開演時間の5分前から、場内には心を鎮めてくれるような環境音楽が流れ始める。
TEXT BY 永堀アツオ
「透明シンガー」~「Tear of Will」まで、2021年からの活動の集大成に
「Before Dawn-夜明けに君と」というタイトルがついたライブは、アニメ『聖剣伝説 Legend of Mana -The Teardrop Crystal-』のOPテーマ「Tear of Will」からスタートした。ダイナミズムに溢れた壮大で幻想的な楽曲。彼女は“煌めく生命の唄よ/どこまでも闇穿つ意思となれ”というメッセージを観客に届けるように熱唱した。2021年から【孤独や生きづらさを感じる人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける】ということをテーマに活動している早見だが、“光となる音楽”とは、“煌めく生命の唄”のことで、それぞれにとっての“光”とはその人自身の“生命”の煌めきのことなのではないかと感じるオープニングであった。
早見の音楽の根底に“光と命の煌めき”が共通して流れていることは間違いないが、この日は、音楽的な豊かさも存分に感じさせてくれた。ぷす(fromツユ)が手がけた「透明シンガー」では、ボカロP作曲らしい速いパッセージのギターロックナンバーで会場の熱気をあげると、自身が作詞作曲したシティポップ「メトロナイト」へと続き、ファンキーでアーバンなビートと弾む歌声に合わせたクラップが自然と沸き起こったほか、プレイヤーのソロ回しも印象に残った。
「一夜限りのスペシャルライブということで、“Before Dawn-夜明けに君と”というタイトルを付けました。夜明け前から夜明けに向かって皆さんと一緒に走っていけたらなと思います。今日は配信を含めて、たくさんの方がいらしてくださっていて嬉しいのですが、お一人お一人の心に向けて歌いたいと思いますので、最後まで楽しんでください」
そんなMCを経て、コロナ禍に突入した2020年にリリースした2枚のミニアルバム『シスターシティーズ』『GARDEN』の収録曲を中心とした構成へと入っていった。
中盤にはアコースティックコーナーが設けられた。ノイズやメタルのイメージも強いNARASAKIによるカントリーナンバー「ザラメ」にはボサノヴァのムードも加わり、本人作詞作曲の「glimmer」では“暗い空へと僕らは祈る”という歌詞を体現するかのようにスタンドマイクに手を重ね、“遠い空から光は注ぐ”未来の到来に願いと祈りを込めて歌唱。バンドによるインストナンバーを経て、白から青のトップスにピンクや黄色がカラフルに閃くレイヤードスカートに着替えた彼女は、冨田ラボによる良質なポップミュージック「garden」、自身が作詞作曲したスウィンギングなジャズナンバー「Akasaka5」、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)によるゴスペルやソウルのフレーバーを感じるミュージカル調の「PLACE」と、楽曲ごとに様々な表情を見せ、多彩な表現力で会場を華やかに賑やかに彩っていった。
「まだ夜明け前なので“明けましておめでとうございます”とは言えないんですが(笑)、全ては今日に向けて、皆さんと共にいろんなことがあった日々を振り返りながら、新しい光に向かって、進んでいきたいと思います。まだまだその途中」と語ったあと、ジャズのエッセンスを日常に寄り添うポップスにまで昇華させるKenichiro Nishiharaによる「yoso」へ。早見流のジャジー・ヒップホップでギターソロとデュエットするかのような見事なスキャットも繰り出し、そのままシームレスにデビューアルバムに収録された4ビートジャズ「ESCORT」へとつなぐ展開は大きな興奮に包まれた。演奏が進むにつれて観客のクラップが大きくなっていき、ピアノやギターもエモーショナルなソロをプレイし、場内の熱気は最高潮に高まっていた。
ここで、「新曲やります」と一言だけ語り、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』のOPテーマで1月6日リリースの「視紅」(シコウ)をバンドとストリングスのカルテット、コーラスのフル編成で初披露。
「皆様と一緒に素敵な夜明けを迎えられたことをとても嬉しく思います」
鳴り止まない拍手に答えて再登壇した早見は、本編の最後とは打って変わり、胸の奥に輝く宝石をテーマにした「Jewelry」を明るく陽気な雰囲気で歌い、時に飛び跳ね、時にスピンしながら、観客に向かって何度も“大丈夫”と繰り返した。さらに、「NOTE」で新しい始まりを迎える朝の訪れを伝えると、ここでようやく「あ、あけましておめでとうございます」と笑顔で新年の挨拶をし、こう続けた。
「2020年ごろから色んな出来事が起こって、私たちの生活もガラリと変わってしまって。自分の日々の中にもたくさんの変化が起こったんじゃないかと思います。嬉しいこともあれば、悲しいこともあったと思うんですけど、それでも今は、たとえ暗くても、いつかは夜明けに向かって歩いていけるんじゃないか。いつかきっと光が差してくるんじゃないかと思って歌っていきたいなと思っています」
さらに、早見はここで3rdフルアルバムを鋭意制作中であることを伝え、2023年にはこのアルバムのリリースを記念したライブツアーの開催を予定していることも発表。「わーい!やったよー!!」と声をあげ、さらに制作中のアルバムから、現在19歳のシンガーソングライターである諭吉佳作/menが提供した新曲「エメラルド」も初披露。ドラムがブラシを手にしたジャズナンバーで愛を歌った彼女は、「皆様と一緒に素敵な夜明けを迎えられたことをとても嬉しく思います」と語り、コーラス隊と重なる早見の透徹した歌声がきらめくデビューシングル「やさしい希望」を歌い、演者、スタッフ、観客に感謝の気持ちを伝え、「2023年も楽しく共に音を奏でていきましょう」と語りかけ、この日のライブは幕を閉じた。
2023年1月2日(月)TOKYO DOME CITY HALL
“Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに君と”
<セットリスト>
1. Tear of Will
2. 透明シンガー
3. メトロナイト
4. 瀬戸際
5. 遊泳
6. mist
7. Guide
8. ザラメ
9. glimmer
10. garden
11. Akasaka5
12. PLACE
13. yoso
14. ESCORT
15. 視紅
16. Awake
アンコール
EN-1. Jewelry
EN-2. NOTE
EN-3. エメラルド
EN-4. やさしい希望
●リリース情報
アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』OPテーマ
「視紅」
(作詞・作曲:渡辺 翔 編曲:渡辺拓也)
デジタル配信中
https://nex-tone.link/A00108801
関連リンク
早見沙織オフィシャルサイト
https://hayamisaoriofficial.com
早見沙織Official Twitter
https://twitter.com/hayami_official