「アイドルマスター シンデレラガールズ」の登場アイドルたちの中でも、“Under149cm”の小さな女の子たちに焦点を当てたTVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」。この作品の第6話で、人気ユニット・LiPPSの新曲「Nightwear」が公開された。


本楽曲を手がけたのは、これまで速水 奏の「Hotel Moonside」などを筆頭に、「アイマス」シリーズの様々な楽曲を担当してきたTAKU INOUE。以前から「LiPPSの曲を書いてみたい」と言っていた彼ならではの、クールで華やかなダンスチューンに仕上げている。本稿では、過去の提供曲の思い出や今回の制作過程について、TAKU INOUEに話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁

TAKU INOUEが作曲時に考える「アイマスらしさ」とは?

――TVアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」(以下、「U149」)には、TAKUさんがこれまで楽曲を提供してきたアイドルたちが多数出演されています。ご自身が「アイマス」シリーズで特に印象深い過去の楽曲といいますと?

TAKU INOUE まずはやはり、(LiPPSのメンバーでもある)速水 奏さんの「Hotel Moonside」ですね。この曲のオーダーをもらった時点では、奏さんの人柄がまだそこまで深く掘り下げられているわけではなかったと思うんですけど、資料を見ると「キス魔」という設定になっていて。当時のディレクターから参考曲として挙がってきたのも、ちょっとバラエティっぽい雰囲気のお色気路線が強いものでした。でも、「奏さんというキャラクターにとっては、もう少し深みを持たせたほうがいいんじゃないか?」と思い、最初は独断で「わかりやすいお色気のような方向性にはいかないようにしよう」と考えていた気がします。

――明るいお色気というよりも、余韻が感じられるようなものにしよう、と。そこで大胆に音楽性が変わったんですね。

TAKU そういう空気感を大切にして作ったのが「Hotel Moonside」でした。僕自身のことしかわからないので、ほかの方がどうだったかはわからないんですけど、当時ってその辺りの方向性は割と作家の裁量に任されていた感覚があって、僕も自分で考えながらやっていましたね。


――同じくLiPPSのメンバーでもある一ノ瀬志希・宮本フレデリカのユニット・レイジー・レイジーの「クレイジークレイジー」はどうですか?

TAKU この曲は、自分では「めちゃくちゃ攻めた曲だな」と思っています。2人の性格を考えると電波ソングっぽい曲でも似合ったとは思うんですけど、たしかオーダーとして「女性にも受ける曲にしてほしい」ということが書いてあって、シリアスにしてみようかな、と思って作りました。最初はあそこまでバラードっぽくなるとは思っていなかったですし、「アイマス」楽曲を提供してきたなかでも、一番受け入れられるかどうか心配だった曲でもあって。メロウでミディアムテンポな曲になったのは、結果的に良かったのかな、と思っています。

――この曲はフューチャーベースやジャージークラブの要素が入った曲でもありますね。

TAKU 覚えているのは、曲を作り始めたときに車でDJミックスを聴いていて、それがジャージークラブのものだったんです。「アイマス」に限らずですけど、僕の場合は自分のやりたいことも混ぜ込んで曲を作ることが多いので、大前提として彼女たちの雰囲気に合わせつつも、上モノのメロウな雰囲気に合うようなビートを合わせていきました。こういうサウンドなら、きっと女性受けもいいものに出来るのかな、と思ったので。

――当時ミックスでもよくあった、R&Bをベースにしたジャージークラブの雰囲気ですね。

TAKU そうですね。当時、そんなふうにR&Bをサンプリングした曲が結構あって。そういうものをポップソングと上手く1つにできれば良い曲になるのかな、と思っていました。


――「U149」にも物語の中心となる第3芸能課の一員として登場している、赤城みりあの楽曲「Romantic Now」はどうでしょう?

TAKU この曲は、歌詞だけではなく曲も含めて担当した初めての楽曲だったので、大変でした。

――内容としても、「小学生がラップをする」という楽曲で。

TAKU そうなんですよね。「そもそも、何で小学生がラップをするんだろう……?」というところから始まったんですけど、最初はもっとテンポがゆっくりのものを作ってみたら、「良い曲風過ぎる」と却下されてしまって。それで、「もっとはっちゃけたほうがいいのかな?」と試行錯誤しながら完成版のようになっていくんですけど、みりあちゃんって、年齢が小学5年生なんですよね。それで、「5年生って、実は周りが思っている以上に結構大人だよな」と思ったんです。自分自身や周りの子を思い出すと、大人になってからイメージする小学5年生とはちょっと違って、5年生でも実は色んなことを考えていたし、単に無邪気なだけでもなかったよな、と思って。そこで、「みんなはかわいい子供だと思ってるんだろうけど、それだけじゃないよ」という雰囲気を意識したような気がします。子供っぽい部分も入れながら、「いやいや、そんなことないぞ」という部分も入れていくというか。

――たしかに、それならラップであることも上手く活かせそうです。キャラクターたちのリアルを考えていった結果、方向性が定まっていったんですね。「Romantic Now」は今回、『U149』の第3話でも劇中のBGM&EDテーマとして流れていました。


TAKU 今年でちょうど10年経つわけですから……「すごいな」と思いますね。

――TAKUさんが作曲時に考える「アイマスらしさ」のようなものはありますか?

TAKU 1つに決まっているわけではなくて、場合によって変わったりしますけど、「ポップソングとして良いものをつくる」という気持ちは大前提としてありますね。それに加えて、「女性のアイドルたちが歌う」というところは考えています。あと、自分のところにオファーがくるということは、「きっと変なものが求められているんだろうな」と思うので(笑)。「アイマス」にたくさんの楽曲があるなかでも、僕の場合は少し捻ったものを出すというか、音楽が好きな人もニヤッとしてくれるような曲を作ろう、とは思っていますね。

――TAKUさんは元々そういう楽曲を作るのが上手い方だと思いますが、そうした音楽性を受け入れてくれるのも「アイマス」シリーズらしさかもしれません。

TAKU やっぱり、懐が広いですよね。そういった土壌を先輩たちがずっと作ってきてくれていて、僕よりあとに「アイマス」シリーズに参加した人たちもやりやすい環境にしてくれているんじゃないかな、と思います。もちろん、「こういう曲がほしい」と明確にオーダーをもらう場合もあるでしょうけど、元々音楽的な受け皿を広く取ってくれているというか。アイドルの数が多いぶん、それぞれの曲を尖らせる必要もあって、色々な曲を聴いても面白いなと思います。

LiPPS新曲「Nightwear」の初期構想とサウンドのこだわり
――今回は「U149」の第6話でOAされたLiPPSの楽曲を担当されています。TAKUさんは過去に「LiPPSの曲を書きたい」というお話もされていましたよね。


TAKU そうなんですよ。なので、「実際にきちゃったか!」と(笑)。LiPPSに関しては、これまでメンバー各々の楽曲を一部担当させてもらったことはありましたけど、人気ユニットですし、すでに「Tulip」という人気曲もあるので、「きっと大変だろうなぁ」と思っていましたね。

――楽曲制作はどのようにスタートしたんですか?

TAKU 脚本をいただいて、「U149」に出演するアイドルたちが、先輩にあたるLiPPSのライブを見てかっこよさを体験する、しかもメンバーの一部は一緒にダンスする、という場面だったので、「ダンス」「かっこいい」というイメージから、まずはかなり音数が少なめな、クールな楽曲を考えていきました。その時点では、「Tulip」に続く曲として、今回も花の名前にしようと思っていて「Datura」という曲名で作っていました。「Tulip」の「ちゅ」と「Datura」の「ちゅ」で連続性も感じられるので、自分は結構気に入っていたんですよ。それで一度送ってみたところ、「ちょっと違うかもしれない」という判断になって。

――そこからどんなふうに変えていったんでしょう?

TAKU 元々「Datura」の時点では、「ダンスする曲」ということで四つ打ちにしていて、なおかつ「Tulip」より少しテンポを落としていました。「Tulip」は大人っぽいながらもパーティー感もあるタイプの曲だったと思うんですけど、音数を少なくして、さらに大人っぽいダンスミュージックを目指していたんです。

――セクシーさにより焦点を当てたものになっていたんですね。完成した「Nightwear」はエディットが多用されていますし、声のサンプルなども散りばめられているので、「クールなダンス曲」というテーマは一貫しつつも、曲の雰囲気は大きく変わっている印象です。

TAKU そうですね。
クールな雰囲気は残しつつも、そこにもう少し賑やかさも入れようと思って、人の声をサンプリングしています。LiPPSメンバーの声ではないんですけど、邪魔にならない程度に入れることで、お色気路線だけにはならないような、より色んな解釈ができるような曲にしようと思っていました。

――「Nightwear」というキーワードはどんなふうに出てきたんでしょう?

TAKU LiPPSっぽくて、単語1つで覚えやすいものがいいなと思って出てきたタイトルでした。この曲は自分としては、初恋みたいな、純愛の歌だと思っているんですけど、LiPPSもそういうところがあるユニットだと思うんですよ。「大人っぽいように見えて、実はそういう部分があるよな」って。そんなニュアンスが伝わる曲になればいいな、と思っていました。

――ほかに気になる部分ですと、冒頭に入っているのは水の音ですか?

TAKU そうです、シャワーのイメージですね。自分の中ではバスルーム的なイメージで、小さく吐息も入れたりしています。「Nightwear」に限らずですけど、SEを入れると曲の景色が見えやすくなると思うので、今回も聴いた人が情景を思い浮かべてくれたらいいな、と思っていました。あと、今回はいつも以上に歌をしっかり聞かせたいな、とも思っていましたね。

――レコーディングの様子も教えてください。

TAKU 5人中3人は過去にもレコーディングでご一緒した方々でしたけど、例えば奏さんの声を担当された飯田友子さんとは、かなり久々にご一緒することになって。
リモートではあったんですけど、歌が以前にも増して上手になっていてビックリしました。

――それこそ、「Hotel Moonside」の頃との変化を感じたということですね。

TAKU 「Hotel Moonside」のときは、僕がどうしてもスケジュールが合わなくて、でも絶対“1 2 kiss kiss”の細かいニュアンスの部分を伝えたいと思っていたのでそこだけは自分で録らせてもらったんですけど、今回久々に飯田さんの歌声を録らせてもらって、歌が良くなっているな、と。ルゥさん(ルゥ・ティン/塩見周子役)とるるさん(佳村はるか/城ヶ崎美嘉役)は初めてでしたけど、LiPPSの曲はもちろん聴いていたのでイメージ通りでしたし、レイジー・レイジーのときにご一緒した髙野さん(髙野麻美/宮本フレデリカ役)、藍原さん(藍原ことみ/一ノ瀬志希役)も、流石という感じで、良いものを上げてくれました。

――リモートとはいえ、レコーディング中のやり取りで印象的だったことはありますか?

TAKU 皆さん、歌詞の解釈を知ろうと「ここはどうですか?」と聞いてきてくれるので、互いに話しながら、そのなかで歌い方を決めてもらったこともありました。なかでも、最初にレコーディングをした髙野さんは特に色々聞いてくれたんですけど、その内容を持ち帰ってLINEグループで共有してくれたそうで。その結果、皆さん同じ気持ちで歌ってくれたみたいです。

――アニメの劇中歌として流れるからこそ意識したことはありますか?

TAKU いつも以上に展開が早いほうがいいな、ということは意識しましたね。サビの手前にドロップ風の盛り上がるパートがありますけど、その部分までなるべく早めに繋がるようにしたいな、と。あと、LiPPSがダンスをしながら流れるので、イントロの部分はキメを作りやすいよう意識しています。

――なるほど。かっこいいダンスができるような曲にしたい、と。

TAKU はい。今回は、新しく曲を作るなら「Tulip」ではまだ引き出せていなかったLiPPSの魅力を引き出す必要があると思っていたので、元々のイメージを盛り込みつつ、グループの新しいページを開くようなものにしたいと思って作っていきました。

――今後「アイマス」シリーズで担当してみたいことなどがありましたら、教えてください。

TAKU (ずっと作りたいと言っていた)ナターリアの曲もやらせてもらったし、今回LiPPSも作らせてもらって、これまで「やりたい!」と言ってきたものは大体やらせてもらったので……うーん、ほかには何でしょうね?主題歌的な曲のオファーはこないだろうと思っていたら、「ミラーボール・ラブ」でライブ(“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 7thLIVE TOUR Special 3chord♪ Funky Dancing!”)のテーマソングも担当させてもらって。なので、例えば、一見イメージに合わなそうなものでも「こういうのは?」と投げてもらえたら、ぜひやらせてもらいます、という気持ちです。それこそ最初の頃、「どうして小学生にラップをさせるんだ!?」と思ったときのようなものを担当させてもらえたら嬉しいですね。演者さんには「いつも歌い辛くてすみません」と思っていますが(笑)、自分に話をもらえる限りは、また少し捻った、みんなに楽しんでもらえる曲を作りたい、と思っています。

●リリース情報
「THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 ANIMATION MASTER 03 Nightwear」
2023年5月24日(水)発売

価格:¥1,650 (税込)

<収録曲>
Tr.01 Nightwear
作詞:MCTC 作曲・編曲: TAKU INOUE 歌:速水奏、塩見周子、城ヶ崎美嘉、一ノ瀬志希、宮本フレデリカ
Tr.02 Nightwear 速水奏 ソロ・リミックス
Tr.03 Nightwear 塩見周子 ソロ・リミックス
Tr.04 Nightwear 城ヶ崎美嘉 ソロ・リミックス
Tr.05 Nightwear 一ノ瀬志希 ソロ・リミックス
Tr.06 Nightwear 宮本フレデリカ ソロ・リミックス
Tr.07 Nightwear オリジナル・カラオケ
Tr.08 Tulip
歌:速水奏、塩見周子、城ヶ崎美嘉、一ノ瀬志希、宮本フレデリカ

●作品情報
TV アニメ「アイドルマスターシンデレラガールズ U149」

原作:バンダイナムコエンターテインメント
原案:「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」 廾之(サイコミ連載)

【スタッフ】
監督:岡本学
副監督:高嶋宏之
シリーズ構成:村山沖
アニメーションキャラクターデザイン:井川典恵
コンセプトアート:大久保錦一
デザインワークス:
野田 猛 小田崎恵子 中村倫子 渡部尭皓 槙田路子
美術設定:曽野由大
高橋武之 金平和茂
美術監督:井上一宏
色彩設計:土居真紀子
3DCG:石川寛貢 榊正宗 神谷宣幸
撮影監督:関谷能弘
編集:三嶋章紀
音響監督:岡本学
音楽:宮崎誠 川田瑠夏 睦月周平
音楽制作:日本コロムビア
アニメーション制作:CygamesPictures

【キャスト】
橘ありす佐藤亜美菜
櫻井桃華照井春佳
赤城みりあ :黒沢ともよ
的場梨沙:集貝はな
結城晴:小市眞琴
佐々木千枝:今井麻夏
龍崎薫:春瀬なつみ
市原仁奈:久野美咲
古賀小春:小森結梨
プロデューサー:米内佑希

©Bandai Namco Entertainment Inc. /PROJECT U149

関連リンク
TV アニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」
公式HP
https://cinderella-u149-anime.idolmaster-official.jp/

公式Twitter
https://twitter.com/u149_anime

TAKU INOUE 公式Twitter
https://twitter.com/ino_tac

TAKU INOUE 公式サイト
https://taku-inoue.com/
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