人気アニソンアーティストが多数所属するソニーミュージックの音楽レーベル・SACRA MUSICと、インディーゲームパブリッシャー・Phoenixxによる「ゲーム音楽を世界に届ける」ためのプロジェクト・SACRA GAME MUSICがスタート。その第一弾ティザーソングとして、Sawa Angstromの「Xi Huan Ni(シーファンニー)」がリリースされた。
SACRA GAME MUSICでは、今後定期的に様々なゲームを集めたサブスク&ダウンロード配信リリース作品のティザー映像が用意され、そこにSawa Angstromが毎回異なるオリジナル曲を提供するという。ゲーム×音楽をテーマにしたSACRA GAME MUSICの設立や、「Xi Huan Ni」の楽曲制作は、一体どのような形で進んでいったのだろう。SACRA MUSICを統括するソニー・ミュージックレーベルズの栁氏とPhoenixxの代表・坂本氏、Sawa Angstromのメンバーに話をそれぞれ聞いた。
INTERVIEW & TEXT 杉山 仁
SACRA MUSIC・栁 真努加×Phoenixx・坂本和則 対談
――SACRA GAME MUSICはアニソンシンガーを中心に様々な人気アーティストが在籍するSACRA MUSICとインディーゲームパブリッシャー・Phoenixxによる共同プロジェクト。このプロジェクトが始まったきっかけを教えていただけますか?
栁 SACRA GAME MUSICはPhoenixx さんとの協業でSACRA MUSICの中に新しく生まれた、ゲーム音楽のためのプロジェクトです。今年の2月頃、僕とPhoenixxの坂本さんとで食事をする機会があったんですが、そこで坂本さんからゲーム音楽・ゲーム音楽クリエイターの活躍の場を広げることについてのお話を聞くなかで、お互いにアニソンやゲーム音楽を「世界に届ける」ことについて目線が一致していると感じまして。また、我々SACRA MUSICはアニソンをJ-POPとしてではなく「A-POP(Ani-POP)」としてわかりやすく括ることで、より世界の方々にアニメ音楽の魅力を届けていこうとしていますが、それならゲーム音楽も「G-POP(Game-POP)」として紹介することで、よりわかりやすく世界にその魅力を伝えられるかもしれない、という話で意気投合したんです。その後、3月に開催された“TOKYO INDIE GAMES SUMMIT”にもSACRA MUSICとしてスポンサーで参加させていただき、お付き合いがはじまりました。
坂本 インディーゲームでは、3人ほどのクリエイターがグローバルで通用するゲームを作ることも多いのですが、ゲーム音楽のクリエイターはゲームより目立ってはいけないけれども、音楽として存在感を出さなければいけないという意味で、とても難しい技術が求められます。ですが、才能のあるクリエイターが多くいるにもかかわらず、ゲーム音楽の魅力がそれ以外の場所まで伝わる機会は、一部の大ヒット作品を除いてまだまだ多くはありません。僕は元々ソニーミュージック出身ということもあり、こうした課題についてクリエイターから相談をもらう機会も多かったんですよ。僕らだけでサポートしても事業としてダイナミックにならないので、「やるのであれば大きなレーベルと共同でやるべきだ」と思っていました。
――その結果、お互いに抱えていた問題意識や課題が上手く一致したのですね。
栁 世界でアニメ・アニソンのフェスが行なわれているのと同じように、ゲームフェスやeスポーツの大会なども世界各地で開催されています。そういう意味でも、アニメとゲームは似て非なる存在であると同時に、近しい位置にいて共存できる関係なんじゃないか、と思いました。僕らもゲーム音楽をサポートすることができれば、サブスクリプションサービスにより多くのゲーム音楽を加えて、たくさんの方に聴いてもらううきっかけを作ることができると思いましたし、坂本さんがそのときに話されていた「ゲーム音楽のクリエイターが、将来的にJ-POPやA-POPの楽曲を作ってもいいんじゃないか」という話にも共感できたので、「一緒にやっていこう」ということになりました。
――近年はメディアミックス的にアニメもゲームも展開する作品が多いですし、アニソンアーティストの方々がゲームの主題歌を担当することも増えていると思います。そういう意味でも、両者の距離はより縮まっているように感じますね。
栁 そうですね。コロナ禍が落ち着き、一度は閉じてしまっていた状態から世界が一気に開けて、ノーボーダーになったのも大きいと思っています。それぞれに理由は違っても、どちらも言葉の壁を越えているという意味で同じだな、とも感じていますね。
坂本 自分が今年の夏に体験したドイツ・アニマジックの際の“SACRA MUSIC FES.”でも、SACRAちゃん(SACRA MUSIC公式マスコットキャラクター)のハッピを着てライブを狂喜乱舞している外で、大手ゲームメーカーがブースを出していたり、インディーゲームが置いてあったりしたんですよね。そこで来場者の皆さんが遊んでいる姿を見たときに、「こんなに距離が近くなったんだな」「ゲーム音楽も一緒に広がっていけるんじゃないか」と確信したことは印象的でした。
――SACRA MUSICでは、どんなことを目指していきたいと考えているのでしょうか?
栁 「89秒に魂を込める」アニソンの方法論に、劇伴音楽のようにゲーム音楽を作っている方々のやり方がミックスされていったり、そこからニュースターが現われてくれたりするとすごく面白いと思っているんです。記憶に新しいYOASOBIの「アイドル」しかり、LiSAの「紅蓮華」やAimerの「残響散歌」しかり、澤野弘之さんの楽曲もそうですけど、世界に勝負できる・色々な方々に聴いていただけている音楽のネクストが現れるような状況が出来ればと思っています。また、サブスク配信などカタログとして、これまではゲーム音楽の中でしか聴けなかった音楽を、日本のみならず世界との接点を作れるのなら、それもすごく意義があることだと思っています。
――ゲーム音楽の魅力を広め、そこから出てくる新しい才能をサポートしていく、と。
坂本 ゲーム音楽はジャンルや作品によって大きく音楽性が変わりますし、喜怒哀楽がある楽曲が多くて、1つの作品の中で色々な感情の起伏を作ることができるのも魅力の1つなんですよね。だからこそ、そこで生まれた音楽はゲーム以外の場所でも楽しんでもらえるだろう、と。SACRA MUSICさんと協業することで、日本が生み出すインディーゲームの音楽の魅力を、世界に持っていくための可能性を探っていきたいと思っています。
栁 アニメとゲームとでジャンルを越えて相互交流が出来るといいですよね。極論ですが、例えば海外のゲーム作品にSACRA MUSICの所属アーティストが楽曲を提供するということも、権利関係をしっかりとクリア出来れば実現は可能です。また、世の中にはアニメ派生のゲームもあればゲーム派生のアニメもあるように、その壁もどんどんなくなっていると感じています。
――今回、SACRA GAME MUSICの立ち上げに際して京都の3人組エレクトロニックグループ・Sawa Angstromがメジャーデビューをし、SACRA GAME MUSIC第一弾ティザーソングとして「Xi Huan Ni」をリリースしました。お二人が思うSawa Angstromの魅力を教えてください。
栁 ティザーソングに使用している「Xi Huan Ni」は、「こんなゲームが発売されますよ」というトレイラーのBGMとして異なるオリジナル楽曲を付けようという、SACRA GAME MUSICの展開の第一弾です。様々なゲームのティザー映像をまとめる役割として、Sawaの新曲が流れることを想定しています。Sawaの音楽はどこか8bit感やゲーム音楽感が感じられる瞬間もありますし、ライブも前衛的ですごく面白いと感じたんです。元々海外でのライブを目指して結成したという話も、SACRA GAME MUSICに合うと思っています。楽曲に魅力を感じて、ライブを観に行ってメンバーと握手をしたときに「これで契約ですね」と彼らに言われて即決しました(笑)。
――(笑)。それくらい、Sawaの皆さんに才能を感じたということですね。
栁 もちろんです。良い意味で今っぽい、先を行っているような感覚を受けましたし、ライブではメンバーがみんな機材をいじっている姿も面白いなと感じたんですよね。それで、惚れてライブを観に行ったら、ライブも素敵だったので「ぜひ一緒にやりたい」、と。
坂本 こういう楽曲ができるアーティストは最近なかなかいないと思いますし、「彼らの音楽はゲームの中に存在してもいいんじゃないか」と思っていたこともあって、栁さんに「こういうアーティストもいますよ」と紹介をしました。そうしたら、すぐにライブを観に来てくれて、SACRA MUSICさんとお互いに協力してやっていこうという話になりました。
栁 彼らを紹介してもらって、「Xi Huan Ni」を聴いてめちゃくちゃ良い曲だな、と思ったときに、サブスク配信する既存ゲームのティザー映像を作って、そこに音楽を当てはめることを思いつきました。“78億 はみでたワンナイト”という歌詞は、SACRA GAME MUSICのテーマともすごく合っていますよね。また、かつて一人のアーティストが同じCMソングに色々な楽曲を提供していたり、ドラマで同じアーティストの曲が多数使われていたりするのが個人的に大好きだったこともあり、このアイデアを思いついたのかもしれません。Sawaを知ったことで、SACRA GAME MUSICのアイデアも連鎖的に広がっていった感覚です。
■プレイリスト「SACRA GAME MUSIC 公式プレイリスト」
https://SACRA.lnk.to/GameMusic
Sawa Angstraom インタビュー
――まずは、グループ結成の経緯について教えていただけますか?それぞれが別々に音楽活動をしていた皆さんは、2017年頃にライブハウスで出会ったそうですね。
児玉真吏奈 元々私はソロ活動をしていて、浜田(淳)と吉岡(哲志)もそれぞれ別々にグループでの音楽活動をしていたんです。まず、浜田と私がブッキングのライブで対バンすることになって、その次のライブのときに、浜田が吉岡を連れて私のライブを観に来てくれたんです。
浜田 淳 僕と吉岡は付き合いが長く、以前から「いつか一緒に電子音楽のグループをやりたい」と話していました。ただ、僕としては「歌を歌えるメンバーがほしい」と思って、ボーカルをずっと探していて。児玉と対バンしたときに「ついに見つけた!」と思ったんです。それで吉岡に「良い人がいた」と伝えて、一緒にライブを観に行きました。
――最初から児玉さんを誘うつもりでライブを観に行ったんですね。
浜田 そうなんです。
吉岡哲志 僕はというと、当時は前にやっていたバンドが休止して約1年経った頃で、京都でレコーディングスタジオ・studio INOを始めていたので、音楽活動よりはその経営に一生懸命になっていました。でも、浜田に声をかけてもらって児玉のソロ曲を聴いたときに、まだ10秒くらいしか聴いていない時点で「すごく良い声をしている……!」と思って。それで浜田と一緒にライブを観に行って、3人で音楽を作ることになりました。
――その時点で、音楽的な方向性を話し合ったりはしたんですか?
児玉 最初は、即興で合わせていましたよね?
浜田 そう、「電子音楽をやろう」という1つの大きなテーマは持ちつつも、具体的に方向性を決めることはしていなくて、むしろそれを軸に色んな方向性を探っていた感覚です。
吉岡 当時、僕はギターを弾いていたんじゃないかな。
浜田 僕もベースを弾いたり、サンプラーを鳴らしたりしていて。最初の頃はそのまま即興でライブをしたりもしていました。「何でもOK!」という感じでやろう、と言っていましたね。
吉岡 そもそも(バンド名になっている)「Sawa」はスワヒリ語で「いいね」という意味で。「sawa sawa」(=いいねいいね)というふうに使う言葉なんですよ。そんなふうに、「何でもいいからやってみよう!」というのが1つのテーマでした。
児玉 私は当時、2人ほど電子音楽に詳しいわけではなかったんですけど、このメンバーなら実験的なこともできるし、「3人で演奏するとワクワクする!」という感覚がありました。
浜田 活動スタイルについても同じで、それまではしっかりバンドを組んで、活動方針をしっかり決めていたんですけど、Sawaはもっとゆるく集まって、良い意味でクレバーにやっていこうと思っていました。そのうえで、「海外でライブしたいな」と話していて。それに向けてセッションしたり曲を作ったりして、まずはすぐにヨーロッパに行きました。
――結成の翌年にはヨーロッパにライブをしに行ったそうですね。
浜田 曲がまだたくさんはない状態で、半分インプロヴィゼーション(即興)のような感じでやっていました(笑)。ただ、現地のお客さんの反応はすごく良くて面白がってくれたんですよ。
児玉 すごく良い反応を返してくれたんですよね。
――皆さんの場合、国内外に影響を受けた音楽があるのかなと想像していました。それぞれの好きなアーティストの中で、グループに影響を与えたものがあれば教えてください。
吉岡 僕は2000年代のはじめ頃にエレクトロニカブームに夢中になったのが音楽にハマるきっかけで、日本人だとAOKI takamasaさんが好きでした。ただ、その頃のエレクトロニカは内向きでベッドルームミュージック的なものが多かったと思うんですけど、そういう音楽をロック寄りのバンドでやるような、ライブでお客さんが踊ってくれる音楽もあって、それがすごく好きでもありました。あと、海外のアーティストだと、最近はケミカル・ブラザーズが自分の中では一番ホットです。
――ケミカル・ブラザーズはダンスミュージックとの出会いのアーティストに挙がることも多いですが、むしろ今ハマっているんですね。
吉岡 そうなんです。僕の場合、最初はAOKI takamasaさんのような音響的なエレクトロニカが好きだったんですけど、一方で、ケミカル・ブラザーズが持っている良い意味でのパーティー感のようなものも、すごく魅力的だと思うんですよ。
――なるほど。「ダンスミュージックをポップに鳴らす」という意味で、魅力を再発見しているということですね。浜田さん、児玉さんはいかがですか?
浜田 僕はBOREDOMSが一番尊敬しているアーティストで、もちろんAOKIさんのようなエレクトロニカのアーティストも大好きで。その傍らバンドをやっていたので、「エレクトロニカをやりたいけど仲間がいない」とずっと思っていました。あと、ヒップホップも好きなので、(インディーズレコードレーベル)Stones Throwも好きです。ちょうどこの前、Stones ThrowのMndsgnが来日していたのでライブを観に行って、「自分はこういうことがやりたかったんだな」と再確認しました。ダーティーな雰囲気があっても、同時にメロウな要素が立ち上がってくるのがいいな、と思うんです。「そういうものと綺麗なエレクトロニカとが混ざったような音楽は作れへんかな?」と、人生でずっと感じていたので、Sawaだったら色んな音楽が作れそうだな、とワクワクしています
児玉 私は、元々母がハードロック好きで、小さい頃から70年代のプログレのシンセサイザーを聴いたり、民族音楽も聴いたりしていました。それから年頃になってきて、Salyuさんやclammbonの音楽を聞くようになりました。あとは、海外だとフィオナ・アップルやフアナ・モリーナのような人達の音楽を「かっこいいな」と思ったり、ボーズ・オブ・カナダも好きで聴いたりしていて。比較的、歌に特化しながら背景では電子音が鳴っているような曲が好きでした。Sawaを始めてからは、ノルウェーのオーロラも好きになりました。
――一方で、皆さんが好きなゲームはありますか?これまでの活動を色々拝見させていただいても、ゲームも好きな方々なのかな、ということが伝わってくる瞬間があります。
浜田 昔のタイトルになってしまいますけど、僕はSNKの格闘ゲーム(主要タイトルは「餓狼伝説」や「ザ・キング・オブ・ファイターズ」など)が好きでした。あとは「ドラゴンクエスト」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズをやっていて。ゲーム音楽という意味だと、「クロノトリガー」の「風の憧憬」はいくつになっても聴いてしまう曲で、Sawaでもカバーをしました。この曲は本当に色褪せないというか、物語の内容も相まって、今でもプレイしたときのことを思い出したりして泣いてしまいます。
――ゲームは自分でプレイする体験型のエンタメということもあって、そこで流れている音楽も自分のプレイ体験や思い出に紐づいていくのが面白いところですね。
浜田 そうですね。大人になってからも周りのDJ達にゲーム音楽が好きな人がいたり、チップチューンをやっている人達が結構いたりして、「こういう音楽もかっこいいな」と教えてもらったりもしました。
児玉 私は、ゲーム好きの兄から借りて「ゼルダの伝説」をクリアしたり、その音楽をよく聴いていた記憶があります。あとは、ニンテンドーDSシリーズの「ドンキーコング」や「ボンバーマン」をやったりもしていました。Sawaを始めてから知った作品では、浜田に教えてもらったアプリゲーム「Sky 星を紡ぐ子どもたち」も印象的でした。
――「Sky」は先ほどお話に出てきたオーロラさんが音楽面で参加している作品ですね。
児玉 そうなんですよ!
浜田 「Sky」のゲーム内でライブもやっていましたよね。「それに出たい」という話をしていたんです(笑)。
――吉岡さんはいかがでしょう?
吉岡 僕はアトラスの大ファンで、8年ほど「真・女神転生IMAGINE」(「真・女神転生」シリーズのMMORPG)をやり込んでいました。今はそこまで時間が取れないのですが、ゲームをやるのは変わらず楽しいです(笑)。
――それだけゲームをする方だと、音楽を作る際にも影響を受けることがあるんじゃないですか?
吉岡 めちゃくちゃあります。音楽そのものに影響を受けるだけではなくて、ゲーム自体のストーリーや世界観に影響を受けることもあって、例えば「女神転生」なら、あのディストピア風のサイバーパンクな世界観がすごく好きだったりします。
――そして、今回SACRA GAME MUSIC第一弾ティザーソングとして「Xi Huan Ni」がリリースされました。先ほどSACRA MUSICの栁さんにお話を伺ったのですが、ライブ会場で即決で契約が決まったそうですね。冗談っぽく「ライブを観に行って握手をしたときに、『これで契約ですね』と言われた」と話されていました(笑)。
浜田 栁さんがライブを観に来られて、褒めていただいたので「これはもう契約してもらえるだろう」と(笑)。それで握手をすれば決定と思って、握手をさせていただきました。
吉岡 (笑)。僕らはずっとインディーで活動を続けてきて、そこで今プロデューサーをしてくれているPhoenixxのスタッフと出会ったんですが、その後Sawaの音楽を広めていくために相談をしていくなかで、たくさん曲を作っていたときに出来た曲の1つが、今回の「Xi Huan Ni」です。この曲は、元々もっと早く出す予定だったんですが、途中で「大事にリリースしましょう」という話になって。「どういう意味だろう?」と思っていたら、SACRA MUSICとのお話が始まり、栁さんにライブに来ていただいて契約をした、という感じです。
――SACRA GAME MUSICという、ゲーム音楽にまつわるプロジェクトにかかわることについてはどう感じていますか?
浜田 僕らは海外でも活動をしていきたいと思っているので、まずは「海外にも届きそうだな」と思いました。自分たちのやりたいこととマッチするな、と。
児玉 それに、これまでもゲーム音楽をカバーしたりしていたので、「今までやってきたことの点と点が繋がっていく」という感覚がありました。Sawaにとっては、これ以上ないくらい相性が良いメジャーレーベルとのお話だな、と思いましたね。
浜田 将来的にゲームの音楽を担当できるようになれたらいいな、と思っています。それがゲーム体験ともあわせて誰かの思い出になってくれたら最高だと思うので。
――「Xi Huan Ni」の制作過程についても教えてください。お話を聞く限り、SACRA GAME MUSICでの展開が決まる前から出来ていた楽曲だったんですね。
吉岡 ちょうど今年の1月くらいに、僕と児玉が別のバンドのサポートで台湾に行ったんですけど、そこから帰ってきたときに、浜田が「せっかく2人が台湾に行ったんだから、その経験を曲にしよう」と言い始めて。
浜田 僕は元々生粋の台湾好きで、コロナ禍になる前は毎年ライブをしに行っていました。その頃からずっと不思議なんですけど、台湾に行くと、毎回恋に似たような感情を抱くことがあるんです。日本と似ている場所のようでいて、でも実際には違う台湾という場所ならではの感覚や距離感が、どこか恋愛に似ているんじゃないか、と。それで、2人がちょうど台湾に行ったのなら、「台湾にまつわる曲をつくってみよう」という話をしました。
児玉 そのとき、台湾のクラブに遊びにいった話をしたりもして、クラブのソワソワした感じとか、恋じゃないけれど恋のような不思議な感覚とか、夜が明けてそれぞれの場所に帰ると別々の日常が始まる切なさとか……色んなことが繋がると思ったので、そういう要素が合わさって楽曲になっていきました。
――なるほど。その結果、「Xi Huan Ni」(=I like you/I love you)というタイトルで、様々な地域に住む人々が集まるクラブのような場所が連想できる楽曲になったんですね。サウンド面で工夫したことはありますか?
吉岡 サウンドについては、たくさん曲を作ろうと思って素材を色々と出していったものを発展させていった感じです。エレクトロミュージックって色んな形があって、ヒップホップ的なサンプリング主体のものもあれば、電子音の音色から作っていくものもあったりと、形は様々だと思うんですけど、「Xi Huan Ni」ではちょっと原理主義的に、キックやスネアもすべてオシレーターから作っていて、すべてを電子音で構成するようにしました。僕の中では「『Xi Huan Ni』からリリースすることになるぞ」という感覚が何となくあったので、「Sawaはエレクトロニックグループである」という説得力や、「こうだ」という筋を一度通しておきたい、と思ったんです。今後出す曲では色々なことをやっていくと思うんですけど、、まずはそこにちゃんと向き合ってみよう、と。
児玉 曲の盛り上がっていくところは、さっき吉岡が挙げていたケミカル・ブラザーズのようなクラブ/パーティー感をどう表現するか考えていきました。それで浜田とも「こうしてみよう」と色々と話すなかで、自分でも「アガるかどうか」を大事に考えています。あと、歌の面では、今回Aメロでラップをしていますけど、あの部分はベーシストでもあり、グルーヴを上手く取れる浜田にまずラップをしてもらったんですよ。
――へえ!
浜田 恥ずかしながらラップさせていただきました。
児玉 言葉の発音やリズムを重視して歌ったので、自分にとっても新しい挑戦でした。
浜田 この曲はとにかく、メロディをめちゃくちゃ揉んだ楽曲でしたね。みんなで色んなものを試して、色んな音楽をリファレンスにしながら、「ああでもないこうでもない」と考えて。そうしているうちに、Aメロはラップに行き着いたという感じです。最初はR&Bっぽい歌にしてみたりもしていて、本当に色々な可能性を試していきました。
児玉 Aメロがラップになったことで、サビの歌とのコントラストが綺麗に出ているのも気に入っています。サビの部分は、歌としては開けていくけれど、(クラブならではの一期一会感に繋がる)切なさも含めて表現できるように、声質も含めて考えていきました。ただただ「イェーイ!」というだけではないパーティー感を大切にしましたね。
――世界の様々な人を繋ぐクラブの風景を連想するような楽曲が色々なゲーム作品をまとめるティザーの楽曲として流れるのは、SACRA GAME MUSICのテーマとも合っているように感じられますね。今後の活動についてはどんなことを考えていますか?
吉岡 SACRA MUSICのアニメやゲームを世界に発信する力で、Sawaの音楽も世界に発信していけたら嬉しいですし、僕らの場合、その先にいつか海外のフェスに出たいという気持ちもあるので、それを今か今かと待っています。
浜田 「Sawa Angstrom」という存在が1つのジャンルになれるくらい、唯一無二の存在になれたら嬉しいな、と思いますね。
児玉 エレクトロって本当に色々なジャンルがあると思うんですけど、そのなかでも「これってSawaっぽいよね」と言ってもらえたりするくらい、Sawaの音楽が多くの人に届いてくれたらいいな、と思っています。メンバーは音楽だけではなくて、色々な芸術も好きな人間ですし、関西人ということもあって「アニメやゲーム、アートなど色々な文化の垣根を越えて、おもろいことがしたい!」というのが、私たちが考えていることです。
●配信情報
Sawa Angstrom 1st Digital Single
「Xi Huan Ni」
配信中
配信リンクはこちら
https://sawaangstrom.lnk.to/XiHuanN
●SACRA MUSIC 概要
2017年4月にSML内に発足した、国内のみならず広く海外にも活動の場を広げているアーティストを中心とした音楽レーベル。FLOW、ClariS、LiSA、Aimer、SawanoHiroyuki[nZk]などが所属し、いずれも数々のアニメタイアップやヒットの実績、また、国内外でのライブや各種イベントにおいて大きな動員力を誇っている。昨年からドイツ、サウジアラビア、ブラジルなどのアニメイベントにて、所属アーティストが出演する「SACRA MUSIC FES.」を開催しており、グローバルな展開を続けている。
公式サイト:https://sacramusic.jp/
●株式会社Phoenixx 概要
2019年に設立。「Creators-Centric」という理念のもと、インディーゲームクリエイターの発掘、育成から、クリエイターがグローバルに活躍できる為の制作面やPR面など幅広いサポートを通じてインディーゲームパブリッシング事業を展開。2023年からは新たなインディーゲームのイベントの開催に取り組むほか、マネジメントアーティストのサポートにも力を入れている。
公式サイト:https://phoenixx.ne.jp/
●Sawa Angstrom プロフィール
児玉真吏奈を中心に、 吉岡哲志、 浜田淳の 3 人で結成された京都発のオルタナティブ ・ エレクトロニック ・ グループ。
メンバーそれぞれが独立したミュージシャンとして音楽活動を積極的に行なっており、インディー界隈や広告業界に熱心なコアファンが多く存在している。
メンバー全員がそれぞれ独自にシンセサイズした音を駆使し、ヴォーカルを含む様々な音をチョップして再構築したトラックスタイルを主軸に、ブレイク ・ ビーツ、 アンビエント ・ テクノ、 チルポップ、 クリックハウスなどをオーバーレイさせたオルタナティブなエレクトロニックスタイルが特徴。
2018 年冬にグループ初の作品となる 1stCD-EP 「DdTPt」を発表。リリース直後に、 EU4 ヶ国 6 ヶ所と台湾 2 ヶ所のワールドツアーを決行し、国内より先に海外で評価を得ることとなる。「DdTpt」収録曲の”denchi”が、2019年『Apple Music 年間 TOP100 トラック』に選出された。
これまでにEPを4作、シングルを5作配信リリースしており、それぞれ収録曲がドスパラのハイスペックゲーミング PC 「GALLERIA」 や富士フィルムのチェキカメラ 「instax SQUARE SQ1」のCMソングに起用されるなど、 広告業界内からの支持も厚い。
また、盟友照明チーム『SPEKTRA』と繰り出す圧倒的なライブパフォーマンスは観るもの全てを飲み込む魅力が詰まっている。
2023年から再始動する通称”Sawa”。
今後国内外での飛躍が期待されるアップカミングアーティストである。
関連リンク
Sawa Angstrom
公式サイト
https://www.sawaangstrom.com/
公式X
https://twitter.com/SawaAngstrom
SACRA GAME MUSIC
公式サイト(日本語)
https://www.sacragamemusic.com/
公式サイト(英語)
https://www.sacragamemusic.com/en/
SACRA GAME MUSICでは、今後定期的に様々なゲームを集めたサブスク&ダウンロード配信リリース作品のティザー映像が用意され、そこにSawa Angstromが毎回異なるオリジナル曲を提供するという。ゲーム×音楽をテーマにしたSACRA GAME MUSICの設立や、「Xi Huan Ni」の楽曲制作は、一体どのような形で進んでいったのだろう。SACRA MUSICを統括するソニー・ミュージックレーベルズの栁氏とPhoenixxの代表・坂本氏、Sawa Angstromのメンバーに話をそれぞれ聞いた。
INTERVIEW & TEXT 杉山 仁
SACRA MUSIC・栁 真努加×Phoenixx・坂本和則 対談
――SACRA GAME MUSICはアニソンシンガーを中心に様々な人気アーティストが在籍するSACRA MUSICとインディーゲームパブリッシャー・Phoenixxによる共同プロジェクト。このプロジェクトが始まったきっかけを教えていただけますか?
栁 SACRA GAME MUSICはPhoenixx さんとの協業でSACRA MUSICの中に新しく生まれた、ゲーム音楽のためのプロジェクトです。今年の2月頃、僕とPhoenixxの坂本さんとで食事をする機会があったんですが、そこで坂本さんからゲーム音楽・ゲーム音楽クリエイターの活躍の場を広げることについてのお話を聞くなかで、お互いにアニソンやゲーム音楽を「世界に届ける」ことについて目線が一致していると感じまして。また、我々SACRA MUSICはアニソンをJ-POPとしてではなく「A-POP(Ani-POP)」としてわかりやすく括ることで、より世界の方々にアニメ音楽の魅力を届けていこうとしていますが、それならゲーム音楽も「G-POP(Game-POP)」として紹介することで、よりわかりやすく世界にその魅力を伝えられるかもしれない、という話で意気投合したんです。その後、3月に開催された“TOKYO INDIE GAMES SUMMIT”にもSACRA MUSICとしてスポンサーで参加させていただき、お付き合いがはじまりました。
坂本 インディーゲームでは、3人ほどのクリエイターがグローバルで通用するゲームを作ることも多いのですが、ゲーム音楽のクリエイターはゲームより目立ってはいけないけれども、音楽として存在感を出さなければいけないという意味で、とても難しい技術が求められます。ですが、才能のあるクリエイターが多くいるにもかかわらず、ゲーム音楽の魅力がそれ以外の場所まで伝わる機会は、一部の大ヒット作品を除いてまだまだ多くはありません。僕は元々ソニーミュージック出身ということもあり、こうした課題についてクリエイターから相談をもらう機会も多かったんですよ。僕らだけでサポートしても事業としてダイナミックにならないので、「やるのであれば大きなレーベルと共同でやるべきだ」と思っていました。
ちょうどそのとき、栁さんとご飯を食べる機会ができたんです。
――その結果、お互いに抱えていた問題意識や課題が上手く一致したのですね。
栁 世界でアニメ・アニソンのフェスが行なわれているのと同じように、ゲームフェスやeスポーツの大会なども世界各地で開催されています。そういう意味でも、アニメとゲームは似て非なる存在であると同時に、近しい位置にいて共存できる関係なんじゃないか、と思いました。僕らもゲーム音楽をサポートすることができれば、サブスクリプションサービスにより多くのゲーム音楽を加えて、たくさんの方に聴いてもらううきっかけを作ることができると思いましたし、坂本さんがそのときに話されていた「ゲーム音楽のクリエイターが、将来的にJ-POPやA-POPの楽曲を作ってもいいんじゃないか」という話にも共感できたので、「一緒にやっていこう」ということになりました。
――近年はメディアミックス的にアニメもゲームも展開する作品が多いですし、アニソンアーティストの方々がゲームの主題歌を担当することも増えていると思います。そういう意味でも、両者の距離はより縮まっているように感じますね。
栁 そうですね。コロナ禍が落ち着き、一度は閉じてしまっていた状態から世界が一気に開けて、ノーボーダーになったのも大きいと思っています。それぞれに理由は違っても、どちらも言葉の壁を越えているという意味で同じだな、とも感じていますね。
坂本 自分が今年の夏に体験したドイツ・アニマジックの際の“SACRA MUSIC FES.”でも、SACRAちゃん(SACRA MUSIC公式マスコットキャラクター)のハッピを着てライブを狂喜乱舞している外で、大手ゲームメーカーがブースを出していたり、インディーゲームが置いてあったりしたんですよね。そこで来場者の皆さんが遊んでいる姿を見たときに、「こんなに距離が近くなったんだな」「ゲーム音楽も一緒に広がっていけるんじゃないか」と確信したことは印象的でした。
逆もしかりで、ゲームイベントでアニソンやゲーム音楽を奏でるバンドが出てきてもいいかもしれない。メンタリティ的には近いと思っていた両者の距離が、実際により近くなっていると感じます。
――SACRA MUSICでは、どんなことを目指していきたいと考えているのでしょうか?
栁 「89秒に魂を込める」アニソンの方法論に、劇伴音楽のようにゲーム音楽を作っている方々のやり方がミックスされていったり、そこからニュースターが現われてくれたりするとすごく面白いと思っているんです。記憶に新しいYOASOBIの「アイドル」しかり、LiSAの「紅蓮華」やAimerの「残響散歌」しかり、澤野弘之さんの楽曲もそうですけど、世界に勝負できる・色々な方々に聴いていただけている音楽のネクストが現れるような状況が出来ればと思っています。また、サブスク配信などカタログとして、これまではゲーム音楽の中でしか聴けなかった音楽を、日本のみならず世界との接点を作れるのなら、それもすごく意義があることだと思っています。
――ゲーム音楽の魅力を広め、そこから出てくる新しい才能をサポートしていく、と。
坂本 ゲーム音楽はジャンルや作品によって大きく音楽性が変わりますし、喜怒哀楽がある楽曲が多くて、1つの作品の中で色々な感情の起伏を作ることができるのも魅力の1つなんですよね。だからこそ、そこで生まれた音楽はゲーム以外の場所でも楽しんでもらえるだろう、と。SACRA MUSICさんと協業することで、日本が生み出すインディーゲームの音楽の魅力を、世界に持っていくための可能性を探っていきたいと思っています。
栁 アニメとゲームとでジャンルを越えて相互交流が出来るといいですよね。極論ですが、例えば海外のゲーム作品にSACRA MUSICの所属アーティストが楽曲を提供するということも、権利関係をしっかりとクリア出来れば実現は可能です。また、世の中にはアニメ派生のゲームもあればゲーム派生のアニメもあるように、その壁もどんどんなくなっていると感じています。
そうした場所から次のヒット曲を作ってくれるアーティストたちがきっと出てきてくれるはずなので、そういう人たちが、僕らのアーティストとコラボレーションして楽曲を作ったりできるような展開も生み出せたら、と思っていて。坂本さんのほうでも、今、ゲームを使った新しいクリエイター発掘の仕方を考えてくれています。ただゲーム音楽をサブスク配信するだけではなくて、色んなトライアルをしていきたいですね。
――今回、SACRA GAME MUSICの立ち上げに際して京都の3人組エレクトロニックグループ・Sawa Angstromがメジャーデビューをし、SACRA GAME MUSIC第一弾ティザーソングとして「Xi Huan Ni」をリリースしました。お二人が思うSawa Angstromの魅力を教えてください。
栁 ティザーソングに使用している「Xi Huan Ni」は、「こんなゲームが発売されますよ」というトレイラーのBGMとして異なるオリジナル楽曲を付けようという、SACRA GAME MUSICの展開の第一弾です。様々なゲームのティザー映像をまとめる役割として、Sawaの新曲が流れることを想定しています。Sawaの音楽はどこか8bit感やゲーム音楽感が感じられる瞬間もありますし、ライブも前衛的ですごく面白いと感じたんです。元々海外でのライブを目指して結成したという話も、SACRA GAME MUSICに合うと思っています。楽曲に魅力を感じて、ライブを観に行ってメンバーと握手をしたときに「これで契約ですね」と彼らに言われて即決しました(笑)。
――(笑)。それくらい、Sawaの皆さんに才能を感じたということですね。
栁 もちろんです。良い意味で今っぽい、先を行っているような感覚を受けましたし、ライブではメンバーがみんな機材をいじっている姿も面白いなと感じたんですよね。それで、惚れてライブを観に行ったら、ライブも素敵だったので「ぜひ一緒にやりたい」、と。
坂本 こういう楽曲ができるアーティストは最近なかなかいないと思いますし、「彼らの音楽はゲームの中に存在してもいいんじゃないか」と思っていたこともあって、栁さんに「こういうアーティストもいますよ」と紹介をしました。そうしたら、すぐにライブを観に来てくれて、SACRA MUSICさんとお互いに協力してやっていこうという話になりました。
栁 彼らを紹介してもらって、「Xi Huan Ni」を聴いてめちゃくちゃ良い曲だな、と思ったときに、サブスク配信する既存ゲームのティザー映像を作って、そこに音楽を当てはめることを思いつきました。“78億 はみでたワンナイト”という歌詞は、SACRA GAME MUSICのテーマともすごく合っていますよね。また、かつて一人のアーティストが同じCMソングに色々な楽曲を提供していたり、ドラマで同じアーティストの曲が多数使われていたりするのが個人的に大好きだったこともあり、このアイデアを思いついたのかもしれません。Sawaを知ったことで、SACRA GAME MUSICのアイデアも連鎖的に広がっていった感覚です。
■プレイリスト「SACRA GAME MUSIC 公式プレイリスト」
https://SACRA.lnk.to/GameMusic
Sawa Angstraom インタビュー
――まずは、グループ結成の経緯について教えていただけますか?それぞれが別々に音楽活動をしていた皆さんは、2017年頃にライブハウスで出会ったそうですね。
児玉真吏奈 元々私はソロ活動をしていて、浜田(淳)と吉岡(哲志)もそれぞれ別々にグループでの音楽活動をしていたんです。まず、浜田と私がブッキングのライブで対バンすることになって、その次のライブのときに、浜田が吉岡を連れて私のライブを観に来てくれたんです。
それで、「3人で一緒に面白いことをやらないか」と話したのが2017年でした。
浜田 淳 僕と吉岡は付き合いが長く、以前から「いつか一緒に電子音楽のグループをやりたい」と話していました。ただ、僕としては「歌を歌えるメンバーがほしい」と思って、ボーカルをずっと探していて。児玉と対バンしたときに「ついに見つけた!」と思ったんです。それで吉岡に「良い人がいた」と伝えて、一緒にライブを観に行きました。
――最初から児玉さんを誘うつもりでライブを観に行ったんですね。
浜田 そうなんです。
吉岡哲志 僕はというと、当時は前にやっていたバンドが休止して約1年経った頃で、京都でレコーディングスタジオ・studio INOを始めていたので、音楽活動よりはその経営に一生懸命になっていました。でも、浜田に声をかけてもらって児玉のソロ曲を聴いたときに、まだ10秒くらいしか聴いていない時点で「すごく良い声をしている……!」と思って。それで浜田と一緒にライブを観に行って、3人で音楽を作ることになりました。
――その時点で、音楽的な方向性を話し合ったりはしたんですか?
児玉 最初は、即興で合わせていましたよね?
浜田 そう、「電子音楽をやろう」という1つの大きなテーマは持ちつつも、具体的に方向性を決めることはしていなくて、むしろそれを軸に色んな方向性を探っていた感覚です。
吉岡 当時、僕はギターを弾いていたんじゃないかな。
浜田 僕もベースを弾いたり、サンプラーを鳴らしたりしていて。最初の頃はそのまま即興でライブをしたりもしていました。「何でもOK!」という感じでやろう、と言っていましたね。
吉岡 そもそも(バンド名になっている)「Sawa」はスワヒリ語で「いいね」という意味で。「sawa sawa」(=いいねいいね)というふうに使う言葉なんですよ。そんなふうに、「何でもいいからやってみよう!」というのが1つのテーマでした。
児玉 私は当時、2人ほど電子音楽に詳しいわけではなかったんですけど、このメンバーなら実験的なこともできるし、「3人で演奏するとワクワクする!」という感覚がありました。
浜田 活動スタイルについても同じで、それまではしっかりバンドを組んで、活動方針をしっかり決めていたんですけど、Sawaはもっとゆるく集まって、良い意味でクレバーにやっていこうと思っていました。そのうえで、「海外でライブしたいな」と話していて。それに向けてセッションしたり曲を作ったりして、まずはすぐにヨーロッパに行きました。
――結成の翌年にはヨーロッパにライブをしに行ったそうですね。
浜田 曲がまだたくさんはない状態で、半分インプロヴィゼーション(即興)のような感じでやっていました(笑)。ただ、現地のお客さんの反応はすごく良くて面白がってくれたんですよ。
児玉 すごく良い反応を返してくれたんですよね。
――皆さんの場合、国内外に影響を受けた音楽があるのかなと想像していました。それぞれの好きなアーティストの中で、グループに影響を与えたものがあれば教えてください。
吉岡 僕は2000年代のはじめ頃にエレクトロニカブームに夢中になったのが音楽にハマるきっかけで、日本人だとAOKI takamasaさんが好きでした。ただ、その頃のエレクトロニカは内向きでベッドルームミュージック的なものが多かったと思うんですけど、そういう音楽をロック寄りのバンドでやるような、ライブでお客さんが踊ってくれる音楽もあって、それがすごく好きでもありました。あと、海外のアーティストだと、最近はケミカル・ブラザーズが自分の中では一番ホットです。
――ケミカル・ブラザーズはダンスミュージックとの出会いのアーティストに挙がることも多いですが、むしろ今ハマっているんですね。
吉岡 そうなんです。僕の場合、最初はAOKI takamasaさんのような音響的なエレクトロニカが好きだったんですけど、一方で、ケミカル・ブラザーズが持っている良い意味でのパーティー感のようなものも、すごく魅力的だと思うんですよ。
――なるほど。「ダンスミュージックをポップに鳴らす」という意味で、魅力を再発見しているということですね。浜田さん、児玉さんはいかがですか?
浜田 僕はBOREDOMSが一番尊敬しているアーティストで、もちろんAOKIさんのようなエレクトロニカのアーティストも大好きで。その傍らバンドをやっていたので、「エレクトロニカをやりたいけど仲間がいない」とずっと思っていました。あと、ヒップホップも好きなので、(インディーズレコードレーベル)Stones Throwも好きです。ちょうどこの前、Stones ThrowのMndsgnが来日していたのでライブを観に行って、「自分はこういうことがやりたかったんだな」と再確認しました。ダーティーな雰囲気があっても、同時にメロウな要素が立ち上がってくるのがいいな、と思うんです。「そういうものと綺麗なエレクトロニカとが混ざったような音楽は作れへんかな?」と、人生でずっと感じていたので、Sawaだったら色んな音楽が作れそうだな、とワクワクしています
児玉 私は、元々母がハードロック好きで、小さい頃から70年代のプログレのシンセサイザーを聴いたり、民族音楽も聴いたりしていました。それから年頃になってきて、Salyuさんやclammbonの音楽を聞くようになりました。あとは、海外だとフィオナ・アップルやフアナ・モリーナのような人達の音楽を「かっこいいな」と思ったり、ボーズ・オブ・カナダも好きで聴いたりしていて。比較的、歌に特化しながら背景では電子音が鳴っているような曲が好きでした。Sawaを始めてからは、ノルウェーのオーロラも好きになりました。
――一方で、皆さんが好きなゲームはありますか?これまでの活動を色々拝見させていただいても、ゲームも好きな方々なのかな、ということが伝わってくる瞬間があります。
浜田 昔のタイトルになってしまいますけど、僕はSNKの格闘ゲーム(主要タイトルは「餓狼伝説」や「ザ・キング・オブ・ファイターズ」など)が好きでした。あとは「ドラゴンクエスト」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズをやっていて。ゲーム音楽という意味だと、「クロノトリガー」の「風の憧憬」はいくつになっても聴いてしまう曲で、Sawaでもカバーをしました。この曲は本当に色褪せないというか、物語の内容も相まって、今でもプレイしたときのことを思い出したりして泣いてしまいます。
――ゲームは自分でプレイする体験型のエンタメということもあって、そこで流れている音楽も自分のプレイ体験や思い出に紐づいていくのが面白いところですね。
浜田 そうですね。大人になってからも周りのDJ達にゲーム音楽が好きな人がいたり、チップチューンをやっている人達が結構いたりして、「こういう音楽もかっこいいな」と教えてもらったりもしました。
児玉 私は、ゲーム好きの兄から借りて「ゼルダの伝説」をクリアしたり、その音楽をよく聴いていた記憶があります。あとは、ニンテンドーDSシリーズの「ドンキーコング」や「ボンバーマン」をやったりもしていました。Sawaを始めてから知った作品では、浜田に教えてもらったアプリゲーム「Sky 星を紡ぐ子どもたち」も印象的でした。
――「Sky」は先ほどお話に出てきたオーロラさんが音楽面で参加している作品ですね。
児玉 そうなんですよ!
浜田 「Sky」のゲーム内でライブもやっていましたよね。「それに出たい」という話をしていたんです(笑)。
――吉岡さんはいかがでしょう?
吉岡 僕はアトラスの大ファンで、8年ほど「真・女神転生IMAGINE」(「真・女神転生」シリーズのMMORPG)をやり込んでいました。今はそこまで時間が取れないのですが、ゲームをやるのは変わらず楽しいです(笑)。
――それだけゲームをする方だと、音楽を作る際にも影響を受けることがあるんじゃないですか?
吉岡 めちゃくちゃあります。音楽そのものに影響を受けるだけではなくて、ゲーム自体のストーリーや世界観に影響を受けることもあって、例えば「女神転生」なら、あのディストピア風のサイバーパンクな世界観がすごく好きだったりします。
――そして、今回SACRA GAME MUSIC第一弾ティザーソングとして「Xi Huan Ni」がリリースされました。先ほどSACRA MUSICの栁さんにお話を伺ったのですが、ライブ会場で即決で契約が決まったそうですね。冗談っぽく「ライブを観に行って握手をしたときに、『これで契約ですね』と言われた」と話されていました(笑)。
浜田 栁さんがライブを観に来られて、褒めていただいたので「これはもう契約してもらえるだろう」と(笑)。それで握手をすれば決定と思って、握手をさせていただきました。
吉岡 (笑)。僕らはずっとインディーで活動を続けてきて、そこで今プロデューサーをしてくれているPhoenixxのスタッフと出会ったんですが、その後Sawaの音楽を広めていくために相談をしていくなかで、たくさん曲を作っていたときに出来た曲の1つが、今回の「Xi Huan Ni」です。この曲は、元々もっと早く出す予定だったんですが、途中で「大事にリリースしましょう」という話になって。「どういう意味だろう?」と思っていたら、SACRA MUSICとのお話が始まり、栁さんにライブに来ていただいて契約をした、という感じです。
――SACRA GAME MUSICという、ゲーム音楽にまつわるプロジェクトにかかわることについてはどう感じていますか?
浜田 僕らは海外でも活動をしていきたいと思っているので、まずは「海外にも届きそうだな」と思いました。自分たちのやりたいこととマッチするな、と。
児玉 それに、これまでもゲーム音楽をカバーしたりしていたので、「今までやってきたことの点と点が繋がっていく」という感覚がありました。Sawaにとっては、これ以上ないくらい相性が良いメジャーレーベルとのお話だな、と思いましたね。
浜田 将来的にゲームの音楽を担当できるようになれたらいいな、と思っています。それがゲーム体験ともあわせて誰かの思い出になってくれたら最高だと思うので。
――「Xi Huan Ni」の制作過程についても教えてください。お話を聞く限り、SACRA GAME MUSICでの展開が決まる前から出来ていた楽曲だったんですね。
吉岡 ちょうど今年の1月くらいに、僕と児玉が別のバンドのサポートで台湾に行ったんですけど、そこから帰ってきたときに、浜田が「せっかく2人が台湾に行ったんだから、その経験を曲にしよう」と言い始めて。
浜田 僕は元々生粋の台湾好きで、コロナ禍になる前は毎年ライブをしに行っていました。その頃からずっと不思議なんですけど、台湾に行くと、毎回恋に似たような感情を抱くことがあるんです。日本と似ている場所のようでいて、でも実際には違う台湾という場所ならではの感覚や距離感が、どこか恋愛に似ているんじゃないか、と。それで、2人がちょうど台湾に行ったのなら、「台湾にまつわる曲をつくってみよう」という話をしました。
児玉 そのとき、台湾のクラブに遊びにいった話をしたりもして、クラブのソワソワした感じとか、恋じゃないけれど恋のような不思議な感覚とか、夜が明けてそれぞれの場所に帰ると別々の日常が始まる切なさとか……色んなことが繋がると思ったので、そういう要素が合わさって楽曲になっていきました。
――なるほど。その結果、「Xi Huan Ni」(=I like you/I love you)というタイトルで、様々な地域に住む人々が集まるクラブのような場所が連想できる楽曲になったんですね。サウンド面で工夫したことはありますか?
吉岡 サウンドについては、たくさん曲を作ろうと思って素材を色々と出していったものを発展させていった感じです。エレクトロミュージックって色んな形があって、ヒップホップ的なサンプリング主体のものもあれば、電子音の音色から作っていくものもあったりと、形は様々だと思うんですけど、「Xi Huan Ni」ではちょっと原理主義的に、キックやスネアもすべてオシレーターから作っていて、すべてを電子音で構成するようにしました。僕の中では「『Xi Huan Ni』からリリースすることになるぞ」という感覚が何となくあったので、「Sawaはエレクトロニックグループである」という説得力や、「こうだ」という筋を一度通しておきたい、と思ったんです。今後出す曲では色々なことをやっていくと思うんですけど、、まずはそこにちゃんと向き合ってみよう、と。
児玉 曲の盛り上がっていくところは、さっき吉岡が挙げていたケミカル・ブラザーズのようなクラブ/パーティー感をどう表現するか考えていきました。それで浜田とも「こうしてみよう」と色々と話すなかで、自分でも「アガるかどうか」を大事に考えています。あと、歌の面では、今回Aメロでラップをしていますけど、あの部分はベーシストでもあり、グルーヴを上手く取れる浜田にまずラップをしてもらったんですよ。
――へえ!
浜田 恥ずかしながらラップさせていただきました。
児玉 言葉の発音やリズムを重視して歌ったので、自分にとっても新しい挑戦でした。
浜田 この曲はとにかく、メロディをめちゃくちゃ揉んだ楽曲でしたね。みんなで色んなものを試して、色んな音楽をリファレンスにしながら、「ああでもないこうでもない」と考えて。そうしているうちに、Aメロはラップに行き着いたという感じです。最初はR&Bっぽい歌にしてみたりもしていて、本当に色々な可能性を試していきました。
児玉 Aメロがラップになったことで、サビの歌とのコントラストが綺麗に出ているのも気に入っています。サビの部分は、歌としては開けていくけれど、(クラブならではの一期一会感に繋がる)切なさも含めて表現できるように、声質も含めて考えていきました。ただただ「イェーイ!」というだけではないパーティー感を大切にしましたね。
――世界の様々な人を繋ぐクラブの風景を連想するような楽曲が色々なゲーム作品をまとめるティザーの楽曲として流れるのは、SACRA GAME MUSICのテーマとも合っているように感じられますね。今後の活動についてはどんなことを考えていますか?
吉岡 SACRA MUSICのアニメやゲームを世界に発信する力で、Sawaの音楽も世界に発信していけたら嬉しいですし、僕らの場合、その先にいつか海外のフェスに出たいという気持ちもあるので、それを今か今かと待っています。
浜田 「Sawa Angstrom」という存在が1つのジャンルになれるくらい、唯一無二の存在になれたら嬉しいな、と思いますね。
児玉 エレクトロって本当に色々なジャンルがあると思うんですけど、そのなかでも「これってSawaっぽいよね」と言ってもらえたりするくらい、Sawaの音楽が多くの人に届いてくれたらいいな、と思っています。メンバーは音楽だけではなくて、色々な芸術も好きな人間ですし、関西人ということもあって「アニメやゲーム、アートなど色々な文化の垣根を越えて、おもろいことがしたい!」というのが、私たちが考えていることです。
●配信情報
Sawa Angstrom 1st Digital Single
「Xi Huan Ni」
配信中
配信リンクはこちら
https://sawaangstrom.lnk.to/XiHuanN
●SACRA MUSIC 概要
2017年4月にSML内に発足した、国内のみならず広く海外にも活動の場を広げているアーティストを中心とした音楽レーベル。FLOW、ClariS、LiSA、Aimer、SawanoHiroyuki[nZk]などが所属し、いずれも数々のアニメタイアップやヒットの実績、また、国内外でのライブや各種イベントにおいて大きな動員力を誇っている。昨年からドイツ、サウジアラビア、ブラジルなどのアニメイベントにて、所属アーティストが出演する「SACRA MUSIC FES.」を開催しており、グローバルな展開を続けている。
公式サイト:https://sacramusic.jp/
●株式会社Phoenixx 概要
2019年に設立。「Creators-Centric」という理念のもと、インディーゲームクリエイターの発掘、育成から、クリエイターがグローバルに活躍できる為の制作面やPR面など幅広いサポートを通じてインディーゲームパブリッシング事業を展開。2023年からは新たなインディーゲームのイベントの開催に取り組むほか、マネジメントアーティストのサポートにも力を入れている。
公式サイト:https://phoenixx.ne.jp/
●Sawa Angstrom プロフィール
児玉真吏奈を中心に、 吉岡哲志、 浜田淳の 3 人で結成された京都発のオルタナティブ ・ エレクトロニック ・ グループ。
メンバーそれぞれが独立したミュージシャンとして音楽活動を積極的に行なっており、インディー界隈や広告業界に熱心なコアファンが多く存在している。
メンバー全員がそれぞれ独自にシンセサイズした音を駆使し、ヴォーカルを含む様々な音をチョップして再構築したトラックスタイルを主軸に、ブレイク ・ ビーツ、 アンビエント ・ テクノ、 チルポップ、 クリックハウスなどをオーバーレイさせたオルタナティブなエレクトロニックスタイルが特徴。
2018 年冬にグループ初の作品となる 1stCD-EP 「DdTPt」を発表。リリース直後に、 EU4 ヶ国 6 ヶ所と台湾 2 ヶ所のワールドツアーを決行し、国内より先に海外で評価を得ることとなる。「DdTpt」収録曲の”denchi”が、2019年『Apple Music 年間 TOP100 トラック』に選出された。
これまでにEPを4作、シングルを5作配信リリースしており、それぞれ収録曲がドスパラのハイスペックゲーミング PC 「GALLERIA」 や富士フィルムのチェキカメラ 「instax SQUARE SQ1」のCMソングに起用されるなど、 広告業界内からの支持も厚い。
また、盟友照明チーム『SPEKTRA』と繰り出す圧倒的なライブパフォーマンスは観るもの全てを飲み込む魅力が詰まっている。
2023年から再始動する通称”Sawa”。
今後国内外での飛躍が期待されるアップカミングアーティストである。
関連リンク
Sawa Angstrom
公式サイト
https://www.sawaangstrom.com/
公式X
https://twitter.com/SawaAngstrom
SACRA GAME MUSIC
公式サイト(日本語)
https://www.sacragamemusic.com/
公式サイト(英語)
https://www.sacragamemusic.com/en/
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