“伝えたい想いも全部 誰かの為に全部 弱さを見せて 強くなっていくんだろう それがヒーロー”渾身の力を込めて歌うEve。楽曲を通して心の奥底にある弱さを打ち明け、観客1人1人に寄り添う姿は、まさにヒーローそのものだった──。さいたまスーパーアリーナで2日間にわたり開催された“Eve Live 2023 [花嵐]”。過去最大規模のキャパシティを誇る本ツアー。花道が観客とEveの距離を縮めた2日目の会場内で筆者の目に映った光景を切り取る。TEXT BY 小町碧音PHOTOGRAPHY BY Takeshi Yao過去の自分と今の自分と並走ステージの照明が落ちると共に、会場全体が暗闇に包まれた。一瞬の静寂をインストゥルメンタルが優しく包み込む。深く沈み込むベースの音色に続く、観客による手拍子が、LEDスクリーンに映る映像上の開花の深化を祝福するかのように鳴り響いた。「ぶち上がっていこうぜ!たまアリ!」――ライブはEveの爽快な一言とドラムの弾けるサウンドで始まった。スクリーンに映る「ナンセンス文学」のMVの中の街頭ビジョンにステージ上で歌うEveの姿が映し出される。非現実と現実が融合した演出。スクリーンに映るEveのレアな素顔、長い花道と客席との近さといい、何もかもがこれまで以上に身近に感じられる。リズミカルなイントロのギターサウンドに合わせる手拍子が沸き起こるなか、メインステージから伸びる花道の先にあるステージに立つEveが片手を大きく振り上げた。その瞬間、発射音とともに銀テープがEveの下から勢いよく放たれる。「ファイトソング」だ。“ただ声を出していけ 気楽にいこうぜ 常識なんて知らんぜ 聡明な瞳で世界を知る”、晩餐会の始まりを彷彿とさせる怪奇なサウンドに共鳴するライティング。ラスサビ前、メインステージに向かって堂々と歩き出すEve。自身の作品を生き抜くかのようにMVの映像と重なり合う闘志溢れるEveの姿に、心打たれた。曲が終わると、男女問わずたくさんの観客が「Eveくん、愛してるよ」と叫んでいる。「最高の2日間にしたいなと思って来ました。今日を特別な日にしましょう。どうぞよろしくね」柔らかなギターサウンドが響き渡るなか、両手を高く掲げ、観客に手拍子を促すEve。観客は大きな手拍子で応える。暗闇の中、スポットライトの明かりだけが、マイクスタンドを前にギターを弾き語るEveを照らし、その寂しさをより一層浮き彫りにしたのはノスタルジックな気持ちが描かれた「白銀」だった。Eveの音楽は、ポップロックキャンディのように、表面的にはパチパチと弾ける明るい感情を呼び起こすが、その奥には、大きな葛藤や迷いなどの影が潜んでおり、その影は音を越えて街に広がり、人々の心を侵食する勢いすらある。次に続いた「トーキョーゲットー」をはじめ、深い闇を抱えていることがEveの音楽に奥深さを生み出し、たくさんの共感を呼ぶのだ。観客の喜ぶ心の声が聴こえてきたのは、「夜は仄か」。まるで獰猛な怪物のようにうねるイントロのベースラインの圧倒的な存在感に飲み込まれそうになる。ここからは内省的なミディアムバラードが続く。“約束するよ あの頃のような 変わらないものがあると”そんな温かい歌詞が心に残る「楓」。メインステージから伸びる花道の先にあるステージで観客に語りかけるように人間の弱さを歌った「羊を数えて」。「今回のたまアリは、新しい曲から懐かしい曲までセトリに入っていて、リハを重ねるごとに思うんです。今の曲もそうだし、昔から変わらない想いがあるんですよね。でも、それはすごく素敵なことだなって思います。やっぱり人は日々成長していくなかで、好きなものや嫌いなもの、趣味や価値観もどんどん変わっていきますよね。それが当たり前のことだと思うんですけど、そのなかで変わらないものもあるんだなって、自分の過去の曲を聴いて強く感じました。そして、そういう変わらないものを、良いところも悪いところも含めて、大切にしていきたいなって思いました」「もう一曲懐かしい曲やっていいかい?」そう尋ねると、「迷い子」へ。心を温めるバラードの連続から溢れ出るEveの優しさ。慌ただしく進んでいく日々の中、忘れてはいけない大切な感情を身体に深く刻み込むように歌うEveの姿が強く印象に残った。過去の自分を置いていくことなく、今の自分と共に一歩前へと進む、そんな決意がEveの瞳に滲み出ていた。誰一人置いていくことのない世界で寄り添うEveEveの楽曲のアレンジャーでもありギターを担当するNumaが、「たくさんの人に長く愛されているEveくんの曲がみんなに聴かれると喜びが本当に大きい」と語ったあとは、近未来的なサウンドと澄んだ高音に胸が高鳴る「虎狼来」へ。「もっといこうぜ!」とEveがすべてを包み込むように力強く歌い上げた「群青讃歌」。表現者としての葛藤や迷いが表れている「ドラマツルギー」。そして、「バウムクーヘンエンド」では、Eveと観客が1つの音楽を一体となり、築き上げていく。真っ赤なライトが激しく点滅し、スクリーンに映るアニメーションが激しく動き回ったのは、「アヴァン」。心を奮い立たせる力があるEveの歌声。アニメーションはその想いを視覚的に届ける役割を果たす。ラスサビで銀テープが舞い上がったTVアニメ『呪術廻戦』のOPテーマ「廻廻奇譚」。同曲をきっかけに時の人になったEveだが、ライブに足を運ぶと感じる。Eveは決して遠い存在のシンガーソングライターとしてそこに立っているわけではなく、観客と共に音楽を作り、生きていく存在なのだと。この日はいつにも増してEveと観客の距離が近かった。時にノスタルジー、時に猛烈な闇を抱えたEveの音楽は、年々、言葉1つ1つに込める感情の量や強さが増していっている。それは、自分だけでなく、誰かを想う気持ちが増えていることも影響しているに違いない。歌ってみたの世界から活動をスタートしたEveが、やがて自分の言葉で音楽を届けることを選び、今や聴く者の心を震わせる音楽を作るようになった。その軌跡は、ネット発の才能が、自身の言葉とメロディで、多くの人の心を照らすという夢と努力の結晶として語り継がれるだろう。人気を獲得したあとも、この日のライブのように曲を通して弱さも見せることができる。まさに「ぼくらの」はEveの人間味が一層輝いた曲になった。「自分が好きだったアーティストや曲に勝手に勇気づけられたり、勝手に元気を与えてもらったり、自分の都合のいいように解釈をして救われてきました。でも、それでいいと思うんです。だからこそ、僕の音楽がどんなときでもいいから、これからも皆さんにとっての寄り添いであり、支えであり続けてくれたらいいなって今はそう思っています」「ぼくらの」に繋がった、温かな歌詞やメロディが冒険心をくすぐる「花嵐」。でも、先頭に立ちながら、仲間を連れ出そうとする勇気あるEveの姿が印象的だった。常に先駆けて新しいことに挑戦してきたEve。自身を含めて、誰一人置いていくことのない世界の中で物語を紡いでいるからこそ、こんなにも優しい音が作れるのだと実感する。「ラストダンス」から始まったアンコール。初めてEveがボカロ曲としても公開した記念すべき「sister」でギターを手に取ったEveは繊細な歌声を切ないギターの音色に乗せる。変わらない浮遊感のあるメロディーラインと心持ちが、そのまま懐かしさを呼び起こした。Eveの呼びかけで、観客のスマートフォンのライトが一斉に灯った「君に世界」で響いたシンガロング。最後は、Eveと観客の一体感の中で、「よろしくね!」と明るい声を投げた「お気に召すまま」で感動の渦巻くフィナーレを迎えた。ツアータイトルにもなった「花嵐」は、ファンタジー要素が濃厚ながらも、自由や希望といった、現実世界に通じる人間の根源的な願いが表現されている。MVが描き出す視覚的な部分も含めた表現も相まって、誰かの心の奥底を着実に動かす。そんな希望に満ちた楽曲だ。終演後には、神奈川・横浜BUNTAI公演含む初のアジアツアー“Eve Asia Tour 2024『Culture』”が発表されたこの日。新たな世界に向けてEveの文化が発信されるとき、どんな感情が生まれるのか、その瞬間を心待ちにしている。■Eve Live 2023 [花嵐]2023年11月26日 (日)<セットリスト>0.「fanfare」1.「ナンセンス文学」2.「ファイトソング」3.「白銀」4.「トーキョーゲットー」5.「夜は仄か」6.「楓」7.「羊を数えて」8.「迷い子」9.「虎狼来」10.「群青讃歌」11.「ドラマツルギー」12.「アウトサイダー」13.「バウムクーヘンエンド」14.「アヴァン」15.「廻廻奇譚」16.「ぼくらの」17.「退屈を再演しないで」18.「花嵐」Encore1.「ラストダンス」2.「sister」3.「君に世界」4.「お気に召すまま」●ライブ情報Eve Asia Tour 2024「Culture」5月12日(日)ソウル YES24 LIVE HALL5月22日(水) シンガポール The Theatre at Media Corp5月24日(金)クアラルンプール Zepp KUALA LUMPUR5月26日(日)ジャカルタ TENNIS INDOOR SENAYAN6月5日(水) 台北 Zepp New Taipei6月9日(日)神奈川・横浜BUNTAIMore To Be Announced..■Eve Asia Tour 2024「Culture」特設サイトhttps://eveofficial-culture.com/関連リンクEve公式サイトhttps://eveofficial.com/公式X(旧Twitter)https://twitter.com/oO0Eve0Oo