三月のパンタシアが3月19日(日)に東京・豊洲PITにて、ワンマンライブ“三月のパンタシア LIVE 2023 / 君の海、有機体としての青”を開催した。ワンマンライブとしては、“再会”と“幸福”をテーマにした東阪ワンマンライブ“邂逅少女”以来、1年ぶり。約3年半ぶりの声出し解禁となった本公演も“再会”というテーマは内包されていたが、「様々な青の彩度を描く春の海に潜って、一緒に泳いで、旅をする」という“君”と“私”の物語には、より心の深い部分で繋がりたいという思いと、再会後の“これから”の未来に向けた覚悟が滲み出ていたように感じた。TEXT BY 永堀アツオPHOTOGRAPHY BY Viola Kam[V’z Twinkle]ひとりぼっちの“私”が見つけた“君”の存在「みあー」だけでなく、バンドでギターを務める堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)に対する「しょうたー!」という声があちこちから飛び交うなか、バンドメンバーとみあは、場内に薄く流れる波の音に引き寄せられるように、紗幕越しのステージに登場した。そして、ピアノの調べにのって、ベッドで横たわり、天井をぼんやりと眺める女性のイラストが映し出された。彼女の胸の中はぽっかりと空いており、クラゲのようなものが漂っていた。やがて、意を決したように起き上がった彼女は海岸へと向かい、朝日を浴びた。4幕構成の第一幕はポエトリーで幕を開けた。「ずっと誰かに出会いたかった。ひとりぼっちは寂しくて、じめじめと湿った場所で心は腐り落ちていきそうだった。出会いたい。でも、その誰かが誰なのか、ずっとわからなかった。伸ばした手は、空白ばかりを掴む。触れられない手応えばかりが積もり、孤独に埋もれていった。 私はようやく出会えた。誰かは君だった。胸が震えた。涙が溢れた。自分に価値があると信じることができた。嫌いになりかけていた自分をもう一度好きになることができた。君は、音楽で、言葉で、表現で、目の前にいるあなただった——」OPナンバーは、堀江の提供曲で、1年前のワンマンライブでアンコールの最後の曲として歌った三パシの行進曲「三月がずっと続けばいい」だった。観客は総立ちでクラップを打ち鳴らし、高く掲げた手を左右にワイパーのように振り、“ララララ”の大合唱も実現。“「なんてね」「じゃあ、さよなら」”という最後の歌詞を“「ようこそ」「じゃあ、はじめよう」”と変えて歌いかけると、フロアからは大きな歓声が湧き上がり、メジャーデビューシングル「はじまりの速度」でも、ピアノのイントロから喜びの声が上がり、クラップの音量もさらに大きくなった。最初にMCでみあは「すごいですね、声。やるじゃん」と感嘆。そして、「様々な明るさや、様々な暗さをもつ、三月のパンタシアが創る青い世界に一緒に潜って、旅をしていたいと思っているんだけど、ついてこれますか」と呼びかけ、「何度転んだって、私は何度も歌う」という決意を込めたロックナンバー「ユアソング」、n-buna(ヨルシカ)によるロックンロール「街路、ライトの灯りだけ」、そして、みあもバンドメンバーも観客も一体となって弾んだ「幸福なわがまま」から「今夜は踊り明かしましょう」と呼びかけたダンスポップ「アイビーダンス」へ。一緒に歌って、一緒に踊る。ライブの楽しさや青春の明るさを存分に味わった一幕の後半では、最新アルバム『邂逅少女』と最新シングル「アイビーダンス」の収録曲が届けられた。“君”と“私”を音楽で紡ぐ「君の海を泳いだ。景色は美しい青色だった。初めは見惚れてばかりでうまく泳げなくて。笑いながら、こっそり泣いた。君にもっと近づきたくて、がむしゃらに青をかき分け、キラキラと鮮やかにたゆたう、私だけのブルーに届こうとした。君と一緒に、この美しい青さの中を漂っていたかった」二幕は、手を伸ばしても届かないものに必死に手を伸ばしているような情景が描かれていた。もしくは、海に沈んでいく過程だったのかもしれない。ホリエアツシ(ストレイテナー)と共作した「夜光」、n-bunaによる「青に水底」。エレキギターがシャープなリフや速弾きで観客を盛り上げるなかで、みあは水面を見上げ、月に向かって手を伸ばして歌っていた。独特のリズムで速いパッセージの「マイワンダー」「青春なんていらないわ」「101」と速いパッセージのギターロックを連発し、フロアの熱気と興奮が最高潮まで上昇したところで場内は暗転。ここまで必死にもがいてきたのだが、40mPによるバラード「星の涙」「あのときの歌」をもって、光の届かない海の底へと到達し、たった1人で横たわることとなった。第三幕のポエトリーでは、のちのMCで「今はこの暗くて息苦しい、深海みたいな場所に沈んじゃってもいいんだって。ある意味、自分のネガティブな感情を認めてあげることで、少しだけ気持ちが楽になれた」と語っていたように、深度のある青色の海の海底に広がる“暗い青さ”への思いが綴られていた。「暗闇は痛みも伴うから、触れるのに勇気が必要で、時々密かに足を踏み入れるだけにしておいた。でも、だんだん、深く潜った場所にこそ、知られざる秘密が、隠れているような気がしてきた。君の海、音楽の海、言葉の海、表現の海、人間の心の海」ここで、場内に鼓動が響き始めた。さらに、「潜れば潜るほど、浮かび上がる、ほの暗く生々しい感情。じめじめと腐った、嫉妬や自己嫌悪。愛が強すぎるが故の歪んだ熱情。不器用すぎるからこその気持ちの悪さ。それはきっと、私の心の中だけじゃなく、誰の心の中にもあるものだから」 と続け、各アルバムにおける“病み曲”を中心に披露した。真っ赤なライトに照らされる中でスタンドマイクを持ち、“……さよなら”“……大嫌い”と告げる「不揃いな脈拍」。片想いの心に秘めた激しさが表出する「パインドロップ」。四角関係にいる女の子の甘く苦しい葛藤を描いた「四角運命」。タイトル通り甘く苦い関係の切なさを涙を湛えた歌声で表現した「ビタースイート」。そして、黒い影と灰色のハートが浮かび上がる中で、ステージ上に座り、懺悔するかのように首を垂れて歌った「君の幸せ喜べない、ごめんね」。嫉妬や後悔など、自分の見たくない欲望と向き合った彼女は、泡の音とともに少しずつ浮上。紗幕の後ろの暗幕が開き、水面を泳ぐ魚の影が映し出され、四幕へと向かっていった。「この海は、広く、青はどこまでも深い。私たちの音楽みたいだ。水の粒と、音の粒。1粒1粒に私たちの過去と未来が凝縮され、常に生き生きと流動する。海は流れ続ける。濁ったり、浄化されたりしながら、流れ続ける。海が有機的な存在であるように、音楽も確かに生きている。出会いがあれば、別れもある。だからこそ、一瞬は永遠だ。私たちの音楽は、これからどこへ向かっていくのか。それは、私だけが知っている。美しい青だけじゃない。明と暗、光と影、新しい景色、新しい青を描くことだけ。辿り着きたい場所は変わらない。共に辿り着きたいと願う気持ちも変わらない。さぁ、一度、長い息継ぎをしよう。君と私を繋ぐ、この音楽から、また始めよう」取り戻した“君”と“私”の物語ここで紗幕が落ち、“君”と“私”の再会が果たされた。「また出会えたね」と笑顔を見せたみあは、ファンと一緒にライブで遊ぶために作った「ランデヴー」でフラッグを抱えながらステージを所狭しと動き回って盛り上げると、“ねぇ”のコール&レスポンスも沸き起こり、さらに“ラララ”の楽しげな大合唱が会場を包み込んだ。その後のMCでは、この日のセットリストが、彼女がこの3年間を振り返って感じた心の流れであることも判明。そして、「三月のパンタシアがこれまで描いてきたブルーポップの世界は、明るくて、瑞々しくて、甘やかな憂鬱を孕んだ情景が多かったけれど、これからは仄暗い部分にある感情も描いてみたい。願わくば、新しいブルーポップの音楽が、みんなが沈み切ってしまいたい、とことん落ち込んでしまいたいと思ってる時に側に置いておきたいと思ってもらえるようになれたらいいなと思っています」と宣言。そして、最後にこの日のために作ってきた新曲で、みあが作詞、堀江晶太が作曲と編曲を手がけた「March」を披露。“生きてるかぎりは幸福と同じだけ苦しみがある”と綴りながらも、それでも“君に会いにゆこう”という思いが込められた新曲の最後のフレーズは“もう泣かないよ”であった。落ちるところまで落ちて、奥の奥まで掘り進めたことで取り戻した“君”と“私”の物語。故に出来上がった歌は以前に比べ強く潔い。「March」は“新しいブルーポップ”の世界の始まりを告げる新たな行進曲として、これからの彼女の道を明るく照らしているように感じた。<セットリスト>01. 三月がずっと続けばいい02. はじまりの速度03. ユアソング04. 街路、ライトの灯りだけ05. 幸福なわがまま06. アイビーダンス07. 夜光08. 青に水底09. マイワンダー10. 青春なんていらないわ11. 10112. 星の涙13. あのときの歌14. 不揃いな脈拍15. パインドロップ16. 四角運命17. ビタースイート18. 君の幸せ喜べない、ごめんね19. ランデヴー20. March関連リンク三月のパンタシア オフィシャルサイトhttp://www.phantasia.jp/三月のパンタシア オフィシャルTwitterhttps://twitter.com/3_phantasia三月のパンタシア オフィシャルYouTubehttps://www.youtube.com/channel/UC4lk0Ob-F3ptOQUUq8s0pzQ