アニソンシンガー・YURiKAが12月11日、HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3に降り立った。自身初となるライブツアー「KiRA☆KiRA」で全国5ヶ所を驀進する中、出身地となる埼玉県で迎えることになったツアー折り返し地点。
他方で、表に出さず苦悩の中であがいていたという3年間をファンに告白したあとのツアーということもあり、会場に居合わせた全員が充足感と幸福感を感じる時間、という側面もあったと言えよう。そんな記念すべき夜を、主役であるYURiKAはどのような想いで迎え、どのような振り返りを抱いたのか。終演後の本人取材によるスペシャルコメンタリーとともにライブの様子を記していきたい。
TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
「ROMA☆KiRA」から「鏡面の波」までこだわり満載のステージ
ライブハウスに清涼たるコーラスが響き、メロディーは民族的なリズムからストリングスを伴ったバンドサウンドへと変化を見せていく。SEは、アルバム『KiRA☆KiRA』1曲目のインストゥルメンタル「MAGICAL FESTA」である。ステージ上にバンドメンバーが揃うと、すぐさま「ROMA☆KiRA」が始まる。アニソンシンガーとしての喜びと決意を胸に、YURiKAがハイトーンで乗りこなしていくと、Cメロで観客の拍手が後押しする。会場に訪れた全員がYURiKAと目が合ったのではないか?というほどに、1曲目から豊富なレスを振りまきながら、(アニメ『ロマンティック・キラー』に登場する魔法使い)リリのぬいぐるみを手に持ち、明るく、元気に、楽しく、歌ってみせるYURiKA。
曲が終わっても、その歌声はすぐ舞い戻ってきた。歌始まりの「ふたりの羽根」だ。Aメロ前のイントロでは軽く挨拶を交わし、曲中では振付でファンと心を合わせていく。
地元にファンを呼び込んだ形となったこの日のMCでは、初参戦も全通も含め、集まったファンたちを「さいたまへ、ようこそ!」の言葉で出迎える。そしてアルバム新曲の「Key to my next gate」へ。作詞が霜月はるか、作曲が折戸伸治、編曲が塚越雄一朗(NanosizeMir)という、Key作品に欠かせないクリエイターからの楽曲提供を受け、歌い手であるYURiKA自身の心が沸き立つ布陣だが 、彼女のレパートリーに、四つ打ち系で盛り上がるライブ曲、という新たな武器をもたらした1曲でもある。これに続いては、イントロからYURiKAもファンもタオルを振り上げ、最高の高揚感で臨む「サマーテイル」で、誰もが海のない冬の埼玉に爽やかな夏の海を感じた。そしてアニメ『アニマエール!』の挿入歌としてカバーした、いきものがかりの「じょいふる」ではあの有名なテレビCMを彷彿とさせるほどの弾みっぷりを見せる。さらには「ミラクルステップ」(アニメ『怪人開発部の黒井津さん』挿入歌)へと続き、会場を一気に歌が駆け抜ける。
しかし、ここで雰囲気を一転させる「鏡面の波」の登場となった。
この日だけのカバー曲「ハイステッパー」でフロアが燃え上がる!
次のMCでは、「ツアーも初めて」「アルバムも初めて」という今の心境から始まり、「ツアーのセトリもアルバムと一緒だったら面白くないな、と思って」、という自身の思いを述べたYURiKA。ライブ後、その心情を少し掘り下げてもらった。
YURiKA「何公演も来てくださる人がいるのは知っているんですけど、各公演ごとに全部を変えるツアーにはしたくなくて。私はあゆ(=浜崎あゆみ)が大好きでツアーに通った経験があるんですけど、あゆのライブって会場ごとにアカペラコーナーがあるくらいで公演内容は毎回同じなんですよ。でもいつも違うライブになる、そこがかっこいい、と私は思っていたんです。インストから始まる、とかもそうなんですけど、ツアーとはそういうもの、っていうイメージが植え付けられたんですよね」
ただ、こうも付け加える。
YURiKA「せっかくアルバムの『KIRA☆KIRA』で好きなアーティストや作家の方々に参加してもらえたので、そこの良さも出せたら……とも思ってはいますね」
その気持ちを形にしたのが、次のカバー曲のコーナーだ。10月29日の神奈川公演ではGRANRODEOの「Can Do」をカバーし、11月22日の大阪公演では『AIR』主題歌の「鳥の詩」を、客席で見守る折戸伸治の前で歌い上げた。その中で「ライブごとに雰囲気が変わる時間」というのがYURiKAの弁。
そのあとに控えていたのは「baby baby flow」で、ここからはYURiKAが、大人な表情と表現力で歌を紡いでいく。この日は衣装も、黒のタンクトップをインナーに、チェックのジャケットとタイトスカートで、やや90年代風に年齢相応のファッションで決め、さらに趣味の筋トレの成果である引き締まったウエストを見せつけていた。そこでの「Crave」である。観客のクラップを浴び、ギターソロの後押しを受け、YURiKAから大人なロックボーカルが飛び出し、加速し、続く『BEASTARS』ゾーンへ突入。劇伴音楽をイントロダクションに使用しての「眠れる本能」、そして「月に浮かぶ物語」「Le Zoo」と、自身が担当したED主題歌・挿入歌4曲を立て続けに歌唱した。『BEASTARS』自体、獣人たちが本能と理性の狭間で描く青春ドラマというエッジある作品だったが、そこに流れる楽曲群も個性が強く、その分、YURiKAも「色んな寄り添い方ができる」と表現力を鍛えられたという。無論、YURiKAとしても『BEASTARS』という作品の核である、感傷的かつ情緒的な部分を増幅するような歌を提供したが、ライブでもそこは健在だった。「Le Zoo」は、自身が主催する「ユリパ! YURiKA presents Live party Vol.2」で先輩アニソンアーティストとともにエンディングソングとして歌ったときの思い出話として、「先輩のいいところを受け取り、目指すべきアニソンシンガーへ突き進むことを新たに決意した」曲であるとも口にもしていた。
ライブでも特別な位置づけになった「パーソナリティ」
ライブが終盤に差し掛かると、「これがYURiKAの命か、と思って聴いてください」と紹介した「夜奏花」へ。こういった落ち着いた楽曲で安定した低音、安らぎの声質を味わわせるアニソンシンガーであることも再認識させられた。
YURiKA「私のアルバムと「パーソナリティ」を作った経緯をお話ししたインタビュー(リスアニ!で11月11日掲載の記事)を読んだと言ってくれる人が多くて。それこそファン以外でもさや姉(=佐咲紗花)からは、誰も敵にしない、みんながYURiKA氏のことを応援したくなる記事だよ、と言ってもらいました。だからこそ、アルバムリリースとインタビュー公開の直後だった大阪公演では、その影響というか、私とお客さんたちとの間に、お互いにちょっと気恥ずかしいような、変わった空気が流れていました。それこそ大阪は、「パーソナリティ」で泣いている人が多かったと思います。別に苦労ソング……あ、ガルデモ(=Girls Dead Monster)の「Crow Song」じゃないですよ?(笑)。決して「私、苦労しました」というような意味合いの曲ではないのに、曲のエモーショナルさがいい意味で聴く人に響いたのかもしれないです。ライブの中でもみんながひと呼吸おくというか、この曲が1つ目のエンディングという雰囲気も生んでいましたね」
客席に大きな余韻をあずけたまま、歌い終えたYURIKAはステージを退場し、後をバンドメンバーに託す。ここで演奏されるのは「シャリオのテーマ」。1周目はホーンが、2周目からはバイオリンが血沸き肉躍るメロディを奏でると、ボレロのようなドラムと泣きのギターが引き継ぐ。
YURiKA「初めてライブに来た人にも伝わる、演出として完成したものではありますけど、でも、『BEASTARS』の劇伴からの「眠れる本能」、というのはバースデーワンマンライブ「UPDATE」(2019年10月25日)の始まりと同じなんです。「シャリオのテーマ」からの『リトルウィッチアカデミア』ゾーン、というのはデビュー3周年ライブ(2020年2月22日)でやったことですし。つまり、今までのライブの“破片”を入れているんですよね。「鏡面の波」前のSEがアニサマを思い出させるとかも……わかる人にだけわかればいいんですけど、ここでもYURiKAの歴史を見せています」
そして「Dream Flight」で会場に熱気の渦を発生させると、「MIND CONDUCTOR」でさらに熱く盛り上げつつも、メロディから飛び出た「決めたよ♪」をキュートに決め、「Shiny Ray」に突入した。
ライブ中も、ツアーを初めて経験したことから、曲がツアーで成長することを実感していると話していたYURiKA。自身にとって最新のアニソンである「ROMA☆KiRA」から始まり、最初のアニソン「Shiny Ray」で終える、その道のりの間にもさまざまな発見が満ちていただろう。さいたま新都心で、そんな旅の1つが完結した。会場に集った誰にとっても特別な時間となった『リトルウィッチアカデミア』ゾーンを終え、YURiKAもバンドメンバーも退場していったが、フロアでは拍手が鳴りやまなかった。
「はすだ広報大使」のたすきを揺らし、笑顔でジャンプ!
ここでファンにとって大きなニュースが知らされた。デビュー記念日にあたる2023年2月22日、下北沢シャングリラで3年ぶりの全曲ワンマンライブを敢行することをYURiKAが発表した。その曲数は、カバー曲を除き、「MAGICAL FESTA」を含んだ全32曲。今回のツアーファイナルから1ヵ月ほどでの開催となるが、3年分のたぎる想いをぶつけられることは想像に難くない。
大事な発表を終え、ひと仕事終えたという雰囲気のYURiKAだったが、さらにここで驚きのスペシャルゲストが登場する。ステージに現れたスーツ姿の女性、それは、YURiKAを生み、育んだ埼玉県蓮田市の現市長である山口京子氏。山口市長は「素直で優しくてきれいなYURiKAさん!」と呼びかけ、蓮田市のPRを欠かさぬ行動に感謝を述べたあと、初めてのYURiKAライブについて「ファンのみなさんとの一体感が半端ない!」と表現する。さらにはステージ上で、YURiKAを「はすだ広報大使」に任命し、たすきを手渡した。彼女が夢見た目標が突如達成された瞬間を、ファンは思いがけず共有することに。観客席からは、祝福の大きな拍手と、蓮田市マスコットキャラクター「はすぴぃ」のぬいぐるみが掲げられていた。さらに観客席の後方では、諸般の事情(大きさ?)でステージには上がれなかった正真正銘のはすぴぃも、黄色くて丸くて愛らしいくちばしとつぶらで大きな瞳を揺らしながらステージを見つめていた。
山口市長の退場後も、YURiKAはたすきを付けたまま、バンドメンバー(ギター:吉田穣、ベース:蛇石徹、バイオリン:多ヶ谷樹、ドラム:横瀬卓哉、コーラス:逆井寛子、マニピュレーター:須賀勇介)を呼び込んだ。このライブ中、バンドメンバーから笑顔がこぼれ続けていたのも印象的だった。特に、ステージ後方に位置していたベースの蛇石とドラムの横瀬とコーラスの逆井は遠くから楽しげなオーラを振りまいていた。そんな頼もしく良き仲間たちとともに、アンコールに応えるYURiKA。アンコール曲は彼女自らが当日提案した4曲の選択肢から、その場でファンが選び、決定されるというもの。この日の選択肢は「ふたりの羽根」「鏡面の波」「Dream Flight」「MIND CONDUCTOR」の4つ。曲名が読み上げられるたびに、ファンは望む曲を渾身の拍手で主張していく。その音量からYURiKAが判定を下したのは「Dream Flight」。歌う前に宣言した「最後まで駆け抜けまーす!」の言葉通り、YURiKAはその伸びやかな声をラストサビまで響かせ続けた。
そして正真正銘のラストナンバーは、2022年もYURiKAがアニソンシンガーとして輝くことができ、だからこそ歌い続けなければという強い想いを彼女に抱かせた「ROMA☆KiRA」。「アニメ(『ロマンティック・キラー』)も観てくださいね。私はもう20周くらいしています」という布教の言葉も交えつつ、「長く愛して歌っていきたいと思います」との決意を身体で証明するかのように、跳ね回り、「はすだ広報大使」のたすきを揺らしながら、渾身の歌声を届ける。そして曲の最後は「広報大使、飛びます」の言葉とジャンプで締めた。終演後、恒例の記念写真コーナーでは、「はい、蓮田~!」の掛け声でYURiKAはステージ上のメンバーと、フロアのファンと、いくつものはすぴぃのぬいぐるみとの笑顔を写真に残した。
YURiKA「私も夢の広報大使になったからには、地元を盛り上げている声優さんやアーティストみたいに、もっと貢献したいです。まずはもっとアニソンを歌って、いつかハストピア(蓮田市総合文化会館)でワンマンライブができるようになったらいいですね。そうしたら、何せ私は蓮田で歌ってアニソンシンガーになった身なので……これからアニソンシンガーになりたい人が蓮田に来るかもしれない。春になると元荒川は桜もすごく綺麗なんですよ」
続く札幌と渋谷、そして全曲ライブ。この日、はすぴぃに見送られたファンたちは次のライブに思いを馳せながら帰途に就いたことだろう。YURiKAが最後に放った、「また会いましょう」を実行するために。そしてその先はきっと、誰もが笑顔になるワンマンライブinハストピアに続いている。
“YURiKA Live Tour「KiRA☆KiRA」”
2022年12月11日 埼玉@HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3
<セットリスト>
(SE. MAGICAL FESTA)
01. ROMA☆KiRA
02. ふたりの羽根
03. Key to my next gate
04. サマーテイル
05. じょいふる
06. ミラクルステップ
07. 鏡面の波
08. ハイステッパー
09. baby baby flow
10. Crave
11. 眠れる本能
12. マーブル
13. 月に浮かぶ物語
14. Le zoo
15. 夜奏花
16. パーソナリティ
17. シャリオのテーマ
18. Dream Flight
19. MIND CONDUCTOR
20. Shiny Ray
<アンコール>
EN1. Dream Flight
EN2. ROMA☆KiRA
●ライブ情報
YURiKAワンマンライブ Shiny Stage~3年ぶりに全曲やるぞ!
2023年2月22日(水)下北沢シャングリラ
OPEN 19:00 / START 19:30
【チケット】通常:7,500円 全グッズ&特典付き:15,000円
関連リンク
YURiKA 公式サイト
https://www.yu-ri-ka.com/
YURiKA デビュー5周年特設サイト
https://www.yu-ri-ka.com/kirakira/
YURiKA 公式Twitter
https://twitter.com/_yurika29_
豊富なアニメ主題歌で満ち満ちたアルバムを引っ提げての濃いアニソンライブであると同時に、地元公演ということで驚きのゲスト登場、また3年ぶりとなる全曲ワンマンライブ開催の告知も含めて、ボリュームあふれる内容になった。
他方で、表に出さず苦悩の中であがいていたという3年間をファンに告白したあとのツアーということもあり、会場に居合わせた全員が充足感と幸福感を感じる時間、という側面もあったと言えよう。そんな記念すべき夜を、主役であるYURiKAはどのような想いで迎え、どのような振り返りを抱いたのか。終演後の本人取材によるスペシャルコメンタリーとともにライブの様子を記していきたい。
TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
「ROMA☆KiRA」から「鏡面の波」までこだわり満載のステージ
ライブハウスに清涼たるコーラスが響き、メロディーは民族的なリズムからストリングスを伴ったバンドサウンドへと変化を見せていく。SEは、アルバム『KiRA☆KiRA』1曲目のインストゥルメンタル「MAGICAL FESTA」である。ステージ上にバンドメンバーが揃うと、すぐさま「ROMA☆KiRA」が始まる。アニソンシンガーとしての喜びと決意を胸に、YURiKAがハイトーンで乗りこなしていくと、Cメロで観客の拍手が後押しする。会場に訪れた全員がYURiKAと目が合ったのではないか?というほどに、1曲目から豊富なレスを振りまきながら、(アニメ『ロマンティック・キラー』に登場する魔法使い)リリのぬいぐるみを手に持ち、明るく、元気に、楽しく、歌ってみせるYURiKA。
曲が終わっても、その歌声はすぐ舞い戻ってきた。歌始まりの「ふたりの羽根」だ。Aメロ前のイントロでは軽く挨拶を交わし、曲中では振付でファンと心を合わせていく。
最後には、この曲が『はねバド!』OP主題歌であることを思い出させるように、バドミントンのラケットを掲げ、シャトルを(優しく)客席に打ち込んでプレゼントする。 小道具を用いながら歌うのはYURiKAお得意のパフォーマンスだ。楽しんでもらおうという無邪気なサービス精神であり、アニメやゲームといった作品に興味を持ってもらおうという動線の確保でもある。のちの、「サマーテイル」(ゲーム「Summer Pockets」イメージソング)でも、ゲームをプレイした人にはわかるアイテムとしてサングラスをかけていた。そんなホスピタリティ(おもてなし)を味わえるのもYURiKAライブの魅力でもある。
地元にファンを呼び込んだ形となったこの日のMCでは、初参戦も全通も含め、集まったファンたちを「さいたまへ、ようこそ!」の言葉で出迎える。そしてアルバム新曲の「Key to my next gate」へ。作詞が霜月はるか、作曲が折戸伸治、編曲が塚越雄一朗(NanosizeMir)という、Key作品に欠かせないクリエイターからの楽曲提供を受け、歌い手であるYURiKA自身の心が沸き立つ布陣だが 、彼女のレパートリーに、四つ打ち系で盛り上がるライブ曲、という新たな武器をもたらした1曲でもある。これに続いては、イントロからYURiKAもファンもタオルを振り上げ、最高の高揚感で臨む「サマーテイル」で、誰もが海のない冬の埼玉に爽やかな夏の海を感じた。そしてアニメ『アニマエール!』の挿入歌としてカバーした、いきものがかりの「じょいふる」ではあの有名なテレビCMを彷彿とさせるほどの弾みっぷりを見せる。さらには「ミラクルステップ」(アニメ『怪人開発部の黒井津さん』挿入歌)へと続き、会場を一気に歌が駆け抜ける。
しかし、ここで雰囲気を一転させる「鏡面の波」の登場となった。
この楽曲ならではの幼い声色でとつとつと歌詞が展開され、会場はその幻想的で神秘的な歌に身を委ねる。なお、曲が始まる前のSEには、“Animelo Summer Live 2018”出演時に制作されたものが使用された。歌う側も聴く側も、4年前にわずか300m離れた場所(=さいたまスーパーアリーナ)で心を揺らした思い出がよみがえる中、当時と同じようにサイリウムがフロアを緑に染めた。
この日だけのカバー曲「ハイステッパー」でフロアが燃え上がる!
次のMCでは、「ツアーも初めて」「アルバムも初めて」という今の心境から始まり、「ツアーのセトリもアルバムと一緒だったら面白くないな、と思って」、という自身の思いを述べたYURiKA。ライブ後、その心情を少し掘り下げてもらった。
YURiKA「何公演も来てくださる人がいるのは知っているんですけど、各公演ごとに全部を変えるツアーにはしたくなくて。私はあゆ(=浜崎あゆみ)が大好きでツアーに通った経験があるんですけど、あゆのライブって会場ごとにアカペラコーナーがあるくらいで公演内容は毎回同じなんですよ。でもいつも違うライブになる、そこがかっこいい、と私は思っていたんです。インストから始まる、とかもそうなんですけど、ツアーとはそういうもの、っていうイメージが植え付けられたんですよね」
ただ、こうも付け加える。
YURiKA「せっかくアルバムの『KIRA☆KIRA』で好きなアーティストや作家の方々に参加してもらえたので、そこの良さも出せたら……とも思ってはいますね」
その気持ちを形にしたのが、次のカバー曲のコーナーだ。10月29日の神奈川公演ではGRANRODEOの「Can Do」をカバーし、11月22日の大阪公演では『AIR』主題歌の「鳥の詩」を、客席で見守る折戸伸治の前で歌い上げた。その中で「ライブごとに雰囲気が変わる時間」というのがYURiKAの弁。
この日のカバー曲には、盟友にして「いっぱいの時間を過ごしてきた、大好きなお姉さん」こと大原ゆい子の「ハイステッパー」を選んだ。マイクスタンドを使い、ゆい子リスペクトのエアギターも交えながら、歌唱後には「このツアーで一番盛り上がったんじゃない?(笑)」と振り返るほどの熱さで歌い上げる。
そのあとに控えていたのは「baby baby flow」で、ここからはYURiKAが、大人な表情と表現力で歌を紡いでいく。この日は衣装も、黒のタンクトップをインナーに、チェックのジャケットとタイトスカートで、やや90年代風に年齢相応のファッションで決め、さらに趣味の筋トレの成果である引き締まったウエストを見せつけていた。そこでの「Crave」である。観客のクラップを浴び、ギターソロの後押しを受け、YURiKAから大人なロックボーカルが飛び出し、加速し、続く『BEASTARS』ゾーンへ突入。劇伴音楽をイントロダクションに使用しての「眠れる本能」、そして「月に浮かぶ物語」「Le Zoo」と、自身が担当したED主題歌・挿入歌4曲を立て続けに歌唱した。『BEASTARS』自体、獣人たちが本能と理性の狭間で描く青春ドラマというエッジある作品だったが、そこに流れる楽曲群も個性が強く、その分、YURiKAも「色んな寄り添い方ができる」と表現力を鍛えられたという。無論、YURiKAとしても『BEASTARS』という作品の核である、感傷的かつ情緒的な部分を増幅するような歌を提供したが、ライブでもそこは健在だった。「Le Zoo」は、自身が主催する「ユリパ! YURiKA presents Live party Vol.2」で先輩アニソンアーティストとともにエンディングソングとして歌ったときの思い出話として、「先輩のいいところを受け取り、目指すべきアニソンシンガーへ突き進むことを新たに決意した」曲であるとも口にもしていた。
ライブでも特別な位置づけになった「パーソナリティ」
ライブが終盤に差し掛かると、「これがYURiKAの命か、と思って聴いてください」と紹介した「夜奏花」へ。こういった落ち着いた楽曲で安定した低音、安らぎの声質を味わわせるアニソンシンガーであることも再認識させられた。
そんな一曲が終わると時報の音が。リリース直後の1stアルバムを象徴する1曲にして、もはやYURiKA自身のテーマソングといっても過言ではない「パーソナリティ」である。YURIKAにとって特に思い入れが強い曲だとのことだが、ファンにとってもYURiKAという個人の“パーソナリティ”を感じさせる曲になったようだ。
YURiKA「私のアルバムと「パーソナリティ」を作った経緯をお話ししたインタビュー(リスアニ!で11月11日掲載の記事)を読んだと言ってくれる人が多くて。それこそファン以外でもさや姉(=佐咲紗花)からは、誰も敵にしない、みんながYURiKA氏のことを応援したくなる記事だよ、と言ってもらいました。だからこそ、アルバムリリースとインタビュー公開の直後だった大阪公演では、その影響というか、私とお客さんたちとの間に、お互いにちょっと気恥ずかしいような、変わった空気が流れていました。それこそ大阪は、「パーソナリティ」で泣いている人が多かったと思います。別に苦労ソング……あ、ガルデモ(=Girls Dead Monster)の「Crow Song」じゃないですよ?(笑)。決して「私、苦労しました」というような意味合いの曲ではないのに、曲のエモーショナルさがいい意味で聴く人に響いたのかもしれないです。ライブの中でもみんながひと呼吸おくというか、この曲が1つ目のエンディングという雰囲気も生んでいましたね」
客席に大きな余韻をあずけたまま、歌い終えたYURIKAはステージを退場し、後をバンドメンバーに託す。ここで演奏されるのは「シャリオのテーマ」。1周目はホーンが、2周目からはバイオリンが血沸き肉躍るメロディを奏でると、ボレロのようなドラムと泣きのギターが引き継ぐ。
するとYURiKAが再登場。その頭には、アニサマにも一緒に出演したことのある魔法使い帽子。ラストスパートとなる『リトルウィッチアカデミア』楽曲ゾーンの開幕となる。その前の『BEASTARS』ゾーンの幕開けもそうだが、劇伴と自身の楽曲をつなげるのは多彩な小道具同様、アニメを喚起させたいから、という以外にもう1つの意味もある。
YURiKA「初めてライブに来た人にも伝わる、演出として完成したものではありますけど、でも、『BEASTARS』の劇伴からの「眠れる本能」、というのはバースデーワンマンライブ「UPDATE」(2019年10月25日)の始まりと同じなんです。「シャリオのテーマ」からの『リトルウィッチアカデミア』ゾーン、というのはデビュー3周年ライブ(2020年2月22日)でやったことですし。つまり、今までのライブの“破片”を入れているんですよね。「鏡面の波」前のSEがアニサマを思い出させるとかも……わかる人にだけわかればいいんですけど、ここでもYURiKAの歴史を見せています」
そして「Dream Flight」で会場に熱気の渦を発生させると、「MIND CONDUCTOR」でさらに熱く盛り上げつつも、メロディから飛び出た「決めたよ♪」をキュートに決め、「Shiny Ray」に突入した。
ライブ中も、ツアーを初めて経験したことから、曲がツアーで成長することを実感していると話していたYURiKA。自身にとって最新のアニソンである「ROMA☆KiRA」から始まり、最初のアニソン「Shiny Ray」で終える、その道のりの間にもさまざまな発見が満ちていただろう。さいたま新都心で、そんな旅の1つが完結した。会場に集った誰にとっても特別な時間となった『リトルウィッチアカデミア』ゾーンを終え、YURiKAもバンドメンバーも退場していったが、フロアでは拍手が鳴りやまなかった。
その想いに応え、YURIKAはツアーTシャツに着替え、髪型は「リリが女性化したときのものをオマージュ」、という姿で現れた。
「はすだ広報大使」のたすきを揺らし、笑顔でジャンプ!
ここでファンにとって大きなニュースが知らされた。デビュー記念日にあたる2023年2月22日、下北沢シャングリラで3年ぶりの全曲ワンマンライブを敢行することをYURiKAが発表した。その曲数は、カバー曲を除き、「MAGICAL FESTA」を含んだ全32曲。今回のツアーファイナルから1ヵ月ほどでの開催となるが、3年分のたぎる想いをぶつけられることは想像に難くない。
大事な発表を終え、ひと仕事終えたという雰囲気のYURiKAだったが、さらにここで驚きのスペシャルゲストが登場する。ステージに現れたスーツ姿の女性、それは、YURiKAを生み、育んだ埼玉県蓮田市の現市長である山口京子氏。山口市長は「素直で優しくてきれいなYURiKAさん!」と呼びかけ、蓮田市のPRを欠かさぬ行動に感謝を述べたあと、初めてのYURiKAライブについて「ファンのみなさんとの一体感が半端ない!」と表現する。さらにはステージ上で、YURiKAを「はすだ広報大使」に任命し、たすきを手渡した。彼女が夢見た目標が突如達成された瞬間を、ファンは思いがけず共有することに。観客席からは、祝福の大きな拍手と、蓮田市マスコットキャラクター「はすぴぃ」のぬいぐるみが掲げられていた。さらに観客席の後方では、諸般の事情(大きさ?)でステージには上がれなかった正真正銘のはすぴぃも、黄色くて丸くて愛らしいくちばしとつぶらで大きな瞳を揺らしながらステージを見つめていた。
山口市長の退場後も、YURiKAはたすきを付けたまま、バンドメンバー(ギター:吉田穣、ベース:蛇石徹、バイオリン:多ヶ谷樹、ドラム:横瀬卓哉、コーラス:逆井寛子、マニピュレーター:須賀勇介)を呼び込んだ。このライブ中、バンドメンバーから笑顔がこぼれ続けていたのも印象的だった。特に、ステージ後方に位置していたベースの蛇石とドラムの横瀬とコーラスの逆井は遠くから楽しげなオーラを振りまいていた。そんな頼もしく良き仲間たちとともに、アンコールに応えるYURiKA。アンコール曲は彼女自らが当日提案した4曲の選択肢から、その場でファンが選び、決定されるというもの。この日の選択肢は「ふたりの羽根」「鏡面の波」「Dream Flight」「MIND CONDUCTOR」の4つ。曲名が読み上げられるたびに、ファンは望む曲を渾身の拍手で主張していく。その音量からYURiKAが判定を下したのは「Dream Flight」。歌う前に宣言した「最後まで駆け抜けまーす!」の言葉通り、YURiKAはその伸びやかな声をラストサビまで響かせ続けた。
そして正真正銘のラストナンバーは、2022年もYURiKAがアニソンシンガーとして輝くことができ、だからこそ歌い続けなければという強い想いを彼女に抱かせた「ROMA☆KiRA」。「アニメ(『ロマンティック・キラー』)も観てくださいね。私はもう20周くらいしています」という布教の言葉も交えつつ、「長く愛して歌っていきたいと思います」との決意を身体で証明するかのように、跳ね回り、「はすだ広報大使」のたすきを揺らしながら、渾身の歌声を届ける。そして曲の最後は「広報大使、飛びます」の言葉とジャンプで締めた。終演後、恒例の記念写真コーナーでは、「はい、蓮田~!」の掛け声でYURiKAはステージ上のメンバーと、フロアのファンと、いくつものはすぴぃのぬいぐるみとの笑顔を写真に残した。
YURiKA「私も夢の広報大使になったからには、地元を盛り上げている声優さんやアーティストみたいに、もっと貢献したいです。まずはもっとアニソンを歌って、いつかハストピア(蓮田市総合文化会館)でワンマンライブができるようになったらいいですね。そうしたら、何せ私は蓮田で歌ってアニソンシンガーになった身なので……これからアニソンシンガーになりたい人が蓮田に来るかもしれない。春になると元荒川は桜もすごく綺麗なんですよ」
続く札幌と渋谷、そして全曲ライブ。この日、はすぴぃに見送られたファンたちは次のライブに思いを馳せながら帰途に就いたことだろう。YURiKAが最後に放った、「また会いましょう」を実行するために。そしてその先はきっと、誰もが笑顔になるワンマンライブinハストピアに続いている。
“YURiKA Live Tour「KiRA☆KiRA」”
2022年12月11日 埼玉@HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3
<セットリスト>
(SE. MAGICAL FESTA)
01. ROMA☆KiRA
02. ふたりの羽根
03. Key to my next gate
04. サマーテイル
05. じょいふる
06. ミラクルステップ
07. 鏡面の波
08. ハイステッパー
09. baby baby flow
10. Crave
11. 眠れる本能
12. マーブル
13. 月に浮かぶ物語
14. Le zoo
15. 夜奏花
16. パーソナリティ
17. シャリオのテーマ
18. Dream Flight
19. MIND CONDUCTOR
20. Shiny Ray
<アンコール>
EN1. Dream Flight
EN2. ROMA☆KiRA
●ライブ情報
YURiKAワンマンライブ Shiny Stage~3年ぶりに全曲やるぞ!
2023年2月22日(水)下北沢シャングリラ
OPEN 19:00 / START 19:30
【チケット】通常:7,500円 全グッズ&特典付き:15,000円
関連リンク
YURiKA 公式サイト
https://www.yu-ri-ka.com/
YURiKA デビュー5周年特設サイト
https://www.yu-ri-ka.com/kirakira/
YURiKA 公式Twitter
https://twitter.com/_yurika29_
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