ギターを掻き鳴らし、飾らないまっすぐな言葉で等身大の想いを歌うカノエラナ。実はアニメが大好きで、様々なアニメ作品からの影響が楽曲にも滲む。
アニメのカバーアルバム『「尊い」~解き放たれし二次元歌集~』や想像上のアニメ作品主題歌を作ったコンセプトアルバム『歌楽的イノセンス』でアニメへの愛を放ってきた彼女が、今期注目のアニメ『虚構推理 Season2』OPテーマ「ヨトギバナシ」を歌う。その楽曲について話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

カノエラナの音楽の源流にあるものは―――
――自他ともに認めるアニメ好きのカノエラナさん。ご自身に衝撃や影響を与えたアニメ作品を教えてください。

カノエラナ そもそも父の影響で物心つくかつかないかという頃からアニメを観てきています。小さな頃から、父が借りてきたアニメを一緒に観てきたので、そのアニメの主題歌は体に沁み込んでいます。例えば『うる星やつら』や『ルパン三世』、『頭文字D』に『SLAM DUNK』、『るろうに剣心』あたりからスタートしていますが、わたし自身は『しましまとらのしまじろう』を観て育ってきたので、しまじろうの「ハッピー・ジャムジャム」がものすごく好きですし、そこにあるしまじろうのソウルみたいなものは自分の根底にあると思います。この曲はカバーをするときにも迷わず入れました。

――『「尊い」~解き放たれし二次元歌集~』に収録されていましたね。

カノエ そうなんです。カバーアルバムに収録された楽曲はどれも、わたしにとって音楽に携わりたいという想いを強めた曲ばかりなんです。アニメ作品自体も好きですし、アニソンだけが好きな場合やアニメ自体は知らなくても楽曲は知っているというものもありましたが、『「尊い」~解き放たれし二次元歌集~』に収録されている楽曲の幅広さと同じように、ここまで本当に自由な形でアニソンに触れてきましたね。


――そんなアニソンの魅力はどんなところにあると思いますか?

カノエ とにかく自由であることです。やっぱりJ-POPはコード感やAメロBメロからサビがくるというように展開や構成がある程度決まっているところがあるんですが、アニソンやキャラソンでは途中でキーチェンジが起こったり、テンポが全然変わったり、後ろの楽器隊が全然違うものになったりするんですよね。そういう部分は歌っていて楽しいですし、魅力だなとも思います。

――そのカノエさんが音楽を始めたきっかけはどういったものだったのでしょうか。

カノエ 物心つかないくらいから祖母の家にあったピアノを触っていて、聴いたことのあるアニメソングやCMソングを指一本で弾いていたそうなんです。小学校3年生でピアノを習いはじめたところから音楽にちゃんと触れるようになったのですが、実はわたし自身はピアノを習いたいというよりも歌をうたいたかったんです。でも恥ずかしくてそのことを言えずにいたのですが、中学2年生のときに地元で開催された音楽の大会に同級生7人くらいで応募をしたんです。結果、わたしは本戦に進むことになって、EGO-WRAPPIN’の「くちばしにチェリー」をカバーして歌ったことで賞をいただいたんです。それをきっかけに音楽スクールに入って、シンガーソングライターとして本格的に勉強をするようになりました。

――そうして培ったものから生まれるのが「カノエラナ」の音楽。ご自身の音楽制作の中で大事にしていることを教えてください。

カノエ 言葉遊びみたいなものも大好きですし、「それは歌詞にしないでしょう」と言われるような言葉を直接的に書くことも好きです。
そうした言葉を「敢えて隠さない」ことが、音楽制作の中で大事にしていることだなと思います。自分が思ったことに対してカッコつける必要もないですし、ストレートな気持ちを常に書いておくことが一番大事だなと思います。

アニメソングが好きだからこそ見えるその魅力
――ご自身の楽曲制作もされるなか、アニソンカバーも数多くされています。アニソンをカバーすることで気づくことや発見はありましたか?

カノエ ずっと自分の曲を作っているので、メロディにどうしても自分の匂いが乗るんです。でも好きなアニソンを改めてカバーしてレコーディングもするとなると「サビに行く前にこのコードを使っているから切なさが出るんだ!」といった気づきがあります。そのたびに「今度、取り入れてみよう」と思いますし、そこでの気づきは自分の楽曲にも昇華しています。

――言葉選びについてはどうですか?アニソンならではのものはあると感じますか?

カノエ わりとしゃべり口調が多いですよね。お話口調の歌詞や表現は現代ならではですし、キャラクターっぽいおしゃべりの雰囲気も自分の歌詞にも取り入れているつもりです。そのへんはあまりJ-POPにはないところなのかなと思います。

――2022年は長編アニメ『永遠の831』のオープニング曲「キンギョバチ」で念願のアニメタイアップをされました。作品というモチーフがあっての楽曲制作になりますが、作業はいかがでしたか?

カノエ すごく好きなやり方ですね。なにかお題があるほうが、楽曲を書きあげる過程も好きなんです。
自分自身が自由な状態で書きあげる楽曲もありますが、それよりもなにか元となっていることに対して自分自身が思ったことを書くほうが好きなので、作り方に対して馴染んだなって思いました。

――ほかにも藍井エイルさんやニノミヤユイさんにも楽曲提供をされていますが、そうしたほかのアーティストさんへの楽曲提供の際はいかがですか?

カノエ お話をした印象や、例えば打合せをした際の雑談などでの言葉尻をメモしたり記憶したりして、あとからそのことを歌詞にすることもあります。だから「あのときの会話じゃない?」というものも結構、織り交ぜられていると思います(笑)。

――作家業をやってみての感想をお聞かせください。

カノエ 「テーマに対して書きあげる」ことがすごく好きですし、自分自身が自分の曲を歌わなくてはならない、という決まりもこだわりもないので、誰かに対して曲を作って、「歌って欲しいな」という気持ちを書く作業はすごく楽しいなって思いました。

――2022年には“カノエラナ的アニメオープニング主題歌集”といったコンセプトアルバム『歌楽的イノセンス』を制作されていましたが、実際にそのコンセプトで楽曲制作をされたからこそ感じた「アニメのオープニング曲とはこういうもの」というイメージを教えてください。

カノエ 掴み、ですね。必ず作品の顔になるもの。アニメと言われて、もちろんキャラクターの顔も浮かぶと思うのですが、それと一緒にオープニングやエンディングが耳には鳴っているはずなんです。映像がないのに鳴っているという状況はまずもってすごいことですし、例えそのアニメを観ていなかったとしても主題歌やキャラソンを知っていることだってある。入口として大事なものなので、門番とか窓口のような存在という印象があります。

――逆にまだご自身で制作はされていないアニメのEDテーマはどんな存在だと思われますか?

カノエ 感想だと思っています。
Aパート、Bパートと本編があって、その最後にエンディングが来たときに「旅路を辿ってきた今の感想です」というふうに捉えています。エンディングっぽい曲を書きたいなと思ったときには、必ずアニメを一本観終わったあとの、わたしが感じた気持ちをわーっと書いた感想として曲にしています。そういう気持ちがエンディングになるといいなぁって思うんです。もちろんアニメの特色や曲調もあるとは思いますが、オープニングが騒がしかったらエンディングは静かでもいいなとかバランスを考えて、自分で全体像を見て「ここに収まるならどういう曲がいいかな」とブロックを積み上げながら考えることが好きかもしれないです。

オファー前に『虚構推理』の主題歌を制作済みだった!?
――そして今回新たにタッグを組むのはアニメ『虚構推理』です。この作品がそもそもお好きだったとのことですが、作品の印象を教えてください。

カノエ わたし、押せ押せな主人公が好きなんです。それも女の子が押せ押せなのが好きで。(岩永)琴子ちゃんを見て「これはハマるだろうな」と思いながら第1話を観て、観終わってそのまま本屋さんに行って原作を全巻購入しました(笑)。今回『虚構推理』のオープニングのオファーがある前に資料は全巻持っていましたし、実はアニメを観終えたあとに既に楽曲も書いていたんです。

――主題歌の話はないけれども……

カノエ ないけれども!わたしがオープニングやエンディングを書くならこんな感じかな、という曲として「ヨトギバナシ」という曲をその時点で作っていたんです。アニメ第1期が放送されていたのが2020年なので、2020年にはこの曲はもう出来上がっていて、今日まで温存というか、ストックされていた状態でした。
だからオファーをいただいたときに「そんなことある!?」って驚きましたね。だって誰にもこのことを話したことがなかったですから(笑)。こんな奇跡があるのかなとびっくりして。だから「すみません、もう曲を書いていたんです」と音源を渡しました。元の曲はこれでいいので、ここからブラッシュアップさせてください、というお話をいただいたんです。それで改めてアニメを全話見直して、原作も読み返して、歌詞とメロディを再構築していくという制作になっていったので、これまでにない珍しい形で制作は進んでいきました。

――その『虚構推理』、どんなところがお好きなのでしょうか。

カノエ ちょっと謎があって、毎回はてなマークがついて終わるような作品が好きなんです。もちろんギャグや戦い、日常の描写も好きなんですけど、「あれは伏線だったのかな」とか考えるのが好きなんです。職業柄、ちょっと考えてうんうん唸るみたいなことが好きですし、1話を観たときから自分には合っていると思いました。それに琴子ちゃんも(桜川)九郎先輩というキャラクターも好きですし、物語も好きということでバッチリとハマりました。

――2020年にアニメに衝撃を受けて書き上げた「ヨトギバナシ」。
最初に曲を作ったときから変化したのはどんなところですか?


カノエ オーダー的に「紫色から急に真っ白になってください」というものがあったんです。どんよりとした雰囲気からサビでは急に真っ白の世界にいくような展開にしてほしい、というもので。たしかに第1期のOP(嘘とカメレオン「モノノケ・イン・ザ・フィクション」)はそういう感じがあったので、「そういうことか!」と腑に落ちて。そもそもの形だと紫から赤紫に変わるくらいの変化だったので、それを真っ白にしなくてはいけないと言うことでサビを丸々替えたんです。第2期ではどのエピソードがアニメになっていくかわからないけれど、わたしの印象に残ったエピソードを書き足して、サビでは足りなかった気持ちをAメロやBメロにくっつけていく作業を経て再構築しました。紫から白に変えていただければ、あとは好きなように言葉遊びをしていただければ、というオーダーには添うことができたかなと思います。

――どういった視点で描いていったのでしょうか。

カノエ 主人公の岩永琴子ちゃん……おひいさまが大好きなんです。おひいさまが語り部としてちゃんと物語を紡いでいく。真実を隠すこともありながらも語っていく姿を想いながら書かなければいけないなと思いましたし、バトルマンガというよりもちゃんと言葉で説き伏せていくところが印象的でもあったことから、そうした楽曲にしたいと思ったんです。それで一人の人が色々な物語を語り聞かせていくけれど、これはおとぎ話の世界ですよ、と本をぱたりと閉じる、という全体像になっています。妖怪変化たちがおひいさまを慕っているところはすごく可愛いですし、しかもそれをとてもポップに描いている作品だからこその世界観は楽曲にも込めました。

アレンジャーとの「あ・うん」の呼吸がカノエラナサウンドを華やかに開花させる
――物語や絵からのインスピレーションがふんだんに詰まった楽曲ですが、編曲を月蝕會議などで知られるエンドウ.さんにお願いされています。アレンジについておふたりでお話はされたのでしょうか。

カノエ しました。わたしはアコギで音源を作るのですが、アコギのリフも先にわたしが作って送りもしますし、なんとなく「ここはこうして欲しい」というオーダーも伝えてはいるのですが、ちゃんと言葉にしなきゃいけないところでは「ポップなものが欲しいです」とか「あまりにもおどろおどろしいものにはしないようにしたいです」というのは伝えました。あとは「サビは真っ白なイメージです」ともお伝えしました(笑)。紫から急に白です、と。そういったオーダーはさせていただきました。そうした作業自体もすごくスムーズだったんです。第一音源から「これだ!」というもので、何度目かで「これで完成」というものになりました。

――エンドウ.さんのアレンジの魅力はどんなところにあると思われますか?

カノエ すごく自由な感性を持っている人なんですよね。ゴリゴリなところは、本当に深い部分でゴリゴリの質感にしてくださっていますし、例えば2番の頭のAメロのところに「ふざけたコーラスを入れてもいいですか?」とわたしからお話をしたら「いいじゃん!いいじゃん!」って言ってくれますし、ディレクションでも「こうしたら効果的だよね」「これはやめておこう」といった的確な指示をくださるので、めちゃめちゃやりやすかったです。今までそうしたディレクションをあまり受けてこなかったので、すごくありがたかったですし、レコーディングもこれまでとは全然違いました。セッションをしながら制作ができたなと思います。

――楽曲にどんな変化がありましたか?

カノエ 自分では想像もしていなかったようなコーラスワークが印象的です。普通に3度下とか3度上で守っていくというよりもっと違うアプローチなんですよね。「そこで合ってます?」と思うようなハモりを入れてみたり、「後ろでちょっと囁いてみたら、お化けっぽくないですか?」みたいなアイディアをお互いに行き来させることができましたし、Dメロで全然違うボイスを入れてみるなど、セッションをしながら楽曲が想定していたものから変化していって、それがすごく面白いなと感じました。

――そして今回の「ヨトギバナシ」。ジャケットやMVも含めてビジュアルワークも印象的でした。撮影はいかがでしたか?

カノエ 元々和風のものが好きなこともあるのですが、ちゃんとした和装は初めてだったんです。これまで飾りをつけたり、羽織だけをつけたりするようなこともあったのですが、今回はきちんと和装したので、とにかく品があるように振る舞わなければと緊張しました(笑)。MVの撮影のときにはとにかく艶やかに楽しくやりましょうということだったので、それを目指して無心になってやりました。

――ライブで演奏するとまた盛り上がりそうな1曲ですが、どんなふうに見せたいですか?

カノエ サビに向けて急に明るくなる曲はこれまであまり作っていなかったんです。明るい曲は最後まで明るい、という感じだったので、メロの感じが新しいですが、お客さんがどんな反応をされるのかはライブで演奏してみないとわからないのでわたし自身も実験しながらパフォーマンスをしてみたいと思っています。

――2023年はツアー「四年想歌」が控えていますね。

カノエ 4年ぶりの全国弾き語りツアーになります。会場は前回から半分以下になってしまって寂しいですが、最近はなかなか行けていなかった岩手や広島にも久々に行けるので、新規の方でも大丈夫なのでぜひ遊びに来ていただきたいです。弾き語りのライブになるので、どうしても距離感が近いですし、みなさんとおしゃべりをしながらライブが出来るのではじめての方にも優しいライブです。硬くならずに、新しい気持ちで来ていただけるといいのかなと思います。

――では2023年、ご自身が楽しみにしていることを教えてください。

カノエ スケジュールが恐ろしすぎる状況ではあるのですが、小さい頃からずっとそうですし、カノエラナとして活動をはじめた頃からアニメのオープニングとエンディング、挿入歌をやりたいと言い続けてきてようやくその夢が叶っていますし、しかも大好きな作品のタイアップでもあるんですね。アニメのお話をする機会も増えると思いますし、今まで言えていなかったコアな部分や出すのをためらってきた部分もどんどん出していこうかな、と思っています。「ヨトギバナシ」から始まる2023年はそんな自分の種まきをしていく時間になったら嬉しいです。



●配信情報
Digital Single
「ヨトギバナシ」
1月9日配信開始

配信リンクはこちら

■mora
通常/配信リンクはこちら


●ライブ情報
カノエラナ 弾き語りツアー2023「四年想歌(しねんそか)」

4月15日(土) [岩手] 盛岡Club Change OPEN 16:00/ START 16:30
4月22日(土) [広島] Yise OPEN 16:00/ START 16:30
4月23日(日) [岡山] CRAZY MAMA 2nd Room OPEN 16:00/ START 16:30
4月29日(土) [佐賀] GEILS OPEN 16:00/ START 16:30
4月30日(日) [福岡] graf OPEN 16:00/ START 16:30
5月3日(水) [北海道] SOUND CRUE OPEN 16:00/ START 16:30
5月6日(土) [大阪] Music club JANUS OPEN 16:00/ START 16:30
5月7日(日) [愛知] CLUB UPSET OPEN 16:00/ START 16:30
5月13日(土) [石川] 金沢GOLD CREEK OPEN 16:00/ START 16:30
5月14日(日) [東京] 下北沢シャングリラ OPEN 16:00/ START 17:00

チケット料金:¥4,950(税込)+1ドリンク

チケット販売:秘密鹿江俱楽部先行(りっちなプラン)1月12日(木)23:59まで

詳細はこちら

関連リンク
カノエラナオフィシャルサイト
https://www.kanoerana.com
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