VALSHEが1年ぶりのミニアルバム『SAGAS』をリリースした。中東的なサウンドのリードトラックをはじめとした7曲それぞれに、テーマ性を持たせた物語をセットし、そこに生きるキャラクターを描き歌っている。
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
アニバーサリーイヤーを超えたVALSHEが作るコンセプトアルバムとは?
――2022年は数多くのライブのほか、舞台などにも多数出演された充実の12周年イヤーでした。振り返って、クリエイティブ面でどんな刺激を受けましたか?
VALSHE 昨年は音楽活動に留まらず、色んな場所や方法でアウトプットに落とし込むことが叶った1年でした。普段のフィールドでは吸収できないことをインプットできる場所に行けたことで、自分の音楽活動に還元できるだろうという手応えも同時に感じていて。そうしたなかでの、今回の7thミニアルバム『SAGAS』の制作でした。13年目に届けるコンセプトアルバムということで、ファンの方に「10周年のアニバーサリーを終えたVALSHEが次にどんなものを出してくるか」という期待をいただいたなか、その想像を3段も4段も超えていきたいという気持ちを持って作ったアルバムです。
――『SAGAS』のコンセプトは?
VALSHE 13年目のVALSHEとして、コンセプチュアルな物語性のあるアルバムを腰を据えて作ってみたいなと思ったことがきっかけとしてありました。そのなかで「冒険譚」という言葉がワードとして出てきて、1曲ごとにテーマを決めたうえで、それぞれの物語を作っています。リードトラック「KARASQADAR」は「強欲」というテーマになっていて、それに基づく物語を歌詞の中で展開しています。この物語は、「強欲な者は強欲によって落とされる」という顛末を迎えるお話なのですが、人から奪ったり、人を貶めたりすることによって、結果自分自身もまた「強欲」を向けられる。それを歌詞やMVで表現しています。
――「KARASQADAR」は中東的なサウンドが印象的です。
VALSHE そうですね。元々アラビアンなサウンド感や中東系で使われている楽器、代表的なところでいうとシタールとかブッカといった楽器の音色やビジュアルを好んでいました。いわゆるオリエンタルスケールで展開される楽曲が好きなのですが、意外とこれまでアラビアンに振り切ったサウンド感の曲を作ってこなかったんですよね。アラビアンのテイストの持っている元々の世界観が強いぶん、リードナンバーに持ってくることで『SAGAS』というアルバムの入り口としてとてもふさわしいと感じました。イブリースという強欲の悪魔が象徴として出てきたり、アラビアンな言葉選びが随所に散りばめられていたり、色んなところで世界観のカラーを感じていただけるようになっています。
――サビのところはあまり耳馴染みのない言葉で歌われていますが、これはアラビア語でしょうか?
VALSHE そうです。メロディに合わせて文節の切る部分を変えていたり、少し発声を変えたりして、言葉遊びの要素を多く取り入れています。
――オリエンタルスケールで歌うときに意識されたことがあれば教えてください。
VALSHE スケールによって意識する、ということはないのですが、サウンド感的にはメロディ運びもとても細かいですし、サビの部分もトリッキーな動き方をしているので、 気持ち良く歌うために自分自身もさらに歌詞に寄り添ったマインドを作ってレコーディングに臨みました。
――2曲目「MORAL LICENCING」はどのようなテーマでしょうか?
VALSHE 「憎悪」をテーマに制作した楽曲になります。サウンド的には単に疾走感という括りではなく、焦燥感を感じるように意識しました。ゲームや映像作品でハラハラするシーンにかかってるようなイメージですね。
――歌ううえではどのようなところがポイントになりましか?
VALSHE これはすべての楽曲において共通しているのですが、アルバム作品としては1つ1つにそれぞれの物語があって主人公がいます。その生い立ちや生き方に自分の身を委ねてその環境にマインドセットすることを今回の『SAGAS』のレコーディングでは一貫して大事にしていました。
――ということは、例えばVALSHEさんが「強欲」や「憎悪」といった感情を思い出して歌うというやり方ではなかったんですね。
VALSHE そういうことです。1曲1曲ごとの主人公になって歌っているような感覚ですね。例えば、自分自身の中に自分の人生を台無しにしてまで貫けるほどの「憎悪」という感情はありません。それを誰かに向けるなんて、あくまでフィクションの世界で。そういう自分の中に無い感情や生き方が物語それぞれの主人公にはあって、そこにVALSHEという人間を重ねていくような形ですね。
――続いての「John Doe」は音楽ジャンル的にはブルースでしょうか?
VALSHE ブルースファンクですね(ブルースの感情的な歌唱とファンクのリズミカルな演奏を組み合わせた音楽)。この楽曲はずいぶん前から温めていた楽曲だったんです。この曲のテーマを「マイナスの勇気」としてサウンド感を話し合っていたときにこの曲が真っ先に浮かんで、元々のサウンドにさらにアレンジを加えてテーマに寄せていった形になります。
――「John Doe」は「名無し」という意味だそうですが、そこからテーマの「マイナスの勇気」とはどのように展開を?
VALSHE 自分自身の暮らし、名前すらもその日に決めているような奔放な主人公が振るう勇気の向け先を誤って落ちていく、というストーリーがこの歌詞の中で描かれています。やってみる勇気、 取り組んでみる勇気って、必ずしもポジティブに使われるとは限らないと思うんです。例えば、普通ならやらないような悪いことに手を染めてしまうことも、勇気といえば勇気。そうしたマイナス方向に振った勇気で生きている主人公の人生観がこの楽曲の中では描かれています。
――このジャンルでの歌の表現のポイントは?
VALSHE 自分では絶対にない生き方をしている主人公なので、主人公に寄せたマインドセットという点で、とても楽しかったです。ボーカルとしては気だるげな感じ、人生を斜に構えて見ていてそんな世界に絶望もしている。でも野心家で自信家でもあるキャラクター性が、ブルースファンクの曲調にマッチしていて、レコーディングでは色んな積み重ねが上手くいった状態で取り組めた感じがありましたね。
物語を描きキャラクターを置くことで作り出せる楽曲
――次は「Ash」。こちらもファンタジックな楽曲です。
VALSHE これは「変化・起点」というテーマの元に制作しています。主人公が迷ったり大きな決断を強いられたりするなかで、自身で決める勇気や強さの部分に焦点を当てています。
――ストーリーの着想はどういった形で進められましたか?
VALSHE 自分自身の人生の中でも変化やターニングポイントになるようなとき、それが重要なことほど「自分で決めたくないな」と思うことってあると思うんです。誰かに意見してほしいとか、相談に乗ってほしいとか。でもだからこそ、行動をしてみたり、仮にあとで失敗したとしても、自分自身で決めることは人生の見せ場だと思うんです。そうした大事な瞬間を歌ったストーリーになっています。迷いながらも自分自身で切り開いていく選択をすることはVALSHE自身でも大切にしていることなので、気持ちを重ねながら書ける部分が多かったですね。
――楽曲もすごくポジティブです。
VALSHE そうですね。ベースとしてはデジタルロックで 「これから何かが始まる」と期待させるようなサウンドに仕上がっています。Bメロからサビに向かうまでの展開がすごくトリッキーな構成になっているんですけれど、そこで主人公の葛藤の部分であったりとか悩みであったりを真也さんがサウンドで表現してくださって。それをより効果的に聴かせられるようなボーカルになれば、ということをレコーディングでは意識しました。
――「+one step」は軽快なサウンドやコーラスが印象的でした。
VALSHE こちらは「プラスの勇気」をテーマに制作している楽曲です。ストーリーイメージは本当にどこにでもいそうな人物というところを主人公像としていて、「今日こそは」が口癖になってしまった主人公が、自分を変えて大きな一歩を踏み出すまでの物語です。シンプルで爽やかな、疾走感を目指して制作を進めた1曲になっています。元々はリズムトラックとアコースティックギターのみのシンプルな編成でアレンジを考えたりしたのですが、結果的にストリングスやキーボードも加え、より華やかな印象になるようなサウンド作りをしていきました。
――歌ううえでポイントになったキャラクターの気持ちは?
VALSHE このお話としては、「もう1回」がポイントになっています。期待値が低いものや失敗経験に対して「もう1回」頑張ろうとすることは、最初に「やってみよう」とするよりも以上に踏ん張る必要があるから大変ですよね。自分は苦手だと思ったことや、ダメだったことは早々と撤退するタイプなので、それって特殊能力だなと思うんですよね。そこに踏み出せた主人公のお話なので、レコーディングでのマインドセットとしては、不安に蓋をして前に進む表情が見えるように、笑顔で心を強く持って歌っている情景が浮かぶように意識しました。
――この楽曲のキャラクターはそうしたポジティブなタイプですが、ここまで挙げていただいたなかにはネガティブな人物もいました。そうしたキャラクターを想像していくのはどんな想いでしょうか?
VALSHE すごく正直に言えば、ネガティブな感情の人物を創作する方が作りやすいです。 それは自分自身が普段持っている考え方を思えば、発信している楽曲に落とし込むのにそんなに苦労はなくて。ネガティブなものからポジティブなものに実際に行き着くまでには、色んな段階を踏んでいくので、カロリーが要ります。
――「街路樹」は、お馴染みdorikoさんによる作詞作曲です。
VALSHE dorikoにはアルバム全体のコンセプトと、「愛好」というテーマと「暗くなりすぎないラブソングを」という、ある程度のジャンル感の制限だけをお話してお任せしました。もうデビュー当時からの付き合いですので、断片的に伝えても「これ!」っていう楽曲を作ってくれて『SAGAS』というアルバムにマッチした楽曲になっていると思います。
――この曲の中で特に好きな部分はどんなところでしょう?
VALSHE 「暗くなりすぎないラブソングで」というオーダーは、裏を返せば「明るいラブソングを書かないでね」という注文でもあるんです。その良い塩梅のサウンドを出してくれたところも気に入っています。タイトルの「街路樹」は間隔を保って植えられ、隣に枝が届きそうになるとそれを落とされてしまう存在。「愛好」というテーマを人と人の関係性に例える、捉え方そのものも気に入っています。
――「calm」はアルバムの最後を飾る雄大な楽曲です。
VALSHE 大元の楽曲デモは実は2018年から温めていた楽曲です。当時からハリウッド劇伴のようなスケールの大きなバラードに仕上げたいなと思っていたんですが、より今回のテーマに合うように徳永(暁人)さんが編曲してくれました。本当に、さすがの徳永さんという感じでかっこ良く仕上げてくださいました。
――テーマは何でしょうか?
VALSHE 「無欲」です。「足るを知るものは求めずとも満ち足りて生きる」という言葉をキーワードに、理想も含めて描いています。無欲であることは素晴らしい、現在に満足をして感謝をして生きることは美しいことのように思えますが、でも絶対できないことだなと思っているんですね。欲求がいき過ぎると問題ではあるけれど、それがなくても社会は死んでしまう。みんな何かしらの欲求のもと生きていて、だからこそ明日も頑張れるわけですから。
――特にクリエイターにとって、無欲って難しいですよね。
VALSHE そうですね。我々みたいなクリエイティブなところで生きてる人間は、もちろんその欲求がなければ、そもそもなぜ活動するのかという話になってしまいます。ただこれは、誰しも当てはまることではと思っていて。その瞬間に「これは最高だ」となっても、またそれを超えるような最高を求めているし、その相互関係によって自分たちは音楽活動をさせてもらっているわけです。なので、こういう感覚を理想とするけれど、でも欲求というものは自分の心の中に1つ置いておくことは大切だよねと、歌詞を書くときに思っていました。
――「無欲」というテーマを置いたうえでの歌の表現のポイントは?
VALSHE やっぱり自分自身、このアレンジに引っ張られた部分がすごくありました。スケールの大きい壮大なオケや、ゴスペル風のクワイアに対して自分のボーカルがしっかりメインを張れているかという意識を強く持ってレコーディングに臨みました。
――このアルバムをリスナーにはどのように楽しんでほしいですか?
VALSHE 色んなジャンルで1曲1曲に物語をイメージさせられるような世界観を設けていますので、アルバムは音楽作品としてまず1曲1曲を楽しんでほしいという気持ちです。そして、今回はストーリーライブ(“VALSHE STORY LIVE「SAGAS -I’m the one of all the triggers-」”)というものを用意しています。それも含めたすべてを見ていただいたときに、このアルバムに作った仕掛けであったり、『SAGAS』という物語のトリックの部分を気持ち良く回収していただけるような二重三重の仕掛けになっているので、ぜひそこまでしっかり追いかけていただければと思います。
楽曲単体のストーリーとしてしかお話してないということは、アルバムの『SAGAS』というお話が存在しているということ。これから『SAGAS』と名の付くものを発表していくなかで、それを追いかけていただければ、単曲ごとに用意されているストーリーとは別のストーリーが見えてくるかもしれません。
●リリース情報
VALSHE 7th ミニアルバム
『SAGAS』
2023年3月1日(水)リリース
■mora
通常/配信リンクはこちら
<ARD-アルド-盤(1CD+2DVD)トールケース仕様 【完全生産限定盤】>
価格:¥13,200(税込)
品番:JBCZ-9138
<特典DVD>
VALSHE「LIVE THE UNIFY~Follow the Tracks~」(2022年9月23日(金・祝)[FINAL]東京:品川インターシティホール)完全収録
<SHAMS-シャムス-盤(1CD+1DVD)【初回限定盤】>
価格:¥4,500(税込)
品番:JBCZ-9139
<特典DVD>
・「KARASQADAR」Music Video
・Making of「KARASQADAR」
<QAMAR-カマル-盤(1CD)【通常盤】>
価格:¥3,500(税込)
品番:JBCZ-9140
◆収録楽曲 ※全形態共通
01.KARASQADAR
作詞:VALSHE 作曲:バルと瞬さん★ 編曲:Shun Sato
02.MORAL LICENCING
作詞・作曲:VALSHE 編曲:G’n-
03.John Doe
作詞:VALSHE 作曲:後藤康二(ck510) 編曲:後藤康二(ck510), Dr.Tyler
04.Ash
作詞:VALSHE 作曲・編曲:齋藤真也
05.+one step
作詞:VALSHE 作曲:バルと瞬さん★ 編曲:Shun Sato
06.街路樹
作詞・作曲:doriko 編曲:G’n-
07.calm
作詞:VALSHE 作曲:Yenyu Shen 編曲:徳永暁人
[bonus track]ショック THE ワールド
作詞・作曲:VALSHE 編曲:高木龍一(Dream Monster)
●ライブ情報
VALSHE STORY LIVE「SAGAS -I’m the one of all the triggers-」
2023年3月11日(土)
■昼夜二部公演
1部 : OPEN/START 14:30/15:00
2部 : OPEN/START 18:00/18:30
東京:赤羽ReNY alpha
原作・脚本:VALSHE
演出:田邉俊喜 佐藤瞬
VALSHE
平賀勇成 澤田拓郎 星祐樹 鈴木裕斗
チケット料金:全席指定 ¥6,600(税込)
※ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可
詳細はこちら
●VALSHE LIVE TOUR 2023「PRESENT -revenge-」
2023年3月25日(土)
大阪:ESAKA MUSE
OPEN 17:00 / START 17:30
2023年3月26日(日)
愛知:SPADE BOX
OPEN 17:00 / START 17:30
2023年4月1日(土)[FINAL]
東京:SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
OPEN 17:00 / START 17:30
■チケット料金:全席指定 ¥6,600(税込)
※ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可
詳細はこちら
<VALSHE profile>
2010年9⽉にコンセプトミニアルバム「storyteller」でメジャーデビュー。少年のような中性的なハスキーボイスを持つデジタルロックシンガー。主にアニメファン層やネットユーザーを中⼼に⼈気を獲得し現在に⾄る。
デビューから2013年までは、CD ジャケット等はアーティストイメージイラストのみであり、本⼈露出をはじめとして積極的なメディアへのアプローチはしていなかったが、2013年11⽉27⽇に発売され、国⺠的アニメ「名探偵コナン」のオープニングテーマに抜擢された6枚⽬のシングル「Butterfly Core」通常盤ジャケットで、初の顔出し・実写ジャケットを採⽤。その後、⾃⾝初のライブイベントを⾏い、そのベールを脱いだ。「名探偵コナン」ではその後「君への嘘」でもエンディングテーマとして採⽤。その他、「JESTER」(PSP⽤ソフト「官能昔話」テーマソング)や「MONTAGE」(TVアニメ「信⻑の忍び」主題歌)などテレビ番組、アニメ、ゲームなど多くのタイアップ楽曲を持つ。また、ニンテンドー3DS⽤ソフト「ファイアーエムブレムif」ツクヨミ役、TVアニメ「信⻑の忍び」服部半蔵役などをはじめとして、声優としても多数の作品に参加。2018年からはファッションブランド「KINGLYMASK」とのコラボレーションを開始、翌2019年には舞台「ピオフィオーレの晩鐘~運命の⽩百合~」にエミリオ役として初出演を果たすなど、シンガー・アーティストとしての枠を超えた活躍は、ジャンルを問わず多岐に渡る。
現在では、作詞・作曲を始め、アートワークに到るまでのほぼ全てをセルフ・プロデュース。本⼈ビジュアルとアーティストイメージイラストによる作品をコンスタントに発表し続けているほか、ライブツアーの開催やフェス等へのゲスト参加、イベント出演も積極的に⾏っている。最新作は3/1(水)リリースのミニアルバム「SAGAS」。
関連リンク
VALSHE
公式サイト
https://valshe.jp/
公式Twitter
https://twitter.com/valshe9
インタビューでは各曲を深く味わううえでのサブテキストとなるよう、物語の主題と制作の狙いを語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉
アニバーサリーイヤーを超えたVALSHEが作るコンセプトアルバムとは?
――2022年は数多くのライブのほか、舞台などにも多数出演された充実の12周年イヤーでした。振り返って、クリエイティブ面でどんな刺激を受けましたか?
VALSHE 昨年は音楽活動に留まらず、色んな場所や方法でアウトプットに落とし込むことが叶った1年でした。普段のフィールドでは吸収できないことをインプットできる場所に行けたことで、自分の音楽活動に還元できるだろうという手応えも同時に感じていて。そうしたなかでの、今回の7thミニアルバム『SAGAS』の制作でした。13年目に届けるコンセプトアルバムということで、ファンの方に「10周年のアニバーサリーを終えたVALSHEが次にどんなものを出してくるか」という期待をいただいたなか、その想像を3段も4段も超えていきたいという気持ちを持って作ったアルバムです。
――『SAGAS』のコンセプトは?
VALSHE 13年目のVALSHEとして、コンセプチュアルな物語性のあるアルバムを腰を据えて作ってみたいなと思ったことがきっかけとしてありました。そのなかで「冒険譚」という言葉がワードとして出てきて、1曲ごとにテーマを決めたうえで、それぞれの物語を作っています。リードトラック「KARASQADAR」は「強欲」というテーマになっていて、それに基づく物語を歌詞の中で展開しています。この物語は、「強欲な者は強欲によって落とされる」という顛末を迎えるお話なのですが、人から奪ったり、人を貶めたりすることによって、結果自分自身もまた「強欲」を向けられる。それを歌詞やMVで表現しています。
――「KARASQADAR」は中東的なサウンドが印象的です。
VALSHEさんはアラアンな音楽は以前から関心が?
VALSHE そうですね。元々アラビアンなサウンド感や中東系で使われている楽器、代表的なところでいうとシタールとかブッカといった楽器の音色やビジュアルを好んでいました。いわゆるオリエンタルスケールで展開される楽曲が好きなのですが、意外とこれまでアラビアンに振り切ったサウンド感の曲を作ってこなかったんですよね。アラビアンのテイストの持っている元々の世界観が強いぶん、リードナンバーに持ってくることで『SAGAS』というアルバムの入り口としてとてもふさわしいと感じました。イブリースという強欲の悪魔が象徴として出てきたり、アラビアンな言葉選びが随所に散りばめられていたり、色んなところで世界観のカラーを感じていただけるようになっています。
――サビのところはあまり耳馴染みのない言葉で歌われていますが、これはアラビア語でしょうか?
VALSHE そうです。メロディに合わせて文節の切る部分を変えていたり、少し発声を変えたりして、言葉遊びの要素を多く取り入れています。
――オリエンタルスケールで歌うときに意識されたことがあれば教えてください。
VALSHE スケールによって意識する、ということはないのですが、サウンド感的にはメロディ運びもとても細かいですし、サビの部分もトリッキーな動き方をしているので、 気持ち良く歌うために自分自身もさらに歌詞に寄り添ったマインドを作ってレコーディングに臨みました。
――2曲目「MORAL LICENCING」はどのようなテーマでしょうか?
VALSHE 「憎悪」をテーマに制作した楽曲になります。サウンド的には単に疾走感という括りではなく、焦燥感を感じるように意識しました。ゲームや映像作品でハラハラするシーンにかかってるようなイメージですね。
アレンジの部分の制作は歌詞と並行して進んでいたのですが、歌詞の中で攻撃的でダークな言葉が並んでいるところを、編曲のG’n-さんはそこにあえて綺麗めのストリングス音源を入れることでギャップを出してくれたりと、アレンジにこだわっていただきました。
――歌ううえではどのようなところがポイントになりましか?
VALSHE これはすべての楽曲において共通しているのですが、アルバム作品としては1つ1つにそれぞれの物語があって主人公がいます。その生い立ちや生き方に自分の身を委ねてその環境にマインドセットすることを今回の『SAGAS』のレコーディングでは一貫して大事にしていました。
――ということは、例えばVALSHEさんが「強欲」や「憎悪」といった感情を思い出して歌うというやり方ではなかったんですね。
VALSHE そういうことです。1曲1曲ごとの主人公になって歌っているような感覚ですね。例えば、自分自身の中に自分の人生を台無しにしてまで貫けるほどの「憎悪」という感情はありません。それを誰かに向けるなんて、あくまでフィクションの世界で。そういう自分の中に無い感情や生き方が物語それぞれの主人公にはあって、そこにVALSHEという人間を重ねていくような形ですね。
――続いての「John Doe」は音楽ジャンル的にはブルースでしょうか?
VALSHE ブルースファンクですね(ブルースの感情的な歌唱とファンクのリズミカルな演奏を組み合わせた音楽)。この楽曲はずいぶん前から温めていた楽曲だったんです。この曲のテーマを「マイナスの勇気」としてサウンド感を話し合っていたときにこの曲が真っ先に浮かんで、元々のサウンドにさらにアレンジを加えてテーマに寄せていった形になります。
この物語は7曲の中でも特にファンタジックな世界観に振り切った楽曲で、イメージ的にはロンドンの裏街のような情景が浮かぶサウンド感になっています。
――「John Doe」は「名無し」という意味だそうですが、そこからテーマの「マイナスの勇気」とはどのように展開を?
VALSHE 自分自身の暮らし、名前すらもその日に決めているような奔放な主人公が振るう勇気の向け先を誤って落ちていく、というストーリーがこの歌詞の中で描かれています。やってみる勇気、 取り組んでみる勇気って、必ずしもポジティブに使われるとは限らないと思うんです。例えば、普通ならやらないような悪いことに手を染めてしまうことも、勇気といえば勇気。そうしたマイナス方向に振った勇気で生きている主人公の人生観がこの楽曲の中では描かれています。
――このジャンルでの歌の表現のポイントは?
VALSHE 自分では絶対にない生き方をしている主人公なので、主人公に寄せたマインドセットという点で、とても楽しかったです。ボーカルとしては気だるげな感じ、人生を斜に構えて見ていてそんな世界に絶望もしている。でも野心家で自信家でもあるキャラクター性が、ブルースファンクの曲調にマッチしていて、レコーディングでは色んな積み重ねが上手くいった状態で取り組めた感じがありましたね。
物語を描きキャラクターを置くことで作り出せる楽曲
――次は「Ash」。こちらもファンタジックな楽曲です。
VALSHE これは「変化・起点」というテーマの元に制作しています。主人公が迷ったり大きな決断を強いられたりするなかで、自身で決める勇気や強さの部分に焦点を当てています。
サウンド的にも齋藤真也さんがそうした部分をとても素敵に表現してくださっている、お気に入りの楽曲です。
――ストーリーの着想はどういった形で進められましたか?
VALSHE 自分自身の人生の中でも変化やターニングポイントになるようなとき、それが重要なことほど「自分で決めたくないな」と思うことってあると思うんです。誰かに意見してほしいとか、相談に乗ってほしいとか。でもだからこそ、行動をしてみたり、仮にあとで失敗したとしても、自分自身で決めることは人生の見せ場だと思うんです。そうした大事な瞬間を歌ったストーリーになっています。迷いながらも自分自身で切り開いていく選択をすることはVALSHE自身でも大切にしていることなので、気持ちを重ねながら書ける部分が多かったですね。
――楽曲もすごくポジティブです。
VALSHE そうですね。ベースとしてはデジタルロックで 「これから何かが始まる」と期待させるようなサウンドに仕上がっています。Bメロからサビに向かうまでの展開がすごくトリッキーな構成になっているんですけれど、そこで主人公の葛藤の部分であったりとか悩みであったりを真也さんがサウンドで表現してくださって。それをより効果的に聴かせられるようなボーカルになれば、ということをレコーディングでは意識しました。
――「+one step」は軽快なサウンドやコーラスが印象的でした。
どのようなイメージで作られましたか?
VALSHE こちらは「プラスの勇気」をテーマに制作している楽曲です。ストーリーイメージは本当にどこにでもいそうな人物というところを主人公像としていて、「今日こそは」が口癖になってしまった主人公が、自分を変えて大きな一歩を踏み出すまでの物語です。シンプルで爽やかな、疾走感を目指して制作を進めた1曲になっています。元々はリズムトラックとアコースティックギターのみのシンプルな編成でアレンジを考えたりしたのですが、結果的にストリングスやキーボードも加え、より華やかな印象になるようなサウンド作りをしていきました。
――歌ううえでポイントになったキャラクターの気持ちは?
VALSHE このお話としては、「もう1回」がポイントになっています。期待値が低いものや失敗経験に対して「もう1回」頑張ろうとすることは、最初に「やってみよう」とするよりも以上に踏ん張る必要があるから大変ですよね。自分は苦手だと思ったことや、ダメだったことは早々と撤退するタイプなので、それって特殊能力だなと思うんですよね。そこに踏み出せた主人公のお話なので、レコーディングでのマインドセットとしては、不安に蓋をして前に進む表情が見えるように、笑顔で心を強く持って歌っている情景が浮かぶように意識しました。
――この楽曲のキャラクターはそうしたポジティブなタイプですが、ここまで挙げていただいたなかにはネガティブな人物もいました。そうしたキャラクターを想像していくのはどんな想いでしょうか?
VALSHE すごく正直に言えば、ネガティブな感情の人物を創作する方が作りやすいです。 それは自分自身が普段持っている考え方を思えば、発信している楽曲に落とし込むのにそんなに苦労はなくて。ネガティブなものからポジティブなものに実際に行き着くまでには、色んな段階を踏んでいくので、カロリーが要ります。
でもそれが、創作でお話を作るぞとなると、より想像力を働かせながらの楽しい作業になっていく。この楽曲でも、「自分だったらそうはならないけど、この主人公ならきっとこうなるだろうな」というところを含みながら作っていく過程は、ゲームのようでおもしろいですね。
――「街路樹」は、お馴染みdorikoさんによる作詞作曲です。
VALSHE dorikoにはアルバム全体のコンセプトと、「愛好」というテーマと「暗くなりすぎないラブソングを」という、ある程度のジャンル感の制限だけをお話してお任せしました。もうデビュー当時からの付き合いですので、断片的に伝えても「これ!」っていう楽曲を作ってくれて『SAGAS』というアルバムにマッチした楽曲になっていると思います。
――この曲の中で特に好きな部分はどんなところでしょう?
VALSHE 「暗くなりすぎないラブソングで」というオーダーは、裏を返せば「明るいラブソングを書かないでね」という注文でもあるんです。その良い塩梅のサウンドを出してくれたところも気に入っています。タイトルの「街路樹」は間隔を保って植えられ、隣に枝が届きそうになるとそれを落とされてしまう存在。「愛好」というテーマを人と人の関係性に例える、捉え方そのものも気に入っています。
――「calm」はアルバムの最後を飾る雄大な楽曲です。
VALSHE 大元の楽曲デモは実は2018年から温めていた楽曲です。当時からハリウッド劇伴のようなスケールの大きなバラードに仕上げたいなと思っていたんですが、より今回のテーマに合うように徳永(暁人)さんが編曲してくれました。本当に、さすがの徳永さんという感じでかっこ良く仕上げてくださいました。
――テーマは何でしょうか?
VALSHE 「無欲」です。「足るを知るものは求めずとも満ち足りて生きる」という言葉をキーワードに、理想も含めて描いています。無欲であることは素晴らしい、現在に満足をして感謝をして生きることは美しいことのように思えますが、でも絶対できないことだなと思っているんですね。欲求がいき過ぎると問題ではあるけれど、それがなくても社会は死んでしまう。みんな何かしらの欲求のもと生きていて、だからこそ明日も頑張れるわけですから。
――特にクリエイターにとって、無欲って難しいですよね。
VALSHE そうですね。我々みたいなクリエイティブなところで生きてる人間は、もちろんその欲求がなければ、そもそもなぜ活動するのかという話になってしまいます。ただこれは、誰しも当てはまることではと思っていて。その瞬間に「これは最高だ」となっても、またそれを超えるような最高を求めているし、その相互関係によって自分たちは音楽活動をさせてもらっているわけです。なので、こういう感覚を理想とするけれど、でも欲求というものは自分の心の中に1つ置いておくことは大切だよねと、歌詞を書くときに思っていました。
――「無欲」というテーマを置いたうえでの歌の表現のポイントは?
VALSHE やっぱり自分自身、このアレンジに引っ張られた部分がすごくありました。スケールの大きい壮大なオケや、ゴスペル風のクワイアに対して自分のボーカルがしっかりメインを張れているかという意識を強く持ってレコーディングに臨みました。
――このアルバムをリスナーにはどのように楽しんでほしいですか?
VALSHE 色んなジャンルで1曲1曲に物語をイメージさせられるような世界観を設けていますので、アルバムは音楽作品としてまず1曲1曲を楽しんでほしいという気持ちです。そして、今回はストーリーライブ(“VALSHE STORY LIVE「SAGAS -I’m the one of all the triggers-」”)というものを用意しています。それも含めたすべてを見ていただいたときに、このアルバムに作った仕掛けであったり、『SAGAS』という物語のトリックの部分を気持ち良く回収していただけるような二重三重の仕掛けになっているので、ぜひそこまでしっかり追いかけていただければと思います。
楽曲単体のストーリーとしてしかお話してないということは、アルバムの『SAGAS』というお話が存在しているということ。これから『SAGAS』と名の付くものを発表していくなかで、それを追いかけていただければ、単曲ごとに用意されているストーリーとは別のストーリーが見えてくるかもしれません。
●リリース情報
VALSHE 7th ミニアルバム
『SAGAS』
2023年3月1日(水)リリース
■mora
通常/配信リンクはこちら
<ARD-アルド-盤(1CD+2DVD)トールケース仕様 【完全生産限定盤】>
価格:¥13,200(税込)
品番:JBCZ-9138
<特典DVD>
VALSHE「LIVE THE UNIFY~Follow the Tracks~」(2022年9月23日(金・祝)[FINAL]東京:品川インターシティホール)完全収録
<SHAMS-シャムス-盤(1CD+1DVD)【初回限定盤】>
価格:¥4,500(税込)
品番:JBCZ-9139
<特典DVD>
・「KARASQADAR」Music Video
・Making of「KARASQADAR」
<QAMAR-カマル-盤(1CD)【通常盤】>
価格:¥3,500(税込)
品番:JBCZ-9140
◆収録楽曲 ※全形態共通
01.KARASQADAR
作詞:VALSHE 作曲:バルと瞬さん★ 編曲:Shun Sato
02.MORAL LICENCING
作詞・作曲:VALSHE 編曲:G’n-
03.John Doe
作詞:VALSHE 作曲:後藤康二(ck510) 編曲:後藤康二(ck510), Dr.Tyler
04.Ash
作詞:VALSHE 作曲・編曲:齋藤真也
05.+one step
作詞:VALSHE 作曲:バルと瞬さん★ 編曲:Shun Sato
06.街路樹
作詞・作曲:doriko 編曲:G’n-
07.calm
作詞:VALSHE 作曲:Yenyu Shen 編曲:徳永暁人
[bonus track]ショック THE ワールド
作詞・作曲:VALSHE 編曲:高木龍一(Dream Monster)
●ライブ情報
VALSHE STORY LIVE「SAGAS -I’m the one of all the triggers-」
2023年3月11日(土)
■昼夜二部公演
1部 : OPEN/START 14:30/15:00
2部 : OPEN/START 18:00/18:30
東京:赤羽ReNY alpha
原作・脚本:VALSHE
演出:田邉俊喜 佐藤瞬
VALSHE
平賀勇成 澤田拓郎 星祐樹 鈴木裕斗
チケット料金:全席指定 ¥6,600(税込)
※ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可
詳細はこちら
●VALSHE LIVE TOUR 2023「PRESENT -revenge-」
2023年3月25日(土)
大阪:ESAKA MUSE
OPEN 17:00 / START 17:30
2023年3月26日(日)
愛知:SPADE BOX
OPEN 17:00 / START 17:30
2023年4月1日(土)[FINAL]
東京:SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
OPEN 17:00 / START 17:30
■チケット料金:全席指定 ¥6,600(税込)
※ドリンク代別途必要
※未就学児入場不可
詳細はこちら
<VALSHE profile>
2010年9⽉にコンセプトミニアルバム「storyteller」でメジャーデビュー。少年のような中性的なハスキーボイスを持つデジタルロックシンガー。主にアニメファン層やネットユーザーを中⼼に⼈気を獲得し現在に⾄る。
デビューから2013年までは、CD ジャケット等はアーティストイメージイラストのみであり、本⼈露出をはじめとして積極的なメディアへのアプローチはしていなかったが、2013年11⽉27⽇に発売され、国⺠的アニメ「名探偵コナン」のオープニングテーマに抜擢された6枚⽬のシングル「Butterfly Core」通常盤ジャケットで、初の顔出し・実写ジャケットを採⽤。その後、⾃⾝初のライブイベントを⾏い、そのベールを脱いだ。「名探偵コナン」ではその後「君への嘘」でもエンディングテーマとして採⽤。その他、「JESTER」(PSP⽤ソフト「官能昔話」テーマソング)や「MONTAGE」(TVアニメ「信⻑の忍び」主題歌)などテレビ番組、アニメ、ゲームなど多くのタイアップ楽曲を持つ。また、ニンテンドー3DS⽤ソフト「ファイアーエムブレムif」ツクヨミ役、TVアニメ「信⻑の忍び」服部半蔵役などをはじめとして、声優としても多数の作品に参加。2018年からはファッションブランド「KINGLYMASK」とのコラボレーションを開始、翌2019年には舞台「ピオフィオーレの晩鐘~運命の⽩百合~」にエミリオ役として初出演を果たすなど、シンガー・アーティストとしての枠を超えた活躍は、ジャンルを問わず多岐に渡る。
現在では、作詞・作曲を始め、アートワークに到るまでのほぼ全てをセルフ・プロデュース。本⼈ビジュアルとアーティストイメージイラストによる作品をコンスタントに発表し続けているほか、ライブツアーの開催やフェス等へのゲスト参加、イベント出演も積極的に⾏っている。最新作は3/1(水)リリースのミニアルバム「SAGAS」。
関連リンク
VALSHE
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