今年で「マヴラブ」から数えてCDデビュー20周年を迎え、来年には「Preious Memories」のリリースからアニソンシンガーとしても20周年を迎える栗林みな実。YouTubeチャンネルやオフィシャルファンコミュニティの開設などで意欲的な活動を見せているが、楽曲に関してもそのスピリッツが伺えるシングルが今作である。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
――今回、TVアニメ『不徳のギルド』のエンディングテーマ「シュガー・シュガー・スパイス」を歌われました。歌唱のみというケースはこれまでもありましたが、今回はどのような経緯でそこに至ったのか教えていただけますか?
栗林みな実 まず、こういう作品があって……という話から始まり、どういうふうに主題歌を作っていくかも含めて相談をいただきました。それで私からは三好(啓太)さんに作ってほしいとリクエストし、それで進んでいきました。
――栗林さんが作詞曲を手がけるかどうかの判断も委ねられていたわけですね。そういうことは多いのでしょうか?
栗林 ここ何年間かはそんな感じですかね。私が(詞や曲を)書くときは自分から作らせてくださいと言います。
――今回、三好さんにお願いした理由は?
栗林 理由は、去年出した「Just the truth」のカップリング曲「clear」で編曲をお願いしたとき、三好さんからアニソンがすごく好きだと聞いたんですね。そのときにすごく素敵なアレンジをいただいたので、「いつかアニメの曲を作るときにお願いできたら」とずっと思っていました。今回のお話をいただいたとき、華やかな世界観を持っている方だとわかっていたので、お名前を挙げさせてもらいました。
――ということは、『不徳のギルド』に対して「華やか」というイメージが浮かんだんですね。
栗林 そうですね。
――アニメサイドからはどのようなオーダーがありましたか?
栗林 なんて書いてあったかな? 文章でいただいたんですけど、ショーとかミュージカルといった雰囲気の言葉が書いてあったと思います。
――作詞もほかの方に書いてもらうというのが栗林さんの意向だったんですか?
栗林 はい。歌詞もお願いしたいとは言っていました。で、候補を3人くらいいただいて、歌詞を書いた作品も見させてもらった中から「この人がいいです」みたいな感じで。かわいい歌詞をすごく素敵に書いている方だったので、作品に合っていると思ったんですよね。
――栗林さんとしては、今回の楽曲はどのような意識で歌いましたか?
栗林 「とにかく声を明るい感じにしてやるのがいいのかなぁ」と思ってやりました。
――「明るい感じ」で歌うというのは得意というか、栗林さんにとってど真ん中のイメージがあります。
栗林 そうなんですかね。私の中でのアニソンシンガーって、いろいろな種類をその都度出している職業という感じがするので、自分の真ん中がどこかはイメージできないんですよね。
――三好さんにオファーした段階で、楽曲が自分の引き出しに合致するようなイメージはありましたか?
栗林 ミュージカルっぽい、ショーっぽいというところで、今までになかったものになるだろうな、ということは思っていました。
――楽曲をいただいたあと、練習しながらどんなことを思っていました?
栗林 とりあえず「歌いこなす」ことが前提としてあるんですけど、テンポや拍子が結構変わっていく曲なので、そこの切り替えが自然にできないといけないな、というのはありました。変わっているんだけど変わっていないように、「自然に」聴こえるようなところまでもっていく、ということがレコーディング前までにできないといけないと思っていました。
――そこまでもっていくのは難しかったですか?
栗林 難しかったですね。拍子が変わるだけならまだしもテンポも変わるので。そうするとノリが難しいですよね。感覚的につっかかる感じがするというか。
――急にブレーキかけられたような?
栗林 そうです。そこに対して耳を慣らす必要がありましたね。
――急にワルツになるところですよね。
栗林 そうですそうです。
――自分がそのリズムで歌えるかどうか、動けるかどうかという。それをどうやって体に染み込ませたんですか?
栗林 もう慣れです。慣れるしかない。
――回数をこなして練習するしかない、と。練習では頭の中でカウントをとるんですか?
栗林 最初はカウントしていたんですけど、すごく難しいので覚えるしかないんですよ。覚えちゃったらそれしかなくなりますからね。
――普段歌うときはカウントを数えながら? メロディで覚えてしまうタイプではなく。
栗林 カウントをとっています。あんまりメロディだけで音楽をとらえていないですね。タテ(のリズム)で考えていますけど、でも今回は、あまり深く考えない方が逆にいい曲かな、と思いましたね。
――今も体で覚えたもので歌っている感覚ですか?
栗林 それが最近、色々なところでこの曲を歌うことがあったんですけど、やっぱりクリックを聞いたほうがいいと思ったんですよね。バンドさんとやったとき、人数が多いとテンポの取り方がそれぞれ違っているのですごく難しかったです。リハのときは、本番ではクリックはなくてもいいかと思いながら練習していたんですけど、やっぱりあったほうがいいと思いました。人間が演奏するのは大変な曲かもしれないです。
――そのときは収録だったんですか? それとも生放送?
栗林 収録でした。ライブだったらノリで全然やっちゃってもいいと思うんですけど、やっぱり収録ならちゃんと収めたほうがいいのであったほうがいいかと思いました。
――にしても、いい曲ですよね。
栗林 本当にいい曲だと思います。曲も良いですけど歌詞もとてもいいと思いました。言葉が本当にかわいらしいというか、自分では絶対思いつかない世界観なので。楽曲もそうですけど。だから、そこを表現するのがすごく楽しかったです。
――曲に関しても、ですか? 曲の構成とか?
栗林 あ、構成はホントそうですね。「こうしましょう」と言われたらそう作るけど自分からはやらないと思います。
――作らない理由はあるんでしょうか?
栗林 なんでだろう? 5年に1回ぐらいでいいかな、って(笑)。選択肢としてないわけではないですけど。
――(笑)。ほかの選択肢が優先されるということですよね。主題歌らしさでしょうか? 先ほどもエンディングなら許されるという話でしたが。
栗林 そうですね。アルバムの曲とかでたまーにならやろうかと思いますけど。
――歌詞の点で、自分から出てこないところというのは?
栗林 いや、1文字も自分が書きそうなものがないです(笑)。だから本当に楽しいと思いました。
――『セーラームーン』などの少女漫画系アニメが好きな栗林さんでも?
栗林 好きですけど、自分が書いた歌詞にこんなにかわいい世界観のものはたぶん1曲もないです(笑)。
――意外ですね。ただ、ZAQさんによれば、栗林さんが書く歌詞は「慈愛に満ちている」そうです。
栗林 そうなんですか? ありがたいですね(笑)。
――かわいい歌詞を書きたい気持ちはありますか? 仮に、そういうアニメの主題歌をオファーされるとか。
栗林 例えば、動物が出てくるアニメだったら「かわいい」もできる気がするんですけど……。
――それは慈愛の世界だからですね。
栗林 そっか(笑)。
――でも、自分の中にない世界を体感するのは楽しいですよね。
栗林 そうですね。私の中にないというだけではなく、現実にはないような世界だったので、難しいことを考えずに楽しめましたね。完全に癒しの世界だと思います、これは。心が楽でした。歌っていて、「運命」とか「戦え」とか「あきらめないで」とか、そういうものがなかったので(笑)。
――肩に力が入ることなく(笑)。
栗林 そう、すごく楽しく向きあえて面白かったです、色々と。
――「色々と」というのは?
栗林 撮影とかも含めて面白かったんですよね。MVではお芝居みたいなことをしたんですよ。役者さんの女の子と一緒に。ケーキとかお菓子もたくさん出てくるし。
――演技することに抵抗はなかったですか?
栗林 すごく恥ずかしかったですけど、「やらないと終わらないからちゃんとしよう」って気持ちですよね。しゃべってはいなくて動きだけなんですけど、ほとんど演技しているんですよ。歌いながらではなくて。結構いろいろなシーンを撮ったし、時間内にちゃんと終わるかなって不安でドキドキでしたね。でも面白かったです。いつも私のことを応援してくれてる人達にとっても新鮮だと思いますね。「今回はこういうMVなんだ」とは絶対に思うだろうから。
――栗林さんにとってもファンにとっても初体験なMVですね。
栗林 たぶん、楽しんで観てもらえるんじゃないかと思います。この曲にぴったりな、色がきれいでかわいい世界観に仕上がっているので。
何か新しいことを提案されてものっかれるように
――カップリング曲もまた新しいところへの挑戦を感じました。前回、「WITH」のカップリング曲「Firewood」で組んだ伊根さん同様、今回の柊マグネタイトさんもボカロPの方ですね。そのあたりの意図というのは?
栗林 「WITH」のときに、シングル2枚分はボカロPの方 にお願いしようという話は出ていました。柊さんは前回の伊根さんに書いていただいたとき、その候補としてあげていただいた中の1人なんです。
――では、柊さんも栗林さんのセレクトで?
栗林 そうです。そのとき私が好きだと思って伝えていて。なので、すごく好きな世界観ということはわかっていました。
――ボカロPの方が作る歌を2回連続で歌ったことで感じる、ボカロ出身の方の特徴みたいなものはありますか? 大仰な言い方ですが。
栗林 やっぱりリズムですよね。歌詞とメロディの重なり方が独特で、あの世界ならではのものがあるとはすごく思います。例えば、曲をいただいて歌詞を追っていったとき、絶対に1回では明確に理解できないところが共通点というか。
――理解できないですか?
栗林 歌詞とメロディの両方を重ねるのが難しいですね。要は、文字のままに歌っていなくて、英語の歌をうたうのに少し近い感覚なんですよね。次の文字と1個になっているとか。区切り方もこのジャンルの区切り方になっていますよね。
――ラップのような感覚でしょうか。その単語の区切りにとらわれない。
栗林 そうですね、ラップに近いですね。「きっと」という言葉なら「きっと」というメロディの流れになるのが自然かなと思うんですけど、あまりそうなっていないというか。
――「ささやき、と だからき、っと」みたいに。
栗林 そうですね。歌詞カードがこうやって存在していても、実際に声として鳴っているものは別の言い方をしているときがあるんですよ。この曲はわりと文字のままに近かったんですけど。だから「複雑だな」って思います。わからないですけどね。単純なボカロPの方もいるかもしれない。でも、伊根さんの曲もそうですよね。書かれている文字と歌っている文字はちょっと違っていて……でもそこがかっこいいんだと思います。最初に聴いたとき、めちゃくちゃかっこいいと思いました。歌えちゃうと楽しいですね。
――一番苦労したところと一番好きなところは?
栗林 苦労というか、サビは結構言葉がつまっているので、普通に歌として難しかったですね。一番好きなところはこの2行の歌詞、“どれだけ遠くにいても繋がってる信じてて”って部分がすごくいいと思いました。歌の世界観の中でここはすごく純粋性があって、この部分があることによって曲全体の色がちょっと変わるんですよね。
――言っている内容もシンプルですし、人のぬくもりを感じさせるので、ボカロ曲っぽさがなくなる気がしました。
栗林 あぁ。たしかにそんな感じですね。ここはすごくいいと思いましたね。
――ボカロPとのタッグだけではなく、YouTubeチャンネルやオフィシャルファンコミュニティなど、新たな活動が増えていますね。自身でもそういった意識は強いですか?
栗林 新しいことが何かあったときに、「とにかくやってみよう」という気持ちでは生きている感じですね。思いついたり思いつかなかったりというのがあるから、自分が何をしたいかとははっきりと表現できないですけど、何かあればやりたいし、それを意思としてちゃんと伝えていきたいとは思いますね。
――YouTubeに動画を上げ始めたことで何か変化はありましたか?
栗林 アカペラカバーの動画をアップしているんですけど、コーラスアレンジの仕方とかがだんだんわかってきましたね。アカペラを録るときに、コーラスのハモを重ねる重ねないとか、その分量とか、重ねるコードをどうするか、どのタイミングでどう入れていくか、そういった流れの作り方は作曲に近いと思いました。原曲があるから、0から1を作るわけではないですけど、どこで良しとするかも含めて。……そう、歌っているよりも考えている時間のほうが長いんですよね。
――始めてみたら意外と歌う以外の部分が多かった感覚ですか?
栗林 そうですね。歌うほうは、決まってしまえばあとは声を入れるだけなので。複雑な曲の場合は結構時間かかりますし、でも完成したらそのぶん面白いです。
――YouTubeを始めたことで勉強になった部分もある?
栗林 そう言われれば……。コーラスってメインのレコーディングよりも気を使う部分ではあるので、いつも緊張感がちょっとあるんですけど、それが減ったところはありますね。いい訓練にもなっていると思います。
――なかなかレコーディング以外でコーラスする機会はないですしね。
栗林 そうですね、歌い方だけでも(コーラスの)空気感が変わるんですよね。それは私の中ではまだできていないということでもあるので、本当に「練習」という感じですね。まだ7曲くらいしか録っていないんですけど、自分の声とそんなに向き合うこともなかったですから、練習できていていいなって思いますね、
――やはり、いろいろなところ、いろいろなタイミングで新しい発見と出会えるものですね。
栗林 本当にそうですね。デビューから21年くらいになりますけど、新しいことに出会えますね。ラジオ番組も始めたんですけど、1人でやったことがなかったのでそういうのも勉強になるというか。
――では、様々な活動を追いかけてほしいですね。アニソンを歌う栗林みな実をさらに楽しむためにも。
栗林 そうですね。そうしてもらえると嬉しいです(笑)。
●リリース情報
栗林みな実
TVアニメ『不徳のギルド』エンディングテーマ
「シュガー・シュガー・スパイス」
11月23日発売
【初回限定盤(CD+BD)】
品番:LACM-34325
価格:¥2,420(税込)
【通常盤】
品番:LACM-24325
価格:¥1,320(税込)
<CD>
1. シュガー・シュガー・スパイス
作詞:Mafuyu 作曲・編曲:三好啓太
2. イノセント
作詞・作曲・編曲:柊マグネタイト
3. シュガー・シュガー・スパイス (OFF VOCAL)
4. イノセント (OFF VOCAL)
<BD>
シュガー・シュガー・スパイス (Music Clip)
Making of シュガー・シュガー・スパイス
©河添太⼀/SQUARE ENIX・「不徳のギルド」製作委員会
関連リンク
栗林みな実オフィシャルサイト
http://kuribayashi-minami.jp
TVアニメ「不徳のギルド」公式サイト
https://futoku-no-anime.com
41枚目のシングルに達してなおシンガーとしての真価と未来を感じさせる1枚を前に、栗林みな実が自らの想いと意識をさらけ出す。
INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
――今回、TVアニメ『不徳のギルド』のエンディングテーマ「シュガー・シュガー・スパイス」を歌われました。歌唱のみというケースはこれまでもありましたが、今回はどのような経緯でそこに至ったのか教えていただけますか?
栗林みな実 まず、こういう作品があって……という話から始まり、どういうふうに主題歌を作っていくかも含めて相談をいただきました。それで私からは三好(啓太)さんに作ってほしいとリクエストし、それで進んでいきました。
――栗林さんが作詞曲を手がけるかどうかの判断も委ねられていたわけですね。そういうことは多いのでしょうか?
栗林 ここ何年間かはそんな感じですかね。私が(詞や曲を)書くときは自分から作らせてくださいと言います。
――今回、三好さんにお願いした理由は?
栗林 理由は、去年出した「Just the truth」のカップリング曲「clear」で編曲をお願いしたとき、三好さんからアニソンがすごく好きだと聞いたんですね。そのときにすごく素敵なアレンジをいただいたので、「いつかアニメの曲を作るときにお願いできたら」とずっと思っていました。今回のお話をいただいたとき、華やかな世界観を持っている方だとわかっていたので、お名前を挙げさせてもらいました。
――ということは、『不徳のギルド』に対して「華やか」というイメージが浮かんだんですね。
栗林 そうですね。
女の子がいっぱい出てきてかわいいイメージがなんとなく頭にありました。あとは、「エンディングなので自由度は高いかな」とは勝手に思っていました。オープニングですと、「アニメ側からお願いされたことに答えなきゃ」というイメージがすごく強いんですけど、エンディングならちょっと遊び心があっても許されるような感覚がありました。
――アニメサイドからはどのようなオーダーがありましたか?
栗林 なんて書いてあったかな? 文章でいただいたんですけど、ショーとかミュージカルといった雰囲気の言葉が書いてあったと思います。
――作詞もほかの方に書いてもらうというのが栗林さんの意向だったんですか?
栗林 はい。歌詞もお願いしたいとは言っていました。で、候補を3人くらいいただいて、歌詞を書いた作品も見させてもらった中から「この人がいいです」みたいな感じで。かわいい歌詞をすごく素敵に書いている方だったので、作品に合っていると思ったんですよね。
――栗林さんとしては、今回の楽曲はどのような意識で歌いましたか?
栗林 「とにかく声を明るい感じにしてやるのがいいのかなぁ」と思ってやりました。
――「明るい感じ」で歌うというのは得意というか、栗林さんにとってど真ん中のイメージがあります。
栗林 そうなんですかね。私の中でのアニソンシンガーって、いろいろな種類をその都度出している職業という感じがするので、自分の真ん中がどこかはイメージできないんですよね。
いくつかあるパターンの1つというか、「明るい」引き出しを開けた、という感覚ですね。
――三好さんにオファーした段階で、楽曲が自分の引き出しに合致するようなイメージはありましたか?
栗林 ミュージカルっぽい、ショーっぽいというところで、今までになかったものになるだろうな、ということは思っていました。
――楽曲をいただいたあと、練習しながらどんなことを思っていました?
栗林 とりあえず「歌いこなす」ことが前提としてあるんですけど、テンポや拍子が結構変わっていく曲なので、そこの切り替えが自然にできないといけないな、というのはありました。変わっているんだけど変わっていないように、「自然に」聴こえるようなところまでもっていく、ということがレコーディング前までにできないといけないと思っていました。
――そこまでもっていくのは難しかったですか?
栗林 難しかったですね。拍子が変わるだけならまだしもテンポも変わるので。そうするとノリが難しいですよね。感覚的につっかかる感じがするというか。
――急にブレーキかけられたような?
栗林 そうです。そこに対して耳を慣らす必要がありましたね。
――急にワルツになるところですよね。
栗林 そうですそうです。
最初と最後の方に2回あって、そこでは表現というよりもスポーツみたいな感覚でしたね。運動をするときの考え方のような。
――自分がそのリズムで歌えるかどうか、動けるかどうかという。それをどうやって体に染み込ませたんですか?
栗林 もう慣れです。慣れるしかない。
――回数をこなして練習するしかない、と。練習では頭の中でカウントをとるんですか?
栗林 最初はカウントしていたんですけど、すごく難しいので覚えるしかないんですよ。覚えちゃったらそれしかなくなりますからね。
――普段歌うときはカウントを数えながら? メロディで覚えてしまうタイプではなく。
栗林 カウントをとっています。あんまりメロディだけで音楽をとらえていないですね。タテ(のリズム)で考えていますけど、でも今回は、あまり深く考えない方が逆にいい曲かな、と思いましたね。
――今も体で覚えたもので歌っている感覚ですか?
栗林 それが最近、色々なところでこの曲を歌うことがあったんですけど、やっぱりクリックを聞いたほうがいいと思ったんですよね。バンドさんとやったとき、人数が多いとテンポの取り方がそれぞれ違っているのですごく難しかったです。リハのときは、本番ではクリックはなくてもいいかと思いながら練習していたんですけど、やっぱりあったほうがいいと思いました。人間が演奏するのは大変な曲かもしれないです。
――そのときは収録だったんですか? それとも生放送?
栗林 収録でした。ライブだったらノリで全然やっちゃってもいいと思うんですけど、やっぱり収録ならちゃんと収めたほうがいいのであったほうがいいかと思いました。
――にしても、いい曲ですよね。
栗林 本当にいい曲だと思います。曲も良いですけど歌詞もとてもいいと思いました。言葉が本当にかわいらしいというか、自分では絶対思いつかない世界観なので。楽曲もそうですけど。だから、そこを表現するのがすごく楽しかったです。
――曲に関しても、ですか? 曲の構成とか?
栗林 あ、構成はホントそうですね。「こうしましょう」と言われたらそう作るけど自分からはやらないと思います。
――作らない理由はあるんでしょうか?
栗林 なんでだろう? 5年に1回ぐらいでいいかな、って(笑)。選択肢としてないわけではないですけど。
――(笑)。ほかの選択肢が優先されるということですよね。主題歌らしさでしょうか? 先ほどもエンディングなら許されるという話でしたが。
栗林 そうですね。アルバムの曲とかでたまーにならやろうかと思いますけど。
――歌詞の点で、自分から出てこないところというのは?
栗林 いや、1文字も自分が書きそうなものがないです(笑)。だから本当に楽しいと思いました。
――『セーラームーン』などの少女漫画系アニメが好きな栗林さんでも?
栗林 好きですけど、自分が書いた歌詞にこんなにかわいい世界観のものはたぶん1曲もないです(笑)。
だからすごく嬉しかったですね。
――意外ですね。ただ、ZAQさんによれば、栗林さんが書く歌詞は「慈愛に満ちている」そうです。
栗林 そうなんですか? ありがたいですね(笑)。
――かわいい歌詞を書きたい気持ちはありますか? 仮に、そういうアニメの主題歌をオファーされるとか。
栗林 例えば、動物が出てくるアニメだったら「かわいい」もできる気がするんですけど……。
――それは慈愛の世界だからですね。
栗林 そっか(笑)。
――でも、自分の中にない世界を体感するのは楽しいですよね。
栗林 そうですね。私の中にないというだけではなく、現実にはないような世界だったので、難しいことを考えずに楽しめましたね。完全に癒しの世界だと思います、これは。心が楽でした。歌っていて、「運命」とか「戦え」とか「あきらめないで」とか、そういうものがなかったので(笑)。
――肩に力が入ることなく(笑)。
栗林 そう、すごく楽しく向きあえて面白かったです、色々と。
――「色々と」というのは?
栗林 撮影とかも含めて面白かったんですよね。MVではお芝居みたいなことをしたんですよ。役者さんの女の子と一緒に。ケーキとかお菓子もたくさん出てくるし。
――演技することに抵抗はなかったですか?
栗林 すごく恥ずかしかったですけど、「やらないと終わらないからちゃんとしよう」って気持ちですよね。しゃべってはいなくて動きだけなんですけど、ほとんど演技しているんですよ。歌いながらではなくて。結構いろいろなシーンを撮ったし、時間内にちゃんと終わるかなって不安でドキドキでしたね。でも面白かったです。いつも私のことを応援してくれてる人達にとっても新鮮だと思いますね。「今回はこういうMVなんだ」とは絶対に思うだろうから。
――栗林さんにとってもファンにとっても初体験なMVですね。
栗林 たぶん、楽しんで観てもらえるんじゃないかと思います。この曲にぴったりな、色がきれいでかわいい世界観に仕上がっているので。
何か新しいことを提案されてものっかれるように
――カップリング曲もまた新しいところへの挑戦を感じました。前回、「WITH」のカップリング曲「Firewood」で組んだ伊根さん同様、今回の柊マグネタイトさんもボカロPの方ですね。そのあたりの意図というのは?
栗林 「WITH」のときに、シングル2枚分はボカロPの方 にお願いしようという話は出ていました。柊さんは前回の伊根さんに書いていただいたとき、その候補としてあげていただいた中の1人なんです。
――では、柊さんも栗林さんのセレクトで?
栗林 そうです。そのとき私が好きだと思って伝えていて。なので、すごく好きな世界観ということはわかっていました。
――ボカロPの方が作る歌を2回連続で歌ったことで感じる、ボカロ出身の方の特徴みたいなものはありますか? 大仰な言い方ですが。
栗林 やっぱりリズムですよね。歌詞とメロディの重なり方が独特で、あの世界ならではのものがあるとはすごく思います。例えば、曲をいただいて歌詞を追っていったとき、絶対に1回では明確に理解できないところが共通点というか。
――理解できないですか?
栗林 歌詞とメロディの両方を重ねるのが難しいですね。要は、文字のままに歌っていなくて、英語の歌をうたうのに少し近い感覚なんですよね。次の文字と1個になっているとか。区切り方もこのジャンルの区切り方になっていますよね。
――ラップのような感覚でしょうか。その単語の区切りにとらわれない。
栗林 そうですね、ラップに近いですね。「きっと」という言葉なら「きっと」というメロディの流れになるのが自然かなと思うんですけど、あまりそうなっていないというか。
――「ささやき、と だからき、っと」みたいに。
栗林 そうですね。歌詞カードがこうやって存在していても、実際に声として鳴っているものは別の言い方をしているときがあるんですよ。この曲はわりと文字のままに近かったんですけど。だから「複雑だな」って思います。わからないですけどね。単純なボカロPの方もいるかもしれない。でも、伊根さんの曲もそうですよね。書かれている文字と歌っている文字はちょっと違っていて……でもそこがかっこいいんだと思います。最初に聴いたとき、めちゃくちゃかっこいいと思いました。歌えちゃうと楽しいですね。
――一番苦労したところと一番好きなところは?
栗林 苦労というか、サビは結構言葉がつまっているので、普通に歌として難しかったですね。一番好きなところはこの2行の歌詞、“どれだけ遠くにいても繋がってる信じてて”って部分がすごくいいと思いました。歌の世界観の中でここはすごく純粋性があって、この部分があることによって曲全体の色がちょっと変わるんですよね。
――言っている内容もシンプルですし、人のぬくもりを感じさせるので、ボカロ曲っぽさがなくなる気がしました。
栗林 あぁ。たしかにそんな感じですね。ここはすごくいいと思いましたね。
――ボカロPとのタッグだけではなく、YouTubeチャンネルやオフィシャルファンコミュニティなど、新たな活動が増えていますね。自身でもそういった意識は強いですか?
栗林 新しいことが何かあったときに、「とにかくやってみよう」という気持ちでは生きている感じですね。思いついたり思いつかなかったりというのがあるから、自分が何をしたいかとははっきりと表現できないですけど、何かあればやりたいし、それを意思としてちゃんと伝えていきたいとは思いますね。
――YouTubeに動画を上げ始めたことで何か変化はありましたか?
栗林 アカペラカバーの動画をアップしているんですけど、コーラスアレンジの仕方とかがだんだんわかってきましたね。アカペラを録るときに、コーラスのハモを重ねる重ねないとか、その分量とか、重ねるコードをどうするか、どのタイミングでどう入れていくか、そういった流れの作り方は作曲に近いと思いました。原曲があるから、0から1を作るわけではないですけど、どこで良しとするかも含めて。……そう、歌っているよりも考えている時間のほうが長いんですよね。
――始めてみたら意外と歌う以外の部分が多かった感覚ですか?
栗林 そうですね。歌うほうは、決まってしまえばあとは声を入れるだけなので。複雑な曲の場合は結構時間かかりますし、でも完成したらそのぶん面白いです。
――YouTubeを始めたことで勉強になった部分もある?
栗林 そう言われれば……。コーラスってメインのレコーディングよりも気を使う部分ではあるので、いつも緊張感がちょっとあるんですけど、それが減ったところはありますね。いい訓練にもなっていると思います。
――なかなかレコーディング以外でコーラスする機会はないですしね。
栗林 そうですね、歌い方だけでも(コーラスの)空気感が変わるんですよね。それは私の中ではまだできていないということでもあるので、本当に「練習」という感じですね。まだ7曲くらいしか録っていないんですけど、自分の声とそんなに向き合うこともなかったですから、練習できていていいなって思いますね、
――やはり、いろいろなところ、いろいろなタイミングで新しい発見と出会えるものですね。
栗林 本当にそうですね。デビューから21年くらいになりますけど、新しいことに出会えますね。ラジオ番組も始めたんですけど、1人でやったことがなかったのでそういうのも勉強になるというか。
――では、様々な活動を追いかけてほしいですね。アニソンを歌う栗林みな実をさらに楽しむためにも。
栗林 そうですね。そうしてもらえると嬉しいです(笑)。
●リリース情報
栗林みな実
TVアニメ『不徳のギルド』エンディングテーマ
「シュガー・シュガー・スパイス」
11月23日発売
【初回限定盤(CD+BD)】
品番:LACM-34325
価格:¥2,420(税込)
【通常盤】
品番:LACM-24325
価格:¥1,320(税込)
<CD>
1. シュガー・シュガー・スパイス
作詞:Mafuyu 作曲・編曲:三好啓太
2. イノセント
作詞・作曲・編曲:柊マグネタイト
3. シュガー・シュガー・スパイス (OFF VOCAL)
4. イノセント (OFF VOCAL)
<BD>
シュガー・シュガー・スパイス (Music Clip)
Making of シュガー・シュガー・スパイス
©河添太⼀/SQUARE ENIX・「不徳のギルド」製作委員会
関連リンク
栗林みな実オフィシャルサイト
http://kuribayashi-minami.jp
TVアニメ「不徳のギルド」公式サイト
https://futoku-no-anime.com
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