本稿では、そのうち夜公演にあたる2部の模様をお届けする。
TEXT BY 須永兼次
オンリーワンの感性溢れる、心揺さぶりまくりのセトリ
この日は、開演直前の影ナレも青山自身が担当。携帯電話の電源オフにまつわるアナウンス1つとっても、「はい今!今切って!」のように遊び心を入れたりと、開演前の観客を温めるのと同時に心に留まるようなアレンジも印象的なものだった。
そして客入れBGMに乗せたクラップも起こるなかバンドメンバーが入場し、その音が消えたところで青山が入場。アルバム『la valigia』と同様に「Sunday」で幕を開ける。歌い出しと同時にステージが明転すると、灯りに照らされた彼女の表情はとても晴れやか。ゆったりと客席を見渡してクラップを煽りつつファルセットも巧みに織り交ぜて、爽やかな楽曲の空気を歌声でも表現していき、楽曲が進むとともに彼女自身の笑顔の晴れやかさも増していった。歌い終わってスッと目を伏せると、ステージを濃いブルーのライトがステージを包み、空気感が変わったところで「My Tale」の歌唱がスタート。無機質さをベースにしながらも、A・Bメロで内に秘めた感情をマグマのようにうごめかせて、サビに入ると後半に向かってそれをじわじわと盛り上げていくことで、ただの“無表情”で終わらせない歌声として聴かせていく。続けて歌った「Mandala」でも、夜の街並みの似合うサウンドにボーカルを巧みに乗せていく青山。A・Bメロは要所での歌声にぐっと力を込めてアクセントにして聴かせていき、サビへと向かうロングトーンは尻上がりに歌って観客を魅了。
3曲歌ってのこの日初のMCパートでは「今日は皆さんをまるごと幸せにできるように」と意気込みを口にしたかと思えば、「今日はバースデーライブだから、一番幸せになるべくは私」とおどけつつも「みんなを幸せにすることで、私も幸せになれると思うので」とまとめるなど、軽快なトークを繰り広げていく。そんななか、次に歌う曲について「多分この曲を歌うと予想している人は、この中に10人もいないのでは?」というキャラソンであることを予告。それは、自身がプレイヤーとしてもハマっているというアプリゲーム「コトダマン」の、イフリートーン役として歌った「恋の旋律」だ。
王道アイドルソングのようなポップナンバーであるこの曲に乗せて、立ち上がった観客からコールが沸き起こりペンライトが振られれば、青山からも指鉄砲が飛び出したりと場内の熱気は高まる一方。元々ペアでのキャラソンということもあって1人で歌うには息をつけるポイントが少なく、しかも音数が多く比較的厚めのサウンドなこの曲を、歌唱後に思わず「キツい…」とこぼしてしまうほど“青山吉能”として全力で駆け抜けていった。
そんな空気を、バンドメンバー紹介やトークを挟んで一旦落ち着かせると、ギターの伴奏をバックに「ASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバーをする」と宣言。拍手に包まれるなか穏やかな表情で「鎌倉グッドバイ」を歌い始める。いたずらに力強くはないものの、たしかに情感を乗せて心を揺さぶる歌声を響かせていく青山。自身も間奏では曲のリズムに身体を揺らしたりと穏やかなナンバーにたゆたいながら、楽曲の世界に聴く者を浸らせていった。
その余韻残るなか、ソファに座った青山が1人ライトで照らされてゆっくりとアカペラで歌い出したのが、「わたしの樹」。優しさに満ちた表情で場内を見渡しながら歌っていたかと思えば、サビに入ってからはより強い想いを乗せようとしてか、ぐっと力を込めての歌唱に。
ここで青山は一旦降壇。バンドタイムを通じて会場をメロウな雰囲気がしばし包んでから、やや暗めのステージに再登場して歌い始めたのは、ソロアーティストとしてのデビュー曲「Page」。その歌い出しと同時にステージは鮮やかに照らされ、サビに入る瞬間にさらに明るさはぱあっと増していく。その光景はまるで「歌声で世界に光を与えている」かのようであり、またも晴れやかな表情で清々しく歌う今の青山のこの曲でのステージングには、何よりふさわしい演出だ。そんな、歌えることやこのステージに立てることへの喜びに溢れていたような歌声と表情がまた、満員の観客の心をぐっと捉えていった。
そんなこの曲に続けたのが「moshi moshi」であったことに、面食らった観客も少なくなかったのではないだろうか。
バンドタイムを挟みながらも7曲連続で歌唱したところで、それぞれの楽曲についての想いを語る青山。特に観客を驚かせたであろう「Page」以降の4曲については「山あり谷ありの人生を表現した」とセットリストの意図を説明。
想いを言葉と歌に乗せ、共有し、一緒に歩んでいく
ここからは2曲連続で、明るい楽曲を歌唱。まず「ノリノリな感じで歌っちゃってください!」との前フリから始めた「Sweetly Lullaby」では、ジャジーなムードに乗って軽快に披露。間奏では曲のリズムに沿って身体を揺らしたり、歌詞通りにスカートをふわっとさせるようにスピンをしてみたりと、楽しんでいる姿を明示する。スキャット部分も軽快に乗りこなし、落ちサビなど音域高めの部分ではファルセットも上手く駆使してこの曲ならではのエッセンスを活かしていくと、ラストにはにぱっと笑顔を見せる。そして観客に「ペンライトも置いちゃって!」と声をかけて起立を促し、「STEP&CLAP」へ。両手の空いた観客による大きなクラップの音が楽曲を彩ることで、青山へとパワーが伝わっていたのだろうか、楽曲が進むにつれて歌声のハッピーさがどんどん増していく。さらには歌詞に合わせて観客と視線を交わしたり、ハートを作って場内をさらったりと自ら“巻き込んでいく”場面も非常に多くみられ、互いの楽しさ・ハッピーさを引き出し合う“ライブで聴くべき曲”として、「STEP&CLAP」が真の完成をみたようでもあった。
曲明けには、本公演のライブBlu-rayが7月にリリースされることを告知し、さらに夜の部の初解禁情報として、この秋に新曲をリリースすることも発表!会場を歓喜の声が包む。そんな喜びの余韻残るなか、観客へのメッセージを語り始める青山。
最後に「この皆さんと出会って、こうやって歌えている・生きている幸せをかみしめながら歌いたいと思います」と語ってから、彼女の内面を描きとったナンバー「透明人間」を、本編ラストの1曲として歌い始める。
この曲では冒頭から、渦巻く感情を歌声に強めに乗せていたという点で、ほかの曲とは一線を画した表現に。なので正直、最初は「終盤、起伏がつくのだろうか?」とにわかに思ったのだが、結論から言えばこれは完全に杞憂でしかなかった。歌詞に描かれた想いに加え、この場で歌うなかで湧き上がる想いも込めつつ、綺麗さも両立させた独りよがりでない歌声を響かせる青山。そのある程度制御された部分があるからこそ、感情を叩きつけるような場面も垣間見えた終盤部分のエモーショナルさがより生きる。歌唱後にたたえた微笑みには、大事な曲を全力で歌いきった瞬間の達成感が表れていたようだった。
歌唱後に青山がステージを降りると、その瞬間から客席からはアンコールを求めるクラップが鳴り続ける。それに応えて再登場した青山、バンドメンバーを呼び込んだはいいものの「何も予定していない」と明かす。そんななか、バンマスを務める木原良輔(Gt.)に「言ったらなんでもできるんですか?」と問いかけ「もちろん」との返答されたところで、杉直 樹(Key.)が弾き始めたのはなんと「Happy Birthday」!実はこの日、彼女には内緒で客席には、スタッフからのバースデーサプライズのお願いが。
「キャラへの愛情もですけど、色んなものに対する愛情を最後に皆さんにぶつけたい」と宣言した青山の表情はイントロ中に凛としたものへと変化し、キャラクターとしてではなく“青山吉能”として、原曲へのリスペクトを込めた節回しも織り交ぜつつ力いっぱい歌唱していく。サビの冒頭などで力をぐっと込めたりと、心の動きを素直にアウトプットしていくようなパフォーマンスだ。だからだろうか、この曲を歌いきったときの表情は、実に晴れやか。思い切り拳を振り上げ、達成感のなかバースデーライブを締め括った。
歌唱後、青山からの「楽しかったですか?」の問いかけには、大満足の大歓声と拍手が。そして「また来年も、皆さんと私が生きていたら、会える日を楽しみにしています!」というなんとも彼女らしさいっぱいの約束を交わして、変わったもの・変わらないものの両方を、“今の青山吉能”を見せるワンマンライブは幕を下ろしたのだった。
ジェットコースターのように感情を目まぐるしく揺れ動かすセットリストを眺めながら、本編終了後に観客に手を振ってステージを歩きつつ「みんな、生きてるって感じするなぁ」と嬉しそうにこぼした青山の姿が、不意に浮かんだ。そう、彼女はこのセットリストを通じて、この場所・この時でしか生まれない感情を観客全員に抱かせることを見事に成し遂げていたわけだ。曲ごとにガラリと変わる表現も、茶目っ気たっぷりなMCも、一緒に心を動かしこの瞬間を楽しむためのもの――だからライブ最後の言葉にも、実は何の不自然さもなかったのだ。
これからも自身の心が赴くままに続いていくであろう、青山吉能の音楽活動。その1曲1曲が、そしてライブでの一瞬一瞬が、これからもきっと私たちの心を動かし続け、“生きている”ことを実感させてくれるはずだ。
青山吉能Birthday LIVE「されど空の青さを知る」 夜公演
2023.05.13@横浜ランドマークホール
【SET LIST】
M01. Sunday
M02. My Tale
M03. Mandala
M04. 恋の旋律(※キャラソン)
M05. 鎌倉グッドバイ(※カバー)
M06. わたしの樹
M07. 解放区
M08. Page
M09. moshi moshi
M10. ツギハギ
M11. あやめ色の夏に
M12. Sweetly Lullaby
M13. STEP&CLAP
M14. 透明人間
EN1. 転がる岩、君に朝が降る(※カバー)