね。こちらからはデモ音源を通じて「こんな感じの演奏をされたらどうでしょうか」と提案するんですけど、武内さんも「こういうのはどうでしょうか」とたくさんのアイディアをぶつけてくださったんです。それが素敵だなと思いました。
zakbee 最初のレコーディングでどの機材で録るかを決めたんですけど、武内さんの場合はマイクを4種類ほど試させてもらったんです。試している間もずっとビートボックスをやってくださっていたんですが、そのなかで最終的な収録物になっている技じゃない技を繰り出してくださっていて。今回はこういう形で収まったけれど、次の曲、その次の曲、とまた違う引き出しを出してくださると思うので、今後が楽しみです。
とおるす VadLipはこれからが楽しみですよね。
zakbee アオペラのレコーディングって、基本的には仮歌を用意して「こんな感じでお願いします」って歌ってもらうんですけど、武内さんに対してはドラムでいうところのキックとスネアの位置と「ここはみんなでキメます」「ここはブレイクです」というところだけ守ってもらって、あとは思うようにやってください、と指示出しをしています。「怪物」のBメロでクラップの音を武内さんが出しているんだけど、あの音がとんでもなく良い音で。口からそんな音、出るの!?って。
とおるす わかります(笑)。あれは完全にクラップですよね。
zakbee 本当にびっくりしました。VadLipはこれからもっと面白い音を出してくれるんじゃないかと、期待しかないです。
――リルハピ、FYA’M’に、VadLipも加わった「アオペラ」。今後、ご自身が楽しみにしていることも含めて読者へメッセージをお願いします。
とおるす 多くのファンの方が新しいVadLipの出現で不安になっている気がするんです。僕自身も「VadLipすごいな」という気持ちの裏に「リルハピとFYA’M’はどうなってしまうんだ」という気持ちもあるんですが、僕は作家として、それを跳ね返すようなリルハピとFYA’M’の良さを出す曲を作って、音楽面から3組の素晴らしさを出すお手伝いをしていきたいと思います。前野さんがおっしゃっていたのですが、「アオペラは若者たちの青春と成長の物語でもあるけど、僕たちの成長の物語でもあるんです」って。キャラの成長をみんなで見守っていくというのが楽しみ方だと思うんですが、声優の皆さんの“アカペラー”としての成長ももの凄い速度なので、ファンの皆さんと一緒に見守って応援していきたいです。
zakbee VadLipが出てきたことによって、リルハピとFYA’M’の、「どういうものがリルハピで、どういうものがFYA’M’なのか」というチームのカラーがより明確になっていくと思いますし、その辺りの三者三様の良さを出せるよう意識してアオペラの制作をしていけるといいなと思っています。リルハピとFYA’M’の制作も進んでいますので、期待していてほしいです。キャストさんたちも、仲村さんが武内さんに「くっそー!」とライバル心を燃やしていますし、逢坂さんにしてもキャラクターの丹波 燐のままのようにVadLipに対してライバル心がメラメラさせていましたし、その熱さを持ってみんなで切磋琢磨していければいいなと思います。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
●リリース情報
「アオペラ -aoppella!?-4」
発売中
【通常盤】
価格:¥1,980(税込)
【初回限定盤-リルハピver.-】
価格:¥2,420(税込)
【初回限定盤-FYA’M’ver.-】
価格:¥2,420(税込)
<収録予定>
01-02 アオペラ敗者復活戦に向けて(drama track)
03 道貴家訪問(drama track)
04-05 リルハピ、 文字通り「復活」!(drama track)
06 敗者復活戦の裏で(drama track)
07 KALEIDOSCOPE
08 Voice, Heart, Body & Soul
<ドラマトラックあらすじ>
「アオペラ」の敗者復活戦に向けて、FYA’M’にも手伝ってもらいながら練習に励むリルハピ。
順調に上達を重ねる一方で、道貴には何か秘めた思いがあるようで──?
歌唱:都立音和高校アカペラ部「リルハピ」メンバー
鈴宮 壱(CV:木村 良平)
丹波 燐(CV:逢坂 良太)
雁屋園 道貴(CV:KENN)
四方 ルカ(CV:柿原 徹也)
宗円寺 雨夜(CV:前野 智昭)
歌唱:私立奏ヶ坂中学高等学校アカペラ部「FYA’M’(フェイム)」メンバー
是沢 舞斗(CV:小野 友樹)
綾瀬 光緒(CV:豊永 利行)
紫垣 明(CV:浦田 わたる)
宗円寺 朝晴(CV:佐藤 拓也)
猫屋敷 由比(CV:濱野 大輝)
深海 ふかみ(CV:仲村 宗悟)
●作品情報
『アオペラ -aoppella!?-』
<ストーリー>
————あの日、少年たちは魅了された。
目の前に立つのは、自分達と同じ普通の高校生。華美な衣装もない。
楽器のセットもない。
それなのに、彼らが口を開けた瞬間、変幻自在のハーモニーが溢れ出し、観客は熱狂する。
「僕たちも、あんな風に歌いたい!輝きたい!」
アカペラ≪無伴奏歌唱≫に魅入られた高校生たちが目指す、
高校生限定アカペラコンテスト『アオペラ』
遥かな高みを目指す、彼らの演奏が今、始まる————!
関連リンク
公式サイト
https://www.aoppella.com/
公式Twitter@aoppella
https://twitter.com/aoppella
公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/aoppella
2人を迎え、今年2月にリリースされたアルバムや、彗星の如く登場した新グループ・VadLipについて話を聞く。
VadLipの衝撃のお披露目曲となったAdoの「踊」、YOASOBIの「怪物」のカバーでアカペラアレンジをしたとおるす、ディレクションを担当したzakbee。2人は彼らに対してどんな想いがあるのだろうか。
zakbee、とおるす、それぞれの「アカペラ」。
――「アオペラ」にはリリース後から参加されたとおるすさんですが、コンテンツの最初の印象を教えてください。
とおるす 友人が「こんなプロジェクトがあるよ」って教えてくれたんですが、J-POPカバー「白日/Pretender」を観て「すごいプロジェクトが始まったな!」と思ったのが最初で。そしたらアレンジャーとして橘 哲夫さんのお名前があって。橘さんは大学のアカペラサークルの先輩なので「このコンテンツは誰が関わっているんだろう」と思いました。
――そうだったんですね。どんなところにアカペラの魅力を感じられますか?
とおるす 大学のアカペラサークルに入った当時、先輩たちの歌声に感動して。どうしてこんなに感動するんだろう?どうして歌うと楽しいんだろう?……と自分で解明したくて、どんどんハマっていきました。
――zakbeeさんは「アオペラ」に関わられるようになってからアカペラにどっぷりと浸かるようになられたと思いますが、実際に楽曲を手がけるようになったからこそ感じるアカペラの面白さはどんなところにあると思われますか?
zakbee 基本は全部人の声でやりつつ、毎曲毎曲アレンジが届いて楽譜をチェックしていくなかで、人の声をこの楽器になぞらえてアレンジされているのか!という発見があって。
自分が普段、アカペラではない楽曲でやっているような作業を人の声だけでやっている。その対比が面白いなと思いますね。
――アカペラサウンドをクリエイトされるうえでの手法や技術面に変化はありましたか?
zakbee 僕以外の関わっている作家さんやアレンジャーさんは、アカペラのフィールドの方ばかりなんです。ほとんどがアカペラの活動を経験されている方なので、最初にアレンジした「Think About U」という曲は見様見真似でのアレンジだったのですが、色んな人のアレンジを聴きながら「ここはこうすればいいのか」ということや、ベルトーンの使い方にしてもベースやボイスパーカッションといった下支えの人たちも、その上にいるコーラスの3声や4声の使い方も、毎曲楽譜を見ながら勉強させてもらっています。そこで吸収したことを自分の中でフィードバックさせて、アレンジしていく感じです。『A』に入っている「アオペラの“ア”」は、アオペラが始まって何曲か経たうえでの久々のアレンジ作業だったので、この1年で自分が勉強したことを盛り込めたかなと思います。
とおるす 「Think About U」は1曲目だったんですね。
zakbee そうなんです。でもFYA’M’に関してはボイパがいるし、基本的にはR&Bだし、ボイスパーカッションとベースがあれば主メロだけでも成り立つんですよね。それがあったからすごく助かりましたけど、リルハピの楽曲のアレンジはボイスパーカッションがいないぶん、ハードルが上がるなと思っています。リルハピについては「アオペラの「ア」-introduction song-」でアレンジをさせてもらいましたけど、難しかったですね。
とおるす たしかにリルハピのアレンジは難しいですよね。
ボイスパーカッションに頼らずにグルーヴを作らなくてはいけないですから。
zakbee 補助的にクラップや足踏みの音とかも入れますが、リルハピに関しては基本的にベースがリズムの要になるので、それがなかなか難しいんですよね。ウワモノの人たちも、ブレスでハイハットを担当することもできなくはないですけど、それをやると全パートがとてつもなく難しくなってしまう。「歌って楽しい」というリルハピの純粋な想いという根幹がブレてしまうかもしれないとも思うので。
とおるす うんうん。
――とおるすさんが思うリルハピのアレンジの面白さはなんでしょうか。
とおるす 僕にとってリルハピは橘さんのイメージがあります。パッと聴きは爽やかですが、裏で複雑で高度なことをやっているんですよね。だけどキャッチー、という塩梅が好きですし、どんな構造になっているんだろうなって毎回思ってしまいます。
――FYA’M’のアレンジを聴かれて、どのような感想がありますか?
とおるす 大好きです!
zakbee ありがとうございます!
とおるす zakbeeさんがアカペラ未経験なことが信じられないですね。曲も歌詞もすごく良いし、とにかくアカペラの典型的な様式がビシッと抑えられていて。経験者の方がやっているんだろう、と思ってスタッフさんに聞いたら「アカペラの人じゃないですよ」と言われて驚きました。
zakbee アカペラ未経験とはいえ、元々ドゥーワップも聴くし、アカペラをやる人たちの音楽は聴いてこなかったけど、コーラスグループの人たちの楽曲は好きで聴いてきたので、ウワモノのコーラスワークという音楽的な教養はそれなりには持っているんじゃないかな、とは思っています。でも実際にアカペラをやってきている人が聴けば「こいつ、わかってないな」ってところはあるのかもしれないですが……。
とおるす そういうのはなかったんですよ。
zakbee 本当ですか?大丈夫でしたか?
とおるす なかったからこそ衝撃でした。アカペラをたくさんアレンジされてきた方の作品だと思っていましたから。「アオペラ」のことを「知っている」から「好き」に変わったのは「Think About U」を聴いたことがきっかけでした。これは本当に良い曲だなぁって。自分でもこういう音楽がやりたかったのに!というところをやられた!と思いました。
アルバム収録曲の制作裏話を直撃!
――そんなお二人はアルバム『A(エース)』でも様々な楽曲に関わられています。まずはzakbeeさん。「アオペラの「ア」-introduction song-」で全員の空気感を詰め込んでいますが、全員で歌うからこその面白さや難しさはありましたか?
zakbee 最初に「白日/Pretender」のカバーをやりましたが、あのときにも少しだけ2組のパートが混ざるところがあって。パート的に言うと最大8人が一緒に歌っているんです。
「Pretender」のアウトロのところは、ベースをやっていた(宗円寺)雨夜(CV:前野智昭)がメインパートにいき、代わりに(猫屋敷)由比(CV:濱野大輝)がベースをやって、ほかのハモりでもFYA’M’のメンバーが入っているっていう、最大で8人だったんですが、今回はようやく11人全員で歌うということで。リルハピの紹介パート、FYA’M’の紹介パート、最後に全員パートがあるんですが、欲を言えば全員パートはもっと膨らますことができたと今でも思うんですよね。6分いかないくらいのサイズで収めているけど、8分でも10分でもできるくらい、やりたいことがたくさんあったんですよ。でもとにかく11人全員で楽しく声を出す、ということがやりたくて。そこを最大目標として作った「アオペラの「ア」」でした。あとはFYA’M’パートとリルハピパートの、基本の1コーラスのループは同じコード進行です。人によって一番おいしいキーが違うから、全部同じメロディにしてもイケるけど、それをやると「(丹波)燐(CV:逢坂良太)にしてはちょっと低いぞ」とか「雨夜くんだとちょっと高いぞ」みたいなところが出てきてしまうから、それは同じコード進行内でメロディを上げたり下げたり、と調整をしながら作れて。同じコード進行だけどバリエーションを作ることができたのは面白かったなと思います。
とおるす これはゴスペラーズさんの「侍ゴスペラーズ」を彷彿とさせますよね。ライブでの名乗り曲。この曲をライブで聴きたいなぁと思いました。すごく好きな1曲です。
――続いてとおるすさんが手がけられた「Follow Me」はゴスペラーズの村上てつやさんと共に制作されています。
とおるす これぞ村上節だな、と感じていました。ゴスペラーズの皆さんが歌っているのもイメージできますよね。実際に『The Gospellers Works 2』でセルフカバーされていました。僕は共作曲と共編曲を担当させていただいて、歌詞は村上さんが全部手がけられています。FYA’M’はちょっと大人の雰囲気のあるイメージなので、大人っぽさも散りばめてかっこいい曲を作ろうと意識をしました。歌詞については、俺について来い(Follow Me)という表向きの意味の裏に、高校生の頃のご自身の体験が入っているそうなんです。高校の文化祭で初めてアカペラを披露して、そこですごく盛り上がったことが今も鮮烈な思い出の一つだという話をしていただいたことがあり。その背景を知って聴くと、オラオラな歌詞の中に高校生の心情が垣間見えて、ますますこの曲が好きになりました。
zakbee それはキャストの皆さんも共有しつつ歌ってくださったので、良い感じの、高校生らしいかわいさある感じになりましたね。
――「Think About U」は時を重ねてきた今、どんな印象ですか?
zakbee 最初に作った曲だから、これぞFYA’M’みたいなところがあると思っています。まだ「Think About U」のコアになっているところを題材にして、もっともっと曲を作れるなっていう気持ちはあるので。
常にこの曲が核になっているという位置付けになっています。そこからはみ出して少し違うことをやってみたり、「もっと新しいことをやってみようか」というターンもあると思うんだけど、最終的には「Think About U」に帰ってくるようなところのある曲だなと思います。それはきっとリルハピの「Playlist」も同じだと思う。
――その「Think About U」を作ったからこその「Come on up, Baby」なのかなと感じますが、こちらの曲はいかがでしたか?
zakbee 最初にデモをもらったときには、バンド編成の音で楽曲をもらったんです。それを僕がアカペラにアレンジさせてもらったのですが、そこでワウのギターが効いているソウルミュージックだったんです。アカペラにするにあたって、ワウギターは外せないなと思ったので、それもあって仲村(宗悟)さんにワカチコワカチコしてもらって、ワウギターを音にするとワカチコなんですよね。
とおるす でも日本語としての「ワカチコ」に寄せていますよね?
zakbee 寄せました。元々はサディスティック・ミカ・バンドがワウギターをやっていて。冒頭で女性ボーカルが「ワカチコワカチコ」ってリズミカルに思いっきり日本語で歌うんですね。それがめちゃめちゃかっこ良くて。そこを踏襲しようと思って、「ワカチコ」にしてくださいってお願いしました。良くも悪くも耳には残るから、そういう引っ掛かりは曲のどこかに作っておきたいと思ってアレンジしました。
――そしてとおるすさんは「Let it snow, Let it snow, Let it snow」を手がけられました。こちらはいかがでしたか?
とおるす 今までのFYA’M’とは少し毛色が違っていて、R&Bよりもポップスの空気が強くて、「ファンが受け入れてくれるのだろうか」という気持ちがありました。ただ「良い曲を作れた」という自負はあったんです。あと僕の持論として、冬の曲ほど複雑な和音が許されて、夏のアップテンポな楽曲ほどシンプルに、3和音でいくのがいいと思っているんです。今回の曲は5和音を効果的に使うことでクリスマスっぽさを出しました。「複雑すぎないかな」と心配だったんですが、以前アオペラの生放送で人気投票の3位に選んでいただき、受け入れられた実感ができました。
zakbee アレンジ、めちゃめちゃ良いよね。サビがとにかくJ-Soulというか。J-POPの界隈でソウルミュージックをやっている人たちのような、すごくキャッチーだけどメロディがソウルになっているのがいいなぁ、と思いました。サビが明けてAメロに戻らず展開するところがすごく良い!ジャクソン5みがあるというか、モータウンっぽい感じがして。ソウルミュージックの系譜として「わかってるなぁ」っていう展開が、曲の頭から終わりまで好きです。
とおるす 歌うのはすごく大変だったと思いますが、レコーディングはどうでしたか?
zakbee いやぁ、大変でした。平たく歌えばいいかもしれないけれど、ちょっとした抑揚や歌い尻、しゃくるところや、一瞬だけファルセットにする部分など技術的にすごく難しい曲で。皆さん、現場でもしっかりと向き合ってくださいました。特に浦田(わたる)さんは一音一音をどう表現するか考えてくださって、浦田さんのレコーディングの中でも一番時間を掛けて録った曲でもありました。その甲斐あって、浦田さんのパートがすごく良いサビになっているのでぜひ聴いてもらいたいですね。
――アルバムの最後はゴスペラーズの安岡 優さんによる「RAINBOW」でした。
とおるす 素敵な曲です。この曲で僕はアカペラアレンジをやらせてもらったのですが、安岡さんから「とおるす、これをアカペラアレンジしてほしいんだけど」って受け取った元々の楽曲がすごく良かったんです。いわゆるソウルミュージックとしてすでに完成されていたので、アカペラでやらないほうがいいんじゃないですか?って最初は言っていたくらいだったんです。それを僕なりのアカペラに落とし込みました。リルハピのテーマにすごく合った歌詞ですよね。リルハピというかアオペラ全体のテーマに沿っている歌詞と言っていいかもしれません。この「RAINBOW」があることでアルバムが良い形で締まったなと思っています。
zakbee すごく良い曲なのに、どうしてアルバムの最後にしちゃうんだろうと思ったけど、アルバムを通して聴くとこの曲が最後で良かったなって曲ですよね。この曲もすごくリルハピらしくて、歌やコーラスのアレンジもすごくシンプルなんですよね。どのパートも歌っていて楽しい感じになっていて。5人一緒にメロディを持ってくる気持ち良さもあるし、これぞリルハピ、という曲です。
――コンテンツの立ち上げから最新曲まで。声優の皆さんのアカペラのテクニックや表現力の高まりを感じることはありますか?
zakbee びっくりするくらいリルハピとFYA’M’の11人がすごく真面目にアカペラに取り組んでくれているんです。最初のほうは手探りだし、みんな歌ってはいるけど曲の中でどこの位置にあるのかもわからないまま、不安な気持ちでなんとか歌い切ったけど、これでよかったのかな?みたいな想いで帰られた日もあったと思いますが、最近のレコーディングでは、前野(智昭)さんがおっしゃっていましたが「あとはみんながなんとかしてくれるから大丈夫だろう」みたいな、全員が全体を俯瞰して楽曲に取り組めていることが心強いなとは思います。コーラスの歌い方も、最初はどれくらいの強さで歌えばいいのかも塩梅を確かめながらやっていたんだけど、最近は指示出しをしなくても「ここはこういうパートだから」とわかったうえでレコーディングが進められているので、レコーディングの時間も短くなりました。
とおるす 周りを信じて自分がやる。あいつがこうやってくるだろうからこっちはこうしよう、という表現のキャッチボールにしてもそうですが、僕はそこに気づくまでに何年もかかりましたが、皆さんは1年しかやっていないのにそこに気づかれている。成長速度に驚きます。
VadLipの誕生。カバー曲「踊/怪物」に見る新グループの色とは。
――そのアオペラに新たなグループ・VadLipが誕生しました。先日開催されたイベントでは柊迫 侃役の小野賢章さんと大里 帆波役の花江夏樹さんが「アオペラに出たい」と以前から思っていた、という話も披露されていましたが、そんなVadLipの印象を教えてください。
とおるす とんでもないグループが現れたなと思いました。歌声もキャラもメンバーひとりひとりバリバリに個性を感じます。コーラスのパート割振りに関して言うと、男の人のグループって、トップコーラスを誰にするかでいつも悩むんですね。高音が出る男性はそれだけで貴重ですし、花江さんの高音がすごく柔らかさがあって、それでいて芯もあって。まさにトップコーラス向きの声なんですよね。
zakbee トップだけど全然耳に痛くないもんね。
とおるす そうなんです。さらにリードの春宮 永臣役の内田雄馬さんは声をすごく綺麗に出される方なんですよね。1人1人の音楽活動の情報をいただいて聴いていたときから、内田さんのトップコーラスも合うのでは?と思っていたんです。でも「踊」と「怪物」をやって、なるほど、花江さんの声があるからこそ、内田さんと小野さんのダブルリードが活きるんだなと感じました。
zakbee VadLipはリルハピとFYA’M’が今まで培ってきて、少しずつ積み重ねてきた世界観に突然やってきた黒船みたいな印象ですよね。半分“招かれざる客”というか、和を乱す奴等というか。そういうポジションなんだけど、これから掻き回してくれるだろう存在ですよね。「踊」と「怪物」はすごく良いものが出来上がったな、と思った半面、「クッソー!」みたいな、VadLipに対して。僕は個人的に言えば全部をイーブンで見なくてはならない立場なんだけど、VadLipに対してはすごく対抗心があります、見てろよ!って(笑)。
とおるす あははは(笑)。
zakbee 仕上がりに関しては、すごく良いものが出来たなって。お客さんの反応もありがたいことに上々で良かったなという気がしています。
――「踊」と「怪物」のインパクトは非常に大きかったですね。アカペラのポップスやソウルミュージック、R&Bとの親和性は高いと思うのですが、今回はミクスチャーロック的なアレンジとアカペラの親和性についてはどのような印象がありましたか?
とおるす 今回のアレンジを担当させて頂くまでは、ロックとアカペラの親和性については少し懐疑的でした。なぜかというとロックって、ギターやベース、ドラムと言った楽器のパワー、音圧を楽しむ音楽でもあると思うんです。でもアカペラって調和を楽しむもので、パワーを出そうとしても、楽器を使ったロックには負けてしまう。そうならないためにどうしたらいいかを自分なりに研究した結果、最終的には今までになかったロックなアカペラの形を提示できたのではないかなと思っています。
zakbee VadLipは、基本的にはみんな「俺が!俺が!」と前に出てくるんです。言ってみれば、ファンタジスタが集まっているような、そんなスター集団といった感じなので、キャストの皆さんはリルハピやFYA’M’を聴いてそれぞれにアカペラについてイメージをつけてきてくれていたけれど、最初の(小野)賢章さんのレコーディングのときに「アカペラコンテンツだけどVadLipに関しては、みんなで調和しようと考えなくていいです」って言ったんです。どれだけはみ出せるかが個性になるのかなと思い、まとめることに関しては僕ら音響スタッフがやるので、とにかくはみ出すよう、目立つようにコーラスをやりましょう、とレコーディングに臨んでもらいました。本来コーラスは基本的にはそんなに目立っちゃいけないんですよ。でも確実に「この人の声だな」とわかるような歌い方にしてもらっているので、そういう意味では面白くできたなと。ただアレンジの都合上、ベースの雛乃 秀役の増元拓也さんと4thの反郷 粋役の八代 拓さんに関してだけは「調和をさせてください」とお願いしました。八代さんのパートは増元さんの5度上なんですね。メタルで言うパワーコードのところでやるから、八代さんのパートだけとにかく複雑だから、すごく大変で……言ってみれば歌っていても全然楽しくないところなんです(笑)。本当に下支えだから。調和すればするほどベースの音に取り込まれて、仕上がりを聴いても多分八代さんの音って耳で追えないくらい綺麗に混ざっているんです。今回のカバーに対して八代さん以外はみんなはみ出していますが、次の曲では八代さんにもバーッと前に出てきてもらいたいです。VadLipは全員がメインなので、もっとみんなはっちゃけていくようになると思います。
――完成したものを聴かれていかがでしたか?
とおるす めちゃめちゃ良かったですね。一発目で彼らの世界観みたいなものが見えた気がしたんです。zakbeeさんが「それぞれが調和しなくていい」とおっしゃっていましたが、尖っているんですよね。グループの性質やVadLipのキャラクター設定があると思うんですけど、それが楽曲に出ているように感じたんです。リルハピともFYA’M’とも違うぞと。あとは既存2チームとの一番大きな違いは、ヒューマンビートボックスが入っていることだと思うんです。伊佐良和役の武内駿輔さんのビートボックスがとてつもない存在感ですよね。こちらからはデモ音源を通じて「こんな感じの演奏をされたらどうでしょうか」と提案するんですけど、武内さんも「こういうのはどうでしょうか」とたくさんのアイディアをぶつけてくださったんです。それが素敵だなと思いました。
zakbee 最初のレコーディングでどの機材で録るかを決めたんですけど、武内さんの場合はマイクを4種類ほど試させてもらったんです。試している間もずっとビートボックスをやってくださっていたんですが、そのなかで最終的な収録物になっている技じゃない技を繰り出してくださっていて。今回はこういう形で収まったけれど、次の曲、その次の曲、とまた違う引き出しを出してくださると思うので、今後が楽しみです。
とおるす VadLipはこれからが楽しみですよね。
zakbee アオペラのレコーディングって、基本的には仮歌を用意して「こんな感じでお願いします」って歌ってもらうんですけど、武内さんに対してはドラムでいうところのキックとスネアの位置と「ここはみんなでキメます」「ここはブレイクです」というところだけ守ってもらって、あとは思うようにやってください、と指示出しをしています。「怪物」のBメロでクラップの音を武内さんが出しているんだけど、あの音がとんでもなく良い音で。口からそんな音、出るの!?って。
とおるす わかります(笑)。あれは完全にクラップですよね。
zakbee 本当にびっくりしました。VadLipはこれからもっと面白い音を出してくれるんじゃないかと、期待しかないです。
――リルハピ、FYA’M’に、VadLipも加わった「アオペラ」。今後、ご自身が楽しみにしていることも含めて読者へメッセージをお願いします。
とおるす 多くのファンの方が新しいVadLipの出現で不安になっている気がするんです。僕自身も「VadLipすごいな」という気持ちの裏に「リルハピとFYA’M’はどうなってしまうんだ」という気持ちもあるんですが、僕は作家として、それを跳ね返すようなリルハピとFYA’M’の良さを出す曲を作って、音楽面から3組の素晴らしさを出すお手伝いをしていきたいと思います。前野さんがおっしゃっていたのですが、「アオペラは若者たちの青春と成長の物語でもあるけど、僕たちの成長の物語でもあるんです」って。キャラの成長をみんなで見守っていくというのが楽しみ方だと思うんですが、声優の皆さんの“アカペラー”としての成長ももの凄い速度なので、ファンの皆さんと一緒に見守って応援していきたいです。
zakbee VadLipが出てきたことによって、リルハピとFYA’M’の、「どういうものがリルハピで、どういうものがFYA’M’なのか」というチームのカラーがより明確になっていくと思いますし、その辺りの三者三様の良さを出せるよう意識してアオペラの制作をしていけるといいなと思っています。リルハピとFYA’M’の制作も進んでいますので、期待していてほしいです。キャストさんたちも、仲村さんが武内さんに「くっそー!」とライバル心を燃やしていますし、逢坂さんにしてもキャラクターの丹波 燐のままのようにVadLipに対してライバル心がメラメラさせていましたし、その熱さを持ってみんなで切磋琢磨していければいいなと思います。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
●リリース情報
「アオペラ -aoppella!?-4」
発売中
【通常盤】
価格:¥1,980(税込)
【初回限定盤-リルハピver.-】
価格:¥2,420(税込)
【初回限定盤-FYA’M’ver.-】
価格:¥2,420(税込)
<収録予定>
01-02 アオペラ敗者復活戦に向けて(drama track)
03 道貴家訪問(drama track)
04-05 リルハピ、 文字通り「復活」!(drama track)
06 敗者復活戦の裏で(drama track)
07 KALEIDOSCOPE
08 Voice, Heart, Body & Soul
<ドラマトラックあらすじ>
「アオペラ」の敗者復活戦に向けて、FYA’M’にも手伝ってもらいながら練習に励むリルハピ。
順調に上達を重ねる一方で、道貴には何か秘めた思いがあるようで──?
歌唱:都立音和高校アカペラ部「リルハピ」メンバー
鈴宮 壱(CV:木村 良平)
丹波 燐(CV:逢坂 良太)
雁屋園 道貴(CV:KENN)
四方 ルカ(CV:柿原 徹也)
宗円寺 雨夜(CV:前野 智昭)
歌唱:私立奏ヶ坂中学高等学校アカペラ部「FYA’M’(フェイム)」メンバー
是沢 舞斗(CV:小野 友樹)
綾瀬 光緒(CV:豊永 利行)
紫垣 明(CV:浦田 わたる)
宗円寺 朝晴(CV:佐藤 拓也)
猫屋敷 由比(CV:濱野 大輝)
深海 ふかみ(CV:仲村 宗悟)
●作品情報
『アオペラ -aoppella!?-』
<ストーリー>
————あの日、少年たちは魅了された。
目の前に立つのは、自分達と同じ普通の高校生。華美な衣装もない。
楽器のセットもない。
それなのに、彼らが口を開けた瞬間、変幻自在のハーモニーが溢れ出し、観客は熱狂する。
「僕たちも、あんな風に歌いたい!輝きたい!」
アカペラ≪無伴奏歌唱≫に魅入られた高校生たちが目指す、
高校生限定アカペラコンテスト『アオペラ』
遥かな高みを目指す、彼らの演奏が今、始まる————!
関連リンク
公式サイト
https://www.aoppella.com/
公式Twitter@aoppella
https://twitter.com/aoppella
公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/aoppella
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