モブサイコ100』TVアニメシリーズ第3期となる、『モブサイコ100 Ⅲ』の放送が2022年10月よりスタートした。主題歌は、2016年の第1期、2019年の第2期に続き、今期もアニメオリジナルユニットのMOB CHOIR(モブクワイア)が担当している。
その放送を記念して、sajou no hanaとしても活躍中のメインボーカル・sanaと、ワーナー ブラザース ジャパンのアニメプロデューサー・松田章男氏にインタビュー。MOB CHOIRというユニットのコンセプトを紐解きながら、今期OPテーマ「1」の制作秘話、歴代主題歌「99」と「99.9」との関係性、そして今期EDテーマ「コバルト」に迫った。

アニメスタッフ総出のコーラスで形作られる「MOB CHOIR」の音楽

――TVアニメ『モブサイコ100』は2016年放送の第1期からMOB CHOIRがテーマソングを担当しています。なぜ主題歌のためのオリジナルユニットが作られたのでしょう?

松田章男 『モブサイコ100』のアニメ化にあたってOPテーマを考えたとき、「劇中で主人公のモブ(影山茂夫)が爆発するまでにパーセンテージが上がっていくように、1から99までカウントアップしていくだけで歌詞にならないか?」というアイデアが生まれたんです。作品の内容に徹した楽曲をOPテーマにする、オンリーワンのものを作りたかったんですよね。その為のユニットとしてのMOB CHOIR、ボーカリストとしてスマイルデイズ(当時はスマイルカンパニー)のディレクターさんに推薦していただいたのがsanaさんでした。

――MOB CHOIRというユニット名の通り、歴代OPテーマはどの楽曲も合唱、もといクワイヤが象徴的です。

松田 「mob」は英語で群衆という意味なのと、『モブサイコ100』という作品もモブが周りの仲間たちと一緒に成長していく物語なので、そのコンセプトをユニットにも落とし込みたかったんです。『モブサイコ100』を作っている人たちでOPテーマを作るために、製作チームの皆さんに「一緒に歌いませんか?」とお声掛けして、集まっていただいた方々にご参加いただきました。

sana 私も「99」のレコーディング前に、松田さんから合唱団みたいにすることは聞いていて。いざスタッフさんのコーラスが入った音源を聴いてみたら、ごちゃごちゃ感がとても愛おしくて! 1人で歌っていたときよりもずっと『モブサイコ100』を表した曲になったなと思いました。でもアニメを作るスタッフさんたちがコーラスで参加するのはなかなか聞いたことがないので、衝撃的ではありましたね。


松田 賑やかで雑多な感じを出したかったんですよね。きれいすぎるコーラスだと『モブサイコ100』の雰囲気とはちょっと違うのかなと思ったんです。レコーディングでも「音程とか気にしないで弾けた感じで、元気いっぱいやろう!」と皆さんにお願いをして、ミックスでも声の個性が出るように仕上げてほしいと発注しました。声を掛けた手前、自分が歌わないのはだめだろうとレコーディングでも先陣を切って声を出していきましたね。

sana 参加してくださったスタッフさんが、Twitterなどで「私のCDデビュー曲です」と言ってくださっているのは見ていて嬉しかったですね。コーラス単体で聴くと、皆さんほんっとに全力で歌っているのがよくわかるんですよ。収録現場の見学に行きたかったです。

松田 3期OPテーマの「1」のレコーディングは、コロナ禍という状況なので気を遣いながらですけど「拳振り上げる感じで録りましょう!」と、みんなノリノリで録りました(笑)。

sana 「99」と比較すると、今回の「1」はどんどん合唱の一体感が増してますよね。

松田 1期の時は手探り感がありましたね。2期のOPの「99.9」はかっこいい楽曲をキタニさん(キタニタツヤ/sajou no hanaのメンバー)が作ってくれたので、英語かつ長いセンテンスを歌わなきゃいけないという高難易度のコーラスで(笑)。今回の「1」はわかりやすく、歌いやすいコーラスを目指しました。


「99」「99.9」から「1」へと至った理由


――『モブサイコ100 Ⅲ』のOPテーマ「1」はどういうコンセプトのもと制作された楽曲なのでしょう?

松田 これも最初にタイトルから決まりました。1期が「99」、2期が「99.9」と来たら、次は「99.99」なのか「100」なのか……という話に当然なってくるんですけど、そこをすかしたわけではなく「1」でいきたいなと。『モブサイコ100』はONE先生による原作があってこそであり、キャラクターの一人一人が「オンリーワン」であり。色んな意味を込めた「1」ですね。

sana 3期の放送が決まったときにTwitterを見ていたら、『モブ』ファンの皆さんも次のOPのタイトルは「100」なんじゃないかと予想している人が多くて。

――私もタイトルは「100」か「???」かなと思っていました。

松田 「???」だと視聴者さんに「何て読むんだろう?」と考えさせてしまいますしね(笑)。あと、3作通してOPテーマのタイトルは数字にしたかったというのもあります。

sana 実際、私も「100」になるんだろうなと思っていたんです。だから「1」というタイトルを見て最初は驚いたんですけど、すぐに「このタイトルしかないな」と思うくらいすごく納得して。ぐっと噛みしめましたね。

――「1」は「99」のサウンドプロデューサーである前口ワタルさんが作曲と編曲を手掛けているので、双方にサウンドなどリンクする箇所が散見するのも特徴的です。


松田 サウンドプロデューサーが同じだからこそできることですね。sanaさんもこの前のイベント(※2022年8月7日開催“「モブサイコ100 Ⅲ」スペシャルイベント~霊とか相談所 大相談会~”)で「1」を歌った際に、ちらっとお客さんに伝えてくれたんですけど――。

sana 「1」をフルサイズで聴くと最後に電子音が入っていて、それが「99」のイントロと同じ音なんですよね。

松田 そうなんですよね。これまでのOPテーマと関連を持たせると、物語が続いていることを暗示できるんじゃないかなと思ったんです。「99」と「1」を足したら100にもなるので、そういうギミックも加えながら。

――そういったアイデアはどの時点で生まれるのでしょうか?

松田 アニメの放送が決まってからですね。カウントアップしていく楽曲が作りたいというところから「99」が生まれて、第2期の放送が決まって「99」よりパワーアップした楽曲にしたいということで「99.9」が生まれて――と前作との関連性を見据えながら、どんな楽曲にするべきなのかを考えるんです。先ほどお話しした電子音のアイデアは、前口さんからフルサイズのデモが届いたときに全体像が見えてきたので、そこでリクエストしました。

――やはりプロデューサーという立場の方は、常に色んなところからヒントを探しているんですね。

松田 クリエイターの皆さんからインスピレーションをもらっているような感覚ですね。普段から思いついたことはひとまず相談するようにしていて、その意見を絶対に通したいというよりは、うまくはまるといいなと思いながら提案しています。
あの電子音は2番のAメロにも入っていて、曲のテンポと電子音の刻むテンポが違うから、あそこはsanaさんもきっと歌いにくかっただろうな、申し訳なかったな……と思っているんだけど、どうでした?

sana 大丈夫でした(笑)。

立川総監督、蓮井監督との連携がキーになった楽曲制作
――(笑)。sanaさんは「1」にどのような印象を持ちましたか?

sana 1期の「99」は霊幻(新隆)師匠の必殺技が歌詞に入りまくっていて『モブ』の世界の日常寄りの楽しい楽曲で、2期の「99.9」はバトルシーンも彷彿とさせる楽曲だったんですけど、「1」はイントロから楽しげなコーラスが入っているのに、音にはずっと不穏な感じが漂っているのが魅力的だと思っていて。優しいモブくんの中にうごめいている大きな力みたいなものを感じられるところに、3期のOPテーマであることを実感していますね。モブくんがとうとう自分の中に眠っている大きな力と向き合う――歌っていてもすごく壮大な気持ちになるんです。

――実際に「1」をステージで歌ってみて、いかがでしたか?

sana イベントで「99」、「99.9」、「1」と続けて歌わせていただいて、この3曲は繋がっていることを改めて実感できたのが自分にとっては大きかったです。あとはやっぱり、「1」もお客さんみんなと歌いたいな……と思いましたね。1人で歌っていても「いよいよ3期が始まるんだな」と思えたんですけど、いつかみんなで大合唱できたらなと思いました。

松田 気取った言い方かもしれませんが、一緒に歌うファンの皆さんもMOB CHOIRの一員なので。皆さんも歌ってくださってこそ『モブサイコ100』の主題歌だと思っています。やっぱりライブでファンの皆さんと一緒に歌う光景は恋しいですね。今はライブでの声出しは難しいところですが、アニメの放送が始まったらリアルタイムでコーラスを入れていただけたらなと。
Twitterなどで(笑)。

sana OPテーマが流れてきたら“MOB MOB WOW!”ってつぶやいてほしいですね(笑)。

――一方。EDテーマの「コバルト」は『モブサイコ100』の世界と現実世界がない交ぜになった楽曲だと感じました。若者が日常で抱える喜怒哀楽が描かれたギターロックナンバーです。

松田 「コバルト」はいくつかあった候補の中から立川(譲)総監督と蓮井(隆弘)監督に選んでいただいた楽曲です。立川さんは1期2期と監督、今回は総監督を務めているので作品全体を見てらっしゃるのと、「映像でこういうことをしたいから、音楽のアレンジでこういうことができないか」と端的に伝えてくださるんですよね。その意見は僕にとって重要なポイントを占めているんです。

――立川総監督は、映像と音楽の結びつきを大事にしている方なんですね。

松田 例えば2期の「99.9」は立川さんの「ガツンとインパクトのあるイントロが欲しい」という案から、ベースのチョッパーのイントロが決まったんです。「1」は「曲が進めば進むほどこういう感じで盛り上がってほしい」という立川さんのイメージをもとに綿密にやり取りをしていきながら、それを前口さんに共有していきました。OPとEDも本編の一部として大切にしてくれている方なので、僕もとても話がしやすいんです。


sana めちゃめちゃ甘酸っぱい曲ですよね。これまでのMOB CHOIRのED楽曲は、「メモセピア」にしても「グレイ」にしても、色がついていないイメージの楽曲だったと思うんです。でも今回はついに「コバルトブルー」という色がついて。それがすごく3期と合っているなとも思いました。透明感がありつつもちょっと靄掛かっていて、危うさがありながらもキラキラしていたり、色んなものが詰まっていて……。モブくんの青春に等身大の色がついた。この曲を聴くと「モブくん良かったね」と思うんですよね。イベントで歌ったときも浄化された気持ちになりました。

松田 「コバルト」の歌詞は、作詞家の六ツ見純代さんに「普遍的な青春像を描きながらモブの青春が感じられるものにしてほしい」とお願いしました。OPもEDもクリエイターチームが想像を超える素晴らしい楽曲と映像を作ってくださるので、それらが一緒に合わさることで生まれるアートが『モブサイコ100』だと思っているんです。3期は立川さんだけでなく、蓮井監督の強い思いが加わったことで、さらに1つ強く緻密になりました。主題歌と本編が一体となって描く物語を、より楽しんでいただけると思っています。

――『モブサイコ100』の登場人物たちが物語が進むにつれて成長し、お互いの個性を認め合っていくように、TVアニメ『モブサイコ100』も1期2期を経て結束を強めてパワーアップしているんですね。

松田 アニメの現場それぞれに色々なやり方があると思いますけど、『モブ』の場合はそうやって進めていますね。MOB CHOIRのコーラスに参加してくださったことが、間接的にでもスタッフの皆さんのモチベーションに繋がっていたら、僕としてもとても嬉しいです。そして待っていてくださったファンの皆さんがいるからこその3期なので、ぜひ放送を観ていただきたいですね。

sana 1期から6年経って、『モブ』ファンの皆さんも環境が変わった人、色んな成長を重ねた人も多いと思うんです。だからこそ1期から観返してみると当時気づかなかった発見がたくさんあるんじゃないかなと思っています。MOB CHOIRの楽曲はずっと歌わせていただいているので、「前シーズンからもう3年も経ったんだ!」という驚きもあるんですけど、すごく新鮮な気持ちでレコーディングができましたし、わたしも熱量を込めまくりました。ぜひテーマソングも本編と一緒に楽しんでいただきたいです。

INTERVIEW & TEXT BY 沖 さやこ

●リリース情報

MOB CHOIR
「1」
デジタル配信中

<収録曲>
01. 1
作詞:六ツ見純代 作曲・編曲:前口ワタル
02. コバルト
作詞:六ツ見純代 作曲:amazuti(KEYTONE) 編曲:渡辺拓也
03. Exist
作詞:六ツ見純代 作曲・編曲:前口ワタル
04. 1(Instrumental)
05. コバルト(Instrumental)
06. Exist(Instrumental)
07. 1(TV EDIT)
08. コバルト(TV EDIT)
09. Exist(TV EDIT)

●作品情報

『モブサイコ100 Ⅲ』
毎週水曜 24:00~TOKYO MXほかにて放送中
毎週水曜 25:00 Prime Videoにて見放題独占配信中

<あらすじ>
学校生活に除霊のアルバイトと、忙しい日々をおくるモブ。
一方、霊幻は新人所員・芹沢と、霊とか相談所に次々と舞い込む奇妙な依頼に奔走している。
そんな中、街の中心にそびえ立つ巨大なブロッコリーは、いまや“神樹”として崇拝され街の人々を魅了していた。
再びモブの前から姿を消したエクボに、新たな盛り上がりを見せるサイコヘルメット教……。
街の危険を察知したモブたちはブロッコリーへと向かう。果たして神樹の中では何が起きているのか……!?
“1 and Only One”友情、恋、そして自分自身―― モブの青春が爆発するシリーズ第3弾!

<MOB CHOIR>
『モブサイコ100』のために作られた音楽ユニット。メインボーカル=sanaと楽曲ごとに変わるアーティスト、スタッフによるコーラス編成を加えて構成されている。アニメ第2期では「sajou no hana」とコラボレーション。OPテーマ「99.9」ではキタニタツヤ、エンディング「メモセピア」では渡辺 翔がサウンドプロデュースを手がける。代表曲にアニメ第1期OP「99」、アニメ第2期OP「99.9」、同ED「メモセピア」「グレイ」「いきるひとびと」などがある。

© ONE・小学館/「モブサイコ100 Ⅲ」製作委員会

関連リンク
『モブサイコ100 Ⅲ』公式サイト
http://mobpsycho100.com/
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