アニソンシンガー・YURiKAが、デビュー5周年にして念願となる1stアルバム『KiRA☆KiRA』を11月11日にリリースする。2017年の『リトルウィッチアカデミア』から最新作『ロマンティック・キラー』まで、これまで担当してきたアニメ主題歌全曲に加え、自身がファンと公言するGRANRODEOの飯塚昌明や敬愛するゲームブランド・Key所属の折戸伸治らから提供を受けた新曲など、全16曲収録の充実作だ。
しかし本作のリリースに至るまでの長い時間、彼女は見えないところで必死にもがき続けていた――。ここではYURiKAとデビュー以来タッグを組む音楽プロデューサー・水野大輔も交え、1万字以上に及ぶロングインタビューを敢行。3年間もの逆境と、それを跳ね返したYURiKAという存在、それらをすべて内包した1stアルバムの新曲について明らかにしていく。

INTERVIEW BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
TEXT BY 須永兼次

これまでと異なる体制でのリリースに至った経緯とは?
――今回はYURiKAさんにとって、デビューから5年以上を経ての1stアルバム、しかも、シングル「Le Zoo」(2019年11月20日リリース)からも3年ぶりのリリースということで、並々ならぬ想いが詰まっていると思います。

YURiKA 「ようやく……」というところはすごく強いですね(笑)。ファンの皆さんの中にも「なんでアルバムがこんなに遅くなったの?」と感じてらっしゃる人はいると思うんですけど。

――『リトルウィッチアカデミア』OPテーマの2曲から始まって、『宝石の国』に『はねバド!』、『BEASTARS』の各タイアップ楽曲と、2019年の時点でもアルバムを出すには十分の曲数がありましたからね。

YURiKA 実は、「Le Zoo」をリリースしたあとにもアルバムリリースの話はあったんです。曲順を決めて、「こんな新曲を入れたいね」という話もしていましたし、アルバムを引っさげたツアーの会場も押さえてもらってもいたんですよ。ただ、当時は新たに2曲のアニメ主題歌を歌う予定があったので、そこまでを収録してからアルバムにしよう、というプランだったんですね。ところが、立て続けにタイアップのお話が急になくなってしまって。歌う準備も進めていたし「頑張るぞ!」と意気込んでいたところだったので、正直とても悲しかったですね。
そこがちょうど契約満了のタイミングでもあったので、新しい所属レーベルを探すことになり、アルバムリリースが遅れることになりました。ここまで遅れるとは思っていなかったですけど。

水野大輔 そこはYURiKAさんに対して、プロデューサーとしては本当に申し訳なかったです。ちょうどコロナ禍が始まってしまったので、直接ご挨拶に行くような営業が全然できなくなってしまったんですよ。しかも、どこのレーベルにしても先のリリース計画がぐちゃぐちゃになってしまっていて。知人のプロデューサーに話をしても「相談には乗りたいけど、今は非常にタイミングが悪い」という返事をもらってばかりでした。そこで、自分が音楽事業の部門長として所属する音楽制作会社「CREST」で、音楽レーベル機能を作ろうという動きもしていたので、そこからアルバムをリリースするという方向にシフトしました。

――2曲のアニソンタイアップがなくなった段階で、いったんアルバムを出すという選択肢はなかったんですか?

YURiKA そういう話ももちろんありました。ただ、(2021年頃の時点で出す場合の)アルバムに入る最新のアニソンが、2年前の「Le Zoo」になるというのが許せなかったんですよ(笑)。

――そこにノンタイアップの新曲が入ったとしても。

YURiKA それは「私がなりたかったアニソンシンガーではないなぁ」という感覚でした。私はアニソンシンガーであることを軸に、一曲一曲と真剣に向き合っているつもりなので、ノンタイアップだから何か変える……とかはもちろん一切ありません。
でも、もし自分がYURiKAのファンだったとしたら、新しいアニメの歌が聴きたい気持ちになるだろうというか、アルバムを出すきっかけはアニメの歌であるべきだと思ったんです。私が思うアニソンシンガーでいるために。

水野 そこに関して言えば、僕も「早く出さないと」という気持ちですごく焦っていました。でも、東宝の担当者から「東宝からリリースすることはもちろんできるけれども、次のステップに進みづらいんじゃないですか?」「YURiKAさんがアニソンを歌い続けたいならば、出せばいいというものではないんじゃないですか?」とも言われ、思い直したんです。東宝には、新しいレーベルを探すことについて了承をいただいていましたし、むしろ全面的に協力するということで、アルバムをリリースするならば既存のタイアップ曲を収録してもいい、とも言ってもらっていました。「次のところへの営業がしやすいだろうから」ということで。これは本当にありがたかったですね。YURiKAさん本人としても、「これまでの曲、歌えなくなっちゃうんですか?」ということをすごく気にしていたので。

YURiKA 今も変わらず応援してくれているので、東宝さんには本当に感謝しています。

――そうすると、今回のアルバムはレーベルの移籍作、という形になるのでしょうか?

YURiKA いえ、あくまでも「今回は」という形ですね。あくまでもレーベルの話で、事務所は東宝芸能のままですし。

水野 契約形態としては専属ではなく、CRESTとしてはYURiKAさんのファンクラブにも携わることになり、複合的なビジネスの1つとしてアーティスト運営に関わる、という立場です。
そもそもは、他のアニソンレーベルさんに預けることも考えていたのですが、コロナ禍によって想像以上に厳しい状況が続く中、レーベルを立ち上げるという僕の仕事に絡ませた、というところです。

アルバム制作の決め手となった『ロマンティック・キラー』
――YURiKAさんは先ほど、アルバムリリースにあたってはアニソンの新曲が必要という考えだったとおっしゃいました。とするとこのタイミングで、アルバムリリースに至ったというのは……。

YURiKA 『ロマンティック・キラー』(Netflixシリーズのアニメ作品)のおかげですね!

――『ロマンティック・キラー』のOP主題歌「ROMA☆KiRA」を歌うと決まったのは、今回のアルバムリリースやレーベル探しの流れからですか?

YURiKA いえ、それはまったくの偶然で。ですよね?

水野 『ロマンティック・キラー』はたまたまですね。CRESTが請けて、僕が音楽プロデューサーを担当することになっていた作品なんです。元々はYURiKAさんとは関係のないお仕事だったのですが、原作を読んでみたら(主人公の)星野杏子とYURiKAさんがすごく重なったんですよ。

YURiKA へへへ(笑)。



――わかります。私も、YURiKAさんのキャラクターから『ロマンティック・キラー』に抜擢されたのかと思いました。

水野 それでNetflixのプロデューサーさんに、YURiKAさんのことを話してみたらすごく興味を持っていただいたんです。ただ、先方が気にされたのは、主題歌はすごくアニメに寄せたい、サビで「ロマキラ!」って叫んじゃうくらいに振り切りたい、というところでした。
というのも、そういうのを嫌がるアーティストさんもいるのではないかというところで。

YURiKA でも、私はむしろ、「そういうの待ってました!」なので(笑)。

水野 それを伝えたところ、晴れてOP主題歌に決まったんです。そのとき、「ROMA☆KIRA」をリードトラックにすることでアルバムが作れる、と気づきました。

――では、このアルバムを機に色々とファンに報告できて嬉しいですね。

YURiKA そうですね。レーベルを離れたことは発表してもよかったんですけど、次の動きが決まらないうちに言うとファンのみんなを余計に不安にさせるだけだと思って。この3年間、「YURiKAは何をやっているんだろう?」と心配してくれていた方もいると思うんですけど、もがき続けながら「言えなくてごめん」という状態だったんです。

厳しく続いた状況の中で「信じる心」が刺さった
――正直、そういった状況にあることはまったく気づきませんでした。YURiKAさんが「鍵っ子」(=Key作品のファン)であることからPCゲーム「Summer Pockets REFLECTION BLUE」の劇中歌「青き此方」歌唱、その後の「YURiKA Key Cover Live」開催。そして、今年4月には「ユリパ!YURiKA presents Live party」の開催など、むしろ、コロナ禍に負けじと自ら精力的に活動しているように見えました。

YURiKA そこは私のファンの皆さんを不安にさせたくなかったというのもありますけど、「第一回 次世代アーティストオーディション」で水野さんと面談をした最初のタイミングで、アニソンシンガーとして続けていく上での心構えみたいなものを教えてもらえたからだと思います。


水野 最初から、「他人任せにするのではなく、自分がやるべきことについて一緒に考えて動くくらいの気持ちでいないといけない。でも、あなたはそういうことができる人だと思う。だから一緒にお仕事をしませんか」という話をさせてもらいました。

YURiKA 私は、アニソンシンガー・アニソンアーティストというものは、歌う作品はあらかじめ決められていて、与えられたものに対していかに自分が頑張れるか、が大事だと思っていたんです。でも水野さんからは「用意されていると思わないでほしい」というお話をされていて。

水野 最初に教訓のような十箇条を突きつける形で、「きっとこんなことも起こるから、そのときはこうしましょう」ということを切々と話していたんですよね。

――では、困難な状況ではありましたが、YURiKAさんとしてはその教訓を思い出しながら?

YURiKA そうですね。ただ、元々どこかで現実的視点を持っているというか。自分としてはただがむしゃらでいるよりも、ダメだったときのための「別の目」を持つようにしているんですね。今までも、コロナ禍でも。だから、頑張っていたし諦めていたわけでもないけど、「頑張ればいつか夢は叶う」とまでは思い込んでいなかったので、本当にそのときできることをやっていたような感じなんです。

水野 なので、「この子なら一緒に乗り越えていけるだろう」と思っていました。
実際、これまで行き詰まったときも自力でなんとかしてきましたし、アルバムリリースに関しても、あまりにも状況が悪いので自力で打って出るしかないと考えた結果でした。いつか何か困難なことがあるとは思っていましたけど、想定よりも2年くらいは早かったですね。コロナ禍までは予測できなかったですし……「それにしても厳しかったな」という感じでした(苦笑)。

YURiKA 厳しかったですね。私もこんなに早く大変な時期が来るとは思っていなかったので、「どうしよう?」という気持ちも強かったです。実は、決まっていたアニソンタイアップがなくなり、決まりかけていたアルバムやツアーが全部なくなりそうと聞いたのはワンマンライブ「Shiny Stage~今年は全曲できるのか!?~」(2020年2月22日開催)の直前だったんですよ。アニソンファンとして、移籍したことでアニメを背負って歌えなくなったり、移籍前の曲が歌えなくなったりする方も見てきたので、「この歌をうたうのはこれが最後かもしれない」くらいの気持ちで歌っていました。それに、前の年の「バースデーワンマンライブ“UPDATE”」(2019年10月19日開催)時点では『BEASTARS』の放送が始まった直後だった上に決まっていたことも色々あったので、ファンの方にも「来年、楽しみにしててねー!」って煽りに煽ってしまって。だから、「Shiny Stage」は楽しいライブではあったんですけどキツい部分もありました。

水野 さすがにその時期は、すごくしょげていたように見えましたね。

YURiKA 「Le Zoo」から1年以上リリースがない状態が続くと、ライブや生配信でも「アニソンシンガーと名乗っていいのかな?」と悩み始めてもいました。「今期の作品で歌っていないからアニソンシンガーじゃない」とまで考えているわけではないですし、何年前の曲でもライブで歌えばアニソンシンガーだと思っているんですけど、なぜか自分自身についてはそう思い込んでしまっていたんですよね。しかもありがたいことに、ずっと応援してくれている人からは、TOHO animationから新作のニュースが出ると、「YURiKAが主題歌を歌うかな?」みたいに純粋に期待し続けてくれたんですよ。

水野 あれは結構つらかったよね。

YURiKA でも、やれることはやりましたよね。主題歌オーディションを受けるとか。

水野 結局、僕には本当に申し訳ないことにアニメに出資して主題歌枠を取る力がなく、オーディション形式の主題歌を探して営業するしかなくて。それも結果的には難しかったんですが、最終的に『ロマンティック・キラー』という作品では彼女の「信じる心」が刺さったんだと思っています。『リトルウィッチアカデミア』のときと似ていて、あのときTRIGGERのプロデューサーさん方やみんなはYURiKAさんに対して「この子だ!」というところがあったみたいなんですよ。僕はあまりわかっていなかったんですけど(笑)。

――『ロマンティック・キラー』の杏子と同様、魔女という憧れた夢に向かって邁進していく主人公アッコの姿とYURiKAさんのイメージが重なったということですね。

YURiKA ありがたいお話です。

“トゥルーエンド手前のキャラエンド”が描かれた「Key to my next gate」
――それでは改めて、1stアルバム『KiRA☆KiRA』のコンセプトや収録曲の選考基準などについて教えていただけますか?

YURiKA 今回、アルバムについてはゼロから考え直しました。まず、収録するのはアニソンだけで、ゲームの主題歌や挿入歌、オリジナル曲は入れないことにしたんです。このアルバムで私を知ってくれる方から、5年間ずっと応援してくれている方まで、色々な方に聴いてもらうことを第一に考えて、「YURiKAってこういう人」とわかるようなものにもしたかったので、“アニソンシンガー”であるYURiKAの1stアルバムというところを意識しました。かといって、アニメ主題歌ではない新曲を適当に扱っているわけじゃなくて、1曲1曲真剣に向き合っていることも伝えたかったんです。私、“全曲主役”って言っているんですよね(笑)。なので、実は新曲の3曲を並べると“時系列”にもなっています。

――“時系列”というのは?

YURiKA アニソンシンガーになる前から今に至るまでのYURiKAを表しているんですよ。まず「Key to my next gate」には“2020年くらいまでの私”が込められていて。なので2番のサビに入っている「OK!」は私が出たアニサマ(「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」)のタイトルからきていますし、『リトルウィッチアカデミア』にちなんで“魔法”という言葉も入っているし。楽曲も、アニソンシンガーとして走り始めたときの私を連想させるような、前向きでキラキラしたものを込めた曲になっています。

水野 作詞の霜月はるかさんにも、「ゲームの主人公のYURiKA」を想定してもらいました。ただし、ゲームでいうところの「トゥルーエンド」ではなくて「キャラエンド」を、というイメージでお願いしまして。

YURiKA そう。そのルートまではハッピーなんです(笑)。だけど、そこからトゥルーエンドに行くまでに1回落ちるんですね。その部分をZAQさんに書いていただいたのが、2曲目の新曲「Crave」です。先ほどお話しした、挫折の中でもがくような姿を歌詞に閉じこめてもらいました。そして、もう1つの新曲「パーソナリティ」が、もがいた時期を経たあとの今の私に当てはまる曲なんです。これは、『リトルウィッチアカデミア』のときに出会ってから切磋琢磨してきた大原ゆい子さんに作曲していただき、私が作詞をしました。

――アルバムの1曲目にはインスト曲として「MAGICAL FESTA」も収録されていますね。

YURiKA この曲もエモいんですよ! ライブの入場曲になるようなインストを1曲目に入れたい、とお話ししてできた曲です。タイトルも『リトルウィッチアカデミア』にかけたものですし、編曲してくださった吉田 穣さんが歴代の『リトルウィッチアカデミア』曲のオマージュを散りばめてもくれました。

――その方向性になった、きっかけのようなものはあったんでしょうか?

YURiKA 今年の5月に秋葉原UDXで、アニメミライ版『リトルウィッチアカデミア』と『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』が上映されたんですけど、そこに私と吉田さんとゆい子さんの3人で観に行ったんですよ。その時点では、アルバムの話や「インスト曲を作りたい」という考えがあったものの、まだ明確なイメージはなかったんですね。でも、作中でアッコが「MAGICAL FESTA」というシャリオのショーのポスターをバーン! と貼ったのを見て、「インスト曲、『MAGICAL FESTA』っていう曲にします!」ってその場で言ったんです。それを叶えてくださったんだと思います(笑)。

水野 あと、「ROMA☆KiRA」はMVを日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)で撮ったんですよ。それはなぜかというと、明言はされていませんけど、シャリオのショーってどう見ても日比谷の野音でやっているからで。

YURiKA 私にとっての最初と今が繋がる、というMVにしたかったんですよね。もちろん単体の曲としても聴いてもらえるようになってはいますけど、『リトルウィッチアカデミア』のときから聴いてくれていた人には、別の意味も感じてもらえるかもしれません。



――新曲それぞれを手がけたクリエイター陣も、YURiKAさんを知る人にとっては納得の布陣となっています。「Key to my next gate」はKeyの折戸伸治さんが作曲で。

YURiKA 私の脳内では、「絶対ここでセリフが入ってくる!」みたいな、この曲を使ったゲームのOP映像ができています(笑)。そういうイマジネーションが膨らんじゃうような、イントロがかかった瞬間に「あー!」って頭抱えちゃうような曲ですね。しかも、“鍵っ子”なら誰もが一度は通る、折戸伸治さんの曲を初めて歌えたんですよ! 本当にダメ元でお願いしたんですけど、「なんとかします」と快諾してくださって……すごくありがたいお話でした。

水野 折戸さんには楽器のレコーディングにまでわざわざ来ていただけた上、2年ぶりにTwitterを動かして告知までしてくださいました(笑)。

2年近くツイートせず放置してた…が、今日はつぶやく!もはやKeyの宣伝部長と言ってもいいくらい、Keyを愛してやまないYURiKAさんの1stアルバムの情報解禁です。微力ながら楽曲提供させて頂きました。みんなチェックするべし。https://t.co/ZIL8G4bp3i

— オリトシンジ (@Unisonlabel) September 5, 2022



――レコーディングには作詞の霜月はるかさんもいらっしゃったんですか?

YURiKA はい。基本的には水野さんがディレクションをしてくださったんですけど、きっと色々お話しされているんだろうな、ってブースの中から想像していました(笑)。あと、この曲で「うわぁ、鍵音楽だ……!」と感じてグッときたのは、Aメロとかに入っている英語のコーラスを聴いたときですね。私は歌詞として英語をしゃべっているんですけど、歌詞カードには記載されていないしそんなにはっきり聴こえないものなので、「これ、みんなが考察するやつだ!」と思って(笑)。

水野 それは折戸さんと霜月さんもおっしゃっていましたね。この2人はすごくたくさんのやり取りをしながら細かく作り込んでくださったので、僕自身も大変勉強になりました。

荒々しさ、渇望する思い、繋いだ絆が作り上げた「Crave」
――「Crave」は、YURiKAさんがデビュー前からファンだったというGRANRODEOの飯塚昌明さんが作曲を手がけています。

YURiKA 楽曲にこの3年間を楽曲に込めるにあたって、荒々しいものにしたかったんです。今までにも、田淵智也さんが作詞してくれた「baby baby flow」のようにロックめな曲はありましたけど、キーとか音的に「女の子のロック」ではあったので。

――作詞のZAQさんとは、接点はイメージできなかったので意外な人選でした。

YURiKA 「Crave」という単語には「渇望」という意味があるんですけど、そのニュアンスをイメージしたとき、ふとZAQさんが浮かびました。ZAQさんって自分の道を切り開かれている、オンリーワンの存在じゃないですか? そういうところが「Crave」でやりたかったことにすごくピッタリでしたし、飯塚さんの曲にZAQさんの歌詞という組み合わせで歌いたいと強く思ったんですよ。

水野 この曲に関しても、YURiKAさんの環境や心情を理解できる方に作詞してもらいたいという考えから「女性でシンガー」で、かつ職業作家的な視点を持っている方にお願いしたかったんです。そのとき、どこかの現場でZAQさんが「作家としても曲をたくさん書きたい」と話されていたのを思い出しました。

――この曲のレコーディングで印象に残ったことはありましたか? ZAQさんの仮歌をかなり聴き込んでラップをものにしようとしていたと聞きました。

YURiKA そうなんですよ。でも私、楽器のレコーディングにお邪魔したときに、「こんな機会はないから」ということで、「仮歌を歌っていいですか……?」とお願いしまして(笑)。ZAQさんの仮歌はあっても私の音源ってなかったんですよ。なので、皆さんが音チェックで最初に合わせるときに1回だけ、飯塚さんのギター、瀧田(イサム)さんのベース、SHiNさんのドラムという編成で歌わせていただいて。「私以外GRANRODEOじゃん…」と思ってました(笑)。言ってみて良かったです。飯塚さんに楽曲をお願いするというのもダメ元だったんですけど。

水野 ただ、飯塚さんにお願いしたいとYURiKAさんが言い出したとき、事務所さんに知り合いはいたけどそこまで深い関係ではなかったので、「ハードルが高いかも」と思ったんです。そんなときに話を繋いでくださったのが、ジョイまっくすポコさんだったんです。

YURiKA ジョイさんとは、「THE CATCH」というラジオ番組でパーソナリティを担当しているときに「YURiKAちゃんのラジオが好きで、聴いてるよ」と声をかけていただいたことがきっかけで仲良くなったんです。私からしたらジョイさんこそ、「君のぞらじお」で存在を知った方なんですけど(笑)。以前のアルバムの話がなくなったタイミングは「THE CATCH」の担当終了とも重なっていたんですが、そこからキツかった3年間は、ジョイさんをはじめ、変わらずずっと好きだったものやミュージシャンの方たちが助けてくれた期間だったなと思います。


「パーソナリティ」と、このアルバムで“一番言いたかったこと”
――新曲3曲目の「パーソナリティ」は、そんなYURiKAさんにとって大切な存在である「ラジオ」がモチーフになっていますが、作曲を担当する大原ゆい子さんにはどのような楽曲をリクエストをされたのでしょうか?

YURiKA 「Aメロで始まり、最後もAメロで終わるものにしたい」というお話はしました。それは、ラジオのOPトークとEDトークをイメージしてのアイデアなんですよ。元々はサビで終わる曲だったんですけど、ラジオってEDトークがあって「また来週!」ってなるじゃないですか? だから、エンディングがないと不自然だなと思って、同じメロディにしてもらったんです。私を支えてくれたラジオがテーマになっている、ということで編曲の吉田さんも冒頭に時報を入れてくれています。

水野 歌詞の字数を多くしたいから、メロの玉数(=音符)を普段作っている曲よりも多めにしたい、というのも大原さんにお願いしました。あと実は、楽曲制作も大原ゆい子さんのチームが手がけているんです。元々、YURiKAチームと顔ぶれが近い面々なので気づいた方は少ないと思うんですけど(笑)。それは、YURiKAさんが「大好き!」と言い続けてきたものと繋がりのある2曲(「Key to my next gate」「Crave」)があり、そこからのストーリーを帰結させるには、この5年間をほとんど同じミュージシャンやエンジニアと一緒に近くで見ていた大原さんの曲が絶対に必要だと思いました。大原さんとそのサウンドチームからのプレゼント、というところですね。

YURiKA そもそも「誰に曲をお願いしたい?」という話があったとき、私も「ゆい子さんには絶対やってほしい」という気持ちがありました。

水野 苦楽をともにしてきたメンバーと作る1曲、が欲しかったんですよね。なのでYURiKAさんにも「歌詞を書いてみない?」と言いました。YURiKAさんは歌詞を書くのがすごくうまいんですよ。ラジオというテーマを出してきたときもすごく面白いと思いましたし、しかも一瞬で書いたよね?

YURiKA はい。1日もかからなかったはずです(笑)。

――大好きなラジオをテーマにする上で、ポイントにしたことはありますか?

YURiKA まずは「おたより」みたいな、わかりやすくラジオっぽい言葉を入れたいと思っていました。2番に、お悩み相談をしてくる“いつもの常連さん”が登場するんですけど、それは「薄明パラレル」(シングル「鏡面の波」アーティスト盤収録のカップリング曲)の主人公、というギミックを仕込んでいます(笑)。「薄明の空 雲間に光が射す 」というフレーズも、それをほのめかしたものです。

水野 落ち着いた曲調に、ラジオの投稿とそれに対するアンサーを乗せたようでありながら、実は本人の心情もすごくストレートに表していて。そういうふうに、2つの意味を1つの作品の中に込められるというところに、作詞能力の高さを感じるんですよね。

YURiKA ホントですか!? 実はこの曲、このアルバムで私が一番言いたかったことを込めてもいるんです。

――それはどの部分ですか?

YURiKA 「掴めなかったものもたしかにあったけど 今は今で幸せ」 ですね。今の自分は、年に何作品ものアニメで主題歌を歌って、毎年フェスイベントに出てツアーもバンバンやって……みたいな、デビュー当時に思い描いた理想像では決してないんですよ。でも、そうではなくても、「自分らしい姿」のままで進んできて、そういう私だから出会えた作品もあって。この3年間はダメだったこともあったけど今は幸せ、ということをこのアルバムで一番伝えたかったんです。

水野 吉田さんと僕はこの曲を聴いていると、「よくぞこの歌詞を自分で書いたな!」ってすごく泣きそうになるんですよ。

YURiKA あはは(笑)。正直、書くのにも勇気はいりましたし、もし去年だったらまだ「幸せ」とは言えなかったと思います。

――「今、幸せ」と思える理由はなんですか?

YURiKA やっぱり、『ロマンティック・キラー』の主題歌を歌わせていただけたことは大きいです。だから、幸せなのは「新しい作品に出会えたから」だと思います! そこは胸を張って言えます。そして、それを喜んでくれるファンのみんな、待っていてくれた人がいてくれたことが幸せですね。

――この3年間と、今回のアルバムを経たYURiKAさんの、次なる一歩も気になるところです。

YURiKA 先ほどお話ししたように、アニソンシンガーとして活動することは簡単ではない、ただ待っているだけではダメ、という意識を最初のうちから持てていたおかげで、今後も自分が動けることを自分のやり方でやっていけばいいのかな、とは思います。アルバムが完成して、ツアーもできますけど、またこういう状況になることだってあるかもしれないですし。でも、今回のアルバムを通じて、「好きだ」って言い続けることは正しかったと実感することができました。

――『リトルウィッチアカデミア』にしても『ロマンティック・キラー』にしても、それからラジオ番組やKeyとのつながりや、YURiKAさんの「好き」という気持ちが今を引き寄せた気がします。

YURiKA それに「自分で動く」と言っても、周りの色んな人が一緒に「作ろう!」と協力してくれないと、形にはできないですから。だからこれからも「好き」を大事にして、(『ロマンティック・キラー』の)杏子が自分の好きなものを取り返していったように、私もひとつひとつ取り返していこう! と思っています。

●リリース情報
YURiKA
『KiRA☆KiRA』
2022年11月11日発売

【初回生産限定盤】
商品仕様:CD+Blu-ray(MUSIC VIDEO他収録) 三方背ボックス、24 ページブックレット付き
品番:RQBD-0003
価格:¥8,500(税抜)

【通常盤】
商品仕様:CD、24 ページブックレット付き
品番:RQCD-0003
価格:¥3,000(税抜)

<収録曲>
1. MAGICAL FESTA(inst)
2. ROMA☆KiRA(Netflix シリーズ『ロマンティック・キラー』OPテーマ)
3. Shiny Ray(TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』OPテーマ)
4. ふたりの羽根(TVアニメ『はねバド!』OPテーマ)
5. Key to my next gate ※新曲
6. 鏡面の波(TVアニメ『宝石の国』OPテーマ)
7. CRAZY GONNA CRAZY(TVアニメ『アニマエール!』挿入歌)
8. じょいふる(TVアニメ『アニマエール!』挿入歌)
9. ミラクルステップ(TVアニメ『怪人開発部の黒井津さん』挿入歌)
10. Crave ※新曲
11. 眠れる本能(TVアニメ『BEASTARS』EDテーマ)
12. マーブル(TVアニメ『BEASTARS』EDテーマ)
13. 月に浮かぶ物語(TVアニメ『BEASTARS』EDテーマ)
14. Le zoo(TVアニメ『BEASTARS』EDテーマ)
15. パーソナリティ ※新曲
16. MIND CONDUCTOR(TVアニメ『リトルウィッチアカデミア』第2クールOPテーマ)

関連リンク
YURiKA 公式サイト
https://www.yu-ri-ka.com/

YURiKA デビュー5周年特設サイト
https://www.yu-ri-ka.com/kirakira/

YURiKA 公式Twitter
https://twitter.com/_yurika29_
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