祖父がヤクザの組長である瀬名垣一咲の片思いの相手は、彼女の世話係でもある若頭・宇藤啓弥。その恋を振り切り普通の恋をするべく高校に入学した一咲を追いかけ、過保護な啓弥は年齢を詐称して同じ高校へと進学する――そんな2人の恋模様を描いた人気少女漫画「お嬢と番犬くん」がアニメ化。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
男女問わず胸きゅん間違いなし!令和のロミジュリ作品を、オーイシはどう見たのか。
——ニューシングル「好きになっちゃダメな人」ですが、こちらはTVアニメ『お嬢と番犬くん』のOPテーマ。少女漫画原作の主題歌を制作するということで、まずはどのようなことから始められたのでしょうか。
オーイシマサヨシ 久しぶりの少女漫画原作のタイアップだったんですよね。なんだったら『月刊少女野崎くん』以来かもしれない。シンプルに面白い作品なので、原作を読み始めてから「この物語の主題歌が書けるのは嬉しいな」と思いながら曲を書いていきました。
——男性の目線で見る少女漫画の世界観。どんなところが面白いと感じられますか?
オーイシ 女子と一緒ですよ!キュンキュンするところは変わらないと思います。男性でも女性でも。例えば主人公に自分を重ねるような、そういった共感性とはまた違いますけど、「ヒロインがかわいいな」とか「男だけどこんな恋がしたかったな」とか、色々な見方がありますよね。あと、そういえば久しぶりに少女漫画を読んだかもしれない、すごく楽しかったです。
——楽曲を制作する際に、物語のどんな部分をテーマとしてキャッチされたのでしょうか。
オーイシ 「ロミジュリ」ですね。身分の違う男女が恋に落ちてしまうっていう。本当はダメなのに、いけないのに、というところが落としどころとして一番フィットした感じでした。ただ、そこまでロジカルに考えたわけでも、「このあたりがロミジュリだな」という俯瞰でもなくて、書いている最中はすごく物語に没頭していたので、書き終わってから「そうか。これは“ロミジュリフォーマット”なんだ」と、気づいたような感覚でしたね。でも『お嬢と番犬くん』という物語以外にも、現実世界でも「好きになっちゃダメな人」って経験している人も少なくないと思うんです。小学校のときに担任の先生に恋心を抱いたことや、僕の場合だと幼稚園の頃に数ヵ月後に引っ越すのがわかっている女の子のことを好きになってしまったこともありますし。そういうふうに、それぞれの人が主人公になっている物語ってあると思うので、広くていいテーマなのかなと思って。この曲は珍しくタイトルが先に浮かんだんですよ。普段は最後にタイトルを決めるタイプなのですが、最初にタイトルが浮かんだな、という感じでした。
「わたし」の一人称で描くオーイシマサヨシワールド
——そんな『お嬢と番犬くん』の楽曲に「これは絶対に必要だ」と思った要素を教えてください。
オーイシ 絶対に必要だと思ったのは、“ヒロイン目線”。それは僕だけじゃなく、ディレクターさんやアニメ制作サイドもそうですが、男性アニソンシンガーが男目線で歌うのではなく、ちゃんと一人称を「わたし」にして、ヒロイン目線で恋を、心情を紐解いていくことが在り方として正しいかなと思いました。逆に「これはやっちゃだめだな」というファクターもあって。それは楽曲の主人公役が、「好きになっちゃダメだと思われる側」になってしまうこと。上から目線で描いたらいけないということは思っていました。なので、僕の曲の中でもヒロイン目線というところで初めて「わたし」という一人称で書いた曲になりましたね。
——アレンジでこだわったのはどのような部分ですか?
オーイシ 暗い曲にはしたくなかったんです。すごく透明感がある曲で、「好きになっちゃいけない人だ」という想いだけ見ればネガティヴだけど、好きという気持ちは間違いないから、ちゃんと幸せを感じる音で包み込みたいと思ったので、ストリングスやコーラスでハッピーな感じの音階を使ってサウンド作りをしていきました。
——OP映像からも、恋をしているからこそのハッピーは伝わってきました。
オーイシ 究極の自虐ソングですよね。「好きになっちゃダメなんだけどなぁ」っていうところ。「ダメだなぁ、わたし」という曲にしたかった。
——その手法に違いがあるということですか?アニメソングと実写作品のテーマソングとで。
オーイシ 明確に違うのは“テンポ感”です。この曲、オープニングにしては結構テンポ感がゆっくりしている曲ですよね。跳ねのリズムなので人によっては軽快な感じに聴こえますが、速度的にはミドルバラードくらいのテンポ感なんです。これは僕にとってもトライでしたし、珍しい曲なのかなと。速いテンポで獲得できる印象ってあると思うんですよ、「なんだか明るいな」とか「アニソンっぽいな」とか「爽やかだな」とか。テンポが速いことによって勝ち得ることのできるイメージをかなぐり捨てて、ともすれば映画のエンディングでかかっていそうな曲を意識したかなと思います。アニメのOPソングとしてはちょっと遅めな、珍しい曲ですね。
——アニメソングとも違い、ポップサウンドに落としこんだというこの曲ですが、歌唱についてはいかがでしたか?
オーイシ そもそも「わたし」という一人称を使っているので、どことなく声は、例えば『SSSS.GRIDMAN』を歌っているときよりも優しくはなっていますし、キーもそれほど高いわけでもないので、抑えたキーで歌える等身大で歌唱が出来たかなと思います。
——そのあたりは、レコーディングに臨む際も意識されたのでしょうか。
オーイシ 意識はしていました。ただ、あまり意識しすぎるとカチコチになってしまうので、そこの塩梅はありましたが、いつもとは違う感じでのボーカルアプローチにしたい、サウンドアレンジをしたい、という想いはありました。
——MVはアニメーションで、お洒落ムービーになっていました。こちらはご覧になっていかがでしたか?
オーイシ ああいうYouTubeライブってありますよね?チル的な音楽をずっと流しているチャンネルというか。今回は、あえてそういうアニメーションっぽい感じにしています。5年、10年後でも聴けるような、そんなMVにしたいというイメージを伝えて作っていただきました。動きをめちゃくちゃにつけるというよりは、ずっと素朴に淡々と画面が流れていくような感じにしています。
——そして打って変わって、アニメのオープニングはキュンキュンする映像で。
オーイシ いやあ、キュンでしたね。ど頭でヒロインの一咲ちゃんの子ども時代から始まりますが、すごくキュンキュンしますよね。原作寄りの絵のタッチでアプローチしているのがお洒落だなって思いました。先ほど「テンポが遅い」という話をしましたが、僕自身にとってもトライのある楽曲だったので、実はどんな風に仕上がってくるのかなという若干の不安もあったんですよ。今までとは違う感じの楽曲だったので。でも、第1話で皆さんと同じタイミングで初めてOPムービーを見て、ほっとしましたね。
——オーイシマサヨシの曲としてはテンポの遅い曲ですが、この曲、ライブではどんな風にパフォーマンスしたいですか?
オーイシ 振付師さんに手振りをつけていただいたんです。それを一緒にやりながらライブをしたいですね。それに、跳ねのリズムなので手拍子をしたりしながら一緒にノリを楽しめる曲になったらいいなぁと思っています。ちなみに、今回振りをつけてくださった振付師さんが、たまたま『推しの子』で僕が書いた劇中歌「サインはB」の振りつけをしていた方だったんです!全然知らないままにオファーした方だったのですが、「実は僕、大石さんと関係があるんですよ」って言われて、お話を聞いたら「『サインはB』、僕が振りつけました」って。こんなことあるんですねって驚きました(笑)。世間は狭いですね。
子供の頃の冒険心を織り交ぜながら完成した、旅立ちの歌「黄金航路」
——そしてカップリングには「アズールレーン」(以下、アズレン)の6周年記念曲「黄金航路」が収録されています。5周年記念曲「碧い砲撃」も制作されていましたよね。
オーイシ そうです。2年連続で書かせていただきました。
——同じテーマの中で様々な楽曲を展開していくことは、クリエイターとしてどういった魅力があるのでしょうか。
オーイシ 腕の見せ所だなと思います。自分の引き出しの数も、同コンテンツの中だとああでもない、これでもない、と引き出せますし、自分を試せる場所でもあると思うのですが、今回に関してはアズレンさんサイドから、前回までの戦いを意識したロックでラウドな感じよりもちょっと明るい多幸感があって、なおかつ冒険心を高められるような曲にしてほしいというオーダーがありまして。今までのアプローチとは違った周年曲にしたい、というお話だったので、楽曲を作る方からすれば同じテーマではあるけれど裏と表くらい違うところでもあったので、とても楽しく書かせていただきました。5周年のアニバーサリーが終わって、10周年に向けての新たな出航であるという意味でも、旅立ち感のある曲にしたい、という想いもあったと思いますし、それを僕自身も感じました。自分の中ではただのアズレンソングにするのも寂しいなと思ったので、「アズールレーン」の世界観プラス自分が昔経験した出来事をミックスしたら良い曲になるのではないかと思ったんです。それで旅立ち感というテーマで自分の中でさかのぼっていったときに、実体験として辿り着いたのが友だちとやっていた海賊ごっこでした。小学校低学年の頃で、まだ海賊ものの人気コミックスもない時代に友だちと家で海賊ごっこをやっていた思い出を引っ張り出してきて、アズレンの海上での戦いという世界観とミックスして作ったのが「黄金航路」。アズレンのテーマソングでありながら自分の人生の1つのテーマソングでもある、というWミーニング的な1曲になったと思っています。あと面白かったのは、これをリリースしてすぐにコード進行オタクなファンの方がコードを考察して出していたのですが、ほぼ合っていたことです。
——コード進行オタク!?
オーイシ そうそう。結構難しい曲にしようと思ったので、ミュ-ジカル調で転調も多くて、テンポもすごく変化していく感じの楽曲にしようと作っていたんです。ぱっと見たら難しいだろうと思っていたのに、その人の考察がかなり正確だったので、いや気持ち悪!って思いました(笑)。僕は「コード進行ストーカー」と呼んでいるのですが、僕、その動画をXで取り上げちゃったんです。それで味を占めたのか、僕がリリースをするたびにその曲のコード進行を全部分解し始めたんですよ!まじで、ストーカーと化しています(笑)。なんだったら提供曲もリリースして24時間経過しないうちにコードをまとめて動画にしているんですよ。ちょっと怖さを感じています(笑)。
——そんな1曲、歌っていていかがでしたか?それこそ「オーイシマサヨシ節」な一曲でしたが。
オーイシ 楽しかったですね。ハイトーンもあって、オーイシマサヨシの歌!という感じではあったのですが、この曲はキーがすごく高いんです。ミックスボイスを上手く使用しないと歌いきれない曲になっていて。僕、アニソンのカバー番組とかもやらせてもらっているんですが、令和のアニソンは難しくなってきているんですよね。ボーカルもインフレ化してきたなかでの楽曲を番組で経験もしてきていたので、そのカバーで得た学びを自分のボ-カルでも活かせたらいいな、という想いがあり、今回はそういった新しい技術をふんだんに取り入れていれています。
日本武道館で響くオーイシソング。いっちょ伝説作ったろ!
——さらに「ギフト」はライブテイクで収録されています。この曲は、ここまで歌ってきてどのような進化を遂げたとお感じになりますか?
オーイシ 振りコピ勢が増えました。SNSの力もありますが、この曲はオタクたちが本当によく踊ってくれるようになってきまして、ある種、お客さんに育ててもらっている曲だなと思います。今回収録しているライブテイクよりも、お客さんの盛り上がり方も含めてずっとアップデートしてきていると思いますが、このときのライブテイクもすごく良かったですし、僕自身も「良い歌がうたえたな」「良いパフォーマンスができたな」と思っているので、ぜひ聴いていただきたいです。
——そうした「楽曲を育ててきた」ファンの皆さんが全国から集まってくる日本武道館公演も迫ってまいりました。すでにソールドアウトしている公演ですが、今のご心境はいかがですか?
オーイシ 実感はないですが、やっぱりすごく嬉しいです。皆さんに熱量を持って見守っていただける武道館公演なんだと思うと、非情にやりがいも感じていますし、すでにセットリストも演出も決まってきました。意気込みめいたものはデカいですし、「いっちょ伝説作ったろ」と思っております。この言葉を見出しにして、太字にしてもらっていいくらい気合いが入っております。
——これまで色々な方の日本武道館公演もご覧になっているでしょうし、イメージは出来ていると思いますが、「オーイシマサヨシの武道館ライブ」だからこそ、こういう準備をしておいで、というものはありますか?
オーイシ 手ぶらで来ても大丈夫だし、初心者でも大丈夫なライブです。「誰も置いていかないライブ」と僕は以前から公言しておりますが、武道館のキャパになっても同じく、そういうライブが出来たらいいなと思っていますし、皆さんの方で特別に準備することはないかもしれないです。ただ、楽しむ準備だけはしておいていただきたいと思います!
——そして、オーイシマサヨシ名義での音楽活動が10年目に突入した今の想いを改めてお聞かせください。
オーイシ 10年、やっちゃったな、という気持ちです。本当は40歳でアニソンシンガーを辞めるつもりだったのですが、辞められなくなって、エキシビジョンタイムがずっと続いている感覚。このままやれたらいいなぁ、と思っています。
——日本武道館のソールドアウトもあり、ここから先、色々なことが待っているのかなとも思うエキシビジョンタイム。10年から先のビジョンを教えてください。
オーイシ 僕、ずっと言っているのですが、結局「結果」でしかないので。マイペースにやっていって、後ろに道が出来ていたらいいなという感じです。ただ、1つだけやりたいことが増えました。“Animelo Summer Live 2023 -AXEL-”でさいたまスーパーアリーナの大トリを務めさせていただいて、素晴らしい景色を経験させていただいたので、いつかあのさいたまスーパーアリーナでワンマンをやってみたい。まだまだ色々と挑戦を重ねていきたいと思っています。楽しみにしていてください。
●リリース情報
TVアニメ『お嬢と番犬くん』オープニング主題歌
オーイシマサヨシ
「好きになっちゃダメな人」
11月1日(水)発売
配信リンクはこちら
https://014014.lnk.to/sukidame
■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら
【通常盤】
品番:PCCG.02299
価格:¥1,760(税込)
【アニメジャケット盤】
品番:PCCG.02300
価格:¥1,760(税込)
【CLUB014・イベント限定盤】
品番:SCCG.00147
価格:¥3,960(税込)
<収録曲>
M1.好きになっちゃダメな人
M2.黄金航路
M3.ギフト (LIVE)
M4.好きになっちゃダメな人(TV edit.)
M5.好きになっちゃダメな人(instumental)
M6.黄金航路 (instumental)
仕様
描き下ろしアニメジャケットイラスト ※アニメジャケット盤のみ
限定アクリルスタンド付き ※CLUB014・イベント限定盤のみ
店舗オリジナル特典
きゃにめ:ジャケットステッカー
絵柄:形態別 ※各形態ジャケット絵柄使用
Amazon.co.jp:メガジャケ
絵柄:形態別 ※各形態ジャケット絵柄使用
全国アニメイト(通販含む):L判ブロマイド
絵柄:形態別 ※通常盤:撮り下ろし写真使用、アニメジャケット盤:ジャケット絵柄使用
楽天ブックス:2L判ブロマイド
絵柄:全形態共通 ※撮り下ろし写真使用
●ライブ情報
オーイシ武道館 ~オーイシマサヨシ ワンマンライブ at 日本武道館~
2024年3月2日(土)
会場:日本武道館
出演:オーイシマサヨシ
ゲスト:グリッドマン(Universe Fighter)
ダイナゼノン
グリッドナイト
ウルトラマンロッソ
ウルトラマンブル
REAL AKIBA BOYZ
●作品情報
TVアニメ『お嬢と番犬くん』
【スタッフ】
監督:高本宣弘
シリーズ構成:皐月彩
キャラクターデザイン:番由紀子
アニメーション制作:project No.9
オープニングテーマ:オーイシマサヨシ「好きになっちゃダメな人」
エンディングテーマ:鬼頭明里「Magie×Magie」
【キャスト】
瀬名垣一咲(せながきいさく):鬼頭明里
宇藤啓弥(うとうけいや):梅原裕一郎
田貫幹男(たぬき みきお):榎木淳弥
関谷香織(せきや かおり):中原麻衣
<あらすじ>
三代目瀬名垣組組長の孫娘、瀬名垣一咲(15)。高校ではフツーに友達を作ってフツーに恋がしたい!地元から離れた高校へ入学したけど、過保護な若頭・宇藤啓弥(26)が年齢詐称して一咲の高校に裏口入学!?「恋愛なんて一咲さんには早すぎます」と訴え、男を近づけない気満々の啓弥。だけど、実は一咲はずっと前から啓弥に片想いしていてー!?
関連リンク
オーイシマサヨシ(大石昌良)
公式サイト
https://www.014014.jp/
公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/Masayoshi_Oishi
TVアニメ「お嬢と番犬くん」公式サイト
https://ojoutobankenkun.com/
そんな胸きゅんラブストーリーのオープニングを、オーイシマサヨシが歌い上げる!久々の少女漫画原作アニメのオープニングを担当することとなったオーイシにとって、挑戦的な1曲となったと語る「好きになっちゃダメな人」について話を聞く。
INTERVIEW & TEXT BY えびさわなち
男女問わず胸きゅん間違いなし!令和のロミジュリ作品を、オーイシはどう見たのか。
——ニューシングル「好きになっちゃダメな人」ですが、こちらはTVアニメ『お嬢と番犬くん』のOPテーマ。少女漫画原作の主題歌を制作するということで、まずはどのようなことから始められたのでしょうか。
オーイシマサヨシ 久しぶりの少女漫画原作のタイアップだったんですよね。なんだったら『月刊少女野崎くん』以来かもしれない。シンプルに面白い作品なので、原作を読み始めてから「この物語の主題歌が書けるのは嬉しいな」と思いながら曲を書いていきました。
——男性の目線で見る少女漫画の世界観。どんなところが面白いと感じられますか?
オーイシ 女子と一緒ですよ!キュンキュンするところは変わらないと思います。男性でも女性でも。例えば主人公に自分を重ねるような、そういった共感性とはまた違いますけど、「ヒロインがかわいいな」とか「男だけどこんな恋がしたかったな」とか、色々な見方がありますよね。あと、そういえば久しぶりに少女漫画を読んだかもしれない、すごく楽しかったです。
——楽曲を制作する際に、物語のどんな部分をテーマとしてキャッチされたのでしょうか。
オーイシ 「ロミジュリ」ですね。身分の違う男女が恋に落ちてしまうっていう。本当はダメなのに、いけないのに、というところが落としどころとして一番フィットした感じでした。ただ、そこまでロジカルに考えたわけでも、「このあたりがロミジュリだな」という俯瞰でもなくて、書いている最中はすごく物語に没頭していたので、書き終わってから「そうか。これは“ロミジュリフォーマット”なんだ」と、気づいたような感覚でしたね。でも『お嬢と番犬くん』という物語以外にも、現実世界でも「好きになっちゃダメな人」って経験している人も少なくないと思うんです。小学校のときに担任の先生に恋心を抱いたことや、僕の場合だと幼稚園の頃に数ヵ月後に引っ越すのがわかっている女の子のことを好きになってしまったこともありますし。そういうふうに、それぞれの人が主人公になっている物語ってあると思うので、広くていいテーマなのかなと思って。この曲は珍しくタイトルが先に浮かんだんですよ。普段は最後にタイトルを決めるタイプなのですが、最初にタイトルが浮かんだな、という感じでした。
「わたし」の一人称で描くオーイシマサヨシワールド
——そんな『お嬢と番犬くん』の楽曲に「これは絶対に必要だ」と思った要素を教えてください。
オーイシ 絶対に必要だと思ったのは、“ヒロイン目線”。それは僕だけじゃなく、ディレクターさんやアニメ制作サイドもそうですが、男性アニソンシンガーが男目線で歌うのではなく、ちゃんと一人称を「わたし」にして、ヒロイン目線で恋を、心情を紐解いていくことが在り方として正しいかなと思いました。逆に「これはやっちゃだめだな」というファクターもあって。それは楽曲の主人公役が、「好きになっちゃダメだと思われる側」になってしまうこと。上から目線で描いたらいけないということは思っていました。なので、僕の曲の中でもヒロイン目線というところで初めて「わたし」という一人称で書いた曲になりましたね。
——アレンジでこだわったのはどのような部分ですか?
オーイシ 暗い曲にはしたくなかったんです。すごく透明感がある曲で、「好きになっちゃいけない人だ」という想いだけ見ればネガティヴだけど、好きという気持ちは間違いないから、ちゃんと幸せを感じる音で包み込みたいと思ったので、ストリングスやコーラスでハッピーな感じの音階を使ってサウンド作りをしていきました。
——OP映像からも、恋をしているからこそのハッピーは伝わってきました。
オーイシ 究極の自虐ソングですよね。「好きになっちゃダメなんだけどなぁ」っていうところ。「ダメだなぁ、わたし」という曲にしたかった。
でもそこにはちゃんと好きな人との幸せな時間や、好きになったという素敵でキラキラした気持ちは存在していると思うので、歌詞もそうですがサウンドでも暗くならないように作っていったように思います。あとは、これが仮に実写化されても耐えうるような、アニソンだけどポップソングとしてちゃんと集約できるような楽曲を考えて作りました。オファーをいただいたときの「こんな感じにしたい」というオーダーシートも、「実写映画やドラマになってもおかしくないような主題歌を」ということだったので、そこを念頭に置いて作っていきました。
——その手法に違いがあるということですか?アニメソングと実写作品のテーマソングとで。
オーイシ 明確に違うのは“テンポ感”です。この曲、オープニングにしては結構テンポ感がゆっくりしている曲ですよね。跳ねのリズムなので人によっては軽快な感じに聴こえますが、速度的にはミドルバラードくらいのテンポ感なんです。これは僕にとってもトライでしたし、珍しい曲なのかなと。速いテンポで獲得できる印象ってあると思うんですよ、「なんだか明るいな」とか「アニソンっぽいな」とか「爽やかだな」とか。テンポが速いことによって勝ち得ることのできるイメージをかなぐり捨てて、ともすれば映画のエンディングでかかっていそうな曲を意識したかなと思います。アニメのOPソングとしてはちょっと遅めな、珍しい曲ですね。
——アニメソングとも違い、ポップサウンドに落としこんだというこの曲ですが、歌唱についてはいかがでしたか?
オーイシ そもそも「わたし」という一人称を使っているので、どことなく声は、例えば『SSSS.GRIDMAN』を歌っているときよりも優しくはなっていますし、キーもそれほど高いわけでもないので、抑えたキーで歌える等身大で歌唱が出来たかなと思います。
それにボーカルの質感も結構、普段とは違うなと思っていて。ファンの方々はそのことに敏感に気づいているようで、「この曲はカタカナのオーイシマサヨシというより漢字の大石昌良にありそうな曲だ」とか「大石昌良の声だ」と言われることが多くて、なかなか鋭いなって思いました。漢字の大石昌良はアニソンを歌わない体で、どちらかというと情報番組のOP曲やJ-POPシンガーソングライター然としているので、この曲の手法としてもそちらに寄っているのかもしれないです。
——そのあたりは、レコーディングに臨む際も意識されたのでしょうか。
オーイシ 意識はしていました。ただ、あまり意識しすぎるとカチコチになってしまうので、そこの塩梅はありましたが、いつもとは違う感じでのボーカルアプローチにしたい、サウンドアレンジをしたい、という想いはありました。
——MVはアニメーションで、お洒落ムービーになっていました。こちらはご覧になっていかがでしたか?
オーイシ ああいうYouTubeライブってありますよね?チル的な音楽をずっと流しているチャンネルというか。今回は、あえてそういうアニメーションっぽい感じにしています。5年、10年後でも聴けるような、そんなMVにしたいというイメージを伝えて作っていただきました。動きをめちゃくちゃにつけるというよりは、ずっと素朴に淡々と画面が流れていくような感じにしています。
——そして打って変わって、アニメのオープニングはキュンキュンする映像で。
オーイシ いやあ、キュンでしたね。ど頭でヒロインの一咲ちゃんの子ども時代から始まりますが、すごくキュンキュンしますよね。原作寄りの絵のタッチでアプローチしているのがお洒落だなって思いました。先ほど「テンポが遅い」という話をしましたが、僕自身にとってもトライのある楽曲だったので、実はどんな風に仕上がってくるのかなという若干の不安もあったんですよ。今までとは違う感じの楽曲だったので。でも、第1話で皆さんと同じタイミングで初めてOPムービーを見て、ほっとしましたね。
——オーイシマサヨシの曲としてはテンポの遅い曲ですが、この曲、ライブではどんな風にパフォーマンスしたいですか?
オーイシ 振付師さんに手振りをつけていただいたんです。それを一緒にやりながらライブをしたいですね。それに、跳ねのリズムなので手拍子をしたりしながら一緒にノリを楽しめる曲になったらいいなぁと思っています。ちなみに、今回振りをつけてくださった振付師さんが、たまたま『推しの子』で僕が書いた劇中歌「サインはB」の振りつけをしていた方だったんです!全然知らないままにオファーした方だったのですが、「実は僕、大石さんと関係があるんですよ」って言われて、お話を聞いたら「『サインはB』、僕が振りつけました」って。こんなことあるんですねって驚きました(笑)。世間は狭いですね。
子供の頃の冒険心を織り交ぜながら完成した、旅立ちの歌「黄金航路」
——そしてカップリングには「アズールレーン」(以下、アズレン)の6周年記念曲「黄金航路」が収録されています。5周年記念曲「碧い砲撃」も制作されていましたよね。
オーイシ そうです。2年連続で書かせていただきました。
——同じテーマの中で様々な楽曲を展開していくことは、クリエイターとしてどういった魅力があるのでしょうか。
オーイシ 腕の見せ所だなと思います。自分の引き出しの数も、同コンテンツの中だとああでもない、これでもない、と引き出せますし、自分を試せる場所でもあると思うのですが、今回に関してはアズレンさんサイドから、前回までの戦いを意識したロックでラウドな感じよりもちょっと明るい多幸感があって、なおかつ冒険心を高められるような曲にしてほしいというオーダーがありまして。今までのアプローチとは違った周年曲にしたい、というお話だったので、楽曲を作る方からすれば同じテーマではあるけれど裏と表くらい違うところでもあったので、とても楽しく書かせていただきました。5周年のアニバーサリーが終わって、10周年に向けての新たな出航であるという意味でも、旅立ち感のある曲にしたい、という想いもあったと思いますし、それを僕自身も感じました。自分の中ではただのアズレンソングにするのも寂しいなと思ったので、「アズールレーン」の世界観プラス自分が昔経験した出来事をミックスしたら良い曲になるのではないかと思ったんです。それで旅立ち感というテーマで自分の中でさかのぼっていったときに、実体験として辿り着いたのが友だちとやっていた海賊ごっこでした。小学校低学年の頃で、まだ海賊ものの人気コミックスもない時代に友だちと家で海賊ごっこをやっていた思い出を引っ張り出してきて、アズレンの海上での戦いという世界観とミックスして作ったのが「黄金航路」。アズレンのテーマソングでありながら自分の人生の1つのテーマソングでもある、というWミーニング的な1曲になったと思っています。あと面白かったのは、これをリリースしてすぐにコード進行オタクなファンの方がコードを考察して出していたのですが、ほぼ合っていたことです。
——コード進行オタク!?
オーイシ そうそう。結構難しい曲にしようと思ったので、ミュ-ジカル調で転調も多くて、テンポもすごく変化していく感じの楽曲にしようと作っていたんです。ぱっと見たら難しいだろうと思っていたのに、その人の考察がかなり正確だったので、いや気持ち悪!って思いました(笑)。僕は「コード進行ストーカー」と呼んでいるのですが、僕、その動画をXで取り上げちゃったんです。それで味を占めたのか、僕がリリースをするたびにその曲のコード進行を全部分解し始めたんですよ!まじで、ストーカーと化しています(笑)。なんだったら提供曲もリリースして24時間経過しないうちにコードをまとめて動画にしているんですよ。ちょっと怖さを感じています(笑)。
——そんな1曲、歌っていていかがでしたか?それこそ「オーイシマサヨシ節」な一曲でしたが。
オーイシ 楽しかったですね。ハイトーンもあって、オーイシマサヨシの歌!という感じではあったのですが、この曲はキーがすごく高いんです。ミックスボイスを上手く使用しないと歌いきれない曲になっていて。僕、アニソンのカバー番組とかもやらせてもらっているんですが、令和のアニソンは難しくなってきているんですよね。ボーカルもインフレ化してきたなかでの楽曲を番組で経験もしてきていたので、そのカバーで得た学びを自分のボ-カルでも活かせたらいいな、という想いがあり、今回はそういった新しい技術をふんだんに取り入れていれています。
日本武道館で響くオーイシソング。いっちょ伝説作ったろ!
——さらに「ギフト」はライブテイクで収録されています。この曲は、ここまで歌ってきてどのような進化を遂げたとお感じになりますか?
オーイシ 振りコピ勢が増えました。SNSの力もありますが、この曲はオタクたちが本当によく踊ってくれるようになってきまして、ある種、お客さんに育ててもらっている曲だなと思います。今回収録しているライブテイクよりも、お客さんの盛り上がり方も含めてずっとアップデートしてきていると思いますが、このときのライブテイクもすごく良かったですし、僕自身も「良い歌がうたえたな」「良いパフォーマンスができたな」と思っているので、ぜひ聴いていただきたいです。
——そうした「楽曲を育ててきた」ファンの皆さんが全国から集まってくる日本武道館公演も迫ってまいりました。すでにソールドアウトしている公演ですが、今のご心境はいかがですか?
オーイシ 実感はないですが、やっぱりすごく嬉しいです。皆さんに熱量を持って見守っていただける武道館公演なんだと思うと、非情にやりがいも感じていますし、すでにセットリストも演出も決まってきました。意気込みめいたものはデカいですし、「いっちょ伝説作ったろ」と思っております。この言葉を見出しにして、太字にしてもらっていいくらい気合いが入っております。
——これまで色々な方の日本武道館公演もご覧になっているでしょうし、イメージは出来ていると思いますが、「オーイシマサヨシの武道館ライブ」だからこそ、こういう準備をしておいで、というものはありますか?
オーイシ 手ぶらで来ても大丈夫だし、初心者でも大丈夫なライブです。「誰も置いていかないライブ」と僕は以前から公言しておりますが、武道館のキャパになっても同じく、そういうライブが出来たらいいなと思っていますし、皆さんの方で特別に準備することはないかもしれないです。ただ、楽しむ準備だけはしておいていただきたいと思います!
——そして、オーイシマサヨシ名義での音楽活動が10年目に突入した今の想いを改めてお聞かせください。
オーイシ 10年、やっちゃったな、という気持ちです。本当は40歳でアニソンシンガーを辞めるつもりだったのですが、辞められなくなって、エキシビジョンタイムがずっと続いている感覚。このままやれたらいいなぁ、と思っています。
——日本武道館のソールドアウトもあり、ここから先、色々なことが待っているのかなとも思うエキシビジョンタイム。10年から先のビジョンを教えてください。
オーイシ 僕、ずっと言っているのですが、結局「結果」でしかないので。マイペースにやっていって、後ろに道が出来ていたらいいなという感じです。ただ、1つだけやりたいことが増えました。“Animelo Summer Live 2023 -AXEL-”でさいたまスーパーアリーナの大トリを務めさせていただいて、素晴らしい景色を経験させていただいたので、いつかあのさいたまスーパーアリーナでワンマンをやってみたい。まだまだ色々と挑戦を重ねていきたいと思っています。楽しみにしていてください。
●リリース情報
TVアニメ『お嬢と番犬くん』オープニング主題歌
オーイシマサヨシ
「好きになっちゃダメな人」
11月1日(水)発売
配信リンクはこちら
https://014014.lnk.to/sukidame
■mora
通常/配信リンクはこちら
ハイレゾ/配信リンクはこちら
【通常盤】
品番:PCCG.02299
価格:¥1,760(税込)
【アニメジャケット盤】
品番:PCCG.02300
価格:¥1,760(税込)
【CLUB014・イベント限定盤】
品番:SCCG.00147
価格:¥3,960(税込)
<収録曲>
M1.好きになっちゃダメな人
M2.黄金航路
M3.ギフト (LIVE)
M4.好きになっちゃダメな人(TV edit.)
M5.好きになっちゃダメな人(instumental)
M6.黄金航路 (instumental)
仕様
描き下ろしアニメジャケットイラスト ※アニメジャケット盤のみ
限定アクリルスタンド付き ※CLUB014・イベント限定盤のみ
店舗オリジナル特典
きゃにめ:ジャケットステッカー
絵柄:形態別 ※各形態ジャケット絵柄使用
Amazon.co.jp:メガジャケ
絵柄:形態別 ※各形態ジャケット絵柄使用
全国アニメイト(通販含む):L判ブロマイド
絵柄:形態別 ※通常盤:撮り下ろし写真使用、アニメジャケット盤:ジャケット絵柄使用
楽天ブックス:2L判ブロマイド
絵柄:全形態共通 ※撮り下ろし写真使用
●ライブ情報
オーイシ武道館 ~オーイシマサヨシ ワンマンライブ at 日本武道館~
2024年3月2日(土)
会場:日本武道館
出演:オーイシマサヨシ
ゲスト:グリッドマン(Universe Fighter)
ダイナゼノン
グリッドナイト
ウルトラマンロッソ
ウルトラマンブル
REAL AKIBA BOYZ
●作品情報
TVアニメ『お嬢と番犬くん』
【スタッフ】
監督:高本宣弘
シリーズ構成:皐月彩
キャラクターデザイン:番由紀子
アニメーション制作:project No.9
オープニングテーマ:オーイシマサヨシ「好きになっちゃダメな人」
エンディングテーマ:鬼頭明里「Magie×Magie」
【キャスト】
瀬名垣一咲(せながきいさく):鬼頭明里
宇藤啓弥(うとうけいや):梅原裕一郎
田貫幹男(たぬき みきお):榎木淳弥
関谷香織(せきや かおり):中原麻衣
<あらすじ>
三代目瀬名垣組組長の孫娘、瀬名垣一咲(15)。高校ではフツーに友達を作ってフツーに恋がしたい!地元から離れた高校へ入学したけど、過保護な若頭・宇藤啓弥(26)が年齢詐称して一咲の高校に裏口入学!?「恋愛なんて一咲さんには早すぎます」と訴え、男を近づけない気満々の啓弥。だけど、実は一咲はずっと前から啓弥に片想いしていてー!?
関連リンク
オーイシマサヨシ(大石昌良)
公式サイト
https://www.014014.jp/
公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/Masayoshi_Oishi
TVアニメ「お嬢と番犬くん」公式サイト
https://ojoutobankenkun.com/
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