日本が世界に誇るアニメカルチャー。主題歌を歌うアーティストが海外でのライブで大歓声に迎えられることや日本語の歌詞での大合唱が巻き起こることなどは、そうしたライブを経験してきた数多くのアーティストの言葉から広く知られるが、実は海外のアニメコンベンションやイベントで非常に大きな関心を集めているのが「劇伴」である。
アニメのシーンを彩った楽曲たち、物語を雄弁に語る音の粒子。そうしたものへのリスペクトを体感した一人の劇伴クリエイターが「日本で生まれた劇伴音楽を日本で奏でなくては!」と奮起し、生まれたのが世界初の劇伴音楽フェスである。

その発案者である林 ゆうきが劇伴フェスの「エピソード0」である“京伴祭”を風雨の中の上賀茂神社で無観客での開催をしたのが2022年のこと。後に東京でも“東京伴祭”を開催し、いよいよ本格始動を果たしたこのフェスが京都に帰ってきた。京都発のアニメコンベンション「京まふ」の協力のもと、京都・梅小路公園で開催された劇伴による野外フェス“京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL-2023”を現地よりレポートする。

TEXT BY えびさわなち

劇伴音楽をフェスで、しかも野外で開催したい――京都出身の作曲家・林 ゆうきがその開催場所として選んだのは京都水族館、そして京都鉄道博物館も近い梅小路公園。まだまだ酷暑と呼べるほどの日差しと灼熱の気温のなか、登場した林。イベント公式グッズの扇子を手にし、同じく公式グッズの手ぬぐいを首にかけて立つと「こんにちはー!」と大きな声を出す。芝生に座って開演を待っていた観客から「こんにちはー!」と声が返ってくると、笑顔を見せ、イベント開催への熱い想いを届けると、そんなイベントの最初の出演者であり、共にイベントを開催する仲間でもある宮崎 誠を紹介。大きな拍手が巻き起こり、宮崎のステージがスタートした。重厚なSEの響く中でステージへと姿を現した宮崎は手にしたギターから印象的なリフをかき鳴らし、アニメ『ワンパンマン』より「正義執行 第二撃」の音がイベントの始まりを高らかに宣言したのだった。

林 ゆうきの盟友がクラップで梅小路公園を1つに!
ストリングスの美しくも勇壮な音色とオーディエンスの鼓動を逸らせるようなビートが京都の街へと広がっていく。
アグレッシヴながら琴線に触れるようなピアノの旋律に胸を掴まれた梅小路公園にステージと会場一体となってのクラップの音が響き、ライブは「Genos fights」へ。サイタマの弟子にして実力派のジェノスながら、物質的にも性格的にも硬派な性質を見事に表現したアッパーでラウドなエレクトロチューンが真っ青な京都の空へと昇っていく。ライブはそのまま叩きつけるようなビートで響く「Metal Bat」で熱を放つ。真っ直ぐな金属バットを彷彿とさせる、ストレートでパワフルなナンバーに会場からは拳が上がる。続いたのは「Fubuki」。地獄のフブキそのままに、ファッショナブルな空気とビッグバンド感のあるサウンドが軽快に響き、サックスの中村有里のソロにオーディエンスは釘付けだ。序盤から息をもつかせぬ怒涛のライブで魅せる宮崎。

ライブは、続く作品アニメ『Fairy gone フェアリーゴーン』の世界へと客席を誘う。「EASTALD」は作品の象徴でもあるドラマティックな1曲。物語の舞台でもあるイースタルドの名を冠にし、妖精の軍事利用によって終戦した統一戦争の過酷な歴史から、焦土から立ち上がる人々の想いまでもが宿る叙事詩的な1曲を、ストリングスの壮大なハーモニーとバンドの音とで紡ぐエモーショナルな時間だった。

このイベントが大好きだと言う彼は、続けて絶賛放送中のアニメ『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』の楽曲を披露。劇伴を作る前に原作を一気に読み切ってしまったという宮崎。
会場に向けてクラップを求めるようにアクションすると、一斉に腕が上がり、大きなクラップビートが刻まれるなか「ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~BGM」で軽快なビートと威勢の良い掛声とで紡ぐ、お祭りのようなテンションで会場を沸かせた。『ゾン100』のエレクトロを軸にした軽やかなBGMでは、観客も体を揺らしてビートにノる。

勢いそのままにステージはアニメ『SPY×FAMILY』のメインテーマ「STRIX」が響くと、会場に来ていた子供たちが手を上げて喜ぶ姿が。現代版スパイ大作戦的なスリリングさとフォージャー家ならではの艶あるゴージャスなジャズナンバーが梅小路公園を席捲する。ストリングスが静謐な音を紡ぐと「Looks like a nice family」が会場に染みわたるように響く。優しさと光に満ちた1曲が、家族連れの多い会場にその温かみを感じさせた。さらに躍動感ある「Bondman」で金管楽器の軽快な音と跳ねるリズムで楽しませた宮崎は、曲の終わりに自身の音楽観を語り始める。なぜ音楽を作るのか――それは誰かが少しでもハッピーな時間を過ごせるように、笑顔になれるように、という想いがあってのことだ、と劇伴祭でより強く感じるようになったと話すと、最後はアニメ『サクラクエスト』から「Wisteria」を響かせる。物語の舞台でもある田舎町の野間山の景色や、そこで暮らす人々の呼吸までもが聞こえてきそうな、ドラマティックなサウンドを生楽器の演奏で聴かせる至福の時間。宮崎の音楽が会場に集う観客を、配信で見ているファンを幸せな笑顔で包んだのだった。


古都・京都で響く、古を宿す音楽
アニメや文化を支援している京都市長と林とのステージ上での対話を挟み、2番目の登場となったのは岩崎 琢だ。

京伴祭初登場となる岩崎。
甚平姿の岩崎が手にした扇子を高く上げると、吹奏楽のように重厚な金管楽器の音が響き出す。アニメ『天元突破グレンラガン』から「お前のXXXで天を衝け!!」だ。デジタルダンスビートと荘厳なストリングスの音とが絡み合い上昇していく1曲を、大きく腕を揺らしながら聴かせる岩崎に、会場のオーディエンスも立ち上がり、跳ねる。オーケストレーションされながらも軽快なビートが印象的な1曲は日を浴びる野外会場にとても似合う。

そんな岩崎サウンドは2曲目にして会場の空気を一変させる。アニメ『ヨルムンガンド』の「The first step to escape from complex」の異国感あるイントロからのラウドなデジタルサウンドは、野外フェス会場を一気にダンスミュージックのグルーヴのるつぼへと連れて行く。ガンアクションで魅せるシリアスでスリリングな世界観を一気に体感させる、岩崎らしい表情と展開のあるエレクトロ交響曲とも呼べる1曲のあとにはスペシャルゲストとしてビーカリストのロータス・ジュースを呼び込んでアニメ『文豪ストレイドッグス』から「you are very good for nothing」が響く。会場のビジョンには芥川龍之介とナサニエル・ホーソーンのバトルシーンが。ブレイクビーツと英語ラップとサックスとで聴かせる1曲を、リズムマシンを手にフロントまで出てきた岩崎とロータスのパフォーマンスで鳴らした。

続けて、もう1人のスペシャルゲスト・福岡ユタカを招き入れると、アニメ『刀語』から「Bahasa Palus」を放つ。自身の声を楽器として扱い、エフェクトをかけて独特の音を生み出す福岡と岩崎が紡ぎだすオリエンタルな旋律、ロータスのラップとが絡み合い生まれる唯一無二のグルーヴで生み出す『刀語』のサウンドが古都・京都を侵食していく。

続けて畳みかけるようなデジタルビートが疾風のように響くなか、アニメ『ノラガミ』の「野良譚」が梅小路公園を駆け巡る。
日本の神を題材に現代和風ファンタジーバトルを彩った1曲が、七福神発祥の地でもある京都に広がっていく。和楽器を思わせる音が紡ぐ旋律と現代的なダンスビート、そして福岡の声の波動で響かせる熱いアッパーチューンにオーディエンスも躍り出していた。サンバのビートと岩崎のホイッスルから幕を開けたのはアニメ『魔法科高校の劣等生』の「code break」。躍動するサウンドで軽やかにステップを踏む岩崎とロータス、観客も芝生の上で跳ね、軽快なロータスのラップにオーディエンスが手を振る。そんな岩崎のステージのラストを飾ったのはアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 戦闘潮流』の「Overdrive」だ。ジョジョの戦いの日々をスタイリッシュに、しかし熱い潮流の如く彩った1曲が晴れ渡る京都の空へと広がっていった。


京都の空に響け!「Never seen landscape」!
3番目に登場したのは、加藤達也。岩崎に同じくイベント初出演となる劇伴作家だ。ステージセンターに置かれたキーボードに着席すると、加藤のチームメンバーとしてボーカリスト・Zinee&isseiが紹介され、1曲目はアニメ『Dr.STONE』から「STONE WORLD」を披露。まるで不思議な世界へと迷い込んだような、ファンタジックな旋律で紡がれるナンバーで会場は一気に千空たちの目覚めた滅びの先の世界へ。男女の二色のボーカルとケルトの風を思わせる音が広がっていく。ストリングスの音色と重なることで、生きることの喜びが宿るサウンドに観客は聴き入っていた。
さらに、バイオリンが奏でる旋律とビアノの音で始まる「Won’t Give Up(For Live Size)」はまるで言葉を差し出すように歌い上げるZinee&isseiの歌声がドラマティックに響き、染みわたっていく。劇伴ながら、希望を優しく歌い上げるナンバーをこの日のために用意されたアニメの映像と共に堪能するオーディエンス。

そして、このイベントは林 ゆうきの力が大きいと話す加藤。これまでのフェスの模様を見て、出演への想いを高め、満を持しての出演となったのだとか。続いて、アニメ『TRIGUN STAMPEDE』からメインテーマ「TRIGUN STAMPEDE」が演奏される。原作の完結から10年以上の時を経て制作された「TRIGUN」シリーズの最新作。ヴァッシュとメリルの内に渦巻く血潮を音にしたようなダイナミックさと世界観を投影した、スペシフィックなスケール感のあるエモーショナルな1曲が梅小路公園を圧倒していく。

さらに同作よりシリアスなストリングスの旋律と重厚な音、賛美歌のような美しさと命の力強さとを宿すボーカルとで紡がれる「MILLIONS KNIVES」の2曲を響かせると、自身の爪に施してきたネイルアートに描かれたアニメ『アイドリッシュセブン』の曲を披露。(この日、七瀬 陸が爪に描かれていた!)まずは感情を吐き出すようなストリングスの音色と轟くバンドの音、そして力強く伸びやかなボーカルとで聴かせる「We the black hole!」で苦悩の中でも立ち上がる強さを見せたアイドルたちの姿をここ京都に刻み付け、さらに「UNTOUCHED PRiDE」は希望へ向かって駆けだす彼らの想いそのままの、真っ直ぐで光を浴びるような1曲。会場に集まっていたファンは大きく手を挙げて楽曲の想いに応える。ビジョンに映るアニメの映像で「あんなことがあった」「そうだ、このときにはこんな想いだった」とファンは気持ちを蘇らせていたことだろう。ライブで、その感覚を味わえるのは京伴祭ならではかもしれない。


そんな加藤が口を開く。自身にとって京都は特別な場所である、と。京都が、日本が世界に誇るアニメーション制作スタジオ・京都アニメーションのお膝元であるこの場所で、京アニと共に紡いだアニメ『Free!』の音楽を鳴らす。誕生から10周年を迎えたこの作品から、まずは「Into the new world」が響く。会場では多くの観客が立ち上がり、手を広げ、クラップのリズムで楽曲に参加する。七瀬 遙が、橘 真琴が、松岡 凛が、山崎宗介が、椎名 旭が、桐嶋郁弥がビジョンの中で力強い泳ぎを見せ、音が彼らの息遣いを感じさせる。続けて「Rhythm of new sensation」の軽やかなビートと軽快なストリングスとサックスの音色とで生み出す多幸感溢れる空間に、観客は自然と笑顔になっていく。さらに『劇場版Free!-the Final Stroke-』のテーマソング「We could be free」では、彼らの想いが飾らない言葉で英詞となって綴られていくような、パワーを宿す劇的な音が広い会場の奥まで、さらにその先まで、広がっていくのを感じさせた。

圧倒的な存在感の1曲を全身で堪能したところで、最後にもう1曲『Free!』から「Never seen landscapes」。「みんな、一緒に口ずさんでね」と加藤とZinee&isseiの言葉の通りに、昇っていくストリングスの音と力強いバンドの音ともに「Wow wow」と声を上げる梅小路公園のオーディエンス。胸震える一体感がこのイベントの真価を見せた。「ありがとう!」と作品を愛する人たちから声が上がり、京都の地に響いた京アニの名作の音楽へ、共に歌った観客が鳴らす大きな拍手はなかなか止むことがなかった。


京伴祭・桶狭間の乱、開戦!
“京伴祭”初出演の桶狭間ありさが登場。アニメ『呪術廻戦』から、挨拶代わりとばかりに「虚式『茈』」の和旋律を主軸としたエレクトロを響かせると、ステージから客席の方へと降りて腕を上げながらオーディエンスを煽っていく。百鬼夜行さながら、妖しさと鋭い旋律が展開していくこの曲。ビジョンに映る五条 悟の戦闘シーンに、会場の子供たちが飛び跳ねる。

野外ライブを見に来るのも初めてかもしれない、と思うほど親子連れの多い会場で、子供たちが初めて浴びる生演奏による劇伴の躍動感。疾走するサウンドに美しくも劇的なバイオリンの音が情感を加えていく。「会場の皆さん、配信の皆さん、初めまして」と挨拶すると、「京伴祭、桶狭間の乱、開戦!」と声を上げ、おもむろに取り出したほら貝を吹いて戦いの火ぶたを切って落とす桶狭間。時はまさに天下分け目の戦い・関ケ原の合戦の起きた時期に近く、京都の地での開戦とあっては熱くなることは間違いない。

そんな予感をさせるように風が吹き抜ける梅小路公園で彼女が響かせる2曲目は、同じく『呪術廻戦』から「7:3」。桶狭間曰く、めちゃめちゃライブ映えする激しい曲である1曲。ピアノとストリングスの情緒感ある音からデジタルビートが轟くアッパーチューンへと変貌すると、会場のオーディエンスがビートにノって跳ねる様子が印象的だった。戦闘シーンの勢いをそのまま織り込んだようなその音に、海外からのファンも声を上げる。広大な屋外会場ながらライブハウスのような熱を放つ“京伴祭”。続いて、アニメ『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』の「SEOUL TEAM (FilmScoringVer)」が響き出す。

彼女にとって初めての劇伴制作作品である本作は、フィルムスコアリングで音楽制作がされたという。アニメの映像に合わせて、キャラクターたちの呼吸と共に音が鳴るという映画的な音の付け方をした作品。アニメ第5話の映像をそのまま使用し、フィルムスコアリング同様に音を響かせる、というライブで改めてフィルスコを体感させる桶狭間。これぞ劇伴のフェスの醍醐味の1つ。疾風のようなバトル映像に、エモーショナルなストリングスの旋律と鍵盤を叩くように鳴らす桶狭間のピアノの音が躍る。そして最後は、彼女自身が思い入れ深いというシーンを、そこで流れた音楽と共に聴かせる。そのシーンは『劇場版 呪術廻戦0』から「This Is Pure Love」。五条と夏油 傑のワンシーンを、静かなピアノの旋律で奏でられ、つま弾かれる鍵盤の音に、ストリングスとアコースティックギターの繊細な音が重なる。ぽつりぽつりと音をこぼすような1曲が、親友であった2人の在りし時を、ゆっくりと紡ぐようだった。最後は暖かな拍手の中、「桶狭間の乱」の終戦を知らせるようにほら貝を吹き、桶狭間はステージを降りた。


世界を唸らせる重厚な和楽器ロック!
劇伴による音楽フェスの立ち上げメンバーの1人である高梨康治がステージへ。今年も国内外のアニメイベントからのオファーが絶えない高梨と刃-yaiba-のメンバーが、躍動する最初の1曲を響かせる。まずはアニメ『FAIRY TAIL』から「ドラゴンフォース」だ。ファンタジックな世界観をより一層熱く彩るような、ケルティックな旋律が響く1曲を、ショルキーを手にした高梨が掻き鳴らす。ストリングスの壮大な音がバンドの音と共に轟くと、会場のオーディエンスは大きく拳を上げて応えた。

ナツや仲間たちの戦いの日々が、その勇壮な楽曲から蘇る。続いたのは、高梨が一推しだと公言するエルザのための1曲「エルザのテーマ」。凛とした芯の強さを感じさせ、ラウドに轟く重厚なゴシックメタル。ギターの藤澤健至がエッジの効いた音を響かせれば、負けじとショルキーで音を奏でる高梨。ストリングスがそんな1曲に美しく繊細なエルザのキャラクター性を乗せていく。ステージを右へ左へと駆けながら、会場を煽る高梨にオーディエンスのテンションも上昇し、それまでのどこか牧歌的な観覧スタイルからスタンディングライブへと変貌させていく。さらに『FAIRY TAIL』から「最後の魔法」へ。戦いへ向かうナツたちの奮い立つ心が宿るような、壮大かつドラマティックな楽曲。映し出される映像には、何度でも立ち上がる彼らの姿。信じる心、繋がる想い、不屈の信念、作品がファンへと届けたものを、アニメが終わってからも高梨の演奏が届ける。そして「FAIRY TAILメインテーマ2014」は物語自体を感じさせるような一大叙事詩的な1曲。前へと進んでいく彼らの背中を押すような存在感ある1曲を演奏しながら、客席の目前まで歩を進める高梨。異国感ある旋律が躍動しながら轟くと観客はその音を浴びるように大きく手を上げた。

続いて、アニメ『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』からメインテーマ「BASTARD!!」が響き、アニメの世界観を思わせるゴシックメタルの重厚な音が轟く。畳みかけるように叩き出されるドラムのビートに、賛美歌のような人声が響く。漆黒のサウンドと光の音、その両面を持つ1曲に主人公のダーク・シュナイダーの姿が浮かぶ。ここで、藤澤が劇伴を担当するアニメ『バキ』の「刃牙 OAD M01」をかき鳴らす。この曲は『バキ』のために最初に作った1曲であり、刃-yaiba-の和太鼓・茂戸藤浩司も制作に参加したというラウドでタフなロックンロールナンバー。元々『バキ』のファンだった藤澤が、同作のファンである茂戸藤を誘って制作した1曲は、彼らの息の合ったグルーヴと共に京都の空を駆け上がっていった。

再び高梨がステージへ。ここから20周年を迎えたアニメ『NARUTO-ナルト- 疾風伝』の劇伴コーナーへ。三味線の-KIJI-が呼び込まれると、茂戸藤の「ハッ!」の掛け声も飛び出して、気合が高まっていく。まずは『NARUTO-ナルト- 疾風伝』のバトルシーンの象徴的な「動天」だ。中村有里もステージ前へと出てきてエアロフォンを響かせると、向き合うように高梨が鍵盤を叩く。ストリングスがドラマティックに楽曲を彩ると、音は会場を席捲していく。ビジョンにはナルトとペインの戦いが。古都を震撼させる忍者ロックにオーディエンスは拳を上げた。疾風怒涛の三味線の旋律から幕を開ける「臨界」では、轟くビートに会場からクラップが湧く。林 ゆうきの出番までに会場のテンションをマックスまで引き上げたいという高梨が、世界各国でやっている恒例の掛け声として、ナルトのセリフ「だってばよ!」を叫ぶ。すると会場も「だってばよ!」のコール&レスポンスが響くと、ライブは一気に終盤へ。

『NARUTO-ナルト- 疾風伝』の代名詞でもある「NARUTO Main Theme ‘16」では茂戸藤の「ハッ!」「ソイヤ!」の声と和太鼓、そして-KIJI-の三味線、藤澤のギターに中村のエアロフォンが重厚かつ軽快な音を響かせると、ラストは戦闘シーンを躍動感いっぱいに彩ってきた「形勢逆転」へ。会場を駆け抜ける疾風のサウンドは、“疾風伝”の名の通りの勢いと熱を宿す1曲。ドラマティックな展開で戦闘の形勢が変化していくのを感じさせ、鼓動を逸らせるメロディにオ-ディエンスは腕を上げて熱を返していく。世界を熱狂の渦に巻き込む高梨の渾身のステージに、オーディエンスは大歓声で応えたのだった。


地元・京都で夢を叶える。林 ゆうきの想い漲る、圧巻のステージ
“京伴祭”会場が夜の帳に包まれる。星が瞬き始めた空の下、イベント最後の出演者である林 ゆうきがステージへ。扇子を開き、恭しく頭を下げる林。「お待たせしました」と笑みを浮かべる林は、「最高のスタッフと、最高のミュージシャンの皆様と、最高のお客さんに集まっていただけて、こうやって(フェスを)やれて本当に嬉しいです」と、感謝を伝えた。

1曲目はアニメ『ポケットモンスター』の「みんなでいっしょに!」。この曲にコーラスで参加していた五阿弥ルナがたまたま会場にライブを見に来ているということで、ステージに招くと、来場する子供たちも喜ぶカラフルな音に彩られたアッパーチューンを響かせる。バイオリンやピッコロの音が歌うように奏でられる1曲を五阿弥の軽やかな歌声と共に聴かせると、続いたのはアニメ『君は放課後インソムニア』の「無敵のふたり」。不眠症で眠れない男女の高校生のラブストーリーに向けて制作された、深淵につま弾かれるような柔らかな1曲。天文学部で星空を見上げる2人を彷彿とさせる夜空へ向けて、ステージのミュージシャンたちが音を放っていく様が印象的だった。そしてアニメ『バクテン!!』のメインテーマ「Blue Feather」が続く。自身もここ京都で男子新体操部に所属し、大会に出ていたという林が「今日も男子新体操部の子が来てくれていると思う」と話すと、会場後方にいた制服姿の男子高校生たちが手を上げた。部活を終えて来場したのかな、というタイミングでやってきた男子高校生たちがいたのだが、彼らは男子新体操部だったのだ。そんな後輩たちの眼前で、凛とした美しさと、ほとばしる汗の輝きや演舞する者たちへ向けて天井から注ぐ光を思わせるストリングスとピアノ、そしてバンドの躍動感漲る音で紡がれる壮大な楽曲が響く。

さらにアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』からメインテーマの対となる「竜の騎士」が響く。ダイと父・バランの激闘のシーンと共に響く1曲。演奏する林の手の甲にも、ドラゴンの紋章が浮かび上がる!?道を違えた親子の死闘は、見ている者たちの心に消えぬ熱を灯した、そんなエピソード。主人公・ダイが進む道の前に立ち塞がった大きな存在、それこそが父だった。2人の心の動きまでも届けるストリングスの音が琴線に触れる。アニメを見たときと同じく胸が熱くなったあとには、林の代表作の1つ、アニメ『ハイキュー!!』の楽曲を聴かせるターンへ。ここでスペシャルゲストのバイオリニスト・Ayasaが紹介される。第2期のメインテーマ「”上”」のバイオリンを弾いていた彼女を迎え、チェロと共に躍動感いっぱいの旋律を聴かせる。“堕ちた強豪 飛べない烏”と呼ばれてきた古豪・烏野高校の躍進を感じさせたメインテーマに、スクリーンで流れるアニメでのドラマティックな展開が迫りくる。そして最後のエピソードを描く劇場版の制作が発表されたこともあり、その相手でもある鴎台高校を象徴する軽やかなナンバー「カモメ」でも雄弁なチェロと躍るようなバイオリンの旋律とで、星海光来と日向翔陽との色の違いや出会いの衝撃を感じさせると、今度は日向と影山飛雄のステップや息遣いを彷彿とさせる「神業速攻」へ。試合中の、体育館での足音やステップ、ボールが加速する様までも感じさせる1曲に会場ではオレンジのペンライトが揺れた。

ライブのラストは林の代表作のもう1つ、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のセクション。林にとっては、このイベントに参加した観客一人ひとりが“ヒーロー”だと言う。そんなヒーローたちへ向けて、ヒーローの歌を送りたいと響かせるのは「You Say Run」。主人公・緑谷出久に向けて「走れ」と鼓舞するような、ヒーローの卵である有精卵たちへとエールを送るように京都を震わせるように鍵盤を叩く林。熱を帯びながら奏でられる1曲に、観客は緑のペンライトを振って応える。続く「My Hero Academia」はデクたち、雄英高校1年A組の生徒たちが、初めてヴィランに襲撃されたときの映像と共に響く交響曲のような大きな力を感じさせるナンバー。ストリングスの音色が園内を駆け巡り、オーディエンスの心を熱くさせていく。演奏をしながら笑みを浮かべる林。そしてライブは会場のクラップの音を巻き込みながら「「好敵手」たちと書いて「同級生」と読む」へ。楽しそうに演奏をする林。そのテンションと同じくオーディエンスも体を揺らしライブを楽しむ。中村のサックスが軽快に響くと、ピアノも軽やかに歌い出し、会場は「楽しい!」という気持ちで1つになっていく。

本来、ライブ本編はここで終わりだったが、このままアンコールに突入!ロックバンド・Dizzy Sunfistのボーカリスト・あやぺたがステージに登場し、『僕のヒーローアカデミア』の文化祭シーンでお馴染みの「Hero too」が響き出す!この曲では特にやることがないという林はステージを降り、客席へ缶バッジを配りに行く。客席前方へ押し寄せるオーディエンス。その一人ひとりに笑顔を向けながら、感謝の気持ちを込めてバッジを配る林。伸びやかな歌声で会場を煽るあやぺた。

彼女が歌い上げる軽快なバンドサウンドを、観客は全身全霊で楽しんでいた。最後は出演者全員がステージに上がり、観客と記念撮影。この日を忘れない――そんな想いが滲む瞬間で幕を閉じたのだった。海外では人気の高い劇伴ライブ。その大きな形となる劇伴フェスが、これからも続くことに期待したい。ぜひ来年も京都でこのイベントが観られますように!

●イベント情報
京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023

【⽇程】2023年9⽉16⽇(⼟)
【会場】梅⼩路公園
【共催】懐⼑、京都国際マンガ・アニメフェア実行委員会
【制作】グラウンディングラボ
【運営協⼒】ボスコーポレーション / サウンドクリエーター
【総合プロデューサー】島津真太郎

関連リンク
京伴祭 -KYOTO SOUNDTRACK FESTIVAL- 2023 公式サイト
https://www.kyobansai.com/kyoto-2023
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