サイケな映像に乗って視聴者をカオスな『スナックバス江』の世界へと誘う、スタイリッシュなOP主題歌「ウラオモテアクアリウム」。どこを切ってもこだわりとネタに満ちた楽曲を手がけた、音楽プロジェクト・otonariの秘密に迫る座談会をお届けします。
ユニット誕生の経緯から楽曲制作、曲に込めた想いまで、たっぷりとお楽しみください。何?読まない?君たち人情とかないんか?

INTERVIEW & TEXT BY 前田 久

otonariのはじまり
――まず、otonariとは一体何なのでしょうか?取材している12月の段階だと、まったく情報がないんですよね。

渡部 直(ポニーキャニオンプロデューサー) otonariは、ポニーキャニオンの新規音楽プロジェクトです。2022年末頃に僕が『スナックバス江』(以降、バス江)の音楽プロデューサーを担当することが決まり、芦名みのる監督から、OP主題歌は「基本的に歌としてはお洒落」「よく聴いたら『スナックバス江』の楽曲なのかもしれないと思おうと思えばできるのかもしれない」「クラブやアニソンバーで沢山流れるような楽曲」という3つのお題をいただきまして。当初は社内アーティストを色々検討していたのですが、「いっそ、100%作品やリスナーに向き合ったオーダーメイドの楽曲を作るために、クリエイターが集う新しい音楽プロジェクトの企画を立ち上げよう」という考えに至ったのがはじまりです。

――そもそもは『バス江』がきっかけで立ち上がったプロジェクトだったんですね。メンバーの人選はどうですか?

渡部 最初に決まっていたのは佐高(陵平)さんです。別作品でご一緒したときのスタジオ帰りに次はどんな仕事をやりましょうかという話になって、そのときに佐高さんは「狂ったやつ、尖ったやつをやりたい」とよくおっしゃっていたんですよね。それをずっと覚えていて、芦名監督から先程のお題をいただいたときに、「これは佐高さんに頼むしかない」と。

佐高陵平 つまり「狂った感じ」で呼ばれたんです、僕は(笑)。

渡部 もちろん、それだけじゃないですけどね(笑)。で、ほかのお二人にも当然理由はあって、RIRIKOさんは僕が以前、担当していた声優アーティストの方に提供していただいた楽曲がとても素敵で。
そのときは夏をテーマにしたノンタイアップの楽曲だったのですが、そのアーティストのことを事前にめちゃめちゃ研究してくれていて、愛情を持った楽曲作りをしてくれたので、きっと今回の『バス江』にも強い愛情とリスペクトをもって取り組んでくれるだろうという安心感があり、オファーしました。

RIRIKO ありがとうございます。

渡部 佐高さんとRIRIKOさんの2人が合わさったらとんでもないものができるな、という確信があったので、サウンド面でのまとめ役として、廣澤(優也)さんにサウンドプロデュースを依頼しました。

――廣澤さんとはどこで接点が?

渡部 「響界メトロ」という音楽原作プロジェクトで、僕がレーベルのディレクター、廣澤さんがサウンドプロデューサーとしてみっちり仕事をしています。企画立案時からまるっと2年間くらい、最低でも週イチ、多いときだと週の半分以上一緒にいました。

廣澤優也(サウンドプロデューサー) ですね。そのころ僕のディレクションワーク、プロデュースワークの口癖が「尖れないなら死ぬ」「尖れないなら切腹する」で。

佐高 かっこいい。

廣澤 ホントに、毎日のように言ってました(笑)。そういう僕の姿に、今回の作品で渡部さんが作りたいものとのシンパシーを感じ取ってくれたらしく、お声がけいただきました。

渡部 「響界メトロ」は様々な出自のコンポーザーが参加する作品で、廣澤さんは個性の強いクリエイターたちと向き合いながらしっかりとサウンドをまとめ上げてくれています。そうした方なら『バス江』にもしっかり向き合ってくれるに違いないと思って、お声がけした感じですね。


ーー佐高さん、RIRIKOさん、廣澤さんは面識があったんですか?

佐高 僕はなかったです。

廣澤 僕とRIRIKOさんがテレビ番組でご一緒したくらいですね。

RIRIKO そうですね。でも、そのときも話し込んだりはしていなくて、軽く会釈したくらいの接点でした。

ーーとなると、がっつり組むのは初。

廣澤 だから渡部さんからお話しいただいたときは、「正気かな?」って思いましたよ(笑)。でも、だからこそ逆に面白そうだな、と。最近、そういうクリエイティブユニットで動く流れが、アニソンシーンで少なくなっているように感じていたので。僕は世代的にそういうユニットの活動に元気や勇気をもらってきて、憧れもあったので、それに連なる企画のお話をいただけたこと自体が嬉しかったですしね。3人でどんな化学反応を起こせるのか、すごくワクワクしながら打ち合わせを始めた記憶があります。

佐高 楽しみでしたよね。始まる前から。


廣澤 それこそ僕と佐高さんは、お互いに作・編曲の仕事をやっているわけだから、立ち位置の違いでどんな相乗効果が生まれるのか、気になりましたね。

佐高 こちらからすると、廣澤さんにディレクションだけしてもらうなんて、「いいの?」って感じでしたよ。曲を作れる人にディレクションを受ける、これは生半可なことはできないなと思って、正直、ちょっとビビってた(笑)。

廣澤 いやいや、立場は違えど、それは僕も同じですよ(笑)!佐高さんみたいにキャリアも実力もある人に僕が何言うねん!って。でも結果的に、そこの緊張感をもって1つの楽曲に向き合えたのが良かった気がしますね。昨今、あまりあるシチュエーションじゃないというか。最近は信頼感や安心感をベースにして仕事をすることが多いですから。特に僕らの世代で、僕らのようなキャリアの積み方をしていると、そういうことが多くなってきている。

佐高 確かに。

廣澤 佐高さんだけじゃなく、RIRIKOさんも曲を作るじゃないですか。作曲だけじゃない、場合によっては2人ともディレクションだってやるし、僕も佐高さんも歌を提供するときには自分で仮歌を録るまでやるでしょう。そういう人たちが集まって、それぞれの立場を尊重しながら、でもお互いの仕事を見つつ一緒に1つの曲を作っていくのは、いいことでもあるんですけど……。


佐高 ある意味、僕たちはライバルと言ったら、ライバルなわけじゃないですか。

RIRIKO そうですね。ぶつかってもおかしくない。

――手の内がわかるだけに、たしかに緊張感のある状態ですね。

佐高 でも、実際の作業は割とスムーズだったよね。

廣澤 うん。とても楽しい時間でした。

それぞれの新たな可能性を
――otonariというプロジェクト名はどこから?

渡部 名付け親はRIRIKOさんです。元々otonariは、固定メンバーが在籍しているユニットやバンドではないので、当初プロジェクト名は無しでも良いかなとは思ったのですが、今後も楽曲をリリースしていくうえで、何かしらわかりやすいプロジェクトの名義があったほうが良いよねということで、ズバリ、RIRIKOさんに決めてもらいました。

RIRIKO 『バス江』の原作自体にパワーワードが多かったので、そこから拝借しようかと思いつつ、でも曲を作っている段階での手応えで、「またこのチームで面白いものが出来たらいいな」みたいな、継続性が見えてきた気がしていたんです。だからそうした、続けられるものとしての雰囲気も必要かなと思って、この名前を考えました。

――もう少しそこを詳しく伺ってもいいですか?

RIRIKO 私、こういう新しいプロジェクトを、自分が大人になってから始められると思っていなかったんです。
全員オトナで、色々クリエイティブなことをすでにやっている人たちが、その力を買われて集まり、事務所の壁も越えてクリエイターとしてご一緒する……これってすごいな、と。その感じを言葉にしたくて、思いついた言葉でしたね。

廣澤 それぞれの垣根を越えて、「隣り」から集まってきたようなユニットという意味での「otonari」であり、「音を鳴らす」という意味の「otonari」でもある。いくつか候補を出してもらったなかで、そういうダブルミーニングもあり、パッと見たときに洒落てて良いと思いましたね。

ーーRIRIKOさんはソロ活動とこのプロジェクトで音楽性がかなり違いますよね。その点はいかがですか?

RIRIKO 普段はシンガーソングライターですから、ほかの人が作った曲を歌わせていただくことがそもそもめったにないんですよね。さらに歌わせていただくのが、自分があまり体験したことのない、割と尖った曲調の、電子的な音をふんだんに使った楽曲で、レコーディングが楽しみでした。自分のことを開拓していくような気持ちがあって。

廣澤 歌詞の方向性、歌の方向性、サウンド面……様々な角度から新しいRIRIKOさんの魅力を引き出すことも、楽曲を作るうえでの目標でしたね。折角僕と佐高さんと渡部さんがいるので、そういうところを目指せたらな、と。作品のオーダーに沿いつつの、裏コンセプトの1つといいますか。

佐高 それに向けてずっと進んでいた感じがしますね。


渡部 僕としては、最初にお話した通り、芦名監督から「よく聞いたら『バス江』の楽曲と思えるか、思えないか」みたいなお題があったのと、「クラブ」「アニソンバー」といったキーワードが出ていたので、それらを軸に、芦名監督や委員会のプロデューサーと色々な楽曲を聴いて、議論して、どういう曲調なら『バス江』にマッチする楽曲になるかを考え抜いた結果、現在皆さんに聴いていただいている楽曲になりました。そもそも、芦名監督ご自身が音楽制作をされていることもあり、最初から『バス江』に欲しいOP主題歌のビジョンが制作初期から具体的かつ明確に共有されていたのは非常にありがたかったです。

佐高 だから、僕の作業はスムーズでしたね。デジタル系のトラックメイクは得意だし、そもそもEDM出身なので、オーダーに即した音作りも苦戦せずにやれて。とにかく真っ直ぐ、ちゃんとカッコいいものにしようと思って取り組んでいました。『バス江』っぽさは歌詞でRIRIKOさんが入れてくれるでしょうと。

廣澤 そこは甘えて(笑)。

佐高 そう(笑)。

渡部 何か相談したいことができたら、意見交換がとてもしやすいメンバーでもありましたしね。

RIRIKO ですね。都度、オンラインミーティングに付き合ってくれたりもして。

佐高 オンラインミーティングの存在には感謝ですね。やり取りが圧倒的にしやすくなった。でも大まかな形は最初に出したデモでほぼ固まって、リテイクは構成をちょっと変えたくらいじゃありませんでした?

廣澤 そうですね。あ、でも、RIRIKOさんが突然間奏にラップを入れて。

佐高 あ、そうか。最初のラップは元々入ってたんですけど、プリプロ前に突然RIRIKOさんがラップを追加したんだ。

RIRIKO プリプロ当日だったかと。いきなり歌詞が出て来て、「このパートにラップ入れたいよね」みたいな空気が伝わってて。

渡部 そのバージョンの仮歌を全員でチェックして、「これは入れたほうがいいよね」ってなって、急遽入れた。

佐高 でも、完成した曲の中でめっちゃかっこいいとこですからね。

RIRIKO 良かった。

佐高 結果的に、ずっとRIRIKOさんの声が鳴ってる曲になったんですよね。

RIRIKO 確かに。佐高さんのサウンドをお邪魔している(笑)。

佐高 いやいや(笑)。

廣澤 イントロのボーカルチョップもRIRIKOさんの声ですもんね。ちなみにボーカルチョップは渡部くんが大好きで、絶対入れたいとうるさかった(笑)。今の話もだけど、今回の楽曲制作では、プリプロをしっかりやれたのは大きかったですね。

佐高 そうですね。僕は実は、プリプロって今回初めてやったんですよ。

廣澤 あまりやらないよね。特にアニメ系の楽曲制作だと。

佐高 マイクも4本くらい試して。

廣澤 そうですね。マイクの選定から、HA(マイクプリアンプ)、コンプレッサーも色々試して、今回の曲調に対してどの機材を使ったらRIRIKOさんの声の一番おいしいところが聞こえるのか。そういうものを細かく精査して、最適解を見つけてからレコーディングをしました。

広がる「水」のイメージ
ーー歌詞のことも伺いたいのですが、まずタイトルの「ウラオモテアクアリウム」というのはどこからイメージを?

RIRIKO 『バス江』の舞台はスナック……つまり「お水」、水商売じゃないですか。それがポロッと、作中のキャラクターからワードとして出てきたので、拾わせてもらいました。歌詞については、芦名監督から「あなたの居場所になりたい」というお題をいただいていたので、水は人間の体を構成している物質だし、絶対にないと死んじゃうものだし、さらにスナックで提供されるお酒にも例えられる。そうした発想で、まず「水」をテーマに書こうと思ったんです。で、そこに原作に出てくる「おもてなし」というワードが結びついて、「表がない」ってことは、「おもてなし」は「裏」なのか?でも水の中だったら、裏も表もなくなって、どんな人に対しても「水」はあなたの居場所だよ……みたいなことを考えていきまして。それで水と裏表……「ウラオモテアクアリウム」になった、というわけです。

佐高廣澤渡部 (全員拍手)

廣澤 ばっちりですよ!もうこの部分だけで、今日の取材が成立しているのでは(笑)。

RIRIKO 難しいんですけど、水って色んな容器で形を変えられるし、固形にも液体にも気体にもなる。それが現代社会の色んな環境に応じて自分の中身を変えることにも通ずるなとも感じたんです。そうした変化を自然にやってしまう人たちが、スナックみたいな人間関係だったら出せる素の部分があるとか、そういうのにも繋がるイメージも、タイトルには込めていました。

渡部 歌詞の中の主人公は成長しないんですよね。あくまで「自分の居場所」にいるときに、素の自分が出てくるものであって、そこを去るときには、普段の日常に戻っていく。今回の楽曲は少年マンガ的な劇的な成長をリスナーに強いるのではなく、今現在の自分自身を肯定
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