早見沙織が、アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』のOPテーマとなる新曲「視紅(しこう)」を配信リリースした。作詞・作曲は、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 新章 迷宮篇』のEDテーマ「Guide」に続き渡辺 翔が手がけている。
渡辺いわく「完全に別ベクトルで表現された『ダンまち』の世界観」だという楽曲に、早見沙織はどのように向き合ったのか。初披露の場となった、自身3年ぶりとなる有観客ワンマンライブの感想を皮切りに、新曲に込めた思いや現在制作中だというニューアルバムの話を聞いた。

INTERVIEW&TEXT BY 永堀アツオ

「Guide」とは対照的な「絶望の始まりを表しているような楽曲」に

――1月2日にTOKYO DOME CITY HALLで開催されたワンマンライブ“Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに君と”を終えられたばかりですが、まずはその心境から聞かせてください。

早見沙織 個人的に1月2日という日にライブをするのも初めてでしたし、年末年始にずっと準備をしていくという経験もあまりなかったので、初めてづくしだったんです。しかも、有観客ライブは3年くらいできていなかったので、ある意味、またここから始まっていくぞっていうような真っさらな気持ちで1から準備したものを無事に終えられてよかったなと思います。

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――3年ぶりにお客さんを前にして歌って、どんなことを感じましたか。

早見 すごくドキドキでした(笑)。もちろんまだ声出しができる状況ではなかったんですけど、お客さんがすごく近く感じられる会場でもあったので、歌っている目の前で笑顔でいてくださったり、ときに涙を流してくださってる姿がダイレクトに入ってきて。歌いながらこれが生のライブだよなって思って、熱がこもりましたね。

――夜明けに向かって一緒に歩んでいくというコンセプトの中で、本編最後の「Awake」の前に新曲「視紅」を初披露されました。夜明けを迎える直前にこの曲を入れたのはどういう意図でしたか。


早見 新曲なので、本編のラストの方に持っていこうというのをイメージしていたんですけど、特に今回の「視紅」は、アニメでの『ダンまちⅣ』の『深章 厄災編』という、一番重たいというか……一番シリアスで、一番過酷で、一番暗いところが存分に描かれている物語のOPテーマになっていて。当初から、明るくて華やかな曲ではなく、絶望に満ちあふれていて、必死な要素を感じられる曲というイメージがあったんですね。作詞・作曲をしてくださったた渡辺 翔さんも、「絶望に落ち切ったところから、また這い上がる力をくれる曲だ」というお話をされてて。だから、「Awake」という「希望に向かって共に歩んでいく曲」の前に、一度どん底に落ち切るというか。ただ、これまでも、決して明るいだけの曲は作ってきてはいなくて。明るいところもあれば、暗いところもある。色んなものを踏まえた上で前に進んでいくというイメージをずっと持っていたので、「視紅」は絶対にこのライブの本編に入れたいって思っていましたね。

――ライブの流れで聞くと、本当に夜明け前の一番暗い時間を表現しているように感じました。楽曲の制作はどんなところから始まったんですか。

早見 翔さんとは『新章』EDテーマの「Guide」でもご一緒させていただいたんですけど、全然違う楽曲にしていきたいって話をして。『新章』も激しい冒険で、重たい話でもあったんですけど、作品のエンディングだから、物語全体を包み込んでくれるような温かい楽曲を作ろうって言っていたんですね。でも、今回はオープニングということで、絶望の始まりを表しているような楽曲にしようっていうところは決まっていて。


――最初にデモ音源を受け取ってどう感じましたか。

早見 「視紅」の元になるデモを聴かせていただいたときに、ちょっと妖しげな闇の部分が刺さって。本当に1回聴いただけで引き込まれて、この曲を歌わせていただきたいなって強く思ったんです。「Guide」はすごく優しくて、1回聴いただけで浄化される感じがしたんですけど、「視紅」はデモの時点から曲に引っ張られていくような引力みたいなものを感じて。しかも、仮歌を翔さんが歌われていたんですけど、結構ニュアンスをつけた歌い方をされていて。そんなことはこれまでになかったんですよ。だから、きっと、翔さんの中ではもう出来上がってるイメージがある、強い思いが入っている曲なのかなと感じまして。個人的にはこの曲がいいですっていうことは最初に伝えました。

早見 私もそうでしたけど、チームのメンバーも、翔さんもこの曲が一押しっていう部分で共通していたので、それを『ダンまち』の制作スタッフの皆様にも受け入れていただいて。でもそれは、こういう物語だからこそなし得た選曲だったのかなって思います。私も物語の中で、リューさん(リュー・リオン)役でずっと関わらせていただいているんですけど、リューさん的にも物語のマッチ具合を考えたら、個人的にはもうこの曲だって強く思って。

――キービジュアルからもうボロボロになってますよね。


早見 リューさんとベルくん(ベル・クラネル)がダンジョンの深いところで絶望しながら進んでいく話なので、だいぶ、そこは意識しましたね。歌詞からもギリギリでもがいている感じというか、どうにか前に進もうとする思いを感じて。絶望はもう味わいきっているし、絶望に埋もれているけれども、だからこそ一筋、辿るものが見えてくる。それは歌詞からも感じましたね。諦めてない。

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「視紅」というタイトルに込められた様々な意味合い
――歌詞に対して、早見さんご自身の「光となる音楽を届ける」というテーマと重なっている部分はありましたか?

早見 この曲で歌っている部分や表現の仕方は、光が見えなくてもいい、基本、闇でいいなと思ってて。「視紅」というタイトルもそうですけど、真っ暗にいるから、見えてくるものがあるというか。それでも進める細い何か……そこの中で生まれる生命力がある、みたいな。それは、私が2022年にリリースしてきた楽曲の中で歌ってきたものとすごく通ずるところがあって。別にずっと明るくなくていいし、ずっと希望に満ちあふれている曲を歌っているわけではない。決して希望がないときでも、それも含めて、生きていけるような楽曲にしたかったので、暗い中に感じられる光の気配みたいなものをイメージしていましたね。

――“モノクロなら身を任せ/ゆっくり光浴び色を慣らす”というフレーズはどう捉えましたか。


早見 明るくない中にある、光の気配のようなものを感じていて。色がない世界でも、どこかから感じる光に自分が少しずつ染まっていくことができるし、それを感じながら歩んでいくことはできる。暗い中にいても進んでいけるわずかなエネルギー、というイメージで歌いました。

――「視紅」とは、目の中にある光を感じる物質のことなんですよね。

早見 はい。正確に説明するのは少し難しい言葉なんですけど(笑)、それがあるから色を見られたりとか、光を見られたりするものであって。色々な候補から話し合って決めたタイトルですけど、色のない世界で色を見つけられる、まさに「視紅」的な要素をこの楽曲が持ってくれているといいなっていうのもありますし、物語では結構、流血もしますし……。

――赤い血が流れて、目が見えなくなっているような描写もあります。

早見 それでも進んでいくっていう。プラス、ベルくんの瞳は赤いし、その赤い瞳を見ながら進んでいくっていうのもあって。物語の中で色んな赤が出てくるので、二重三重に意識したタイトルになっています。



――また、楽曲自体はとても激しくて、とても繊細で、ダイナミズムのあるものになってますよね。
フリージャズのようでもあるし、プログレのようでもあるし。


早見 渡辺拓也さんのアレンジが入って、その要素が強くなりました。例えば間奏のところの動き続けるピアノやギターで、拓也さんのカラーを出していただいて。デモよりだいぶロックな感じになりましたし、楽器にも厚みが出て。その分、オープニングらしさも足されていますけど、歌をどれくらいそこに寄せていくかが考えどころでした。元気すぎない方が合うかなと思ったので、ボーカル自体もバック(演奏)の圧に対してそこまで出していないんです。歌い方は「低温で燃えている」ような感じを意識していましたね。

――静かに熱く、のような。

早見 タイトルは赤なんですけど、真っ赤な炎というよりは、すごい熱いけど、ちょっと冷めたところのある青い炎のようなイメージです。それも最初、プリプロでキー合わせや雰囲気を決めるときにに、チームのみんなと話し合って。色々試していたんです。歌いまくるバージョンとか、囁くように歌うバージョンとか、ちょっと張ってるバージョンとか。
でも、基本は、仮歌のイメージがあまり張っていなかったし、「ちょっと締めた、苦しい感じで歌ってほしい」という翔さんのイメージは崩さないようにして。やっぱりガツンって出すと、抜けが良くなって、生命力が出てしまうので。

――まだ奈落の底にいるから。

早見 そうなんですよ。だから、割とウィスパーな感じで歌ってたり、本当だったらもっと張ってもいいところを張り切らない。その辺りで、もうぼろぼろな感じを出したいなと。「どうしよう?」と迷っていたところもあったんですが、チームのメンバーから「1回、エログロなイメージで歌ってみて」というキーワードが出てきて。それが正解はどうかはわからないんですけど、その感じを頭の片隅に置いて歌ったデモのテイクが結構良くなったんですよ。そういう、ちょっと妖しい感じ、正攻法じゃない感じというのは意識していました。

――楽曲が完成し、OPアニメーションとともにご覧になってどう感じましたか。

早見 オープニングの映像ではバトルのシーンもそうですけど、リューさんにとって大事な存在の人たちとかがふわっと描かれていたりして。今回、物語の中で欠かせないキーパーソンが何人かいるんですけど。リューさんの過去にまつわる人たちは、リューさんが前に進むきっかけにもなるし、アニメーションでも印象的に描かれていて。だから、私はすごく絶望感にあふれたものを歌っていたけど、こうして絵と合わさったものを聴くと、そこが希望みたいにも見えてくるのが面白いなと思いました。やっぱり映像の力って大きいなと感じましたね。

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ニューアルバム、そしてツアーに向けて。2023年は「音楽に囲まれたい」
――先日のライブの話題に戻りますが、「視紅」のほかにもう1曲、現在制作中というアルバムから新曲「エメラルド」をアンコールで披露されましたね。

早見 ライブの制作とアルバムの制作は本当に同時進行で。今年はアルバムのリリースとツアーがあるので、ファンの皆様にもどんどんワクワクを高めていただきたいなっていう気持ちがあって……アルバム発売前にもそのエッセンスというか、様子を感じていただきたいなと思い、せっかくなので歌わせていただきました。

――弱冠19歳のシンガーソングライター諭吉佳作/men(ユキチカサクメン)さんによる楽曲提供なんですよね。

早見 そうですね。アルバムを作るにあたって、チームで話し合っていたときにお名前が挙がって。私は元々、すごく好きで聴いていたので、ぜひお願いしたいって思ったんですね。この「エメラルド」もそうなんですが、諭吉さんの楽曲に流れる軽やかさというか、芯のある自由さみたいのが、アルバムの中に1曲あることで、より輝きを放つというか。自分の足で立って軽やかに進んでいっている感じが、歌っていてもそうですし、聴く側に立ってもすごく力をもらえる曲になるんじゃないかなと思っています。

――アルバムはどんなものになりそうですか。

早見 これまでの流れを汲みつつ、アルバムの新曲たちはかなり個性のあるものになっているので、個人的には1曲1曲全部シングルで出したいくらいの気持ちで作っています。

――早見さんが2021年から掲げてきた「孤独や生きづらさを感じる人の心に寄り添い、光となる音楽を届ける」というテーマの集大成になりそうですね。

早見 なると思います。アルバム全体の底に流れるテーマは意識していますし……先ほどお話ししたこととと近くなるんですけど、輝きもあれば、淀みもあるし、綺麗な部分も濁った部分も、全部を含めて進んでいける、というものだと思うので、なるべく色んな要素を入れられればいいなと思って作っています。

――完成を楽しみにしております。そして、今月1月28日には“リスアニ!LIVE2023”SATURDAY STAGEへのご出演もありますね。武道館での“リスアニ!LIVE”のステージは5年ぶりとのことですが。

早見 すごく久しぶりなんですよね。ここ最近に作ってきた1曲1曲、全部違うんですけど、どれも150%の思いを込めて作った楽曲たちをこの日に持っていこうと思っていて。武道館という素晴らしい場所でお届けできる機会もこの日だけだと思うので、生のライブで新曲たちをぜひ聴いていただきたいですね。1月2日のワンマンライブはありましたけど、この日はこの日の気持ちで、また新しい楽曲の表現を探しながら歌っていきたいので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。これまで聴いてくださっている方はもちろん、このライブで初めて聴いていただくという方へのきっかけになるライブにもできたらいいなと思っています。

――最後に、2023年の目標をお伺いできますか。どんな1年にしていきたいでしょうか。

早見 音楽に囲まれたい、と思っています。2021年から2022年にかけて出したシングル楽曲だけでなく、アルバムに向けて本当に素敵な新曲ができているので、その曲たちに囲まれて、アルバム発売、そして、ツアーと、ずっと音に囲まれながら1年間、活動していきたいなと思っています。声のお仕事の方も、ナレーションや吹き替えも含めて、どのジャンルでも全て全力でやってきたので、お互いに還元できたらいいなと思っていて。声のお仕事の方で感じた学びや感覚、表現を音楽に還元できたらいいなと思いますし、音楽の方で得たものをまた自分の声の表現にも使っていけたらいいなと思っているので、2023年はその相互作用で頑張っていきたいです。

●リリース情報
アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』OPテーマ
早見沙織「視紅」
(作詞・作曲:渡辺 翔 編曲:渡辺拓也)
デジタル配信中
https://nex-tone.link/A00108801

■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら

●作品情報
アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 深章 厄災篇』



放送情報
<地上波先行・独占先行配信>ABEMA:毎週木曜 23:00~ ※配信後、毎週金曜日25:35 まで ABEMA プレミアム会員限定公開
TOKYO MX:毎週金曜 25:05~
BS11:毎週金曜 25:30~
AT-X :毎週月曜 22:30~ リピート放送あり
ほか各種配信サイトにて配信中

©大森藤ノ・SBクリエイティブ/ダンまち4製作委員会

●イベント情報
リスアニ!LIVE 2023
※早見沙織は2023年1月28日(土)SATURDAY STAGEに出演!

2023年1月27日(金)EXTRA STAGE
開場17:30/開演18:30 (予定)

2023年1月28日(土)SATURDAY STAGE
開場15:00/開演16:00(予定)

2023年1月29日(日)SUNDAY STAGE
開場14:00/開演15:00(予定)

会場:日本武道館
チケット(※すべて全席指定)
1月27日(金)EXTRA STAGE
¥6,200(税抜)/¥6,820(税込)
1月28日(土)SATURDAY STAGE、1月29日(日)SUNDAY STAGE
¥9,300(税抜)/¥10,230(税込)

詳しくはこちら

関連リンク
早見沙織オフィシャルサイト
https://hayamisaoriofficial.com

早見沙織Official Twitter
https://twitter.com/hayami_official

「ダンまち」シリーズポータルサイト
http://danmachi.com
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