人気VTuberグループ・にじさんじに所属し、二次元と三次元を繋げるような音楽活動を続けてきた樋口楓。彼女の3曲入りの最新シングル『三D』が完成した。
今回の楽曲は、3曲ともに彼女の作品でもお馴染みとなった光増ハジメ(FirstCall)が作曲を担当。楽曲ごとにそれぞれ異なる作詞家を迎えつつ、3曲すべてがTVアニメや実写ドラマ、ゲーム作品のタイアップ曲になっており、活動初期から「二次元と三次元の壁を壊したい」と語っていた彼女らしい魅力が詰まった作品になっている。それぞれの制作過程について、本人に聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁
「“タイアップ作品の物語”と“樋口楓らしさ”の両方を出したい」
――2023年も後半に差し掛かっています。音楽や音楽以外のものも含めて、今年の活動の中で樋口さんが特に印象的だった思い出はありますか?
樋口楓 まずはやっぱり、「めーぷるなっつばにーだよ」(胡桃のあ、樋口楓、兎咲ミミ&みこだよコーチ)で出場した「Vtuber最協決定戦」ですね。私はVTuber活動をしていて何かしらで優勝したこと自体が初めてだったので、これは皆さんにとっても印象的だったんじゃないかな、と思っています。
――長らく使い続けてきた武器・Lスターとキャラクター・ランパートでの優勝でしたね。
樋口 Lスターとランパートってだいぶ個性が強くて、一歩間違えたらすごく弱くなってしまうんですよね(笑)。その構成を活かしてくれたメンバーとコーチに本当に感謝しています。私は三番手だったので、自分が貢献できたかどうかはあまり実感がないんですけど、一番手と二番手の2人に背負ってもらったし、コーチングでランパートの活かし方を教えていただいたのはすごく大きかったと思っています。
――2月に5周年を迎えたことについてはいかがでしたか?
樋口 大々的に何かをする感じではなかったですけど、「VTuber業界が今も続いてくれていて嬉しいな」っていう気持ちです。自分自身も、この5年間で「無理に活動を続けて心がしんどくなるのは一番嫌だな」とわかったところがあって……自分のペースをこの5年間でおおよそ掴んだ感覚があるからこそ、「無理のないように活動していこう」と思うようになりました。
――長く楽しんで活動するにはどうすればいいか考えるようになったということですね。
樋口 そうですね。周りの人達がすごく大変なときもあったし、コロナ禍での制限が解除されたことでリスナーさんがVTuber以外のものにも手を出すようになって、そのギャップで疲れてしまう人も周りにいたりしたので、「ちゃんと休んで、気持ちを切り替えられるようなタイミングを作ろう」と考えるようになったのが大きいかもしれないです。
――ここ数年で色々な変化がありましたからね。
樋口 元々私の場合、案件のようなものをお仕事として受けている一方で、配信活動は自分の趣味の範囲でやっているので、自分の配信では本当に友達と話すような感覚でいることを大事にしているんです。だからこそ、みんなに言えばわかってもらえるというところがあって、休みたいときには「ちょっと休もうかな」と言えるような関係を築けていることは、良い5年間を過ごしてこられたからこそなのかな、と感じたりしています。
――ここ数年で自分自身について「変わったな」と思うことはありますか?
樋口 うーん、昔よりもだいぶ慎重になったかもしれない(笑)。昔はコラボしたい人、コラボしたい企業さん、お仕事したいところ、みたいに色んな方向に突っ走っていましたけど、にじさんじを運営しているANYCOLOR株式会社という会社自体が昔と比べてすごく大きくなったこともあって周りに大人が増えましたし、VTuberが色んな場所で活躍するようになったことで、良い意味で色んな界隈の方々と接する機会が増えていて。自分1人の行動で印象を悪くしないようにしようと、これまでより考えて行動することが増えたように思いますね。
――音楽活動についてはどうでしょう?樋口さんの歌い方なども、活動の中でより幅広くなっているようなイメージがあります。
樋口 自分ではあまり実感がないですけど「歌いやすいもの」や「歌いたい楽曲」を、なんとなく見つけられるようになってきたのかな、とは思います。今までは知識がなくてあまり言葉にできなかったものを、ちゃんと汲み取ってもらえるようになったというか。
――なるほど。では、樋口さんが自身の音楽活動で大事にしているのはどんなことですか?
樋口 自分のマインドの問題なんですけど、ライブで一回終わってこの楽曲を歌うのは終わり、というものにはしたくない、という部分はあります。作った曲を大事にしていきたいと思っているんです。歌詞や楽曲のテーマという意味では、例えばタイアップ曲の場合は、タイアップする作品の物語と樋口楓らしさの両方がちゃんと出ればいいな、という気持ち。一方で、タイアップ曲やリード曲じゃないものに関しては、私がより歌いたい方向性のものだったり、スタッフさんと話していて「それいいやん!」と思ったアイディアを採用したりしています。
――今回のシングルに収録された3曲はすべてがタイアップ曲になっています。まずは1曲目「Bravery? Naturally?」(TVアニメ『英雄教室』OP主題歌)の制作過程を思い出していただけますか?
樋口 この曲は「アニメのタイアップをするよ」ということを先に教えていただいたんです。『英雄教室』はファンタジー学園風の物語で、主人公自身は闇を負っている部分もあったりはしますけど、基本的には最強元勇者の主人公が友達を作っていく作品なので、「疾走感のある爽やかな楽曲を作りたい」と思っていました。
――この楽曲は実際に、青春感のある爽やかなギターロックになっていますね。
樋口 そうですね。
――「Bravery? Naturally?」で樋口さんが特に好きなところはありますか?
樋口 2Aの「”フツウ“って 定義に 未だに 惑うけれど 『誰もが 同じじゃない』」という歌詞の部分は、今を生きる人たちには結構刺さるんじゃないかな、と思ったりしています。私たちも「何で普通にできひんの?」とか「誰々はあんなに頑張ってるのに、どうしてやらないの?」という声をかけられたりしますけど、1人1人のキャパシティが違うからこそ見る側もやる側も違うから、この歌詞の部分は「確かになぁ」と思います。
「自分が歌いたい歌」「自分が大事にしたい曲」の融合
――続く2曲目「ぶっ飛んでラニカイ」は、与田祐希さんが主演を務めるTVドラマ『量産型リコ -もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』のOP主題歌で、樋口さんが以前オープニング曲を担当していたドラマの続編/パラレルワールド編的な作品の楽曲ですね。
樋口 この楽曲は『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』の主題歌だった「ビューティーMYジンセイ!」と、さらにその前につくった「イロドレ・ファッショニスタ!」と繋がっている楽曲になっています。私自身が女性っぽいことを普段の配信や3D配信でやったり発信したりすることがそんなにないからこそ、樋口楓の楽曲って、そういうものがなかなかないと思うんですよ。そこで3曲の一貫したテーマとして「女の子のドキドキワクワク」が表現されていて、それを表現するのが上手い方として、作詞は安藤紗々さんにお願いしました。
――今回の楽曲は、「ビューティーMYジンセイ!」に比べても、夏のバケーションを連想させるような楽曲になっていますね。
樋口 今回のリコちゃんはユニコーン企業の社長ということもありましたし、7月放送開始のドラマでもあったので、「リコちゃんが夏休みにどこかに行くなら、どんな感じになるだろう?」というドキドキワクワクをテーマに作ってもらいました。樋口楓の楽曲一覧を見たときに、「夏っぽい曲がそんなになかったね」という話もしていたんですよ。
――与田さん演じるリコちゃんの曲でありつつも、“やったれアビイロード”という歌詞など、随所に樋口さんらしい言い回しなどが感じられるのも印象的でした。
樋口 そうですね(笑)。私が言うといかつくなっちゃいますけど、曲と一緒に聴いてもらうとかわいい感じになっていると思います。この曲は「とにかく楽しさを出そう」と思って歌っていたんですけど、リコちゃん自身が量産型というプロフィールの女の子だからこそ、あまりはっちゃけすぎずに、社会人としてのテンションのバランスを考えながら歌っていきました。
――全力で騒いでしまうと、ドラマに寄り添う楽曲にはならないと思ったんですね。
樋口 そうなんです。全力で弾けるとかなり騒がしい曲になってしまうので、水着で走り回っているだけじゃなくて、砂浜で寝転んでいるような雰囲気も出るように工夫してもらいました。
――曲の後半に、夏の終わりや旅行の終わりに感じるちょっとした寂しさのようなものが表現されているのも印象的でした。
樋口 夏休みってすぐに終わっちゃいますからねぇ。社会人の夏休みは結構短いと思いますし、学生のみんなも40日くらい休みがあるなかで、マジであっという間に終わってしまう感覚で。気づいたら「終わっちゃうんだ……」というときの気持ちで歌ってみました。
――3曲目に収録されている家庭用ゲーム『すだまリレイシヨン』のOP主題歌「Around the bizarre world」についてはいかがでしょう?
樋口 『すだまリレイシヨン』はまだ実際にプレイはできていないんですけど、制作段階で「こんなゲームになりますよ」ということは教えてもらっていて、最初は和ロックにするか悩んだんです。でも、この作品は謎解きアドベンチャーゲームだし、妖怪が出てくるし、派手な和ロックは合わないだろうな、と思って。日本の妖怪がテーマだからこそ、ちょっとおどろおどろしいような、妖怪らしい雰囲気が出せたらいいな、と思っていました。
――いわゆる海外のスプラッター映画などと比べたときの日本のホラーや怪談などの特徴でもある、直接的ではないじわじわとした表現を大切にしたんですね。曲が上がってきたときの感想はいかがでしたか?
樋口 最初は、「ホラーになりすぎないようにお願いします!」ということを伝えたような気がします。『すだまリレイシヨン』はあくまで謎解きアドベンチャー作品なので、ホラー要素に寄り過ぎない、ちょっと光が見えるような曲にしたいな、と思っていました。
――歌の面で工夫したことはありますか?
樋口 録音したのは結構前なんですけど、暗くなりすぎず、でも元気いっぱいでもない、丁度良い塩梅を見つけるために、最初は結構探り探りやっていった気がします。光増さんには毎回レコーディングに来ていただいているので、「光増さんが思う感じで一回歌ってくれないですか?」とお願いして、それを聴きながら「なるほど」と歌い方を考えたりもしました。歌詞は松井洋平さんに書いてもらっていますけど、謎解きがテーマの作品ならではの“自分を疑うのがはじまり”という歌詞があったりもします。私は謎解きで詰まっちゃったときに広い視野で見ることができなくなるタイプで、めちゃくちゃイライラして「もうええか」ってなっちゃうんですけど(笑)、謎解きって本当に「灯台下暗し」だったりしますよね。あと、私は発声のアタック感が強い、一言一言が立っている歌い方をするタイプということもあって、この曲は「いつもの樋口楓の歌い方では合わない」という話になって。できるだけ流れるように歌いつつ、日本の妖怪っぽさ、ホラーっぽさを出せるように考えていきました。
――今回の3曲では、それぞれに楽曲やタイアップ作品に合った歌い方をされているのが印象的でした。樋口さん自身はいかがでしたか?
樋口 全部がタイアップ曲ですべての作品を背負っているからこそ、どの楽曲も弱くなってはいけない、と思っていました。強い分には良いですけど、どの楽曲も釣り合わなきゃいけないな、と思っていて。「作品を引き立たせる」というのが今回のテーマだったと思います。
――初回限定盤に付属するトレーディングカード風の「シャドーアート制作キット」は、どんな経緯でつけられることになったんですか? TVドラマ『量産型リコ』シリーズのテーマになっている「プラモデル」になぞらえたものだそうですね。
樋口 最近カードゲームが流行っているというのもありますし、(前回のドラマ主題歌だった)「ビューティーMYジンセイ!」のときに特典としてつけさせてもらったペーパーフィギュアは結構難しくて、何十時間もかけないと完成しないものだったので、今回は、皆さんに気軽に手に取ってもらえるものをつけようと思って出てきたアイデアでした。
――続いて、『三D』というアルバムタイトルやユニークな表記の由来についても教えてください。
樋口 去年のミニアルバムに『i^x=K』(いこーるわたし)というタイトルをつけさせてもらったときも、スタッフさんが頭を捻って変わった表記を提案してくださったんですけど、今回も「その続きのようなものにしてみよう」という話になりました。ただ、今回せっかく全曲がタイアップだから、どれか1つの楽曲にフォーカスするというのも違うかな、と思っていて。それなら「3曲だから『三D』でいいんじゃないか」と思ったんです。それを、ロケットのように見える表記にしていただきました。ロケットにしたのは、私のアイデアで、「3D」という表記でもVTuberっぽくはありますけど、『三D』にすることで、色々と想像してもらえる余地が生まれるんじゃないかと思っていたんです。もっと3曲が羽ばたきますように、突き抜けますように、というイメージでこの表記にしました。
――今回の『三D』は、樋口さんにとってどんな作品になっていますか?
樋口 収録曲が全曲タイアップ曲というのは、今後なかなかないようなことだと思うので、すごく貴重な体験をさせてもらいました。音楽活動を通して、「曲を大事にしてきたい」という自分の意志も再確認する機会になったと思います。3曲それぞれがタイアップ曲で、作品のことを考えながら大事に作ったからこそ、「それ以外の曲もさらに大事に届けていきたい」と思いました。色んな企業さんが関わってできるものだからこそ、自分らしさや自分がやりたいことを考えつつも、これがOPで流れたときにどう映るだろうと客観的に見ることも含めて、色んな視点があるんだな、と感じることができたんですよね。3曲が3曲ともアイデアがストレートに通ったわけではないので、「こういう見られ方になることもあるんだ」「こんな見方もあったんだ」と、まだ未熟だからこそ、改めて成長を感じられる機会になりました。
――改めて、良い機会になりましたね。今後の目標などはありますか?
樋口 3年前、「二次元と三次元の壁を壊す」ということをテーマにランティスさんに入って音楽活動を始めて、最近は「自分が歌いたい歌」「自分が大事にしたい曲」というのがだんだん分かってきて。それを融合させるのがこれからの課題だと思っています。まだその部分がやりきれていないと思っているからこそ、これからも頑張っていきたいですね。
●リリース情報
樋口楓 4thシングル
「三D」
2023年9月6日(水)リリース
予約/購入はこちら
■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら
【初回限定盤(CD+グッズ)】
品番:LACM-34433
価格:¥2,750(税込)
初回限定盤仕様:トレーディングカード風の「シャドーアート制作キット」を同梱
【通常盤(CD)】
品番:LACM-24433
価格:¥1,650(税込)
<INDEX>
01:Bravery? Naturally?
作詞:RUCCA 作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
02:ぶっ飛んでラニカイ
作詞:安藤紗々 作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
03:Around the bizarre world
作詞:松井洋平 作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
▼特典情報詳細はこちら
https://lantis.jp/news.php?id=2023060501
関連リンク
樋口楓
Lantis アーティストページ
https://www.lantis.jp/artist/kaede_higuchi/
公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/HiguchiKaede
YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCsg-YqdqQ-KFF0LNk23BY4A
今回の楽曲は、3曲ともに彼女の作品でもお馴染みとなった光増ハジメ(FirstCall)が作曲を担当。楽曲ごとにそれぞれ異なる作詞家を迎えつつ、3曲すべてがTVアニメや実写ドラマ、ゲーム作品のタイアップ曲になっており、活動初期から「二次元と三次元の壁を壊したい」と語っていた彼女らしい魅力が詰まった作品になっている。それぞれの制作過程について、本人に聞いた。
INTERVIEW & TEXT BY 杉山 仁
「“タイアップ作品の物語”と“樋口楓らしさ”の両方を出したい」
――2023年も後半に差し掛かっています。音楽や音楽以外のものも含めて、今年の活動の中で樋口さんが特に印象的だった思い出はありますか?
樋口楓 まずはやっぱり、「めーぷるなっつばにーだよ」(胡桃のあ、樋口楓、兎咲ミミ&みこだよコーチ)で出場した「Vtuber最協決定戦」ですね。私はVTuber活動をしていて何かしらで優勝したこと自体が初めてだったので、これは皆さんにとっても印象的だったんじゃないかな、と思っています。
――長らく使い続けてきた武器・Lスターとキャラクター・ランパートでの優勝でしたね。
樋口 Lスターとランパートってだいぶ個性が強くて、一歩間違えたらすごく弱くなってしまうんですよね(笑)。その構成を活かしてくれたメンバーとコーチに本当に感謝しています。私は三番手だったので、自分が貢献できたかどうかはあまり実感がないんですけど、一番手と二番手の2人に背負ってもらったし、コーチングでランパートの活かし方を教えていただいたのはすごく大きかったと思っています。
――2月に5周年を迎えたことについてはいかがでしたか?
樋口 大々的に何かをする感じではなかったですけど、「VTuber業界が今も続いてくれていて嬉しいな」っていう気持ちです。自分自身も、この5年間で「無理に活動を続けて心がしんどくなるのは一番嫌だな」とわかったところがあって……自分のペースをこの5年間でおおよそ掴んだ感覚があるからこそ、「無理のないように活動していこう」と思うようになりました。
――長く楽しんで活動するにはどうすればいいか考えるようになったということですね。
樋口 そうですね。周りの人達がすごく大変なときもあったし、コロナ禍での制限が解除されたことでリスナーさんがVTuber以外のものにも手を出すようになって、そのギャップで疲れてしまう人も周りにいたりしたので、「ちゃんと休んで、気持ちを切り替えられるようなタイミングを作ろう」と考えるようになったのが大きいかもしれないです。
――ここ数年で色々な変化がありましたからね。
樋口 元々私の場合、案件のようなものをお仕事として受けている一方で、配信活動は自分の趣味の範囲でやっているので、自分の配信では本当に友達と話すような感覚でいることを大事にしているんです。だからこそ、みんなに言えばわかってもらえるというところがあって、休みたいときには「ちょっと休もうかな」と言えるような関係を築けていることは、良い5年間を過ごしてこられたからこそなのかな、と感じたりしています。
――ここ数年で自分自身について「変わったな」と思うことはありますか?
樋口 うーん、昔よりもだいぶ慎重になったかもしれない(笑)。昔はコラボしたい人、コラボしたい企業さん、お仕事したいところ、みたいに色んな方向に突っ走っていましたけど、にじさんじを運営しているANYCOLOR株式会社という会社自体が昔と比べてすごく大きくなったこともあって周りに大人が増えましたし、VTuberが色んな場所で活躍するようになったことで、良い意味で色んな界隈の方々と接する機会が増えていて。自分1人の行動で印象を悪くしないようにしようと、これまでより考えて行動することが増えたように思いますね。
――音楽活動についてはどうでしょう?樋口さんの歌い方なども、活動の中でより幅広くなっているようなイメージがあります。
樋口 自分ではあまり実感がないですけど「歌いやすいもの」や「歌いたい楽曲」を、なんとなく見つけられるようになってきたのかな、とは思います。今までは知識がなくてあまり言葉にできなかったものを、ちゃんと汲み取ってもらえるようになったというか。
自分の好きなものを、しっかりと作れるようになってきたのかもしれないです。実際に音楽活動をしてみないとわからないこともありますし、仮に「こういうものを作りたい」と思っても、予算やクリエイターさんのスケジュールの問題が出てきたりもしますけど、そういうことも込みで、「ちゃんと作りたい楽曲がわかるようになってきた」という感覚なんです。
――なるほど。では、樋口さんが自身の音楽活動で大事にしているのはどんなことですか?
樋口 自分のマインドの問題なんですけど、ライブで一回終わってこの楽曲を歌うのは終わり、というものにはしたくない、という部分はあります。作った曲を大事にしていきたいと思っているんです。歌詞や楽曲のテーマという意味では、例えばタイアップ曲の場合は、タイアップする作品の物語と樋口楓らしさの両方がちゃんと出ればいいな、という気持ち。一方で、タイアップ曲やリード曲じゃないものに関しては、私がより歌いたい方向性のものだったり、スタッフさんと話していて「それいいやん!」と思ったアイディアを採用したりしています。
――今回のシングルに収録された3曲はすべてがタイアップ曲になっています。まずは1曲目「Bravery? Naturally?」(TVアニメ『英雄教室』OP主題歌)の制作過程を思い出していただけますか?
樋口 この曲は「アニメのタイアップをするよ」ということを先に教えていただいたんです。『英雄教室』はファンタジー学園風の物語で、主人公自身は闇を負っている部分もあったりはしますけど、基本的には最強元勇者の主人公が友達を作っていく作品なので、「疾走感のある爽やかな楽曲を作りたい」と思っていました。
――この楽曲は実際に、青春感のある爽やかなギターロックになっていますね。
樋口 そうですね。
今回も作曲は光増ハジメさん、歌詞は以前「Baddest」でも作詞をしていただいたRUCCA さんという、樋口楓チームとしても実績のある方に楽曲をお願いさせていただきまして。私自身の歌に関しては、真っ直ぐ歌おうと意識していました。「Baddest」のときはダークなロック曲だったので、ちょっと斜に構えて歌うことを意識していたんですけど、今回は「明るく歌おう」ということを、光増さんと一緒に話していたような気がします。
――「Bravery? Naturally?」で樋口さんが特に好きなところはありますか?
樋口 2Aの「”フツウ“って 定義に 未だに 惑うけれど 『誰もが 同じじゃない』」という歌詞の部分は、今を生きる人たちには結構刺さるんじゃないかな、と思ったりしています。私たちも「何で普通にできひんの?」とか「誰々はあんなに頑張ってるのに、どうしてやらないの?」という声をかけられたりしますけど、1人1人のキャパシティが違うからこそ見る側もやる側も違うから、この歌詞の部分は「確かになぁ」と思います。
「自分が歌いたい歌」「自分が大事にしたい曲」の融合
――続く2曲目「ぶっ飛んでラニカイ」は、与田祐希さんが主演を務めるTVドラマ『量産型リコ -もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』のOP主題歌で、樋口さんが以前オープニング曲を担当していたドラマの続編/パラレルワールド編的な作品の楽曲ですね。
樋口 この楽曲は『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』の主題歌だった「ビューティーMYジンセイ!」と、さらにその前につくった「イロドレ・ファッショニスタ!」と繋がっている楽曲になっています。私自身が女性っぽいことを普段の配信や3D配信でやったり発信したりすることがそんなにないからこそ、樋口楓の楽曲って、そういうものがなかなかないと思うんですよ。そこで3曲の一貫したテーマとして「女の子のドキドキワクワク」が表現されていて、それを表現するのが上手い方として、作詞は安藤紗々さんにお願いしました。
――今回の楽曲は、「ビューティーMYジンセイ!」に比べても、夏のバケーションを連想させるような楽曲になっていますね。
樋口 今回のリコちゃんはユニコーン企業の社長ということもありましたし、7月放送開始のドラマでもあったので、「リコちゃんが夏休みにどこかに行くなら、どんな感じになるだろう?」というドキドキワクワクをテーマに作ってもらいました。樋口楓の楽曲一覧を見たときに、「夏っぽい曲がそんなになかったね」という話もしていたんですよ。
それで自分の「老後はハワイに住みたい」と言っていたりする発言ともリンクさせていただいています。
――与田さん演じるリコちゃんの曲でありつつも、“やったれアビイロード”という歌詞など、随所に樋口さんらしい言い回しなどが感じられるのも印象的でした。
樋口 そうですね(笑)。私が言うといかつくなっちゃいますけど、曲と一緒に聴いてもらうとかわいい感じになっていると思います。この曲は「とにかく楽しさを出そう」と思って歌っていたんですけど、リコちゃん自身が量産型というプロフィールの女の子だからこそ、あまりはっちゃけすぎずに、社会人としてのテンションのバランスを考えながら歌っていきました。
――全力で騒いでしまうと、ドラマに寄り添う楽曲にはならないと思ったんですね。
樋口 そうなんです。全力で弾けるとかなり騒がしい曲になってしまうので、水着で走り回っているだけじゃなくて、砂浜で寝転んでいるような雰囲気も出るように工夫してもらいました。
――曲の後半に、夏の終わりや旅行の終わりに感じるちょっとした寂しさのようなものが表現されているのも印象的でした。
樋口 夏休みってすぐに終わっちゃいますからねぇ。社会人の夏休みは結構短いと思いますし、学生のみんなも40日くらい休みがあるなかで、マジであっという間に終わってしまう感覚で。気づいたら「終わっちゃうんだ……」というときの気持ちで歌ってみました。
――3曲目に収録されている家庭用ゲーム『すだまリレイシヨン』のOP主題歌「Around the bizarre world」についてはいかがでしょう?
樋口 『すだまリレイシヨン』はまだ実際にプレイはできていないんですけど、制作段階で「こんなゲームになりますよ」ということは教えてもらっていて、最初は和ロックにするか悩んだんです。でも、この作品は謎解きアドベンチャーゲームだし、妖怪が出てくるし、派手な和ロックは合わないだろうな、と思って。日本の妖怪がテーマだからこそ、ちょっとおどろおどろしいような、妖怪らしい雰囲気が出せたらいいな、と思っていました。
――いわゆる海外のスプラッター映画などと比べたときの日本のホラーや怪談などの特徴でもある、直接的ではないじわじわとした表現を大切にしたんですね。曲が上がってきたときの感想はいかがでしたか?
樋口 最初は、「ホラーになりすぎないようにお願いします!」ということを伝えたような気がします。『すだまリレイシヨン』はあくまで謎解きアドベンチャー作品なので、ホラー要素に寄り過ぎない、ちょっと光が見えるような曲にしたいな、と思っていました。
――歌の面で工夫したことはありますか?
樋口 録音したのは結構前なんですけど、暗くなりすぎず、でも元気いっぱいでもない、丁度良い塩梅を見つけるために、最初は結構探り探りやっていった気がします。光増さんには毎回レコーディングに来ていただいているので、「光増さんが思う感じで一回歌ってくれないですか?」とお願いして、それを聴きながら「なるほど」と歌い方を考えたりもしました。歌詞は松井洋平さんに書いてもらっていますけど、謎解きがテーマの作品ならではの“自分を疑うのがはじまり”という歌詞があったりもします。私は謎解きで詰まっちゃったときに広い視野で見ることができなくなるタイプで、めちゃくちゃイライラして「もうええか」ってなっちゃうんですけど(笑)、謎解きって本当に「灯台下暗し」だったりしますよね。あと、私は発声のアタック感が強い、一言一言が立っている歌い方をするタイプということもあって、この曲は「いつもの樋口楓の歌い方では合わない」という話になって。できるだけ流れるように歌いつつ、日本の妖怪っぽさ、ホラーっぽさを出せるように考えていきました。
そういう意味で、「どういう歌い方がいいのか」を掴むのが難しかった楽曲でしたね。
――今回の3曲では、それぞれに楽曲やタイアップ作品に合った歌い方をされているのが印象的でした。樋口さん自身はいかがでしたか?
樋口 全部がタイアップ曲ですべての作品を背負っているからこそ、どの楽曲も弱くなってはいけない、と思っていました。強い分には良いですけど、どの楽曲も釣り合わなきゃいけないな、と思っていて。「作品を引き立たせる」というのが今回のテーマだったと思います。
――初回限定盤に付属するトレーディングカード風の「シャドーアート制作キット」は、どんな経緯でつけられることになったんですか? TVドラマ『量産型リコ』シリーズのテーマになっている「プラモデル」になぞらえたものだそうですね。
樋口 最近カードゲームが流行っているというのもありますし、(前回のドラマ主題歌だった)「ビューティーMYジンセイ!」のときに特典としてつけさせてもらったペーパーフィギュアは結構難しくて、何十時間もかけないと完成しないものだったので、今回は、皆さんに気軽に手に取ってもらえるものをつけようと思って出てきたアイデアでした。
――続いて、『三D』というアルバムタイトルやユニークな表記の由来についても教えてください。
樋口 去年のミニアルバムに『i^x=K』(いこーるわたし)というタイトルをつけさせてもらったときも、スタッフさんが頭を捻って変わった表記を提案してくださったんですけど、今回も「その続きのようなものにしてみよう」という話になりました。ただ、今回せっかく全曲がタイアップだから、どれか1つの楽曲にフォーカスするというのも違うかな、と思っていて。それなら「3曲だから『三D』でいいんじゃないか」と思ったんです。それを、ロケットのように見える表記にしていただきました。ロケットにしたのは、私のアイデアで、「3D」という表記でもVTuberっぽくはありますけど、『三D』にすることで、色々と想像してもらえる余地が生まれるんじゃないかと思っていたんです。もっと3曲が羽ばたきますように、突き抜けますように、というイメージでこの表記にしました。
――今回の『三D』は、樋口さんにとってどんな作品になっていますか?
樋口 収録曲が全曲タイアップ曲というのは、今後なかなかないようなことだと思うので、すごく貴重な体験をさせてもらいました。音楽活動を通して、「曲を大事にしてきたい」という自分の意志も再確認する機会になったと思います。3曲それぞれがタイアップ曲で、作品のことを考えながら大事に作ったからこそ、「それ以外の曲もさらに大事に届けていきたい」と思いました。色んな企業さんが関わってできるものだからこそ、自分らしさや自分がやりたいことを考えつつも、これがOPで流れたときにどう映るだろうと客観的に見ることも含めて、色んな視点があるんだな、と感じることができたんですよね。3曲が3曲ともアイデアがストレートに通ったわけではないので、「こういう見られ方になることもあるんだ」「こんな見方もあったんだ」と、まだ未熟だからこそ、改めて成長を感じられる機会になりました。
――改めて、良い機会になりましたね。今後の目標などはありますか?
樋口 3年前、「二次元と三次元の壁を壊す」ということをテーマにランティスさんに入って音楽活動を始めて、最近は「自分が歌いたい歌」「自分が大事にしたい曲」というのがだんだん分かってきて。それを融合させるのがこれからの課題だと思っています。まだその部分がやりきれていないと思っているからこそ、これからも頑張っていきたいですね。
●リリース情報
樋口楓 4thシングル
「三D」
2023年9月6日(水)リリース
予約/購入はこちら
■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら
【初回限定盤(CD+グッズ)】
品番:LACM-34433
価格:¥2,750(税込)
初回限定盤仕様:トレーディングカード風の「シャドーアート制作キット」を同梱
【通常盤(CD)】
品番:LACM-24433
価格:¥1,650(税込)
<INDEX>
01:Bravery? Naturally?
作詞:RUCCA 作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
02:ぶっ飛んでラニカイ
作詞:安藤紗々 作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
03:Around the bizarre world
作詞:松井洋平 作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
▼特典情報詳細はこちら
https://lantis.jp/news.php?id=2023060501
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