アニソンシンガーのオーイシマサヨシが、TVアニメ『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』のOPテーマ「ギフト」を含むEPをリリースする。本人をして「これはミニアルバムである」と言わしめる濃密な1枚には、表題曲のほかに劇場版『グリッドマン ユニバース』主題歌「uni-verse」、「アズールレーン」5周年記念ソング「碧い砲撃」も収録。
今回はこれら3つの新曲と、その制作過程を辿る熱い話を聞かせてもらった。

INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち

「毎週観ている僕ら自身が、真昼ちゃんに骨抜きにされていく感覚」がポイントだった

──2023年最初の1曲として「ギフト」が1月8日にデジタルリリースされてしばらく経ちますが、今年の幕開けはどんな時間でしたか?

オーイシマサヨシ 年明けから制作をしたり、人狼ゲームをしたりと楽しい始まりでした。僕は1月5日が誕生日なのですが、本当にたくさんの皆さんに祝っていただきましたし、自分でも個人配信をしてたくさんの人に見ていただいて、みんなに囲まれた素敵な43歳を迎えることができました。直後には『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』も放送開始となりましたし、年始から本当に楽しい日々が続いているなぁと。

──その『お隣の天使様』のOP主題歌となっているのが「ギフト」です。この楽曲のオーダーにあたってはどのようなキーワードがあったのでしょうか。

オーイシ 「多幸感」ですね。ラブコメの楽曲はこれまでにも何曲かやらせてもらったことがあるのですが、その中でも特に「君じゃなきゃダメみたい」とか「オトモダチフィルム」のような、「聴いたら胸が弾んだり心が弾んだりして、幸せになれるような曲にしたいんです」とのことだったんですね。『お隣の天使様』は主人公の藤宮 周くんが自堕落な生活をしている中で天使様(=椎名真昼)と出会って変わっていくお話ですが、そんな情けない……まではいかないまでも、愚にもつかない感じの男の前に天使が現れたらどうなるのか、ということを、オーイシさんなりに表現してもらいたい、といったオーダーから制作を始めた1曲です。



──この曲で音色についてはどのようにこだわっていかれたのでしょうか。

オーイシ 「幸せ」を音で表現するときには色んな形があるなって思っていて。その中で僕がよく使っているのはチューブラベルなんです。
「キンコンカンコン」といった音ですね。あとはファンクなホーンセクション。それで否が応にも聴けば胸が弾む、というのはあると思うのですが、今回はピアノとストリングスの構成の中で、ちょっとゴスペルっぽいコーラスワークが入ってきて、祝福感という意味合いでの多幸感をサウンドでも演出してみました。

──ピアノが前面に出てくる感じも含め、生音感の強い1曲ですよね。

オーイシ ストリングスも生でレコーディングさせてもらいましたから。人の血が通っている感じの音源ではあると思います。

──制作の依頼にあたって歌詞の要望などはありましたか?

オーイシ 「主人公だけではなく視聴者の、ファン側の視点も入れてほしい」というのがありました。要は毎週観ている僕ら自身が、ヒロインである真昼ちゃんに骨抜きにされていく感覚ですね。その辺りの視点を自分のドキュメントとして入れつつ、「それはもう恋じゃない?」とか「付き合っちゃえよ!」「じれったいな」とツッコみたくなる感じも合いの手として入れられたら、作品としてもより奥行きが出るのかなと思って。歌詞の方でもそういったワードを散りばめていきました。


「思いつく限りの天使様を考えた」MV制作の舞台裏
──アニメのOPテーマは作品の顔だったり名刺代わりであることが大事だと思いますが、この曲を聴くと『お隣の天使様』の世界観がそのままに説明されているような印象です。

オーイシ 周くんも真昼ちゃんもテンションが高いわけではないですし、物語自体は意外と淡々と進んでいくのですが、2人以外のサブキャラが囃し立てたり、お母さんが出てきてしっちゃかめっちゃかになったりはするんですけど、どちらかというと「ラブ要素が7」:「コメディ要素が3」みたいな分量感の作品ですよね。
だから、初めてOPテーマを聴いた方々は、僕の歌声に作品とのテンション感の違いを感じてびっくりされるかもしれません。「なんでお前だけ張り切ってるねん、オーイシ!」みたいな(笑)。でも、いや待て、と。みんなもそうじゃない?って。毎週観ていて、僕は常に「真昼ぅ!ワァオ!」なんですよ。

──わかる気がします。

オーイシ 回を追うごとに、その感覚がクセになっていくような楽曲になっていけばいいなぁって思っていて。みんなで最終話のゴールを迎えるときには「この主題歌じゃないと『お隣の天使様』は語れないよね」というところまでいけたらいいなぁと思っています。今回、僕はこの曲でいい意味での違和感を狙っていたのもあって。

──それはどのような?

オーイシ 『お隣の天使様』の原作を読んだとき、初めに「僕ができることはなんだろうな」って思ったんです。こういう甘々でじれったい原作なら、主題歌でもヒロインがフィーチャーされるべきだと思うし、例えば透明感のある女性ボーカリストや声優さんが歌った方が効果的なんじゃないかという考えもあって。そんな中で自分が任されたからには何をしたらいいかと考えたときに、多少の違和感やギャップをあえて残したり、爪痕が残るようなOPテーマにした方がいいのではないか、というところに行き着いたんです。


──先ほどのお話の中でも「ワァオ!」という声が漏れましたが、ファンクっぽいフェイクも含めてテンション感の高いボーカルスタイルの1曲ですよね。トラック自体のテンションもあると思いますが、クリエイターとして、ボーカリストであるご自身にはどんなディレクションをされたのでしょうか。

オーイシ 透明感のある作品なので、Aメロやサビの頭ではちゃんとボーカリストとして作品に着地できるような、ある種の爽やかさのあるトーンで歌いたいと思っていました。いつもよりは落ち着きながら着地をさせようとしている感じはあるかもしれないです。ただ場面展開の多い曲でもあるので、Aメロが静かだったとしてもBメロはジャズとラップの融合で、サビに行く前にも「それってもはや恋じゃない?」って別のパートがあって、サビがあってアウトロ、Dメロが用意されていて。その場面場面で自分がどうあたふたしているか、どういう気持ちになっているかをボーカルで表現できるように……というのはあったと思います。



──「ギフト」はダンスが話題のMVも制作されています。かつて「オトモダチフィルム」のMVで共演されたモデルのウーリャさんのご出演が嬉しいですね。

オーイシ 「こういう楽曲だし、踊りたいな」「ミュージカルっぽい感じでやりたいな」って個人的な思いつきがきっかけでした。ここに天使様のような登場人物も必要だろうなってときに、普通のタレントさんには「天使様として一緒に歌って踊ってください」とはハードルが高すぎて言えないと思ったんですね。でもそこで「オトモダチフィルム」からの流れでストーリーがあるウーリャちゃんがいて。一緒に踊ることによって、あのときも天使だったけど、さらに大きく成長して美しくなって「やっぱり天使だったんだ」というストーリーも乗せられるような……こちら側が思いつく限りの天使様を考えて、ウーリャちゃんにオファーをさせていただきました。


──久しぶりの再会はいかがでしたか?

オーイシ 前回ご一緒したとき小学生だったのが16歳になって、身長もそろそろ僕のことを追い越すんじゃないかなってくらいに伸びていて、親戚のおじさんのような気分になりました(笑)。なによりも1日、撮影をしていた時間が楽しくて。ずっと笑っていた記憶しかありません。それもあって、すごくいいMVになったなと思います。

楽曲が繋ぐ『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』の“宇宙”
──EPの2曲目は「uni-verse」。こちらは劇場版『グリッドマン ユニバース』の主題歌となります。『SSSS.GRIDMAN』からずっと共に走ってきた「グリッドマン」シリーズに対して、今はどのような想いがありますか?

オーイシ 色んなアニソンフェスで「UNION」や「インパーフェクト」を歌うたび、お客さんからの熱い反応があって、すごく聴いてもらえていることが伝わってきて嬉しかったです。この作品がきっかけでヒーロー系のイベントや、ヒーローもののアニメに呼んでもらえることも増えたので、楽曲が自分の名刺にもなったかなと思います。『SSSS.GRIDMAN』の主題歌のオファーをいただいた当初は、ここまで長く愛される作品になるとは想像していなかったので、今も作品とともに多くの人に楽曲が愛されていることは嬉しいですね。一方で、「作品と共に走って、並走してきた」という気持ちではなくて。「ファンとして応援して、見守ってきた」という感覚が近いかもしれないです。僕自身、シンプルに『電光超人グリッドマン』(1993年の特撮ドラマシリーズ)からのファンなので、一緒に音頭を取って「あのシーンを思い出そうぜ」とか「あの戦い同様に熱くなろうぜ」という気持ちで歌わせていただいていますね。


──「uni-verse」について、『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』のクロスオーバー作品である劇場版『グリッドマン ユニバース』の曲だからこそこだわった、というポイントはありますか?

オーイシ これまで「UNION」にしても「インパーフェクト」にしても、速いテンポの爽やかなロックナンバーで、「SSSS」シリーズの主題歌はこういう感じだ、というイメージも定着しつつあると思うのですが、今回は映画の脚本も読ませていただきながら着想を得ていく中で「既存の曲のイメージとは別アプローチにしたいな」と思ったんです。『グリッドマン ユニバース』の脚本自体が『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』の宇宙が交差するという内容だったので、これまでとは違う切り口で、より大団円を迎えられるような楽曲の方が合っているんじゃないかなと。そこで最初に思いついたのが「合唱」でしたね。バックコーラスがあって、多人数感のあるイメージは今回の曲にはマストだなと思って。

──登場人物も自然と多くなりますからね。

オーイシ そうなんです。2つの作品世界が交差するということは否が応でもドリームチーム感を想像できるので、それに似合う曲は壮大な方がいいし、みんなが集まってヒーローパワーを集めていく感覚で作っていきました。



──『SSSS.GRIDMAN』、『SSSS.DYNAZENON』双方の楽曲を歌ってきたからこそのギミックなどは盛り込まれたのでしょうか。

オーイシ シリーズを通したカタルシスみたいなものになればと思い『SSSS.GRIDMAN』で作品のキャッチフレーズとして掲げられていた「独りじゃない。いつの日も、どこまでも」を歌詞に織り交ぜています。作品の1つのテーマになっている「すべての宇宙はつながっている」ということに対して、楽曲にも一本の芯が必要だなと思って歌詞を考えていきました。

──『電光超人グリッドマン』からの、30年に渡る歴史が紡がれてきた先にある1曲ですしね。


オーイシ 「SSSS」シリーズの楽曲では、自分が主人公だと思って生きていたのに、いつのまにかただの一般人になってしまっていて、それでも主人公を取り戻そうともがく「大人になった少年たち」へのメッセージをずっと書いてきたのですが、今回も例にもれずその感覚はあって。というのも……みんな、子供の頃はヒーローの真似事をしていたと思うんです。大人たちの目から見れば、ただ砂場で遊んでいるだけかもしれないけれど、僕らの目線からすれば本気で地球を救ってきたし、目の前には太刀打ちできないような怪獣がいたんです。あの世界を嘘にしてはだめだと思った。子供の想像かもしれないけれど、僕らが起こした1つの実体験としてのビッグバンは絶対に取っておくべきだ、という想いがずっとあったので、それをもう一度思い出してほしい、もう一度僕にそのユニバース(宇宙)を見せてほしい、と思って書いた曲です。


「アズレン」というコンテンツが呼んでくれた“開かずの引き出し”
──EPの3曲目には、「アズールレーン」5周年記念ソングとなった「碧い砲撃」も収録されます。

オーイシ 「アズレン」と言えば傷つき、傷つけられながら1つの勝利をもぎ取っていくゲームですが、その世界観に合った戦いと、海と、潮風を感じられるハードなナンバーにしたくて作っていきました。もともとラウドロックやハードロックっぽいものが大好きなので、個人的にもいつかやりたいと思っていた開かずの引き出しだったんです。

──重厚なストリングスや海を想起させる展開など、オーイシさんの曲としてすごく新鮮な印象でした。

オーイシ それこそ「アズレン」というコンテンツが呼んでくれた引き出しだったのかもしれません。ずっと僕の活動を見てくださっている皆さんにとっては「こういう楽曲もできるんだ!」と感じられるかもしれないですが、なんだったら大学時代の僕はこういう曲ばかり作っていました(笑)。その頃を思い出しながら作った曲です。今回は一緒にアレンジをしてくれたebaくんの力が大きくて。彼がすごく得意なタイプの楽曲ということもあり、重厚なサウンドにしてもらいました。演奏も、ドラムは岸田教団&THE明星ロケッツのみっちゃん、ベースはヒトリエのイガラシくんにお願いをして、よりかっこいいロックサウンドを作っていきました。



──とても充実したEPになりましたね。

オーイシ 濃い3曲が揃っていますし、僕はこれをEPではなくミニアルバムだと思っています。あとは本作を聴いて例えば『SSSS.GRIDMAN』ファンの方が『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』を観てくれたり、その逆や「アズレン」も含めてですが、作品同士の架け橋的な存在になれたら嬉しいので、皆さんの「推し」や「好き」が増える1枚になってくれたらいいなと思っています。

──本作のリリース後はすぐにワンマンライブ(3月18日 神戸文化ホール、3月25日 TOKYO DOME CITY HALL)ですね。

オーイシ ようやく声出しが戻ってきたというタイミングでもありますし、そろそろオーイシも本気を出そうかな、と。オタクのみんなと一緒に声を出したいですし、「uni-verse」という合唱曲も作りましたし、「ギフト」では合いの手も入れてもらいたいので、楽しみです!

●リリース情報
オーイシマサヨシ
New EP「ギフト」
2023年3月8日発売

【通常盤】

品番:PCCG.02223
価格:¥1,760(税込)

【天使盤】

品番:PCCG.02224
価格:¥1,760(税込)

【GRID盤】

品番:PCCG.02225
価格:¥1,760(税込)

<収録曲>
1. ギフト  ※TVアニメ『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』オープニング主題歌
2. uni-verse ※劇場版『グリッドマン ユニバース』主題歌
3. 碧い砲撃  ※「アズールレーン」5周年記念ソング
4. ギフト (TV edit.)
5. uni-verse (movie edit.)
6. ギフト (Instrumental)
7. uni-verse (Instrumental)
8. 碧い砲撃 (Instrumental)

<仕様>
・描き下ろしアニメイラスト ※天使盤、GRID盤のみ

●ライブ情報
オーイシマサヨシ「オーイシマサヨシ ワンマンライブ 2023」
2023年3月18日(土) 神戸文化ホール
2023年3月25日(土) TOKYO DOME CITY HALL

「ギフト」発売記念フリーライブ開催決定!
2023年3月11日(土)14:00~ ダイバーシティ東京プラザ 2Fフェスティバル広場
内容:ミニライブ、ジャケットサイン会

2023年3月12日(日)14:00~ 阪急西宮ガーデンズ 本館4Fスカイガーデン
内容:ミニライブ、ジャケットサイン会

関連リンク
大石昌良(オーイシマサヨシ)公式サイト
https://www.014014.jp/

大石昌良(オーイシマサヨシ)公式Twitter
https://twitter.com/Masayoshi_Oishi
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