INTERVIEW & TEXT BY 須永兼次
“過去の私”をすくい上げた、“今の私”で歌ったリード曲
――ソロデビューおめでとうございます!前田さんは元々、こういった個人での音楽活動をしてみたいと思われていたんですか?
前田佳織里 はい。元々高校生のときにガールズバンドを組んでいまして、それをきっかけに人前で表現する仕事に就きたいと思うようになったので、歌はむしろ自分の原点でもあるんです。そんななかで、色んなものになれて色んな表現ができる声優というお仕事にすごく興味を惹かれて、今もやらせていただいているんですけど……事務所に入るときからマルチな活動を目標だと言っていたとはいえ、まさか実際に自分が歌を届ける立場になれるだなんて、いまだにちょっとびっくりしています。
――デビューするにあたって、やってみたい楽曲ジャンルなどは決まっていた?
前田 「こういう曲じゃないとダメなんだ!」みたいなこだわりは全然ありませんでした。ただ、最初に“前田佳織里”のアーティスト像を、スタッフさんとキーワードを出し合いながら、共有していく会議はさせていただいきました。
――どんなキーワードが出てきたんですか?
前田 自分が大切にしたいものについて話したり、自己分析をするなかで……「原点回帰」や「存在証明」、あとは「ステージ」というワードが出てきました。なかでも「ステージ」は、バンドを組んでいたときのように自分の原点でもある大好きな場所であり、声優として様々なライブに出演させていただいた、1つ1つの思い出がある場所でもあって。なおかつ次の一歩を踏み出す新たな場所、という意味合いもある言葉なんです。それに私、ライブじゃないと表現できなかったり届けられないことってあると思っているので、そういうところを大切にしたいとお伝えして作っていただいたのが、今回の4曲です。
――ちなみにデビューの発表はサプライズで行なわれたので、その時点では驚きのほうが大きかったとは思うのですが、喜びが湧いてきたのはいつ頃でしたか?
前田 家に帰ってしばらくしてからじわじわと喜びが出てきたのですが……同時にプレッシャーもすごく感じまして(笑)。「“自分の歌”ってそもそも何?」とか「今の私、何が足りてない?」みたいな気持ちの波が一気にきたんです。でも、そこからはむしろ「ここまで表現力を上げたいから、まずやるべきことはこれかもしれない」みたいなことを考えるようになりまして。
――気持ちを前向きに切り替えられた。
前田 はい。曲をいただく前からボイストレーニングに通い出したり、自分にないものも取り入れられるように、好きで聴いていた音楽以外も聴くようにしていたりしてはいました。あとはデビューを皆さんに発表したときも、みんなが予想の何十倍も喜んでくれたのを見て嬉しさを実感しましたね。発表前日にはみんなの反応が気になって、夜中に何回も起きてしまうくらい緊張していたんですけど(笑)。
――そんな準備を経て臨まれた「未完成STAR」、前田さんはどんな1枚になったと思われていますか?
前田 総じて、自分が表現したいことがちゃんと詰まったものになったと思います。曲ごとのジャンルは違いますが、どれも聴く人が背中を押されて元気が出るようなものになっているので、「未完成STAR」という言葉も含めて、聴いてくれる人が「今の自分のままでもいいよね」と自己肯定できるような1枚になっているんじゃないでしょうか。
――では続いて、楽曲についてお聞きしていきます。まずTVアニメ『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』(以下、『ろうきん』)のOP主題歌になっている「光ったコインが示す方」です。
前田 前向きで、困難なことがあっても1回冷静になってちゃんと答え合わせをしながら前に進む、主人公のミツハにピッタリな曲ですよね。あとは冒頭のはじまり感などアニメソングならではの明るさもありながら、私らしいアップテンポさや疾走感もすごく持っているんですよ。レコーディングでは「夢を叶えたいんだ!」という気持ちを全力でぶつける箇所もすごく頑張りましたし、そういう“前進力”みたいなものって『ろうきん』にもピッタリなんですよ。
――まさに、楽曲からも前田さんの歌声からもまっしぐらさを強く感じます。
前田 私自身「熱量が中途半端だと、説得力のない歌になってしまいそうだな」と考えたので、レコーディングでは言葉の力を伝えられるように、前向きさや熱量は常に自分が思う何倍も乗せていきました。それこそ、レコーディングが終わったらもうヘロヘロになっちゃうくらい(笑)。ただ、本当に最初のレコーディング曲というのもあってか、プリプロのときにはまだどこか殻に閉じこもっている表現をしてしまっていたんですよ。そのときのアドバイスのおかげで、本レコーディングでは全然そんなことなかったのですが。
――「殻に閉じこもっている」とは?
前田 どこか「きれいに歌わなければならない」みたいなところがあったんです。少し話が逸れてしまうのですが……私、初めてキャラクターソングを歌ったときにぶち当たった壁のことをよく覚えていまして。ガールズバンドでの独学の歌い方が染み付きすぎていて、役になりきれていなかったんです。なのでそのとき、自分の癖を1回全部取っ払いまして。それからは役に100%なりきって表現することを突き詰めてきたんです。そうやって役や言葉の丁寧さを大切にしてきたからこそ、逆に自分として気持ちをぶつけるということが、最初は思うようにできていなかったのかもしれません。
――ただ、それも本レコーディングまでには解消されて。
前田 はい。そのなかで、声優として活動している今の自分と1回取っ払った昔の自分がいい具合に混ざりあって、新しい自分の歌ができたんです!そうやって、一度否定しちゃった自分の歌をすくい上げるような表現を見つけられたことは、本当に嬉しい出来事でした。
――そういった出来事を経て、特にサビなどでの力強く突き抜ける歌声に辿り着けたわけですね。
前田 ただ、そのサビのロングトーンのところは最初、本当に苦戦しまして!(笑)。急に音がバン!って上がる箇所というのもあって、技術的にも難しかったんです。でも、レコーディング中に1回突き抜けるようなロングトーンがバーン!と出たとき、コントロールルームが「えぇぇー!」みたいにざわついたのが見えて(笑)。
――「わっ、前田さんが掴んだぞ!」と。
前田 まさに!しかもそれが、その1回だけじゃなくてどんどん更新されていって……そんな経験、初めてだったんですよ!それは本当に新しい扉を開いた瞬間でしたし、「まだまだ成長できるんだ」とも思えた、自分のことを信じるきっかけになった瞬間でもありました。
――そしてこの曲は、MVも既に公開されています。
前田 「ハウスキーパー・前田佳織里が夢を叶えるシンデレラストーリー」というコンセプトです。ただ、人と対立する関係が描かれがちな童話のシンデレラストーリーと違って、このMVでは家族のみんなが私を応援してくれている……という心温まるストーリーがすごく素敵なんですよ。私自身も色んな人に応援されて、たくさんの人との出会いや導きや支えがあって今この位置にあるということを大切にしているので、そういった部分は特に印象に残っています。
――そのほかにも、前田さんのルーツに重なるような部分もたくさんありますよね。例えば、ほうきを使ったエアギターとか……。
前田 たしかに……あのエアギター、スタッフさんの間で好評だったなぁ(笑)。あとはドライヤーで熱唱しているところも、ライブ前に何かをマイクに見立てて鏡の前でパフォーマンスの練習をしていた、バンド時代の自分を見ているような気持ちになりました(笑)。
バラエティ豊かな楽曲を通じて、聴く人の日常に寄り添える存在に
――さて続いて、その他ほかの収録曲についてもお聞きしていきます。2曲目「Fantasy」は少々夜感のあるダンスナンバーですね。
前田 こういうバキバキなダンスチューンって歌ったことがなかったので衝撃的でしたし、一気に虜になりました!普通に日常で何回もリピートするくらい、すごく中毒性もあるんですよ。ただ、そのぶんレコーディングは一番苦戦したかもしれません(笑)。ただ、こういうかっこいい曲って技術力が伴っていないとかっこ悪く聴こえちゃうだろうなと思ったので、キーチェックの段階からアドバイスをいただいたり、ボイトレでも先生に質問したりと自分なりに噛み砕いてから本レコーディングに臨みまして。おかげで、私の想像よりは時間がかからず録れました。私としても新しい発見になった曲ですし、聴いてくださる方にも「あ、前田ってこういう曲も歌えるんだ」と感じてもらえたら嬉しいです。
――続く「ポジティブガール」は、ダンサブルさは引き継ぎつつも、こちらは明るい雰囲気の曲になっています。
前田 この曲は、ファンの人も想像しそうな“前田佳織里”像が描かれているような気がしています。そこに説得力が生まれているのは、普段人に見せてこなかった泥臭い気持ちとかステージへの執着心のような自分の核みたいな部分が「Fantasy」にあるからこそだと思うんですよね。
――前田さん自身、普段から前向きな性格?
前田 よくそう言っていただくんですけど、自分では全然そんなつもりはなくて。1つ1つのことを必死にやってきただけなんです。だから、この曲を自分でも「等身大の私と言ってもいいんじゃないかな?」と思えたのは、きっと底抜けに明るいだけじゃなくて過程も描かれているからこそなんでしょうね。あと、この曲は私の中では、ちょっと力を抜いて「音と遊ぶ」みたいなイメージもあるんですよ。なのでもしライブをやれるときには、肩の力を抜いてのびのびと、みんなと遊びながら歌いたいですね。
――そしてミドルバラード「花香リ春薫ル」が、4曲目を飾ります。
前田 これは「発売時期に合う、春に向かう歌を歌いたいです」という私の希望や、私が普段よく聴く曲には自分の歩く速度に近いようなものが多いのもあって、「仕事終わりや帰り道に聴いてホッとするような、新しい応援ソングがあってもいいのかな?」みたいなお話をしたところから作っていただいた曲です。初めて聴いたときには「いやぁ……また新たな神曲が来てしまった」と思うくらい(笑)、惚れ惚れしました。
――この曲は、レコーディングでどんなことを意識されましたか?
前田 歌詞や曲の展開に沿った気持ちの流れは、かなり意識しました。テンポがゆっくりな曲だからこそ、ちょっとしたニュアンスの乗せ方にも繊細さが必要だったんです。
――桜並木の中などを散歩しながら聴くのにも、すごくいい曲ですよね。
前田 それ、すごくやってほしいんですよ!もちろんお好きなシーンで聴いていただいていいんですけど、桜並木とか花を見ながらでも絶対聴いてほしいです。道を歩いている人に無理やりイヤホン挿し込みたいくらい……実際挿し込みに行かないとは思うんですけど、それくらいの気持ちです!(笑)。
――さて、デビュー発表時に前田さんは「みんなが笑顔になれるアーティストになりたい」とおっしゃられていましたが、楽曲のレコーディングなどを経て理想のアーティスト像に変化はありましたか?
前田 「みんなを笑顔にしつつ、日常に寄り添えるアーティストでありたい」とか「背中を押す人でありたい」と変化しました。この4曲を歌うなかで「こういう寄り添い方もできるんだ」とか学べたことも多かったので、これで満足せずどんどん勉強していきたいですね。そう自然と思うくらいに、まわりの皆さんのおかげで、想像していた以上にアーティスト活動が自由で楽しいんです!おかげで私も、自分から色んなアーティストさんのことを調べるようになったりと、自分の世界がどんどん広がっていくのを感じていますし。
――既に、実際に学ばれながら活動されている。
前田 そうなんです。これからも、変に背伸びをせずに等身大の自分を大切に。ちゃんと悲しんだり喜んだりと感情をフルに使って生きていって、しっかり実の詰まったアーティストになっていきたいです。
●リリース情報
1st EP
「未完成STAR」
3月15日発売
【初回限定盤(CD+DVD)】
価格:¥3,850(税込)
品番:AZZS-135
【通常盤(CD)】
価格:¥1,980(税込)
品番:AZCS-1113
<CD>
1. 光ったコインが示す方
作詞・作曲:田仲圭太 編曲:TOPICS.LAB
2. Fantasy
作詞:辻村有記 作曲・編曲:辻村有記、伊藤賢
3. ポジティブガール
作詞・作曲:永井葉子 編曲:TOPICS.LAB
4. 花香リ春薫ル
作詞・作曲・編曲:田中隼人
<DVD>
Music Video 他、メイキング映像を収録
関連リンク
前田佳織里 オフィシャルサイト
https://maedakaori.jp/
前田佳織里 オフィシャルTwitter
https://twitter.com/kaor1n_n/
前田佳織里スタッフ オフィシャルTwitter
https://twitter.com/maedakaoristaff/
前田佳織里 オフィシャルYouTube
https://www.youtube.com/@kaorimaeda_official