声優・アーティストの和氣あず未が、コンセプトアルバム『STAY BEAUTIFUL STAY BEAUTIFUL』を11月30日にリリースした。本作のテーマは“青春のきらめき”。「君と雷鳴の道を」歩みだした男性の恋物語を90年代のロックテイストと透明感あふれる歌声で届けていく。しかし主人公の蒼き人生は一転。和氣自身も驚く結末へと辿り着く。井上哲也ディレクターを交え、コンセプトアルバム『STAY BEAUTIFUL STAY BEAUTIFUL』の物語を辿っていった。
INTERVIEW & TEXT BY 逆井マリ
自分らしく歌えたアコースティック
――まずは9月に開催された“和氣あず未 アコースティックライブ2022 ~品川フォークジャンボリー~”のご感想から教えてください。
和氣あず未 去年3月に行ったアコースティックミニライブがすごく楽しくて。またアコースティックライブをやりたい!と思っていました。当日はもう本当に楽しくって。普段は明るく楽しい、バンドでの演奏の曲が多いんですけど、アコースティックだとより切なさや青春感が出て、聴き方や解釈が変わってくるような気がしています。私自身の発見にもなりましたし、お客さんからも「心が安らかになった」という声をいただきました(笑)。
――中野サンプラザの1stライブとはまた違う雰囲気だったんですね。
和氣 あのときはド緊張していて(笑)。すごく楽しかったんですけど「よし、やるぞ!」って気持ちが強かったんです。今回のアコースティックライブに関しては「自分のペースでのほほんとやろう」って思っていたので、アットホームな雰囲気でした。(ディレクターの)井上さんがギターを弾いてくれたんです。しかもバンマスだったので心強かったです。
井上哲也 弾かせていただきました(笑)。
和氣 井上さんと浅井 真さんがギターを、畠中文子さんがキーボードを弾いてくれて。
――アーティスト活動ももうすぐ3年目。さきほど和氣さんから「自分らしく」という言葉がありましたが、アーティスト活動の中で気づいた自分らしさというとどうでしょう?
和氣 やっぱり私ってかっこつけられない人間なんだなって思いました。アーティストさんって……アーティストさんって感じがするじゃないですか(笑)。
――あははは、おっしゃりたいことはわかります(笑)。和氣さんもアーティストですけども。
和氣 アーティストさんではあるんですけども(笑)。私のイメージするアーティストさんは、ボーカルの方がリーダーになって、バンドメンバーと音を奏でていくって感じがするんです。でも私はバンドの人たちの後ろにひゅっといる感じ(笑)。私はアーティストらしいパフォーマンスというのはできないんです。かっこつけるとか、酔いしれるってことがどうしてもできなくて。
――和氣さんはいつも客観的にご自身を捉えていますよね。頭の上あたりにミニあじゅじゅ的な存在がいつも俯瞰で見ている感じというか。
和氣 まさにそうです! そういう自分が常にいるんです(笑)。人と会話しているときも、もう1人の自分が「ちょっと、何言ってるかわからないヨ~!」とか言ってて(笑)。だから客観的に見て「かっこつけてる自分ってなんか似合わないよ~」って思ってしまいます。じゃあ私らしいってなんだろう……って考えたときに、親にもよく言われるんですけど「なんも考えてないところ」なのかなと(笑)。へなへななMCをしても「あじゅじゅらしいライブだったね」って言ってもらえるので、「これでいいんだな、マイペースらしさを大切にしていこう」って改めて思いました。
――お隣にいらっしゃる井上さんが頷かれていましたが……。
井上 僕もそこが和氣さんのいいところだと思っているんですよね。マイペースで、冷静で。
和氣 ありがとうございます!(笑)。これからもマイペースに頑張ります!
「曲をもらうたびにドキドキしていました」
――さきほどアコースティックライブのお話の中に“青春”というワードがありましたが、まさに今作は青春がテーマなんですよね。
和氣 はい。今回は青春のきらめきがテーマになっています。
――コンセプチュアルなアルバムは2作目になります。そもそもどういった経緯でコンセプトアルバムをリリースされることになったんでしょう?
和氣 デビューしてからシングル4枚、全曲録りおろしのアルバム1枚が出ていて。コンセプトアルバムは『あじゅじゅと夜と音楽と』に続いて2枚目になります。気づいたら36曲になりました!シングルもアルバムもいつもテーマがあるんですが……たしかになんでコンセプト・アルバムをリリースすることになったんだろう? (井上さんに向かって)どうなんですかね?(笑)。
井上 シングルもですけど、アルバム『超革命的恋する日常』もコンセプチュアルな作品で。「今回はこういうテーマで」とお願いすると、和氣さんはしっかりとキャラクターを作ってきてくれるんですよね。コンセプトがあるものが映えるなと思っていました。今作は特にコンセプチュアルですよね。
和氣 今までもテーマはありましたが、今作は1人の主人公の男の子の曲なので。より“作品”感があるなと思っています。
――今作を聴いて『STAY BEAUTIFUL STAY BEAUTIFUL』という映画を見ているような気持ちになりました。でも作家の方はそれぞれ違って、サウンド感もジャンルレスで。そこがすごいなと。
和氣 私もそれがすごいなと思って、井上さんに「作詞は前の方が作ったものを受け取ってから書かれているんですか?」と聞いたら「違う」と。「へえ~!」って。
――そしたら井上さんが具体的なテーマを決めて、それを作家にオーダーするという流れだったんでしょうか。
井上 そうですね。まず『STAY BEAUTIFUL STAY BEAUTIFUL』というタイトルを和氣さんに相談して。美しいままで生きようと思っている主人公が青春時代を振り返るようなアルバムにしようと思い、各曲のプロットを考えていました。でも和氣さんには1曲ずつ、収録曲順に渡していたんです。演じる方には、この男の子の将来が分からないまま歌ってほしいなと思っていました。
――じゃあ歌い終わってから次の曲を渡すという感じだったんですね。
和氣 本当にそんな感じです。曲をもらうたびにドキドキしていました!
井上 さきほど映画というお言葉をいただきましたが、まさに映画を意識していて。『STAY BEAUTIFUL STAY BEAUTIFUL』というタイトルもそれを意識しています。最初は若くて、全能感があって無敵で「ずっと美しくいるためなら どうなってもいいよ」という気概で人生を始めた主人公に、紆余曲折があって……という。プロットの段階で細かい設定は決め込んではいたんですけど、1曲ずつ作っていったので、どんどんと変化していって。最終的な“青春のきらめき”というテーマは後半に決めています。
男性のほうが繊細で脆い
――収録曲を順に受け取って、和氣さんはどのような印象を受けました?
和氣 1曲目「君と雷鳴の道を」、2曲目「僕があじゅじゅと恋をする」を聴いたときは“青春しているなあ”という感じがしていました。青春って友情や夢、恋愛……と、色々な種類があると思うんですけど、1曲目から主人公には“君”という存在がいて。“君と作っていく青春”というイメージでした。3曲目「永遠を一歩降りて」から少し雰囲気が変わって、それ以降は悲しくなっていってしまうんですが……(笑)。でもそれも含めて、忘れたくない思い出なんだろうなって。聴いてくれた方も共感したり、ドラマや映画を見ているような気分になれるんじゃないかなと。
――和氣さんとしても演じるような感覚でした?
和氣 はい。いつもだったら曲ごとに主人公が変わっていくので、それぞれの主人公の感情を想像するのが面白いんですけど、今回はずっと1人の男の子。もとの性格が変わらないのが面白いし、男性だからこそ一途なのかなぁ、と想像していました。今までは女性視点の恋愛曲を歌うことが多かったので、発見もたくさんありました。
――「僕があじゅじゅと恋をする」に関しては、タイトル通り僕目線ではあるのですが、ある意味二役というか(笑)。「いそげあじゅじゅ」の作詞をされた、金子麻友美さんが曲を手がけられていますね。
和氣 井上さんから「タイトルに“あじゅじゅ”って使っていい?」と聞かれて「ぜひ~!」って(笑)。ここで言う“あじゅじゅ”は、彼にとっての“君”です。1曲目、2曲目は自分と君とで、ふたりだけの道を切り開いて進んでいこうぜ!って夢のある曲になっていて。「僕があじゅじゅと恋をする」はちょっと調子に乗ってるというか(笑)。「自分たち最強」な時期なんですよね。だから“ずっと美しくいるためなら どうなってもいいよ 何も始まってなくて 何も終わってない”という言葉があって。
――「僕があじゅじゅと恋をする」は青春パンク風ですよね。青春の勢いとパンクが、絶妙にマッチしているなと。
和氣 私も思っていました! むしろ最初は全部パンク・ロックのアルバムにしようかってお話もあったんです。
井上 そうなんです。最初は和氣さんとパンク・ロックのアルバムを作ろうかって話をしていました。でも「僕があじゅじゅと恋をする」が生まれてから、彼の物語が動きはじめた感じがあって。「永遠を一歩降りて」で作り方が変わっていきました。僕自身も曲に心を動かされましたね。
和氣 3曲目「永遠を一歩降りて」に入るときに井上さんから「大恋愛になるかもしれない」って言われていたんです(笑)。パンク・ロックから大恋愛に変わることがあるんだ!と驚きましたが、人生なにがあるか分からないものですし、ブレはまったく感じなかったです。
――「永遠を一歩降りて」はなんだかノスタルジックですよね。
和氣 そうなんですよね。3曲目の歌詞は温かくて。月日を重ねたんだなと思いました。実は年齢感もそれぞれの曲にあるんです。
――具体的に決められていたんですか?
和氣 はい。1曲目が19歳、2曲目が21歳、3曲目が22歳。だから「永遠を一歩降りて」を聴いたとき、私としては「この1年でこんなに大人になったんだ!」って思いました。レコーディングのときには、慈愛に満ちた感じで歌ったら「もうちょっとその中に切なさや、なんとなく残る不安を入れて欲しい」というディレクションを受けて。そのときは「なんでだろう?」「100%幸せじゃだめなのかな?」って思っていました。“永遠を一歩降りて待ち合わせよう”という言葉から始まるので、私はただ幸せなふたりに感じていました。でも井上さんにあとから聞いたところ、広い世界から一歩降りて、2人だけの世界になってしまったらしく……。
――そして4曲目「僕たちはいつもさよならと言っている」でまさかの展開に……。
和氣 突然の別れ。私自身驚きました。繭の中に2人だけになってしまったことで、逆にダメになってしまうんだなと。男の人は「俺たちの世界だけで十分だろ?」という感じだったかもしれないけど、女の人側は「広い世界を見たい」という気持ちがあったのかもしれません。男性側が気づいていなかっただけで、前々から少し気持ちが離れてしまっていたのかなという気もします。このときは24歳なんです。
――社会人になってるわけですね。
和氣 歌詞に“大人になった生活に何かが違ってしまったの”って言葉があったり、ミュージックビデオの中でもYシャツのボタンを掛け違えていたり……。社会人になってすれ違いが起きてお別れしてしまったのかなって思いました。でも失恋という青春もあるんだろうなと。ただ、この彼は青春とはきっと今も思っていないんですよね。
――5曲目「帰り道が見えない」ではまだまだ未練がありそうな雰囲気ですけど……。
和氣 ここで28歳になります。4年経っていますが、まったく吹っ切れていない感じです。これが60歳であれば「あんなこともあったな~!青春だな~!」って思うかもしれないですけど(笑)。
――「帰り道が見えない」は再び金子さんが歌詞を手がけていますが、曲を手がけられているhabanaさんは初めて見る名前です。
和氣 私のことをよく知ってくださっている方が、このアルバムのために書き下ろしてくれたんです。普段曲を書かれることはないそうで、おそらくこれが最初で最後の曲になるんじゃないかなと。すごく素敵なメロディで、最後を締めくくる曲にピッタリだなと思いました!
――歌詞を受け取ったときはどのように感じられましたか?
和氣 衝撃でした。一番のAメロでは「君と雷鳴の道を」のころの2人を思い浮かべていて。あの頃は「死ぬまで2人で突っ切っていくぞ!」という感じだったのが、一転して切ないなぁって。“人生に恋をして隣には君がいた”という言葉からは、あの頃を思い出しながら後悔している様子が思い浮かびました。私自身、「こんなことが起こるんだ!信じられない!」と思ったので、その心情のまま歌っています。
――和氣さんとしても、想像を超える結末だったんですね。
和氣 どこかで闇落ちはするのかな?と思っていたんです。でも、「彼女がいてくれたおかげで俺は立ち直れた!」って感じの未来になるのかなと思っていました。私が今まで歌ってきた女の子目線の恋愛の曲って、(失恋しても)吹っ切れているんですよね。男性の気持ちが理解できているわけではないんですけど、男性のほうが繊細、脆いってよく言うじゃないですか。それがすごく出てるなと。
井上 学生時代から付き合っていて、同級生が「別れると思わなかった!」と口を揃えて言うようなカップルがいると思うんですが、この2人は、そういったカップルをイメージしていました。社会人になってからのすれ違いってよくあることだと思うんです。普遍的な物語なので、和氣さんが歌ってくれたことで救われる人がいるんじゃないかなと思っています。
和氣 それだといいなあ。
――ところで、今作はコーラスも素敵だなと思っていました。3、4曲目のコーラスはどなたが入れられているんでしょうか?
井上 3曲目は、作・編曲の持田裕輔さんが自らコーラスを入れてくれたんです。ビーチボーイズのようでかっこいいなと思っていました。また、4曲目にはARAKIさんが入ってくれています。すごいコーラスを入れてくれました。作家さんたちも、色々な形で尽力してくれています。中でも持田さんは16曲持ってきてくれたんですよ。
和氣 すごい……!
――16曲!? コンペの数ですよね。
井上 1人コンペ状態でした(笑)。僕からお願いしたのは1曲だったのですが、様々な曲を持ってきてくれて。最終的に「井上さんが決めてください」となり「前半はこの曲、後半はこの曲で」って感じで一つの曲にしたんです。1曲1曲を作り込んでいるぶん、制作には時間が掛かっているんです。前作が終わってすぐ、3月からずっと制作していましたね。
私の青春は声優を目指していたとき
――ジャケットのコンセプトについてもお聞かせください。
和氣 主人公の彼女役として撮影しました(笑)。2曲目の“あじゅじゅ”です。この子は無邪気な女の子なんです……! はしゃいでましたし(笑)。
井上 女の子は彼の“記憶の中の彼女”なんですよね、だからキラキラしている。
和氣 でも女の子は現実を見るようになって……ああ、切ない(笑)。ジャケットはあじゅじゅ役ですが、MVでは男の子の気持ち目線、女の子の気持ち目線どちらも表現しています。
井上 いつもMVを撮ってくださっている河谷英夫監督がこの曲をすごく気に入ってくださっていて。刺さっていたようです(笑)。
――「僕たちはいつもさよならと言っている」のMVでは、男性が苦悩している様子が描かれています。シリアスな場面もありますね。
和氣 はい。泣くシーンの直前に、井上さんの過去の恋愛のお話を聞いていたんですが、すぐに泣いてしまいました(笑)。MV制作チームの方々が休憩中に「こういうことあるよねぇ」って話をされていて。例えば「元カノから久しぶりに連絡がきたと思ったら結婚の報告だった、とか(笑)。皆さんそういうことがあるんだなと。お話を聞くのが楽しかったです。
――和氣さんの青春の思い出というといかがですか?
和氣 なんだろう? 私は中高どちらも女子校だったんですよ。だからみんなが想像するような青春ってまったくなくって、アニメ・ゲーム漬けの生活でした。で、「声優になるぞ!」って専門学校に行ったら……同期が300人いたんですよ。でも1年生から2年生になるタイミングで200人になってしまって。
――いろいろな事情があるんでしょうね。でも200人でも十分多いですよね。
和氣 それだけ人数がいるにも関わらず、そこから事務所に所属出来る人は3人くらいしかいないと聞いて。「やば!」と思って、ひたすら先生の目に入るところで練習をしたり(笑)、授業終わったあとに質問をしたりしていました。今思えば、声優になるために頑張ってる瞬間が、私の中でいちばん青春だったなと思います。「透明のペダル」(3rdシングル)のようだなって。だからこのアルバムの主人公とはまったく違う人生です(笑)。
――そういう主人公を演じ、歌えるのもアーティスト活動の醍醐味ですよね。では最後に、来年2月11日(土)、東京・めぐろパーシモンホールで開催される“ 2nd LIVE -STAY BEAUTIFUL-”について教えて下さい。
和氣 皆様のおかげで2ndライブを開催できることになりました。タイトル通り、このアルバムの曲も披露できるんじゃないかなと思っています。前回は初めてのライブで私もガチガチになってしまったので、もう少し落ち着いて、楽しくライブをしたいなって。この間のアコースティックライブでは新しいアレンジで歌わせていただきましたが、今回はバンド曲で皆様とガッツリ盛り上がっていきたいなと思っています。ぜひ遊びにきてください!
●リリース情報
和氣あず未 コンセプトアルバム
『STAY BEAUTIFUL STAY BEAUTIFUL』
11月30日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】
品番:COZX-1958~9
価格:¥3,300(税込)
【通常盤(CD only)】
品番:COCX-41906
価格:¥2,640(税込)
<CD>
1.君と雷鳴の道を
2.僕があじゅじゅと恋をする
3.永遠を一歩降りて
4.僕たちはいつもさよならと言っている
5.帰り道が見えない
6~10:M1~5 Instrumentalを収録
<DVD>
「僕たちはいつもさよならと言っている」ミュージックビデオ+メイキングビデオ
封入チラシ
2nd LIVE –STAY BEAUTIFUL-最速先行申込シリアル封入
●ライブ情報
和氣あず未 2nd LIVE -STAY BEAUTIFUL-
2023年2月11日(土・祝) 東京・めぐろパーシモンホール
※昼夜 2公演開催予定
※チケットの発売情報など詳細は後日告知予定
関連リンク
和氣あず未 日本コロムビア公式サイト
https://columbia.jp/wakiazumi/