高橋洋子の新作は『EVANGELION ETERNALLY』という象徴的なタイトルのシングル。そのリードトラックで新曲の『罪と罰 祈らざる者よ』は、『残酷な天使のテーゼ』の編曲を担当した大森俊之が作編曲を手掛けており、歌詞もエヴァらしさの色が濃い哲学的な内容だ。
歌とともに作詞を手がけた高橋洋子にその世界観を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉


みんなに『エヴァ』をイメージさせる言葉選びとは?
――まずは「罪と罰 祈らざる者よ」の制作模様から教えてください。

高橋洋子 高橋&大森(俊之)コンビで、「聴いた誰もがすぐにわかるようなものにしてほしい」というオーダーがありました。サビ歌始まり、アグレッシブさ、マイナーコードで神秘性のある楽曲といった要素を詰め込んだ1曲になりました。大森さんとのお付き合いはもう30年以上になりますので、『エヴァ』が完結して、ぐるりと回って先ほどのオーダーが届いたときには「私たちのコンビにオファーするなら、やっぱりこれですよね」という思いで、気づいたらこの曲になっていたという感覚でしたね。

――高橋さんは作詞の方もなさっていますが、どんな思いで書き始めましたか?

高橋 皆さんがイメージする『エヴァンゲリオン』の主題歌やテーマソングって、“優しい”“温かい”といったものではなく、“何か罪を背負うような”とか、主人公の生い立ちやドラマの背景に迫るものだと思います。そこは死守しようと思いました。かといって、すべてが悲しく終わりたくはないなと思って、落としどころを考えつつ、メロディに当てはまる言葉を乗せていきました。その後で自分の中で思うストーリー性を作り上げていきました。あとはオーダーとして、 “夏の日”“永遠に”“輪廻”といった言葉を入れてほしいとのリクエストがありました。

――確かにそれらのワードは『エヴァ』を強く想起させます。それも含めて原点回帰な印象がありますね。
冒頭の“モナド”(単体で万物を構成するとされる哲学用語)も、それらしいですね。


高橋 “モナド”はオーダーではなかったのですが、『エヴァ』らしく、でも出てきていない言葉を一生懸命探しました(笑)。そういった世界を“スピリチュアルな”とは言わずに表現したり、現実だけど現実ではない、でも嘘ではない、空想かもしれないし本当にそうかもしれないといった、微妙な駆け引きのある世界観にしたかったんです。タイトルの『罪と罰』は、生きていくために、何らかの形で命をいただいて食べる、それ自体がカルマ(業)であることを示しています。“(業)だとすると、作中のあの少年少女たちはどうやって生きていきますか?”という問いにもなっています。

――これらの言葉選びに、長年『エヴァ』の楽曲に携わってこられた高橋さんならではの重みを感じます。

高橋 『エヴァ』って、哲学的なところがあると思うんです。“人はどうやって生きようと思っているか”とか、“幸せの定義は?”とか。そして、“では、どうしますか?”という投げかけが常にあって。戦わないで済むに越したことはありませんが、それを全否定することも難しく、どこに着地するのがいいのかという問いに対して、私なりに答えを出した形です。

“ストーリー性”のある歌詞世界を読み解くヒント
――もう1つ、先ほど“ストーリー性”とありましたので、そこを詳しくお聞かせいただければと思います。

高橋 つまるところ、本当だけど本当じゃない世界の話です。
仮定で進めていくなかで、想像の世界だけのことを語るのはとても陳腐な気がして。この歳になった私が歌うとなったときに、どの目線で歌うのがいいかといったら、やっぱり母性とか母親といった眼差しになります。そのときに、“この世界は無慈悲だ”と言ってしまったら、それで終わりです。無慈悲な世界のなかにも、漏れ出る慈悲はあるわけで、そういうものに繋がるような世界観はいつもどこかにある。それは“逃げ場”と言えるかもしれません。そんな休まる場所が、音楽的にあればいいなと思ったんです。歌サビ始まりというオーダーでしたので、何の言葉から始めるのかは大事でした。

――それで“無慈悲な夜から”と、印象に残る始まりになったんですね。

高橋 この歌の歌詞の中で、始まりに使うにはこれが一番わかりやすいですよね。響きやすい、届きやすいかな。自分が生み出したいと思わなくても、生まれてきてしまう、そういう世界の中で私たちは生きていく。祈ったり祈らなかったりするけれど、でも、そうせざるを得ないという背景の中に、人間がいるんだというところからスタートしています。


――“夏の日に~”からの一節も『エヴァ』の世界観の色を濃くにじませています。

高橋 ここで私たちが見ていく世界観は、要するにパラレルワールドなんですよね。別のパラレルを選べば別の人生があるというくらい、実は選べる状況にいるという。そして“奪い合って手に入れたら勝ち”と言われているけど、本当にそうなのだろうかと。これは本当に難しい問題だと思うし答えはないと思うんです。だからこそ、その答えが自分から生まれてきたものでなければ紐付けられないと思います。それを念頭に自分はどういう道を進みますかと、2番で問うています。

――踏まえて続く2番のストーリーなんですね。

高橋 2番では、“子供は心配してほしい、大人は心配されたくない”。“さあ、あなたはどっちですか?”という投げかけをしています。甘えたいって言えたら楽なんです。でも、甘えられないからみんな大変なんです。
それから、自分たちが見ている世界が偽物なのか本物なのか、それを本物と言い切れるのか。自分で歩いたもの、見たもの、作ってきたことが本物になっていくんじゃないのか。ということを、私だけではなく、この世界を作っているみんなが、一歩ずつ歩きながら作っていくっていうのが、この世界なんだと思うんですよね。

――後半の展開も迫るものがあります。“死”と母性、そして“輪廻”へと続く言葉も、エヴァらしくもあります。

高橋 “明日死ぬと言われたら、あなたはどうしますか?”“もし昨日死んでいたら、あなたの明日はどうでしたか?”というところまで考えたときに、人は初めて“ああしておけばよかった”とか“今なら間に合うかな”と考えると思うんです。人は、特に男の人は大昔から狩人をしてきた歴史もあるので、生きていくために戦うような遺伝子を持っていると思います。今日の日々においてもそう。そのなかで自分の足で立ち上がって明日を作る強さを持ってもらえたら、という母としての気持ちで書いています。

“正しく歌う”ことの大切さと難しさ、そして個性

“正しく歌う”ことの大切さと難しさ、そして個性
――歌入れまでにはどんな気持ちで臨まれましたか。

高橋 私はいつも、歌うときに思いを乗せて歌うことはしないようにしています。 心がけているのは“正しく歌う”“きちんと歌う”“精一杯歌う”ということです。
そうすると、その歌詞の感情が出てきます。あと、大森さんが厳しく言うのは発音。“サ”音とか、聞こえづらい言葉は注意深く歌いますし、「満た“さ”れる」みたいに出っ張ると、チェックが入ります。私は基本的にハッキリ歌うのですが、しすぎてもダメだし、聞こえなくてもダメ。そういう注意を自分の中に入れて歌うスタイルです。

――特にこの曲では作詞をご自身でなさっているので、伝えたいことはもうそこに十分込められているわけですね。

高橋 そう。歌詞の中にありますからね。だから正しく歌うことに集中できるのだと思います。皆さんもぜひこの曲をカラオケで歌っていただきたいのですが、出だしが大変ですよ。もう、音楽の試験で出てくるような音程で、私も大変でしたから。でも、「残酷な天使のテーゼ」も「魂のルフラン」も歌ってこられた皆さんなら挑戦していただけると思います。
そして、その大変なものを歌った達成感はより大きいはずです。

――「残酷な天使のテーゼ」が、カラオケであれだけ歌い継がれてきた事実があります。そのときに皆さんは“正しく”歌う高橋さんをお手本にされてきましたので、これは日本の歌唱力全体の底上げになったのではないかと。

高橋 (笑)。NHKとかの歌のお兄さんお姉さんって、皆さん上手いんですよ。それは正しく歌わないと子供もマネできないから。それと同じです。世の中のシンガーには色々な個性を持った人がいます。でも私は声にそこまで個性がなく、難しい曲を正しく歌うという能力がありました。だから、アーティストというよりも職人という意識が強いこの何十年だったと思います。元々コーラス出身ですし。デビューした頃は、“個性全然がない”と、よく言われました。でも大村憲司さんという大貫妙子さんのバンドでよく弾いていらっしゃったギタリストの方が、“個性がないのがあなたの個性”“だから、あなたのモノマネができる人はあまりいないよ”とおっしゃってくださいました。そういう考え方もあるのかと。“正しく、きちっと全部歌うっていうのが一番難しい。みんなどこかで歌いやすいように変えたりするけど、あなたは譜面通りに正しく歌う。だからモノマネがやりづらいのです”と。お言葉をいただいたのはまだ全然人に知られていなかった頃でしたが、今にして思えば、それが私のスタンスになっているなと思います。



「シン・エヴァ」制作佳境に録られた新曲
――もう1曲、『what if?』について教えていただければと思います。

高橋 こちらは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がAmazon Prime Videoで全世界配信されたことを記念してリリースさせていただいた楽曲です。映画の劇伴曲の1つが「what if?」で、私はそこにコーラスで参加しているのですが、その曲をソロ曲として、改めて歌わせていただきました。

――レコーディングはどんな様子でしたか?

高橋 『シン・エヴァ』の制作が佳境だった頃だと思います。鷺巣先生がとってもお忙しい状況で、時間がない中でレコーディングをすることになりました。その時点ではリリースのことがまったく決まっていないなかで、とりあえず録るという形でした。ソロ曲として世に出せるというお話を頂いた直後は、「技法として、もっと色々できたかもしれない」という気持ちもあったのですが、皆さんからは「ナチュラルですごく良いです」という感想をいただいて、逆にありがたいなという気持ちです。

――『エヴァ』がついに終わるという感傷は、収録当時の高橋さんの胸中に訪れましたか?

高橋 そのときは作品を観ていない状態だったため、“本当に終わってしまうんだろうか”という思いもあったので、不確かな感覚というのが正直なところでした。今はもちろん鑑賞後ですし、5月28日に開催されるライブで歌う準備も進めている状況ですので、気持ちの面でも曲との向き合い方でも、当時とはまったく違っていますね。

●リリース情報
高橋洋子マキシシングル
「EVANGELION ETERNALLY」

5月10日発売

価格:¥1,980(税込)
品番:KICM-3378

<収録楽曲>
M1.罪と罰 祈らざる者よ(新曲)
『シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース × バンダイナムコ』プロモーションソング
M2.Teardrops of hope
パチンコ『Pゴジラ対エヴァンゲリオン ~G細胞覚醒~』搭載曲
M3.Final Call
パチンコ『新世紀エヴァンゲリオン~未来への咆哮~』搭載曲
M4.what if?
M5~M8 上記4曲のOff Vocal Ver.

メーカー特典:ジャケットイラストステッカー

●ライブ情報
YOKO TAKAHASHI EVANGELION ultimate Live「月十夜」
2023年5月28日(日)16:00開場/17:00開演
会場:Zepp Shinjuku (TOKYO)
出演:高橋洋子
ゲスト出演:まらしぃ、鹿嶋静、松下洋 他

チケット情報
1階スタンディング自由席:8,800円(税込) 限定お土産グッズ付
2階スタンディング自由席:8,800円(税込)限定お土産グッズ付 ※完売

限定お土産グッズは「ネックストラップ付き 特製「月十夜」観測記念カード(エヴァンゲリオン仕様)」となります。
※ご入場の際に別途ドリンク代が必要です。
※3歳以上は有料となります。

関連リンク
高橋洋子 オフィシャルサイト
http://king-cr.jp/artist/takahashi/

高橋洋子オフィシャルYouTube
https://youtube.com/playlist?list=PLQyvkHBZA_xCzoAR40srSOBJpjdIlOXnb

高橋洋子オフィシャルTwitter
https://twitter.com/yoko_t_official
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