――まず今回のアルバムが出るにあたって、上坂さんのほうから「こういうアルバムにしたい」というお話をされたのでしょうか?
上坂すみれ 前回のシングル、「生活こんきゅーダメディネロ」を作っている辺りでアルバムの話があって、レコーディングやツアーのリハと並行してやっていたので、「こういう作家さんにお願いしたい」とか、そういう話をしていましたね。「今回は作詞をたくさんしてみましょう」という提案をいただいて。なるべく色んなジャンルを書きましょうというお題みたいなのが最初にありました。
――「たくさん書きましょう」という話になったのはなぜですか?
上坂 元々作詞はたまにやっていて、「作詞したほうが自分の歌になるなぁ」という気持ちはあったので。今回、たくさん新曲が入るということで、チャレンジの気持ちで作詞をやってみようということになりました。
シティポップの立役者・林 哲司の楽曲で作詞をする
――では、新曲について伺いますが、1曲目の「趣味者のテーマ ~ underground heaven!!」。このインストを最初に入れたのは?
上坂 これは毎回、アルバムで「予感」というオーバーチュアがあって、そのシリーズが(前作『NEO PROPAGANDA』収録)「予感(Extra stage)」で一旦終わったということで、今回はプロレスの入場曲みたいなのがいいなと思い、声のサンプリングなども特になく、今回のシンプルなオーバーチュアになりました。
――イメージとしては誰の入場テーマみたいなのはありましたか?
上坂 これ書くと怒られちゃうかもしれないのですが(笑)、どの選手というよりは、ある大会のテーマのイメージですね。
――上坂さんが尊敬する林 哲司さん作詞・作曲の「海風のモノローグ」、これは上坂さんのご希望ですよね?
上坂 そうですね。お会いしたことはないんですけど、私は菊池桃子さんが好きで、林さんは菊池さんの曲をよく書かれているので、いいなと思っていて、ダメ元でお願いしたら曲を書いてくださることになりました。
――そうなると、上坂さんが林さんの曲に作詞するという挑戦になりますよね。
上坂 本当は売野雅勇さんなどに書いてもらいたかったのですが(笑)。「これは(上坂さんに)書いてほしい」という周りのスタッフの強い意志を感じ……(笑)。頑張りました。
――楽曲が上がってきてどういうイメージの歌詞にしようと思われましたか?
上坂 シティポップの雰囲気をとても感じたのですが、シティポップって“夏の海”系か“夜の街”系かに分かれると思うんですけど、この曲はすごく爽やかで、“夏”“白い砂浜”“パラソル”みたいなイメージがあったので、そういったキーワードを拾っていきながら作りました。
――以前に「ドロップス」(2021年リリースの「生活こんきゅーダメディネロ」カップリング)でもそういう世界観を書かれていますが、今回の作詞はスムーズにいきましたか?
上坂 とても難しかったです(笑)。でも、林先生の歌詞を書ける機会なんてないことですし、曲がこんなに素晴らしいので、どうやってついていこうかな?とすごく考えました。なので歌詞が完成してもすぐ提出せずに、「シティポップにしたいけど、ただ追随するという感じなのも違うな」と、色々細かい調整をしました。
――ご自身として自信のあるフレーズはありますか?売野さんに負けないぞ!みたいな(笑)。
上坂 それはないんですけど(笑)。私は“マリーナ”や“オフショア”といった言葉を使いたかったので……これはオメガトライブ用語みたいなものなんですけど。Aメロなどで、具体的な情景を描いて、でも2Aで全然情景ではないことを描くっていう。ここにモノローグがあるかなという感じがしますね。
――次の「lotus love」ですが、こちらはどういうイメージで作詞されましたか?
上坂 「海風のモノローグ」や「City Angel」の2曲とどうやって分けようかな?違う雰囲気の曲にしたいな、と思い作りました。オケもかなりしっとりした曲なので、これは90年代くらいのトレンディ悲しいドラマみたいなイメージで歌詞を書きましたね。
――これもシティポップ感がある楽曲ということで、作詞しやすいというのはありましたか?
上坂 やっぱりシティポップ系だと同じボキャブラリーをつい使ってしまいがちなので、なるべく主人公が違う人に見せたいというのはありましたね。ほかの2曲とは年齢も違う感じを出せるよう意識しました。
似た者同志だったカノエラナによる提供曲
――「Car♡Wash♡Girl」は清 竜人さんの作詞・作曲・編曲ですね。
上坂 清さんが以前やっていた清 竜人25が好きでライブにもよく行っていたのですが、すごくアップテンポなディスコっぽい曲があって、それがすごくかわいくて。なので今回はちょっとディスコっぽい、だけど清さんらしいファンシーな雰囲気でお願いします!というようなお願いをさせてもらいました。
――ちなみに清 竜人25の曲で好きだったのは?
上坂 私は最初の最初の曲ですけど「ラブ♡ボクシング」が一番好きですね。とにかく清竜人25の曲は女の子の声の線がたくさんあるので、今回はそれも踏まえて厚みのあるコーラスを入れてくださったのかなと思いました。
――ではコーラスも楽しく収録できましたか?
上坂 そうですね。すごく長かったですけど(笑)。
――「シャニカマエール」はカノエラナさんの作詞・作曲ですね。
上坂 カノエさんとは自分のYouTube番組に来てくださったのが初対面で、そこからかなり仲良くなって、ご飯を食べに行ったりしていました。世代は結構近いのですが、シンガーソングライターなのであまり接点もなく、書いている曲調もかなり違う路線なので、すべてお任せでお願いしたのですが……やっぱり、私の持ち曲とは違う雰囲気の曲や歌詞をいただけて、すごく良かったなと思います。
――カノエさんと番組でお話ししていて、自分の大ファンだというのは感じましたか?
上坂 すごく色んな曲を聴いてくださってるというのは聞きましたね。でも、性格が似てるのか、2人とも目が合わないので、わからずじまいでした(笑)。
――次の「ハートロックガール」はどのような経緯だったんですか?
上坂 これは一番最初に作った曲で、まだアルバムのコンセプトも、何曲入れるかもわかってないときだったんですよね。最近自分の曲の中でこういう低めのロックの曲が時々あるのですが、いつもライブで披露するとすごく盛り上がりますし、「こういう曲がもっと聴きたいです」という要望もたくさんいただいていたので、なるべくライブを意識しつつ、女の子の歌なのですがキザな感じの楽曲に仕上がりました。あえて耳で聴いても何の単語かわからないくらいのトリッキーな歌詞で、V系とポップスの中間くらいを意識して書きましたね。
“女性声優みんな電波ソングを歌ってくれる文化”の復興
――「鋼鉄乙女デュランダル」はいかがでしょう?
上坂 これは最初のワルツっぽい曲調が印象的で、そこからメタル寄りで激しい、イメージ的には『ローゼンメイデン』を思い出す感じですね。私はALI PROJECTさんがすごく好きで、イメージ的にはああいう、耽美だけれども、心を傷つけやすい人があえてかっこいい言葉を使って自分を鼓舞している、みたいなものをテーマにしました。これは戦う女の子の曲で、今回ラブソングっぽいのはこれだと思います。
――タイトルはアニソンをイメージしてつけられたんですか?
上坂 そうですね。架空のアニソンとかそういうのをイメージすることは結構多いですね。
――そういう場合って作品の設定なども考えられるんですか?
上坂 とりあえずヒロインは考えますね。女子キャラと世界観があれば一貫した感じでイメージができるので。作詞をしていると、1番で書きたいことを全部書き切ってしまうというのはあるあるなのですが、設定を考えておくと、2番から最後までちゃんと話が途切れずに書けるというのが発見でしたね。
――「絶対☆Chu!Chu!っとイチコロ」は電波ソングっぽいイメージですか?
上坂 そうですね。電波ソングの中でも2000年くらいのゲームソングのイメージですね。ボキャブラリー的にもオケ的にも、あの当時の勢いあるゲームソングそのままです。現代の電波ソングの衰退を哀しんでおりまして、私は毎年電波ソングを発売していきたいと強く思っているんです。2000年代の“女性声優みんな電波ソングを歌ってくれる文化”が復活するといいなと思っています。
――13曲目の「霊幻!!きょーしきょーあい」はどういう発注だったんですか?
上坂 これはオケ的には『東方Project』という感じです。『東方』の世界は妖怪や怪異がとても合うのですが、今回はどうしてもテーマをキョンシーにしたかったので、キョンシーソングというのを念頭に置いてお願いしました。
――キョンシーにしたいと思ったのはなぜですか?
上坂 キョンシーはここ数年のハロウィンの影響で知名度が上がっていると思うんですけど、みんな聞いてみるとキョンシーの元の性質や特性をあまり知らないんですよね。でも、若い女の子がキョンシーのコスプレをして歩いてるのは本当にかわいいなと思っていて、ちょうどハロウィンのシーズンに偶然アルバムが出ますので、キョンシーのコスプレをする人にはこれを聴いて、『霊幻道士』のDVDをぜひ観ていただきたいと思って、映画ネタなんかも入れていますね。
ZAQによる自己解放のアンセム
――最後に収録されているアルバムリード曲「筐体哀歌」はZAQさんの作詞・作曲ですが、9周年のタイミングでZAQさんに初めて楽曲をお願いしたのはどうしてだったんですか?
上坂 ずっとお願いしたかったのですが、なかなか機会がなくて……。この曲は9周年のアニバーサリーテーマソングみたいな気持ちもありますし、ZAQさんは自分が出た色んな作品でもお世話になっているということもありますね。なので、お願いできた時点から「ZAQさんなら絶対いい曲ができる!」と思っていました。でも、リード曲というのが伝わっていなかったみたいで、ZAQさんは作ったあとに「えっ、これリード曲なんですか!?」ってなったらしくて。アルバムの曲の1つとしてこんな熱量のある曲を書いてくださったんだとしたら、やっぱりZAQさんってすごいなと思いました。私のキャラソンでもありますし、なかなか自分を解放できない人へのエールソングでもありますし、これはすごいアンセムだと思いますね。
――曲が上がってきたときの第一印象はどうでしたか?
上坂 まさにZAQさんの良さというか、次にどんな展開がくるかわからない、ハチャメチャだけどすごく感動するっていう曲でした。私としてはZAQさんにも歌ってもらいたいくらい良かったです。
――上坂さんから見て、ZAQさんはどういう印象ですか?
上坂 ZAQさんは、お姉ちゃん。私はお姉ちゃんはいないのですが、正月とかに会うと鍋とか作ってくれそうなイメージです(笑)。
これからも“真剣にふざけられる催し物”を
――今回のアルバム制作の中でいつもと違った感覚はありますか?
上坂 作詞がすごく多いということで、自分の文章の特徴というか、こういうクリエイター性があるんだなっていう発見がありましたね。シングルはタイアップ作品の曲が多かったのですが、今回はアルバム曲がたくさんあるので自分が好きな曲調が集まっていて、より自分の趣味が強い1枚になったと思います。
――ご自身としての成長や変化は感じましたか?
上坂 なぜか、締切はだいたい1日こぼすというのがよくわかりました(笑)。でも、前はもっとこぼしていたと思うので、それは大変な成長だと思います!あとはこのアルバムを作っているときがちょうどツアーと同時期だったので、短い時間でまとめて2曲録るというのもあって、集中力をどこで使うかというのがすごく身に付きました。作詞においても、だらだらやっていても何も思い浮かばないのですが、逆にやるときはやるし、休むときは休むというスイッチの切り替えも身に付いたと思います。あとは、やっぱり作詞が多かったことで、ボキャブラリーも広くなりましたね。
――作詞家・上坂すみれとして営業をかけるとしたら、ご自身の強みはどこにあると思いますか?
上坂 女の子ソングが書きやすいと思ったので、女性声優さんの曲やキャラクターソングはイメージが湧きやすいですね。
――ZAQさん作曲、上坂さん作詞で、内田真礼さんが歌うとか?(笑)。
上坂 それはすごくやりたいですね(笑)。
――さて、アーティスト10周年が近づいていますが、今はどんな心境ですか?
上坂 私は声優が軸にあって、アーティスト活動もやっているという、声優の延長線上にアーティスト活動があるので、それでいいのかな?とずっと思ってきました。そんななかでも9年やってこれたということは、このままでも大丈夫かも?という気持ちになってきました。バラードなどがあまりなかったとしても、こんな長くやっていけるんだなって。あとはコロナ禍でライブの休止期間があっても、再開したときに普通にみんな帰ってきてくれたので、ライブもなるべく続けていきたいという気持ちは強いです。でも、まずは10年を無事に迎えられそうで本当に良かったなと思っていますね。
――では次の10年に向けての自信もついてきたということですね?
上坂 でも、解雇って突然なので……。出向になるかもしれないし……(笑)。
――いやいや!(笑)。
上坂 勤め続けたい気持ちはすごくあるので、解雇通知が来るその日までは徹底的に頑張っていこうと思っています。でも、アーティスト活動を始めた頃よりずっと楽しいなって思えるようになってきています。ライブも楽しいですし、10年で色んな曲が出来ましたが、これからも色んな曲が増えていくと思うと、希望がたくさんあるなと思っていますね。
――ちなみに、この9年を振り返ってみて、アーティストになって良かったな、嬉しかったなと思う瞬間って?
上坂 やっぱりCDが完成したときは毎回嬉しいですね。あと、思い出深いのは中野サンプラザでライブができたとき(2014年“実録・2.11 第一回革ブロ総決起集会”)や、両国国技館を貸切にしたとき(2016年“上坂すみれのひとり相撲 2016~サイケデリック巡業~”)。両国はライブというより貸切イベントという感じだったのですが、土俵入りしているとき、私は陰で見ていて、「今、何の時間なんだろう……?」って思ってました(笑)。出ている人も真剣だし、見ている人も真剣だし、今、真剣にやっているけど、ふざけられてるな、という確かな実感を得られる催し物。ライブももちろん楽しいんですけど、そういうイベントも挟んでいきたいなと思いますね。
――そんな10周年を迎える上坂さんですが、“リスアニ!LIVE 2023”への出演が決定しました!最後に意気込みを伺えますか。
上坂 初めての“リスアニ!LIVE”ですし、自分にとって久しぶりのフェスにもなるので、とても楽しみです!みんなと盛り上がれるように精一杯頑張ります!
INTERVIEW BY 清水耕司(セブンデイズウォー) TEXT BY 金子光晴
●リリース情報
5th ALBUM
『ANTHOLOGY & DESTINY』
発売中
【完全限定生産盤(CD+Blu-ray+48ページ大判フォトBOOK+ときめき♡ヒロイントランプ+特製BOX)】
品番:KICS-94080
価格:¥7,000+税
【CD+Blu-ray盤(CD+Blu-ray +28ページミニフォトBOOK+特製ケース)】
品番:KIZC-693~4
価格:¥3,700+税
【通常盤(CD)】
品番:KICS-4080
定価:¥3,000+税
■mora
通常/配信リンクはこちら
<CD>
01. 趣味者のテーマ ~ underground heaven!!
作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)
02. EASY LOVE
作詞:上坂すみれ、森月キャス 作曲:丸山真由子 編曲:日比野裕史×渡辺 徹
03. 生活こんきゅーダメディネロ
作詞・作曲:前山田健一 編曲:藤原燈太
04. 海風のモノローグ
作詞:上坂すみれ 作曲・編曲:林 哲司
05. lotus love
作詞:上坂すみれ 作曲:TSUKASA 編曲:山下洋介
06. City Angel
作詞:上坂すみれ 作曲・編曲:Night Tempo
07. Car♡Wash♡Girl
作詞・作曲・編曲:清 竜人
08. シャニカマエ―ル
作詞・作曲:カノエラナ 編曲:菊谷知樹
09. ハートロックガール
作詞:上坂すみれ 作曲:MIKOTO 編曲:久下真音
10. 鋼鉄乙女デュランダル
作詞:上坂すみれ 作曲:⼭本恭平&酒井拓也(Arte Refact) 編曲:脇 眞富(Arte Refact)
11. 夢みるメイドガール
作詞:上坂すみれ 作曲:黒川陽介 編曲:EFFY(FirstCall)
12. 絶対☆Chu!Chu!っとイチコロ
作詞:REDALiCE、まろん (IOSYS) 作曲・編曲:REDALiCE
13. 霊幻!!きょーしきょーあい
作詞:上坂すみれ 作曲:烏屋茶房 編曲:YASUHIRO(康寛)
14. ものどもの宴
作詞:上坂すみれ 作曲:BOUNCEBACK 編曲:日比野裕史×渡辺 徹
15. 筐体哀歌
作詞・作曲:ZAQ 編曲:やしきん、ZAQ
<Blu-ray>
・「筐体哀歌」Music Video
・「海風のモノローグ」Music Video
・「海風のモノローグ」Music Video(アイドルバージョン)
・「EASY LOVE」Music Video
・「生活こんきゅーダメディネロ」Music Video
・「Car♡Wash♡Girl」Lyric Video
・「霊幻!!きょーしきょーあい」Lyric Video
・「ドロップス」Visual Movie(short ver.)
・「ANTHOLOGY & DESTINY」MAKING
・「おまねる的山梨の旅」ディレクターズカット版 ※完全限定生産盤のみ
●イベント情報
リスアニ!LIVE 2023
2023年1月27日(金)EXTRA STAGE
開場17:30/開演18:30 (予定)
2023年1月28日(土)SATURDAY STAGE
開場15:00/開演16:00(予定)
2023年1月29日(日)SUNDAY STAGE
開場14:00/開演15:00(予定)
会場
日本武道館
チケット(※すべて全席指定)
1月27日(金)EXTRA STAGE
¥6,200(税抜) / ¥6,820(税込)
1月28日(土)SATURDAY STAGE、1月29日(日)SUNDAY STAGE
¥9,300(税抜) / ¥10,230(税込)
上坂すみれは2023年1月28日(土)SATURDAY STAGEに出演!
現在最速先行受付実施中!
詳しくはこちら
関連リンク
上坂すみれ 公式サイト
http://king-cr.jp/artist/uesakasumire
上坂すみれ 公式Twitter
https://twitter.com/uesaka_official
上坂すみれ 公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCmXM_8KLt9B1X2oW94QfAyg