2023年3月10日、声優・歌手の鈴木みのりが、Zepp DiverCity(TOKYO)にて“鈴木みのり3rd LIVE TOUR 2023 ~fruitful spring~”の東京公演を開催。歌手活動5周年を迎え、この1月にリリースした3rdアルバム『fruitful spring』や7thシングル「ミュージカル」の収録曲を中心に、5周年を彩る定番曲も織り交ぜて彼女の表現の幅広さを堪能できるライブを構築した。
その歌声で観客を惹き込む曲から、待望の声出し解禁により観客とともにシャウトし盛り上がる曲まで、多彩な楽曲を届けてくれた。

TEXT BY 須永兼次

挑戦として蒔いた種が、大きく実った春の夜
バンドメンバーが演奏する「はじめよう」のイントロが流れるなか、鈴木がステージへと登場。ステージの中央に立ち、『fruitful spring』のジャケットを連想させる木漏れ日のような照明演出を背負いながら、みずみずしい歌声を聴かせていく。Dメロを歌い上げてから笑顔でスピンする姿には、ファンの前で歌える喜びがあふれているようだった。

歌唱後には、その歌詞になぞらえて「今日は一緒に、夢のその先を見ましょう!」とメッセージを送って、「だってMy Life もっとMy Choice」へ。観客からのクラップでさらなる一体感が巻き起こるなか、ステージ左右のお立ち台へと上って観客へと手を振りながら歌唱。2サビでは歌詞になぞらえて投げキッスを届ければ、直後の間奏では跳ねながらバンドメンバーと視線を交わしたりと、ちょっぴりおてんばなステージングも見せていく。そのままシームレスに突入した「リワインド」もにっこり笑顔で楽しむ一方、時おりお立ち台に腰掛けて、リズムに合わせて身体を揺らしながら歌唱する場面も。また、歌詞中の“tick tack”を表す定番の手を使った振付を通じて、この曲でも場内の一体感をさらに高めていった。

3曲を歌って、この日最初のMCパートでは「久々に皆さんの声を聴きましたね」と嬉しそうな表情を覗かせる鈴木。「今日は本当にボリューミーなんで!覚悟してね!」とツアー初日ならではの不敵な宣言を経て、ライブ再開。「わだちの花」からしばし、彼女にとって「挑戦となった」という曲を続けて歌唱していく。


その「わだちの花」は、内面に抱く葛藤を感じさせる、全体を通してピアノの音色が映えるダンサブルなリズムのついたナンバーだが、それをダンスを織り交ぜることなくセンターにすっくと立ったまま、歌唱表現にのみ想いを乗せていく。そのアプローチがかえって、音で観客を飲み込んでいくかのような迫力を生み出す。

続いて、サビ前の抜き気味のポエトリー部分など、オトナな表現を要求される「リップ」では、サビのラストを歌い捨てるようにアプローチしながら投げやりに足を蹴り上げたりと、楽曲の雰囲気にピッタリな表現で観客を惹き込み、彼女のボーカリストとしての真骨頂を感じられる壮大な楽曲「サイハテ」へ。極限まで引いた歌い始めからまずは1サビに向かって徐々に歌声は強まり、さらにその先へ向かって彼女の歌声の圧は加速度的に増していき、聴く者を飲み込むスケール感を伴っていく。そのうえで、Dメロなどで思い切り吐き出しつつも息が切れたりすることはなく、その迫力を見事に制御しているのだ。その凄さも含めて、この日もまた「ぜひ一度は、この歌を生で堪能してほしい」との想いを新たにさせられた。

そのパワー感を、今度はハイテンポでアグレッシブなロックナンバー「BROKEN IDENTITY」にのせていく鈴木。途中、センターステージへと歩み出て観客の近くに立ち、力強く圧のある歌声をぶつけていく。サビの後半では絞り出すように身体を折り曲げるなど熱く魂を込めて、彼女の多彩なボーカルワークを堪能できるブロックを締めくくった。

そのままセンターステージで、「5周年ということもありいつも以上に自分の意見を反映してもらえたし、自分でも“こういう曲も挑戦してもいいんだ”と思えた」などと、3rdアルバムの話題を軸にMCを展開する鈴木。そんなしみじみとした言葉に続けて、今度はバラードゾーンがスタート。その幕開けを飾った「夜空」では、柔らかな微笑みを浮かべながら、彼女を囲む無数の輝きと、そのたもとにいる人たちへと目を合わせながら、歌声に乗せて温かな想いをそっと配っていく。
同時にサビでは、タイトルどおり大きな夜空そのものを思わせる広がりのあるボーカルで、楽曲の世界にぐっと引き込んでくれた。

続く「Crosswalk」では、1コーラス目をピアノ伴奏のみによるライブバージョンとして歌唱。とにか温かく柔らかいウィスパー気味の歌声も、彼女の後方を染め上げるオレンジのライティングも、いずれもこの曲の世界観に非常によくマッチするものだった。そのムードを引き継ぎつつ、昨年夏の挑戦のひとつでもあったR&Bテイストのメロウな楽曲「Wherever」へ。直前2曲のバラードとも違う、この曲ならではのリズムやグルーヴ感をしっかりと捉えつつ、水のように澄み渡った歌声で聴かせていく。ここまでの前半10曲だけでも、多彩かつ的確な彼女の表現に唸らされていた。

ここで鈴木は一旦降壇し、バンドが後奏を延長して演奏するなか衣装チェンジ。ピンクをベースにしたキュートな衣装に身を包んで再登場すると、「もういちどメロディ」から後半戦をスタートさせる。ここでは振付も用いて楽曲中のキュートさをさらに際立たせつつ、観客とのクラップで再び一体感も帯びさせていく。

歌唱後には衣装について自身も「かわいいよねぇー!」と述べ、最新シングル「ミュージカル」のジャケットを意識したものだと明かすと、MC中にセットされたスタンドマイクを用いて「まいっちゃう」からキャッチーなポップナンバーゾーンへ。振付を交えながら響き渡るクラップとともに場内を盛り上げていき、2サビ前のキュートさ映えるセリフ調の部分でファンを魅了。そうして表情もつけながらも、歌声の伸びの良さは健在。
前半で顕著に感じられた“凄み”の要素も実は変わらずに存在しているからこそ、会場中が思いっきり楽しめるものとなっているのだろう。盛り上がりそのままに続けた「おセンチなメンタル」でもサビの決めポーズでさらに一体感をもたせつつ、2コーラス目に入ってからは音源とは違う形でアタック強めに歌ってもみせたりと、いい意味でこの場ならではの遊びを歌声に入れ始めていく。

また最新シングルのカップリング曲「季節のカルテット」は、今の時代に則した歌詞をもつナンバーらしく、公演前にTikTokでサビの振付動画を公開。その振付も交えてサビでは楽しみながら、2-Aメロにはコールも交えて声出しOKライブならではの盛り上がりも起こす。さらに2サビ後には、ラストのフレーズ“思い出バズらせよう!”になぞらえて、自撮り棒で客席やバンドメンバーをさーっとさらって動画撮影して思い出作りまで完了させていた。

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歌と言葉で伝えた、未来への決意と新たな物語のはじまり
さて、ここまで14曲を歌ってきた鈴木。普段のワンマンであればそろそろ終盤……という頃合いだが、「まだまだ全然ラストじゃありませーん!」と宣言し、沸き起こる歓声。だがその大きさにまだまだ満足していないのか「ダメですダメです、もっと!」と煽ると、その言葉を前フリに、「ダメハダメ」から始まる爆アゲゾーンへと突入。

冒頭から観客のコールが響き渡るが、鈴木も「もっともっと大きい声ー!」とさらに煽るとそのボリュームはさらにUP。笑顔で大きな「○」のサインが送られる。そんな彼女自身は、要所にちょっとファニーな振付も織り込んで、ややコミカルさも交えつつこの曲をみせていく。2サビ前には指揮棒を手にして会場の照明を操り観客のウェーブを巻き起こせば、大サビでも表情豊かにとにかく会場いっぱいの観客と楽しみまくると、指揮棒をタオルに持ち替えて「Shout!!!」へ。
センターステージへと跳ねて飛び出せば、この曲ではもうとにかくパワフルさ全開! サビの叫ぶ部分では自らも跳ねながらシャウトし観客を先導すれば、それに導かれるように観客も跳ね、タオルを振り、大きな大きなコールを響かせる。さらにその光景が鈴木の120%を引き出し、場内のボルテージをさらに上げる。

そうして会場が熱を帯びまくったところで満を持して歌われたのが、ソロデビュー曲「FEELING AROUND」だ。すかさずタオルをネギに持ち替えお立ち台に上ると、彼女の眼前にはペンライトで緑の輝きに染まった客席が広がっていた。しかも直前2曲での高まりもあってか、序盤からとにかく割れんばかりのコールが響き渡っていく。それを受ける鈴木は、バトントワリングのように手にしたネギを回したりステージ上を軽快に跳ね回ったりしながら、観客との掛け合いも効果的に交えて熱唱。そしてこの曲の大サビ直前には、「ちゅるっ♪」のセリフのために(いつものように)ステージにラーメンの“出前”が到着するも、おかもちの中身はなんと空っぽ。代わりにこの日は5周年と声出し解禁を祝して、そのコールを観客と斉唱し、同時に巨大なクラッカーを炸裂! いい意味でなんでもありのステージを作り、最後は会場全体でのジャンプエンドで楽曲を締めくくった。

そんなクライマックス感満載の展開だが、鈴木からは「かなり盛り上がったんですけど、次が最後の曲でもないんですねー(笑)」と2度目のフェイントが。そんな嬉しい予告に続けて、この2年間を振り返りつつ、少々場の空気を落ち着かせていく。様々な新しい一歩を踏み出したことを思い返しながら、「演者としても歌手としても、少しずつ自分に自信を持てるようになってきているのかなぁ」とまとめると、さらに「最近は人に見られる機会も増えて、表現の奥深さをより学んだ」といった話を呼び水に最新シングル「ミュージカル」の話題へ。「ここからはみんなで、笑顔になりたいな」と語ってから、歌唱へと移っていく。


スーッと清らかでありながら陽光のような明るさと温かさをもった歌声と、軽やかなステップも織り交ぜられた滑らかで麗しい振付が楽曲とマッチして、清々しい空気感を生み出していく。そのまま、柔らかく聴く者に寄り添うような歌声で「エフェメラをあつめて」を歌唱し、会場中の観客に笑顔を届けてくれる。きらめきと柔らかさが両立した歌声だからこそ、落ちサビを大事に大事に歌う歌声もまた、たまらなく心に残るものとなっていた。

歌唱後、改めてここ最近の自身を振り返っていく鈴木。そのなかで彼女は、一昨年の2ndツアーの頃「もっとこうしたい」という想いが強すぎて自信を失っていたと語り、同時にその名古屋公演や、同時期にゲスト出演したTVアニメ『ポケットモンスター』のアフレコを経て「自分の表現したものでこんなに喜んでくれる人がいるのだから、自信を持たないとその人たちに失礼」と思えて視界が開けた……というエピソードを明かす(奇しくも、このライブのちょうど1週間前が、4月開始のTVアニメ『ポケットモンスター』新シリーズで主人公・リコ役を演じることが発表されたタイミングでもあった)。そして「私は私の人生でよかった」と断言し、「この先いいことしか待ってないと、たとえ嘘でも自分に言える“鈴木みのり”になっている」と前向きな言葉で心境を吐露するメッセージを締めくくり、本編ラストナンバー「夏のばね」の歌唱へ。

彼女が敬愛するアーティスト・尾崎雄貴(Galileo Galilei・BBHF)から楽曲提供を受けた「大好きな表現を極めていきたい」という想いが投影されたこの曲は、3rdアルバムを締めくくる曲ということもあって、本編のエンディングという位置づけもピッタリ。序盤はじんわりと大切に歌い始めて、サビでは晴れやかな表情でスキッと歌い上げていき、その空気へと自然と引き入れてくれる。楽しみながら真摯に、大好きな表現を極めていく――そんな今の彼女の姿勢を生の歌声からも感じさせてくれたところで、後奏中に一礼して鈴木はステージを降りた。

こんな最高の表現を見せてもらえたら、アンコールを要求したくなるのはごくごく自然なことだろう。こちらも久々となった、観客の声によるアンコールを受けて再登場すると、「My Own Story」を彼女持ち前のみずみずしい歌声で歌唱。本編最後のMCで語った決意をそのまま形にするかのように、未来へと繋がる新しい物語を始める姿をみせてくれた。
もちろんこの日の歌唱あってのものではあるが、この曲順構成もまた、この先の彼女への期待を高めてくれる役割を果たしていたのではないだろうか。

3rdアルバム『fruitful spring』からの楽曲の披露は、これで全曲完了。ラストはコールも交えて盛り上がれるナンバー「いっせーのーでっ!」で、楽しく締めくくりにいく。この曲中のみ観客の写真撮影OKとなったのもあってか、他の曲と比べてセリフ部の展開をなぞった観客への指差しなどでのコミュニケーションも増加。2-Bメロではハートを作ったりと、撮影OK曲ならではの魅せ方も効果的に織り交ぜる。さらにDメロでは観客の近く、センターステージへと移動してコールを巻き起こし、この日一番の一体感ある掛け合いをもたらした。落ちサビ中にも「今日は緊張してたんですけど、今の自分の想いをさらけ出すことができました!」などのメッセージを織り込んで歌と同時に言葉でも想いを伝えると、最後に観客と一緒にジャンプして楽曲を締め、「ボリューミーなライブでしたが、皆さんと楽しい時間を刻むことができました。また笑顔でお会いしましょう!」と挨拶してステージを降り、ツアーの幕開けを最高の形で飾ったのだった。

今回のライブは、自身で言及していたように従来よりも曲数が多めとなったこともあって、鈴木みのりという表現者の素晴らしさを様々な角度から体感できるものとなっていたのではないだろうか。それを成し遂げられたのは、彼女がこの5年をかけて様々な挑戦を行ない、一つ一つを成立させ積み上げてきたからこそだろう。そのうえで堅苦しくもなりすぎず、「FEELING AROUND」などの楽曲では楽しさを前面に出して巻き込んでいく。そういったエンタメ性もしっかり同居させていくのも、彼女のライブの素晴らしいポイントだ。MCで「私は私の人生でよかった」と口にした彼女はこれからも真面目に、でもちょっとだけ肩の力を抜いて、より自由に自分の表現を突き詰めていくことだろう。そうして楽しみながらブラッシュアップされた表現がまた、きっと私たちを笑顔にしてくれるはずだ。

2023年3月10日(金)Zepp DiverCity(TOKYO)
“鈴木みのり3rd LIVE TOUR 2023 ~fruitful spring~”

<セットリスト>
01. はじめよう
02. だってMy Life もっとMy Choice
03. リワインド
04. わだちの花
05. リップ
06. サイハテ
07. BROKEN IDENTITY
08. 夜空
09. Crosswalk
10. Wherever
11. もういちどメロディ
12. まいっちゃう
13. おセンチなメンタル
14. 季節のカルテット
15. ダメハダメ
16. Shout!!!
17. FEELING AROUND
18. ミュージカル
19. エフェメラをあつめて
20. 夏のばね

アンコール
EN1. My Own Story
EN2. いっせーのーでっ!

<バンドメンバー>
Guitar & Band Master:北川勝利(ROUND TABLE)
Drums:山本真央樹
Bass:千ヶ崎学
Guitar:奥田健介(NONA REEVES)
Keyboards : 末永華子
Manipulation:須藤豪

関連リンク
鈴木みのりオフィシャルサイト
http://e-stonemusic.com/minoringo/

鈴木みのり 歌手活動5周年特設サイト
https://www.jvcmusic.co.jp/flyingdog/suzukiminori/5th/
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