INTERVIEW & TEXT BY 清水耕司(セブンデイズウォー)
みんなが事前に予習してから臨んでくれたことが伝わりました
――当日のMCで、声出し解禁を受けて直前にセットリストを変更した、という話をされていました。その点も含めて、コンセプトや「TALES OF」というタイトルに込めた意味など、まずはツアー前の準備段階について教えてください。
上坂すみれ 「運命の書」も「同人の書」もセットリストを組んでいたあとに声出し解禁が決まったので、5~6曲くらいは入れ替えました。基本的なコンセプトとしては、5thアルバム『ANTHOLOGY & DESTINY』をメインにして、2日目はこの10年間で出した色々な曲を振り返るという意味も少し込めていて。なのでセットリストも少しだけ違っているんですけど、コロナ禍にリリースした曲が結構ライブ向きといいますか、コールの入る曲が多かったのでそういうのを多く入れていきました。ツアータイトルに関しては『ANTHOLOGY & DESTINY』を感じさせるものいいと思いつつも、アルバムタイトルとは変えたいという気持ちがまずあって。「TALES」にはお話や物語という意味があって……。この単語のついたRPG作品もありますし、私もそのシリーズは好きなんですけど、語感がいいというのもありました。そういうところで「この10年の物語」みたいなイメージでつけました。
――2Daysということで内容をガラリと変えようという気持ちはなかったですか?
上坂 どちらかの日しか行けないという人もいるので、両方行かないとわからない、というライブにはしないつもりでした。1日だけでも十分楽しめるけど両方来たらすべての要素が楽しめる、くらいの感覚ですね。前後編みたいにはしない方がいいかと思っていました。
――上坂さんからのアイデア出しも多かったですか?
上坂 基本的にタイトルやセットリスト、幕間映像で何をするかを考えたり、衣装のテーマを決めたりというのは私が原案みたいなものを出して、そこから色々と決まっていきましたね。
――衣装についても、という話ですが今回のステージ衣装はどのようなテーマでしたか?
上坂 『ANTHOLOGY & DESTINY』は本がたくさん並んでいるジャケット写真が印象的だったので、そこから1着目は魔法図書館の司書のイメージでお願いしました。衣装はちょっとレトロでクラシカルな雰囲気を残した感じで。ただ、ステージセットが割と暗めだったのと、春の公演だったのもあって、明るめの色味のものがいいですね、と話し合いで決まりました。スタイリストさんがかなりカラフルにしてくださって、パステルの千鳥格子もご提案いただきました。
――2日目の2着目は、白ゴスな感じでした。
上坂 あのパートが元々は落ち着いた曲をやる想定だったので、少しクラシックロリータみたいな感じになっています。1日目は黒と赤のロリータ系だったんですけど、両日で図書館やそこにある本に住んでいる天使と悪魔という対比を狙っていました。だから、曲の構成がコール多めに変わったとき、衣装と曲の相性が合うのか少し不安だったんですけど、映像で見たら白ロリータって照明によって結構見え方が変わるので、色々な雰囲気を出せたのが良かったですね。
――3着目の、腰に双眼鏡をつけた衣装はどういったイメージから生まれましたか?
上坂 あれはスチームパンク的な衣装をやってみたかったんですね。クラシカルでレトロな世界観のセットや、今回の公演テーマとの相性がいいと思いました。
――冒険物に旅立つ主人公のようでした。
上坂 そうですね。ライブのかなり終盤で、激しいライブ曲が多くて盛り上がるところだったので、他の2着に比べて強めの印象になるように、冒険者風のお衣装をお願いしました。スチームパンクだとブリキ系のような渋めの色になりがちなところ、鮮やかな緑を使っていただいて。光がしっかりと反射する感じにしていただけたので良かったです。
――急遽セットリストを変更したという点では、リハーサルなどの準備はいかがでしたか?
上坂 リハーサルをしている途中で声出し解禁に変わったんですけど、みんなのコールの感じとか4年前のこととかを思い出しながらリハーサルしていました。みんなの掛け声に合わせてつい歌が早くなっちゃうとか、私はそういうこともあるので。あとは、「同人の書」のセットリストには、すごく久しぶりに歌う曲や初めてコールをする曲、あとは「Car♡Wash♡Girl」のようにみんなで振付をする曲など色々入っていて、セットリストを見たときはバラバラな感じになるかと思ったんですけれども、やってみたらすごく統一感があって。楽しみながらリハをやることができました。
――ここからはライブ当日について振り返っていただければと思います。
上坂 今までもライブの始まりはプロレスの入場を意識していたんですけど、今回の1曲目の「趣味者のテーマ ~ underground heaven!!」はまさに(プロレスの)大きな大会のテーマ曲のような曲なのでリングサイドの口上が合うと思っていました。あとは、みんなにとって久々の声出しになるということで、声出しをアシストするものが欲しかったんですね。あの口上の文言は清野さんが考えてくださったもので、私も舞台裏で聞きながら入場するとき、すごくテンションが上がりました。元々「overture」(=ここでは入場曲の意)があると私はすごく勇気づけられるんですけど、今回のライブではそこに歓声が重なって、しかも1曲目は最初からボルテージの高い「筐体哀歌」だったので、すごくピッタリな始まり方だったと思いました。
――久しぶりに同志の歓声を受けたときの気持ちは?
上坂 私のライブって、電波ソングやロックのようにみんなのコールありきの楽曲がすごく多くて。事前にライブ映像を見て感覚を取り戻してくれたり、楽曲をすごく聞き込んでくれたり、みんなが予習をすごくしっかりしてくれるのがわかりましたよね。初見の方でも楽しんでくれるライブだと思いますけれども、何年も来てくださっている方が率先してコールしてくれていたんじゃないかと思います。
――「筐体哀歌」から、MCを挟んでも「Inner Urge」とコールの激しい曲が続きました。ファンの声出しをアシスト、という話も先ほど出ましたが、声出ししてくれるかについて不安はありましたか?
上坂 そうですね。でも、声出しができない間のイベントでも、拍手とかでみんなが自分なりに盛り上がることができるとわかっていましたから心配はなかったですね。「Inner Urge」もすごくコールしやすい構成の曲ですけど、コールしなくてもペンライトや手を振ることだけでも盛り上がれる曲なので。
――では、幕間映像の前、前半終了として袖に下がったときはライブの手応えなどを感じていましたか?
上坂 転換の時間というか幕間映像の時間は決まっていて絶対にその間に着替えやメイクの変更を間に合わせなければいけないので、何か考えるというよりは次のパートのことを考えていました。例えば、幕間前の「地獄でホットケーキ」と後の「海風のモノローグ」ではだいぶ曲の速さやテンションが違うので気持ちが走らないように一回仕切り直そう、みたいに。
力のある楽曲が多いので自由に全力で表現していくだけ
――幕間映像は、寸劇を入れながらも上坂さんが小動物と戯れるという映像でした。どういったテーマやコンセプトからあの内容に決まったのでしょうか?
上坂 撮影時間も限られていたので、誰かゲストをお呼びするっていうよりは私1人で、とは考えていました。それと今回は、動物との触れ合いみたいなことをすごくやりたいと思っていた、というところからああいう内容になりました。しっかりとコンセプトに沿った映像を作ることもできるとは思うんですけれども、基本的にあんまり難しい映像にはいつもしないんですね。幕間映像中って水を飲んだり一息ついたり、みんなに集中力を1回リセットしてほしい時間でもあるので、これを見ないと次のブロックがわからない、といった内容にはしなかったですね。
――動物と触れ合う前振りの寸劇で、声優の福山 潤さんは声で、スタイリストの佐野夏水さんが友情出演として参加されてもいます。
上坂 「神」の声はどなたかに、ということは考えていて。ありがたいことに福山さんが出演してくださったので、本当に素晴らしい映像になったなと思います。佐野さんは、同志でも知っている方が多いスタッフさんということで。プロットのときから、ちらっとスタッフさんが映っているシーンがあるといいかな、とは思っていました。
――動物カフェで触れ合ってみた中で一番印象に残っている動物は?
上坂 一番触れ合わせていただいたフェレットさんですかね。触るのが初めてでしたし。小さい頃にハムスターを飼っていたので、読んでいた小動物図鑑みたいな本にフェレットも載っていて。ペットショップでもフェレットってハムスターの近くにいらっしゃったのですごく気にはなっていたんですけど、今回触ってみたらとってもかわいくて。げっ歯目は、猫や犬とはまた違うかわいさがありますよね。
――逆に、上坂さんは猫のメロウくんを飼われていますが、他の動物と触れ合ったことで改めて猫の魅力に気づくところはありましたか?
上坂 猫は動きや顔立ち、あとはどれくらい人間を認知しているかというところも種類によって違ってきますけれども、その知能は3歳くらいと言われていて。話をすれば聞いてくれるんですよね。改めてメロウくんの人間らしさみたいなところが大切に思えましたね。
――ちなみにまだ話は逸れるのですが、親ばかを発揮するとするとメロウくんはどういったところがかわいいですか?
上坂 だいたい、お昼は寝ているけれども19時くらいになると起きて色々と活動する、という生活リズムなんです。なので、早く帰ると眠っているんですけど、19時以降に帰ると絶対にお迎えに来てくれるんです。それで足とか色々なところにくっついてきてくれるところとか。あとは、目覚ましで起きなかったときは代わりに起こしにも来てくれて、すごくしっかり者なところもかわいいです。
――お利口さんなんですね。
上坂 そうですね、すごくお利口さんです。
――ではライブの話に戻って。後半はシティポップ系の楽曲から始まりますが、ステージで意識されたことはありましたか?
上坂 「海風のモノローグ」は林 哲司先生に作編曲いただいた曲で、イントロから林先生の雰囲気がとてもある曲なんです。なので(『SUMIRE UESAKA LIVE 2023 TALES OF SUMIPE』の)舞台監督さんが、(幕が開いたときには舞台上にスタンバイしている)板付きではなくイントロ中にステージに出てくる、という歌番組系の演出にしてくださいました。次のNight Tempoさんが作編曲してくださった「City Angel」はかなりニューウェーヴ的なシティポップだと思うんですけど、でもすごく2曲の連携が鮮やかでした。両方とも自分で作詞したということもありましたけど、昔から好きだったシティポップがこうやって市民権を得て、若い方がフラットに「いい曲だな」って聴いてくれているのが伝わったのが嬉しかったです。
――歌番組風にすることで、激しい曲が続いた前半の空気を一新できましたね。
上坂 シティポップのいいところは物語調というか、1曲1つのお話になっているというところだと思っていて。私はそこがとても好きなので、小さな舞台の上で歌う人になりきって歌う、というところでも楽しかったですね。
――その後、2度目の幕間映像を挟みながら「LOVE CRAZY」や「パララックス・ビュー」、そして「来たれ!暁の同志」や「革命的ブロードウェイ主義者同盟」と畳みかけ、上坂さんの10年を味わってもらいました。このあたりのラストスパートはどういった気持ちで迎えていましたか?
上坂 10周年イヤーの始まりである「同人の書」にとてもふさわしいパートだったと思います。その中でも「来たれ!暁の同志」はフェスやライブでずっと活躍してくれた曲だったので、そのコール曲が帰ってきてくれたのが嬉しかったです。最後の「革命的ブロードウェイ主義者同盟」は決してすごく速い曲ではないんですけれども、後味の爽やかな歌というか、まるでアンセムのように盛り上がりましたね。色々な激しい曲で盛り上がった後に「革ブロ」で終わるというところで、とてもいいライブのセットリストにできたと思いました。
――そういった10年選手の中に20221年リリースの「EASY LOVE」が混じっていました。それだけの実力を伴ったライブ曲をコロナ禍で誕生させられた、というところがすごいと感じていました。
上坂 「EASY LOVE」は本当にコロナ禍真っ只中にリリースしたので、ライブやイベントでみんなに向かって歌うことができず、なかなか育てられなかった曲ではあったんですけども、配信サイトでも聴いていただき、日本以外の国の方々にもとても愛されている曲になったんですよね。コールがすごくしやすい曲ですし。そういった中でバンドサウンドにすごく合う曲だということも今回改めて実感できました。
――「ラムのラブソング」を歌われた「同人の書」のアンコールについても教えてください。
上坂 「ラムのラブソング」は、『うる星やつら』のパッケージ(=Blu-ray BOX・DVD BOX)特典CDでカバーさせていただきました。色んな方がカバーされた曲ではあるんですけど、バンドアレンジってちょっと珍しいですよね。あとは、特典CDはラムとして歌いましたけど、今回は上坂すみれとして歌唱させていただきました。小さい頃から大好きな曲だったので、その曲を自分のライブのセットリストに入れられるということは意義深く、とてもすごいことだと思います。
――10年を経て、デビュー当初に比べるとライブもかなりアーティストとして進化されていると感じます。この10年でのライブの変化についてご自身ではどのように感じますか?
上坂 デビューしたときは歌唱の経験がなく、ライブも持ち曲がそんなにない状態で始めたので、曲を歌う以外のことをしないとなかなかイベントとして成立しない、というのがまず大きい壁としてあったんですけれども。
――デビュー1周年時の『革命的ブロードウェイ主義者同盟 総決起集会』で様々なアイテムを配ったように。
上坂 でも今はかなり曲が増えてくれましたし、どの曲も曲自身にパワーがあるので、歌以外のパフォーマンスを過度に考える必要がなくなりました。全力で1曲1曲を表現していくというか。今はとても、自由にライブをやらせてもらっているな、とは思いますね。
――盛り上げることに囚われず、歌に集中できるということですね。アーティストとしてもターニングポイントとなった曲や瞬間はありましたか?
上坂 うーん……、それはあまりないかもしれないですね。楽曲ごとにかなりコンセプトが変わることも多かったので、この曲がポイントになった、ということはなくて。まったく同じ役を演じることがないように、これからも1曲ずつ自分の中に入れていくしかないのかな、と思いますね。
――最後に。今回の映像商品を自身で観返してみて、どういった点がお薦めだと思いますか?
上坂 私のライブに興味があるけどまだ来たことがないという人、ライブのイメージを知りたいという人にはすごくお薦めだと思います。ライブで披露することの多い曲がとてもたくさん入っていますし、みんなのコールの音声がしっかり入っているんですよね。あとは、昔の楽曲の場合、私の歌い方が結構変わってもいるんですけど、このライブ映像を観れば今の感じがよくわかると思います。ぜひたくさんの方に観ていただきたいです!
●リリース情報
「SUMIRE UESAKA LIVE 2023 TALES OF SUMIPE」Blu-ray
8月23日発売
品番:KIXM-546
価格:¥9,350(税込)
初回製造特典
・三方背ケース
・別冊32Pライブフォトブック
<SETLIST>
01.趣味者のテーマ ~ underground heaven!!
02.筐体哀歌
03.♡をつければかわいかろう
04.閻魔大王に訊いてごらん
MC①
05.Inner Urge
06.げんし、女子は、たいようだった。
07.サイケデリック純情
08.地獄でホットケーキ
テイルズ オブ モフティニー&モフティニー2-前編-
09.海風のモノローグ
10.City Angel
11.踊れ!きゅーきょく哲学
MC②
12.Car♡Wash♡Girl
13.よっぱらっぴ☆
14.ウエサカダイナミック
テイルズ オブ モフティニー&モフティニー2-後編-
15.LOVE CRAZY
MC③
16.パララックス・ビュー
17.来たれ!暁の同志
18.ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡(BAND inst)
19.POP TEAM EPIC
20.EASY LOVE
21.革命的ブロードウェイ主義者同盟
ENDROLL
〈ENCORE〉
22.リベリオン
MC④
23.ラムのラブソング
24.七つの海よりキミの海
BONUS
テイルズ オブ モフティニー&モフティニー2
・運命の書ver.
・同人の書ver.
MAKING
PACKAGE SPOT
・発売前/発売中
オーディオコメンタリー
14th SINGLE
「ハッピーエンドプリンセス」
10月18日発売
予約はこちら
【初回限定盤(CD+Blu-ray)】
品番:KICM-92140
価格:¥2,200(税込)
【期間限定アニメ盤(CD)】
品番:KICM-92141
価格:¥1,430(税込)
キャラクターデザイン・大塚舞描き下ろしジャケット仕様
【通常盤(CD)】
品番:KICM-2140
価格:¥1,430(税込)
<CD>
01.ハッピーエンドプリンセス
作詞:大石昌良 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良・園田健太郎
※TVアニメ「ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~」OPテーマ
他、off vocal ver.を含む全6曲収録予定。
<Blu-ray>
「ハッピーエンドプリンセス」Music Video+MAKING
関連リンク
上坂すみれ 公式サイト
http://king-cr.jp/artist/uesakasumire
上坂すみれ 公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/uesaka_official
上坂すみれ 公式YouTube
https://www.youtube.com/@uesakasumire